防衛衛生 (Natio・ I DefenseMedicaU ournal) 1 15 57( 6, 7 ) : 115 ~ 119 (Jun., Jul. 2010) 2010年 6 , 7 月 症例報告 解剖学的破格 を伴 っ た梨状筋症候群の 1例 14尉加 三原 政彦 1・gレ X) 松川啓太朗 々l i (E) 畑 田 淳一 2海佐(E) 塚寄 1海佐(医) 大草 哲史 康 CASE RE PORT Piriformis syndrome with an anatomical variant: a case report M asahiko M TH A RA , Satoshi T SU K A ZA KI , LT M c M sD F K eitaro M A T SUK A W A , cDR M D , M sDF Y asushi OK U SA , cPT M c GsD F cA PT , M D, M sDF Junichi HATADA, RA DM , M D, M sDF SUM M AjRy W e encountered a case of piriformis syndrome with an anatomical variant, w hich required a differential diagnoi s of lumbar disc herniaUon. A 51-year-old man presented with right buttock and calf pain. H e had previously eχperienced blunt trauma to his buttock twice. M agnetic resonance imaging revealed disc herniation at the L5-S leve1. W e continued conservative treatment with lum bar nerve root block. However, his condition worsened. A 10caH nj ection to the piriformis musd e provided immediate relief for the buttock and calf pain. H ence, w e diagnosed him with piriformis syndrone also taking into account other physical eχaminations. W e performed an operative release of the piriformis tendon because conservative treaument was ineffective. His sciatic nerve was an anatomical variant and w as pressed around the piriformis tendon. T he buttock and calf pain w ere alm ost entirely relieved after the operation、 F avorable results w ere obtained w ith operative treatm ent in this case. 要 約 腰椎椎間板ヘルニ ア と の鑑別 を要 し, 解剖学 的破格 を伴っ た 梨状筋症候群 を経験 し た。 症例 は51歳 男性。 主訴 は右腎部 ・ 下腿後面部痛。 瞥部 に 2 度 の外傷 の既往があ る。 MRI 上L5/Sの腰椎椎 間板ヘ ル ニア を認め, ルー ト ブ ロ ッ ク 等の保存的治療 を継続す る も症状 の増悪 を認めた。 梨状筋部への局所注射 か著効 し他 の理学所見 も合 わせ梨状 筋症候群 と 診 断 し た。 し か し , 保存 的治療 に抵抗 す る た め , 梨状筋 切離術 を施行 し た。 坐骨 神経 はBeaton-Anson分類 卜 b型の破 格 を認 め , 梨状 筋部 にお い て圧排 さ れ ていた。 術後疼痛 は消失 し 良好 な結果を得た。 自衛隊横 須賀病院 JSDF Hospital Yokosuka 〒237-∽71 神奈川県横須賀市 田浦港町 1766 - 1 Td : 046-823-0270 FAX : 046-861-8576 116 防衛衛生 第57巻第 6 , 7号 2010年 6 , 7 月 索引用語 : 梨状筋症候群/ 解剖学的破格 Key words: Piriformis syndrome/ anatomical varianl は じ めに 梨状 筋症候群は, 梨状 筋 部で生 じ る坐骨 佃経 の絞見 性神経障害で, 比較的稀 な疾患 で あ る。 今 回我 々は, 腰椎椎間板ヘ ルニ ア と の鑑別 を要 し , 解剖学的破格を 伴っ た梨状筋症候群 を経験 し たので文献的考察 を加え 報告す る。 症 例 51歳, 男性, 陸 卜 。自衛官 (元空挺隊員) 主訴 : 右腎部お よび右下腿後面部痛 現病歴 : 平成18年10月頃誘因な く 主訴出現 し, 当院を 受診 し た。 X 線お よ びMRI 所 見 よ りL5/Sの椎 間板ヘ ルニ ア によ る症状 を疑い, 仙骨裂孔 ブロ ッ ク や右 S 1 神経根 ブ ロ ッ ク等の保存的治療 を施行 し た。 ‥・時, 症 図1 単純 X 線像 図2 M RI 欠状 断 状軽減す る も平成19年 2 月頃よ り右瞥部 ・ 右下腿後面 部痛が増悪, 激 し い疼痛のために立位 ・ 歩行困難 と な り, 入院 と な っ た, 既往歴 : 26歳時, 空挺降 ドの際に背部か ら 曜落 し , 腎 部打撲の診断で約 1 週問の人院安静加療 を要 し た。 44歳時, 自転車 ロ ー ド レ ー ス で転倒 し 腎部打撲受 傷, 安静 に て 軽快 し た。 家族歴 : 特記すべ き こ と な し 入院時現症 : 右背部と 右 ド腿後面部に自発痛あ り, 患 側荷重 位で 増 悪 を 認め た。 右梨状 筋 部 に 圧痛 を 認め た。, 右大殿筋 に軽度の萎縮 を認め た。 SLR testは 右 700で 陽 性 , 右下腿 後面部へ の放 散痛 を認めた。 Las臨ue徴候 も 陽性で あ っ た。 下肢 の筋力 ・ 知覚異常 を 認めず , 深部腱 反射 異常 も 認 め な か っ た 。 Freiberg testは 陽 性, Pace testは陰 性で あ っ た。 画像所 見 : 単純 X 線像で はL5/S椎 間板腔 の狭 小化 と L5椎体に軽度の骨斡 を認めた ( 図 1 ) 。 MRI で はL5/Sレベ ルで 椎 間板 の変件 と 正 中右 寄 り で硬膜管のわずかな圧排 を認めた ( 図 2 , 3八 骨盤部MRI で は坐骨神経 を圧迫す る腫瘍性病 変 は認 激 し い疼痛 の再発 を認め た 。 梨状 筋部の局所 ブ ロ ッ ク めなかっ た。 また, 明 ら かな梨状筋の肥厚や左右差は か最 も効果あ るが, 数 日で症状再発 を認めた。 理学所 認め な か っ た。 見よ り梨状筋症候群 と 診断 し , 保存的治療 に抵抗性の 入院後経過 : 右 S 1神経根 ブ ロ ッ ク にて, 右 ド腿後面 ため 同年 3 月梨状筋切離術 を施行 し た。 への再現痛 を認め, 症状 も 一時軽 減す る が, 翌 日には 手術所見 : 手術は股関節後方ア プ ロ ーチ に準 じ て行っ 117 防衛衛生 第57巻第 6 , 7号 2010年 6 , 7 月 表I Robinsonの上徴候 (丿 ¦¦¦陽 閃節 , 腎祁 に 外 傷 の既 往か あ る ②仙陽関節 , 坐骨 切痕 , 梨状筋に疼痛 ③かがむ と き, 物 を持 ち上げる と き に疼痛増悪 ④梨状筋 卜 . に ソーセージ様の腫瘤 と斤.痛があ る ⑤Las政 ue徴候陽性 ⑥町筋参縮 図3 MRI 冠 状 断 た。 大殿筋深部 を展開 し 坐骨神経 を確認 し た と こ ろ , 二分し た坐骨神経のう ち 1本が, 梨状筋 を艮 く Beaton 分類 b型の解剖学的破格を認め た。 梨状筋に明 らかな 図4 術 中所 見 肥厚は認 めず, 二分 し た坐骨神経 は両方 と も 出口で扁 梨状筋浅層 (細矢印) と 梨状筋深層 (太矢印) の間を 平化 して い た。 明 らか な周囲組織 と の姫 痕性癒 着は存 二分 し た坐骨神経の う ちの 1 本 (点線) が貫 く Beaton 在 しなかっ た。 股関節 を屈曲 ・ 内旋位 にする と 坐骨神 分類 b型の破格で あ っ た。 坐骨神経は梨状筋出目で扁 経は緊張 し , さ ら なる扁平化 を呈 し , 動的な圧迫因子 平化 し て お り, 股 関節屈曲 ・ 内旋位で さ ら な る扁平化 の存在が考 え ら れた ( 図 4 卜 梨状筋の浅層 ・ 深層 と を 早 し た。 も大転子付着部 か ら腱性 部分 を切離 し , 筋腹 を ・部 切除 し た。 切除後, 股関節屈 曲 ・ 内旋時の圧迫 は解 を 除外 で き , Freiberg testやPace testな ど の徒 手 検 除され, 坐骨神経の扁平化 も 改善 し た。 術後経過は良 査が陽性 で あ る こ と な どが挙 げ ら れ る。 好で, 右腎部 と 右下腿後面部痛 は消失 し た。 術 前陽性 梨状筋症候群の発症要因 と し で こ れ ま でい く つ かの で あっ たSLR testは陰性 , Freiberg testも陰性 と な っ 報告が あ る が, 杉森 ら 3 はそ れ ら を 以下の 5 つ に分 た。 術後 2 週 間で 退院, 術後約 2 ヶ 月で症状 な く 職 に 復帰 し た。 類 した。 ①梨状筋腱性部分に よる圧迫 ②解剖学的破 格 ③運動負荷 =④外傷 ⑤腫瘍 考 察 が 国 ・ 人種 間で 差 が あ り ヽ定 し て い な い。 し か し , それぞ れの頻 度 ・ 割合 につ い て も 様 々な報告があ る 1947年 にRobinson2) が梨状筋 に よ る 坐骨神経の絞 犯性障害を梨状筋症候群 と 命名 し , そ の主徴候 と して 腱 ・ 筋膜成分に よ る圧迫が多い と い う 報告が人多数で あ る。 6つを あげ てい る ( 表 1 ) 。 梨状筋症候群の診 断につ 例え ば, 原 田 ら う の梨状 筋 症 候群 の 手術 例63例 の いては, 現在特異的検査法はな く 理学的所見 に頼る と 検討で は55例に術中異常所見 を認め, そ の内訳 は坐骨 こ ろが多 い。 診 断方法 と し て は, こ れ らRobinsonの 神経の圧痕 ・ 扁平化34例, 坐骨神経の癒着17例, 破格 主徴候 を早する こ と , 画像検査等で明 ら かな腰部疾患 14例 ( 令 てBeaton分類 b型) で あ る (重 複例 あ り几 118 防衛衛生 第57巻第 6, 7号 2010年 6 , 7月 図5 Beaton-Anson分類 解剖学的破格につ いてBeaton 卜 は240例の剖検 の結 果 よ り こ れ を 6 型 に 分類 し て い る ( 図 5 ) 。 6 型 は a ~ f に分類 さ れ, e, 多 く , 本症例 も初診時か ら椎間板 ヘルニ ア と 梨状筋症 候群 と の鑑別 に難渋 し た。 f に つ い て は実際 に は観 察 さ れ 本 間 7丿よ鑑 別 点 に つ い て い く つ かの理 学所 見 を挙 てお らず理論上の分類 と し て い る。 しか し , そ の後本 げ, さ ら に そ れ ら を必要 度別 に示 して い る 。 本症 例は 邦で e, f を認めた と い う 報告 も 見受け ら れる 呪 MRI と ルー ト ブ ロ ッ ク で 再現痛が あ る な ど椎 間板 ヘ ル Ericら 6) は外傷か誘因 と なっ た梨状筋症候群15症例 ニ ア を疑 う 所見を認めたが, Freiberg test陽性 , 梨状 につ いて検討 し, 野鄙の鈍 的外傷 に よ り血腫が形 成 さ れ, その後の最痕化, 癒着が症状 出現の原因で あ る と 筋部の圧痛 を認め同部位 の局所 ブ ロ ッ ク が著効, 瞥筋 萎縮, 患側荷重時の疼痛, 腎部の外傷歴 あ り と , 梨状 述べている。 5例が受傷直後か ら , 筋症候群に特徴的な所見 をみた し ている こ と か ら 同疾 6 例が受傷後平均 6週 ( 1 日~ 6 ヵ 月) で下肢痛 を生 じ た と 報告 し てい 患 と 診断 し た。 る。 彼 ら の症例は全例癒着 を認め, 破格 は 1例のみで あっ た。 破格の存在 は症状の進行 を助長す る可能性が ある と付け加 えている。 まとめ 解剖学的破格を伴 っ た梨状筋症候群を経験 し た。 腎 本症例 は, 空挺降下, 自転車 ロ ー ド レ ー スで の受傷 部 に外 階歴 が あ り , 坐骨神経痛 を 有す る患 者 に は梨状 と高エ ネルギーな鈍的外傷の既往があ り, 杉森 ら の分 筋症候群 を考慮す る必要がある。 腰椎椎 間板ヘ ルニア 類に よる外傷が原因 と 考え られたが, 症状出現 は受傷 等の腰部疾患 と の鑑別 を要す る。 後それぞれ27年, 8 年 と 遅 く , また坐骨神経周囲に癒 着を 認め なかっ た こ と か らEricら 6) の, 報告 し た外傷 を誘囚 と す る 梨状筋症候 群 と し て は典型 的で な い と考 え る。 本症 例 は, 症状 出現時 はデ ス ク ワ ー ク が 中心 で 運動 負荷 はそ れは どかかっ て い ない。 以上 よ り今 回の主要因 と して は解剖学的破格が最 も 関与 して いる のではないか と推察 さ れる。 梨状筋症候群は脊椎病変 と の鑑別 に難渋す る こ と も 参考文献 1) Beaton LE, Ansal BJ: The scia励 nerveand the pi削ormis muscle; their interrelation a possible caLSe Of COCCygodynia. 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