アカデミックオープンプログラム 中間研究報告書 血液循環系における血管壁と血液との相互作用に関する研究 京都工芸繊維大学 機械工学系 福井智宏 完全大血管転位症は左心室から肺動脈が,右心室から胸部大動脈が発生する 先天性心疾患であり,その代表的な治療法として新生児期における大血管転換 術(以下,転換術と記す)が挙げられる.転換術は胸部大動脈と肺動脈を入れ 替えた後,冠動脈を大動脈基部に移植する手術であるが,両大血管の発生学上 の位置関係のため,転換術後の胸部大動脈は湾曲や捩れといった幾何学形状の 変化が生じる場合が多い.壁面せん断応力をはじめとする血行力学的因子の時 間,空間的分布と動脈硬化症や動脈瘤などの血管疾患の局在化との関連性に着 目すると,転換術による幾何学形状の変化に起因する血行力学の変化は成人期 における血管疾患の発症リスクを増加させる恐れがあると考えられる.そのた め,転換術後の胸部大動脈の幾何学形状が血行力学におよぼす影響を詳細に調 べることが重要である.近年の計算技術の向上により,胸部大動脈内の血行力 学を数値流体解析を用いて調べた研究が盛んに行われているが,それらの多く は健常者の胸部大動脈を対象としたものであり,転換術後の胸部大動脈内の血 流を調べた研究はほとんどない.本論文では,医用画像データから HyperWorks 数値計算解析用モデルを作成するアルゴリズムを説明する. 図 1 に医用画像データの例を示す.まず,医用画像データから中心軸座標を マニュアル操作により抽出する.次に,抽出した座標を三次スプライン曲線で 結ぶ.作成する大動脈モデルの内壁側を後に定義するために単位法線ベクトル n1 を求めておく.これは,頭部から見た中心軸を最小二乗法により線形近似し た直線に対する単位法線ベクトルとして求める.次に,n1 と中心軸の接線ベク トル t の外積により,血管内側方向の単位法線ベクトル n2 を求める.また,t と n2 の外積から法線ベクトル n3(血管右側)を求める(図 2). 図1 図2 医用画像データ モデルの作成方法 最後に,中心軸座標 Xc と半径 r0 および各単位法線ベクトルから血管壁の座標 Xs を求める(式(1)). X s = X c + r0 × ( n 2 × cos θ + n 3 × sin θ ) € (1) このようにして,作成したモデル例を図 3 に示す.ただしモデル中の番号は, モデル作成時に使用した抽出点を表す.今後は,さらに血管壁の弾性をモデル 化することにより,心臓の拍動に伴う血管形状の変化も含めた HyperWorks に よる流体̶固体連成解析を行う予定である. 図3 モデル概略図 参考文献 [1] 浅間浩明,福井智宏,木村学,糸井利幸,森西晃嗣, 大血管転換術後の胸 部大動脈における血液流れの数値解析 ,日本 VR 医学会誌,12(1),pp. 1-8, 2014. [2] 浅間浩明,福井智宏,木村学,糸井利幸,森西晃嗣, 大血管転換術が胸部 大動脈の血行力学におよぼす影響の数値解析 ,ながれ,34(2),pp. 167-174, 2015.
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