Vol.35 SEPTEMBER 2013 Point 近年、多くの河川で河道内の樹林化が顕著であり、洪水時の流木による被害が懸念されていま す。ここでは、河床形状、水理量(水位・流量)及び樹木の形状(胸高直径・樹高)データを用いて、大 規模洪水時に流木化する樹木群を簡易に予測する手法を紹介します。 洪水時に流木化する樹木群の予測手法について 大阪支社 水圏部 加藤 陽平、 山本 智和 ※本技術は、国土交通省中国地方整備局 岡山河川事務所からの委託業務において、当社が開発しました。 (m3/s) はじめに ▽戦後最大流量8,000m3/s 8,000 7,000 流量 近年は多くの河川において河道内の樹林化が顕著に なっており、洪水時の水位上昇を助長するなど、樹木群 は河川を管理するうえで問題となっています。さらに、洪 水時に河道内の樹木が流木化することにより、橋梁にひ っかかるなどして流水の妨げになることが懸念されます。 このため、流木化する樹木群をあらかじめ特定し、適切 9,000 ピーク流量:5,112m3/s 6,000 5,000 4,000 3,000 ▽平均年最大流量 2,000 1,000 な伐採管理を行うことが重要となっています。 0 9/3 0:00 流木化する樹木群の予測の手順 本業務では、図1に示す手順により、流木化する可能 性のある樹木群の予測を行いました。 9/3 12:00 9/4 0:00 9/4 12:00 9/5 0:00 図2 2011年9月洪水時の流量ハイドログラフ 約2m 11.0 現地の樹木群を反映した平面二次元流況モデルを作成する K 高梁 川 「どこで」「どんな」樹木が倒れたかを現地で把握する 実績洪水の水位・流量をもとに、倒木発生地点を再現する 戦後最大洪水時の水位・流量をもとに倒木発生地点を 予測する 倒木化する樹木群を「流木化する可能性あり」と判定し 伐採計画に反映する 図1 検討手順 倒木確認地点 笠井堰 右岸 左岸 10 .0K 実施内容 (1)倒木発生状況の調査 本業務では、岡山県西部を流れる一級河川高梁川の国 管理区間を対象としました。2011年の台風12号に伴う豪雨 により、高梁川では図2に示すような洪水流量が発生しまし た。この洪水中のピーク流量は直近10ヶ年の平均年最大 流量の約2.6倍であり、比較的規模の大きい洪水でした。 洪水後の2011年9月7~8日に現地調査を行い、倒 木発生状況を確認しました。図3は倒木が見られた地点 です。河岸付近や堰下流の砂州など流体力(樹木に作 用する流水の力)が大きいとみられる場所で、倒木が多く 見られました。 4 IDEA Consultants, Inc. 酒津観測所 図3 高梁川の倒木発生箇所 (2)平面二次元流況モデルの作成 平面二次元流況モデルとは、水理量(流速・水深など) の平面的な分布を推定する数値解析モデルです。本業 務では、河道内樹木の分布状況及び形状(胸高直径・ 新たな取り組み 樹高)をモデルに反映させ、樹木が流水から受ける流体 力により樹木が倒伏する現象と、流水が樹木から受ける 抗力(流体力の反作用)により流速が遅くなる現象を考慮 できるように改良しました(図4)。樹木が倒伏する現象に ついては、流体力が樹木に及ぼす流体力モーメント(図4 のM)と、樹木固有の倒伏限界モーメント(図4のMc)を比 較し、M>Mcとなった時点で樹木が倒伏するようモデル 化しました。既往の実験結果からMcは胸高直径Dの2乗 に比例すると考えられており、本業務では参考資料「流 木と災害」に基づき、Mc=7.8D2を採用しました。 ▽水面 流体力:F 流れの方向 洪水当時の実測値を用いました。図5は再現計算結果で あり、実際の倒木確認地点を概ね再現できています。 (4)戦後最大洪水時の倒木発生状況の予測 次に現在の河床・樹木の条件下で、戦後最大洪水 (1972年7月洪水)が流下した場合の倒木発生地点を予 測しました(図6)。図5と比較すると、流量規模が増大したこ とにより、倒木発生地点が増加していることがわかります。 例えば、2011年9月洪水時は湾曲外岸である左岸側での み倒木が見られましたが、戦後最大洪水時は右岸側の樹 木も倒伏すると予測されています。 本業務では、戦後最大洪水時に倒伏する樹木群につ いて流木化する可能性があると考え、これらの樹木群を伐 採計画に反映しました。 抗力:-F M ▽河床面 流体力: F=1/2ρCDDhνu2 【樹木の倒伏条件】 流体力モーメント: M=F×hν/2 M>Mcのとき 2 倒伏限界モーメント: Mc=7.8D 樹木が倒伏する ρ:水の密度 CD:抗力係数 D:樹木の胸高直径 hν:樹高 u:流速 } 図4 樹木の倒伏条件のイメージ (3)2011年9月洪水時の倒木発生状況の再現 作成したモデルの精度を確認するため、2011年9月洪 水時の倒木発生状況の再現計算を行いました。計算の境 界条件は上流端の流量と下流端の水位であり、ここでは おわりに 本モデルにより、河床形状、水理量(上流端流量・下 流端水位)及び樹形(胸高直径・樹高)がわかれば、倒木 発生地点の予測が可能となりました。この点について高 い評価をいただいたこともあり、優良業務表彰(事務所長 表彰)をいただきました。 今後は倒木が流木化に至るメカニズムを解明し、樹木 管理のためのツールとして精度を高めていきたいと考え ています。 〔参考資料〕 小松利光・山本晃一:流木と災害 pp86-89 技報堂出版 2009. 2011年9月洪水時の再現結果 戦後最大洪水発生時の予測結果 11.0 11.0 K K 右岸 右岸 左岸 10 左岸 10 .0K .0K 倒木確認地点(実績) 残存する樹木 倒木発生地点(再現) 0 0.5km この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Web システムから提供されたものである ピーク流量=5,112m3/s 図5 倒木発生状況の再現計算結果 残存する樹木 倒木発生地点(予測) 0 0.5km この背景地図等データは、国土地理院の電子国土Web システムから提供されたものである ピーク流量=8,000m3/s 図6 倒木発生状況の予測計算結果 5
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