自然随順 - イズミヤ総研

季刊 イ ズ ミ ヤ 総 研 Vol .102 (2015年 4月)
自然随順
「学校の成績というものは世間でふつうに考えているように、必ずしもその人の素質を確実
に窺い得るものとは思いません。それよりもむしろ、その人の素質と努力との相乗積を示すと
考えた方がよかろうと思うのです。/しかし世の中というものは、現実の結果として現れた所
をもって、その人を見るもの(であります。
)/学生時代を顧みるに、学生時代に自分の素質を
たのんで試験をおろそかにした人は、その後の歩みを見るにいずれもあまり芳しくないようで
す。
」
これは森信三先生の『修身教授録』の試験についての一節です。
高校時代の学力試験に 120%の力で臨みました。試験のつらさを楽しみに換えてしまいま
した。各先生の性格や心理を研究したり、成績優秀の先輩の過去の答案用紙を参考にしたりし
て。三学期になるとかなりの確率で向上していました。休憩時間には私の周りにクラスメイト
が集まり、盛り上がったものでした。真の目的はクラス全体の向上にありました。50 数年の
時が流れた今、同窓会に出席する度の話題の一つです。
文字に興味を持ち始めたきっかけは、中学一年生のころ、君の字は乱雑で読みづらいと先生
に注意を受けて発奮して、誰にでも読める字を書ける工夫を相当やりました。以来、ありとあ
らゆる書体の文字を新聞や雑誌のスクラップをして各書体をそらんじて書けるまで続けました。
1958 年ごろ、当時あったニュース映画の書き初めのシーンで見た町春草さんの「ほのぼの」
という揮毫に感動し、書家を立志して 33 年後の1991年に書家宣言しました。誰にでも読める
創作を続けています。書も画もすべて独学なり。2002 年に「ありがとう二十四節氣」(清水英
雄先生の詩)を出版、その書画を担当しました。2003 年の立春から「こころの文字・二十四
節氣」と題して月二信のメッセージを発信して今年で 13 年目に入ります。歳時記的な内容よ
りも、この日この時どう生きるか、どう生きたいかを後々に残したい。いかに時代が変わって
も、世の中変わっても、変わることのない四季のめぐりや大宇宙の真理に逆らうことなく心の
拠り所としてまいります。
日本の四季の移ろいの中で、冬場には常緑樹を除いて
葉は枯れ落ちて裸木となります。寒に耐えて二月節分の
次の日が、二十四節氣の最初の「立春」です。このころ
から春めいてまいりまして、おおかたの木は蕾をふくら
ませて、葉よりも花が咲きだします。梅・マンサク・ミ
ツマタ・コブシ・レンギョウ・桃・モクレン・桜・花水
木など次から次へと開花します。この点に着目して木の
名前を覚えるチャンスです。新緑のころになっては街の
公園も、街路樹も、野も里も山も、すべて緑に包まれて
木の名前どころでなくなります。だから春先に外へ出て
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季刊 イ ズ ミ ヤ 総 研 Vol .102 (2015年 4月)
花を楽しみ名前も覚えるのです。身を低くして地面へ眼を移すと、草花が可憐な花をつけます。
ガーデニングが大流行で公園や家庭のテラスのプランターも花いっぱいです。せっかくの花も
名札がついていないと親しみがわきません。お子達はすぐに覚えてくれます。重ねて申します
が、草花や木々の名前を覚えることが実はとても大事なことなんです。
人と人とのご縁においてでもしかり、お互いの名を知ることで、ぐっと親密さが深くなりま
す。
書家として楽しみは何ですかとよく訊かれます。それはどこかで私の作品をご覧になったお
方が、いったいどんな男が書いたのか、本人に会ってみたいと訪ねてきてくださることです。
先日も毎々メッセージを送っている大阪の会社の方がギャラリーへ訪ねてみえて、もっと大自
然の真っ只中のアトリエで書いているものと思いこんでいらして、ちょっとがっかりされてい
ました。どこにでもある、ごくふつうの植物から、生きる逞しさや、いのちの尊さを感じとる
ことが大切なんです。
十二年間も、よどむことなく発信を続けてこられたのは、まず植物採集や園芸を課外授業で
指導してくださった、小学校5・6年生の担任のI先生のおかげに違いないと思います。植物
の名前や科名をよく覚えたと褒めて向学心を育ててくださいました。加えて知識をむやみに外
へ出さずに内蔵して熟成させるすべを教わりました、今ごろ、どこのどの辺りに、何の花が咲
いているとか、観光の名所でもなく、立入禁止でもない、もってこいの穴場も多く知りました。
そろそろ釣り好きのTさんから鮎が届くとか、様々な情報が全身をかけめぐって、わくわくさ
せてくれます。昨年帰らぬ人となった高倉健さんの主演した「あ・うん」という映画は向田邦
子さんの原作になるもので、満開の桜をタイトルバックに、スクリーンの隅々に目を凝らすと
ツツジ・藤・鯉幟・紫陽花・ヒマワリ・夕立・氷屋・秋まつり・紅葉・枯葉・焼いも・暖炉・
サザンカ、そしてラストシーンの雪まで、一年の流れが実にさりげなく自然の風物で表現して
スタッフの冴えを感じさせます。
わが暮らしはコピー機とラジオだけがスイッチのあるもので、夏は裸でアセモと戦い、冬は
着ダルマでしのぐだけ。これで結構楽しゅうございます。
このごろのテーマは生きることといのちの尊さなり。生を受けたものには必ず最期がまいり
ます。名誉も地位も富も一切持ち込めない世界への旅立ちが平等に近づいてきます。
命終の後、三途の川を渡りきった向こう岸に、なんと試験所が設けられているそうでして、
極楽行きの大事な試験です。とっておきの情報を、私の答案予想を伝授いたしましょう。私の
メッセージでおなじみのパネルが百枚出てまいりまして、そのうち何枚その名前をご存じか、
が問題です。極楽への合格点はひみつ!
<文・書画 こころの文字 落合 勲>
1940 年生まれ。91 年 12 月 18 日、書家宣言。93 年、初の個展を大阪で開く。96 年の「ありがとう
カレンダー」、98 年の「世界の山ちゃん」のロゴ等で評判を博す。2003 年より「二十四節氣メッセージ」
を発信。近年では、13 年に東京・銀座で「ありがとう展」
、14 年に金沢で個展を開くなど活躍している。
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