数学教育における創造性育成に関する研究

数学教育における創造性育成に関する研究
The Study on the Fostering mathematical Creativity
in the Mathematics Education
教育学研究科:田中克征
指導教員:溝口達也
1.研究の背景,目的
望ましき国家の形成を目指すとき,その実現は
教育の営みによって為されると考える.新しき社
会を築く人材の育成という目的は,教育に対して
常に希求されており,教育の担うべき第一機能と
して要請されるものである.その事は,教科教育
に対しても例外ではなく,その機能・役割として,
教科教授を媒介とした児童・生徒の人間形成に対
する貢献を果たす事が取上げられる.数学教育に
おいては,数学教授を媒介とした,児童・生徒の
人間形成・人格形成に対する貢献を果たす事が要
請されると捉える.
本研究では,教育における児童・生徒の人間形
成・人格形成に対する観点として,『創造性』の
育成を取上げる事とした.『創造性』の育成に対
する議論は,従来も多数為されており,その重要
性は広く認識されている.しかし,その実現に対
する教育実践を直接の論議対象としたとき,その
議論が収束し得ていない現実がある.一言で言え
ば,従来の創造性研究は,教育実践に反映されて
いない.この問題を克服する事が本研究の目的で
あり,数学における『創造性』(以下,『数学的
創造性』) の育成を数学教育の目的として捉え,
その立場より,その実現を図る為の具体的方策と
しての学習指導に対する議論を展開する事にある.
2.研究の方法
上述の目的を達成する事を意図し,次に示す三
つの研究課題を設定する事とした.
研究課題1.『数学的創造性』の概念規定を,
如何なる方法により行い,如何に捉えるか.
研究課題2.『数学的創造性』の育成に対し,
如何なるアプローチが要請されるべきか.
研究課題3.『数学的創造性』の育成を図る為
に,学習指導を如何にして実現すべきか.
それぞれの研究課題に対する結論を得る為に,
以下の方法を採っている.
研究課題 1 に対する結論を導く為に,まず『概
括的創造性』『数学的創造性』に関する先行研究
の動向と成果を整理し,教育における『数学的創
造性』の育成という立場から,それら先行研究の
成果と限界を指摘する事で,従来の『概括的創造
性』『数学的創造性』に対する概念規定の方法
(内包的規定) の有する限界を指摘した.そして,
『創造性』概念の概念規定に対する方法論的考察
を行う事で,従来の方法とは異なるアプローチ
(外延的規定) の可能性を示し,それを試行する事
により,本研究における『数学的創造性』を規定
する事とした.
研究課題 2 に対しては,数学教育における『数
学的創造性』の育成について,学習指導の目標と
して捉えた立場から主張を行っている数学教育者
として和田義信を取りあげ,その著作及び講演記
録にあたり,『創造性』に関する記述を整理する
事で,和田義信の『創造性』に対する考えを,思
想として抽出し,再構成している.そして,再構
成した考えを基に,数学教育における『数学的創
造性』の育成,及びその実現に対する方法論につ
いて議論を行う事とした.
研究課題 3 に対する結論を導く為に,研究課題
1 に対して得た結論である『数学的創造性』の外
延的規定より『創造的場面』の特徴「数学的対象
間の関係性の構築」を導き,その特徴を有する学
習場面として,児童・生徒が数学を創り,発展さ
せていく学習過程を設計する事に対する議論を行
う事とした.これにあたっては,数学的対象間の
関係性を考察し,学習場面を設計する観点を設定
する事により,その計画的実践を試行している.
3.研究の結論
研究課題 1 に対しては,次の結論を得ている.
第1に,先行研究の有する限界として,教育に
おける創造性の育成に対してそれら先行研究にお
いて得られた研究成果が実践へと反映されていな
い事を捉えた.従来の創造性研究では,『創造性」
及び『数学的創造性』は,多様な側面を有する概
念として扱われている.そのような認識を研究の
パラダイムとしている事より,その概念に対する
共通理解は図られておらず,その育成に対する具
体的方針は提示されていない.この事に対して,
先行研究における『数学的創造性』概念の概念規
定に対する内包的アプローチに問題を指摘する事
で,それに代わる外延的アプローチが要請された.
第 2 に,創造性概念の特性を考慮する事で,内
包的規定を試みる事の困難を指摘するとともに,
教育における目標として『数学的創造性』の育成
を捉えるとき,その概念に対する内包的記述が実
践へ与える示唆の価値を議論する中で,教育実践
へと反映されるようその概念を捉えるにあたって
は,暫定的にではあるが外延的規定を採ることが
要請される事を指摘した.このことにより,『数
学的創造性』を捉えるにあたっては,それが顕在
化する創造的場面において捉える事が妥当である
事が指摘され,その概念を具体的に捉える事が可
能であるとした.
第 3 に,数学の問題解決に対する事例的考察を
経て,外延的規定を志向した.この事により,
『数学的創造性』が顕在化する際の数学的文脈で
ある『創造的場面』の具体的姿が描写された.
研究課題 2 に対しては,次の結論を得ている.
第1に,教育における創造性の育成について言
及している和田義信の考えを整理し,明文化する
事により,和田義信の考えにおいては,数学教育
の目標として創造性の育成が位置付いており,そ
の実現においては学習指導において児童・生徒に
よる数学の創造を実現する事が必要とされる事が
理解された.
第 2 に,和田義信の考えに基づき『数学的創造
性』の育成を考えるとき,数学の学習指導におけ
る創造的場面の実現を図る事が必要である事を指
摘し,この点において本研究においては,『数学
的創造性』の育成に対して外延的アプローチを採
り,試行する事とした.
そして,研究課題 3 に対し,次の結論を得た.
第1に,学習指導における創造的場面の実現を
図るという外延的アプローチを試行する上で,創
造的場面としての学習場面を設計する際の観点と
して,『創造的場面』の類型が設定された.
第 2 に,『創造的場面』の類型として設定され
た『対象の特殊化』,『対象の一般化』,『類比
な対象の考察』,及びその類型間の関係性を考察
し,数学を創造する際の一つの方向性として統合
化を取りあげる事により,創造的場面の類型『対
象の統合』が設定された.この事により,学習指
導における創造的場面の実現においては,統合的
発展的考察を行う場を設定する事の重要性が認識
された.
第 3 に,設定された四類型を観点として中学校
数学における学習場面の設計を試みる中で,学習
指導においては,教師が児童・生徒に期待する数
学の創造の姿を具体的に描き,学習場面における
創造の契機を意図的に設定するという計画的実践
の重要性が認められるとともに,学習指導におけ
る統合的発展的考察の姿が例示された.
4.論文の構成
第一章.研究の目的と方法
1.1 研究動機と目的
1.2 研究の方法
第二章. 従来の創造性研究の抱える限界
2.1 従来の創造性研究の動向
2.2 従来の創造性研究の抱える限界
第三章. 『数学的創造性』の概念規定
3.1 『数学的創造性』の概念規定に対する
方法論的考察
3.2 事例的考察に基づく『数学的創造性』概念の
外延的規定
第四章. 創造性の育成に対する外延的アプローチの要請
4.1 和田義信の考えにおける数学学習と創造性の育成
4.2 創造性の育成の実現
−創造性の育成に対する外延的アプローチの要請−
第五章.数学的創造性の育成に対する外延的アプローチ
5.1 数学的創造性の育成に対する外延的アプローチと
創造的場面の類型
5.2 数学学習における創造的場面の類型
5.3 学習指導における『創造的場面』の実現と
統合的発展的考察
終章.
6.1
6.2
6.3
研究の結論
本研究の結論
本研究において得られた教授学的示唆
問題点・反省点と今後の課題
引用・参考文献
( 1 ページ 47 字×49 行,59 ページ)
5.主要参考文献
Ervynck,G.(1991).Mathematical
Creativity.
Advanced-Mathematical-thinking
−
InD.Tall(Ed.)
(Chap.3,pp.42-53)
Dordrecht:KluwerAcademic Publishers.
和田義信 (1997).和田義信著作・講演集 (3).東洋館出版社.
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