『転職のバイブル』ですが

はじめに
2006年度版から始まった『転職のバイブル』ですが、日本を取り巻く経済動向に伴
う転職市場の変化に対応しながら、2008年度版、2010年度版、2012年度版と
2年ごとに改定を重ね、今回でとうとう第5弾の出版となりました。
項目においてわかりやすく説明
2014年版においては、今までの『転職のバイブル』とはやや異なり、「成功の定石
」というコンセプトから、見開き2ページスタイルで
させていただきました。
のお役に立てればと考えております。
の転職を視野に入れておられる方など、さまざまな状況にあるビジネスパーソンの皆さま
まだ転職を考えていない方から、はじめて転職を考えておられる方、そして将来的に次
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とくに、今年1月のダボス会議に参加された竹中平蔵慶應義塾大学教授が六本木ヒルズ
1 はじめに
97
で2月末に開催したセミナーで、ダボス会議の総括的な印象として「日本経済への期待」、
すなわち「アベノミクス」への期待度はかなり高かった点を指摘されていました。
私自身も「アベノミクス」による円安株高がもたらす経済効果が順調に続いてくれれば、
今後の転職市場においても、リーマン・ショック以来の強い追い風が吹いてくれるのでは
年間ヘッドハンターすなわち人材コンサルタントとして人材サーチ (人材
ないかと大いに期待しています。
一方で、約
です。これまでの仕事で成功体験なり、一定の実績を残していない人は、新しい会
転職で成功する人の条件をひと言で言うなら、「今の会社でも仕事ができる人」
(1)今の会社で仕事がうまくいかない人は、転職先でもうまくいかない
のポイントをお伝えします。
最初に「転職あるべき論」と題して、転職に関して一般的に把握しておいてほしい5つ
の現実」との間にある乖離 (ギャップ)を感じることがあります。
かい り
紹介)の仕事に関わっていると、ビジネスパーソンが持つ「転職に対する意識」と「転職
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2
代後半から
社に転職してもまず成功は難しいと思われます。
(2)転職は、年齢よりも実力が重要
今の転職市場では、即戦力として通用する
代前半が売れ筋だと言
代の人でも転
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(4)
「人間関係がうまくいかないから転職する」人は、転職先でもうまくいかない
を見ます。
ます。そこを認識せずに、高い給与に引かれて安易に転職してしまうと、後で泣き
高い給与をもらっている人は、転職後にそれだけ高い仕事の成果を強く求められ
(3)年収が高い仕事はそれだけ高い成果を求められる
職は可能です。最終的に転職というのは、年齢ではないのです。
りません。逆にしっかりとしたキャリアさえ持っていれば、たとえ
われていますが、他社でも通用する専門性 (キャリア)がないと簡単に転職は決ま
30
現在の職場で人間関係がうまくいかな い 人 が 新 し い 職 場 に 移 れ ば、 人 間 関 係 で
3 はじめに
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まったく苦労しないということはありません。自分に問題がないかを検証する必要
があります。
(5)
「仕事に対するプロフェッショナリズム」が必須
ただ漠然と会社から与えられた仕事をこなすだけではなく、きちんと実績や成果
を出し、リターンとして報酬 (給料)をもらうというプロとしての意識が必要です。
これら5つのポイントを「転職あるべき論」と名づけたのは、転職がまさに人生の重要
な分岐点であって、決して安易な転職をすべきではないと、私自身の転職体験および約
したがって、あなたが“転職”を考える岐路に立った場合には、大いに熟慮した上で、
私が今まで出版した転職に関する本の中で首尾一貫して語ってきた概念です。
能であれば定年まで一つの企業に勤め続けることを、私は決して否定しません。この点は、
ビジネスパーソンの転職のサポートを長年従事していながらも、一方では転職をせず可
転職は大きなチャンスにもなれば、大きなリスクにもなります。
年間にわたる人材サーチ (人材紹介)を通じての実務経験から真摯に考えているからです。
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4
慎重かつ勇気を持って第一歩を踏み出しましょう。
今回の2014年度版は、希望を持てそうな転職市場の環境の変化をふまえ改訂させて
いただきました。
この本が、少しでも皆さまの今後のキャリアアップのお役に立つのであれば、筆者とし
年4月吉日
人材コンサルタント 佐藤文男
5 はじめに
ては望外の幸せです。
平成
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年後に後悔しない転職の条件◇◆◇もくじ
はじめに…………
──転職活動の前に知っておきたいこと
第1章 なぜ、あなたは転職をするのですか?
定石 「会社を辞めてから……」では遅い!…………
転職活動とは孤独との闘い…………
定石
あなたを支える「キャリアの柱」…………
一つもキャリアがない …………
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定石
6 5 4 3 2 1
目的を把握し全体スケジュールをつくる…………
自分の「キャリア」を理解する…………
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定石
定石
定石
⁉
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1
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定石
定石
資格取得はキャリアアップにならない …………
まだまだ英語力がものを言う…………
「何ができるか」+「何をやりたいか」を考える…………
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定石 「転職の羅針盤」づくり5つのポイント…………
定石 自分の仕事を棚卸しする…………
定石 「業種」と「職種」で考える4つのパターン…………
定石 異業種にこそ可能性が眠っている…………
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定石
!?
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定石 職種別キャリアアップのポイント③
定石 あなたを救う3人の社外ネットワーク…………
定石 「仕事を辞めてから」動く場合の資金計画…………
定石 失業手当を上手にもらう…………
4 4 4 4 4
定石 転ばぬ先の杖を持つ…………
4 4 4 4 4
定石 「仕事を続けながら」動く場合の資金計画…………
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定石 職種別キャリアアップのポイント① (管理部門)…………
定石 職種別キャリアアップのポイント② (営業・マーケティング・商品開発・店舗運営)…………
(エンジニア・製造/生産管理・事業企画/開発)…………
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定石 家族には包み隠さずすべてを話す…………
定石 代・入社3年以内の転職は新卒よりも下…………
定石 体力・柔軟性のある 代が勝負時…………
定石 認識の甘い 代はプライドを捨てなさい…………
定石 代以降は豊富な経験と人脈を活かすべし…………
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──「履歴書づくり」から「内定決定」まで
定石 自分がわかる! 履歴書・職務経歴書の書き方…………
定石 履歴書とは自分の思いを伝えるツール…………
第2章 後悔しない転職活動の進め方
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定石 職務経歴書は簡潔に読みやすく!…………
定石 履歴・職務経歴合体型を書くときのポイント…………
定石 一度は英語で履歴書を書いてみる…………
定石 求人がなくても積極的にアプローチ…………
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定石 人材紹介会社は有効利用する…………
定石 いい加減なコンサルタントには要注意…………
定石 人的ネットワークは「信頼」が鍵…………
定石 くじけない心のつくり方…………
定石 失業状態だからこそ毎日を整える…………
定石 条件が合わなければ諦める勇気を持つ…………
定石 選択に悩んだら「目的」を思い出す…………
定石 「焦り」と「プライド」は厳禁…………
定石 最後の決断を後悔しない5つの条件…………
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定石 最初の5分であなたの印象が決まる…………
定石 行き詰ったら原点回帰…………
定石 失敗しない会社選びのチェック項目…………
定石 自分のことだけでなく企業の下調べも忘れずに…………
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──円満退社で広がるその後の可能性
第3章 正しく会社を「去る」技術
定石 会社に退職を伝えたら後戻りはできない…………
定石 円満退社なくして転職の成功はない…………
定石 引き継ぎはリストアップとスケジュール作成から…………
定石 引き継ぎは口頭ではなく文書に残す…………
定石 人脈を新しい会社に持っていくためにやるべきこと…………
定石 退社にともなう必要な手続き…………
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定石 家族にもストレスを与えることを忘れない…………
定石 新しい仕事に対して万全の準備を…………
定石 転職前に心身をリフレッシュ!…………
定石 体調には必要以上に気を配ろう…………
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──転職先で失敗しない行動術
第4章 転職後に成功する人の考え方
定石 第一印象で失敗したら苦労する…………
定石 「謙虚さ」と「気配り」を忘れない…………
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定石 郷に入っては郷に従え…………
定石 年下であっても転職先では先輩と考えよ…………
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定石 上司とは本来ぶつかるものと割り切ろう…………
定石 社内人脈の構築を急ぐ理由…………
定石 人間関係で大切なのは性格ではなくスキル…………
定石 「相手」ではなく「自分」を変える…………
定石 「社風が合わない」と悩んだら考えること…………
定石 「創職力」を発揮する…………
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定石 会社の規模や職種によって「即戦力」の意味は違う…………
定石 ヒットを積み重ねるために必要なこと…………
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定石 待遇や仕事内容が聞いていた話と違う …………
定石 フラッシュバック症候群を乗り切る…………
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定石 「生え抜き」ではないハンディを克服する…………
定石 入社早々、大失敗をしてしまったら…………
定石 転職を繰り返す「ジョブホッパー」は信用度ゼロ…………
定石 大企業に転職するときのポイント…………
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定石 中小企業に転職するときのポイント…………
定石 国内企業に転職するときのポイント…………
定石 外資系企業に転職するときのポイント…………
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定石 入社3ヶ月と6ヶ月は、ひとつの区切り…………
定石 成果が出ないときに役立つ「フィードバックシート」…………
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‼
第5章 年後に幸せになる転職に必要なこと
──「生涯現役」で働くためにやるべきこと
定石 企業が求めるスペックは依然厳しい…………
定石 素直な気持ちで、自分の心に問いかける…………
定石 転職適齢期は存在しない…………
定石 非正規社員の経歴も立派なキャリア…………
定石 「不満解消」と「現実逃避」での転職はNG…………
定石 転職すべきではないタイミングがある…………
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定石 一時的な感情や周囲の声に流されてはいけない…………
定石 「第二新卒」の本当の定義…………
定石 リベンジ転職は悪くない…………
定石 転職を考える前に、今の会社での評価を上げる…………
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定石 まずは「社内転職」を考えてみる…………
定石 中途採用で評価される人の条件…………
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定石 転職で成功する人、失敗する人…………
定石 年収アップにこだわってはいけない…………
定石 二度目の転職を考える前に気をつけること…………
定石 誰でも不安は抱くもの…………
定石 「生涯現役」を考える…………
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定石 さらなる転職に向けてやるべきこと…………
定石 転職における真の成功とは何か?…………
おわりに…………
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装幀/岡孝治
第1章
なぜ、あなたは転職をするのですか?
──転職活動の前に知っておきたいこと
定石1 「会社を辞めてから……」では遅い!
転職活動を始めるにあたって、最初に把握しておくべき重要な注意点は次の通りです。
まずは「転職活動をする際は、現在勤務している会社を辞めないほうがよい」というこ
とです。中には「勤務中はとても忙しく、時間がないので、退職してからのほうがよいの
では」
「二足のわらじはマナー違反ではないのか」と考える人もいるでしょう。
現在の仕事に対して手を抜かず、勤務時間外に転職活動をするのであれば、マナー違反
にはなりません。転職活動をすることに対してまったく引け目を感じる必要はありません。
逆に、なぜ辞めてからの転職活動はお勧めできないのかと言うと、ひとつは「現職」の
ほうが受け入れる側の企業にとってイメージがよいことに尽きます。私の経験から言って
も、中途採用を行う側は、現実には現職のほうの採用を優先する傾向にあります。
もうひとつは、一度会社を離れると転職に対する焦りが出てきてしまうことにあります。
退職後に転職活動に注力しよう、と思っていても実際にはうまく進まないことも少なくあ
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りません。また、失業保険にしても自己都合の退職だと支給されるまでの期間も長いです
し、金銭面で余裕がなくなる場合が出てきます。こうした状況は面接にもネガティブな影
響を及ぼしがちですから、会社を離れての転職活動は得策ではありません。
次に、ある程度、転職したいと考える職種・業種が決まったら、具体的なリサーチ (調
査)をしましょう。
リサーチ方法としては、今ではインターネットから大体の情報は入手できますが、図書
館に行ったり、書籍を購入したりといったアナログ的なアプローチも大変有効です。より
効果的なのは、業界のイベントや展示会の情報を探し、実際に足を運んでみることです。
そこで業界情報だけでなく、自分が転職を希望する会社がどんな雰囲気なのかも大方把握
することができるでしょう。
さらに、自分が転職を希望する業界の人に話を聞くことができればしめたものです。業
界のイベントや展示会で知り合った人、出身学校の名簿、知人のツテなどをたどって、直
接業界の人から話を聞く機会を設けることは、とても意義があります。そのために多少の
交際費用がかかったとしても、それは自己投資として考えましょう。
17 第1章 なぜ、あなたは転職をするのですか?
定石2 転職活動とは孤独との闘い
転職活動をしていることは、退職が決定するまで身内以外には決して他言しないことで
す。とくに同じ会社内の人間にうっかり相談してしまうと、されたほうも困ってしまいま
すし、その人から社内に情報が漏れてしまう可能性があります。
私の知っているAさんのケースでは、転職活動をしていることを打ち明けていた隣の課
の同期が、飲んでいる席でそのことをうっかりと漏らしてしまいました。それがAさんの
上司の耳にも入ってしまいました。突然呼び出され、転職の意思を確認されたAさんは、
正直に話をしましたが、それ以降、上司との関係は悪化の一途をたどり、ボーナスの査定
も最低点だったそうです。
「誰かに相談したい」
「信用できる同僚であればよいのではないか?」という考えもあり
ますが、万が一にも話が広まると、間違いなく職場でのあなたの立場は悪くなってしまい
ます。もし、上司があなたに転職の意思があることを知ってしまうと、あなたに対するイ
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メージは当然よくありません。最悪、職場にいづらくなってしまい、配置換え、すなわち
左遷といったことに発展してしまう可能性もあります。
社内でのメールも会社のほうで内容をチェックされている可能性があるので、転職活動
に関するメールは、自宅のパソコンか携帯電話でやりとりするほうが無難です。
しょ し かんてつ
一方、転職活動を他言せずにこっそりと進めていて、思わしい展開がないと途中でくじ
けてしまい、転職活動を中止してしまう人がいます。一度転職活動を始めたら、初志貫徹
すべきで、少なくとも内定をどこかの企業からもらうまでは継続しましょう。
途中で止めてしまうと、転職そのものに抵抗感が生じてしまい、逆にM&Aや早期退職
かんよう
によるリストラで転職を考えざるを得なくなった場合に、スムーズに転職活動に取り組め
なくなってしまうことも想定されます。
結果 (内定)が出るまでは、何とか踏みとどまって転職活動を継続することが肝要です。
実際に転職するかどうかの最終判断は、内定が出てからでも充分に間に合います。
19 第1章 なぜ、あなたは転職をするのですか?