「港区在宅におけるがん等ターミナルケア に伴う介護者の実態と意識調査

平成 19 年度 港区 在宅緩和ケア
・ホスピスケア支援推進事業
「港区在宅におけるがん等ターミナルケア
に伴う介護者の実態と意識調査」報告書
(概要版)
平成 20 年3月
港区訪問看護ステーション連絡協議会
はじめに
我が国の、国民の「終の棲家」に対する意識は、「自宅で死にたい」と希望する者が最も
多い。しかし、「在宅で看取ってもらえる介護力はない」と多くは諦めており、施設内ケア
や施設内で亡くなることを希望する者が多くなっている。世界的にみても我が国の国民は、
「病院死」が 87%を占め、人々の希望と現実とは大きく乖離しているのが実態である。
一方、ターミナルケアの主疾患は癌となってきた。在宅ケアにおいても同様で、ターミナ
ルケアの主疾患は癌となっている。また、大都市では核家族化や単身者の独居生活が進んで
いる。東京都下 23 区は、全国平均より若干高い状況で在宅ターミナルケアが実行されてい
るが、区民の意識と現実の乖離はあり、評価できるレベルとは言い難い。
港区としては、乖離を少しでも狭め、がんを告知された本人や家族が希望すれば在宅ター
ミナルケアや在宅死が可能である環境をつくることを目的として、平成 19 年 12 月に「港区
在宅緩和ケア・ホスピスケア支援推進協議会」を発足させ検討を進めている。
本調査は、港区民の在宅ターミナルケアに関する意識と実態を把握し、今後地域に必要な
サービスやシステムを検討する資料とするため、「港区訪問看護ステーション連絡協議会」
が区から委託を受け、その実態や意識を調査した。「訪問看護を利用し、終末期ケアを経験
された港区介護者の方々」が、次第に衰えて死が近づく中で、身近な家族が死に向けての不
安や納得を示すなか、言葉にならないアンビバレンス(どうしてよいか分からない)な感情
や葛藤をもちながらケアをされてきた体験を如実に語って下さった。明日への希望が反映し
ている貴重な調査報告書である。
調査には終始一貫してみなと保健所長および港区内訪問看護ステーション所長を始めと
し、現場の忙しい訪問看護師の方々からご意見と調査のご協力を頂いた。また、集計・解析・
報告書の作成には聖路加看護大学老年看護学の亀井智子、梶井文子、糸井和佳の所先生にご
協力を、調査の作成から実施、回収、報告書の作成まで、全般にわたり㈱日本在宅ケア教育
研究所より調整を頂いた。関係者の皆様方には心より御礼を申し上げたい。
平成 20 年 3 月
港区訪問看護ステーション連絡協議会
―1―
も く じ
目次
はじめに ...................................................................................................................................... 1
第1章
........................................................................................ 3
調査研究の背景と概要
まえがき
第1節
............................................................................................................................ 3
............................................................................................. 4
本調査の委員構成
1.本調査の委員構成
........................................................................................................ 4
2.調査協力者、協力機関
................................................................................................. 4
3.調査実施受託機関
........................................................................................................ 4
第2節
....................................................................................................... 5
調査の概要
1.調査の目的
................................................................................................................... 5
2.調査対象
...................................................................................................................... 5
3.調査方法
...................................................................................................................... 6
4.分析方法
...................................................................................................................... 6
第2章
調査集計結果と考察
............................................................................................ 7
1.在宅ターミナルケアを支える介護者(回答者)の状態
2.がんターミナルケアの背景
........................................................................................ 10
3.がん以外のターミナルケアの特性
4.港区では在宅の看取りは可能
.............................................................................. 12
..................................................................................... 12
5.看取りを体験した家族本人のターミナルケア意識
第3章
まとめと課題
.............................................. 7
.................................................... 14
...................................................................................................... 17
―2―
第1章
第1章
研究の背景と概要
調査研究の背景と概要
まえがき
本調査は、港区内における現在の在宅ケアシステムを図-1 に示した。図に示すとおり、地域的・
物理的環境因子、家族・経済因子、ケアチーム・ケアシステム因子、制度因子、教育・知識の普及
因子等、多様な因子が影響しあい在宅ケアのサポートが成立・発展してきたと仮定している。
そこで、在宅ケアサービスやターミナルケアサービスを利用した家族や介護者の意識・実態をと
おして、逆に、港区における介護因子やケアチーム・ケアシステム因子、制度因子、教育因子等、
がん等ターミナルケアに対する実態や課題を把握し、問題点や改善点の検討を行う事とした。
家事や業務多忙な中、家族・親族、8事業所の訪問看護ステーションより真摯なご協力を頂き
集計・分析が可能となった。システムや知識の普及、在宅ターミナルケアの可能性や受け入れは発
展途上である。第2章以降に、本事業の結果概要と考察を示す。
図-1.
港区在宅緩和ケア・ホスピスケアを取りまくシステム
地 域 特 性
医療保険
訪 問 看 護
ヘルパー
中核
ステーション
ステーション
病院
ン
薬 局
介
護
保
主治医
険
ケアマネジメント
医
療
利用者
診 療 所
病 院
保
険
家族・親族
病 院
近隣・
ボランティア
―3―
在 宅
主治医
第1章
第1節
研究の背景と概要
本調査の委員構成
1.本調査の委員構成(協力機関は平成 19 年 12 月現在)
港区訪問看護ステーション連絡協議会に所属する訪問看護ステーションの所長が委員であり、各
訪問看護ステーションの調査責任者である。連絡協議会で調査票の作成と印刷を行い、各ステーシ
ョンでは調査対象者の選定、調査の実施、回収作業を行った。調査結果の解析、有効性の検討、報
告書の作成は、㈱日本在宅ケア教育研究所及び聖路加国際看護大学老年看護学教室で実施した。
委員構成
訪問看護ステーション管理者氏名
ステーションの名称
分枝
一枝
済生会三田訪問看護ステーション
2
橘
康子
訪問看護ステーションしろかね
3
曽我部
4 調査責任者 内田
珠己
青山訪問看護ステーション
恵美子
ナースステーション東京六本木
5
水野
広子
訪問看護ステーションおりおん
6
赤木
佳世
セントケア訪問看護ステーション麻布
7
原
幸枝
日本赤十字広尾訪問看護ステーション
8
安藤
澄代
セコム高輪訪問看護ステーション
9
李
栄淑
リハビリの風訪問看護ステーションみなと
2.調査協力者、協力機関
青山
キヨミ
みなと保健所
所長
全行程にて確認と編集の協力
亀井
智 子
聖路加看護大学老年看護
教授
梶井
文 子
聖路加看護大学老年看護
准教授
糸井
和 佳
聖路加看護大学老年看護
助教
3.調査実施受託機関
内田
恵美子
株式会社日本在宅ケア教育研究所
―4―
集計、解析、報告書作成、印刷
第1章
第2節
研究の背景と概要
調査の概要
1.調査の目的
港区民で訪問看護ステーションを利用され、1 年以内に亡くなった方々の看取りにおいて、ご家
族が直面した問題や課題を整理するために、ターミナルケアを経験したご家族(ご遺族)を対象に、
在宅ターミナルケアの実態と意識調査を行った。この結果から、今後の港区における在宅ターミナ
ルケアの促進と充実した支援システムを構築するための要因を検討する。
2.調査対象
1)調査対象者の要件
2007 年 12 月時点で開設・運営されている、港区訪問看護ステーション連絡協議会に参加し
ている訪問看護ステーションから訪問看護を受け、死亡後 1 年以内の利用者の家族とした。
2)訪問看護ステーション別
調査要件該当者数、回答者数、回答率
表-2に示した通り、調査要件の該当者数は 103 件、回答者数 73 件の 70.9%の回答率であった。
表-1
訪問看護ステーション別
調査該当者数、回答者数、回答率
訪問看護ステーション名
調査要件
回答者数
回答率
該当者数
b
C (b /a×100)
a(2007 年 12 月現在)
1.ナースステーション東京六本木
27
21
77.8
2.済生会三田訪問看護ステーション
22
16
72.7
3.青山訪問看護ステーション
19
13
68.4
4.訪問看護ステーションおりおん
13
7
53.8
5.日本赤十字訪問看護ステーション
8
6
75.0
6.訪問看護ステーションしろかね
7
5
71.4
7.セントケア訪問看護ステーション麻布
4
2
50.0
8.リハビリの風みなと訪問看護ステーション
3
3
100
103
73
70.9
9.セコム高輪訪問看護ステーション
計
注
訪問看護ステーションが関わった利用者で、ターミナルを迎えた実数順
―5―
第1章
研究の背景と概要
3.調査方法
調査要件を満たす、看取り後 1 年以内の利用者のご家族に対し、訪問看護を提供していた訪問
看護ステーションの訪問看護師が、家庭訪問による聞き取り調査、あるいは一部質問紙への自記式
回答を求めた。
4.分析方法
各調査項目については記述統計を算出し、記述式回答については内容をカテゴリー化した。また、
クロス集計、重回帰分析を行った。
―6―
第2章
第2章
調査集計結果と考察
調査集計結果と考察
本調査の回答者 73 名は、港区内8訪問看護ステーションの訪問看護を利用した経験があると共に、平
成 19 年 1 月1日から 12 月末日までにご家族などを看取られ、その後も継続して区内に在住されている
介護者である。103 人中 70.9%から回答を得た。
調査は、患者さんのターミナル要因やご家族がそのケアを通して直面した問題、課題、意識、要望等
を整理することで、がんのターミナルケアや在宅のエンドオブライフ(終末期)のあり方を考察した。
1.在宅ターミナルケアを支える介護者(回答者)の状態
1)ターミナルケアを経験した回答者(家族)の属性
ターミナルケアを経験した回答者(家族)は、妻・娘 各 28.8%、息子 23.3%の順であり、この
三者で 80%を占め周介護者でもあった。介護した家族の(回答者)の性別は、男性 32.9%、女性
67.1%で、女性回答者は男性介護者の約2倍であった。
表2
介護した家族(回答者)の続柄別回答数
件数
割合
1.配偶者(夫)
6
8.2
2.配偶者(妻)
21
28.8
3.子供(息子)
17
23.3
4.子供(娘)
21
28.8
5.嫁
5
6.8
6.婿
0
0.0
7.兄弟姉妹
2
2.7
8.無回答
1
1.4
2)看取りは親や配偶者、都市におけるケア担当者は妻・娘、自営業の息子
看取った親族は、親 58.9%、配偶者 32.9%と回答した介護者で 91.8%を占めた。ケアした年代は、
男女共に 60 歳代 32.4%、50 歳代 23.0%で合計 55.4%であったが、70 歳代の介護者も 18.9%みられて
いるため、介護者も高齢化していることがわかった。介護した家族の職業は無職と自営業で約 7 割
を占めていた。
介護者で回答した家族の年齢は、最低 42 歳、最高 95 歳、平均 66.3(±12.0)歳であった。男性介
護者は 60 歳代 41.7%、50 歳代 20.8%の順に多く、60 歳代・40 歳代・90 歳代は、女性介護者を上回
っていた。最低 42 歳、最高 95 歳、平均 63.6(±12.3)歳であった。女性介護者は 60 歳代 28.6%、50
歳代 24.5%の順に多く、50 歳代・70 歳代・80 歳代で男性を上回っていた。最低 42 歳、最高 91 歳、
平均 67.7 (±11.7)歳であった。
主介護者と一緒にケアした者は娘 31.5%、看護師 27.4%、ヘルパー24.7%、息子 20.5%が多かった。
―7―
第2章
調査集計結果と考察
主及びサブ介護者として息子がともに約 2 割を占めており、嫁よりも多かった。
図-2
主介護者の性別・年代別構成
6.8
40 歳代
全体
男性介護
女性介護
者
12.5
4.1
23
20.8
50 歳代
24.5
者
32.4
60 歳代
41.7
28.6
18.9
16.7
20.4
70 歳代
80 歳代
4.2
90 歳代
2.7
4.2
2
1.4
無回答 0
0
13.5
18.4
2
5
10
15
20
25
30
35
40
45
3)エンドオブライフ(終末期ケア)の決定理由は、本人の意思や希望の尊重 32.4%、
家族の意思・希望の結果 74.3%
在宅ターミナルケアを決定した理由は、本人の意思、または希望を尊重したかったためとした
者が 32.4%、家族の意思・希望は 74.3%などで、本人や家族の明確な意思や希望がないと在宅で
のターミナルケアは難しいことが言えた。具体的なケア方針などを決めていたのは、息子、娘な
ど、子どもが 64.3%を占めた。
4) 経済面は本人の資産を使用が3割、自己負担型が多、精神面家族、家事娘がサポート
金銭面の支えでは、本人の資金でとしたものが約 3 割で最も多く、港区の特徴と思われる。精
神面の支えは娘、息子など子どもから受けていた者が 35.6%であったが、看護師や医師からも
28.1%の者が受け、その満足度も高かった。買い物、掃除、洗濯、食事作りを支えた者は、娘 39.7%、
ヘルパー23.3%、妻 21.9%が多かった。
5)手続き、家族内外調整は息子
公的な届出、手続き、契約、ケア協力機関やスタッフの調整を支えた者は、娘 35.6%、息子
28.8%、妻 17.8%が多かった。主に家族の意見や方針・ケア内容をまとめ方向づけた者は、息子
34.2%、娘 30.1%、妻 19.2%が多かった。
6) 看取りをしたことへの満足感、在宅が特に高い
最後まで在宅でケアし在宅で看取った場合 94%が、在宅でケアし最後は病院で看取った場合 87%が
―8―
第2章
調査集計結果と考察
看取りの経験を「良かった」、「納得できた」とし、介護者は非常に高く看取りの経験を評価して
いた。在宅で最期まで看取ったグループで、50%以上の割合で高く納得・評価した内容は、「住み慣
れた場所で最期を看取れた」(83.9%)、「本人との時間が多くとれた・訪問看護師が必要なだけ来
てくれた」(80.6%)、「医師が必要なだけ来てくれた」(77.4%)、「急変や緊急時に来てもらえ
た」(58.1%)、「ヘルパーが必要なだけ来てくれた・看取りの経験全体が良かった」(51.6%)で
あった。
最後は病院で看取ったグループは、「本人との時間が多くとれた」(65%)、「自分の好きなよう
に生きてもらえた・訪問看護師が必要なだけ来てくれた・本人のお金を本人の為に使えた」
(52.5%)
となっていた。(図-3)
図-3
自宅・病院別看取りの満足度
0
10
20
30
40
50
60
住み慣れた場所で最後を看取れた
90
52.5
38.7
65.0
本人との時間が多くとれた
住環境が整った、今後家族も使える
9.7
80.6
17.5
37.5
医師が必要なだけ来てくれた
77.4
52.5
訪問看護師が必要なだけ来てくれた
ヘルパーが必要なだけ来てくれた
35.0
痛みのコントロールが良く苦しまないですんだ
27.5
35.5
80.6
51.6
35.0
41.9
24時間いつでも相談にのってもらえた
47.5
急変や緊急時にも来てもらえた
見取りの経験全体が良かった
27.5
介護で気持ちにゆとりが生まれた
27.5
22.6
58.1
51.6
病院
自宅
40.0
45.2
家族員が協力して看取れた
家族同士がまとまれた
45.0
32.3
本人のお金を本人のために使えた
41.9
最後まで積極的な治療が良かった
25.8
病院のケアに満足した
52.5
35.0
45.0
6.5
5.0
0
私も同じようなケアを受けたいと思った
17.5
19.4
私も最後はこうなりたいと思った
20.0
その他
80
83.9
自分の好きなように生きてもらえた
緩和ケア病棟で安心していられた
70
22.5
2.5
29
32.3
7) 満足の一方、疲労の蓄積も大きい、看取る介護者へのレスパイトケアが重要
看取りの経験で納得し評価が高くても、看取り中やターミナル後に介護者は、気持ちがうつ的
になった、不眠状態・睡眠のリズムが乱れた、身体の痛み・疲れ・体調不良があった、死後肉親
を失ってヤルセナカッタ・悲しかった、亡くなった後の始末が大変だった、などであり心
―9―
第2章
調査集計結果と考察
が重くなったと答えていた。
また、看取り後は 37%が「健康状態があまり良くない」と答えている。特に、腰痛・膝痛・腱
鞘炎・脊椎の圧迫痛とつらい・さみしい・孤独感・虚無感・精神的な落込み・精神的疲労・不安
等の訴えが高かった。疲労・過労の症状や睡眠不足、精神的な訴えは、介護中における介護者の
アンビバレントな(どうしてよいか分らない)感情の動揺などに対する寄り添いの必要性や、疲
労に対するレスパイト(一時的休息)の必要性を示していた。
オーストラリアでは認知症者の家族介護者には、レスパイト時間が要介護度別に決定している。
親族が少なくなる一方のわが国において、死が近づく親族を身心ともに動揺なしでターミナルケ
アを乗り切れない。ターミナル期の前後の睡眠確保はもちろん、看取る不安への対応、身体不調
への対応、精神面への支援、親族関係不和への調整などの幅広いケアが必要とされていることが
明らかになった。
2.がんターミナルケアの背景
1)ターミナルケア対象者 73 人中がんのターミナルケアは 45.2%
平成 19 年の 1 年間における 8 訪問看護ステーションの在宅ケアで、ターミナルを迎えた者のう
ち、がんを主病名とする割合は 45.2%で全疾患中1位であった。死亡時の最小年齢は 50 歳代、
最高年齢は 100 歳代であった。がん死亡者の年齢は 80 歳代が最も多数であったが、50 歳代、60
歳代の若い年代ががん以外のターミナルケアより多くかった。
表-3
合計
件数
2)
本人死亡時の年代・死因別
左の内がん
割合
割合
の件数
45.2%
がん以外
の件数
n=40
割合
n=73
1.0
n=33
54.8%
50 歳代
2
2.7
2
6.1
―
0.0
60 歳代
6
8.2
4
12.2
2
5.0
70 歳代
8
11.0
4
12.2
4
10.0
80 歳代
29
39.7
16
48.5
13
32.5
90 歳代
25
34.2
6
18.2
19
47.5
100 歳以上
3
4.1
1
3.0
2
5.0
がんの種類は多様
在宅ターミナルケアにおけるがんの種類は、肺がん 12.3%、胃がん・大腸がん 8.2%、肝臓がん・
乳がん 4.1%、その他のがん 17.8%であり、発病率と同様の傾向があった。
3)がんのターミナルケアは、がん以外の疾患や老衰よりやや入院や救急車利用が高い
がんで看取った場合に利用していた在宅サービスで多かったものは、訪問看護、往診医療、福
―10―
第2章
調査集計結果と考察
祉用具、入院医療・看護などであった。また、がんのケア対象者にやや入院や救急車の利用が高
かった。
表-4 ターミナルケアを通して利用した在宅ケア(医療含む)サービス
利用数
合計件数
割合
がん
割合
がん以外
割合
サービスの種類
N=73
100.0
N=33
100.0
N=40
100.0
訪問看護
62
84.9
28
84.8
34
85.0
往診医療
52
71.2
24
72.7
28
70.0
入院医療・看護
51
69.9
27
81.8
24
60.0
福祉用具
51
69.9
22
66.7
29
72.5
医療機器
35
47.9
16
48.5
19
47.5
介護保険の介護
34
46.6
15
45.5
19
47.5
救急車
32
43.8
16
48.5
16
40.0
ケアマネジャー
29
39.7
12
36.4
17
42.5
自費の介護
13
17.8
5
15.2
8
20.0
理学療法士
10
13.7
4
12.1
6
15.0
薬剤師
3
4.1
1
3.0
2
5.0
訪問入浴車
6
8.2
2
6.1
4
10.0
美容
3
4.1
2
6.1
1
2.5
緊急通報、搬送
5
6.8
2
6.1
3
7.5
外来通院
6
8.2
2
6.1
4
10.0
4)ターミナルケアを体験しての納得が高い
がんのターミナルケアを体験した介護者は、そのケア経験にかなり多くの家族が納得(93.9%)
を示していた。一方、心身面での疲労もがん以外のターミナルケアより多く残っている(84.6%)
特徴があった。そのためか、自身ががんになったと仮定した時、在宅ホスピスに対して 72.7%が賛
同、その他疾患の介護者は 92.5%の賛同であり、がん以外のターミナルケア介護者に比しより慎重
な回答であった。
5)看取った介護者の心身の健康状態は、「ふつう」「あまり良くない」が多い
がんの家族を看取った介護者の心身の健康状態は、「ふつう」「あまり良くない」が多かった。
「よい」、「まあよい」は、がん以外のケア介護者に多かった。
―11―
第2章
調査集計結果と考察
3.がん以外のターミナルケアの特性
1) 在宅ターミナルケア対象者の平均年齢は 84.5 歳、女性が多かった
ターミナルケアの全体の対象者は女性が 58.9%、男性は 41.1%で女性が多かった。平均年齢は
84.5 歳でがん以外のターミナルケアは、90 歳代、80 歳代に多く、50 歳代はいなかった。
2) 循環器疾患、神経系の疾患、呼吸器、消化器、筋骨格系および結合組織の疾患が多い
がん以外の疾病は、循環器系の疾患が 43.8%で最も多く、中でも脳血管疾患者が 17.8%と高いの
が特徴であった。次いで認知症等の神経系の疾患が 15.1%、閉塞性肺疾患を中心とした呼吸器系
の疾患、及び大腿骨折を主体とした筋骨格系の疾患、胃・十二指腸炎、胃・十二指腸潰瘍を主体
とした消化器系の疾患が 12.3%の順であった。
4.港区では在宅の看取りは可能
1)最後の看取り、在宅看取り率 42.5%、決定要因は 24 時間訪問看護、往診体制の支援
訪問看護の利用者で自宅での看取りは 42.5%であり、入院での看取りは 54.8%であった。平成
17 年度における全国の在宅死亡率は約 1 割であり、往診および訪問看護などのサポートがあれば
在宅での看取りは港区でも 4 倍可能であった。
看取り場所(自宅か病院)に影響した要因で有意差のあった項目は、24 時間体制の訪問看護と
在宅医療の整備や、必要な時コールや不安に対応するきめ細かいサービス体制であった。特に、訪
問看護の2週間利用回数、および往診の2週間利用回数が多いことが自宅での看取りに影響してい
ることが分かった。
表-5
看取りの場所
最後に看取った場所と2ヶ月以内に利用した社会的サービス・介護者年齢・本人死亡時年齢との相関
相関係数
有意確率
(両側)
N
介護(介
訪問看護 訪問看
往診 2 ヶ月 往診 2 週間
護保険)
2 ヶ月回 護 2 週間
回数
回数
2 ヶ月回
数
回数
数
**
**
**
**
0.07
0.40
0.62
0.26
0.63
介護(介
介護者年 本人死亡
護保険)2
齢
時年齢
週間回数
0.41**
-0.12
0.01
0.001
0.000
0.026
0.000
0.573
0.000
0.344
0.945
71
71
71
71
71
71
70
71
**
2)
p<0.01
ターミナル期における在宅サービスは緊急サポート体制型 、家族のレスパイトも重要
看取りの2か月以内に在宅サービスを1回以上利用した人数は、「訪問看護」56 人(76,7%)、
「往診医療」51 人(69,9%)、「福祉用具」47 人(64,4%)、「入院医療」・「入院看護」各 40 人
(54,8%)の順であった。
看取りの2週間以内に在宅サービスを1回以上利用した人数は、「訪問看護」48 人(65,8%)、
―12―
第2章
調査集計結果と考察
「往診医療」40 人(54,8%)、「福祉用具」・「入院医療」各 39 人(53,4%)の順であった。「入
院医療」39 人(53,4%)中、23.3%は2か月以上入院していた。その他のサービスとしてはケアマ
ネジャー、医療機器、救急車、自費の介護、理学療法士、訪問入浴車、外来通院、薬剤師などで
あった。
一般介護とは逆に、ターミナル期のサポート内容は、緊急通報・民間搬送業者、ショートステ
イ、配食、通所介護は低く、緊急サポート体制となっていた。この為、逆に介護者のレスパイト、
気分転換や睡眠不足が改善しない状況が明らかであった。少人数化した家族には、レスパイト等
の支援が必要である。
3)看取りの場所別サービス利用の状況
自宅で看取りを行った者(42.5%)と、最後は入院して看取った者(54.8%)でサービス利用割合が
有意に異なっていたのは、往診医療、訪問看護、介護保険による介護、福祉用具、医療機器の 5
つのサービスであった。中でも「医療機器」の利用が約 7 割であり、利用割合が最も高かった。タ
ーミナル期には、安楽に過ごす為の医療処置が、がん・がん以外を問わず増えている。
また、最後の 2 週間の往診と訪問看護の利用回数が自宅での看取りと関係していた。50%以上の利
用者を自宅で看取っていた訪問看護ステーションは、訪問看護ステーション麻布、日本赤十字訪
問看護ステーション、ナースステーション東京、リハビリの風みなと訪問看護ステーションの 4
ステーションであった。最後に病院で看取った者が 50%を超えていたのは、青山訪問看護ステー
ション、訪問看護ステーションおりおん、訪問看護ステーションしろかね、済生会三田訪問看護
ステーション、訪問看護ステーション麻布、日本赤十字訪問看護ステーションの 6 ステーション
であった。
これらの看取り場所の最終的な決定は、家族や本人の意思が強く影響していた。介護者の意識
は、利用者の病状や生活能力、介護者の生活背景や今までお互いに培ってきた家族関係、力関係、
家族人数、経済力などの総合的な介護力を持ち判断している。さらに在宅ケア情報やターミナル
ケアの経験不足の中で意思決定していることが示唆された。最後の看取りの場所の選択や情報の
伝達に関しては、今後さらに検討する必要がある。
4)看取り2か月以内のサービス内容・回数と利用満足度(利用者 3 人以上)
訪問看護 56 人(76.7%)、往診医療 51 人(69.9%)、福祉用具 47 人(64.4%)などを利用した者が多
かった。
訪問看護の頻度は、看取りの 2 か月間は 7 回であるが、看取りの 2 週間では訪問頻度は 14.7
回で、平均すると一日1回の訪問看護を行っていた。医師の往診は、看取り 2 か月間は 7 回であ
るが、看取りの 2 週間では 4.7 回行っているなど、最期の看取りの時期に訪問頻度をあげニーズ
に対応している現状が示された。
看取りの 2 か月間の利用頻度(利用者 3 人以上)は、自費による介護と介護保険が多かったが、
看取りの 2 週間では、自費介護、介護保険、訪問看護の利用が多くなっていた。
―13―
第2章
図-4
調査集計結果と考察
看取り 2 週間以内の社会的サービス利用者の満足度
大変満足
0%
やや満足
やや不満
20%
1 往診医療(N=40)
2.入院医療(N=39)
40%
5.介護(介護保険)(N=20)
6.介護(自費)(N=10)
9.医療機器(N=27)
80%
30.8
7.5 2.5
10.3 5.1 10.3
75.0
34.2
65.0
10.5 5.3 13.2
5.0 5.0 5
20.0
30.0
60.0
10
25.0
75.0
23.1
66.7
2.6 7.7
33.3
63.0
12.0
80.0
12.訪問入浴(N=3)
3.7
16.7
83.3
11.ケアマネジャー(N=25)
2.1
2.1
20.8
36.8
10.救急車(N=12)
100%
20
43.6
7.理学療法士(N=4)
8.福祉用具(N=39)
無回答
60%
70
3.訪問看護(N=48)
4.入院看護(N=35)
大変不満
8.0
100.0
( )内は、3回以上利用者数
看取りの 2 か月、および 2 週間にサービスを利用していた者のサービス利用の満足度は、大変
満足と回答した割合が多かったのは「訪問入浴」100%、「理学療法」90.0%、「訪問看護」74.2%、
「往診医療」69.2%などであり、これらのサービスは終末の利用者ニーズに合致したケアを提供し
ていたと考えられた。(図-4)
5.看取りを体験者した家族のターミナルケア意識
1)介護経験者の 46.6%は在宅で死を迎えたいと希望、しかし介護者無くアキラメ
介護者自身の 46.6%は自分が終末期となった場合には自宅で過ごしたいとし、在宅ホスピス
54.8%は利用したいとしている。その理由の多くは、「住み慣れた場所で最期を迎えたい」「最期
まで自分の好きなようにして過ごしたい」「家族・親族・友人などとの時間を多くしたい」など
であった。
しかしその反面、「家族に迷惑をかける」「家族に負担をかける」「介護してくれる家族がい
ない」「自宅では適切なケアや処置をしてもらえないので苦しむかもしれない」などと考える者
も 3 割~5 割あり、最後まで在宅で療養することは困難と考えている者が約 6 割であった。
―14―
第2章
調査集計結果と考察
この結果は、2004 年の厚生労働省:終末期医療に関する調査検討会「終末期医療に関する調査等報
告書」の、一般国民の回答率 58.8%よりも自宅率が 12%低いものであった
図-5
自身が高齢・日常生活困難、治る見込みのない状態になった場合、
どこで最後まで生活したいかの判断
わからない
16.4%
その他
1.4%
老人ホーム
17.8%
自宅
46.6%
病院
17.8%
図‐6
医療機関における死亡割合の年次推移(19 年
厚生労働白書)
図-6に示すように全国の在宅死亡率は約 10%であるが、港区は全国より若干高い。しかし
介護した家族が自分のターミナル時には、家族構成的にも家族介護は負担がかかり過ぎて無理と
判断している(図-7)。症状が急変した時の不安よりも介護の困難性が阻害要因となっている
現状であった。今後の港区は、このような不安要因を社会的サービスの補障で対応する北欧型に
多少でも近づけるのか、私費で社会的サービスを補完する現状の日本型を推進するのか検討を問
われている。
2)在宅ターミナルケアやグリーフケアへの期待
在宅ターミナルケアを阻害する要因として挙げられた点は、「介護してくれる家族がいない」「家族に介護
―15―
第2章
図-7
2000.3
調査集計結果と考察
(港区介護経験者)自宅で最期まで療養する事が困難な理由
60
50
40
30
20
10
0
図-8
自宅で最期まで療養する事が困難な理由(19 年
厚生労働白書)
負担が重くのしかかる」「急変時の対応に不安がある」という家族や社会的支援体制面の要因と、「本人が希望
しない」「家族の生活が成り立たない」など、本人や家族の要因であった。
在宅終末期ケアを希望する全ての区民への在宅終末期ケアの実現のためには、介護者負担を軽減する訪問看
護、訪問介護と、いざという時のバックベッドの確保など、在宅ケアと入院ケアの連携システムなどの構築な
どが必要である。「看取りには満足している」介護者が多い一方で、介護への後悔の念や、死の
準備教育の不足、喪失感からの立ち直りが難しい、という声もある。また行政や病院、施設、
医師や訪問看護師、ヘルパーなどに不満を残していた介護者もあった。
個別性を充分に配慮しながら、医師・訪問看護師・ヘルパー・ケアマネージャーなど、在宅タ
ーミナルケアを支援する医師・看護・福祉のネットワークによるチームケアの充実が望まれてい
る。
―16―
第3章
まとめと課題
第3章 まとめと課題
表‐6
現
在宅でターミナルを迎える患者・家族を支える施策(案)
状
課
題
方
策
【在宅の看取りの現状】
①
・在宅での死亡割合は約
①在宅で看取りを望んでも
1割 130 件位
支援ルートが解らない
①病診連携、施設内看護と在宅看護の連携
②在宅ターミナルケア者退院連携パスの作成
③港区がんターミナル・サポートネット、相談員の
設置
④ターミナル専門マネジャーの育成
②在宅で看取りを望む患者
・平成 18 年港区死亡数
や家族は、終末期に現れる
1276 件(内乳児・新生児
症状への対応に不安があ
死亡除く、1263 件)注 1
る。特に「痛み」「急変」
時の対応
②
供・指導の実施
③
③終末期に病状が急変した
の終末期の看護・看取り
場合、本人の意向が不明な
平成 19 年 103 件以上に
まま、治療方針が決定され
実施(約 8 割)
る場合がある
②病状に応じた診療等を行う事をどう考えるか、患
者家族とどう話し合うか
④
・訪問看護による在宅で
①末期の病状や急変時の対応等について、情報提
③疼痛緩和はあらゆるケアで対応する
①事前に意思確認の実施
②終末期に希望する診療内容等について、事前にど
う説明するか
③関係者間の情報共有を積極的に実施
④バックベッドの確保
①介護度に応じた家族のレスパイト制度を設置
・往診または訪問診療を
④介護を行う家族や親族
実施し、在宅療養支援診
は、心身の疲労を積み重ね
療所で患者支援(10 割)
ている
②家族会の設立と情報の共有化
③長時間付添い体制の確立(看護・介護)
④ターミナル用デイケア、ナイトケア、ショートス
テイ施設
⑤訪問看護師、ヘルパーの確保
①
①看取りにおける看護等の提供
②事前に臨終を予測し、臨終までの経過を家族に説
⑤介護者は看取りや亡くな
明
った後の対応に不安を抱え
③死亡確認の段取り、看取り後のケア等について説
ている
明
④看取り後の家族支援(グリーフケア)
注1
平成 18 年東京都人口動態統計年報
東京都福祉保健局
19.12.14 発表資料
注2 第10回社会保障審議会後期高齢者医療の在り方に関する特別部会資料(平成19年7月30日公表)
修
―17―
厚生労働省
を改
第3章
まとめと課題
港区における介護経験者のターミナルケア意識は、両親や配偶者を看取られた経験の中で、自らもできれば自宅で終末
期を迎えたいと望んでいた。がん末期になった時にも「自宅で往診医や訪問看護、訪問介護を利用して最期まで療養したい」
30.1%、「自宅で療養して、必要になれば緩和ケア病棟に入院したい」20.5%、「自宅で療養して、必要になればそれまでの
医療機関に入院したい」13.7%、「なるべく早く緩和ケア病棟に入院したい」12.3%の順で多かった。
一方、「自宅で最後まで療養できるかは、実現困難である」58.9%、「わからない」24.7%、「実現可能である」16.4%の順
であり、如何に希望の実現が困難か現状を示していた。
在宅で、がんやがん以外で終末期を迎える為には、区民の疾病やその治療内容、経過、治療期間や心身への影響などの情
報開示や相談支援、保健医療福祉制度や活用可能な情報の提供などに基づく自己方針の決定や家族方針との調整が前提とな
る。当然、方針を方向づける専門職種の判断やサポートも並行して必要である。在宅で終末期をサポートしている現状や課
題から、表-6の取り組みを一案として提案したい。
参考文献
1.「終末期医療に関する調査等検討会報告書」厚生労働省医政局総務課、調査実施:社団法人新情
報センター、平成 16 年 7 月
2.美留町利朗他:「多死化社会の到来と地域医療」-在宅ターミナルケアと地域再生-、地域計画医
療研究所、平成 19 年 6 月
3.内田恵美子、武田京子、廣川直美、杉原和子他「大都市における在宅ターミナルケアの実態
第
1 報」 東京都港区・目黒区・練馬区エリアの訪問看護利用者の量的分析、㈱日本在宅ケア教育研
究所、平成 19 年 3 月、第 11 回日本在宅ケア学会学術集会
4.平成 19 年度版
厚生労働白書第 1 部
医療構造改革の目指すもの
厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/07/index.html
5. 第 10 回社会保障審議会後期高齢者医療の在り方に関する特別部会 資料(平成19年7月30日
公表)
厚生労働省
―18―
平成 19 年度
港区
在宅緩和ケア・ホスピスケア支援推進事業
「港区在宅におけるがん等ターミナルケアに伴う介護者の実態と意識調査」報告書
2008 年 3 月
発行
編集・発行
港区訪問看護ステーション連絡協議会(事務局)
〒106-0032
東京都港区六本木 3-15-7 ドミパルファンビル
102
TEL:03-5549-2878
FAX:03-5549-2523
URL:http://www.zaitakucare.co.jp/
印
刷
株式会社
プリカ
〒141-0031 東京都品川区西五反田8-4-15
TEL:03-5496-0961
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