だ終わっていない。地球温暖化を最大問題とする環境問題も解決の道が明らか まえがき ではない。米ソ対立は終結したが、イスラム教世界対ユダヤ・キリスト教世界 の対立が新たな問題となっている。中国が発展を続ければエネルギー問題が深 筆者は大学卒業後約46年間企業で働いてから、2001年東京経済大学の大学院 刻化することは目に見えている。これらは全て世界各国が協力して取り組まな に入学し、ほぼ70歳で46年ぶりに学生となった。日本人の平均寿命は男性でも ければならない問題である。人口の高齢化も、少なくとも先進国は共同で解決 80歳近くなったが、70歳まで生きた人間の平均余命は10数年であろうから、少 策を見出す必要がある。しかし、日本は共同解決策が見つかるまで待っている なくとも70歳以降まだ10数年は生きることになる。もっと早くリタイアした人 わけにはいかない。何故なら、日本の高齢化は世界でもっとも早く進み、その にとっては、退職後20数年を過ごさねばならないことになる。退職後をどう過 対処がうまく行かなければ、年金問題に端的に現れているように、日本の明日 ごすかは、高齢者にとって大問題である。 はきわめて大きな困難に見舞われるからである。しかし、その一方日本が高齢 幸い、筆者は大学院の学生になることができた。しばらくの間は粗大ごみに ならなくて済んでいる。学科は経営学研究科を選んだ。退職前6年間は中小企 業の社長だったこともあって、自分の経営経験が何らかの役に立つだろうとの 心づもりであった。幸いよい教授に恵まれ、若い仲間に囲まれて勉強し、自分 が経営者として何をやってきたのかが多少分かった気がする。2003年には修士 課程を卒業し、博士課程に進学した。 化問題を解決できれば世界の範となることができ、高齢化問題については日本 がリーダーシップを発揮することができるではないか。 この本が日本の高齢化問題の解決に少しでも役立ってくれることを心より願 う次第である。 この本の読み方について、読者の方にお願いする。忙しい方は、序章と終章だ けは読んでいただきたい。筆者の言いたいことがおおよそはお分かりいただけ この本は、筆者の修士論文をやや読みやすく書き直したものである。大学院 ると思う。幸いもう少し読んでいただける方には、次のように申し上げる。こ に入るにあたり、研究テーマは高齢者問題を扱おうと考えていた。ひとつの理 の本にはいくつかの推定計算がしてある。推定計算の根拠も示してあるが、興 由は、筆者自身高齢者の仲間入りをしたことにある。高齢者問題は高齢者のほ 味のない方は計算の根拠や計算方法については飛ばしてくださっていっこうに うが若い人が扱うより実感を持って考えることができる。もうひとつの理由は、 差し支えない。但し、計算結果の数字だけは注目をお願いする。また、これら 経営者時代高齢者にどう働いてもらうかに大きな関心があったことである。弱 の計算結果、例えば将来の労働力不足は筆者の推定であって、数字そのものが 小中小企業においては、なかなか優秀な若者を採用することができない。その 絶対に正しいと主張するつもりは毛頭ない。ただ、この例では多かれ少なかれ 反面、歳はとっても、まだまだ元気で能力も高い人もいる。しかし今の会社制 労働力は将来不足するという傾向として読み取っていただければ幸いである。 度では、高齢者をうまく処遇することが難しい。それより、20年ぐらい先のこ 修士論文を書くにあたっては問題の性質上、どうしても筆者のあまり得意で とを考えると必要な人員を集められるかどうかが心配になる。定年を延ばすと ない領域、人事・労務問題に触れざるを得なかった。論文の指導教員であり、 仮定すると、あまり優秀でないほうの中高年の顔が浮かび、この人たちがずっ 人事・労務がご専門の研究分野である東京経済大学竹内一夫教授には、参考文 と会社にいるとすると、若い人たちの昇進はどうなるのかが気になる。 献の探し方、文献の表記法に至るまで懇切丁寧なご指導を戴いた。この本の刊 それより何より、人口の高齢化はたいへんな社会問題である。しかも日本は 行に当たりあらためて深甚な感謝を表明したい。 世界の中でもっとも高齢化が進んでいる高齢化先進国である。世界にはいろい ろな問題がある。国と国との大きな戦争はなくなったかと思われたが、それに 代わってテロリズムが問題となり、問題解決のために武力が使われることはま i 平成17年3月 慶松 勝太郎 ii 高齢化問題の解決と企業経営 序 章 ……………………………………………………………………1 CONTENTS 第2章 労働力変化の社会と経営に与える影響 ……………………51 1.少子・高齢化の一般的影響………………………………………………52 第1章 少子・高齢化で労働力はどうなるのか ……………………11 1.止めることのできない少子・高齢化……………………………………12 2. 2.少子化はいつから起こったか……………………………………………14 3. 1.1 人口高齢化の経済面への影響 ………………………………52 1.2 人口高齢化の社会面への影響 ………………………………53 人口減少と高齢化の企業に及ぼす影響 ………………………………55 年金等社会保障の問題−特に年金問題について ……………………57 3.高齢化はいつから起こったか……………………………………………16 3.1 これまでの年金の仕組み ……………………………………57 4.少子化はどうして起きるか………………………………………………17 3.2 年金の問題点 …………………………………………………59 3.2.1 被保険者の減少と年金受給者の増加 ………………………59 5.世界で最も高齢化速度の速い日本………………………………………19 6.高齢化の進行と労働力の変化……………………………………………20 6.1 過去の労働力の推移 …………………………………………20 6.2 高齢化の進行に伴う労働力不足 ……………………………23 3.2.2 その他の問題 …………………………………………………61 3.3 2004年の年金改革法案 ……………………………………66 3.4 年金改革法案における問題点 ………………………………68 3.4.1 国民年金保険料の不払い ……………………………………68 6.2.1 必要労働力の推定 ……………………………………………23 3.4.2 厚生年金の将来バランス ……………………………………68 6.2.2 不足労働力の推定 ……………………………………………25 3.4.3 国庫負担の財源 ………………………………………………72 6.2.3 年齢別労働力過不足の推定 …………………………………28 3.4.4 給付倍率と世代間格差 ………………………………………72 7.労働力変化への対応………………………………………………………32 7.1 労働力不足にどう対応するか ………………………………32 7.1.1 外国人労働者の導入 …………………………………………33 7.1.2 女性の雇用 ……………………………………………………34 7.1.3 高齢者の雇用 …………………………………………………36 7.2 将来労働力構成の推定 ………………………………………36 3.4.5 第三の選択 ……………………………………………………74 3.5 被保険者及び受給者人口の推定について ……………………74 第3章 諸外国における高齢化の状況と問題点 ……………………81 1. 世界における人口の高齢化 ………………………………………………82 7.2.1 将来労働力人口の推定基礎 …………………………………36 1.1 世界人口 ………………………………………………………82 7.2.2 将来労働力率の推定 …………………………………………40 1.2 先進国及び中国の人口高齢化・地球規模の高齢化 ………83 7.2.2.1 2025年における労働力率の推定 …………………………40 7.2.2.2 2050年における労働力率の推定 …………………………40 2. 高齢化によって生じる問題 ………………………………………………84 7.2.3 将来労働人口構成の推定 ……………………………………42 2.1 生産適齢人口対高齢者人口 …………………………………85 7.2.3.1 2025年、2050年における労働人口の推定 ……………42 2.2 社会保障費用の負担 …………………………………………87 2.3 その他の問題 7.2.3.2 労働人口中の雇用者(被用者)割合 ………………………44 7.2.3.3 もし雇用率が92%になったら ………………………………47 ピーターソンの予測 ………………………90 2.3.1 GDPの縮小と国際的地位の変化 ……………………………90 2.3.2 経済構造の変化 ………………………………………………91 2.4 iii 高齢化問題の対策 ピーターソンの予測 …………………92 iv 高齢化問題の解決と企業経営 CONTENTS 労働年齢の延長 ………………………………………………93 2.2.3.1 企業側の条件 ………………………………………………139 2.4.2 労働人口を増やす、労働時間を増やす ……………………95 2.2.3.2 雇われる側からの条件 ……………………………………140 2.4.3 出産奨励策 ……………………………………………………97 2.4.1 2.3 高齢者雇用の現実モデル …………………………………141 孝養義務の強化 ………………………………………………98 2.3.1 65歳定年制 …………………………………………………141 2.4.5 困窮者のみに対する給付 ……………………………………99 2.3.2 再雇用制度 …………………………………………………143 2.4.6 2.3.3 勤務延長制度 ………………………………………………144 2.4.4 確定拠出型への移行 ………………………………………100 3. 高齢化対策としての雇用問題 …………………………………………104 3.1 これからの社会はどんな社会になるのか ………………104 3. 高齢者雇用を可能にするモデルの提案 ………………………………144 3.1 モデル1 再雇用制度型 ……………………………………145 3.2 モデル2 完全職務給型 ……………………………………146 3.1.1 パラダイムシフト …………………………………………104 3.1.2 既に起こっている変化 ……………………………………106 3.2.1 職務給と市場賃金化 ………………………………………148 3.1.3 ドラッカーの「ネクスト・ソサイエティ」………………108 3.2.2 職務給は定着するか ………………………………………149 高齢者雇用で起きる問題と対策 …………………………111 3.2.3 アメリカの近来の動向 ……………………………………150 3.2 3.2.1 高齢者の能力 ………………………………………………112 3.2.4 職務給と業績評価 …………………………………………151 3.2.2 高齢者雇用コスト …………………………………………114 3.2.5 管理職の処遇 ………………………………………………152 3.2.3 情報化社会での高齢者の働き方 …………………………117 3.2.3.1 情報化パラダイムへの適応 ………………………………117 3.2.3.2 教育とトレーニング ………………………………………119 3.2.6 退職金問題 …………………………………………………152 3.3 モデル3 現実対応型 ………………………………………155 3.3.1 モデル3における多様な働き方……………………………155 3.3.1.1 派遣社員 ……………………………………………………155 3.3.1.2 契約社員 ……………………………………………………156 第4章 高齢者雇用による問題の解決を目指して ………………125 1. 年金受給資格年齢の引き上げの提案 …………………………………126 2. 高齢者雇用 ………………………………………………………………129 2.1 高齢者雇用の問題点 ………………………………………129 2.1.1 高齢者雇用による費用の増加 ……………………………130 2.1.2 高齢者に適した仕事 ………………………………………130 2.1.3 何歳まで働くか ……………………………………………133 2.2 高齢者雇用をめぐる企業環境 ……………………………133 2.2.1 国際競争力の低下 …………………………………………134 2.2.2 中高年者の賃金 ……………………………………………134 3.3.1.3 インディペンデント・コントラクター …………………157 3.3.1.4 ワークシェアリング ………………………………………160 3.3.1.5 エクゼンプト職とノンエクゼンプト職 …………………162 3.3.1.6 複線型人事 …………………………………………………163 3.3.1.7 仕事の外注化 ………………………………………………164 3.3.2 モデル3の具体的提案………………………………………164 3.3.2.1 モデル3における人件費の変動費化 ………………………166 3.3.2.2 モデル3における賃金、昇進昇格、昇給の扱い …………167 3.3.2.3 モデル3における業績評価 …………………………………170 3.3.2.4 モデル3における管理職定年者の扱い ……………………170 3.3.2.5 モデル3と雇用市場の横断化 ………………………………171 3.3.2.6 モデル3と雇用率 ……………………………………………172 2.2.2.1 中高年賃金上昇の原因1 職能給の問題 …………………135 2.2.2.2 中高年賃金上昇の原因2 従来の雇用慣習・ 終身雇用制と職能資格制度 ………………………………137 2.2.3 v 終 章 …………………………………………………………………181 高齢者雇用を可能にする条件 ……………………………139 vi 第1章 少子・高齢化で 労働力はどうなるのか この章では少子高齢化の経過と将来動向を整理し、少 子化と高齢化がいつ頃から始まったかを検討する。また、 少子化の原因について人口飽和説を取り上げる。次いで 世界の中で日本の高齢化が最も進んでいることを数字で 示す。高齢化で最も影響の大きいと考えられる労働人口 の不足について、不足人数の推定を行い、かつ年齢別不 足がどうなるのかを検討する。その上で労働力変化に対 する対応を提案する。 第 1 章 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第1章 少子高齢化で労働力はどうなるのか 前に用いられた人口の予測が、このように違うのは、現在ほどの低い出生 1. 止めることのできない少子・高齢化 率を見込んでいなかったためで、いかにわが国の少子化が急激に進んだか を示すものであろう。 最も新しい平成14年1月推計では、中位推計で、合計特殊出生率を2050 毎日新聞2003年7月23日付夕刊(4面)は少子化対策法成立を伝えてい 年まで1.3台が続くとしている。そのたった5年前、平成9年の中位推計は、 る。 「産み、育てる社会」実現うたう、となっているが、後に述べるように、 平成7年(1995年)1.42であった合計特殊出生率が2005年ごろから漸次回復 もはや少子化対策はこうした対策を行わないよりはましというくらいしか期 し、2050年には1.61程度になるとの予測を立てていたのである(注2)。 待できないのではなかろうか。 明治維新は1868年で、そのときの日本の総人口は3000万人強に過ぎない。 少子・高齢化の進行は恐ろしいほどである。 それが1880年代から急激に増加し始めている(注3)。急激に増えたといえ、今 地球の有限性に問題意識をもつ世界各国の知識人が結成したローマクラ から80年余り前の1920年では、総人口はわずかに5600万人にすぎなかった。 ブが「現在のような幾何級数的な世界人口と経済の成長が続けば、来世紀 太平洋戦争の始まる前年の1940年で7200万人、戦後2年目の1947年でも、 には破滅的な事態に至る可能性が強く、物質的な意味でのゼロ成長を実現 まだ7600万人である。 する必要がある」と警告する『成長の限界』を発表したのはわずか30年余 り前の1972年である。 それが、その後一方的に増え続け、2000年には1億2700万人まで増加し た。ところが、第二次世界大戦中の一時の停滞を除いて1880年代から一方 ローマクラブの警告はもちろん人口の爆発的増加を前提とした警告であ 的に増え続けた人口は、1980年代でやや増勢が鈍化し、1990年代でスロー る。ところが、少なくとも先進国は逆の方向へ舵を切り始めており、世界 ダウンがいっそう明らかになり、2000年代で停滞し、前述のごとく2007年 人口も依然増加を続けているとはいえ、どこかの時点で減少に転じること から減少に入る。 が予想されている。 一方、0〜19歳人口は絶対数としては1955年まで増加しているが、その 1972年といえば日本でも、まだ人口と経済の急成長が続いており、少子 総人口に対する割合は1940年の46.91%をピークとして減り続け、2000年に 高齢化の問題を真剣に取り上げる人はいなかったのではなかろうか。古田 は20.5%まで減少している。その間65歳以上の人口は1940年の4.81%から 隆彦著『日本はなぜ縮んでゆくのか』に述べられている同氏が1989年9月 2000年の17.4%まで増加している。2004年現在の推定は19%台である。現在 18日の日本経済新聞夕刊に寄稿した未来予測は、停滞社会を予測した点で 日本の直面している多くの問題は、若年層の減少と高齢層の増加と無関係 は先見の明を立証したものであるが、驚くのはそこで用いられた数字であ ではあり得ない。さらに高齢化は進み、これまでの推計では65歳以上の人 る。「1830年代以降一貫して増加し続けた(日本の)総人口は、2010年ごろ 口の総人口比は2050年で35.7%まで増加すると推定されており、実に3人に 1億3600万人に達した後、一転して減少過程に入り、2085年ごろには1億 1人以上が65歳以上であるという社会が出現する。 2400万人程度で静止状態になるものと予測されている。(厚生省(当時)人 口問題研究所)」と述べられている 。 (注1) ところが、現在の推計では、中位推計でも2006年の1億2774万1千人を ピークとして日本の総人口は2007年から減少に入り、静止するどころでは なく、2100年の6400万人を目指してひたすら減り続ける。わずか15年ほど 12 しかし、現実はもっと厳しくなる可能性もある。古田氏によれば、これ までの国立社会保障・人口問題研究所の推計は、ほとんどの場合低位値の ほうが当たっているとのことである(注4)。 低位推計では、2050年で、人口は9200万、65歳以上の割合は39%となり、 ほとんど2.5人に1人が65歳以上となる。 13 第1章 少子高齢化で労働力はどうなるのか (人口の単位:千人 比率は%) 年次 総数 0〜19歳 20〜64歳 65〜74歳 75歳以上 0〜19歳 比率 1920 55,963 25,836 27,186 2,209 46.16 48.58 5.26 1930 1940 1947 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2015 2025 2050 64,450 71,993 78,101 83,200 89,276 93,419 98,275 103,720 111,940 117,060 121,049 123,611 125,570 126,926 126,266 121,136 100,593 30,119 33,747 35,837 37,996 38,424 37,375 36,018 33,887 35,169 35,779 35,013 32,578 28,600 26,007 22,125 19,501 14,887 31,267 34,733 38,520 41,090 46,104 50,694 56,076 62,502 67,859 70,562 73,526 76,105 78,693 78,878 71,369 66,909 49,844 2,182 2,550 2,880 3,052 3,360 3,742 4,307 5,118 6,025 6,988 7,757 8,941 11,101 13,028 17,037 14,466 14,246 46.73 46.91 45.89 45.67 43.04 40.01 36.65 32.67 31.42 30.56 28.92 26.36 22.78 20.5 17.5 16.1 14.8 48.51 48.28 49.32 49.39 51.64 54.26 57.06 60.26 60.62 60.28 60.74 61.57 62.67 62.1 56.5 55.2 49.5 4.76 4.81 4.79 4.94 5.32 5.73 6.29 7.07 7.96 9.16 10.34 12.07 14.55 17.4 26.0 28.6 35.7 732 881 904 865 1,062 1,388 1,626 1,874 2,213 2,841 3,660 4,714 5,986 7,175 9,012 15,735 20,260 21,616 20〜64歳 65歳 比率 以上比率 出生率 4 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 年 1950 54 58 62 66 70 74 78 82 86 90 94 98 2002 ▲図1-1 日本の合計特殊出生率 1950年〜2003年 (出典)毎日新聞2003年8月8日朝刊20面「人口問題調査会の定例研究会」、国 立社会保障・人口問題研究所編集『日本の将来推計人口・平成14年1月 推計』22頁 ▲表1-1 年齢(4区分)別人口のこれまでの動向と将来推計 1920〜2050年 (出典)http;//www1.ipss.go.jp/tohkei/Data/Popular/02-09.htm 表2-9(閲覧2001年5月)但し2000年以降は国立社会保障・人口問題研究 所編集『日本の将来推計人口・平成14年1月推計』厚生統計協会、平成 14年、74頁より抜粋した。 それが5年後の1955年になると43.04%と大きく減少し、その後減少の一 途をたどる。これを出生率で見ると、1950年に3.65あった合計特殊出生率が、 1955年では2.5を割り込み1960年にはおよそ2.0まで下がっている。その後 1966年の丙午年の反動もあってやや回復するが、1973年から下降を続け、 2. 少子化はいつから起こったか 1982〜84年にいったん上昇するが、再び低下し、近年の1.29まで激しく減少 している。 1960年以降、最大値でも2.2程度に過ぎない。 表1-1を見ると、1920年からほぼ46%台で推移した総人口に対する0〜19 人口が減らないための合計特殊出生率は、2.1程度はなくてはならないと 歳人口の比率は、1950年に45.67%とやや下がっているが、それでも46%に いわれる。(注5)今から見れば、日本の少子化は1950年以降既に始まっていた 近い値を保っている。 ということになるのであろうか。出生率がコンスタントに2.0を切るように なるのは1975年頃からである。 14 15 第1章 少子高齢化で労働力はどうなるのか 以降やや低下し、1930年から1947年までは一定している。1947年以降は一 貫して上昇を続けている。これを見ると、高齢化は平均寿命の上昇と機を 3. 高齢化はいつから起こったか 一にして1947年頃から始まったともいえる。 しかし、わずか20年余り前の1980年でも65歳以上の総人口に占める割合 高齢化の一つの指標としては、平均寿命がある。明治24年から大正14年 の間、男女とも平均寿命は45歳を超えない。昭和11年(1936年)に至って は10%以下であり、高齢化問題が急速に深刻化したのはこの20年ほどのこ とであることが分かる。 女性の平均寿命がほぼ50歳に達する。昭和22年(1947年戦後2年)で女性 は55歳近く、男性はほぼ50歳である。平均寿命は大正14年(1925年)から 4. 少子化はどうして起きるか 上がり続けており、1947年以降の上昇が特に著しい。 しかし、平均寿命は乳幼児の死亡まで算入したものなので、乳幼児の死 亡率が下がれば平均寿命は上がるわけで、平均寿命だけをもって高齢化の 高齢化がどうして起きるかというと、医学の発達、栄養バランスの改善、 始まりを特定することはできない。高齢化を総人口に占める高齢者の割合 住環境の整備、衛生状態の改善等で平均寿命が大幅に伸びたことと関係し が大きくなることだと定義すれば、表1-1に示す65歳以上の割合は、1920年 よう。 但し、高齢化を総人口に占める高齢者の割合の増加とすると、高齢者人口 (単位:歳) 90.0 の伸びを上回る若年人口の増加があれば高齢化は起こらないわけで、急速に 進んだ高齢化は、また急速に進んだ少子化の反映でもある。少子化がどうし 80.0 て起きるかは、現象的には未婚率の上昇と夫婦出生力の低下による。1975年 70.0 頃までは約2割だった25〜29歳の未婚者の割合は2000年には54%に達した。 60.0 また1990年以降未婚化に加えて夫婦の子供数の減少が起きている(注6)。 50.0 しかし、もっと根本的な原因については『日本はなぜ縮んでゆくのか』に 40.0 詳しい。この著作で古田氏は、人口容量の飽和と抑制装置の作動を少子化 30.0 (人口の減少)の原因としてあげている。人口抑制装置という仕組みは動物 の世界ではごく一般的にみられる現象という。食料不足や、排出物による汚 20.0 れによる環境悪化が起きると生殖が抑えられ、人口が一定に保たれる。 10.0 0.0 年 この最もはなはだしい例が、動物の集団自殺であろう。ハメルンの笛吹き 1909 1913 1925 1936 1947 1954 1964 1974 ▲図1-2 日本人の平均寿命 1909年〜2003年 (出典)http://www.cantan.co.jp/chouki/nennrei.htm(閲 覧2003年7月9日)及び毎日新聞2003年7月12日朝 刊「女性の平均寿命85歳越える」より合成した。 16 1984 1995 2003 という寓話がある。昔ドイツのハメルンの町でねずみが大増殖をする。笛吹 きがやってきてねずみを退治してやるという。笛吹きの吹く不思議な音色に 男 女 誘われて、ねずみは皆ウェーゼル川に飛び込んで死んでしまう。しかし、本 当は笛吹きは必要でなかったのである。動物や昆虫は、食料の暫減で社会的 緊張が高まるのを敏感にキャッチすると、狂ったように集団移動を始めるケ 17 第1章 少子高齢化で労働力はどうなるのか ースがあり、これがより過激化すると一種の発狂状態となり集団自殺に至る。 始めた。しかし前述のように、出生率は1950年以降急激に低下している。 スカンジナビア地方に生息するレミング(たびねずみ)は何年かごとに猛烈 われわれの遺伝子は既に人口容量の飽和を予感していたのであろうか。 に繁殖して草地を食いつくし、集団移動を始め、かなりの数が地の果てを走 り抜けて、海中へ飛び込み集団自殺をはかるとのことである(注7)。 5. 世界で最も高齢化速度の速い日本 人口容量が飽和化すれば、人間も他の動物たちと同じように自ずから抑 制装置を作動させる(注8)。但し人間の人口抑制装置は、生理的次元と文化的 次元の二重構造になっている(注9)。人間の人口抑制装置が作動するプロセス を古田氏は以下のようにまとめている。 表1-2を見てみよう。2000年の人口に対し、2050年の人口がどうなってい るかというと、日本は79%、つまり2割以上減少している。先進国で日本 より減少の大きいのはイタリアのみである。一方米国、カナダは人口が増 ① 一定の文明が作り出す人口容量は、その文明が自然環境を開拓するに 伴って、徐々に拡大する。 ② 人口容量の拡大に伴って人口が増加するが、人口容量の伸び率が人口 の伸び率より大きければ、一人当たりの生活水準が向上する。 ③ 生活水準が向上していれば、親世代は自分たちの生活水準を落とさな 加しているが、これは移民が今後も継続するとの見通しによる。高齢者割 合はすべての国で増加するが、表1-3のように2025年で、65歳以上、80歳以 上のいずれにおいても日本がイタリアを抜いて断然1位となっている。高 齢化速度は世界の中で日本が最も速く、高齢化対策が最も必要な国は日本 である。 いで子供を増やせる。 ④ 人口容量の伸び率が、人口の伸び率を下回るようになると生活水準の 低下が起こり、生理的抑制装置が徐々に作動を始める。 ⑤ 生活水準の伸び率が落ちると、親は自分の生活水準を落とすか子供を 作らないかの二者択一を迫られる。 ⑥ このとき文化が安定していれば、上昇する生活水準に慣れている親は 生活水準を落とすことを嫌って、子供を増やすことをあきらめる。(この 中には結婚しないで子供を作らないという選択も含まれよう)。 ⑦ 多くの親がこうした選択をし始めると、これが社会全体に広がって、 文化的抑制装置をも作動させる(注10)。 (単位:千人) 国 年 米国 日本 ドイツ 英国 フランス イタリア 韓国 カナダ オランダ スウェーデン デンマーク 少子化と人口減少は先進国に共通の現象であり、これが人口容量飽和に 対する人口抑制装置の発動だとすれば、少々の出産奨励策では対抗できな いのは明らかではないであろうか。1947〜1950年は第一次ベビーブームの 起こった時期である。その頃の生活水準は低かったが、1950年の朝鮮動乱 から日本経済は急速に立ち直り、1955年頃からは生活水準もかなり向上を 18 2000 2010 2020 2030 2040 2050 275,563 126,926 82,797 59,508 59,330 57,634 47,471 31,278 15,892 8,873 5,336 300,118 127,473 84,616 60,602 61,069 57,409 51,097 34,253 16,617 8,882 5,474 325,183 124,107 85,507 61,428 61,849 55,540 52,978 36,983 17,085 8,928 5,570 351,326 117,580 84,939 61,481 61,926 52,868 53,763 39,128 17,327 8,868 5,649 377,606 109,338 83,010 60,251 60,846 49,431 53,157 40,479 17,153 8,631 5,635 403,943 100,593 79,703 58,211 58,967 45,016 51,148 41,430 16,721 8,358 5,578 2050/2000 1.47 0.79 0.96 0.98 0.99 0.78 1.08 1.32 1.05 0.94 1.05 ▲表1-2 先進国における人口の推移 (出典)米国国勢調査局 http//www.census.gov/main/www/popclock.html (閲覧2002年9月2日)のIDB Summary Demographic Dataより編集し た。但し日本は、国立社会保障・人口問題研究所編『日本の将来推計人 口・平成14年1月推計』厚生統計協会発行平成14年より抜粋した。 (注)韓国は先進国の定義に入っていないが比較として掲げた。 19 第1章 65歳以上% 年 国 2000 2025 日本 17.4% 28.7% イタリア スウェーデン ドイツ フランス オランダ デンマーク 英国 カナダ 米国 韓国 18.1% 17.3% 16.2% 16.0% 13.6% 14.8% 15.7% 12.7% 12.8% 7.0% 25.4% 23.8% 23.2% 22.3% 21.7% 21.5% 21.2% 20.7% 18.5% 16.4% 少子高齢化で労働力はどうなるのか (単位:千人) 80歳以上% 2050 35.7% 20.3% 2000 2025 3.9% 10.1% 4.0% 5.0% 3.5% 3.7% 3.2% 4.0% 4.0% 3.1% 3.5% 1.0% 8.0% 7.3% 7.1% 6.1% 5.4% 6.0% 5.9% 5.1% 4.4% 3.4% 2050 年次 15歳以上人口 労働力 就業者 完全失業 非労働力 労働力% 就業者% 男性 13.9% 1920 17,735 16,350 1,385 7.8% 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 1995 1998 20,495 22,697 26,785 31,778 38,512 43,442 48,956 51,239 52,090 18,540 20,450 22,365 27,018 32,467 35,647 38,523 40,397 40,260 495 231 483 999 1,277 1,868 1,680 1,948 2,247 4,419 4,756 6,042 7,744 10,183 10,490 11,770 92.2 90.5 90.1 83.5 85.0 84.3 82.1 78.7 78.8 77.3 81.7 84.3 83.0 79.8 76.1 75.2 74.1 女性 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 1995 1998 17,812 20,375 23,375 28,798 34,089 41,001 46,040 51,842 54,186 55,190 9,516 10,000 12,211 13,982 17,367 20,854 21,584 25,073 26,621 27,670 227 112 245 421 636 1,009 1,110 8,295 10,375 11,006 14,815 16,716 20,146 24,355 26,603 26,621 27,670 53.4 49.1 52.6 48.6 50.9 50.9 46.9 48.4 49.1 50.1 47.8 50.6 50.3 46.0 47.1 47.3 48.1 ▲表1-3 先進国における高齢者割合の推移 (出典)米国国勢調査局 http//www/census.gov/main/www/popclok.html(閲 覧2002年9月2日)のIDB Summary Demographic Data より編集し た。 但し日本は前出『日本の将来人口推計・平成14年1月推計』より抜 粋した。 6. 高齢化の進行と労働力の変化 21,870 26,787 31,983 34,647 37,245 38,529 38,580 13,755 17,255 20,609 21,164 24,436 25,613 26,560 ▲表1-4 15歳以上人口に占める労働力人口と就業者数 6.1 過去の労働力の推移 (出典)http://www1.ipss.go.jp/Data/Popular/08-01.htm(閲覧2001年6月) 高齢化が進めば若年人口が減少し、高齢者が働かない限り労働力は減少 1998年では15歳以上男性の労働力率は77%程度であり、逆にいえば15歳以 する。では将来の労働力はどうなるのであろうか。その前に、過去の労働 上で働かない男性の比率がかなり増加している。但し、義務教育が中学3 力の推移を見てみよう。 年まで延長されたのは戦後であるから、1940年までの労働力の数字には15 表1-4は、1920年から1998年までの労働力人口のデータである。 歳未満の労働力も含まれていると考えられる。一方女性についてみると、 この表できわめて特徴的なことがある。1920年では、15歳以上の男性人 1920年以来15歳以上人口に対して、労働力は増減はあるもののほぼ50%程 口の92%が労働力であり、1940年までは15歳以上の男性人口の90%以上の 労働力がある。これに対し、1940年以降労働力率は下降の一途をたどり、 20 度を保っている。 一見少なくとも男性の労働力人口は低下しているように見える。ところ 21
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