3) 放射能・放射性物質に関する説明

放射能・放射性物質に関する文献等調査結果(平成 23 年 5 月 31 日
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(社)日本下水道協会)
放射能、放射線に関する基礎的事項
(1)放射線、放射能とは?
原子は、正(+)の電荷を持った原子核と負(-)の電荷を持った電子とで構成されてい
ます。原子核は、正(+)の電荷を持った陽子と電荷を持たない中性子とで構成されていま
す。
原子核には安定なものと不安定なものが存在します。この不安定な原子核は、安定になろ
うとして余分なエネルギーなど(放射線)を放出して別の原子核になります。これを原子核
の壊変と言います。
放射能とは、原子核が放射線を放出する能力(あるいは性質)をいいます。放射能の強さ
を表す単位としてベクレル(Bq)が使われます。原子核が1秒間に1個壊変する量が1ベク
レルです。
<参考>
(財)日本分析センターホームページ
http://www.jcac.or.jp/about_radiation.html
(2)放射線の種類
放射線には、X線やγ線のような電磁波の放射線とα線やβ線のような粒子の放射線があ
りますが、いずれも物質中で直接あるいは間接的に原子を電離する能力を持つものを言いま
す。それぞれの放射線で物質の透過力が違っており、α線、β線よりも、γ線、中性子線の
方が、強い透過力を持っています。
放射線の計測単位としては、放射線のエネルギー総量を示すグレイ(Gy)、人体が吸収し
た放射線の影響度を数値化したシーベルト(Sv)があります。
図:2002-2003 日本原子力文化振興財団「原子力」図面集より<参考>
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<参考>
ホームページ「日本の環境放射能と放射線」((財)日本分析センター運営)より
http://www.kankyo-hoshano.go.jp/qa/qanda.html
(3)放射性物質
約 45 億年前に地球が誕生した時から多くの放射性物質がありました。その中で、放射能
が半分になるまでの時間(半減期)の長いカリウム 40、トリウム 232、ウラン 238 などは今も
地球に残っています。これら自然界に存在する放射性物質に加え、1980 年頃まで続けられ
た大気圏内の核実験により生成された多くの放射性物質が、雨水やちりとともに、地面や海
に降下しました。福島第一原発事故以前から、核実験やチェルノブイリ原発事故等によるス
トロンチウム 90 やセシウム 137 が、日本の土壌中等から確認されています。
(4)半減期
放射性物質(放射性核種あるいは素粒子)が、崩壊して別の放射性核種あるいは素粒子に
変わるとき、元の放射性核種あるいは素粒子の半分が崩壊する期間を示します。福島第一原
発事故で、放出された主な放射性物質に、放射性ヨウ素(I131)と放射性セシウム(Cs134
と Cs137)がありますが、半減期は、I131 が、約 8 日、Cs134 が約 2 年、Cs137 が約 30 年
です。
下水汚泥中から検出されている放射性物質が、放射性セシウム(Cs134 と Cs137)である
のは、放射性ヨウ素(I131)が短かく、地表等にあまり残留していないためと考えられます。
<参考>
ホームページ原子力百科事典((財)高度情報科学技術研究機構運営)
http://www.rist.or.jp/atomica/index.html
2
放射性物質の例
(1)自然由来の放射性物質
① カリウム 40(K40)
天然に存在する代表的な放射性同位体元素で、半減期は、12.8 億年と非常に長いです。K40
は、天然の総カリウムの 0.0117%を占め、壊変時にβ線またはγ線を放出します。カリウム
1g 当たりには、30.4Bq の K40 が含まれていると考えられます。
カリウムは、必須元素の一つであり、成人の体内に約 140g 存在すると考えられることか
ら、成人体内には、K40 が、約 4,300Bq に上ると考えられます。
また、カリウムは、玄武岩、花こう岩及び石灰岩などの岩石に多く含まれます。
<参考>
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特定非営利活動法人
原子力資料情報室(CNIC)
http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/13.html
②
ウラン 238(U238)及びトリウム 232(Th232)
U238 は、玄武岩、 花こう岩及び石灰 岩な どの岩石に多く含 まれ ます。天然ウランの
99.2745%を占め、半減期は、44.8 億年です。α崩壊によりトリウム 234、プロトアクチニ
ウム 234m を経て、ウラン 234 が生じます。
Th232 も、玄武岩、花こう岩及び石灰岩などの岩石に多く含まれ、α線を放出してラジウ
ム 228 となります。半減期は 141 億年です。
U238 と Th232 は、燐鉱石に含有することが知られています。日本に燐鉱石を輸出してい
る代表的な国は、中国、ヨルダン、モロッコ及び南アフリカ共和国ですが、これらの輸入燐
鉱石中の U238 や Th232 の濃度のデータベースがあり、U238 は、110~1,700(Bq/kg)、
Th232 は、2~590(Bq/kg)というデータが確認できます。
<参考>
特定非営利活動法人
原子力資料情報室(CNIC)
http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/13.html
独立行政法人放射線医学総合研究所
自然起源放射性物質データベース
http://www.nirs.go.jp/db/anzendb/NORMDB/index.php
上記の他にも自然由来の放射性物質が多数あり、特に花こう岩等の放射線量を測定すると、
相当程度の放射線が確認される場合があります。
(2)セシウム 137(Cs137)
自然界には、ウラン鉱中の U238 の自発核分裂によって生じるが、量的には尐なく、福島
第一原発事故以前に日本の環境中に存在する Cs137 のほとんどが、過去の大気圏内核実験や
チェルノブイリ原発事故に由来するものであると考えられます。
Cs137 は、β線を放出してバリウム 137 となりますが、大部分がバリウム 137m を経由し
てバリウム 137 になります。バリウム 137m からγ線が放出されるため、セシウム 137 に起
因し、β線及びγ線が放出されます。
環境中の Cs137 は継続して測定されており、2008 年度に測定された、全国 47 地点で土壌
(0~5cm)中の Cs137 濃度は、0~60(Bq/kg)の範囲にあります。
<参考>
ホームページ「日本の環境放射能と放射線」((財)日本分析センター運営)より
http://www.kankyo-hoshano.go.jp/qa/qanda.html
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環境中の放射能と放射線(経年変化)
http://www.kankyo-hoshano.go.jp/01/0101flash/01010521.html
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放射性物質の分析方法について
上水試験方法Ⅱ理化学編 p.170 に上水中の放射性物質測定方法が、記載されています。例
えば、放射性セシウムは、β線やγ線を放出することから、
「ゲルマニウム半導体検出器を用
いるγ線スペクトロメトリー」により測定する方法が広く用いられています。放射性核種か
ら放出されるγ線エネルギーが、核種に固有であることから、この方法では、試料中に複数
の核種が存在していても同時分析が可能です。
牛乳、野菜等、あるいは下水汚泥を試料とする場合は、試料中の有機物を分解・気化して
除いてから(灰化という)、ゲルマニウム半導体検出器を用いて測定する場合が多いと考えま
す。
いずれにしても、放射性物質の測定装置を保有している下水道管理者は、非常に尐ないと
思われ、分析委託に出す場合が多いと考えます。
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放射性セシウムの人体への影響について
(1)内部被ばく
透過性が小さいα線やβ線を放出する放射性物質が、体内に入った場合、その放射性物質
により放出されるα線やβ線のほとんどが、体内で吸収され、体外に放出されません。つま
り、α線やβ線の持つエネルギーの大部分が、体内の組織や臓器に与えられてしまいます。
これを内部被ばくと言います。放射性物質が、体内に入るケースは、以下の3つが考えられ
ます。
(a) 経口摂取:放射性物質が含まれる水や食物などを飲み込むことによりその放射性物質
が体内に取り込まれることを示します。
(b)吸入摂取:放射性物質が含まれる空気を吸い込むことによりその放射性物質が体内に
取り込まれることを示します。
(c)経皮吸収:皮膚を通して放射性物質が体内に取り込まれることを示します。ただし、
皮膚は、ほとんどの放射性物質(トリチウムを除く)に対してその侵入を
防ぐことができるので、傷口がある場合を除いてこの経路による放射性物
質の体内への取り込みは問題となりません。
<参考>
ホームページ原子力百科事典((財)高度情報科学技術研究機構運営)
http://www.rist.or.jp/atomica/index.html
(2)外部被ばく
放射線を身体の外側から受けることを「外部被ばく」と言います。外部被ばくには、土壌
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中に存在する天然放射性核種、宇宙線などによる自然由来の外部被ばく、胸部 X 線や胃の透
視検査などの医療行為による外部被ばく、原子力施設の事故時に放出される放射性物質によ
る外部被ばくが考えられます。
<参考>
ホームページ原子力百科事典((財)高度情報科学技術研究機構運営)
http://www.rist.or.jp/atomica/index.html
(3)放射性セシウムによる被ばくについて
放射性セシウムは、β線とγ線を放出して壊変するため、内部被ばくと外部被ばくの両方
の原因となります。
内部被ばく線量は、以下の式で求められます。
Ei = e × I
Ei :
核種 i による内部被ばくによる実効線量(mSV)
e
:
吸入摂取または経口摂取した核種 i の実効線量係数(mSV/Bq)
I
:
吸入摂取または経口摂取した核種 i の量(Bq)
例えば、セシウム 137 の場合は、吸収摂取、経口摂取による実効線量係数は、それぞれ、
6.7×10- 6、1.3×10- 5 です。
また、1m の距離にあるセシウム 137 のγ線による外部被ばく量は、1.9×10- 6、(mSV/
Bq)です。
上記が、放射性セシウムによる内部及び外部被ばく線量を計算する上での基礎となります。
<参考>
・
放射線を放出する同位体元素の数量等を定める件(平成 12 年科学技術庁告示第 5 号)
・
特定非営利活動法人
原子力資料情報室(CNIC)
http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/13.html
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土壌中の放射性セシウムの挙動と農作物への移行について
(1)土壌に降下したセシウムの挙動
セシウムは、1 価の陽イオンとして雨水に溶けた状態で土壌に降下する割合が多いと考え
られます。一方、土壌は、負の電荷を帯びているため、セシウムイオンは、土壌表面に留ま
る傾向があり、さらに、粘土鉱物中にはセシウムを極めて強く固定するものがあります。
<参考>
原発事故関連情報(1):放射性核種(セシウム)の土壌-作物(特に水稲)系での動きに関す
る基礎的知見((社)日本土壌肥料学会ホームページ)
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http://jssspn.jp/info/nuclear/post-15.html
原発事故関連情報(2):セシウム(Cs)の土壌でのふるまいと農作物への移行((社)日本土壌
肥料学会ホームページ)
http://jssspn.jp/info/nuclear/cs.html
(2)土壌からコメへの放射性セシウムの移行について
土壌から白米への放射性セシウムの移行係数(白米 1kg 当たりの放射性セシウム濃度/土
壌 1kg 当たりの放射性セシウム濃度)は、0.00021~0.012 という報告があります。また、
稲に吸収された放射性セシウムは、白米よりもぬか部分に多く移行することが知られていま
す。原子力災害対策本部では、土壌から玄米への放射性セシウムの移行係数として 0.1 を採
用しています。これは、白米よりぬか部分に多く移行することや安全側に配慮した結果と考
えられます。
<参考>
原発事故関連情報(1):放射性核種(セシウム)の土壌-作物(特に水稲)系での動きに関す
る基礎的知見((社)日本土壌肥料学会ホームページ)
http://jssspn.jp/info/nuclear/post-15.html
原発事故関連情報(2):セシウム(Cs)の土壌でのふるまいと農作物への移行((社)日本土壌
肥料学会ホームページ)
http://jssspn.jp/info/nuclear/cs.html
原発事故関連情報:放射性セシウムに関する一般の方むけの Q&A による解説((社)日本土
壌肥料学会ホームページ)
http://jssspn.jp/info/nuclear/4137.html
稲の作付に関する考え方(平成 23 年 4 月 8 日
原子力災害対策本部)
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/ine_sakutuke.html
(3)土壌からコメ以外の作物への放射性セシウムの移行について
農林水産省が、国内外の科学文献に基づき、農地土壌中の放射性セシウムの野菜類及び果
実類への移行係数を取りまとめた結果、いずれも土壌から玄米への放射性セシウムの移行係
数として採用している 0.1 よりも小さく、稲の作付ができる土壌中の放射性セシウム濃度
5,000(Bq/kg)以下の農地において、他の作物を栽培しても問題ないと考えられます。
<参考>
農地土壌中の放射性セシウムの野菜類と果実類への移行について(平成 23 年 5 月 27 日
林水産省)
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/nouan/110527.html
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農
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放射性セシウムに関する基準や指針値について
下表に放射性セシウムに関する飲料水等の基準や指針値を整理しました。
玄米中の放射性セシウムが暫定基準値以下となる土壌中放射性セシウム濃度の上限値
(5,000Bq/kg)は、以下のとおり算出されました。
土壌中上限値(Bq/kg)=穀類の基準値(500Bq/kg)/移行係数(0.1)
=5,000(Bq/kg)
放射性セシウムに関する基準や指針値等
対象
放射性セシウム
(Bq/kg)
出展
「原子力施設等の防災対策について」(S.55.6.30 原子力安全
委員会)
飲料水
200
牛乳・乳製品
野菜類
穀類
肉・卵・魚・その他
玄米中の放射性セシウム
が暫定基準値以下となる
土壌中放射性セシウム濃
度の上限値
200
500 「放射能汚染された食品の取扱について」(H.23.3.17 厚生労
500 働省医薬食品局食品安全部長通知)
500
5,000 「稲の作付に関する考え方」(原子力災害対策本部 H.23.4.8)
(参考情報)
校庭・園庭での線量(測定
20mSV/年 「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的
距離は、小学校以下
(3.8μ SV/時) な考え方について」(H.23.4.19 文科省)
50cm、中学校1m)
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