がん研究に重点的に取り組むことの重要性

がん研究に重点的に取り組むことの重要性
中村祐輔:東京大学医科学研究所・教授
主要死因別粗死亡率年次推移(1910年~2005年)
1981年以降死因の第1位。
約30%ががんが原因で死亡。
2025年ころには、がんは死因
の50%になるとの推測。
がん罹患生涯リスクは50%弱。
高齢化に伴い、さらに増加。
禁煙指導などによる予防対策
で米国では肺がんなどが減少
傾向。
日本のがんの医療費は約3兆
円強/年(総医療費の約10%)
がん治療薬の輸入超過の増大
多くの希望を失ったがん難民
がん研究・対策の歩み
昭和 59年(1984)
対がん10か年総合戦略の策定(~平成5年度)
平成6 年(1994)
がん克服新10か年戦略の策定(~平成15 年度)
平成16年(2004)
第3次対がん10か年総合戦略の策定(~平成21年度)
平成18年(2006)6月 がん対策基本法の成立
平成19年(2007)4月 がん対策基本法の施行
平成19年(2007)6月 がん対策推進基本計画の策定(閣議決定)
第3次対がん10か年戦略(平成16年度〜25年度)
〜がんの罹患率と死亡率の激減を目指して〜
【戦略目標】
我が国の死亡原因の第一位である病気について、研究を総合的に推進し、
予防法の確立と患者さんに効率的で優しい医療を目指す。
○ 進展が目覚しい生命科学の分野との連携を一層強力に進め、がんのより深い本態解明に迫る。
○ 基礎研究の成果を幅広く予防、診断、治療に応用する。
革新的ながんの予防、診断、治療法を開発する。
○ がん予防の推進により、国民の生涯がん罹患率を低減させる。
全国どこでも、質の高いがん医療を受けることができるようにする。
文部科学省、厚生労働省、経済産業省の支援・連携による
がん研究の推進と質の高いがん治療の確立
医薬品輸出入金額の年次推移
1500 000 000
1000 000 000
数字に見る医療と医薬品2009
輸入
輸出
500 000 000
千円
0
平 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
2
急増する医薬品の輸入超過
2000年以降に承認された
新規分子標的治療薬の例
(国産品はなし)
グリベック(慢性骨髄性白血病)
アバスチン(大腸がん)
アリムタ(悪性胸膜中皮種)
ハーセプチン(乳がん)
リツキサン(悪性リンパ腫)
ゼパリン(悪性リンパ腫)
イレッサ(肺がん)
スーテント(腎がん)
ネクサバール(腎がん)
アービタックス(大腸がん)
月に約40万円
月に約20万円
月に約50万円
月に約20万円
月に約17万円
一回約300万円
月に約20万円
月に約100万円
月に約65万円
月に55-70万円
薬効分類別に見た国内医薬品生産量
生 産 金 額
平成19年 平成18年 平成17年 平成16年 平成15年 平成14年 平成12年
(2007)
(2006)
(2005)
(2004)
(2003)
(2002)
(2000)
総数
6 452 166 6 438 082 6 390 722 6 525 293 6 533 108 6 489 278 6 182 631
循環器官用薬
1 386 730 1 416 798 1 304 104 1 294 783 1 307 463 1 234 320 1 122 613
その他の代謝性医薬品
618 104
602 148
630 551 626 651
589 711
589 341
513 752
中枢神経系用薬
585 067
562 200
565 940 625 100
598 546
592 072
527 575
消化器官用薬
574 854
558 736
587 284 568 715
562 540
555 792
530 385
血液・体液用薬
371 938
375 619
330 734 315 593
312 040
295 740
342 957
外皮用薬
351 682
352 581
353 117 358 062
349 539
360 797
379 900
抗生物質製剤
296 166
327 662
346 951 362 813
386 923
369 764
373 949
生物学的製剤
271 749
249 170
232 168 263 274
237 198
254 679
250 712
アレルギー用薬
229 234
217 070
233 466 230 185
248 823
220 340
187 530
ビタミン剤
211 870
213 357
198 979 206 148
219 555
229 776
217 382
感覚器官用薬
203 097
193 205
214 799 209 698
226 497
214 123
228 647
体外診断用医薬品
197 186
190 447
181 030 175 972
172 786
177 933
170 154
滋養強壮薬
146 977
147 392
145 774 154 122
164 445
182 027
188 873
腫瘍用薬
138 975
138 119
137 993 147 811
144 300
167 748
146 995
呼吸器官用薬
134 293
147 399
149 654 154 666
158 671
160 197
162 100
泌尿生殖器官及び肛門用薬
127 776
123 903
141 146 127 453
130 165
120 646
115 361
ホルモン剤(抗ホルモン剤を含む)
120 317
123 230
122 312 105 879
123 968
142 237
141 992
漢方製剤
113 097
107 616
103 343 103 046
101 153
101 061
98 153
化学療法剤
93 733
117 178
119 044 189 697
194 071
186 637
159 010
診断用薬(体外診断用医薬品を除く)
73 002
60 083
62 872
73 731
67 564
70 213
72 628
人工透析用薬
49 707
49 878
51 001
51 097
55 140
56 549
55 064
末梢神経系用薬
41 972
39 130
38 954
35 161
38 767
44 379
47 045
放射性医薬品
32 590
31 890
31 433
32 472
33 894
34 267
34 375
公衆衛生用薬
21 634
23 094
23 681
27 701
26 606
33 657
32 736
12
583
17
269
18
421
15
923
14
752
25
274
22 380
アルカロイド系麻薬(天然麻薬)
47 834
52 908
65 971
69 540
67 991
69 709
60 363
その他
薬 効 大 分 類
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
数字に見る医療と医薬品2009
米国内で開発が行われているがんを対象とする医薬品・ワクチン
800種類以上の薬剤や
ワクチンが臨床試験で
実施されている。
「がんと闘うための希望を
提供する」
これががん研究の使命
ライフサイエンス研究の進歩に伴う
がん医療分野におけるパラダイムシフト
ランダムな化合物スクリーニングから
標的分子をターゲットとするスクリーニ
ングへ(絨毯爆撃型からピンポイント
型へ)
レディメイド医療(とりあえず型の投薬)
からオーダーメイド医療(より個人に適
切な投薬)へ
がんの治療からがんの予防へ
(メディカルケアからヘルスケアへ)
分子・細胞・臓器・個体
レベルでのがんの理解
が不可欠
他省庁、あるいは、文部科学省の他の研究費との関係
文部科学省
科学研究費
・新学術領域
・基盤研究
ボトムアップ型の
学際的発想の研究
がんTR研究
・革新的がん治療法等
の開発に向けた研究
の推進
・橋渡し研究支援推進
プログラム
厚生労働省
がん研究助成金
・分子イメージング研
究プログラム
・重粒子線がん治療
研究
・がんプロフェッショナル
養成プラン など
経済産業省
補助金
より臨床に近い研究、
あるいは。
トップダウン的色彩
の強い研究
先端医療特区?
幅広い生命科学分野研究者の交流が「がんの本態の理解」に多大な貢献をしてきたという観
点では、文部科学省の他の経費や他省庁の研究費ではカバーできていない特徴がある。
分子・細胞・臓器・個体レベルでのがんの体系的理解と
それに基づく新たなQOLを高めるがん医療の確立を目指して
がんに関わる要因の分子レベルでの理解(発がん)
がんの発生に関わる要因やその調節の仕組みを分子レベルで詳しく解明する。
がんにおける細胞・組織システムの破綻(腫瘍生物学)
がんの特徴である異常増殖や血管新生、組織への浸潤・転移の仕組をがん細胞とその周辺の細
胞や環境との相互作用の破綻という観点から解明する。
がん患者における免疫能とがん細胞の免疫回避(腫瘍免疫学)
がん細胞が患者の免疫から逃れる仕組みの理解とそれを克服して免疫療法は発展させる方策の
確立をする。
個体としてのがんの体系的理解とオーダーメイド医療(腫瘍診断学)
個々の患者の体質やがん細胞の個性を科学的に解明し、効率的で副作用のリスクの低いがん治
療につながる診断法の確立を進める。
がんの疫学・化学予防(がん疫学)
個々人の遺伝的要因・環境的背景とがんとの関わりを解明し、科学的根拠に基づいたがんの予
防法の確立を目指す。
新規の治療法の開発を目指した基盤的がん研究(臨床腫瘍学)
がんの基礎研究の成果を活かし、個人に最適ながん治療法の確立を目指す。
癌の基礎研究から診断・治療・予防への流れ
がんの本態を解明する広範な基礎生命科学
応用を目指した研究
予防を目指した長期的な疫学研究
幅広い研究分野の結集によってその結果として
診断や治療につながるシーズが創成
先端的治療
新薬の開発
オーダーメイド治療
予防法の確立
のシーズ
トランスレーショナル
リサーチ
非臨床試験
安全性試験
薬理試験
臨床・患者
患者さんから
得られた情報をもとに
さらに発展させていく
ことも重要
癌の基礎研究から診断・治療・予防への流れ
がんの本態を解明する広範な基礎生命科学
応用を目指した研究
予防を目指した長期的な疫学研究
幅広い研究分野の結集によってその結果として
診断や治療につながるシーズが創成
先端的治療
新薬の開発
オーダーメイド治療
予防法の確立
のシーズ
非臨床試験
安全性試験
薬理試験
臨床・患者
横断的組織から
縦断的な組織編成
にしてさらなる
社会への還元を加速
成人T細胞白血病 (ATL) 研究支援班
目的:我が国特有の疾患であるATLの発症メ
カニズムの解明と新たな治療法の開発を
目指して重点的に支援する。
断乳による子の感染減少
2006年
抗CCR4抗体の臨床
第1相試験開始
(上田ら)
1987年
長崎県にて断乳の開始
断乳
ー
15.7%
+
3.6%
(Hino et al. 1996)
1982年
HTLV-1全塩基配列
の決定(吉田ら)
1981年
原因ウイルス
の発見
(日沼ら)
1984年
HTLV-1の感染ルート
の解明(日野ら)
1977年
疾患概念の確立
(高月ら)
「ゲノムとオーダーメイド医療」法案
Clinical Advances in Hematology & Oncology Volume 5, Issue 1 January 2007
がんワクチン療法を
医薬品として承認するためのガイダンス
2009.09.17
米国では、産官学の連携による国家戦略としてのがん対策が練られており、オバマ
大統領は選挙公約にNCI予算の倍増を盛り込んでいた。
副作用の軽度な抗がん医薬品としてのワクチン療
法への期待; 単に長く生きるだけでなく、生活の質
の改善を目指した治療法を
重点的に推進すべき縦断的研究組織(案)
分子標的療法の基礎から臨床
分子標的薬剤、がん細胞シグナル制御、浸潤・転移制御
癌のモデル動物とその臨床応用
多段階発がん、個体発がん、分子イメージング
がん細胞と周辺環境との相互作用の理解とその応用
がん幹細胞、細胞接着・運動、血管・リンパ管新生、浸潤・転移
発がんにおけるゲノムネットワーク異常
DNA複製、細胞周期、ゲノム不安定性、エピジェネティクス
がんの体系的理解と個別化医療への応用
ゲノム解析、プロテオミクス解析、発現解析、がんの個性診断、オーダーメイド治療
医学物理学の発展を生かす次世代がん治療
放射線療法、重粒子線療法、温熱療法、腫瘍低酸素
ドラッグデリバリーの新展開とがん治療への応用
DDS、バイオイメージング
がん免疫応答ネットワークの総合的理解とがんの免疫制御:基礎から臨床
抗体療法、免疫療法、ワクチン療法、細胞療法
核酸バイオ医薬による新規癌治療の開発(遺伝子治療を含む)
遺伝子治療、ウイルス療法、核酸療法、RNA創薬
感染と発癌をつなぐ分子機構とその遮断による感染癌の制圧
ウイルス発がん、細菌感染とがん、炎症とがん
がんの分子疫学とがん予防
国としてのがん研究体制のあり方
1.がんの制圧という目標を達成するために、
幅広くボトムアップ型個人研究を要素と
しつつも、機動的に連携を図り、
バーチャルな研究所のように機能し、
世界的な成果をあげる仕組みを構築する。
連携を図るための
バーチャルNCI
(支援班)
2.新学術領域や基盤研究に採択された
癌研究者の交流・連携を図ることが重要。
3.若手研究者、次世代の研究者の
育成事業を積極的に推進する。
一般の国民のがん研究に対する理解を
深めるような広報活動を行う。
支援
協調
文部科学省による研究支援
(新学術領域・基盤研究)
4.長期的な視野に立ち、わが国にとって
重要な研究領域の支援・育成を行う。
たとえば、癌の予防に向け、疫学研究などの長期間の一貫した活動が必要な研究領域
を支援する。
5.基礎研究の成果ががんの予防・診断・治療に速やかにつながるような研究体制を構
築する。