甲状腺低分化癌の臨床と病理 - 第80回日本内分泌学会学術総会

第 80 回日本内分泌学会クリニカルアワー『甲状腺低分化癌の臨床と病理』
抄録覚道健一分
タイトル:甲状腺低分化癌の病理
演者:和歌山県立医科大学
隈病院病理
病理学
覚道健一、白艶花、若狭朋子、森一郎
広川満広
本文:
甲状腺低分化癌は、1983 年坂本らにより、予後不良甲状腺癌の解析より抽出され命名
され、2004 年 WHO 分類に、独立診断名として取り上げられた。本発表では、WHO が定
義した低分化癌について解説し、病理診断における問題点について提起したい。
1984 年 Carcangiu は、濾胞癌の進行癌に見られる insular carcinoma を予後不良の低
分化癌として報告し、WHO の診断基準は、おおむねこれに準拠している。しかしこの基準
では、日本では甲状腺癌の約 1%を占めるにすぎず、一方、坂本の低分化癌は、乳頭癌と濾
胞癌の両組織型を包括する名称であり、乳頭癌、充実亜型をも含み、甲状腺癌の約 10−15%
に見られる。頻度から見ても、2 者の定義に大きな違いがある。また予後不良の乳頭癌組織
亜型として、tall cell variant、columnar cell variant などの報告があり、これを低分化癌
に含める立場があり、過去の論文には混乱が見られる。その原因として、
1)組織学的特色(充実、島状、策状、硬性)のどれを重視するか明瞭でない。
2)分化度を測る尺度として、今日的マーカーが必要である。
(濾胞上皮機能や増殖能など)
3)腫瘍組織の中に占める低分化性分の割合がどれくらいあれば低分化癌と診断するか、
原発部で判定するか、転移巣でも診断できるかなどの取り決め、データがない。
4)細胞異型度、浸潤増生パターン、病期を取り入れた基準ではない。
5)内分泌臓器腫瘍一般に適応できる組織診断基準ではない。
6)未分化癌との区別も明瞭ではなく、WHO 分類では、未分化転化と鑑別が困難な例を含
んでいる。
甲状腺低分化癌の臨床と病理
杉谷
巌、藤本吉秀、坂本穆彦*
癌研究会有明病院
頭頸科、杏林大学
病理*
Sakamoto らによる甲状腺低分化癌の最初の報告(Cancer, 1983)は、当院における 1965
∼1980 年の取扱い症例を対象に行われた。初回切除後 5 年以内に再発を来した乳頭癌お
よび濾胞癌症例の組織像の再検討により、非腺腔形成性成分(充実性、索状構造および硬
性浸潤)を少しでも認める症例を低分化癌とした。その結果、乳頭癌 192 例中 30 例、濾
胞癌 29 例中 5 例の計 35 例が低分化癌に該当し、
その 10 年生存率は 34%で高分化癌の 86%
に比較して有意に不良であったことから、低分化癌を新たな臨床病理学的疾患単位として
呈示した。その後最近まで、乳頭癌、濾胞癌それぞれの亜型として細分類されていた低分
化癌であるが、2004 年の WHO 新分類によって、乳頭癌、濾胞癌、未分化癌と並ぶ独立
した組織型として扱われることになった。高分化癌と未分化癌との中間的な形態および生
物学的態度を示す濾胞上皮由来の悪性腫瘍と定義された低分化癌を構成する所見(低分化
成分)には索状、充実性および島状構造があるが、高分化成分との混在もしばしば認めら
れ、これらの出現比率は症例により異なる。WHO 分類では低分化成分が腫瘍の大部分を
占めるものを低分化癌としているが、甲状腺癌取扱い規約第 6 版(2005 年)では、わず
かでも低分化成分を認める症例は低分化癌に分類するとされた。その他、硬性浸潤、扁平
上皮化生、壊死、細胞分裂像などの所見や細胞異型度の取扱い、小児の充実型乳頭癌との
整合性など定義上の混乱も完全には解消されていない。今回われわれは最近の癌研病院に
おける取扱い症例を対象として、低分化癌の病理と臨床について検討し報告する。
甲状腺低分化癌の予後について
伊藤康弘、*廣川満良、宮内昭
(隈病院外科、*病理)
濾胞上皮由来の甲状腺癌は概ね予後良好な疾患であるが、未分化転化を起こした場
合、その生命予後は極めて不良となる。一方で坂本らは、未分化転化を起こす以前
の分化癌において索状、充実性、島状、硬性のいずれかが病理所見として認められ
る も の は 予 後 不 良 で あ る と し 、 こ れ ら を 低 分 化 癌 (poorly differentiated
carcinoma)と定義した。この概念は WHO の最新版にも採択されたが、その内容は 1)
充実性、索状、島状の増殖パターンが腫瘍の多くの部にみられた症例、2)周囲の
組織に対して浸潤性の増殖をしていた症例、3)壊死、血管浸潤がみられた症例と
なっており、坂本の定義とは完全には一致しない。今回我々は、この両者の定義に
よる低分化癌の頻度と予後について検討し、報告する予定である。
当院で 1987 年から 1995 年までに初回手術を施行した乳頭癌 1470 症例(微小癌
を除く)から 1)充実性、2)索状、3)島状、4)硬性の一つ以上がみられる症例を
抽出し、それらの低分化成分が腫瘍内に占める割合(10%以下、10から50%、
50から90%、90%以上)を計算した。また、これらの中からさらに 1)浸潤
性増殖、2)壊死、3)血管浸潤の 3 所見のある症例を抽出し、これら因子の予後に
対する影響を個別に検討し、当日報告する予定である。