地域コミュニティの拠点としての学校

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「地域コミュニティの拠点としての学校」のあり方に関する提言
八千代市学校適正配置検討委員会
(文責:委員長 上杉 賢士)
この度、八千代市学校適正配置検討委員会では、諮問事項への答申をまとめる作業の途上にお
いて、近未来の学校の望ましいあり方の形態の一つとして、
「地域コミュニティの拠点としての学
校」という考え方に注目した。以下に掲げる内容は、その内容について社会的動向や地域の実情
に応じてその定義づけを試みたものである。今後、答申に基づく具体的な施策を展開する過程に
おいて、新しい学校のあり方を検討するための提言として活用されたい。
1.学校と地域の連携が必要とされる法的根拠
学校が地域と連携して教育活動を行う根拠の第一は、教育基本法第13条(学校、家庭及び地
域住民などの相互の連携協力)に求めることができる。そこでは、
「学校、家庭及び地域住民その
他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に
努めるものとする」と定められている。
また、第3条(生涯学習の理念)においては、
「国民の一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな
人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学
習することができ、
その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない」
とされている。学校は、児童生徒の教育のみならず、生涯学習の施設としても期待されている。
学校と地域の連携が必要とされる
法的根拠
• 教育基本法
第13条(学校、家庭及び地域住民などの相互の連携協力)
学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれ
ぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努め
るものとする。
第3条(生涯学習の理念)
国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることが
できるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所
において学習することができ、その成果を適切に生かすことのでき
る社会の実現が図られなければならない。
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しかし、これは決して目新しい考え方ではなく、わが国の学校は以前から地域と密接なつなが
りを保ちつつ地域における情報発信源として機能してきたことに留意する必要がある。その機能
が衰退した原因のひとつは、都市化や核家族化の進行により、地域における人々の絆が希薄化し
たことにある。その意味において、学校と地域の連携は、単に教育の充実という点にのみ効果を
発揮すればよいというものではなく、地域コミュニティにおける人々の絆の回復や再生というか
つての学校が担っていた機能を回復させるという点においても期待されている。
近年、これらの要請に応えるための具体策として特に注目されているのが、国の施策としての
「コミュニティ・スクール」と「学校支援地域本部」の発足である。これらには、国が定める一
定の手続きが必要とされるが、これらを参考にしつつも、八千代市の実情に応じた学校と地域の
連携のあり方を「持続可能性」という視点から模索することが望まれている。
2.学校と地域の連携が必要とされる実際的問題
わが国における一般的な傾向に八千代市の実情を加えると、現在、学校・家庭・地域のそれぞ
れにいくつもの問題が存在する。学校と地域の連携のあり方を検討する際に、以下に掲げるよう
な問題に適切に対応できるようにすることが必要である。
◆学校の問題
学校は主として子どもの教育を行う機関である。しかし、地域とのつながりが疎遠になりつつ
ある現状において、以下のような問題が発生するようになった。
* 学校は、基本的に同年代の子どもを集めて効率的に教育する機関である。そのため、教師と
子どもという年齢的な上下の関係と同年代の仲間という水平的な関係によって構成される。近
年、次の時代を生きる子どもたちに必要な資質・能力として新たに注目されているのは、多様
学校と地域の連携が必要とされる
実際的問題
• 学校の問題
*子どもの人間関係が貧弱になり、多様な対人関係の体験ができない。
*教員が雑務に追われて多忙化し、本来の仕事に専念しにくい。
• 家庭の問題
*家族単位の生活時間が長くなり、互いに支え合う関係が築けない。
*共働き率が高くなり、PTA活動や各種の地域活動に参加しにくい。
• 地域の問題
*地域住民の関係が希薄になり、互いに支え合う関係が築けない。
*コミュニティ構築のための活動スペースを確保しにくい。
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な対人関係の体験であり、そこではぐくまれるコミュニケーション能力などである。現在の学
校が有する人間関係の基本的な構造では、これらの課題に応えることに難しく、学校が必ずし
も多様な対人関係を体験できる場になり得ていない。
* 一方、学校に寄せられる期待や要請は多様になり、諸会議の開催や書類の作成、子どもへの
個別的ケアなど教員の職務は実に多岐にわたるようになっている。教員本来の職務は、地域や
保護者からの負託に応え、子どもの将来を見据えた健全な成長に資する点にある。しかし、現
状においては雑多な仕事に多くのエネルギーを注ぐことを余儀なくされ、本来の職務に専念で
きない現状にある。全国的なデータでは、メンタルヘルス上の問題を抱えている教員が急増し
ていることが報告されており、それへの対応も急がれている。
◆家庭の問題
現代の家庭は以前に比べると大きく変化している。とりわけ、核家族化の進行は、単に家族の
人数が減少したという点に留まらず、子どもの教育においても新たな問題を発生させている。以
下に掲げるのは主として全国的な傾向ではあるが、八千代市にも共通していると考えられる。
* 一般的な状況としては、プライバタイゼーション(私事化)の進行が指摘されている。これ
は、幸せの追求が個人または家族単位で行われる動向を意味し、結果として家族と家族のつな
がりが希薄化し、その延長線上にある地域のつながりも希薄化する。このような流れの中にあ
って、
実はそれぞれの家庭がお互いにもっとつながりたいと思っているのではないか。
そして、
発達上あるいは福祉的な面において問題を抱える子どもも多くなり、相互の支え合いは理念的
にも実際的にもますますその重要性が高まっている。
* 女性の社会進出が進行し、結果として共働き率は上昇している。これは、社会的な動向とし
て当然のことであり、今後もいっそう上昇する見込みにある。そのため、かつてのようにPT
A活動や授業参観を平日に行うことは困難になりつつあり、それがまた保護者の教育参加を困
難にしている一因にもなっている。とはいえ、教育は学校と家庭との連携を欠いては成り立た
ない。このジレンマをどう解消するかが、喫緊の課題となっている。
◆地域の問題
地域の教育力の低下が叫ばれて久しい。学校や家庭に比べるとそれを担う当事者が必ずしも明
確ではなく、家族単位・個人単位のライフスタイルが定着しつつある現状ではそれもやむをえな
い。しかし、これからの時代は相互に扶助し合う地域的な基盤が必要であり、現代的な状況にお
ける地域コミュニティの形成はとりわけ都市化が進行する地域には喫緊の課題である。
* 都市化が進行した地域では、一般に住民相互の関係が希薄になりつつある。その一方で、現
代社会を生きるための不安は増大し、互いに支え合う関係もまた求められている。そのため、
実情に応じた新たなコミュニティの構築の模索が各地で行われている。
* 地域コミュニティの形成を物理的な側面から支えるのは、人々が集まり交流するための場所
やスペースである。学校は以前からずっとそのための施設として期待されていたが、この傾向
は今後いっそう強まるものと思われる。
* もうひとつ特記すべきことは、団塊世代の大量退職により、豊富な経験と智恵を持ち合わせ
ている年代が地域には多く存在するようになったという点である。多くの調査により、この層
は何らかの形で社会に貢献したいという意欲をもっていることが明らかになっている。学校と
地域を結ぶ媒体的な存在として、この年代のもつ経験と智恵を生かしていただきたい。
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3.学校と地域の連携が求められる教育的背景
学校教育の目的は、教育基本法が定める人格の完成にあり、そのための基盤として一人ひとり
の自律性の育成が求められている。
下の図は根本孝氏(明治大学)によるもので、これからの教育のあり方を示唆している。伝統
的な教育は、図の下から上へと、すなわち子どもたちの自律性の伸長に向けられていた。しかし、
そのための基盤としての関係性の構築が欠かせない条件であることを示している。
個人の自律性が高く相互の関係性が低い社会(図左上の「競争社会」
)では、競争が生じやすく
相互に支え合う関係は築けない。
これと対称的に相互の関係性が高く個人の自律性が低い社会
(図
右下の「親和社会」
)では、人々の関係は良好であるものの、お互いに伸びるという生産的な関係
が築けない。根本氏は、かつてのアメリカを「競争社会」
、かつての日本を「親和社会」のそれぞ
れ典型としているが、この図からそれぞれの社会がもつ課題が明らかになる。
下の図はこれを学校に置き換えたものであるが、子どもたちの成長を個別的に促していくこと
はしばしば「競争関係」を生む傾向にある。また、関係性のみを強調すると、成長に向けた気概
に乏しい集団になりやすい。この図を参考にすれば、お互いに支え合って共に伸びることを意味
する「共生社会」こそが、これからの学校のあり方の理想的な姿と考えることができる。
そして、この関係性は、第一義的に学校の中にいる子ども同士、子どもと教師、教師同士の親
密な関係を必要とする。さらに、学校間の連携、学校の地域との連携などを促進することによっ
て、より多様で強力な基盤となり得る。それが、現代的教育課題の視点から見た場合の、学校と
地域の連携を必要とする根拠である。
学校と地域の連携が求められる
教育的背景
自律性
高
競争関係
共生関係
低
関係性
高
関係崩壊
親和関係
低
学校は、多様な関係によって支えられて共生社会になる
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4.
「地域コミュニティの拠点としての学校」の具体的イメージと定義
以上の考察をもとにすれば、
「地域コミュニティの拠点としての学校」のイメージは次のように
描くことができる。
◆地域に貢献する学校
学校は、地域の中心に位置する公共の機関であり、コミュニティ形成への大きな貢献が求めら
れる。それは、第一義的に子どもに充実した教育を提供することによって成し遂げられるが、そ
れ以外にも施設・設備の提供、学校のもつ資源(リソース)の提供など、地域住民のニーズに応
える貢献の仕方が考えられる。
◆学校を支援する地域
学校教育の特色や質・レベルなどは、地域のもつ資源の総和によって決定される。地域がもつ
資源とは、人・物・資金などが考えられるが、教育において特に重視されるべきは人的資源であ
る。具体的には、地域住民が子どもの教育と地域に貢献する学校に対して、どれほど人的な資源
を注げるかにある。特色ある学校づくりは、地域の学校支援によって成し遂げられる。
◆「地域コミュニティの拠点としての学校」の定義
以上の考察を踏まえ、学校を主語にして定義すれば、
「地域コミュニティの拠点としての学校」
とは、
「地域との協働作業によって、自らが行う教育の質の向上を図るとともに、地域コミュニテ
ィの活性化にも貢献し得る学校」とまとめることができる。今次の学校適正配置事業の対象とし
て焦点が当たっている八千代台地域には、これまでの学校や地域住民の方々の努力により、この
方向に向けた発展のための素地は十分備わっていると考えられる。新しい学校には、それを制度
的・実際的に支えいっそう発展させることが期待されている。
地域コミュニティの拠点としての学校の
具体的イメージ
←学校を支援する地域
地域に貢献する学校→
「地域コミュニティの拠点としての学校」とは
地域との協働作業によって、自らが行う教育の質の向上を図るとともに、
地域コミュニティの活性化にも貢献し得る学校のことを指す。
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5.地域コミュニティの拠点としての学校の具体的施策
学校と地域が相互補完的にかかわることを基本とすると、具体的には図に示したようなことが
考えられる。具体的にはこれから長期にわたって議論することが期待されるが、ここでは、特に
その議論のあり方について提言しておきたい。
教育は地域的なニーズに適切に応じることによって、地域と密接なつながりをもち、より充実
した教育活動が可能になる。とりわけ、すでに自分の子育てを終えた地域住民の方々が有する経
験や知恵は、そのための有力な力となり得る。それが、
「自分たちの学校」
「この町の学校」とい
う愛着を生み、長期にわたって学校を支える強力な力となるものと考えられる。その意味におい
て、学校設立の趣旨や目指す教育の方向などについて、地域住民や保護者を加えた検討チームに
よって議論されることが望ましい。
また、新しい学校で行う教育活動やそれを保障するカリキュラム構成についての検討も同時進
行で行うことが望まれる。教育空間としての校舎は、教育活動によってその構造や構成が決定さ
れると考えるからである。そのためには、人事異動等の事情から難しさもあるが、その学校で教
育に直接的に携わる(見込みの)教員等が検討チームに参加することが望まれる。
それらを考慮して、新しい学校づくりのための初期的段階から「検討チーム」を発足させ、特
に次の2点から具体的なあり方を検討することを期待する。
(1)
「地域コミュニティの拠点としての学校」という観点から、この地域に望まれ地域にふさわ
しい学校のあり方を具体的に検討する。
(2)新しい学校で推進する教育活動やそれを保障するカリキュラムのあり方について検討し、
それを支える学校の構造や必要な施設・設備などについてアウトラインを描く。
地域コミュニティの拠点としての学校の
具体的施策
• 地域の学校支援
*学校の諸活動への人的・物的支援(ex.学校支援地域本部)
*子どもの地域活動(総合学習・職場体験など)の支援
• 学校の地域貢献
*地域活動・安全のためのスペース・備品などの提供
*地域の諸活動への人材派遣(教員と子ども)
• 両者の協力的活動を推進するための具体的施策
*交流のための会議スペース・活動スペースなどの構築
*子どもの地域に目を向けた活動の積極的展開
*活動のための総合的施策を協議する組織・機関(○○本部)の設置
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