「賃貸住宅における不動産流通(取引)の現状等

賃貸住宅における不動産流通
(取引)の現状等に関する調査
調査報告書
2015/12
一般財団法人 住宅改良開発公社
目次
0. 調査の概要 ........................................................................................................................................... 1
(1)調査の背景と目的 ........................................................................................................................ 1
(2)調査の実施概要 ............................................................................................................................ 1
(3)調査の要約 ................................................................................................................................... 1
1.賃貸住宅の取引価格等の現状把握 ...................................................................................................... 3
(1)取引概況と物件属性 .................................................................................................................... 3
2)価格構成要素の変化に関する定量的検証 ..................................................................................... 17
2.賃貸住宅の取引価格における構成要素の分析.................................................................................. 28
(1)J-REIT 物件における取引価格、収益価格、積算価格の差の分析 ........................................... 28
3.事業手法別に収益還元法を中心とした評価方法の分析~ ............................................................... 38
(1)キャップレートの推計モデル .................................................................................................... 38
4.競売物件における競落価格と収益価格の乖離の把握....................................................................... 45
5.賃貸リノベーション成立条件の整理・検証 ....................................................................................... 48
(1)採算性等評価マニュアルの目的と構成 ..................................................................................... 48
(2)採算性等評価の基本的事項の整理............................................................................................. 49
(3)不動産賃貸業における採算性等評価の実務 .............................................................................. 57
(4)採算性等評価における新規取得及び建替えとリノベーションとの差異 .................................. 60
(5)住宅リノベーションに係る採算性等評価の手順と方法 ............................................................ 63
0. 調査の概要
(1)調査の背景と目的
・不動産市場における賃貸住宅の取引環境は、上場若しくは私募 REIT 等への機関投資家や
個人投資家等の投資拡大によって、近年、取引状況が活性化し、流通環境の変化等が見受
けられる状況となっている。
・この様な状況の中で、各都市の需給や賃料の動向等の地域的な特性や近年の中期的な変化
を踏まえ、下記 1 から 3 の検討を通じて賃貸住宅の流通市場(競売を含む。
)における現
況の把握と分析を行う。
1.
賃貸住宅の取引価格の現状把握
2.
賃貸住宅の取引価格における構成要素等を分析・整理
3.
事業手法別に収益還元等を中心とした評価方法の分析等
(2)調査の実施概要
① 調査実施期間
・2015 年 6 月~12 月
② ワーキング・グループ
・学識経験者として成蹊大学経済学部 井出多加子教授をお迎えし、住宅改良開発公社及び
住宅金融支援機構と調査受託者(都市未来総合研究所)によるワーキンググループを 3 回
開催した(2015 年 10 月、11 月、12 月)。
(3)調査の要約
① 賃貸住宅の取引価格の現状把握
・既存の統計資料等を基に、不動産流通市場における賃貸住宅の物件取引の状況変化につい
ての現状把握と、価格構成要素の変化について整理した。

賃貸住宅の取引件数は増加傾向が続いており、賃貸住宅取引が不動産取引全体に占
める割合も上昇が続いている。一方、賃貸住宅の調停・競売での取引は 2009 年を
ピークに減少傾向にある。

取引物件の単価については、調停・競売における取引は全取引の 6~7 割の水準と
なっている。築年別に見ると 0-9 年の比較的新しい物件は単価が高い傾向が現れて
いるが、築 10 年以上については、古い物件ほど単価が低くなるという傾向は明確
ではない。

上場企業による開示情報や報道等の資料を基にした「不動産売買実態調査」による
と、近年の(一定規模以上の)賃貸住宅の取引については、買い手として REIT の
存在感が増している。
1

J-REIT 物件の賃貸住宅の利回りは、2010 年以降、全国的に低下傾向が続いている。
同じく稼働率は概ね上昇傾向にある。同じく賃料単価や NOI は緩やかながら減少
傾向にある。

建設工事費は 2013 年以降、顕著に上昇したが、
2014 年後半から上昇が鈍化し、
2015
年は横ばいで高止まりの状況となった。

基準地価による地価の動向は、全国平均では依然として下落しているものの、下落
率は縮小傾向が継続している。三大都市圏では、商業地については総じて上昇基調
を強め、住宅地については、東京圏・名古屋圏で小幅な上昇を継続している。札幌
市、福岡市、仙台市などの地方中核都市では住宅地、商業地とも上昇率が前年より
拡大した。
②賃貸住宅の取引価格における構成要素等を分析・整理
・賃貸住宅取引価格の決定における収益価格の影響度の大きさについて、実際の取引価格と
の差(取引価格÷収益価格、取引価格÷積算価格)について分析した。分析には J-REIT
の開示情報を使用した。

分析対象の物件の約 79%において、取引価格が直接法による収益価格の 9 割台の
水準となっている。

DCF 法による収益価格と取引価格の差異は 90~110%に集中しており、全体では
取引価格が DCF 法による収益価格を上回って取得されている。

分析対象の約 72%の物件において、取引価格が積算価格を上回っている。
③ 事業手法別に収益還元等を中心とした評価方法の分析等
・J-REIT の開示情報に基づくデータを使用して、ヘドニックアプローチによるキャップレ
ートの推計モデルの構築を試みた。
・実際の競売物件のデータを利用して、推計モデルによるキャップレートと収益価格を算出
し、売却価格との乖離を検証した。
・賃貸住宅リノベーションについて、投資実行判断の際に評価すべき採算性とリスクを定量
的・定性的に評価するためのマニュアルを作成した。
2
1.賃貸住宅の取引価格等の現状把握
不動産流通市場における賃貸住宅の取引について、統計資料等から取引件数や価格の動きを
把握する。ここでは対象都市として、東京都区部、東京市部、横浜市、川崎市、大阪市、名古
屋市、札幌市、仙台市、広島市、福岡市を採り上げる。ただし、データによっては一部の都市
の欠落がある。
本項で整理・分析した指標とそのデータソースについては以下のとおり(◎はデータソース
に収録され、本項で分析した指標。○はデータソースにはあるが分析には使用していない指標)
図表 1- 1
取引概況と物件属性についての指標
取
引
件
数
取
引
価
格
◎
◎
不動産売買実態調査 (都市未来総研) ○
○
ReiTREDA
○
データソース
不動産取引価格情報 (国土交通省)
(都市未来総研) ○
図表 1- 2
利
回
り
①
地
域
構
造
規
模
用
途
地
域
市
場
参
加
者
競
売
借
地
物
件
備
考
◎
◎
◎
◎
-
◎
-
○
○
-
-
◎
○ 開示情報等に基づく
◎
○
○
○
○
◎ J-REIT物件が対象
抽出によるアンケート
価格構成要素の変化に関する定量的検証についての指標
データソース
還
元
利
回
り
②
稼
働
率
賃
料
収
入
単
価
N
O
I
◎
◎
◎
建
設
費
地
価
家
賃
下
落
率
備
考
ReiTREDA
(都市未来総研) ◎
J-REIT物件が対象
建築着工統計
(国土交通省)
◎
全国及び対象都市
建設工事デフレーター (国土交通省)
◎
全国
建築費指数
(建設物価調査会)
◎
対象都市
都道府県地価調査
(国土交通省)
HOME'S賃料データ
(ネクスト)
◎
全国及び対象都市
◎
都心6区についてある時
点の募集情報から推計
(1)取引概況と物件属性
①「不動産取引価格情報」にみる賃貸住宅取引の概要
・国土交通省「不動産取引価格情報」は不動産購入者に対する任意のアンケートによって取
引の概要を情報収集するもので、個別物件が特定できないよう取引価格は有効数字 2 桁、
面積は 5 ㎡刻みなどの加工を経て、四半期毎に公表されている。悉皆調査ではなく、また
母集団が推計されないので、不動産取引の全体を把握することはできないが、2014 年に
は全体で約 26 万件の取引件数が登録され、大まかな動向を掴むことができる(なお、同
年の売買による土地所有権移転登記件数は 1,256,749 件[法務省 法務統計月報]
)
。
・以下、賃貸住宅取引の件数や取引価格のほか、建物規模や構造、用途地域について整理す
る。
3
a. 取引件数
・2014 年の賃貸住宅の取引件数は、全国が 7,692 件、対象都市が 2,875 件である。図表 1- 3
は 2008 年から 2014 年までの賃貸住宅の取引件数と賃貸住宅の全取引に占める割合を示
している。全国では 2011 年から増加しており、特に 2013 年に大きく伸びている。対象
都市では、2009 年から増加傾向で、同じく 2013 年に大きく伸びている。また、全取引に
占める賃貸住宅の取引件数の割合は、全国より対象都市の方が高い。この割合は全国・対
象都市共に上昇傾向で、対象都市の方が上昇速度が速い。
・賃貸住宅の調停・競売の取引件数及び賃貸住宅取引全体に占める割合を図表 1- 4 に示して
いる。2014 年の取引件数は、全国が 182 件、対象都市が 31 件である。全国・対象都市共
に、2009 年をピークに減少傾向である。賃貸住宅の取引件数に占める調停・競売の取引
件数の割合は、全国の方が高く、2009 年をピークに低下傾向である。
図表 1- 3
賃貸住宅の取引件数と賃貸住宅の全取引に占める割合
(取引件数:件)
(割合)
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
全国
対象都市
共同住宅の割合:全国
共同住宅の割合:対象都市
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
図表 1- 4
賃貸住宅の調停・競売での取引件数と賃貸住宅取引全体に占める割合
(調停・競売件数:件)
(割合)
400
8%
350
7%
300
6%
250
5%
200
4%
150
3%
100
2%
50
1%
0
0%
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
全国
対象都市
調停・競売の割合:全国
調停・競売の割合:対象都市
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
b. 取引価格
・図表 1- 5 は 2014 年の取引における賃貸住宅の取引価格の構成比率を示している。対象都
4
市の取引は、5 千万円以下、5 千万円超 1 億円以下、1 億円超 5 億円以下の階級にそれぞ
れ約 3 割前後で分散している。全国では 5 千万円以下が 52.1%と過半数を占めている。
図表 1- 5
取引価格の構成比率(2014 年)
全国
対象都市
4.0%
2.0%
22.3%
50以下
50以下
37.5%
30.7%
50超100以下
50超100以下
100超500以下
100超500以下
52.1%
500超
500超
23.6%
(単位:百万円)
(単位:百万円)
27.8%
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
・図表 1- 6 では構成比率の経年での変化を示しているが、経年で大きな変化は見られない。
図表 1- 6
取引価格の構成比率の推移
全国
対象都市
100%
100%
90%
90%
80%
80%
70%
70%
60%
500超
60%
500超
50%
100超500以下
50%
100超500以下
50超100以下
40%
50超100以下
40%
50以下
30%
50以下
30%
(単位:百万円)
20%
20%
10%
10%
0%
(単位:百万円)
0%
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2008
(年)
2009
2010
2011
2012
2013
2014 (年)
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
・図表 1- 7 は賃貸住宅の全取引と調停・競売取引での平均価格を表している。2014 年につ
いて、対象都市の全取引の平均価格は 138 百万円、調停・競売の平均価格は 106 百万円
であり、全国の全取引の平均価格 96 百万円、調停・競売の平均価格 49 百万円を大きく上
回っている。全国について、2008 年~2014 年の期間中は調停・競売取引の平均価格は全
取引の平均価格を下回るが、対象都市については、2010 年と 2012 年に調停・競売取引の
平均価格が全取引の平均価格を上回る。これは、2010 年には 10 億超の取引が 3 件、2012
年には 1 件あり、それらの取引価格が平均価格を引き上げたことによる。
5
図表 1- 7
(百万円)
賃貸住宅の全取引及び調停・競売取引の平均価格の推移
(百万円)
全国
150
対象都市
200
150
100
100
50
50
0
0
2008
2009
2010
全体
2011
2012
2013
2014
2008
2009
2010
調停・競売
全体
2011
2012
2013
2014
調停・競売
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
・図表 1- 8 では調停・競売取引の対象となった物件の単価の推移を表している。対象都市全
体では全取引の約 6~7 割の水準で取引されている。なお、2008-2014 年の間で大きな変
動はない。対象都市全体での調停・競売取引は年間 30~80 件程度であり、一都市当たり
の年間サンプル数は必ずしも多くはないが各対象都市でも平均値を算出した(サンプル数
が 1 や、0 となる場合もある。)
。各対象都市ともに、調停・競売単価は一部を除き全取引
単価より低い。一部の都市で調停・競売単価が全取引単価を上回っている(横浜市(2010
年)
:築浅の高価格の取引が 1 件あり平均を引き上げた。広島市(2011 年)
:サンプル数
は 3 で、比較的高い単価の取引が 1 件あり、サンプル数が少ないことからも平均の引き上
げに繋がった。
)
。
図表 1- 8
単価の推移
対象都市全体
(円/㎡)
1,000,000
900,000
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
78.8%
札幌市
(円/㎡)
100.0%
73.8%
57.7%
1,000,000
900,000
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
80.0%
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
調停・競売
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
調停・競売
調停・競売
調停・競売/全取引 (右軸)
東京23区
1,000,000
900,000
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
80.0%
40.6%
18.6%
50.0%
0.0%
(円/㎡)
100.0%
全取引
42.4%
29.5%
全取引
調停・競売/全取引 (右軸)
仙台市
(円/㎡)
1,000,000
900,000
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
100.0%
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
全取引
150.0%
128.8%
100.0%
77.3%
66.9%
80.0%
60.0%
42.9%
40.0%
20.0%
0.0%
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
調停・競売/全取引 (右軸)
全取引
6
調停・競売
調停・競売/全取引 (右軸)
横浜市
(円/㎡)
1,000,000
900,000
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
150.0%
1,000,000
900,000
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
135.8%
75.5%
100.0%
50.0%
35.0%
0.0%
調停・競売
1,000,000
900,000
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
79.6%
46.4%
80.0%
60.0%
20.0%
0.0%
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
調停・競売
1,000,000
900,000
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
150.0%
100.0%
50.0%
0.0%
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
調停・競売
79.8%
100.0%
80.0%
60.0%
55.7%
40.0%
20.0%
0.0%
調停・競売
調停・競売/全取引 (右軸)
福岡市
(円/㎡)
43.2%
120.0%
110.6%
1,000,000
900,000
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
200.0%
78.2%
調停・競売/全取引 (右軸)
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
調停・競売/全取引 (右軸)
188.3%
全取引
調停・競売
大阪市
全取引
広島市
(円/㎡)
20.0%
0.0%
1,000,000
900,000
800,000
700,000
600,000
500,000
400,000
300,000
200,000
100,000
0
40.0%
27.3%
60.0%
46.4%
40.0%
(円/㎡)
100.0%
全取引
80.0%
67.7%
全取引
調停・競売/全取引 (右軸)
名古屋市
(円/㎡)
100.0%
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
全取引
川崎市
(円/㎡)
128.5%
30.9%
140.0%
120.0%
100.0%
80.0%
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
調停・競売/全取引 (右軸)
全取引
調停・競売
調停・競売/全取引 (右軸)
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
・図表 1- 9 では調停・競売取引について、築年数ごとの単価の推移を表している。対象都市
については、サンプル数が多くない築年数レンジもあるが平均値を算出した。(サンプル
数が 1 となる場合もある。
)また、築年数が不明な取引は除いている。全国の築 0-9 年は、
他の築年数レンジと比較すると単価が高い。対象都市の築 0-9 年も同様に、他の築年レン
ジと比較すると単価が高い。なお、2009 年及び 2013 年は、単価の高い物件の取引があり
平均値を引き上げている。
7
図表 1- 9
調停・競売取引における築年数で分類した単価の推移
全国
(円/㎡)
対象都市全体
(円/㎡)
500,000
2,000,000
400,000
1,500,000
300,000
1,000,000
200,000
500,000
100,000
0
0
2008
0~9年
2009
10~19年
2010
2011
20~29年
2012
2013
30~39年
2008
2014
0~9年
40年~
2009
2010
10~19年
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
8
2011
20~29年
2012
30~39年
2013
2014
40年~
c. 建物規模
・図表 1- 10 は 2014 年の取引における賃貸住宅の延床面積の構成比率を示している。全国と
対象都市で大きな差はないが、100 ㎡以下は対象都市の方が、300 ㎡超 500 ㎡以下は全国
の方がやや高い比率となっている。
図表 1- 10
建物規模の構成比率(2014 年)
全国
対象都市
5.0%
6.0%
5.1%
6.5%
5.9%
100以下
8.7%
100以下
100超300以下
100超300以下
19.0%
300超500以下
43.4%
300超500以下
20.2%
500超1,000以下
500超1,000以下
42.6%
1,000超1,500以下
1,500超
20.1%
1,000超1,500以下
1,500超
17.4%
(単位:㎡)
(単位:㎡)
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
・図表 1- 11 は構成比率の経年での変化を示しているが、経年で大きな変化は見られない。
図表 1- 11
建物規模の構成比率の推移
全国
対象都市
100%
100%
90%
90%
80%
80%
70%
70%
1,500超
60%
100超300以下
30%
20%
100以下
20%
10%
(単位:㎡)
10%
2009
2010
2011
2012
2013
300超500以下
100超300以下
0%
2008
500超1,000以下
40%
300超500以下
30%
1,000超1,500以下
50%
500超1,000以下
40%
1,500超
60%
1,000超1,500以下
50%
100以下
(単位:㎡)
0%
2014 (年)
2008
2009
2010
2011
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
9
2012
2013
2014 (年)
d. 構造
・図表 1- 12 は 2014 年の取引における賃貸住宅の建物構造の構成比率を表している。対象
都市では木造、RC、鉄骨造の順に比率が高く、全国も同様である。全国と対象都市の比
較では、対象都市では SRC・RC・木造が、全国では軽量鉄骨造と鉄骨造の構成比率が高
い。
図表 1- 12
構造の構成比率(2014 年)
全国
対象都市
0.2%
0.1%
9.7%
6.1%
RC
28.9%
RC
SRC
SRC
32.4%
鉄骨造
鉄骨造
木造
36.1%
37.2%
木造
軽量鉄骨造
2.6%
軽量鉄骨造
ブロック造
22.6%
ブロック造
4.1%
20.1%
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
・図表 1- 13 は構成比率の経年での変化を示している。軽量鉄骨造の構成比率が 2011 年に
全国・対象都市共に増加し、年々増加傾向にある。
図表 1- 13
構造の構成比率の推移
対象都市
全国
100%
100%
90%
90%
80%
80%
70%
70%
ブロック造
60%
ブロック造
60%
軽量鉄骨造
軽量鉄骨造
50%
50%
木造
40%
30%
SRC
20%
RC
木造
40%
鉄骨造
鉄骨造
30%
SRC
20%
RC
10%
10%
0%
0%
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2008
(年)
2009
2010
2011
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
10
2012
2013
2014 (年)
e. 用途地域
・図表 1- 14 は 2014 年の取引における賃貸住宅の用途地域の構成比率を表している。対象
都市の主な用途地域は住居系用途地域が 61.9%と大きな割合を占めている。全国と比較す
ると構成比は約 5 ポイント程度低い。次いで比率の高い用途地域は商業系用途地域の立地
で、28.7%と全国より 8.7 ポイント高い。
図表 1- 14
2014 年構成比率(用途地域)
全国
対象都市
4.6%
0.2%
8.6%
9.3%
住居系
住居系
商業系
20.0%
商業系
28.7%
工業系
工業系
その他
66.7%
その他
61.9%
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
・図表 1- 15 は構成比率の経年での変化を示しているが、経年で大きな変化は見られない。
図表 1- 15
用途地域の構成比率の推移
全国
対象都市
100%
100%
90%
90%
80%
80%
70%
70%
60%
その他
50%
工業系
40%
60%
その他
50%
工業系
40%
商業系
30%
商業系
30%
住居系
20%
住居系
20%
10%
10%
0%
0%
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014 (年)
2008
2009
2010
データ:国土交通省「不動産取引価格情報」より作成
11
2011
2012
2013
2014 (年)
②公開情報にみる市場参加者の概要
・不動産取引における取引関係者の属性が網羅的に明らかになっている統計や調査は存在し
ておらず、一部の取引における上場企業等による適時開示やプレス発表、報道等による情
報に頼らざるを得ないのが実情である。
・そこで、対象となる物件の規模(比較的大規模)や所在地(都市部が多い)等のバイアス
はあるものの、企業の開示情報や報道資料等をまとめた都市未来総合研究所の「不動産売
買実態調査」を元に、賃貸住宅取引に係る市場参加者の概要と借地権つきの取引を整理す
る。
a. サンプルデータの概要
・2010 年から 2015 年 6 月までに売買取引された賃貸住宅 1,645 件をサンプルデータとして
分析を行う(賃貸用途の住宅として使用されていた物件が、取引後も住宅として使用され
るものを抽出、借地も含む)。地域的な分布は次表に示すとおりで、東京都区部が 981 件
で全体の 60%を占める。都区部を含む対象都市は 1,395 件となり、全体の 85%を占める
(1 件の取引に複数の賃貸住宅が含まれることがある)
。
図表 1- 16
東京都区部
対象都市(都区部除く)
東京市部
その他の政令指定都市
その他都市
不明
計
不動産売買実態調査における賃貸住宅の取引件数
2010
139
46
5
6
12
1
209
2011
126
39
13
10
11
3
202
2012
125
71
8
20
11
2
237
2013
243
106
3
18
28
398
2014
225
109
4
24
37
5
404
2015
123
43
5
5
18
1
195
総計
981
414
38
83
117
12
1,645
データ:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
b. 買主業種の構成
・2010 年以降の年間取引における買主業種の構成を次表に示す。近年は REIT(外国や私募
を含む)が最も多く、取引の 4~5 割を占める。以下、建設・不動産業が 2~3 割、SPC が
2 割前後と、この 3 業種で取引の大多数を占める。その他の非製造業は、金融・保険、サ
ービス、運輸・通信、商業等の事業会社である。
・不動産価格の下落局面からの反転から上昇局面においては REIT の存在感が高くなってい
る。
12
図表 1- 17
買主業種の構成比率の推移
100%
6%
12%
24%
17%
14%
35%
30%
20%
31%
30%
43%
45%
49%
39%
41%
2011
2012
2013
2014
2015
80%
60%
40%
15%
39%
20%
0%
13%
2010
REIT(外国、私募含む)
建設・不動産
その他の非製造業
その他
製造業
不明
SPC
公共等
データ:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
c. 売主業種の構成
・次表に示す売主の業種構成では、建設・不動産あるいは SPC が多くを占めるが、比率は
大きく変動している。
図表 1- 18
売主業種の構成比率の推移
100%
80%
60%
15%
38%
40%
20%
24%
40%
23%
43%
59%
28%
35%
21%
20%
0%
2010
2011
9%
2012
REIT(外国、私募含む)
建設・不動産
その他非製造業
その他
製造業
不明
36%
26%
19%
2013
2%
7%
7%
2014
2015
SPC
公共等
データ:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
・2010 年以降の取引について、
売主業種と買主業種のクロス表を作成すると、
SPC から REIT
への取引が 366 件で最も多く、全体の約 22%を占める。続いて建設・不動産から REIT、
建設・不動産業同士、SPC 同士の順に多い。
・REIT が賃貸住宅の取得を拡大している局面では、SPC やスポンサー等の建設・不動産業
による REIT への売却が拡大している。
13
図表 1- 19
2010 年以降の取引における業種のクロス表
売主業種 REIT(外
国、私募
買主業種
含む)
建設・不
動産
SPC
その他非
製造業
製造業
公共等
その他
不明
総計
2
43
653
70
115
488
REIT(外国、私募
含む)
6
192
366
43
1
建設・不動産
48
137
99
11
4
SPC
41
29
125
2
1
3
61
262
その他非製造業
3
15
18
2
1
6
12
57
製造業
6
2
公共等
1
4
1
9
1
その他
8
22
9
1
不明
81
35
7
1
総計
187
437
626
60
8
4
7
47
3
1
128
84
239
1,645
データ:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
d. 借地物件
・2010 年以降の 1,645 件の取引のうち、借地であること(借地権、地上権、地役権等、敷
地の一部も含む)が明示された物件は 27 件であった(約 1.6%)
。27 件中、所在地が東京
都の物件が 22 件、神奈川県が 2 件、千葉県、愛知県、大阪府が各 1 件ずつであった。
・取引時期による増減傾向は確認できず、今後の傾向を観測するに足るデータが得られなか
った。
14
③J-REIT における賃貸住宅取得時の利回りの推移
・J-REIT における賃貸住宅の取得時点での利回り(取引キャップレート1)の推移を整理す
る。なお、本分析の地域区分は、データ数の関係から、東京都心 5 区(千代田区、中央区、
港区、新宿区、渋谷区)、東京周辺および都下(都心 5 区を除く区部と市部)
、政令指定都
市、地方都市の 4 区分としている。
・図表 1- 20 は地域別の変化を表している。各地域の平均は、2010 年から 2014 年にかけて
年々低下している。政令指定都市は低下幅が最も大きく、2014 年は 2010 年から 0.9 ポイ
ント低下した。
図表 1- 20
地域別の取得時利回りの推移
9.0%
8.5%
レンジ(最小値~最大値)
東京都心5区
n=179
平均値
9.0%
8.5%
8.0%
8.0%
7.5%
7.5%
7.0%
7.0%
6.5%
5.2%
5.1%
5.3%
5.0%
5.1%
5.0%
4.9%
4.8%
4.8%
4.7%
2010
2011
2012
2013
レンジ(最小値~最大値)
4.7%
4.3%
5.7%
5.5%
5.4%
5.0%
5.2%
4.7%
4.8%
2011
2012
5.1%
4.6%
2010
2013
9.0%
8.5%
レンジ(最小値~最大値)
8.3%
4.9%
4.4%
4.0%
地方都市
n=36
平均値
4.5%
2014
8.0%
平均値
2014
政令指定都市
n=223
8.0%
7.5%
7.5%
6.9%
6.9%
6.6%
6.5%
6.4%
6.4%
5.9%
5.8%
5.9%
5.6%
5.0%
5.9%
7.1%
6.8%
7.0%
6.5%
6.5%
6.3%
6.0%
5.5%
6.1%
6.0%
5.0%
4.9%
9.0%
7.0%
6.3%
5.5%
5.1%
4.0%
8.5%
n=257
6.0%
5.5%
5.5%
東京周辺
および東京都下
平均値
6.6%
6.5%
6.0%
6.0%
4.5%
レンジ(最小値~最大値)
5.9%
6.1%
6.0%
5.7%
5.5%
5.5%
5.3%
5.0%
4.5%
6.4%
6.3%
6.4%
6.0%
5.5%
5.5%
5.4%
5.5%
5.2%
5.1%
2013
2014
4.5%
4.0%
4.0%
2010
2011
2012
2013
2014
2010
2011
2012
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
・図表 1- 21 は、取得時利回りの最大値・平均値・最小値別に変化を表している。東京都心
5 区の最大値は他の地域の最大値と比較して顕著に低い。その他の項目については、東京
都心 5 区と東京周辺および東京都下で、政令指定都市と地方都市でそれぞれ近い水準とな
っている。
1
純収益(総収入-総費用)÷取得価格。純収益は投資法人の取得時のリリースに記載の鑑定評価書による。総費用は
減価償却費を含まず、大規模改修等の資本的支出、一時金の運用益を含む。
15
図表 1- 21
取得時利回り:最大値(左上)、平均(右)、最小値(左下)の推移
最大値
平均
9.0%
8.5%
8.0%
7.5%
7.0%
6.5%
6.0%
5.5%
5.0%
4.5%
4.0%
9.0%
8.5%
8.0%
7.5%
7.0%
6.5%
6.0%
5.5%
5.0%
4.5%
4.0%
2010
2011
2012
2013
2010
2014
2011
2013
2014
東京周辺区および東京都下
東京都心5区
東京周辺区および東京都下
政令指定都市
地方都市
政令指定都市
地方都市
最小値
9.0%
8.5%
8.0%
7.5%
7.0%
6.5%
6.0%
5.5%
5.0%
4.5%
4.0%
2010
2012
東京都心5区
2011
2012
2013
2014
東京都心5区
東京周辺区および東京都下
政令指定都市
地方都市
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
16
2)価格構成要素の変化に関する定量的検証
①J-REIT の賃貸住宅における運用状況
・J-REIT の賃貸住宅の運用状況について、利回り(鑑定キャップレート2)
、稼働率、賃料
収入単価、NOI3を対象に、2010 年度から 2014 年度の経年変化を整理する。なお、本分
析の地域区分は、東京都心 5 区、東京周辺および都下、政令指定都市、地方都市の 4 区分
としている。期間中に連続して各データを取得できる物件について平均値を集計した。
・還元利回り(図表 1- 22)
:2014 年度の還元利回りは、東京都心 5 区 4.6%、東京周辺区お
よび東京都下 4.9%、政令指定都市 5.6%、地方都市 5.9%である。全地域について 2014
年度にかけて低下しており、2010 年度上期と 2014 年度下期を比較すると、全ての地域で
0.6~0.7 ポイント低下している。
図表 1- 22
還元利回りの推移
7.0%
6.5%
東京都心5
区
6.0%
東京周辺
区およ び
東京都下
5.5%
政令指定
都市
5.0%
地方都市
4.5%
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
・稼働率(図表 1- 23):2014 年度の稼働率は、東京都心 5 区が 95.7%、東京周辺区および
東京都下が 96.5%、政令指定都市 97.5%、地方都市 96.5%となっている。2010 年度上期
と 2014 年度下期を比較すると、全地域で稼働率は高まっており、特に東京都心 5 区が 2.4
ポイントの上昇で最も上昇幅が大きい。
2
直近 1 年間の NOI を評価額で除した利回り
Net Operating Income の略。純収益という意味で、収入(賃料等)から、実際に発生した経費(維持管理費、水道光
熱費、固定資産税及び都市計画税、損害保険料等)のみを控除して求める。
3
17
図表 1- 23
稼働率の推移
100%
99%
東京都心5
区
98%
東京周辺
区およ び
東京都下
97%
96%
政令指定
都市
95%
94%
地方都市
93%
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
・賃料収入単価4及び前年同期比変動率(図表 1- 24)
:東京都心 5 区では 2011 年度上期に他
の地域と比較して大きく低下している。いずれの地域・いずれの年も、前年同期比はマイ
ナス傾向が続き、大きな変動は見られない。なお、賃料収入単価は、地方都市と政令都市
では、地方都市の方がやや高い。
図表 1- 24
賃料収入単価(左)、前年同期比変動率(右)の推移
0.0%
(千円)
15
-0.5%
東京都心5
区
10
東京周辺区
およ び東京
都下
-1.5%
-2.0%
政令指定都
市
-2.5%
地方都市
-3.0%
5
東京都心5
区
-1.0%
東京周辺
区およ び東
京都下
政令指定
都市
地方都市
-3.5%
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
・NOI 及び前年同期比変動率(図表 1- 25):一部の地域では前年同期比がプラスとなって
いる期も見られるが、全体的に低下している傾向にあり、2010 年度上期と 2014 年度下期
を比べると全ての地域で低下している。図表 1- 24 で示した賃料単価が緩やかに低下して
いることからも、NOI が同様の動きをしていると考えられる。
4
稼動期間における賃貸床面積当たりの管理費等を含む賃料等の収入実績値(募集賃料や成約賃料とは異なる)
18
図表 1- 25
NOI(左)、前年同期比変動率(右)の推移
3.0%
(百万円)
2.0%
45
東京都心5
区
40
東京周辺
区およ び
東京都下
35
30
政令指定
都市
25
20
地方都市
東京都心5
区
1.0%
0.0%
-1.0%
東京周辺
区およ び
東京都下
-2.0%
政令指定
都市
-3.0%
地方都市
-4.0%
-5.0%
15
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
②建築工事費に係る動向
価格構成要素のうち、建築費に係る動向として、建築着工統計の工事費予定額や建設工
事デフレーター(住宅建築)、建築費指数の動きを整理する。
a. 建築着工統計
・図表 1- 26 では、建築着工統計(国土交通省)における居住専用住宅(木造を含む全構造)
の工事費予定額を元に算出した、全国と対象都市全体の 1 ㎡当たりの住宅建築費(建築費
単価)の推移を表している。建築確認申請時に添付される工事費の予定額であり、実際に
かかった工事費とは異なることがあることに注意が必要である。
・2014 年時点で、全国の建築費単価は 17.9 万円/㎡、対象都市は 20.2 万円/㎡である。全国
では、直近のボトムである 2010 年の 16.8 万円/㎡から、2014 年に 17.9 万円/㎡と約 1.1
万円(6.5%)上昇した。対象都市については、2011 年から 2012 年の単価が最も低く 18.5
万円/㎡で、2014 年は 20.2 万円/㎡と当該期間と比較すると約 1.7 万円(9.2%)上昇して
いる。
図表 1- 26
万円/㎡
工事費予定額による建築費単価推移
22
20.2
20
19.5
19.4
18.7
18.5
18.5
18.9
全国
対象都市
18
17.9
17.2
17.1
2008
2009
16
16.8
16.9
16.9
2010
2011
2012
17.2
2013
2014
(年)
データ:国土交通省「建築着工統計調査」より作成
・図表 1- 27 では各対象都市の住宅建築費単価の推移を表し、図表 1- 28 では各対象都市の
2014 年の単価と、2013 年と 2014 年における単価の対前年上昇率を表している。2014 年
19
の単価は、東京都 23 区、川崎市、横浜市の順に高く、首都圏が上位を占めている。次い
で、仙台市、名古屋市、大阪市の順である。単価の上昇率については、2014 年の対前年
上昇率を見ると、福岡市を除く各都市で上昇幅が拡大している。特に仙台の上昇幅拡大が
大きい。次いで、大阪市、広島市、東京 23 区の順で上昇幅が大きい。福岡市の対前年上
昇率は、2013 年では各対象都市の中で最も高く、2014 年には唯一前年を下回っている。
図表 1- 27
万円/㎡
工事費予定額による建築費単価推移(各対象都市)
24
札幌市
仙台市
22
東京23区
20
横浜市
川崎市
18
名古屋市
大阪市
16
広島市
福岡市
14
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
(年)
データ:国土交通省「建築着工統計調査」より作成
図表 1- 28
東京23区
川崎市
横浜市
仙台市
名古屋市
大阪市
広島市
福岡市
札幌市
各対象都市の単価(左)と単価の対前年上昇率(右)
単価(万円)
2014年
23.1
20.4
19.4
19.0
18.7
18.1
17.9
16.6
16.1
札幌市
仙台市
東京23区
横浜市
川崎市
名古屋市
大阪市
広島市
福岡市
対前年上昇率
2013年
2014年
3.3%
5.3%
2.3%
13.0%
2.7%
6.7%
1.8%
3.4%
3.4%
3.7%
2.0%
4.3%
2.8%
8.4%
2.1%
6.5%
6.6%
3.6%
差分
2014 - 2013
2.0%
10.6%
4.0%
1.6%
0.3%
2.3%
5.6%
4.4%
-2.9%
データ:国土交通省「建築着工統計調査」より作成
b 建設工事デフレーター
・建設工事デフレーターは名目工事額を実質工事額に換算するための指数で、建築費指数と
しても利用される。国内の建設工事全般を対象とし、全国値となる。
・図表 1- 29 では、2001 年 1 月から 2015 年 5 月までの各月の建設工事デフレーター(住宅
建築・非木造住宅、2005 年度平均を 100 とする)と、各年度の平均値を表している。2002
年頃をボトムに緩やかに上昇していたが、2006 年から上昇率を高め、2008 年 7 月に 110.3
まで上昇、2008 年度平均は 108.4 となった。その後 105 前後まで低下したが、2013 年に
入ると再び上昇傾向を示し、2014 年 7 月に 111.3 まで上昇。その後は 2015 年 5 月まで
108 前後で推移している。
20
図表 1- 29
建設工事デフレーターの推移
115
デフレーター(年度平均)
デフレーター(月単位)
110
105
2005年度平均=100
100
95
1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014 2015
データ:国土交通省「建設工事デフレーター」より作成
c. 建築費指数
・図表 1- 30 では、建設物価調査会による都市別の集合住宅 RC 造の建築費指数(工事原価)
を表している。当該指数は、2005 年平均を 100 とし、毎月の建築費を指数化したもので
ある(集合住宅については SRC 造の指数もあるが、構造別では大きな差異はなく割愛す
る)
。
・2008 年をピークに低下、2010 年から 2011 年をボトムとして上昇し、足元の水準は世界
金融危機前の 2008 年のピーク時とおおむね同水準(仙台、東京はそれ以上)となってい
る。2010 年以降のボトムからの最大上昇率は仙台が 28%と突出して高く、次いで東京が
19%、最も低い広島でも 12%と 2 ケタ台の上昇を記録した。2014 年後半から上昇率は鈍
化し、2015 年以降は各都市ともほぼ横ばいで推移しており、高止まりの状況といえる。
図表 1- 30
集合住宅 RC 造の建築費指数(対象都市)
130
125
札幌
120
仙台
東京
115
名古屋
110
105
大阪
(2005年平均=100)
広島
100
福岡
95
1
7
2005
1
7
2006
1
7
2007
1
7
2008
1
7
2009
1
7
2010
1
7
2011
1
7
2012
1
7
2013
1
7
1
2014
データ:一般財団法人建設物価調査会「建築費指数」より作成
21
6
2015
③地価動向
・全国及び対象都市における地価動向について 9 月に公表された平成 27 年都道府県地価調
査(基準日:2015/7/1)の結果を元に整理する。
・住宅地の地価変動率は 1992 年以降、全国平均でマイナスが続いているが、2010 年以降は
下落幅が縮小し続けている。東京都区部は 2013 年に上昇に転じ、2015 年は三大都市圏内
で最も高い 2.1%の上昇であった。対象都市の中では仙台市が 3.6%で最も上昇率が高く、
変動率の最低は広島市の 0.0%であった。
・商業地の地価変動率は全国平均で 2008 年以降マイナスが続いており、住宅地と同様に
2010 年以降は下落幅が縮小している。2015 年は対象都市の中では大阪市が 6.1%で最も
高くなり、仙台市が 4.9%、名古屋市が 4.7%で続いた。最低は東京市部の 1.5%であった。
図表 1- 31
(%)
対象都市における平均地価対前年変動率の推移
住宅地:三大都市圏内
15
10
10
東京都区部
5
住宅地:全国及び地方中枢都市
(%)
15
5
全国
多摩地域
0
札幌市
0
横浜市
仙台市
川崎市
-5
大阪市
福岡市
名古屋市
-10
-10
25
20
20
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
15
2015
2014
2013
2012
2000
2011
-20
2010
-20
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
-15
2009
福岡市
-15
2008
名古屋市
広島市
-10
2007
-10
仙台市
-5
2006
大阪市
札幌市
0
2005
川崎市
-5
全国
5
2004
横浜市
0
10
2003
多摩地域
5
2002
東京都区部
10
2001
15
2005
商業地:全国及び地方中枢都市
(%)
25
2004
2003
2002
2000
商業地:三大都市圏内
2001
-15
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
-15
(%)
広島市
-5
注)多摩地域には郡部も含まれる。
データ:国土交通省「都道府県地価調査」より作成
・平均地価変動率を元に 2000 年の調査時点の地価を 100 としたときの推移をみると、東京
都区部の住宅地平均地価は所謂ファンドバブルによる上昇やその後のリーマンショック
に伴う下落を経て、2015 年には 2000 年の水準を回復している。三大都市圏では大阪市が
2000 年の約 7 割の水準で最も低い。地方では広島市が同じく 6 割程度の水準である。
・同様に商業地の地価は、東京都区部のみが 2000 年水準を回復しており、名古屋市が約 9
割、川崎市と札幌市、多摩地域、福岡市で約 8 割の水準にある。
22
図表 1- 32
平均地価水準の推移(2000 年=100)
住宅地:三大都市圏内
住宅地:全国及び地方中枢都市
120
120
110
110
100
東京都区部
多摩地域
90
100
全国
90
札幌市
80
仙台市
横浜市
80
川崎市
大阪市
70
名古屋市
60
広島市
70
福岡市
60
商業地:三大都市圏内
120
110
110
東京都区部
多摩地域
90
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
商業地:全国及び地方中枢都市
120
100
2004
2003
2002
2001
2000
50
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
50
100
全国
90
札幌市
80
仙台市
横浜市
80
川崎市
大阪市
70
名古屋市
60
広島市
70
福岡市
60
注)多摩地域には郡部も含まれる。
データ:国土交通省「都道府県地価調査」より作成
23
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
50
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
50
④家賃下落率の動向(都心 6 区を対象とする分析例)
・賃貸住宅の経年による家賃下落について、募集賃料を用いて分析を行った。
・使用したデータは(株)ネクストが運営する不動産・住宅情報サイト「HOME'S」におい
て、2015 年 7 月 14 日現在で入居者募集中の「賃貸マンション」のうち、東京都千代田区、
中央区、港区、新宿区、文京区、渋谷区の都心 6 区における「駅から徒歩 1 分以内」の物
件、994 棟・2,444 室のデータである(同一物件を複数の不動産会社が仲介する重複につ
いては排除した)
。
・募集賃料(敷金・礼金等、共益費は含まない)を床面積で除した賃料単価(円/㎡)を物
件毎に求め、全体の平均値及び床面積規模と地区別に平均値を求めて、経年(築 50 年ま
で)による分析を行った。
・分析の結果、経年による平均家賃下落率は次表のとおりである。全体の年平均家賃下落率
は 0.7%で、床面積階級によって同 0.03%~1.8%、所在区によって同 0.4%~1.0%の幅が
みられた。
図表 1- 33
経年による家賃下落率のまとめ表
○年平均家賃下落率
○床面積規模別の経年による年平均家賃下落率
全体
20㎡以下
-0.7%
-0.03%
20~40㎡以下 40~60㎡以下
60㎡超
-0.6%
-0.7%
-1.8%
○地区別の経年による年平均家賃下落率
千代田区
中央区
港区
新宿区
文京区
渋谷区
-1.0%
-0.4%
-0.8%
-0.6%
-0.9%
-0.7%
・分析対象データの築年、床面積、地区の分布状況を以下に示す。築年は 1-10 年、11-20
年の物件が多く、床面積は 20~40 ㎡以下が過半を占める。地区別には中央区が最も多い。
・新宿区、文京区は 20 ㎡以下の物件割合が他の地区より比較的多く、中央区は 40~60 ㎡
が半数以上を占める。港区や千代田区は 60 ㎡超の物件の割合が比較的高い。
図表 1- 34
築年
新築
1-10年
11-20年
21-30年
31-40年
41-50年
総計
分析対象の築年、床面積、地区の分布
物件数
286
720
841
207
297
93
2,444
床面積
20㎡以下
20~40㎡以下
40~60㎡以下
60㎡超
総計
物件数
186
1,305
715
238
2,444
データ:HOME’S データより作成
24
区
千代田区
中央区
港区
新宿区
文京区
渋谷区
総計
物件数
194
624
445
469
479
233
2,444
図表 1- 35
分析対象の床面積区分による地区別物件数割合
20㎡以下
60㎡超
20~40㎡以下 40~60㎡以下
総計
港区
4%
54%
21%
20%
100%
渋谷区
5%
59%
30%
6%
100%
新宿区
12%
66%
17%
5%
100%
千代田区
5%
58%
25%
12%
100%
中央区
6%
32%
53%
9%
100%
文京区
11%
64%
18%
7%
100%
8%
53%
29%
10%
100%
総計
データ:HOME’S データより作成
a. 分析対象全件による家賃下落率
・全分析対象の築年別の賃料単価の平均値は次図のように分布する。経年により賃料単価は
下落する傾向が読み取れる。平均賃料単価を(y)、築年を(x)とする線 形の回帰式は
y=-25.429x+4212.5 となり、経年による賃料下落は平均で-0.7%/年となる。
図表 1- 36 築年による平均賃料単価分布(全体)と回帰式
(円/㎡)
5,000
4,000
3,000
y = -25.429x + 4212.5
R² = 0.6242
2,000
0
10
20
30
40
50 (年)
データ:HOME’S データより作成
b. 床面積規模にみた家賃下落率
・床面積階級別の築年別の賃料単価の平均値は次図のように分布する。20 ㎡以下において
経年と賃料単価の間に明確な相関関係が認められない以外、経年と賃料単価の間にはマイ
ナスの相関がある。
・都心部のワンルームタイプの賃貸マンションは、若年層を中心に需要が高く、かつ回転率
が高いため、特に希少性の高い駅至近の物件は経年による賃料下落が隠微であると考えら
れる。
・各床面積階級における平均の下落率は 20 ㎡以下が-0.03%/年、20~40 ㎡以下が-0.6%/年、
40~60 ㎡以下が-0.7%/年、60 ㎡超が-1.8%/年であった。
25
図表 1- 37
(円/㎡)
床面積階級別の平均賃料単価分布と回帰式
(円/㎡)
20㎡以下
7,000
20~40㎡以下
5,000
6,000
4,000
5,000
4,000
3,000
3,000
y = -22.084x + 4093.6
R² = 0.5728
y = -1.1859x + 4136.5
R² = 0.0007
2,000
2,000
0
10
(円/㎡)
20
30
40
50
(年)
0
10
(円/㎡)
40~60㎡以下
5,000
20
50
(年)
y = -59.032x + 4922.7
R² = 0.4677
6,000
4,000
40
60㎡超
7,000
y = -24.364x + 3895.8
R² = 0.4827
30
5,000
4,000
3,000
3,000
2,000
2,000
0
10
20
30
40
50
(年)
0
10
20
30
40
50
(年)
データ:HOME’S データより作成
c. 地区別にみた家賃下落率
・地区別の築年別賃料単価の平均値は次図のように分布する。いずれの区においても築年と
賃料単価の間には負の相関関係が認められる。決定係数 R2 の低い千代田、中央、渋谷の 3
区についてみると、千代田区は築浅の物件において、中央区は築古の物件において、渋谷
区は全体的に近似線からの乖離が大きい。
・各区における平均の下落率は、千代田区が-1.0%/年、中央区が-0.4%/年、港区が-0.8%/年、
新宿区が-0.6%/年、文京区が-0.9%/年、渋谷区が-0.7%/年であった。
26
図表 1- 38
地区別の平均賃料単価分布と回帰式
(円/㎡)
千代田区
(円/㎡)
中央区
6,000
8,000
y = -38.481x + 4918.1
R² = 0.2286
7,000
y = -13.356x + 3910.4
R² = 0.1517
5,000
6,000
4,000
5,000
4,000
3,000
3,000
2,000
0
10
20
30
40
2,000
50
0
10
20
30
40
(年)
港区
(円/㎡)
7,000
新宿区
(円/㎡)
6,000
y = -31.563x + 4801.6
R² = 0.355
6,000
50
(年)
y = -21.789x + 3950.9
R² = 0.3777
5,000
5,000
4,000
4,000
3,000
3,000
2,000
2,000
0
10
20
30
40
0
50
(年)
30
40
50
渋谷区
(円/㎡)
5,000
20
(年)
文京区
(円/㎡)
10
6,000
y = -27.401x + 3925.5
R² = 0.6846
y = -26.515x + 4551.9
R² = 0.2884
5,000
4,000
4,000
3,000
3,000
2,000
0
10
20
30
40
50
(年)
2,000
0
データ:HOME’S データより作成
27
10
20
30
40
50
(年)
2.賃貸住宅の取引価格における構成要素の分析
(1)J-REIT 物件における取引価格、収益価格、積算価格の差の分析
・賃貸住宅の売買取引における取引価格と収益価格及び積算価格の差異について、J-REIT
の開示情報を使用して分析を行う。投資法人が物件を取得した際の「取引価格÷収益価格」
と「取引価格÷積算価格」を差異の指標として、全体の散らばりや地域、構造、築年(竣
工時期)
、規模(戸数規模)による分布の違いについてグラフ化した。なお、収益価格に
ついては直接還元法(直接法)と DCF 法による鑑定評価額を用いた。取引価格と直接法
による収益価格の比較は 1,764 件、同じく DCF 法による収益価格は 1,769 件、同じく積
算価格は 1,413 件のサンプルデータによる。
・物件の取引価格は次図のように分布する。取引価格のデータが存在する 2,079 件について、
20 億円未満の物件が約 8 割を占め、3 億円~13 億円の物件が多い。
取引価格の分布(20億円未満)
(件)
150
896
745
92
100
600
124 120
113 117
106
101
73
66 70
71
400
17-18
16-17
15-16
14-15
12-13
11-12
(億円)
10-11
0
8-9
100-
9-10
30-40
7-8
20-30
6-7
10-20
5-6
50-100
0
14
4-5
40-50
6
17
3-4
61
2-3
41
~1
99
0-10
43
33
1-2
220
200
53 57
50
13-14
800
135
133
114
19-20
取引価格の分布
(件)
1,000
取引価格の分布
18-19
図表 2- 1
(
億
円
)
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
①差異指標の概要
・取得物件の取引価格と収益価格及び積算価格の散布図を図表 2- 2 に示す。45 度線(y=x)
より上部に位置する物件は、取引価格が収益価格・積算価格より高いことを示す。
・直接法による収益価格が取引価格に近い値となるサンプルが多く、45 度線の近傍に分布
している。DCF 法も似たような傾向を示す。積算価格は 45 度線から上方に分布している
ケースが多く、特に価格が高いほどその傾向が強い。
28
図表 2- 2
取引価格と収益価格及び積算価格の散布図
取引価格/直接法鑑定評価額
DCF法鑑定評価額/取引価格
30,000
30,000
25,000
25,000
20,000
20,000
取
引
価 15,000
格
(
百
万
円 10,000
)
取
引
価 15,000
格
(
百
万
円 10,000
)
5,000
5,000
0
0
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
30,000
0
直接法鑑定評価額(百万円)
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
30,000
DCF法鑑定評価額(百万円)
取引価格/積算価格
30,000
25,000
20,000
取
引
価 15,000
格
(
百
万
円 10,000
)
5,000
0
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
30,000
積算価格(百万円)
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
・取引価格の差異指標の値がどの程度の散らばりを示しているか、図表 2- 3 のヒストグラム
で表す。
・直接法による収益価格との差異は 0.9 以上 1.0 未満にほぼ収斂しており、約 79%の物件は
直接法による収益価格の 9 割台の水準で取得されている。収益価格を上回る取引価格の件
数は 6%程度である。
・DCF 法による収益価格との差異は 0.9 以上 1.0 未満と 1.0 以上 1.1 未満にピークがあり、
全体では取引価格が DCF 法による収益価格を上回って取得されたケースが多い。
・積算価格との差は 1.0 以上 1.1 未満をピークに、右に歪む分布(ピークより差異が大きく
なるに連れてなだらかに減少)となっている。約 72%の物件において積算価格を上回る
価格で取引されている。
29
図表 2- 3
取引価格と収益価格及び積算価格の差異の分布
取引価格/直接法鑑定評価額
(件)
1,600
1,390
1,400
1,200
1,000
800
600
400
143
124
200
60
21
11
5
5
1.1-1.2
1.2-1.3
1.3-1.4
1.4-1.5
1.5-
5
0
0.7-0.8
0.8-0.9
0.9-1.0
1.0-1.1
取引価格/DCF法鑑定評価額
(件)
1,000
865
900
800
727
700
600
500
400
300
200
64
100
53
30
15
7
6
1.1-1.2
1.2-1.3
1.3-1.4
1.4-1.5
1.5-
2
0
0.7-0.8
0.8-0.9
0.9-1.0
1.0-1.1
取引価格/積算価格
(件)
300
259
250
205
200
176
150
158
130
115
100
100
26
24
17
1.8-1.9
1.9-2.0
2.0-
1.6-1.7
1.5-1.6
1.4-1.5
1.3-1.4
1.2-1.3
1.1-1.2
1.0-1.1
1.7-1.8
48
0.9-1.0
0.8-0.9
24
0.7-0.8
0
17
0.0-0.7
50
77
37
(注)X 軸のラベル「a-b」は「a 以上、b 未満」を示す(本項で以下同じ)
。
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
②地域
・地域区分はデータ数の関係から、東京都心 5 区、東京周辺及び都下、政令指定都市、地方
都市の区分を用いる。
・直接法による収益価格との差異は地域的な差はほとんど見られない。
・DCF 法による収益価格との差異は、政令指定都市で 0.9-1.0 にピークがある以外は 1.0-1.1
にピークがあり、政令指定都市では DCF 法による収益価格を下回る取引が比較的多いこ
とを示している。
30
・積算価格との差異は、政令指定都市と地方都市において 1.0-1.1 でピークがはっきりと現
れているが、東京都心 5 区と東京周辺区および都下でがピークがあいまいで、1.6-1.7 ま
でなだらかな形状を示している。これらでは積算価格の 1.0 倍から 1.7 倍までの取引価格
に分散している。
図表 2- 4
地域別データサンプル数との差異指標の分布
東京都心
東京周辺区お
5区
よび都下
468
661
466
663
361
514
データサンプル数
取引価格/直接法
取引価格/DCF接法
取引価格/積算価格
政令指定
都市
502
507
427
地方都市
133
133
111
取引価格 /直接法鑑定評価額
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
0.7-0.8
0.8-0.9
0.9-1.0
東京都心5区
1.0-1.1
1.1-1.2
1.2-1.3
東京周辺区および都下
1.3-1.4
1.4-1.5
政令指定都市
1.5-1.6
地方都市
取引価格 /DCF法鑑定評価額
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
0.7-0.8
0.8-0.9
0.9-1.0
東京都心5区
1.0-1.1
1.1-1.2
1.2-1.3
東京周辺区および都下
1.3-1.4
1.4-1.5
政令指定都市
1.5-1.6
地方都市
取引価格 /積算価格
30%
25%
20%
15%
10%
東京都心5区
東京周辺区および都下
政令指定都市
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
31
地方都市
2.0-
1.9-2.0
1.8-1.9
1.7-1.8
1.6-1.7
1.5-1.6
1.4-1.5
1.3-1.4
1.2-1.3
1.1-1.2
1.0-1.1
0.9-1.0
0.8-0.9
0.7-0.8
0%
0.0-0.7
5%
・地域別(物件の少ない広島市を除く)の差異指標(取引価格÷収益価格(直接法、DCF
法)
、取引価格÷積算価格)の度数分布を調べたところ、全ての都市において直接法評価
額との差異指標が 0.9-1.0 に 6~9 割のピークをもっている。DCF 法評価額との差異は東
京都区部と横浜・川崎市において 1.0-1.1 にピークがあり、その他の都市は 0.9-1.0 にピー
クをもつが、両者の割合の差は小さい。積算価格との差異は東京都区部、横浜・川崎市、
大阪市で特に値が大きい方向になだらかとなっており、積算価格の 1.5 倍以上の取引価格
となっている割合が高い。
図表 2- 5
地域別の差異指標の度数分布
東京都心5区
東京都区部(23区)
100%
100%
80%
80%
60%
60%
40%
40%
20%
20%
0%
0%
0.5-0.6 0.6-0.7 0.7-0.8 0.8-0.9 0.9-1.0 1.0-1.1 1.1-1.2 1.2-1.3 1.3-1.4 1.4-1.5
直接法評価額
DCF法評価額
0.5-0.6 0.6-0.7 0.7-0.8 0.8-0.9 0.9-1.0 1.0-1.1 1.1-1.2 1.2-1.3 1.3-1.4 1.4-1.5
1.5-
直接法評価額
積算価格
100%
80%
80%
60%
60%
40%
40%
20%
20%
0%
0.5-0.6 0.6-0.7 0.7-0.8 0.8-0.9 0.9-1.0 1.0-1.1 1.1-1.2 1.2-1.3 1.3-1.4 1.4-1.5
DCF法評価額
1.5-
積算価格
仙台市
札幌市
100%
直接法評価額
DCF法評価額
0%
1.5-
0.5-0.6 0.6-0.7 0.7-0.8 0.8-0.9 0.9-1.0 1.0-1.1 1.1-1.2 1.2-1.3 1.3-1.4 1.4-1.5
積算価格
直接法評価額
横浜・川崎市
DCF法評価額
1.5-
積算価格
名古屋市
100%
100%
80%
80%
60%
60%
40%
40%
20%
20%
0%
0%
0.5-0.6 0.6-0.7 0.7-0.8 0.8-0.9 0.9-1.0 1.0-1.1 1.1-1.2 1.2-1.3 1.3-1.4 1.4-1.5
直接法評価額
DCF法評価額
1.5-
0.5-0.6 0.6-0.7 0.7-0.8 0.8-0.9 0.9-1.0 1.0-1.1 1.1-1.2 1.2-1.3 1.3-1.4 1.4-1.5
積算価格
直接法評価額
32
DCF法評価額
積算価格
1.5-
福岡市
大阪市
100%
100%
80%
80%
60%
60%
40%
40%
20%
20%
0%
0%
0.5-0.6 0.6-0.7 0.7-0.8 0.8-0.9 0.9-1.0 1.0-1.1 1.1-1.2 1.2-1.3 1.3-1.4 1.4-1.5
直接法評価額
DCF法評価額
0.5-0.6 0.6-0.7 0.7-0.8 0.8-0.9 0.9-1.0 1.0-1.1 1.1-1.2 1.2-1.3 1.3-1.4 1.4-1.5
1.5-
直接法評価額
積算価格
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
33
DCF法評価額
積算価格
1.5-
③構造
・構造による差異指標の分散は小さい。S 造はサンプル数が少ないため、分散の大きい積算
価格との差異でばらつきが現れている。
図表 2- 6
構造別データサンプル数との差異指標の分布
データサンプル数
S造
RC造
SRC造
混合・その他
取引価格/直接法
13
1,421
253
77
取引価格/DCF接法
13
1,423
252
81
取引価格/積算価格
12
1,144
197
60
取引価格/直接法鑑定評価額
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
0.7-0.8
0.8-0.9
0.9-1.0
S
1.0-1.1
1.1-1.2
RC
SRC
1.2-1.3
1.3-1.4
1.4-1.5
1.5-1.6
1.4-1.5
1.5-1.6
混合・その他
取引価格/DCF法鑑定評価額
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
0.7-0.8
0.8-0.9
0.9-1.0
S
1.0-1.1
1.1-1.2
RC
SRC
1.2-1.3
1.3-1.4
混合・その他
取引価格/積算価格
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
0.6-0.7 0.7-0.8 0.8-0.9 0.9-1.0 1.0-1.1 1.1-1.2 1.2-1.3 1.3-1.4 1.4-1.5 1.5-1.6 1.6-1.7 1.7-1.8 1.8-1.9
S
RC
SRC
混合・その他
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
34
④竣工時期
・竣工時期による直接法及び DCF 法による収益価格との差異指標は、物件の竣工時期が 2008
年以降、平均で 1.0 を下回って推移している。積算価格との差異は 2000 年から 2007 年
までの竣工時期の物件で平均 1.2 以上と高く、2012 年と 2013 年の竣工物件についても平
均 1.3 以上と高い。
図表 2- 7
竣工時期による差異指標の平均値の推移と分布
竣工年による差異指標平均値
1.5
1.4
1.3
1.2
1.1
1
0.9
取得額/直接法鑑定評価額
取得額/DCF法鑑定評価額
2015
2013
2011
取得額/積算価格
取引価格/DCF法鑑定評価額
取引価格/直接法鑑定評価額
1.8
1.8
D
C
F
鑑
定
評
価
額
/
取
得
額
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
H28
H26
H24
H22
H20
H18
H16
H14
H12
H8
H10
H6
H4
H2
S63
S61
S59
S57
S55
S53
S51
S49
S43
H28
H26
H24
H22
H20
H18
H16
H14
H12
H8
H10
H6
H4
H2
S63
S61
S59
S57
S55
S53
S51
S49
S47
S45
S43
S47
0.6
0.6
S45
直
接
法
鑑
定
評
価
額
/
取
得
額
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
0.8
竣工時期
竣工時期
取引価格/積算価格
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
H28
H26
H24
H22
H20
H18
H16
H14
H12
H8
H10
H6
H4
H2
S63
S61
S59
S57
S55
S53
S51
S49
S47
S45
0.0
S43
積
算
価
格
/
取
得
額
竣工時期
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
⑤規模
・規模については、図表 2- 8 に示すように賃貸住宅の戸数で区分した。
・直接法による収益価格との差異は規模による差がほとんど見られない。
・DCF 法による収益価格との差異は、1-25 戸と 26-50 戸は 1.0-1.1 にピークがあり、101-200
35
戸と 200 戸超は 0.9-1.0 にピークがある。51-100 戸は 0.9-1.0 と 1.0-1.1 でほぼ同率であ
る。小規模は収益価格より高く、大規模は収益価格より低い価格で取引された傾向が出て
いる。
・積算価格との差異は、1-25 戸で取引価格の方が低い割合が比較的高く、200 戸超の物件で
は 1.0-1.1 と 1.4-1.5 で 2 つのピークが現れている。
図表 2- 8
規模別データサンプル数との差異指標の分布
データサンプル数
1-25戸
26-50戸
51-100戸 101-200戸
200戸-
取引価格/直接法
193
640
629
255
47
取引価格/DCF接法
192
640
630
254
51
取引価格/積算価格
155
518
489
204
47
取引価格/直接法鑑定評価額
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
0.7-0.8
0.8-0.9
0.9-1.0
1.0-1.1
1-25戸
1.1-1.2
26-50戸
1.2-1.3
51-100戸
1.3-1.4
1.4-1.5
101-200戸
1.5-1.6
200戸-
取引価格/DCF法鑑定評価額
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
0.7-0.8
0.8-0.9
0.9-1.0
1-25戸
1.0-1.1
1.1-1.2
26-50戸
1.2-1.3
51-100戸
1.3-1.4
1.4-1.5
101-200戸
1.5-1.6
200戸-
取引価格/積算価格
25%
20%
15%
10%
1-25戸
26-50戸
51-100戸
101-200戸
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
36
200戸-
2.0-
1.9-2.0
1.8-1.9
1.7-1.8
1.6-1.7
1.5-1.6
1.4-1.5
1.3-1.4
1.2-1.3
1.1-1.2
1.0-1.1
0.9-1.0
0.8-0.9
0.7-0.8
0%
0.0-0.7
5%
⑥評価時期
・評価時期による直接法及び DCF 法による収益価格との差異指標は、物件の評価時期が 2010
年に顕著に取引価格が上回る差異が現れている。2011 年以降は平均で取引価格が収益価
格を下回って推移している。
・積算価格との差異指標は 2005 年をピークに 2010 年まで低下を続け、2012 年まで上昇し
再び低下傾向にある。
・散布図では、2010 年に評価し、収益価格を大きく上回って取得された物件があったこと
が示されている(アドバンス・レジデンス投資法人による 3 月の物件取得。これらの物件
の積算価格は開示されておらず集計対象外)
。
図表 2- 9
評価時期による差異指標の平均値の推移と分布
評価年による差異指標平均値
1.4
1.3
1.2
1.1
1
0.9
0.8
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
取得額/直接法鑑定評価額
取得額/DCF法鑑定評価額
取得額/積算価格
取引価格/直接法鑑定評価額
取引価格/DCF法鑑定評価額
1.8
1.8
D
C
F
法
鑑
定
評
価
額
/
取
得
額
1.6
直
接
法
鑑
定
評
価
額
/
取
得
額
1.4
1.2
1.0
0.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.6
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24
H25
H26
H27
H28
H13
H14
H15
H16
H17
取引価格/積算価格
3.0
2.5
積
算 2.0
価
格
1.5
/
取
得 1.0
額
0.5
0.0
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
H20
H21
H18
H19
H20
H21
評価時期
評価時期
H22
H23
H24
H25
H26
H27
H28
評価時期
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
37
H22
H23
H24
H25
H26
H27
H28
3.事業手法別に収益還元法を中心とした評価方法の分析~
収益還元法を用いて不動産価格(担保評価額)を評価することを目的に、審査対象となる
賃貸住宅の属性情報から純収益(NOI)と還元利回り(キャップレート)を推計し、不動産
価格を求めるモデルを作成する。
ここでは、次式のように直接還元法により不動産価格を求めることとし、J-REIT の運用
データを元に、キャップレートについて推計モデルを構築する。
不動産価格
キャップレート
(1)キャップレートの推計モデル
①既存研究について
a. キャップレートに影響を与える代表指標について
・2002 年から 2009 年の還元利回り(キャップレート)を被説明変数とし、J-REIT の東京
23 区の住宅について、656 件の物件情報に基づきヘドニック分析を行った研究5が行われ
ている。結果は以下の通りで、建築経過年数と延床面積といった建物属性の説明力はある
が、都心への総合接近性や最寄駅までの距離といった立地属性の説明力は低い、もしくは
ない。区のダミー変数については一定の説明力がある。
図表 3- 1
東京 23 区住宅のヘドニック分析(両側対数、自由度調整済み決定係数 0.53)
都心への総合接近性6
パラメータの符号
有意水準
(+)プラス
有意水準 10%
最寄駅までの距離
有意でない
(+)プラス
有意水準 1%
延床面積7
(―)マイナス
有意水準 1%
区ダミー
区で異なる
有意でない~有意水準 1%
時点で異なる
有意でない~有意水準 1%
建築経過年数
時点ダミー
5 「共同住宅におけるキャップレートのスプレッド」一般財団法人不動産研究所 小松広明 2010 年
6 JR 線のターミナル駅として「東京駅」
「渋谷駅」「新宿駅」「池袋駅」
「上野駅」の 5 つの鉄道所要時間の合計。
7
延床面積は、「建設投資、建物品等・グレードの代理変数であり、貸室賃料収入、運営収入に影響する。敷地面積、容積率とそれぞ
れ強い相関を有する。」とされている。
38
・J-REIT のオフィスを対象にした既存研究8では、前記のほかにマーケットレント(対象不
動産が属するエリアの取得時点における平均稼動賃料(平均募集賃料×平均稼働率))
、マ
ーケットレントとの賃料乖離率、PML 値(地震による予想最大損失額)
、利害関係人等取
引ダミーが説明変数に加えられている。また、同対象の既存研究9では、取得単価(取得
価格/総賃貸可能面積)が説明変数に加えられている。マーケットレント、マーケットレ
ントとの賃料乖離率、利害関係人等取引ダミー、取得単価については 0.1%から 5%の水
準で有意の結果となっている。
b. 住宅タイプによるキャップレートの違いについて
・変数に物件タイプ(ワンルームとファミリー)の変数を入れる必要性の有無を確認した。
・不動産投資短期観測調査の研究10では、以下のように、同一エリアでワンルームとファミ
リーのキャップレートには大きな違いはない。ファミリーの最大、最小のレンジがワンル
ームと比べやや小さい程度の違いである。以上より、物件タイプの変数を入れる必要性は
大きくないものと考えられる。
A.賃貸住宅(ワンルーム)のキャップレート
・最小 4.30%(「麻布・赤坂・青山」
)
、最大 6.10%(「広島」
)
・東京エリアが、5%を下回る水準であるのに対して、
「名古屋」
、
「大阪」
、
「福岡」といった地方都市は
約 5.0%~約 5.5%の水準。
B.賃貸住宅(ファミリー)のキャップレート
・最小 4.40%(
「麻布・赤坂・青山」
)
、最大 6.05%(
「札幌」
、
「広島」
)となった。ファミリー賃貸住宅
についてもワンルームと同様に、東京エリアでは 5%を下回る水準、
「名古屋」、
「大阪」、
「福岡」と
いった地方都市は概ね 5.0%~5.5%の水準である。
c. 時間(将来)補正について
・モデルを使った担保評価の実務を想定すると、キャップレートの時間(将来)補正にあた
って、前記の既存研究で採用されている時点ダミーの説明変数は活用できないため、キャ
ップレートと時点変動が類似し、観測可能なマクロデータを説明変数に加える必要がある。
・既存研究11で、日銀短期観測調査業況判断 DI の全企業不動産 DI と市街地価格指数の相関
が高いことが紹介されている。都市未来総合研究所「ReiTREDA」で分析した結果、下記
に示す通り、全企業不動産 DI の 1 年前方ラグ値と J-REIT のキャップレートの相関係数
が 0.914 と強い相関関係にあることが確認できた。
8 「非上場オープンエンド型不動産投資法人(私募 REIT)の市場規模拡大に向けて」株式会社三井住友トラスト基礎研究所
弘
米倉勝
2013 年
9 「J-REIT における不動産投資利回りの動向」株式会社ニッセイ基礎研究所 竹内一雅 2005 年
10 不動産投資短期観測調査(早稲田大学大学院川口研究室、一般社団法人不動産証券化協会) 日本の商業用不動産の価格の現状(不
動産投資家に尋ねた 2015 年 6 月現在の各エリアのキャップレートの中央値)
11 「不動産キャップレートモデルの可能性」クレジット・プライシング・コーポレーション
MANAGEMENT 2002 年 2 月号
39
神崎清志
PROPERTY
図表 3- 2
全企業不動産 DI の 1 年前方ラグ値と J-REIT のキャップレート
(2015 年上期以降のキャップレートは高い相関関係に基づき推計(予想)したもの)
データ:都市未来総合研究所「ReiTREDA」、日銀短期観測調査業況判断 DI
40
②推計モデルについて
・前項の既存研究のレビューを参考に、入手可能な以下の変数を用いてモデル化を行った(有
意性が認められずに不採用となった変数もある)。なお、分析、モデル化には統計ソフト
R12を使用した。
・以後、J-REIT のデータ(ReiTREDA)を用いた推計モデルを J-REIT モデルと記述する。
<被説明変数>
・直接法還元利回り(J-REIT における物件取得時の鑑定キャップレート)
<説明変数>
◎は既存研究で使用されていた説明変数
1)立地属性
◎地域
◎駅距離
※都心への総合接近性についてはデータ作成が煩雑であることや、既存研究で有意水
準が 10%と有意性が低かったこと、地域ダミーで一定の説明ができることから割愛
した。
2)建物属性
◎築年数
◎総面積13(賃貸可能面積を使用)もしくは平均居室床面積
・土地の所有状況
・賃料(固定/変動)
・構造
・用途地域
3)時系列変数
◎不動産業 DI
<関数形>
・一般的な線形(y=a+bx)と両対数線形(
→
)の関数形を検
討する。
12
米国の AT&T ベル研究所が開発した S 言語をベースとしたオープンソースのソフトウエアで、その柔軟性とオープンソースである
ことに由来する分析ロジックの透明性から日本でも普及。
13
既存研究を参考に建設投資、建物品質・グレードの代理変数として使用。
41
③J-REIT モデルの推計に使用したデータについて
・モデルの推計に使用したデータは J-REIT 全上場銘柄の全ての取得不動産について、開示
された属性と運用実績をデータベース化した ReiTREDA の物件データに基づいている。
・用途が住宅である物件から、直接還元利回りの開示がある、対象都市(J-REIT 物件が 1
件しか無い広島市を除く)の物件データ 1,501 件を用いている。物件の所在地は以下の通
り。
図表 3- 3
物件所在地
北海道札幌市中央区
北海道札幌市東区
北海道札幌市北区
北海道札幌市豊平区
北海道札幌市厚別区
北海道札幌市西区
北海道札幌市白石区
札幌市計
宮城県仙台市青葉区
宮城県仙台市若林区
宮城県仙台市宮城野区
宮城県仙台市太白区
宮城県仙台市泉区
仙台市計
神奈川県横浜市神奈川区
神奈川県横浜市中区
神奈川県横浜市港北区
神奈川県横浜市鶴見区
神奈川県横浜市南区
神奈川県横浜市西区
神奈川県横浜市旭区
神奈川県横浜市磯子区
神奈川県横浜市港南区
神奈川県横浜市保土ヶ谷区
神奈川県横浜市緑区
横浜市計
神奈川県川崎市中原区
神奈川県川崎市川崎区
神奈川県川崎市宮前区
神奈川県川崎市麻生区
神奈川県川崎市多摩区
川崎市計
J-REIT モデルに使用した物件の所在地と件数
件数
44
5
4
3
2
2
2
62
24
7
5
3
2
41
8
8
6
6
4
3
1
1
1
1
1
40
11
8
2
2
1
24
物件所在地
愛知県名古屋市中区
愛知県名古屋市東区
愛知県名古屋市千種区
愛知県名古屋市中村区
愛知県名古屋市熱田区
愛知県名古屋市昭和区
愛知県名古屋市北区
愛知県名古屋市天白区
愛知県名古屋市港区
愛知県名古屋市西区
愛知県名古屋市瑞穂区
愛知県名古屋市中川区
名古屋市計
大阪府大阪市西区
大阪府大阪市中央区
大阪府大阪市北区
大阪府大阪市淀川区
大阪府大阪市浪速区
大阪府大阪市東淀川区
大阪府大阪市都島区
大阪府大阪市港区
大阪府大阪市西淀川区
大阪府大阪市鶴見区
大阪府大阪市天王寺区
大阪府大阪市阿倍野区
大阪府大阪市城東区
大阪府大阪市東住吉区
大阪府大阪市東成区
大阪府大阪市福島区
大阪市計
福岡県福岡市中央区
福岡県福岡市博多区
福岡県福岡市東区
福岡県福岡市南区
福岡県福岡市早良区
福岡市計
対象都市のうち政令市
対象都市のうち物件データのない市・区
府中市
昭島市
福生市
東大和市
東京市部 清瀬市
武蔵村山市
稲城市
羽村市
あきる野市
南区
仙台市 手稲区
清田区
金沢区
戸塚区
瀬谷区
横浜市 栄区
泉区
青葉区
都筑区
幸区
川崎市
高津区
名古屋市
大阪市
福岡市
南区
守山区
緑区
名東区
此花区
大正区
生野区
旭区
住吉区
西成区
住之江区
平野区
西区
城南区
42
件数
29
27
10
8
7
6
4
3
2
2
1
1
100
21
20
10
7
7
6
3
2
2
2
2
1
1
1
1
1
87
26
24
7
6
2
65
419
物件所在地
東京都港区
東京都新宿区
東京都中央区
東京都渋谷区
東京都文京区
東京都千代田区
都心6区計
東京都世田谷区
東京都品川区
東京都目黒区
東京都大田区
東京都江東区
東京都台東区
東京都墨田区
東京都豊島区
東京都板橋区
東京都北区
東京都杉並区
東京都練馬区
東京都江戸川区
東京都中野区
東京都荒川区
東京都葛飾区
東京都足立区
周辺17区計
東京都小金井市
東京都八王子市
東京都町田市
東京都調布市
東京都国分寺市
東京都国立市
東京都小平市
東京都西東京市
東京都東村山市
東京都日野市
東京都立川市
東京都狛江市
東京都三鷹市
東京都青梅市
東京都多摩市
東京都東久留米市
東京都武蔵野市
東京市部計
対象都市のうち東京都計
件数
132
98
94
87
44
33
488
77
61
58
56
51
44
40
38
30
17
16
16
15
15
10
5
4
553
6
6
5
4
2
2
2
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
41
1,082
a. 地域ダミー
・地域ダミーとして、都心 6 区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区、文京区が該当。
以下同じ)
、X17 区(周辺 17 区)、東京市部(東京市部)
、横浜(横浜市)
、川崎(川崎市)、
名古屋 (名古屋市)、大阪(大阪市)、福岡(福岡市)、札幌(札幌市)、仙台(仙台市)を
設け、物件の所在地に該当する地域ダミーに「1」を代入する(該当しないものには「0」
を代入)
。推計モデル式の中では都心 6 区がベースとなる。
b. 駅距離
・最寄り駅からの徒歩所要時間(分)の数値データ。
c. 築年数
・竣工から評価時点までの期間(年)の数値データ。
d. 賃貸可能面積
・賃貸可能面積(㎡)の数値データ。
e. 借地等ダミー
・土地が借地であれば「1」
、所有であれば「0」を代入する。
f. 賃料固定ダミー
・賃料が固定であれば「1」
、変動であれば「0」を代入する。
g. 構造ダミー
・SRC、RC、S のダミー変数を設け、物件の構造に該当するダミー変数に「1」を代入する。
・1 物件に複数の構造の記載がある混合構造の場合、SRC 造>RC 造>S 造の関係性を設定
し、SRC 造を含むものは SRC に「1」
、RC 造を含みかつ SRC 造を含まないものは RC に
「1」
、S 造でかつ RC 造や SRC 造を含まないものは S に「1」を代入する。推計モデル式
の中では S がベースとなる。
h. 用途地域ダミー
・住居系(第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、
第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域)、近商系(近
隣商業地域)
、商業系(商業地域)
、準工系(準工業地域)
、工業系(工業地域)
、その他(市
街化調整区域や未線引き区域等)の用途地域ダミー変数を設け、物件所在地の用途地域に
該当するダミー変数に「1」を代入する。推計モデル式の中では工業系がベースとなる(そ
の他に該当する物件はサンプルデータの中には無い)。
・物件の敷地が複数の用途にまたがる場合は、J-REIT の開示資料において面積の多くを占
める用途が先に記載されていることから、先頭に記載された用途と見なした。
43
i. 不動産業 DI
・日本銀行の企業短期経済観測調査より、不動産業全体の業況判断 DI 値の 1 年前方ラグを
とった数値データ。
44
4.競売物件における競落価格と収益価格の乖離の把握
・通常の取引条件での収益価格と、競売が実行された場合の売却価格(競落価格)との乖離の実
態について定量的に把握することを目的とし、実際の競売物件の取引事例を用いた分析を行っ
た。
・各競売物件の属性データを元に J-REIT モデルによるキャップレートを推計し、通常の取引条
件で成立するであろう収益価格を求め、実際の売却価格との乖離について分析した。
①対象としたデータと抽出条件について
デ ー タ : 最 高 裁 判 所 が イ ン タ ー ネ ッ ト で 公 開 し て い る 競 売 物 件 情 報 BIT(Broadcast
Information of Tri-set system、売却する不動産競売物件の「物件明細書」、「現況
調査報告書」及び「評価書」や開札結果等が入手可能)
データ入手先:
「一般社団法人不動産競売流通協会」が運営する Web サイト「981.jp
(http://981.jp/」
※BIT に公開されている情報を元に競売情報を WEB 上で提供するサービス。
抽出対象:札幌市、仙台市、東京都(都心 6 区、周辺 17 区、市部)、横浜市、川崎市、名古
屋市、大阪市、福岡市
1次抽出条件:各対象都市の競売データについて次の条件で抽出をおこなった。
競落済みの物件、用途:共同住宅(一棟)、築年数:20 年以下
2 次抽出条件:1 次抽出した物件について、競売 3 点セット(物件明細書、評価書、現況調
査報告書)を入手し、主に評価書および現況調査報告書に基づいて共同住宅
の単独用途でかつ、収益還元法を適用している物件(純収益、総収入のいず
れかについて開示があるもの)を抽出した。
図表 4- 1
都市別の抽出件数
都市
札幌市
仙台市
東京都区部(都心6区、周辺17区)
東京市部
川崎市
横浜市
名古屋市
大阪市
福岡市
計
1次抽出
64
18
98
32
4
27
27
34
34
338
・2 次抽出による 98 件の競売物件を分析対象とする。
45
2次抽出
11
5
27
11
2
15
6
14
7
98
②推計モデルによる収益価格と売却価格の乖離について
・抽出した個々の競売物件について、キャップレート推計モデルに競売物件の属性をあては
めて算出したキャップレートに基づき、通常の取引条件で成立するであろう収益価格を求
め、実際の売却価格との乖離について把握する。
収益価格=純収益 / キャップレート
a. 推計モデルによるキャップレートの算出と結果
・収益価格を算出するための分母となるキャップレートを、競売物件の属性に基づき、キャ
ップレート推計モデルに当てはめて算出した。各都市所在の物件における推計キャップレ
ートの平均値と範囲は下図のとおりとなった(物件ごとの数値については別表を参照)。
※床面積:推計モデルでは賃貸可能面積を説明変数に用いたが、データの制約から延床面積を用いた。
図表 4- 2
各都市の推計キャップレート(平均値と範囲)
7.0%
● 平均値
6.5%
6.2%
6.3%
6.0%
5.9%
5.7%
5.7%
5.5%
5.5%
5.9%
5.9%
6.0%
5.8%
5.5%
5.0%
4.5%
b. 純収益の算出について
・収益価格を算出する際の分子となる純収益については、競売評価書に記載の数値を採用し
た。一部、純収益が明示されず、総収入のみ明示されている場合は、今回得られた競売デ
ータから経費率14を求め、純収益を算出した。
14 経費率:収入を費用で割った数値。本分析では競売対象データで得られた数値から単純平均により算出をおこなった(ここでは経費
率として 21.0%を採用)。
46
c. .推計モデルによる収益価格と売却価格の乖離について
・推計した収益価格と売却価格を比較した。
 売却価格は、競売市場性修正15と売却基準価額制度16が影響し、収益価格と比べて、低廉
となっていると考えられる。
 都市別にみた収益価格に対する売却価格の割合は札幌市、仙台市が 0.6 未満と低い。都心
6 区、周辺 17 区、東京市部、横浜市、川崎市、名古屋市、福岡市は 0.6~0.8 前後、大阪
市と名古屋市は 1 弱と他の都市と比べて高い。
図表 4- 3
各都市における収益価格と売却価格との乖離
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
・個別の物件について、売却価格に対する収益価格の比率と収益価格の関係をみると、収
益価格が 2 億円以下の物件は収益価格と売却価格の乖離が大きい傾向がある。
図表 4- 4
収益価格に対する売却価格の割合と収益価格の関係
1.8
収
益
価
格
に
対
す
る
売
却
価
格
の
比
率
収益価格10億円以上の物件
(1,216百万円,1.32)
(2,752百万円,0.84)
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
200
400
収益価格
15
600
800
1,000
(百万円)
競売特有のリスクに対する減価修正で、一般の不動産市場における売却可能な価格を算出した後に行う価格修正(▲30%~▲50%程
度)。
16 売却基準価額から 20%控除した価額以上での入札が可能とする制度。売却基準価額とは競売評価人の評価に基づいて定められた競
売不動産の価額。
47
5.賃貸リノベーション成立条件の整理・検証
本調査の入札書『3.仕様書への提案 仕様書⑥「賃貸リノベーション成立条件の整
理・検証」へのご提案』の記載事項及び 2015 年 6 月 26 日に開催した第 1 回打合せ
でのご承認に基づき、掲題の「賃貸リノベーション成立条件の整理・検証」に替え
て、採算性及びリスクを定量的・定性的に評価するための考え方と手順に関するマ
ニュアル(以下、「採算性等評価マニ ュアル」または「本マニュアル」という。)を
作成し、以下に記述する。
なお、本マニュアルでいう採算性は民間企業で認識される財務会計(企業会計基
準等)及び管理会計上の用語と定義に基づく採算性一般を意味し、公益法人会計基
準及び独立行政法人会計基準等で定める固有の用語と定義に基づく採算性とは異な
る場合がある。
(1)採算性等評価マニュアルの目的と構成
・本マニュアルは、貴公社が行うリノベーション 17 の投資実行判断について実際 的
な運用材料を提供するため、賃貸住宅を対象として、リノベーションの実施によ
る賃貸採算 18 の変化を事前に試算し評価することを目的として作成する。
・投資判断に係る主な評価対象分野には採算性評価とリスク評価があり、本マニュ
アルではこれらを総称して採算性等評価という。
・下表にフローを示すとおり、本マニュアルは大きく 4 項目、「採算性等評価の基
本的事項の整理」、
「不動産賃貸業における採算性等評価の実務」、
「 採算性等評価
に お け る新 規取 得 及び建 替 え とリ ノベ ー ション と の 差異 」、「( マ ニュア ル 本 編)
住宅リノベーションに係る採算性等評価の手順と方法」で構成される。
図表 5- 1
【採算性等評価の基本的事項の整理】
採算性評価の
考え方
不動産事業で用いられる
採算性評価の指標
リスク評価の
考え方
事業のキャッシュフロー
タイプ別・指標分類
各指標の特性比較と
得失
賃貸純収益または物件
価値の変動リスク評価
採算性等評価マニュアルの構成フロー
【採算性等評価の実務】
不動産賃貸業に
おける採算性等
評価の実務
【リノベーションとの差異認識】
新規取得、建替えと
リノベーションの
差異
【マニュアル本編】
リノベーションに係る
採算性等評価の
手順と方法
検討初期段階での粗評価
投資内容と投資額の差異
賃貸住宅としての
存続可能性の評価
実施意思決定のための
評価
賃貸純収益の差異
リノベ投資と収益増加額の
見積もり
採算性評価指標の
用い方
投資終期における
資産価値の差異
投資終期の資産価値の
見積もり
リスクの差異
賃貸計画策定と指標を
用いた採算性評価
賃貸事業のリスク評価
出所:都市未来総合研究所
17
独 立 行 政 法 人 住 宅 金 融 支 援 機 構 が 特 別 会 員 と し て 加 盟 す る 一 般 社 団 法 人 リ ノ ベ ー シ ョ ン 住 宅 推 進 協 議 会 に よ れ ば 、「 リ
ノ ベ ー シ ョ ン と は 、中 古 住 宅 に 対 し て 、機 能・価 値 の 再 生 の た め の 改 修 、そ の 家 で の 暮 ら し 全 体 に 対 処 し た 、包 括 的 な 改
修 を 行 う こ と 。例 え ば 、水・電 気・ガ ス な ど の ラ イ フ ラ イ ン や 構 造 躯 体 の 性 能 を 必 要 に 応 じ て 更 新・改 修 し た り 、ラ イ フ
ス タ イ ル に 合 わ せ て 間 取 り や 内 外 装 を 刷 新 す る こ と 」。
18 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー ベ ー ス で の 純 収 益 の 現 在 価 値
48
(2)採算性等評価の基本的事項の整理
・ は じ めに 、不 動 産事業 一 般 にお いて 行 われる 採 算 性評 価と リ スク評 価 を 対象 に 、
それぞれの基本的な考え方と事業会社で用いられる評価指標について整理・解説
を行う。
①採算性評価の考え方
・投資における採算性評価とは、投資元本の回収可能性と投資純収入の獲得可能性
について、数値化された分析結果をもとに、経済的な観点から投資の是非を判断
することを意味する。
a. 一般に不動産事業で用いられる採算性評価の指標
・ 不 動 産事 業で 用 いられ る 採 算性 評価 指 標とは 、「 会計 上 の利 益に 基づ い て 評価 す
る 指 標」 と 「キ ャ ッシュ フ ロー に 基づ い て評価 す る指 標 」の 二 種類が 主 であ る 。
(a) 会計上の利益に基づいて評価する指標( 図表 5- 2)
・財務会計上の利益をベースとして、その利益によって投下資本が何年で
回収されるか(投下資本回収期間)や借入金が何年で完済できるか(借
入金完済可能年)、単年度の税引前利益が黒字化するのは何年目か(税引
前利益黒転年)、税引前利益の累積額が黒字化するのは何年目か(累積赤
字 解 消 年 )、 借 入 金 を 含 む 総 投 資 額 に 対 す る 税 引 前 利 益 ベ ー ス の 利 益 率
(総資本利益率)、投資自己資本に対する税引前利益ベース の利益率(自
己資本利益率)などの評価指標がある。
・従来は会計上の利益に基づく指標が主流であったが、企業ファイナンスにおける
キャッシュフロー重視の考え方を反映して、最近(概ね 2004 年頃から 19 )はキ
ャッシュフローに基づく評価が一般的に用いられている。
(b) キャッシュフローに基づいて評価する指標(図表 5- 3)
・単年度のキャッシュフローをベースにして評価するキャップレートやエ
クイティ利回りと、投資期間中の複数年度のキャッシュフローをベース
とする DCF(Discounted Cash Flow、割引キャッシュフロー)や NPV
(Net Present Value、正味現在価値)、IRR(Internal Rate of Return、
内部収益率)などがあり、詳細は後述するが、それぞれ検討 過程での段
階の違いや評価目的によって使い分けるのが一般的である。
・複数年度のキャッシュフローをベースとする場合、事業収支計画を作成
し、計算したキャッシュフローを対象に分析指標を用いて評価する。
19 企 業 会 計 基 準 委 員 会 「 固 定 資 産 の 減 損 会 計 に 係 る 会 計 基 準 の 早 期 適 用 に 関 す る 実 務 上 の 取 扱 い 」 2004 年 3 月 22 日 が
公 表 さ れ 、 減 損 会 計 の 早 期 適 用 が 2004 年 度 か ら 開 始 さ れ た 。 減 損 の 有 無 を 判 定 す る た め に は 将 来 キ ャ ッ シ ュ ・ フ ロ ー の
見 積 り や キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の 現 在 価 値 算 定 が 必 須 で あ り 、企 業 に お い て キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 重 視 の 考 え 方 が 定 着 す る 背 景 の
一つとなった。
49
図表 5- 2
不動産事業で用いられる採算性評価指標(会計上の利益に基づく指標)
分類
指標名
内容
判定基準・備考
回収期間に係る指標
投下資本回収期間
事業による剰余金累計が投下自己資本と
15年以内:◎
債務残高を上回るのに要する期間
16~20年:○
21~25年:△
会
26年以上:×
計
借入金完済可能年
剰余金累計が債務残高を上回る年
12年以内:◎
上
13~17年:○
の
18~25年:△
利
26年以上:×
益 損益の黒字化に着目する指標
に
営業開始から、税引前利益が黒字に転換
2年以内:◎
基
税引前利益黒転年
するまでの期間
3~5年:○
づ
右欄は定額法の場合
6~8年:△
い
9年以上:×
て
累積赤字解消年
税引前利益の累積赤字が解消し、累積で
3年以内:◎
評
黒字に転換するまでの期間
4~7年:○
価
右欄は定額法の場合
8~15年:△
す
16年以上:×
る 単年度の資本利益率に着目する指標
指
総資本利益率
税引前当期利益
総投資額
標
投資家の内部基準による。
一般に、投資家の過去の実績平均値や
経営計画上の値が用いられる。
自己資本利益率
税引前当期利益
自己資本
投資家の内部基準による。
一般に、投資家の過去の実績平均値や
経営計画上の値が用いられる。
図表 5- 3
不動産事業で用いられる採算性評価指標(キャッシュフローに基づく指標)
分類
指標名
内容
判定基準・備考
単年度のキャッシュ利回りに着目する指標
キ
キャップレート(総合還元利回り)
ャ
初年度償却前営業利益 (NOI)
総投資額
ッ
2015年10月時点で、東京城南地区の
ファミリー向け賃貸住宅に対するキャップ
レートは4.8%が標準的な値(※1)
シ
エクイティ利回り
ュ
(自己資本利回り、キャッシュ・オン・キャッシュ)
初年度キャッシュフロー(※2)
自己資本投資額
自己資本の利回りを求める指標で、欧
米では一般的とされる指標
フ
借入金のレバレッジ効果が生じるので
ロ
一般にキャップレートより高率
| 投資期間中のキャッシュフローに着目する指標
に
毎期のキャッシュフロー(投資期間満了
現在価値に換算する割引率には、当該
基
DCF(割引キャッシュフロー)
時の売却後手取額を含む)の現在価値の
企業等のWACC(※3)が一般に用いら
づ
合計値を、投資プロジェクトの価値とす
れる。
い
る見方
て
毎期のキャッシュフロー(投資期間満了
左記の正味現在価値が正の場合には、
評
NPV(正味現在価値:絶対額の指標)
時の売却後手取額を含む)の現在価値の
投資する価値があり、これが大きいほど
価
合計値から自己資本投資額を差し引いた
有利な投資となる。
す
額(正味現在価値)でプロジェクトの投
る
資価値を求める手法
指
IRR(内部収益率:率の指標)
標
毎期のキャッシュフロー(投資期間満了
左記の内部収益率が、投資家の内部基
時の売却後手取額を含む)の現在価値の
準による数値(最低必要収益率)を超え
合計値が自己資本投資額に等しくなる収
る場合には、投資するメリットがある。内
益率(割引率)
部収益率にはWACCが用いられることが
多い。
※1
(一財)日本不動産研究所「不動産投資家調査」による。城南地区(目黒区、世田谷区)内で渋谷、恵比寿駅まで15分以内の
鉄道沿線に立地し最寄り駅から徒歩10分以内、築年数5年未満、平均専用面積50~80㎡、総戸数50戸程度の物件を想定。
城東地区(墨田区、江東区)で東京、大手町駅まで15分以内の物件(最寄り駅距離、築年数、規模は城南と同じ)は5.0%
※2
初年度キャッシュフロー=営業純収益(NOI)-借入金元利返済額
※3
Weighted Average Cost of Capitalの略で、日本語では加重平均資本コスト。負債コストと株主(自己)資本コストの加重平均
値で、企業の期待収益率を表す。
図 表 5-2 と 5-3 出 所:各 種 の 公 表 資 料 に 基 づ き 都 市 未 来 総 合 研 究 所 が 作 成 。備 考 に 記 載 し た「 不 動
産投資家調査」は(一財)日本不動産研究所
50
図表 5- 4
不動産事業で用いられる採算性評価指標(その他の指標)
分類
指標名
内容
判定基準・備考
借入金返済の安全性に着目する指標
LTV(借入金比率)
借入金 総投資額
そ
の
70%以下が好ましいが、わが国では、
伝統的に、80%~100%のケースが多
かった。
他
DSCR
の
(デットサービス・カバレッジ・レシオ)
償却前営業利益 (NOI)
借入金償還額
指
150%以上:◎
120~150%:○
100~120%:△
標
100%以下:×
手取額に着目する指標
剰余金平均額
一定期間(例えば開業後10年間)の税引
投資家の内部基準による。
後借入金返済後の剰余金(キャッシュフ
法人投資家ではあまり用いない指標
ロー)の平均額
出所:各種の公表資料に基づき都市未来総合研究所が作成
b. キャッシュフロータイプ別にみた不動産事業の採算性評価指標
・不動産事業は、その投資支出と事業収入に係るキャッシュフローの発生時期と期
間の観点から大きく四つに区分できる [図表 5- 5]。同種の事業の中で複数の投資
案件について採算性評価を行い比較することが通例なため、事業分類ごとに使い
勝手のよい指標を選定して評価が行われる。例えば不動産賃貸事業ではキャップ
レートや IRR など不動産投資事業と共通性の高い指標が主に用いられ、事業期間
が通常 1~2 年、大規模なものでも 3~4 年程度で比較的短期の分譲マンション事
業では、投下資本に対する採算性よりも売上高営業 利益率など損益計算書上の評
価指標を用いることが一般的である。
・なお、賃貸事業では投資終期での資産売却は予定しないが、事業収支計画の最終
期末の資産評価額を通期キャッシュフローに繰り入れる考え方を採る。
図表 5- 5
不動産事業のキャッシュフロータイプと、用いられる採算性評価指標
事業分類
不動産賃貸
土地を取得し賃貸用建物を
建設(または土地建物を一括
取得)、長期保有を前提とし
売却は想定せず
キャッシュフローイメージ
6,000
建替えの
場合は
対象外
4,000
物件評価額
賃貸純収益
(NOI)
2,000
0
-2,000
-4,000
土地取得
建物建設
-6,000
-2年 度
-1年 度
土地を取得し分譲用建物を
建設、竣工後、土地建物を
売却
0年 度
1年 度
2年 度
3年 度
4年 度
n年 度
初期投資:土地建物、土地コストが先行
(または投資時点で一括取得)
事業キャッシュフロー
インカム:毎年の賃貸CF
キャピタル:なし(含み損益)
事業期間:一般に20年以上の長期
最近
ROI
(≒キャップレート)
IRR、NPV
従来
投資回収
期間法
黒字転換
年度
<不動産分譲事業(売却収益)>
(百万円)
不動産分譲
一般に用いられている指標
<不動産賃貸事業(賃貸収益)>
(百万円)
6,000
初期投資:土地建物、土地コストが先行
事業キャッシュフロー
インカム:なし
キャピタル:終期の売却キャッシュフロー
事業期間:1年〜2年程度
売却収益
4,000
2,000
0
-2,000
-4,000
土地取得
建物建設
売上高営業利益率
・ほか売上高粗利益率等、P/L上の
指標で判断することが一般的
-6,000
-2年度
0年度
1年度
2年度
3年度
4年度
5年度
<不動産投資事業(賃貸収益+売却収益)>
(百万円)
不動産投資
-1年度
6,000
売却収益
4,000
賃貸純収益
(NOI)
2,000
稼働中の賃貸用不動産を
取得し、運用後に売却
0
-2年度
-1年度
0年度
1年度
2年度
3年度
4年度
5年度
-2,000
-4,000
物件(土地建物)
取得
初期投資:土地建物、投資時点で一括取得
事業キャッシュフロー
インカム:毎年の賃貸キャッシュフロー
キャピタル:終期の売却キャッシュフロー
事業期間:超短期〜10年以内
-6,000
土地を取得し賃貸用建物を
建設、運用後に売却
レバレッジドIRR
・自己資本に対する収益指標
<開発型不動産投資事業(賃貸収益+売却収益)>
(百万円)
開発型不動産投資
キャップレート
・取得価格の算定に係る指標
・単年度NOIをベースに価格算定
6,000
売却収益
4,000
賃貸純収益
(NOI)
2,000
0
-2年度
-1年度
0年度
-2,000
-4,000
土地取得
建物建設
土地取得
1年度
2年度
3年度
4年度
5年度
初期投資:土地建物、土地コストが先行
事業キャッシュフロー
インカム:毎年の賃貸キャッシュフロー
キャピタル:終期の売却キャッシュフロー
事業期間:2年〜10年程度
キャップレート
・土地建物の投資額を単純合計した
額を初期投資として算定
レバレッジドIRR
-6,000
出所:各種の公表資料に基づき都市未来総合研究所が作成
51
c. 採算性評価指標の特性比較と得失
・図表 5- 5 に掲げた一般に用いら れている指標のうち主なものについて、評価に用
いる上での得失を図表 5- 6 に整理し、その概要を述べる。
・「(3)不動産賃貸業における採算性等評価の実務 」で後述するとおり、指標は単
年度の収入に基づく指標と複数年度の収入に基づく指標に大別できる。前者の算
出は容易であるが精度の点では劣り、反対に後者は各年度の収入と支出を見込ん
だ事業収支計画の存在が前提となるため、算出には多くの情報量とこれらに基づ
く見通しが必要である。このような簡便性と精度のトレードオフをふまえて、目
的に応じて指標を使い分けることが一般的である。
図表 5- 6
一般に用いられる採算性評価指標の特性と得失
単年度の収入に基づく指標

複数年度の収入に基づく指標
売上高営業利益率

× 投資資産に対する採算性ではない。不動産販売(分譲)業向けの
指標

×投資回収後の収益が反映されない。
×割引計算を行わない場合、時間価値が反映されない。
×「期間」の指標であり、「率」と同じく絶対額が把握されない。
投資回収期間(単年度の賃貸純収入NOIをベース)
単年度のNOIと投資額で算出する基本形の場合、投資回収期間
はキャップレートの逆数(=投資額/NOI)であり、得失は下記を
除きキャップレートと同様
×投資回収後の収益が反映されない。
×キャップレートと異なり、市場相場観との比較はできない。

投資回収期間(複数年度の賃貸純収入NOIをベース)
各年のNOIと投資額で算出、基本的に現在価値への割引を行わ
ない考え方の指標
単年度の売上高と会計上の利益から算出

IRR
事業期間通期のNOIと投資額から算出
事業者の期待収益率等、ハードルレートに照らして採算水準が
明らかになる。
CFの変動が反映できる。
用途変更や一部売却等を伴う複雑な事業にも対応できる。
キャップレート
単年度のNOIと投資額だけで算出(=NOI/投資額)
算出方法が簡便である。 NOIと投資額だけで算出可能。
事業収支計画の作成を必要としない。
市場での投資の相場観と比較できる。
× CFの変動が反映できない。
資本構成や借入金金利を考慮した採算性判断が可能(レバレッジ
ドIRR)
×算出に手間が掛かる。
×収入・支出のデータを入手または設定の上、事業収支計画を作
成する必要がある。
×永続的に賃貸用途として使用する前提である。
× 資本構成(借入金と自己資本の比率)や借入金金利の違いによる
収益の差異が反映できない。
× キャップレートで何%が採算水準なのか、企業財務との関係で
は測れない。
×収支計画の各要素や終期の資産評価額の設定に恣意性が入りや
すい。
× 「率」の指標であり、小規模案件で高率のものの方が大規模案
件より優先する判断に陥りやすい。この場合、本社費等の全般
管理費がまかなえないこともある。

NPV
事業期間通期のNOIと投資額から算出。得失は、下記を除いて
IRRと同様
× 「額」の指標であり、企業が一般に採算性判断で用いる収益率
としては表示されない。
出所:都市未来総合研究所
(a) 単年度の収入に基づく指標
・売上高営業利益率は、マンション分譲事業では採算性評価指標として一
般に用いられるが、資産ストックが収益を生む不動産賃貸業では(企業
の業績評価は別にして)個々の投資評価に用いられることはあまりない。
・ 投資 額を 単年 度の 賃貸 純収 入( NOI) 20 で 割っ て求 める 単年 度純 収入 ベ
ースの投資回収期間が用いられることは少なく、その逆数すなわち NOI
÷投資額であるキャップレートが用いられる。
20
Net Operating Income の 略 。 賃 貸 営 業 利 益 に 減 価 償 却 費 を 足 し 戻 し た 純 収 入 。 賃 貸 純 収 益 も 同 じ 意 味
52
・ キャッ プレー ト 21 は算出 が容易 であり 、不動産 投資市 場では 価格水準 を
示す「共通言語」として価格相場観を表すにも用いられるなど、最も一
般的に用いられる[図表 5- 6]。一方で、賃貸期間中の収支変動を評価に
反映するには不十分であることや、投資案件の資本構成(借入金比率や
金利など)を反映できないことなど、詳細な評価には適さない面がある。
図表 5- 7
1,000
キャップレートの算出概念図
(百万円)
投資翌年度の
NOI(償却前営業利益)
500
10年度
9年度
8年度
7年度
6年度
5年度
4年度
3年度
2年度
1年度
0年度
-
-500
【キャップレート】
-1,000
-1,500
投資額に対する単年度純収入
(一般的には投資翌年度)の利回り
初期投資
-2,000
出所:都市未来総合研究所
(b) 複数年度の収入に基づく指標
・複数年度の NOI をベースにして、投資額が何年で回収可能かという見方
を採る会社が事業会社など一部にみられるが一般的ではない。
・賃貸事業期間中の複数年度の NOI と計画終期の土地建物の評価額に基づ
き、これらを現在価値に換算した額が投資額と等しくなる割引率( IRR)
22 を算出して、IRR
の数値が大きいほど高採算性として評価する方法が
ある[図表 5- 8]。この場合、予め当該投資に求める最低限の利回り(ハ
ード ルレートと もいう。)を 設定してお き、 IRR がハード ルレートをど
れだけ上回ったかで採算性を評価するのが一般的である。借入金で調達
した額を除いた自己資本投資額と支払金利控除後の NOI を使って IRR
を算出すれば、借入金によるレバレッジ効果を考慮した自己資本に対す
る利回り(レバレッジド IRR)23 を求めることができる。欠点としては、
率で表される指標のため金額の大小を勘案することができず、高収益率
だが少額の投資収益しか生まない投資を高評価する結果となる 場合があ
Cap Reate、 Capitalization Rate。 資 本 還 元 率 と も い う 。 賃 貸 純 収 入 を 投 資 額 で 割 っ て 求 め る 。 不 動 産 鑑
定評価の直接還元利回りと同じ。
22 Internal Rate od Return の 略 。 内 部 収 益 率 。
23 キ ャ ッ シ ュ・オ ン・キ ャ ッ シ ュ の IRR と も い う 。借入 を 行 う こ と で 総 投 資 額 を 大 き く で き 純 収 入 を 増 や せ
る一方で、支払金利の額は相対的に小さいため、手取り純収益を大きくすることができる。これを梃(レバ
レッジ)の効果という。
21
53
る。これを補うには、同様の指標でかつ金額で結果が示される NPV を
併用する方法がある。
・NPV 24 では、あらかじめ当該投資に求める利回り(ハードルレートと同
じ)を設定し、賃貸事業期間中の複数年度の NOI と計画終期の土地建物
の評価額をこの利回りを用いて割り引く(現在価値に換算する)ことで、
将来キャッシュフローの割引現在価値の合計を算出する。これと投資額
を比較し、残った額が NPV=正味現在価値であり、NPV がプラスに大
きいほど優れた投資案件であると評価する。
図表 5- 8
IRR の算出概念図
6,000 (百万円)
5,000
キャッシュフローの
割引現在価値の合計
4,000
【IRR】
3,000
終期の
土地建物評価額
キャッシュフローの割引現在価値の
合計が初期投資と等しくなる収益率
(=割引率)
2,000
1,000
21年度
20年度
19年度
18年度
17年度
16年度
15年度
14年度
13年度
12年度
-1,000
11年度
9年度
10年度
8年度
7年度
6年度
5年度
4年度
3年度
2年度
1年度
0年度
-
初期投資
-2,000
出所:都市未来総合研究所
図表 5- 9
6,000
NPV の算出概念図
(百万円)
5,000
キャッシュフローの
割引現在価値の合計
4,000
終期の
土地建物評価額
3,000
【NPV】
一定の割引率で現在価値に換算
2,000
割引CFの合計から
初期投資額を差し引
1,000いた額
21年度
20年度
19年度
18年度
17年度
16年度
15年度
14年度
13年度
12年度
9年度
11年度
-1,000
10年度
8年度
7年度
6年度
5年度
4年度
3年度
2年度
1年度
0年度
NPV
-
初期投資
-2,000
出所:都市未来総合研究所
24
Net Present Value の 略 。 正 味 現 在 価 値
54
②リスク評価の考え方
・前項で述べた採算性評価に対して、不動産賃貸事業におけるリスク評価とは、期
待された成果(賃貸純収入や将来の物件価値)が得られない可能性を検討し、こ
れ を 定 性的 に 認識 す ると と も に、 可 能で あ れば 定 量 的に 把 握す る こと を 通 じて 、
事業や投資の実施是非を判断する一要因とすることである。
a. 賃貸純収入または物件価値の変動リスクとその評価
・採算性に直接関わる経済的なリスク、すなわち賃貸純収入や将来の物件価値(不
動産評価額)が想定を下回るリスクは、基本的に前項の採算性評価に織り込んで
評価する。まず、事業収支計画上の項目として見積 もることができるものを収支
計 画 に 織り 込 み、 そ れで も 残 る不 確 実さ の リス ク に つい て はキ ャ ップ レ ー トや 、
NPV と IRR におけるハードルレート(当該投資に対する期待利回り)を上昇さ
せることで対応を図る。
(a) 賃貸純収入に係る変動リスク
・経年的な収入の変化や数年おきに発生する支出など、収入と支出の変動
要素は可能な限り事業収支計画に反映し、収支計画を「堅い」ものにす
ることがまず重要である。その上で、見積もりきれない変動の可能性に
ついて、キャップレートや、NPV と IRR におけるハードルレート(当
該投資に対する期待利回り)を上げる 25 ことで対応を図る。
・収支計画で見込んだ賃貸純収入に対して、キャップレートやハードルレ
ートを上げると収益還元法における評価額が小さくなり、リスクを織り
込んだ控えめな評価となる。
(b) 将来の物件価値(不動産評価額)に係る 変動リスク
・NPV や IRR で評価する場合、事業収支計画終期での物件価値(その時
点で不動産を売却した時の手取額)を収入とみなして評価を行う。終期
の物件価値の評価方法は、計画終期の定常化した賃貸純収入(または計
画終期の翌年の賃貸純収入の見積額)を、その時点の当該物件に対応す
るキャップレートで除して計画終期時点の物件価値を評価し、これを現
在価値に換算することによって行う。
・リノベーションに対する評価の場合も同様に、リノベーションによって
増加した賃貸純収入を計画終期の物件に対応するキャップレートで 除し
て計画終期時点の物件価値の増分を評価し、これを現在価値に換算する。
なお、この評価方法を用いるためには、リノベーションを行う賃貸住宅
25
当該リスクに対応した上乗せ値であり、追加的なリスクプレミアムである。物件価格については本報告書
の前半で検討したキャップレートの推計モデルなど一定の根拠ある定量評価が行われること、収支変動につ
いては事業収支計画に織り込んだ部分があることを前提に考えると、一般的な賃貸住宅のリノベーションで
考慮すべき追加的なリスクプレミアムは大きな値とはならないと考えられる。リノベーションの難しさによ
っ て 0.5% か ら 1% 程 度 を 見 込 む の が 適 当 と 思 わ れ る 。
55
が計画終期時点まで存在し、基礎部分の賃料が得られることが前提とな
る。対象の賃貸住宅について一定期間で滅失(取り壊しを含む)や賃貸
の廃止を行う場合には、賃貸稼働と収支計画の期間を一致させ、計画終
期の物件価値をその時点での状態を勘案 26 して評価するべきである。
(c) ストレステスト
・上記(a)(b)で記載したそれぞれの変動要素の数値を、何通りかのシナリオ
に基づいて変化させ、採算性評価指標値の変化を みることも必要である。
・中でも、当該リノベーション計画で成否のカギとなる要素(例えば、リ
ノベーション後の賃料上昇額)を対象に、基本シナリオと楽観シナリオ、
悲観シナリオといった具合に設定値に幅を持たせ、計算された評価指標
値を比較 27 することが有効である。
b. 賃貸事業に係る致命的リスクとその評価
・a.で述べた経済的に計量可能なリスクのほかに、住宅賃貸事業とリノベーション
に関連して、発生確率は低いが事業の継続が致命的となるリスクがある。これら
のリスクに対しては、災害や事故等に対する損害保険のように保険付保 でリスク
をコスト化・外部化することが可能なものと、コスト化や外部化が難しくリスク
テイクするかどうかの判断を事業主体が行うべきものに対応が分かれる。後者の
リスクについては、あらかじめその発生可能性と影響の大きさ、対応策について
検討し、住宅賃貸事業の継続とリノベーションの実施の是非について判断してお
く必要がある。
(a) リスクのコスト化が可能なもの
・地震や火事等の災害、建築物および構築物の瑕疵に起因する事故等のリ
スクに対して、損害保険の付保でリスクをコスト化
・設備の想定以上の劣化リスクに対して、エンジニアリング レポートを取
得し安全余裕度を見込んだ大規模修繕積立金を設定
(b) リスクのコスト化や外部化が困難なもの
・企業への一括貸契約における解約・退去リスク
・需要背景の減退リスク(大学移転や工場閉鎖による学生や従業者等の需
要減少)
・建築不可能、建物の老朽化等による賃貸住宅事業の継続困難化
26
例えば賃貸事業を終了し、建物を売主負担で取り壊して更地売却する想定とするならば、終期での評価額
は土地価格-(解体工事費+売却諸費用)となる。
27 各 シ ナ リ オ ご と に 発 生 確 率 を 設 定 し 、 各 シ ナ リ オ の 評 価 結 果 の 値 を 加 重 平 均 す る こ と で 一 つ の 期 待 値 と し
て表現する方法もあり得る。
56
(3)不動産賃貸業における採算性等評価の実務
・ここまで述べてきた基本的事項をふまえて、不動産賃貸業一般において採算性等
評価を行う実際の手順と方法を典型化して説明する。
①検討初期段階での粗評価
・不動産賃貸事業者が新たに賃貸用物件やその建設用地を取得する場合、検討初期
段階では得ることができる情報が少なく、一方で入札に参加するか否か等の初期
判断には迅速性が求められる。このため、対象物件の立地条件や現状の賃料収入
と稼働率などをふまえて、賃貸事業に関して致命的となるリスクがありそうな物
件を排除した上で、物件とその利回り水準の妥当性の評価(キャップレートによ
る)を行う。
・この段階での評価は、いわば投資対象足りえるかどうかのネガティブ・チェック
であり、対象外となる物件の足切りを行うものである。
図表 5- 10
I.
検討初期段階で行う採算性等の粗評価の考え方
検討初期段階
A)
B)
判断に求められる精度は相対的に低い。
 一般に、投資案件の一次選定が目的
入手可能な情報量は限定的
①
不動産賃貸、開発型不動産投資の場合


②
入手可能な主な情報
 土地属性(所在地、規模、公法規制等)
 賃料水準、概算建築費(自社にて試算)
判明しない主な情報
 将来の賃料・稼働率見通し
 管理コスト・資本的支出の見通し
 将来の売却価格
 投資に際しての資本構成 (LTV)、借入金利
不動産投資(稼働中物件を取得)の場合


③
賃貸事業に関する
致命的リスクの評価
入手可能な主な情報
 物件属性(所在地、規模、構造等)と用途
 賃料、現在の稼働率
 現在の管理コスト
判明しない主な情報
 「不動産賃貸」の場合と同様
不動産分譲の場合


入手可能な主な情報
 土地属性(所在地、規模、公法規制等)
 周辺での分譲マンション販売単価
 概算建築費(自社にて試算)
判明しない主な情報
 建築費等の見積り精度以外は、初期も投資
決定前も入手可能な情報はほぼ同じ
将来のキャッシュ
フローが不明
単年度のキャッシュ
フローは判明
投資の資本構成等
が未計画
キャップレートに
よる採算性評価
1年以内の事業では、
ROI ≒
売上高営業利益率
出所:都市未来総合研究所
57
②実施意思決定のための詳細評価
・入札参加や相対での取得交渉が始まる段階では、守秘義務契約を締結した上で対
象物件の個別情報を入手することができ、これらをふまえて賃貸事業に関するリ
スクを精査するとともに、取得の際の資本構成を加味して採算性の詳細検 討 28 を
行う。
・この段階での検討は、当該物件に関する事業収支計画を作成して行い、評価指標
には NPV や IRR を用いることが多い 29 。
図表 5- 11
II.
投資決定段階で行う採算性等の詳細評価の考え方
投資決定前の段階
A)
B)
判断に求められる要求精度は相対的に高い。
 一般に、投資案件の最終意思決定が目的
入手可能な限り多くの情報を収集
①
不動産賃貸、開発型不動産投資の場合
土地属性(所在地、規模、公法規制等)
 現在の賃料水準、概算建築費(自社推計)
 現在の管理コスト
 資本的支出の見通し(ER)
 現在の鑑定評価額
 将来の賃料と稼働率見通し(自社推計)
 将来の売却価格(自社推計)
 投資に際しての資本構成 (LTV)、借入金利

②
不動産投資(稼働中物件を取得)の場合

③
「不動産賃貸」の場合と同様
賃貸事業に関する
致命的リスクの
詳細評価
将来のキャッシュ
フロー予測要
投資の資本構成等
を計画済み
IRRやNPV等の
詳細検討指標
不動産分譲の場合
土地属性(所在地、規模、公法規制等)
周辺での分譲マンション販売単価
 概算建築費(自社にて試算)


1年以内の事業では、
ROI ≒
売上高営業利益率
出所:都市未来総合研究所
28
自己資金と借入金の比率や、借入の期間・金利・償還条件等を検討条件に織り込んだ上で、借入金の償還
余力や自己資金に対する期待利回りなどを検討する。
29 投 資 額 が 比 較 的 少 額 で あ る な ど 当 該 投 資 の 重 要 性 が 低 い 場 合 や 、 あ る 程 度 リ ス ク を 甘 受 し て も 物 件 取 得 を
優先させたいなどの個別事情がある場合は、ここまでの詳細検討を行わないこともある。
58
③採算性評価指標の用い方
・採算性評価指標の選定と使用についての考え方を 図表 5- 12 に示した。
・原則的には NPV や IRR によって評価を行うが、前述した初期段階の検討などで
は簡便法としてキャップレートを用いる。
・リノベーションの実施に係る判断についても同様で、例外的に①投資の資本構成
(借入比率や金利等)を考慮しない、②毎年キャッシュフローがほとんど変動し
ない 30 、③事業収支計画を策定しない、④賃貸用として数十年にわたり長期 使 用
す る 、以 上 全て に 該当す る 場合 は キャ ッ プレー ト で詳 細 評価 す ること も でき る 。
図表 5- 12
借入調達せず、資本構成や金利を
考慮する必要がない
採算性評価指標の用い方
IRR, NPV
一つでも
NOがある
原則的
に
毎年のCFが安定(定率変化を含む)
しており、変動が小さい
使用目的
投資の資本構成、CFの発生時点等を考慮した採算性の詳細判断
(率と額)
算定方法
事業各年度のNCFをベースに算定 (NCF = NOI - 資本的支出)
IRR:DCF(割引後NCFの累計額)が投資額と等しくなる割引率
NPV:DCF - 投資額
資本構成を考慮する場合は、借入金利・元本償還後NCFと自己資
本投資額を用いる。
IRRだけでは小規模案件が優先される可能性があり、NPVを併用
※ NCF:Net Cash Flow
事業収支計画(年度別CF予測)を
策定前(あるいは策定不能)
当該不動産は長期にわたり継続して
賃貸用途で使用される
事業期間が概ね1年以内の分譲事業
(投資は販売用不動産であり棚卸資産)
全てについて
YESである、
あるいは
キャップレート
(「不動産投資」以外ではROIまたはNOI利回りという。)
簡便法
として
短期分譲は
使用目的
①採算価格または投資額の概算
②借入金を考慮せず、かつ事業収支計画を策定しない場合または
時点の採算性粗判断
③市場の相場感との比較
算定方法
稼働初年度のNOI ÷ 投資総額 (NOI = 賃貸営業利益+減価償却費)
自己資本ROI = 借入金利・元本償還後NOI ÷ 自己資本投資額とし、
借入金効果を考慮する方法も
売上高営業利益率またはROI (この場合、営業利益/売上原価)
出所:都市未来総合研究所
30
固定の率で変動する場合も同様に取り扱ってよい。
59
(4)採算性等評価における新規取得及び建替えとリノベーションとの差異
①リノベーションの評価における基本的な考え方
a. 賃貸住宅の類似性を考慮してリノベーションの到達目標を決める
・一般的に賃貸住宅では、周辺の物件と比較して、物件の築後経過年数 31 が同等で、
建物の構造(鉄骨アパートか SRC 造マンションかなど)と室タイプ・面積、大
ま か な 物件 規 模、 仕 様( エ レ ベー タ やセ キ ュリ テ ィ 、採 光 等 )、 主 要設 備 に 大き
な差異がなければ、賃料は概ね同水準で、空室率にも大きな違いは生じない。ま
た、築後年数による賃料の経年減価は定率的で、概ね年 1%である。
・したがって、リノベーションを行う場合の到達目標は、物件の仕様や設備、外観
等を更新することで競争力を市場の水準に近づけ、賃料の経年減価を回復するこ
とである。建物構造と室タイプ 32 が似た周辺の築浅賃貸住宅以上に賃料を得 る こ
とは難しく、たとえ市場平均以上に高級志向のリノベーションを行っても、見合
った賃料収入の増加が実現するかは疑わしい。
b. 賃貸純収入の増加がリノベーションのための投資額を上回るか
・a.で述べた認識をふまえて、リノベーション投資を行うことによって増加する賃
貸純収入の合計額が、リノベーションのための投資額を上回れば採算は黒字、下
回れば赤字と判断することができる。これは投資の規模や内容に関わらず、一律
に同じ考え方で評価することが可能 33 である。
・「(2)採算性等評価の基本的事項の整理」で述べたように、採算性評価の指標と
して例えば NPV を採用し、将来の賃貸純収入の増加額を現在価値に割り引いた
額が投資額をいくら上回るかで判断することで、将来の収入額と現在の投資額を
同列・同時点のものとして比較することができる。
図表 5- 13
リノベーションの採算性評価の検討フロー
対象の賃貸住宅
周辺の競合物件
賃料と空室率
市場における
賃料と空室率
賃貸純収入
市場における
賃貸純収入
リノベーションの
採算性評価
対象住宅の
賃貸純収入の
増加額見込み
NPV等で評価し比較
住宅の仕様・設備
市場における
住宅の仕様・設備
リノベーションの
投資額見込み
出所:都市未来総合研究所
31
本マニュアルにおいて、築後年数、または築年と表記することがある。
建物構造や室タイプを変更する考え方もあるが、その場合は建替えや構造部分を変更する
33 投 資 と そ の 効 果 ( 投 資 に よ っ て 得 ら れ る 純 収 入 等 の 増 加 額 ) が 特 定 で き れ ば 、 リ ノ ベ ー シ ョ ン に 限 ら ず 、
建替えや集合賃貸住宅一棟の取得判断等でも同じ手法で評価可能である。
32
60
②投資内容と投資額、賃貸純収入の差異
・同一の立地で同内容の賃貸住宅投資で比較すると、賃貸住宅を新規取得したり土
地を取得して賃貸住宅を建設する場合の投資には土地代金が含まれるのに対し
て、既存賃貸住宅の建替えでは土地代が含まれない。しかし、得られる賃貸純収
入には違いがないため、投資の採算性は建替えのほうが高く算定される。この考
え方は、当初の土地取得費は既に回収済みという前提に立っており、あるいは純
粋にキャッシュベースでの採算性検討という目的で用いられるもので、その範囲
で合理性があり、また、一般的に用いられてもいる。
・既存賃貸住宅の一部の改修・更新(リノベーション)では、土地代金に加えて既
存 建 物 も投 資 に含 ま れな い た め、 上 記と 同 様に 投 資 額= リ ノベ ー ショ ン 工 事費 、
投資効果=リノベーション後の賃貸純収入とすると、投資の採算性はさらに高く
算定されることになる。しかしながら、既存建物は賃貸中であり、現行の賃貸純
収入は既存の土地建物に帰属すると考えられるため、リノベーション投資に対し
て得られる効果は、賃貸純収入の増加分に限定すべき であろう。
③賃貸純収入の増加分とは
・リノベーション実施後の賃貸純収入-リノベーション前の賃貸純収入であり、
=リノベーション後の(賃貸収入総額-賃貸支出総額)-リノベーション前の(賃
貸収入総額-賃貸支出総額)として計算される。リノベーションに伴って賃貸支
出が増える場合は、これが収入増加分と相殺されることになる。
・リノベーション後の賃貸収入等をいつの時点のものとして計上するかについては、
収益還元法による評価の原則に則り、投資当初の個別変動が収束し安定化した時
点とするか、簡便に投資翌年度とするかが考えられる。
④評価上の投資終期における資産価値の 差異
・NPV や IRR など DCF に基づく評価では、投資終期の資産価値をその時点での直
接還元価格 34 として、
(売却しない場合も)キャッシュフローとみなして評価額に
加える。投資終期の資産価値は、賃貸中の土地建物が終期以降もキャッシュフロ
ー(=賃貸純収入)を生むことを前提に評価されるものである。
・リノベーションされた賃貸住宅では、住宅の既存部分が生みだすキャッシュフロ
ーとリノベーション部分が生み出すキャッシュフローを区分して、リノベーショ
ンによる賃貸純収入の増加分だけを対象に、終期の資産価値を評価 するのが妥当
と考えられる。この場合のリノベーション工事が、会計上の資産計上を要しない
「修繕」の範疇なのか、資産となる「資本的支出」なのかによって厳密には終期
資産価値評価での取り扱いを区分するのが厳密には正しい処理と考えられる。し
かしながら区分はあまりに複雑で、かつ終期での残存価値を考慮するのは不可能
34
単年度の賃貸純収入をキャップレートで割って算出する評価額
61
に近いため、現実的には、増加分だけを対象に収益還元法で評価する上記の取り
扱いが合理的と考えられる。
・なお、終期のリノベーション資産価値を算定する際の直接還元法のキャップレー
トは、通常 DCF 法で用いる考え方と同じ 35 と考えられる。
⑤リスクの差異
・賃貸住宅の新規取得や建設、建替え等と比べると、リノベーションの投資額は一
般に小さく、投資内容も現状の建物に対する付加的な・更新的なものにとどまる
ため、リノベーションによって発生する事業リスクの量は相対的に小さいといえ
る。
・しかしながら、運営状況が芳しくない賃貸住宅を対象にリノベーションを行った
場合では、リノベーション後も稼働率や賃料水準が改善せず、リノベーションの
効果が得られないこともありえる。このように、リスクの根源がコンバージョン
にではなく、従前の賃貸住宅にあり、コンバージョンの成果が得られない場合も
ある。このような賃貸住宅そのものとしてのリスクをしっかり検討しておくこと
も必要である。
35
一 般 に 、 現 在 の 、 取 得 時 の キ ャ ッ プ レ ー ト に 0.5% か ら 1% 程 度 を 加 算
62
(5)住宅リノベーションに係る採算性等評価の手順と方法
①リノベーションの評価手順
・賃貸住宅についてリノベーションの実施を評価検討する際の大まかな考え方と手
順を図表 5- 14 に示した。評価対象は大きく、
「賃貸住宅としての存続可能性」と
「リノベーションの採算性」の二つである。
・前段の「賃貸住宅としての存続可能性評価」では、「(3)不動産賃貸業における
採算性等評価の実務」で述べた「賃貸事業に関する致命的リスクの評価」と同様
に、対象物件は追加投資を行う価値のある物件か、中長期的に賃貸事業が続けら
れる物件かどうかを見極めることを目的とする。採算性評価のような定量的評価
にはなじまない内容が多いため、判断項目を設定して定性的にふるい分けを行う。
・後段の「リノベーションの採算性評価」では、周辺の競合物件等との比 較に基づ
いて投資内容を検討し、これに対する賃貸純収入の増加見込みを行った上で、
NPV 等の評価指標を用いて採算性を評価する。
図表 5- 14
リノベーションの採算性等評価の全体フロー
対象の賃貸住宅
賃貸住宅としての
存続可能性評価
(事業継続において
致命的なリスクを
含む)
周辺の競合物件
賃料と空室率
市場における
賃料と空室率
賃貸純収入
市場における
賃貸純収入
リノベーションの
採算性評価
対象住宅の
賃貸純収入の
増加額見込み
NPV等で評価し比較
市場における
住宅の仕様・設備
住宅の仕様・設備
リノベーションの
投資額見込み
出所:都市未来総合研究所
63
②賃貸住宅としての存続可能性
・リノベーションとして追加投資を行う価値のある物件かどうかについて、図表 515 に例示する判断項目等を用いてふるいにかけるのがこの評価の目的である。
・2 の建物にかかる要因について抵触する場合は、従前建物の主要部分をリノベー
ション対象に含める 36 ことで競争力を回復させるか、あるいはリノベーショ ン が
大掛かりになりすぎるとして断念するかの判断を行う。また、 1 の土地に係る要
因について抵触する場合は、基本的にリノベーションでは回復不可能なため、リ
ノベーションそのものを断 念するかどうかについて判断する。
図表 5- 15
賃貸住宅としての存続可能性評価の項目例
1 対象物件の土地に競争力はあるか
a. 駅力(最寄駅の賃貸住宅市場の成熟度)
・ 交通利便性 :東京の場合、ターミナル駅へ20分以内、複数路線利用可などが望ましい。
:地方都市の場合、都市中心部への近接性が高いと認識される駅であること。
・ 賃貸住宅密度
・ 周辺の住宅戸数密度(1haあたりの住宅戸数)と民営借家比率(所有関係別世帯数で民営借家に
居住する世帯の割合)を参考に判断
参考: 住宅戸数密度30戸/ha以上が、住宅市街地総合整備事業の対象要件の一つ
千代田区の民営借家比率は40.2%(2010年)
・ 賃料水準
:土地を取得して賃貸住宅を建設した場合に、概ね5%以上のNOI利回りとなる賃料
水準か
・ 空室率
:満室稼働が見込めるか、周辺の空室状況は
b. 最寄駅からの時間距離
・ 時間距離
:原則的には徒歩10分以内(800m以内)
c. 敷地条件
・ 接道、視認性に問題はないか
・ 対災害の安全性(水害、液状化等)に問題はないか
・ 敷地規模
:周辺の競合する賃貸住宅と同等程度以上の敷地規模があるか
:例えば車移動必須の地域で駐車場がない等の問題はないか
d. 周辺環境
・ 近隣に商業施設や公共施設、文教施設、公園等はあるか
・ 周辺に嫌悪施設はないか
2 対象物件の建物は中長期的に競争力を維持できるか
a. 継続使用の可能性
・ 新耐震基準に適合した建築物か
・ 躯体の耐震性や安全性に問題はないか、老朽化・劣化の兆候は
・ 屋根や外壁等の劣化の程度は
b. 構造や室タイプ等の地域市場への適合性
・ 周辺の賃貸住宅の構造(RC造のマンション、軽量鉄骨のアパート等)より劣るものでないか
・ 現状の空室率が高い場合に、室タイプ(ワンルーム、DKタイプ、ファミリー向け)は周辺の競合物件と
かけ離れていないか
・ 現状の空室率が高い場合に、住戸面積は周辺の競合物件とかけ離れていないか
c. 設備・仕様の状況確認
・ 周辺の競合物件と比較して、設備や仕様等で劣る点は何か
・ 最近のニーズに対応して必要な設備・仕様等は何か
d. リノベーションの余地
・ 上記a.b.c.で問題がある場合、物理的に改修・改装で改善可能か(採算性は別途指標で判断)
出所:都市未来総合研究所
36
リノベーション投資額は当然に膨らむので、より多額の賃貸純収入が得られないと投資採算が低下する。
64
③リノベーションに係る投資額の見積もり
・投資額は、投資採算性を決定する主な要因の一つであり、通期の投資の中のごく
初期段階で大半が決定づけられ、後から取り返すことが困難という点で重要な要
因である。したがって、過大な投資を行わない配慮と共に、将来の収益を減じる
ことがないよう賃借市場のニーズに応じた適切な投資を行う必要がある。
・なお、リノベーションにおいては、既存の土地建物は評価対象外とし、リノベー
ションに伴って追加的に行う投資の金額を投資額とする。
a. 耐震補強等を含む建物の主要部分を対象とするリノベーション工事の場合
・耐震補強等を含む建物主要部分の大規模なリノベーションでは、居室内改修のよ
う な 部 分的 な リノ ベ ーシ ョ ン と比 べ て工 事 範囲 や 工 事金 額 が増 大 する と と もに 、
施工単価の上昇等による工事費の増加や工事の遅延等による開業時期の遅れと
収入減少などにも留意する必要がある。
・一 般に 検 討初 期 段階で の 工事 費 の概 算 見積も り は、 次 のい ず れかの 方 法に よ る 。
(i) 建築業者や設計業者に資料 37 の作成を依頼し、見積もられた時期・費
用を案分して各期の支出に計上
(ii) 当初の建築工事費をベースに一定の率(例えば築後 10 年までは 0.3%、
11 年以降 1.5%)を乗じた額を「特別修繕積立金」等として各期に振
り分けて計上
b. 建物の一部分を対象とするリノベーション工事
・従前建物の主要部分をリノベーション対象に含める場合と比べて、建物の内外
装・設備などを部分的に改修・更新する場合は相対的に投資額は小さい。
・工事内容はケースバイケースで大きく異なるため、前項 (i)のように業者から資料
を得るのが適切である。
④賃貸収入増加額の見積もり
・リノベーションによって増加する賃料収入の見込みは、原則として、周辺にあっ
て競合する、構造と室タイプが同等の賃貸住宅の賃料を築年補正 38 した額を 上 限
とする。
・地域市場で需要されている程度を超えて高級志向に改装しても、見合った増収が
得られる可能性は低いため、競合物件の仕様を把握することが重要である。
37
工事を予定する場合は見積書、投資検討や事業収支計画作成等で判断材料とする場合はエンジニアリング
レポート
38 一 般 に 賃 貸 住 宅 の 賃 料 は 年 に 1% 低 下 す る 。 リ ノ ベ ー シ ョ ン 後 に 得 ら れ る 賃 料 が 新 築 並 み と 仮 定 す る と 、
周 辺 の 同 等 の 住 宅 の 賃 料 に 対 し て 築 年 1 年 あ た り 1% を 上 乗 せ し た 額 が 新 築 物 件 の 賃 料 と 考 え ら れ る 。
65
⑤賃貸支出増加額の見積もり
・稼働中にかかる主な支出額の増加分(新規支出と増加支出の合計額)を下表に基
づいて見積もる。
・管理費、修繕費については物価 変動にスライドして価格も変動するとして、将来
の価格変動を収支計画に織り込む考え方もある。
・テナント募集費は、普通借家契約の場合に かかるテナント仲介費用(成約時に賃
料 1 か月相当分)であり、賃料の変動にスライドして価格変動を織り込む。
・損害保険料は、建物の償却が進むにつれて低減するのが一般的であるが、貸付の
場合は付保しないかまたは少額と考えられるので、収支計画の安全性のため、付
保する場合でも直近の保険料と同額が続くとみなす。
・損害保険料や固定資産税等など、些少な金額となる場合 は考慮外とすることも可
能である。
図表 5- 16
賃貸支出項目と見積もり方法の例
区分
管理費
内容
設定方法(※)
下記の費用のうち、リノベーションによって新規に発生
する費用を計上
設備管理費
人件費、エレベーター、空調、給排水設備の管理・
保全及び消耗品一般等
保安警備費
人件費、防災機器の取扱い等
衛生管理費
外壁清掃、廃棄物処理、水質検査、空気環境測定、
別途見積もり又は既定条件による
殺虫・殺鼠等
水道料
共用部便所・湯沸室他の水道料
電気料
エレベーター等共用部分動力、共用部分照明、給湯等
PM費
PM会社を起用する場合の委託費
その他諸費用
外構植裁管理、共用部分空調費ほか
修繕費
追加する建物・設備の定常的修繕
実費相当
テナント募集費
大規模なリノベーションによって貸室数を増加させた
募集対象の貸室賃料1か月相当額
ときの仲介手数料(増加分に対して)
損害保険料
大規模なリノベーションに伴って、火災保険、地震保険、 保険会社の見積もり、またはリノベー
損害賠償保険(エレベーター、施設)などに新規加入・ ション工事費の0.1%/年
増額した場合の差額保険料
固定資産税等(土地)
土地に係る固定資産税等を貸付面積に按分して賦課
貸付床面積を平均的なレンタブル比(例えば0.7)で
割って、貸付延床面積とみなす
固定資産税及び都市計画税の直近年
既存建物部分については、上記の土地の場合と同様
固定資産税及び都市計画税の直近年
固定資産税等(建物)
度実績額×((貸付床面積÷0.7)÷
建物の延床面積)
度実績額×((貸付床面積÷0.7)÷
建物の延床面積)
貸付に伴う建築工事等によって増加した資産がある場 課税標準価額の1.4%(固定資産
合は、これに対する固定資産税・都市計画税の増加分 税)、0.3%(都市計画税)、ただし
を加算
自治体により異なる。課税標準額は
建築工事費の7割程度が目安
借入金金利
貸付にかかる資金を金融機関から借り入れたときの
調達金利
借入時点の実際の金利率による
特別修繕積立金
建物の価値を維持・向上するための大規模修繕を行う
ための積立金
例えば築後10年までは建築費の
0.3%/年、11年以降1.5%/年
(※)設定方法は、案として例示したもの。
出所:都市未来総合研究所
66
⑥投資終期の資産価値の見積もり
・NPV や IRR など DCF に基づく評価では、投資終期の資産価値をその時点での直
接 還 元 価格 と して 、( 売却 し な い場 合 も) キ ャッ シ ュ フロ ー とみ な して 評 価 額に
加える。投資終期の資産価値は、賃貸中の土地建物が終期以降もキャッシュフロ
ー(=賃貸純収入)を生むことを前提に評価されるものである。
・リノベーションされた賃貸住宅では、住宅の既存部分が生みだすキャッシュフロ
ーとは別に、リノベーションによる賃貸純収入の増加分だけを対象に終期の資産
価値を評価するのが妥当と考えられる。その際の直接還元法で用いるキャップレ
ートは、通常 DCF 法で用いる考え方と同じで、取得時点の賃貸住宅のキャップ
レートに将来の不確実性に係る上乗せ(一般に 0.5%~1%程度)を行う。
事業収支計画策定と指標を用いた採算性評価
a. 事業収支計画の策定
・投資、収入及び支出項目について、リノベーション実施後一定期間中の年度別予
想額を図表 5- 17 のような事業収支計画表にまとめ、各年度のキャッシュフロー
(以下、図表中を含め CF と表記。)を算出する。
b. 予測 CF の算出
・賃貸収支の CF に、投資 CF 39 を加え、非現金性の収入及び支出を除いて、 図表
5- 17 で CF と記した CF の合計値を算出する。この CF が、リノベーション投資
による現金上の増加純収支であり、これに基づいて採算性を測る。
c. CF の現在価値への換算
・各年の CF を一定の割引率を用いて現在価値に換算し、その累計額を算出する。
(a) 現在価値に変換する意義
・算出した CF は、全て各年度時点の将来の価格であるので、これを現在
の価値に換算し、各年度の現在価値ベースの CF として把握する。
・現在の 1 万円と 1 年後の 1 万円の価値は同じではない ので、時間の概念
を取り入れて修正し、全て現在の価値として評価するのが、その意義で
ある。
・現在と将来の価値が異なる要因には、物価変動や金利変動、企業の収益率や資本
コストなどがある 40 。そこで、目的に応じて、これらを勘案した率を割引率 と し
て設定し、現在価値への換算に用いる。
初 期 投 資 額 は 、 支 出 す な わ ち マ イ ナ ス の CF と し て 計 上 さ れ る 。
1 万 円 を 金 利 5%で 預 金 す れ ば 1 年 後 に は 1 万 5 百 円 に な る 。投 資 収 益 率 5%の 企 業 が 1 万 円 を 事 業 に 投 資
すれば 1 年後には 1 万 5 百円になる。企業の株主や債権者は、1 万円を投融資し、翌年 1 万 5 百円の価値と
なっていることを要求する。この場合の株主や債権者の期待収益率を投融資額の割合で平均したものを、資
本 コ ス ト ( 加 重 平 均 資 本 コ ス ト : WACC) と い う 。
39
40
67
2016 2017
0年度 1年度
投資 初期投資(建物関連) -3,000
0
初期投資(設備関連) -2,000
0
計
-5,000
0
収入の 賃料・共益費
1,000
増加分 その他
投資に対する
0
粗利回り20%
と仮定
計
0 1,000
支出の 管理費 (収入の20%設定)
-200
増加分 修繕費 (投資額の5%設定)
-25
(-表記) テナント募集費
0
損害保険料
0
特別修繕積立金
0
計
0 -225
CF
-5,000
775
DCF (割引現在価値, 割引率5%設定) -5,000
738
DCFの0年度からの累計額
-5,000 -4,262
項目
68
0
14,827
6,793
9,689
終期のCFに
対して最終 0
還元利回り
5%として求
めた収益
還元価格
2,032
16年度
0
0
0
0
0
NPV( 0年 度 か ら 16年 度 対 象 ) :エクセルの関数で算出 9,227
IRR( 0年 度 か ら 16年 度 対 象 ) :エクセルの関数で算出 17.8%
1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000
-202 -204 -206 -208 -210 -212 -214 -217 -219 -221 -223 -225 -228 -230
-25
-26
-26
-26
-26
-27
-27
-27
-27
-28
-28
-28
-28
-29
0
0
0
0
0
0
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0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
-227 -230 -232 -234 -236 -239 -241 -244 -246 -249 -251 -254 -256 -259
773
770
768
766
764
761
759
756
754
751
749
746
744
741
701
666
632
600
570
541
514
488
463
439
417
396
376
357
-3,561 -2,895 -2,263 -1,663 -1,094 -553
-39
448
911 1,351 1,768 2,164 2,539 2,896
2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028 2029 2030 2031
2年度 3年度 4年度 5年度 6年度 7年度 8年度 9年度 10年度 11年度 12年度 13年度 14年度 15年度
0
0
0
0
0
0
0
0
0
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0
0
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0
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図表 5- 17
事業収支計画表の記載項目の例
出所:都市未来総合研究所
(b) 現在価値への換算方法
・現在価値への換算は、各年度の CF を
(1+割引率)^年数
で除して算出する。
・算出した割引後の CF を DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)と
いう。図表 5- 17 で記載した DCF は割引率を 5%と仮定して算出したも
のである。
・また、0 年度から 1 年度、2 年度・・・それぞれの DCF を足し上げた累
計額は NPV 41 でもあり、これを採算性評価指標に用いることもできる。
9 年度目に DCF の累積額が黒字転換しているので、このリノベーション
計画は 9 年度目まで継続できれば赤字にはならない、とみることができ
る。
d. NPV の算出と結果の評価
・前項の換算方法で述べた DCF を累計する方法のほかに、NPV はエクセルの関数
を用いて計算することができる。図表 5- 17 ではエクセルの関数(NPV)を用い
て、9,227 と算出した。
・NPV とは将来の CF の総額を現在価値に換算した額から投資額を差し引いた金額
であるので、①NPV が 0 以上であれば投資採算は黒字であり投資可能、② NPV
の額が大きければ大きいほど収益額が大きい投資、と判断できる。 図表 5- 17 で
評価された NPV=9,227 は、16 年間で投資額 5,000 を回収した上でその 2 倍近
くの CF が得られるので、高採算の投資と考えられる。
e. IRR の算出と結果の評価
・IRR も同じくエクセルの関数を用いて計算することができ、図表 5- 17 では 17.8%
と算出した。当該投資に求める最低の利回りであるハードルレートを現在の東京
におけるファミリーマンション向け賃貸住宅投資 42 と同様に 5%と考えると、計
算結果は 12.8%の超過収益率があり、高採算の投資と考えられる。
本 来 は 次 項 d.で 述 べ る NPV と 同 値 に な る べ き で あ る が 、 掲 載 し た 数 値 は 一 致 し て い な い 。 こ れ は 表 計 算
か ら 求 め た NPV と エ ク セ ル の 関 数 を 使 っ て 求 め た NPV が 、各 年 度 の CF の 計 上 時 期( 年 度 初 め か 年 度 末 か )
と割引率の適用方法などで計算方法が僅かに異なっているためである。
42 図 表 5-3 参 照
41
69
賃貸住宅における不動産流通(取引)の現状等に
関する調査[報告書]
平成 27 年 12 月
研究主体: 一般財団法人 住宅改良開発公社
〒102-0076
東京都千代田区五番町 14 番地 1
国際中正会館ビル3階
受託: 株式会社 都市未来総合研究所
〒103-0027
東京都中央区日本橋二丁目 3 番 4 号
日本橋プラザビル 11 階