乗馬に関するリスクマネジメント講習会

乗馬に関するリスクマネジメント講習会
日時:2013 年 7 月 22 日(月)13:30~17:00
会場:長野県安曇野市穂高交流学習センター みらい
主催 長野地区乗馬倶楽部振興会
1
乗馬に関するリスクマネジメント講習会
主催者挨拶
長野地区乗馬倶楽部振興会 会長
山
田
淑
之
ここ数年、スポーツ及び野外活動に対する突発的な事故に対してのリスクマネジメントを学ぶ
動きが活発化しています。その原因として、事故の賠償額が高額化していることが大きなきっかけ
となっていますが、主催者側の安全に対する心構えの変化もあげられます。 リスクを無くすには
極端な話「何もしない」ということになります。何もしなければ何もすすみません。
全乗振は馬事普及の役割を担う公益社団法人です。乗馬人口の裾野を広げるには初心者へ
の普及活動は避けて通れません。何がリスクで何を管理するのか、ということに管理者・乗馬指導
者が関心をもち実行する時代になったということです。
ここ長野県は夏休みに入ると県外からの来場者が飛躍的に増加します。乗馬体験者もお盆
の時期をはさんで混雑します。ちょっとしたことが原因の落馬も増えます。忙しさにかまけての不
注意も多くなります。
今回、全乗振加盟非加盟問わず、この「まさか」という事態を事前に防ぐための心構え、心なら
ずも事故を起こしてしまったときの対処など、少ない講習時間でありますが、皆さんと共に学びた
いと思います。
2
講義内容
講義 1: 乗馬事故の現状/安全管理とは
事故事例を踏まえて
講師
藤田
知己 氏
公益社団法人 全国乗馬倶楽部振興協会・乗馬普及部長
講義 2: 保険に関する知識
講師
町頭
隆児 氏
有限会社オフィステラ 代表取締役
CONE(NPO 法人自然体験活動協議会)安全管理委員
講義 3: 乗馬事故による法的責任
全乗振認定乗馬指導者を中心として
講師
宮澤
建治 氏
宮澤法律事務所 弁護士
3
講義 1:乗馬事故の現状/
:乗馬事故の現状/安全管理とは
約 900 箇所ある。そのうち、全乗振に加入
講 師:(公財)全国乗馬倶楽部振興協会
乗馬普及部長
している乗馬クラブの数は約 300 箇所で、
藤田 知己 氏
全体の約三分の一が加入していると把握し
てください。
長野地区で講習会が開催され、講師とし
て招かれたことに感謝すると共に、講習会
に参加している方の熱意を大変心強く思う。
加入・未加入を問わず、乗馬クラブで問
題が起きた時や、お客様から乗馬にまつわ
昨日の朝のテレビ番組「報道特集」にお
るクレームを受けるが、最近非常に多いの
いて、スポーツ競技における様々な問題点
が乗馬指導者の言動についてのクレーム。
を専門家が集まって討論していた。その中
これは指導者の言葉遣い、態度、指導法に
で興味深かったのが、
「スポーツ指導におい
ついてである。
ては必ず言葉で伝えることが大事である」
次いで今日のメインテーマである乗馬中
と言うことだった。スポーツ普及活動にお
の事故に対するクレームである。それも、
いては曖昧な表現・経験上の表現で指導す
事故後の対応についての苦情が多い。
るのではなく、理論を中心とした伝達・指
最近、警察を通してあった事例として、
導が重要であるという意見に「なるほど」
事故直後ではなく、事故が起きてから 3 年
と思った。
後に警察から事情を聞かれたことがあった。
つい最近では、まだ警察まで話しが行って
現在私が担当しているのは、最近乗馬ク
いないものの、事故があってから 1 週間後
ラブではどのようなことが起きているのか、
に、ある市の消費生活センターに苦情が持
どのような部分で大きな問題になっている
ち込まれたケースがあった。これは「乗馬
のかを調査している。この後お話しする「ヒ
施設内で馬に手を噛まれたが、手当てもさ
ヤリ・ハット」調査の結果や、
「スポーツと
れず病院の紹介もされず放置されたことで
法律の関係」をお話ししたい。
腕が丸太のように腫れ上がり、日常生活に
支障をきたしている。3 ヶ月通院している
従来「スポーツ」と法律の関係はあまり
が、未だに症状が改善しない。それに対し
考えられていなかったが、最近では法律が
て乗馬クラブからは何の対応もない。どう
スポーツの中に深く入り込んできている。
なっているのか?」と言う内容だった。
つまりは「指導者側の責任」が非常に重要
〈苦情の事例①〉
視されてきているということ。
ある地域で行われた乗馬競技会における
指導者に対する 40 代男性からの苦情。
現在、全国で乗馬クラブまたは乗馬する
→出場者の家族も見ている前で練習中や競
機会を提供する施設は農林水産省の調査で
技終了後の子どもに対して怒鳴りつける、
4
「へたくそ」
「お前達など馬に乗るな」等と
法律上でも安全の確保を求める条文があ
いう暴言を大きな声で吐いていた。近所の
ることを認識して欲しい。
少年野球の指導をしている素人の指導の方
がよほどましだという光景を目の当たりに
最近の乗馬における事故について
して、今日の乗馬指導者の指導とはこのよ
○平成 22 年~24 年度内に発生した事故で、
うなレベルなのかと思い電話をした、と言
警察などから入った情報
う内容。
■死亡事故 3 件(うち 1 件は業務上過失致
死罪として、裁判により一審で有罪判決・
ボランティアで構成される少年野球チーム
罰金 40 万円:三重県の事故)※スポーツ活
の指導者はアマチュアの集まりだが、我々
動中の事故が刑事裁判になることは珍しい。
乗馬指導者は指導することでお金を頂くプ
ただしこれは刑事裁判。民事裁判はこの
ロの集まり。プロがボランティアに劣ると
ぐらいでは済まない。刑事裁判で有罪にな
言うのは由々しき事態。20 年前に開催され
った場合、指導者側に責任があることが明
た指導者講習会の中では、少年野球の指導
確になっている。よって賠償額は相当な額
者こそ指導法の不備を指摘されていた。対
になると思われる。 弁護側は控訴して無罪
して乗馬指導者はそれよりもさらに 20 年
を主張している。
遅れているということになる。このように、
私は検察側の証人として裁判に召喚され、
指導者の言動、指導法に問題があるという
裁判に立ち会うという経験をした。
認識をして欲しい。
最近の乗馬に係る事故について
乗馬指導と安全対策について
22年~24度内に発生した乗馬事故に関する情報。
○なぜ安全対策が必要なのか?
・死亡事故 3件、内1件は業務上過失致死罪とし
て裁判により一審の有罪判決下る。
(乗馬レッスン時における落馬)
→お客様サイドに立つ。
お客様は馬に乗るときに痛い思いや怖
い思い、危険な目に合いたくないもの。
このような思いを頻繁にさせるようでは、
乗馬やその他のスポーツも普及しない。
・傷害事故 4件、4件とも業務上過失傷害事件に
発展、現在警察が捜査中
(4件とも観光型施設に於ける事故 における落馬)
スポーツを普及させるには安全を確保す
■傷害事故 4 件:4 件とも警察沙汰になっ
ることが必要。
ており、現在捜査中(業務上過失傷害事件)。
○スポーツ基本法
その動向を見守っている状態。そもそも 4
→法律でも謳われているように、スポー
件の事故は全てが重大事故というわけでは
ツ活動の際は安全が確保されていなけれ
なく、軽微な事故もある。それがなぜ警察
ばならない。何らかの事故が起こった場
沙汰になるのか?
合は、安全が確保されていなかったと言
→すべて対応の不備(乗馬クラブの経営
うこと。そして警察が動き、最悪の場合
上の安全確保、お客様の遺失利益を防ぐ配
は裁判沙汰になり得る。
慮不足)が原因。
5
この 4 件のうちの 1 件は経営者が「自分
スポーツ活動における原則と法的義務
は悪くない。馬から落ちるのはあたりまえ。
・危険引き受けの原則。
珍しくない」と様々な言い訳をするので、
プレーヤー自身が危険を引き受けるという原則。
但しその種目のルール・規範が尊守され安全対策も充分
に施されているという条件が成立していることが大前提。
警察としても動かざるを得ない状況になっ
た。被害者は入院が数日間で重篤な事故で
はなかったにもかかわらず、3 年経ってか
・危険予知・回避義務
ら警察に訴えた。これはなぜか?経営者が
スポーツ指導者や施設管理者に対して課せられる義務
傷害保険に加入しておらず、被害者への支
で、事故発生時にはこの義務を果たしているのか
否かにより法的責任へと発展する場合がある。
払いは全て自分が払わなくてはならない。
それがいやだからごねている状況。
指導者に課されている使命
保険の大切さはこの後の講義で話される
乗馬への興味と楽しさを倍加させるため
と思うが、私も様々な事例をみる中でそれ
に、危険を回避し安全に楽しめる状況を演
を痛感している。
出する。大きな役割は以下の3点。
①安全なスポーツ環境を創造する。
スポーツ活動と安全対策に関する法的根拠
(安全・快適な施設等)
②安全なスポーツ環境を管理する。
<スポーツ基本法要約>
『スポーツ活動を営むことは全ての人の権利であ
り、活動への参加に際しては安全かつ公正な環境
が確保されなければならない。』
(毎日・時間単位で変化する馬場の状況を
整備・管理))
③安全なスポーツ環境を整え提供する。
「安全な環境を確保する役割を負うのは誰なのか。」
(創造・管理されたものを提供する)
1)管理者。
2)指導者。
3)プレイヤー自身。
指導者に課されている使命とは!!
安全を確保するには
顧客の乗馬への興味と楽しさを倍加させる要因と
して、まず危険を回避し安全に楽しめる環境を演
出する。今日のスポーツ指導者や管理者に求めら
れる安全対策上の大きな役割は以下の3点に集
約される。
○安全を確保するのは誰か?
→乗馬クラブに於いて一番の責任を負うの
が管理者および経営者。次いで乗馬指導者。
お客様は安全を確保する立場ではない。ス
ポーツ活動中の事故の中で問題になるのが、
1)安全なスポーツ環境を創造する。
2)安全なスポーツ環境を管理する。
3)安全なスポーツ環境を提供する。
ある程度騎乗レベルが高い人の事故と初心
者の事故のどちらが被害者側に責任がある
スポーツ事故に原因のない事故はない
か。これはスポーツ経験が浅ければ浅いほ
①自然現象に起因するもの→エンデュラン
ど責任が軽くなる(補足:過失割合が少な
ス競技、馬場の外での雷
雷。
「天気に関するこ
くなるということ)
。 プレーヤー自身の責
とだから仕方がない」と言う考え方は現代
任はプロスポーツとアマチュアスポーツに
社会では認められない。予知・回避の能力
おいては大きく異なる。
を養うことで自然現象に対する判断能力を
身につける。→様々なツールで気象情報を
6
収集し判断する。熱中症にも同じことが言
み物を配布している。
える。
安全指導に関する5つのポイント
スポーツ事故に原因のない事故は無い!
・乗馬のルール、規範に関する指導の徹底
・危険を感じたらすぐに安全対策に着手
<スポーツ事故に係わる三大原因>
・自然現象に起因するもの⇒予知・回避の能力を養成
・最悪の事態を想定して、活動を中止する
雨・風・雷・霧等の自然現象に対する判断能力を養う。
・指導者の不注意に起因するもの⇒過失責任
レッスン前⇒施設の安全確認・人馬の技術・体調レベル
及び 馬装・服装に関して確認を実行する。
レッスン中の安全配慮⇒環境の変化・騎乗者の体調変化・
馬の体調、精神的変化に対応する為、人馬の様子を注視
する。
もしもの時⇒応急処置・救急搬送等迅速な対応を取る。
・指導者の無理と無知に起因するもの⇒重大な過失
熱中症・貧血等騎乗者の体調不良を察知する。
勇気(外乗中雷に遭遇した場合、状況を言
葉で
説明して即撤退する等)
・各クラブの実情に応じた安全指導マニュ
アルを作成
②レッスンに関する指導者の不注意→過失
過失
→安全指導マニュアルの作成にまつわる相
責任を問われる。
責任
談が増えたので、昨年4月全乗振内に乗馬
・レッスン前:施設の安全確認、人馬の技
安全委員会を設立。都市型乗馬クラブと観
術、体調レベルおよび馬装・服装に関して
光型乗馬クラブを分けて安全指導マニュア
確認する。
ルを作成しているので、これを参考にして
・レッスン中の安全配慮:馬に噛まれる、
各乗馬クラブの実情に即した、より内容の
蹴られる等の環境の変化、騎乗者の体調変
細かいマニュアルを作成して欲しい。
化、馬の体調、精神的変化に対応する等、
・保険(傷害保険・賠償責任保険)に加入
人馬に対して目配り・気配りをする。
することを忘れない。
・指導者の無理と無知に起因する事故で問
→お客様がケガをした場合、補償する責任
題視されている事例。
がある。その責任を果たすと共に乗馬クラ
ブの経営を損なわない体制を取る。
事故防止の為のリスクマネージメントについて
安全指導に関する5つのポイント
<リスクマネージメントの三要素>
・ヒューマン(ひと)
指導者は指導時の環境、使用する馬について安全性を
確認するとともに騎乗者の技術レベル・体調等を確認した
上で指導を実施し、指導中は人馬の様子を注視する。
また、騎乗者自身が体調に関する自己管理が出来るよう
に指導することを怠ってはならない。
・ハード
施設、用具の安全点検を怠らないこと。
・ソフト(プログラム)
年齢・経験・能力にマッチしたプログラムを提供する。
・乗馬のルール・規範に関する指導を徹底する。
・危険を感じたらすぐに安全対策に着手する。
・最悪の事態を想定し、活動中止を恐れない。
・各クラブの実情に応じた安全指導マニュアルを作成。
・保険に加入することを忘れない。
▲熱中症の予防対策:防止するのがあた
りまえ。→水分補給の用意をするだけでは
なく、摂取させること。
(H6年の裁判事例)
※乗馬クラブ(クレイン)では、レッスン
中(20~30 分に1回)に職員がお客様に飲
7
H24 年度 乗馬活動中の「事故」と「ヒヤリ・ハ
ら落ちたで…」という思考は危険。
ット」調査に関する報告書
ット」調査に関する報告書
・万が一落馬した場合は迅速な対応、処置
を施すことで事態の悪化を防ぐことが出来
○ハインリッヒの法則
る。
・救急車で搬送する場合でこじれるのが、
指導者が同乗しない、見舞いにも行かない
1 件の重大な事故
ケース。誠意が見られないと判断され、被
害者の態度が硬化して警察沙汰となり、裁
29 件の軽微な事故
判へと発展してしまう。
・被害者に謝ることと責任を認めることは
同じではない。法的責任を判断するのは当
300 件の異常(ヒヤリ・ハット)
事者同士ではなく司法や専門家が事実関係
を積みかさねた上で判断すること。よって
・300 件のヒヤリ・ハットを 200 件、100
お客様が落馬した場合は速やかに「ごめん
件と減らすにつれて、事故の数が減ってい
なさい」と謝るべき。
く。
○指導者を対象としたヒヤリ・ハット調査
○事故調査結果の分析
に関する分析
・101 件の乗馬クラブの協力を得て調査(最
・回答件数:256 名(調査対象機関 1 年間)
近 5 年間の事故について)
。
1)事故の有無:あり 54%
なし 46%
年間の事故件数の最高が
36 件(分析不
1)事故の有無:事故無し…10 件 事故有
り…91 件
可能・参考までに掲載)
2)事故の原因:落馬
落馬・
落馬・69 件 噛まれた・
噛まれた・
月間の落馬回数の最高が
11 件 踏まれた・
件
踏まれた・10 件 蹴られた・8
蹴られた
2)事故の原因:落馬
落馬・125
件
落馬
(複数回答)
噛まれる・
噛まれる
24 件 蹴られる・21
件 踏まれる・11
件
蹴られる
踏まれる
3)受傷状況:骨折 58 件 1 ヵ月以上の入
院
7回
(複数回答)
23 件(最長 5 ヶ月の入院)
3)受傷状況:骨折 52 件
4)受傷時の状況:馬が何かに驚くことに
入院 1 ヶ月以上 4 件
よる落馬:15 件 駈歩レッスン時:14 件
1 ヵ月以内 8 件
障害レッスン時:12 件
4)ヒヤリ・ハットの状況
バランスを崩す:7 件 部班運動中:5 件
(全体を通して突出している回答)
・馬が風や車の音、人の動きに驚いた時:
・乗馬クラブでは様々な事故が起きている。
137 件
最も多いのは落馬。この落馬を減らすこと
・部班運動 174 件(馬同士の距離に関す
で事故も相当数減らすことが出来る。
ること 75 件)
・落馬は重篤な事故に繋がるので「落ちた
5)乗馬指導者に関するヒヤリ・ハット調
8
査から見えてくるもの
「ヒヤリ・ハットのアンケートから」
・騎乗場面以外でもヒヤリ・ハットに遭遇
ヒヤリ・ハットのアンケート結果の中で、落馬の原因
している。蹄洗場での確立が非常に高い。
として「馬の驚きによる」ものが数多く寄せられました。
そして、馬の驚きの要因として、「屋根から落ちる雪の
○愛好者(お客様)を対象としたヒヤリ・
音」や「風の音」といった自然的要因や「工事車両」や
ハット調査に関する分析
「緊急車両のサイレント」といった第三者(他者)的要因
・回答件数:263 名(経験年数 1 年程度・
を挙げるものがありました。そのような自然的要因や
34 名、229 名は複数年 最長経験年数:33
第三者(他者)的要因の落馬については、やむを得な
年・平均鞍数/月 9.8 鞍 最高鞍数 50 鞍/
いもの、仕方のないもので、乗馬クラブ、乗馬指導者
月
側には落ち度はないのではないか、との考え方がある
30 代女性)
・受傷経験あり 69 名(回答者の 26%・受
かもしれません。
傷件数 91 件)
しかし、果たしてそうでしょうか?例えば、雪の多い地
・指導者の事故件数よりも少なくなってい
域の乗馬クラブで雪解け時期には頻繁に屋根から落
る。これは経験豊富な愛好者は経験を積む
雪があるのにそれを放置していた場合はどうでしょう。
ことで馬の特性を理解し事故を回避できる
当然、落雪は予測できることであって、雪下ろし等の対
ようになっているということ。つまり今回
策を講じることができたのにしなかったのであれば、落
の調査はベテラン愛好者の回答が多かった
雪が起きてその音に驚いたのは、自然のせいではなく
ことになる。
人間の管理が不十分であった、と言うことになります。
風の音にしても、強風の中で、音に敏感な馬を使用す
○乗馬安全委員会委員・弁護士 上條 弘
れば危険なことは当然予測できるのですから、使用す
次氏
る馬の選択をきちんとしていなければ、やはり落ち度
・雪の多い地域の乗馬クラブ事例:雪解け
があったということになりかねません。自然的要因があ
時期に頻繁に起こる落雪を放置している場
るからと言って、責任を当然に免れるものではないの
合
です。
→屋根からの落雪は予測でき、対策を講
これは第三者(他者)的要因でも同じです。近くで工
じることができる。にもかかわらず落雪の
事が行われていて騒音が生じることが予測できるよう
音に馬が驚いたのは、管理側の対応が不十
な場合には、やはり音に敏感な馬を使用してはいけま
分であったということ。自然的要因がある
せんし、交通量の多い街道沿いや消防署や病院に隣
からと言って責任を免れるものではない。
接していて緊急車両等の頻繁な通行が予測できるよう
な立地であれば、乗馬クラブとしても簡単に驚かない
今日、この講習会に参加していないスタッ
馬を用意していなければ、やはり問題なのです。
フの方にもこれらの情報を伝えて、安全で
自然的要因、第三者(他者)的要因であれば、それで
楽しい乗馬普及活動を展開していただきた
全て免責、すなわち責任がないとして許されるわけで
い。
はないのです。
そもそも、乗馬クラブ側には、単に愛好者を馬に乗せ
ればよいのではなく、「安全」に乗馬を楽しんでもらう義
9
務があります。法律の専門用語で言えば、「安全配慮
義務」と言いますが、その義務を果たしたと言えるため
には、予測できる危険をきちんと予測し、(「予測可能
性」と言います。)、危険な結果が生じないようにこれを
防ぐような措置を講じておかなければなりません(「結
果回避義務」と言います。)。危険が予測できるのに予
測していない、危険を予測してもこれを防ぐ努力をして
いなければ、例え元の原因が自然的要因、第三者(他
者)的要因であっても責任を負うこととなるのです。
乗馬は、危険を伴うスポーツですから、「自然のせい
だから」、「他の人が悪いのだから」と安易に考えず、
危険を回避するための注意を怠らないように努力する
ことが、事故を防ぎ、また、何より愛好者からの信頼も
得られることとなるのです。
以上
乗馬安全委員会委員・弁護士
上條 弘次
10
講義2:保険に関する知識
ず、後々トラブルのもとになる場合がある。
講 師:有限会社オフィステラ
代表取締役 町頭 隆児 氏
○「リスクマネジメント」とは?
保険はリスクマネジメントの一つ。リス
15 年ほど前から野外体験活動団体に対
して、リスクマネジメント講習会を行って
クマネジメントの全体像は(1)リスクコン
いるが、乗馬指導者への講習会は始めての
トロール(2)リスクファイナンス
経験。
藤田氏の話に出てきた乗馬業界の「ヒヤ
(1)リスクコントロールとは=事故を未然
リ・ハット」は通常インターネットで検索
に防ぐためあるいは最小限に抑えるための
しても出てこないので、大変興味深かった。
訓練
①回避:当初予定していたプログラムを
「ヒヤリ・ハット」は将来皆さんの財産に
キャンセルすること→天候の問題。特に過
なる。
去の事例で「雷は予測できる」と最高裁で
リスクマネジメントの中の保険
の判決が出ている(H18 判決:サッカー大
○乗馬クラブで加入している保険について
会中に高校生が落雷遭い半身不随になった
の認識
事故)。理由として、毎年落雷による死亡事
→入っているのは知っていても、どの範囲
故は 3~6 件発生している。平成8年までに
が保障されているのか、補償金額など、詳
文献上の記載が多く存在していた。例えば、
細を把握していないことが多い。結果有事
落雷の研究における我が国の第一人者とさ
の際、事故に遭われた方に対して充分な支
れる北川信一郎埼玉大学工学部教授が編集
払いが出来ずにトラブルになるケースがあ
委員長となっている日本大気電気学会編の
る。
「雷から身を守るには-安全対策 Q&A-」
(平成3年刊行)には、
「雷鳴が遠くかすか
■よくある疑問
・どのような保険に入ればいいか
でも危険信号ですから、時を移さず、屋内
・傷害保険と賠償責任保険の違いが良く分
に避難します。」とある(これと同趣旨の文
献上の記載は多く存在している。
)雷は予測
からない
・保険に入っていれば安心?
できる、と述べている。よって指導者はこ
・毎年保険の更新を代理店に任せっぱなし
のような知識を持つ責任を負っている、と
言うこと。
「勇気ある撤退」の勧め。
だが大丈夫か?
これらを正しく把握しているオーナーや
②軽減:予定していたプログラムをもっ
指導者は自分の経験上少ない。保険は「ま
と易しい内容に変更、または場所を変更→
さか」の時に対応するためのものなので、
参加者の様子やレベル、気象状況の変化に
曖昧なままだと「まさか」の際に対応でき
対応してプログラムを変更・見直しする。
③防災:マニュアルの作成や見直し、ス
11
タッフのトレーニング、ヒヤリ・ハットの
する。※治療費が 3 万円以内なら煩雑な保
活用。
険手続きをせず、経費で処理する等。
■なぜマニュアルが必要か?
②移転:保険、共済
→①新人の指導者に対し最低限の知識と
してマニュアルや運行規定を渡し、職員
体験活動になぜ保険が必要か?
教育を施すため。
事故のときに主催者に係る 3 つの責任⇒
②重大事故が起きた時、警察がマニュ
「法的責任」と言う場合、3 つの責任があ
アルを証拠として押える。そこでマニュ
る。
アルがない場合、相当過失を問われる上
(1)民事上の責任
に裁判でも大変不利になる。警察対応の
①民法 709 条:故意または過失によっ
ためにマニュアルを作るわけではないが、
て他人の権利または法律上保護される利
今日では最低限マニュアルがあることが
益を侵害したものは、これによって生じ
あたりまえ、と言う話。そしてスタッフ
る損害を賠償する責任を負う。
研修、救急法のトレーニング、安全講習
→治療費の支払い、賠償の支払いなどの
の実施の有無も問われる。また、これら
責任を負う。
の実施記録は業務日報等に日付を入れて
②民法 715 条1項:ある事業のために
おくことで開催の証拠となる。
他人を使用する者は被用者がその事業の
執行について第三者に加えた損害を賠償
■ヒヤリ・ハット
する責任を負う。ただし、使用者が被用
→事故が起きる一歩手前のヒヤリ・ハッ
者の選任およびその事業の監督について
トの事例を集めることは、団体にとって重
相当の注意をしたとき、又は相当の注意
要な財産になる。安全対策マニュアルを作
をしても損害が生ずべきであった時はこ
成する上での良い資料となる。
の限りではない。
→マニュアルの見直しも重要。法律が変
→使用者責任…従業員が起した損害に対
ることによって団体の対応も変わってくる。
して使用者も責任を負う、と言うもの。
これらが、事故が起す前に、事故を減らす
☆民事上の解決には賠償を伴うのでお
ためのリスクコントロール。
金が必要となる→保険が必要になる。
(2)リスクファイナシングとは?
(2)刑事上の責任
→不幸にして事故が起こってしまった場合
①刑法 209 条:過失により人を傷害した者
のお金の対応を考えること。
は、30 万円以下の罰金又は科料に処する。
①保有:積立金(社内で積み立てておく)
※科料=1,000 円以上、1 万円未満 罰金=
借入金:(金融機関等から借り入れをする)
1 万円以上→業務上過失傷害
←返済の必要有り。
②刑法 210 条:過失により人を死亡させた
経理処理:
(経費として補償金、見舞金を支
者は、50 万円以下の罰金に処する。→業務
出する)←保険でまかなえない部分を処理
上過失致死
12
③刑法 211 条 1 項本文:業務上必要な注意
※心筋梗塞を起して転倒した際に、柱に
を怠り、よって人を死傷させた者は、5 年
頭部を打ちつけクモ膜下出血(持病をきっ
以下の懲役若しくは禁錮または百万円以下
かけとした事故)→高齢者が参加する場合、
の罰金に処する→業務上過失致死
同意書に既往症や服用薬の有無を確認する
(3)行政上の責任
必要あり。このような場合、活動中に倒れ
免許や資格を持っていた場合は取り消しや
ても保険はおりないので、十分な調査が必
公的施設への出入り禁止等。
要。該当者には参加をお断りするのも一つ
法的責任とは違うが…「同義的責任」あ:
の方法。
る乗馬クラブが重大事故を起こして大きな
※上記傷害保険の免責については、基本的
騒ぎになった場合、全国の乗馬クラブに一
な内容です。加入する傷害保険によっては
斉立入検査が行われる。実例で言えば、3
「有責」になる場合もあるので、加入の際
年前北海道のトムラウシ山での事故や昨年
には十分注意して加入してください。
中国で起きた万里の長城での死亡事故など
(2)賠償保険
が起きた際、全国の旅行会社に警察の安全
→賠償責任保険の定義:①偶然な事故によ
対策マニュアルの調査や国土交通省の調査
って②他人に損害を与えた場合③法律上の
が入るなどして、業界全体に影響を及ぼし
賠償責任を負担することによって④被る損
た。
害を補償。①~④の一つが欠けてもこの保
険の対象にはならない。
体験活動において一般的に必要とされる保
険の種類
○ケガをした参加者から賠償を求められな
→体験活動中に参加者が事故に遭いケガを
いと発動しない保険。そこが傷害保険と異
した際に、その補償として備えておくのが
なるところ。主催者側に責任があると判断
傷害保険と賠償責任保険。
された場合に支払われる。極論を言えば引
き馬中に事故が起きても相手側から請求さ
(1)傷害保険:全ての事故を補償するわ
れなければ、賠償責任保険は動きようがな
けではない。
い。
→傷害保険の定義:急激
急激かつ偶然
偶然な外来
急激
偶然 外来の
外来
事故によって被る損害に適用される。
保険に加入する際のポイント
(後々誤解が生じないために)
○保険が適応されるもの→ガス中毒、ふぐ
1~7 の中で(資料 P7 参照)
、7について
中毒(有資格者が調理した場合のみ)、蜂・
虻
解説。
※免許不携帯で運転中に事故を起して受傷
○毎年の更新の際に、前年度の内容と異な
○保険が適応されないもの→靴擦れ、凍傷、
っているかどうかを必ず確認する。特に保
熱中症、蚊・蟻(どこにでもいる生き物)
険金額、対象にならない活動に変更がない
※信号待ちで停車中に追突されて受傷。こ
かを確認する。
のとき免停中
→事例はカヌーの団体。カヌー業界は近年
13
事故が多く、今までは死亡保険金が 1 億円
で対応しようとしたところ契約者は 1 億円
だったものが、5000 万円に下げないと契約
のつもりでいたが、実際は 5000 万円しか加
更新できないことを契約者に通知した。こ
入していないことが分かり驚いていた。こ
のことを契約者に確認したところ、契約者
れは契約更新を保険会社にまかせっきりに
は変更内容を把握せず保険担当者に一任し
した盲点。
た。その後死亡事故が起きてしまい、保険
損害保険加入の際のチェックリスト
○事前確認、加入手続きのチェック、事故発生時のチェック、事故手続き完了のチェックと 4 項目
に分けてある。各団体において全てが該当しない場合もあるが、確認を怠らないことが大切。
14
事故事例集
15
事前に提出された質問事項に対する回答
5000 万円支払われる。賠償は相手方に過失
①ハインリッヒの法則 1:29:300 の下に
がある場合があるので、過失割合が問題に
「リスクの洗い出し」を行い、自分の乗馬
なる。例えれば、交通事故の場合と同じ。
クラブで日常業務の中にどのようなリスク
示談解決できなかった場合は訴訟に発展す
が潜んでいるのかを洗い出しておくことが
る。裁判の場で被害者・保険会社双方の弁
必要。問題点があるのは人なのか、馬なの
護士の間で争われることになる。裁判は時
か、道具なのか、環境なのか。それぞれで
間と費用がかかるので、相手方の問題もあ
洗い出しを行い注意していくこと。
るが、極力示談に持ち込むことが望ましい。
④保険会社が当事者の間に入って交渉でき
※誠意がない→まずは謝ること。謝ること
るのは自動車保険加入の場合(示談代行サ
と法的な問題は全く別の話。謝って相手の
ービス)のみ。では、事故があった場合の
感情が落ち着くなら OK。謝りもせず、ケ
係り方だが、事故が起きたら必要書類を整
アの仕方が悪ければ被害者の感情が悪化し
え、完治するまでの間の状況を把握し、提
軽微な事故でも訴訟に発展する可能性があ
出された書類に基づいて手続きする。賠償
る。乗馬を楽しむ施設で初心者が不幸にも
責任保険の場合は、相手が完治してから提
ケガをした場合、その対応が悪ければ被害
出された請求の内容を精査し、保険が適応
者は二度と馬に乗らないかもしれない。そ
するもの・しないものの選別をする。最終
こからクレーム、訴訟にならないような対
的に保険会社へ書類を提出し支払いの運び
応をするべき。
となるため、時間がかかる。
※参考:
「免責同意書」と言う表現は止める
⑤一般的な保険金額は?1 名最低 1 億/1
べき。最初から一切訴えないと言う表現は
事故 3 億。喫茶付の乗馬クラブには食中毒
消費者契約法に違反している。
の特約をつけることは出来る。高齢者の多
②保険代理店の良し悪しの判断基準は?
い乗馬クラブに特定疾病特約をつけること
→加入者にとっていい代理店とは、事故が
は出来ない。
起きた時全てをやってくれるところではな
⑥「健康保険を使わない」と言われてしま
いか?しかし代理店で全てを行うことは不
った場合は仕方のないこと。ただし、健康
可能。被害者に謝るのは契約者。当事者が
保険を使っても、乗馬クラブの責任が認め
謝らない限り、被害者の感情が和らぐこと
られれば賠償責任保険の対象となるので後
はない。代理店に出来る範囲・出来ない範
日健康保険組合から使った分の健康保険の
囲があることを理解して欲しい。
請求が来る。それに対して保険会社は支払
③保険金額について。1 名について最高い
いをするので、手続きが確定するまでの間、
くら払われるか、1 事故、最高いくら払わ
被害者経済的な負担を減らすためにも健康
れるかと言う契約の際の約定金額、生死や
保険を使ってもらった方が良い。
遺失利益とは関係のない話。例えば同じ事
故で 3 名が亡くなり、賠償金額が 5,000 万
円とした場合、1 名 5000 万円×3 名で 1 億
16
《ヒューマンエラーとは》
解答 P12
1.(無知・未熟)による事故は(初心者)が中心です。ここで注意して頂きたいのは、若い方、未経
験者はもちろんですが、会社経験は長いけれど初めてその作業に就いた場合には(初心者)であ
ると言うことです。また、新しい現場で体験活動を行う場合、環境は全く新しく感じるので、(初心
者)との認識で取り掛かることが大切です。
2.(悪習慣)による事故は(熟練者)に多く「このやり方が、多少危険だけれども速いし、今までに事
故がないから」と言って決められた手順どおりに行わなくなり、事故に至るケースがある。
常に基本を意識して作業を行うことが大切です。
17
P13
事故全般の起きる流れ
ここで(×)が事故で、その前の(△)が異常です。
(○)つまりいい状態で(△)になった時、ここで戻ることが事故防止です。
ヒューマンエラーを無くす普段からの行動
作業を(中断・中止)して(確認)するのが原則
※補足
労働災害を見ると、
「ヒューマンエラー」と思われるものが 80%以上ある。
事故、労働災害を少なくするためには、
「ヒューマンエラー」を如何に無くす事が重要。
18
講義3:乗馬事故による法的責任 ―全乗振認定乗馬指導者を中心として―
講 師:宮澤法律事務所
弁護士
宮澤 建治 氏
乗馬指導者が負う法的責任とその根拠につ
生じてしまった場合については賠償
いて
責任を免れる場合もあるが、かなり
厳格に取り扱われるので非常に少な
Ⅰ:法的責任を大別すると「刑事責任」と
い。使用者が責任を負わされた場合、
「民事責任」に分けられる。
事故を起した乗馬指導者が責任を免
△刑事責任:乗馬指導者の過失による事
△刑事責任
れる、ということはなく責任は重複
故で、
「犯罪」として取調べを受け責任
するので、賠償責任を負う者が2人
を追及される。
になる。ただ、裁判ではお金を取り
→該当する法律は 刑法第 211 条第 1 項
やすいほうから取ることが多いので、
業務上過失致死傷罪。
「業務上」とは一
雇われている乗馬指導者よりも使用
つの業務を反復・継続して行う場合で、
者が負担することが多い。
業務中に事故を起こし、警察及び検察
しかし、指導者が被告にならず、
庁の取調べを受け、裁判が妥当と判断
使用者が被告になり敗訴した場合は、
されると刑事裁判になる。
使用者から指導者に対して求償され
△民事責任:損害賠償責任。
△民事責任
ることもある。それくらい指導者の
→該当する法律は 民法第 709 条 不法
責任は重大であるという理解が必要。
行為による損害賠償責任等。注意義務
今回のような講習会で過去の事例を
違反又は安全配慮義務違反によってケ
学び、常に安全配慮義務を果たすに
ガをさせたり死亡させた場合、これに
はどうしたらいいか、どこまでやれ
伴う損害賠償責任を乗馬指導者が負う
ば義務を果たしたことになるのかを
ことになる。
学び、仕事をしていくことが大切。
■民法第 715 条 使用者責任
■民法第 718 条 動物の占有等の責任
→注意義務違反を犯した指導者は損害
→前述の 709 条は「人」についての責
賠償責任を問われるが、その乗馬指
任。718 条はあまり馴染みがないか
導者を雇用している使用者も賠償責
もしれないが、
「動物」そのものが行
任を負うことがある。それを「使用
ったことについて占有者が責任を負
者責任」と言う。ただし、使用者が
う、という法律。判例の多くは馬や
乗馬指導者に対して相当の注意をし
犬。
た場合や相当の注意をしても損害が
例①:馬車引きの馬が何かに驚い
19
て暴走。通行人を巻き込んでケガを
護者が馬と触れあっている最中に噛ま
負わせた。→御者および占有者に賠
れた、といった事故が起きた場合、安
償責任を負わせる判決。近年馬にま
全なプログラムが提供できなかったと
つわる裁判で 718 条の適用事例はな
して、債務不履行責任が問題となる。
いが、犬は増えている。
□709 条と 415 条の関係:これらは重複
■民法第 719 条 共同不法行為
するので、どちらで請求しても良い。709
→乗馬指導者が、乗馬クラブで所有す
条のみでしか請求できないのは契約関係
る馬を不適切に扱い管理を怠った場合、
にない場合。
(例:外乗中に通行人にケガ
指導者のみならず、経営者も指導者に
を負わせた→通行人と騎乗者には契約関
安全な管理指導を行わなかったとみな
係がない)よって一般の不法行為の責任
され、共同不法行為として連帯で責任
に対する請求しか出来ない。しかし、契
を負うことがある。
約関係が成立する場合は契約関係に基づ
く安全配慮義務が生じるため、その義務
■民法第 719 条第 2 項
過失相殺
を尽くしていなかったみなされた場合は
→騎乗者側にも責任があった場合は過
債務不履行が認められ、合わせて 709 条
失相殺」となり、損害賠償額から騎乗
の不法行為責任も認められることが多い。
者の責任の割合に応じて減額すること
ができる。
■民法第 418 条 過失相殺
→債務不履行に関しても 709 条と同様
■民法第 415 条 債務不履行による損
に過失相殺がある。騎乗者側にも過失
害賠償責任
があった場合はこれを考慮して損害賠
→騎乗者と乗馬クラブの指導者あるい
償の責任及びその額が決められる。
は乗馬クラブの経営者の間に契約関係
があることが前提。乗馬クラブのメン
□「時効」の問題
バーと指導者、及び経営者との関係。
・709 条の損害賠償の場合、原則とし
乗馬クラブはメンバーに対し安全・確
て事故が起きてから 3 年間請求され
実にメンバーが求める乗馬指導を行わ
ない場合は損害賠償責任を免れる。
なければならない。また、ビジターと
・415 条(債務不履行)の消滅時効の
指導者等の関係も考えなければならな
場合、一般債権は 10 年間、乗馬クラ
い。ビジターで引き馬を申し込んだ人
ブが該当する商事債権は 5 年間が適
とそれを受けた乗馬クラブ側は契約を
用される。
結んだことになる。契約に基づいて料
→よって 709 条で時効が過ぎてしまっ
金を頂くので、クラブ側と指導者には
ても、債務不履行で請求することが
安全に引き馬を行う義務が生じる。よ
できる。
って馬が跳ねて子どもが落馬した、保
20
Ⅱ:注意義務または安全配慮義務の内容
乗者に着用させているクラブは少数かも
△注意義務違反の根拠…「予見可能性」
しれないが、時代の流れは完全着用化か
の問題と「結果回避可能性」の問題
もしれない。
・予見可能性:当該の事故が予測できたか。
④指導者が引馬を放馬してしまった→資
・結果回避可能性:当該の事故の結果を回
格のない指導者による引ばか、指導者の
避できたか。
技術不足。
→「予見可能性」があり「結果回避可能
⑤施設の瑕疵→下馬する際に使う踏み台
性」があったにもかかわらず何もしなかっ
が壊れていたことによるケガ。不安定な
た場合に注意義務違反があったとみなされ
機材を使用したことが安全配慮義務違反。
過失あり、の判断となる。
⑥腹帯の締め不足→締め方が足りず鞍が
△指導者に求められるのは、周囲の状況
回り落馬。腹帯を締めるのは当り前のこ
から危険を予測し、どのように注意すれば
と
その結果の発生を回避できるかの判断。
に対応策を考える。
→このように具体的なケースをもと
□クラブと騎乗者に契約関係がある場合
□資料:<具体的設例>をもとに対応策を
・予見可能性と結果回避可能性の判断は、
考える
どのような安全配慮義務があるのか、と
例1:ビジターの 5 歳児を引き馬。引き馬
いう観点から判断する。
に慣れた馬で指導者が屋外馬場で引き馬す
・安全配慮義務の判断については一概に
るも、物音に驚いた馬が跳ね幼児は落馬。
言えないが、ヒヤリ・ハットの活用等、
全身打撲で入院
指導者間の情報共有と乗馬クラブの安全
①指導者が幼児にヘルメットを着用させ
指導が重要。
なかった場合
・具体的な安全配慮義務の内容について
②ヘルメットを着用させたが、チンスト
は、各クラブ毎に経験した事例をもとに
ラップを留めなかった場合
判断するほかはない。
③バックガードを着用させていなかった
場合
□全乗振・藤田氏から提供された情報を
→このような場合を想定して指導者が
もとに抽出した事故事例
検討することが重要。
①指導者に指導者資格がなかった→指導
者足りうる実力がなかったというべき
例 2:上記の例で跳ねた馬に乗っていた幼
②指導者が目を離した→騎乗者の騎乗歴、
児が怖がって泣き叫んだため保護者が幼児
騎乗馬の性格等の考慮が必要
を引き取ろうと馬場内に侵入して馬の背後
③ヘルメット、バックガードの着用を怠
から近付いたため蹴られて大怪我をした。
った→ヘルメットの未着用は重過失。着
①指導者が保護者に対して、あらかじめ
用の際は 3 点で固定するタイプのものを
引き馬中は馬場内に立ち入らないよう注意
着用する。バックガードについては全騎
していなかった場合→注意していれば回避
21
できたかもしれない事故。
Ⅲ:免責同意書の効力
②指導者があらかじめ注意していたのに、
□平成 13 年 4 月 1 日に「消費者契約法」
保護者が我を忘れて立ち入った場合→回避
が成立。これ以降は、
「何らの請求権を有し
できない事故
ない」や「あらゆる損害賠償責任から免責
される」との文言は、同法第 8 条第 1 項第
例 3:クラブの屋外馬場で指導中、乗馬が
1 号または第 3 号にいう「損害を賠償する
暴走しメンバーが落馬、右手首を骨折。
責任の全部を免除する条項」に該当するた
①乗用馬がメンバーの所有馬であった場
め無効である。
合→基本的には自己責任。ただし、所有者
→現在は「一部免責同意書」のように「保
の技量に適した馬であるかどうか判断する
険の責任の範囲内において賠償請求を認め
必要有り。
る」など、責任の範囲に制限を設けた同意
②クラブ所有馬で、物見癖、神経質等性
書などがある。
質に難があった場合→騎乗者が暴走した馬
→誓約書や免責同意書を取ってもあまり効
を止める技量があるかどうかを適正に判断
力がなく気休めにしかならない、と言う声
して馬を割り振り、指導する必要がある。
もあるが、全面的に責任を負わない文面は
これらを怠れば安全配慮義務違反になる可
法的に無効でも、主催者や指導者の軽過失
能性がある。
である場合や、参加者自らも危険を承知の
上で参加し、自ら危険に近付き危険を引き
例4:指導者を含むクラブメンバー数名で
受けたものとして、
「過失相殺」に類するも
外乗中、先頭馬が急停止。後続馬がすぐに
のとして扱われることもあるので、それな
停止できず先順位の馬に急接近したところ、
りの意味はあるものと考える。
騎乗者が前の馬に足を蹴られ右足脛骨腓骨
を骨折。
Ⅳ:事故後の対応
①先順位の馬に蹴り癖がある場合→
①事故が発生したら速やかに応急手当て
尾に目印の赤いリボンを付け注意喚起
を行い、場合によっては医療機関に救急
する。
搬送する。躊躇しない。
②先順位の馬が気性が激しい性格の
②被害者本人に対して謝罪すると共に、
場合の対応策を立てる。
家族へ連絡する。特に未成年者の場合は
親権者に速やかに事故状況を伝える。
その他の例:雷→予見できる自然災害との
③入通院の事態になった場合は充分に見
判例が出ているが、実際は判断が難しいと
舞いを行い誠意を示す。ここで誠意とは、
ころもある。しかし、安全配慮義務を尽く
加害者側が事故と真摯に向き合い、被害
すには、現場にいる複数の関係者間で協議
者に対して責任を負う姿勢を示すことを
し判断すれば、誤った判断になりにくいの
いう。
ではないか。
④症状固定時など、一旦症状が安定した
時機に示談折渉を真摯に行う。これはク
22
ラブ側や指導者に責任があると判断した
まとめ
場合に行う。
指導者は事故が起きた場合、注意義務違
⑤損害保険契約を結んでおくことが重要。
反、安全配慮義務違反を刑事・民事の両側
⑥乗馬指導者に対する安全指導を徹底す
面で法的責任を問われることを常に念頭に
る。
(例:落馬した時の体勢・受身の体勢
おくこと。そして日ごろより安全配慮義務
を教える)
を尽くしているか検証すること。自分(指
⑦クラブ所属会員相互及び指導者との意
導者)の責任が極めて重いことを認識する
思の疎通を図る→会員と指導者の間に信
ことが重要。
頼関係があれば、万が一事故が起きたと
しても必要以上に責任を追及されること
が減るのではないか?
⑧クラブ環境を静穏に維持する→クラブ
の馬の精神状態が良好に保たれるよう静
かな環境を整える。
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