特集 学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 14 第 55 回リグニン討論会に参加して 河 村 奈々絵 Nanae KAWAMURA 物質化学科 2010 年度卒業 1.はじめに 今回,私は,2010 年 10 月 20 日から 21 日にかけ て京都大学百周年時計台記念館 国際ホールで開催 された「第 55 回リグニン討論会」に参加しました. この学会で「フェルラ酸・グリコール酸共重合体の 合成および特性解析」と題してポスター発表を行い ました. Fig. 1 2.研究内容 2. 1 実験操作 FT-IR spectra of ferulic acid and poly (ferulic acid-co-glicolic acid) トルにおいて,フェルラ酸で観測された 3410 cm-1 まず,フェルラ酸に無水酢酸,酢酸ナトリウムを における O-H 伸縮振動の吸収は見られず,一方で 加え,窒素雰囲気下 80℃ で 18 h 還流を行いフェル 1750 cm-1 における C=O 伸縮振動および 1260 cm- ラ酸のみの重合を行いました. 1 における C-O 伸縮振動の吸収が観測されたこと 次にフェルラ酸,グリコール酸に無水酢酸,酢酸 からエステル結合の形成が確認されました(Fig. ナトリウムを加え,窒素雰囲気下 80℃ で 18 h 還流 1).よって重合には成功しましたが,得られた共重 (1 段階)後,減圧下 160℃ で 26 h 反応(2 段階) 合体は不溶不融の性質を持ち,縮合による分子鎖の させました.得られた合成物をクロロホルム:フェ 剛直性の増大, π -π スタッキングが原因であると ノール=6 : 1(v/v)に 100℃ で溶解させ,大過剰 考えました. のメタノール中で沈殿後,真空乾燥しサンプルを得 そこで柔軟なグリコール酸の導入を試みました. ました.この操作に基づきフェルラ酸とグリコール グリコール酸と等モルで重合したサンプルの分子量 酸のモノマー比を変えた実験,減圧加熱なし(1 段 を GPC により測定すると,1 段階のみ(サンプル 階のみ)の合成,温度を変えた合成を行い合成条件 1)では Mw=6.8×102, 2 段階目まで進めた場合(サ 検討しました.得られた共重合体について,FT-IR ンプル 2)では Mw=2.9×103 という結果が得られ, による化学構造の解析,GPC および MALDI-TOF- 2 段階目の操作を導入することで分子量が大きく向 MS による分子量分布の解析,そして DSC と偏光 上することがわかりました.サンプル 1 は DSC 測 顕微鏡による液晶相転移挙動の観察を行いました. 定より 162℃ と 213℃ で融点が観測され(Fig. 2), ホットステージ付偏光顕微鏡でこの温度範囲で複屈 2. 2 結果と考察 折が観測されました(Fig. 3). フェルラ酸のみを重合したものの FT-IR スペク ― 62 ― このことから,サンプル 1 は低分子ではあるが液 Mw=9.0×102 となり,モノマー比を変えても 2 段階 目の操作により分子量は向上しました. 今後はフェルラ酸とグリコール酸のモノマー比を 細かく変え,熱可塑性,耐熱性,液晶性をバランス 良く兼ね備えた共重合体の合成を目指します. 3.第 55 回リグニン討論会の感想 Fig. 2 DSC chart of poly(ferulic acid-co-glicolic acid) 私は自分の研究に対しての外部の方の意見を聞く ため,またリグニンを用いた最新の研究について学 ぶためにこの学会に参加しました.私の研究がリグ ニンの構成成分の一つであるフェルラ酸を使ってポ リエステルを合成するというものであるのに対し, 他の参加者はリグニンからフェルラ酸を抽出する過 程や分解などに詳しい農学部の方が多く,リグニン を新たな角度から見ることができました. 私の発表では,大学院生や専門家の方々の中に学 部生の私がまじって発表するということに大きなプ レッシャーを感じていましたが,多くの方々が私の Fig. 3 発表を聞きに来て下さり,今後の研究の進め方に対 Polarized optical microscopic image of poly(ferulic acid-co-glicolic acid) するアドバイスを頂くことができました.また,私 よりも知識や経験が遥かに豊富な先生方と専門的な 晶性を示すことがわかりました.サンプル 2 につい 内容に関して意見交換ができたことがとても光栄 ては,偏光顕微鏡観察において融解は見られず,220 で,発表の仕方を褒めていただいたこともあり,自 ℃付近で熱分解が起こりました.これは分子量の増 信につながりました. 大に伴い分子運動性が低下し流動性を失ったためで 自分の研究内容をうまく伝えるということはとて あると考えられます.この理由としてフェルラ酸ユ も難しかったですが,今回の経験を通して自分の研 ニットの割合が多いためであると考え,フェルラ酸 究についてもより理解が深まり,プレゼンテーショ とグリコール酸の仕込み量を 50 : 50 から 25 : 75 に ンの力もつき,大きく成長できたと思います.この 変更して合成を行いました.その結果,等モルのと 学会発表は貴重な学びの機会となり,今後の研究活 きに得られた共重合体は個体であったが,このとき 動に活かしたいです. に得られた共重合体は 1 段階(サンプル 3),2 段階 (サンプル 4)ともに粘性の高い液体の状態になり 謝辞 ました.この原因として,低分子量であること,フ 最後になりましたが,第 55 回リグニン討論会に ェルラ酸分率が小さいことが考えられます.フェル 参加する貴重な機会を与えて下さり,そして本研究 ラ酸とグリコール酸の組成比によって共重合体の物 の遂行のため,様々なご指導を受け賜りました林久 性が大きく変化することが明らかとなりました.分 夫教授,石井大輔助教に心から厚く御礼申し上げま 2 子量はサンプル 3 が Mw =4.9×10 ,サンプル 4 が す. ― 63 ―
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