T クラスによる風車終局荷重の評価 - 一般社団法人 日本風力エネルギー

T クラスによる風車終局荷重の評価*1
Evaluation of Wind Turbine Ultimate Load for Class T
*2
今村博
*2
戸塚義孝
*2
ネマニャ コマティノビッチ
*3
小垣 哲也
H.IMAMURA, Y.TOTSUKA, N.KOMATINOVIC and T.KOGAKI
モデル(BEM)をベースとした AeroDyn が組み込まれており、
1. はじめに
商 用風車 の 設 計は 、 欧米 の 風条件を ベ ー ス と し た
(1)
構造計算(FAST)との連成解析を行うための空力(空気力に
IEC61400-1 に定められているが、我が国のような台風や山
よる力)計算を行う。空力計算結果を入力として、構造系に働
岳・丘陵部における高乱流サイトでは設計要件と適合しない
く応力等が FAST により計算され、ブレードの挙動が再び
ことが問題とされている。
AeroDyn の計算にフィードバックされる。時系列解析はこの
NEDO 次世代風力発電技術研究開発(基礎・応用技術研
プロセスを各時刻で計算を行うものである。計算結果として、
究開発)では、IEC による国際標準に対して我が国からの提
発電出力、荷重および構造変位等の時系列データが出力さ
案を行うために、2008 年度より複雑地形風特性モデルの開
れる。
発を行っており、NEDO により行われたフィールドテスト事業
2.2 風車モデル
(2),(3)
や複雑地形お
解析対象とした風車は GH Bladed で提供されている 2MW
よび台風要因極値風速による風車荷重に与える影響の解析
モデル風車(7)とした。2MW モデル風車は、ブレードピッチ制
(4),(5)
御による可変速運転機である。モデル風車の諸元を表 1 に
のデータやガイドライン計測データの解析
を実施している。
本研究は、日本が IEC へ提案している風車クラス T(参照
示す。
風速 57.5m/s)および極高乱流カテゴリ H(Iref=0.18)が風車設
GH Bladed の制御シーケンスのパラメータなど、FAST のイ
計へ与える影響を調べることを目的としている。ここでは、台
ンプットファイルが異なるパラメータがあるため、NREL の風
風要因による極値風速および複雑地形上の風特性が風車
車モデル(9),(10)などを参考にして設定を行った。
の終局荷重に与える影響について、空力弾性解析を行うこと
荷重計算の評価には、ブレード根元に作用する力および
で IEC の風特性モデルの適合性について評価を行う。空力
モーメントおよびタワー頂部および基部に作用する力および
(6)
弾性解析にはシミュレーションコード FAST を用いた。
モーメントについて行った。
2.3 解析条件
2. 解析方法および条件
風車クラス T
2012 年 12 月より IEC61400-1 第 3 版の改定作業が開始さ
2.1 空力荷重解析
風車の荷重解析には、アメリカの NREL(国立再生可能エ
れ、日本からは、熱帯性低気圧による強風をカバーする新し
ネルギー研究所)で開発された空力弾性シミュレーションコ
い風車クラス T を提案している。図 1 は、建築基準法に定め
ード FAST を用いた。
FAST は風車の認証機関であるドイツロイド船級協会(GL)
から、風車荷重解析ツールとしての認証を得ている。また、
同様の代表的なソフトウェアとしてガラードハッサン社(GH)
の Bladed(7)があるが、FAST はソースコードが公開されており、
ユーザがカスタマイズすることも可能である。
疲労寿命等の予測に必要な風況の時系列データは、
Turbsim(8)などにより生成した風データを用い、FAST への入
力データとする。
FAST には、空力解析モジュールとして翼素運動量理論
*1 平成 24 年 11 月 28 日第 33 回風力エネルギー利用シンポジ
ュウム
*2 風力エネルギー研究所 〒105-0004 港区新橋 4-29-6
*3 産業技術総合研究所
Tab.1 Specifications of 2MW baseline model
Parameter
Rotor diameter
Number of blades
Teeter hinge
Hub height
Offset of hub to side of tower centre
Tower height
Tilt angle of rotor to horizontal
Cone angle of rotor
Blade set angle
Rotor overhang
Aerodynamic control surfaces
Fixed / Variable speed
Cut in windspeed
Cut out windspeed
- 352 -
Specification
80
m
3
N/A
61.5
m
0
m
60
m
4
deg
0
deg
0
deg
3.7
m
Pitch
Variable
4
m/s
25
m/s
られている基本風速(50年再現の10分平均風速)に対して、
止(DLC5.1)、⑥待機中(DLC6.1~6.4)、⑦待機中に故障発
クラス T の風速を下回る面積カバー率をハブ高さ別に示した
生(DLC7.1,7.2)お よび⑧輸送,組立,保守及び修理
図である。風速の鉛直分布は粗度区分II を用いた。図1 によ
(DLC8.1~8.3)の計 33 の荷重ケースが設定されている。
り、参照風速を Vref=57.5m/s とすることで、日本における面積
ここでは、疲労荷重および輸送,組立,保守及び修理に
カバー率が向上することが分かる。
対する条件を除いた終局荷重評価のための 26 の DLC を実
解析パラメータ
施した。
表 2 に空力弾性解析のための風車クラスおよびカテゴリの
基本パラメータを示す。風車クラスは IEC のクラス I を基準と
3. 解析結果および考察
して、Vref =57.5m/s としたクラス T および Vref =57.5m/s とした
図2 は、吹き上げ角AOI=0°および 8°に対するブレード
Vref =60m/s としたクラス T について調べる。また、乱流カテゴ
根元における終局荷重を Vref=50m/s の荷重で無次元化して
リは IEC のカテゴリ A を基準とし、更に高乱流カテゴリ H の
比較している。クラス T および R によるフラップ方向荷重
影響を評価する。
(RootFxb3)は、Vref のほぼ 2 乗に比例して大きくなり、
山岳部の斜面などを含む複雑地形では、風車ロータ面へ
Vref=50m/s における荷重の部分安全率(通常時 1.35、異常時
の吹き上げ角が平坦地形よりも大きくなる場合が考えられる
1.1)を越えた値となる。吹き上げ角の違いによる荷重への影
ため、最大吹き上げ角 AOI の 8°も計算条件に加えた。なお、
響はそれほど顕著でない。
表2に示すカテゴリは現行のIEC61400-1 Ed.3の定義に従い、
極高乱流用のカテゴリ Iref = 0.18 を加えたものとした。
紙面の都合で図は示さないが、終局荷重に対する Iref の影
響は顕著に現れない(計算シードの数の影響による荷重の
IEC61400-1 では、設計荷重条件(DLC)として、①発電
ばらつきは考慮していない)ため、Iref による終局荷重が卓越
(DLC1.1~1.6)、②発電中の故障発生(DLC2.1~2.4)、③
する条件の場合、荷重に差が現れない結果となった。例え
起動(DLC3.1~3.3)、④通常停止(DLC4.1,4.2)、⑤緊急停
ば、ブレードのフラップ方向モーメント(RootMyb3)の場合、
終局荷重に与える Vref の影響よりも Iref の影響(DCL2.1 によ
Roughness class II
Percentage area covered [%]
100
V0=50[m/s]
V0=57.5[m/s]
る)の方が大きいことから、Vref によらないことを確認した。
これに対して、タワー基部のロールモーメント(TwrBsMxt)
90
は Vref の影響を受け、クラス T はクラス I の 2 倍を超えるモー
80
メントが発生した。ただし、タワーの設計を変更すれば、荷重
70
を下げることも可能と考えられる。
60
50
図 3 は、Vref および Iref の影響をまとめたものである。図 3
40
に示されるように、終局荷重に影響を及ぼす荷重条件は、
30
DLC2.1(発電および故障発生時における通常乱流モデル)
20
および DLC6.2(待機中における電力系統損失時の再現期
10
間 50 年の EWM)が多いことが分かる。DLC2.1 は Iref の影響
0
50
60
70
が、DLC6.2 は Vref の影響が関係する荷重条件である。
80
Hub height [m]
要素別に見ると、ブレードおよびタワーは DLC2.1 および
Fig.1 Area covered by V0 =50 m/s and 57.5 m/s of reference wind speed
Tab.2 Wind conditions for ultimate load simulations
Class
I
T
R
Vref [m/s]
50
57.5
60
*2
Iref
DLC6.2 の影響が卓越しているが、LSS では、関係する荷重
条件が 8 つと多く、LSS からギアボックスおよび HSS に働く
荷重の評価は多くの荷重条件の影響を考慮する必要があ
る。
図 4 および表 3 は全ての要素に対して、最大および最小
荷重を得たケースをまとめたものである。ここに示されるよう
A
0.16
H
0.18
よび故障発生時における通常乱流モデル)および DLC6.2
0
(待機中における電力系統損失時の再現期間 50 年の
8
EWM)が多いことが分かったことから、使用されている風モ
Flow inclination
angle [deg.]
*1 Vav は疲労荷重に対する平均風速の影響を調べるため
用いる。
*2 Ed.3 の NTM に準拠
に、終局荷重に影響を及ぼす荷重条件は、DLC2.1(発電お
デルの NTM および EWM を現地観測データなどを用いて
評価・検討することも必要と考えられる。
- 353 -
Vref=57.5m/s(max.)
Vref=57.5m/s(min.)
Vref=60m/s(max.)
Vref=60m/s(min.)
1.80 normalized by value of Vref =50m/s
normalized by value of Vref =50m/s
1.80 1.60 1.40 1.20 1.00 0.80 Vref=60m/s(max.)
Vref=60m/s(min.)
1.60 1.40 1.20 1.00 0.80 0.60 0.60 0.40 0.40 0.20 0.20 0.00 Vref=57.5m/s(max.)
Vref=57.5m/s(min.)
0.00 RootFxb3
RootFyb3
RootFzc3
RootMxb3
RootMyb3
RootMzc3
RootFxb3
(a) AOI=0deg.
RootFyb3
RootFzc3
RootMxb3
RootMyb3
RootMzc3
(b) AOI=8deg.
Fig.2 Normalized shear force and moment at blade root.
(a) Blade root
(b) LSS
(c) Tower top
(d) Tower base
Fig.3 Frequency of max. and min. value occurrence in DLC for Vref and Iref.
以上、風車クラス T および乱流カテゴリ H が終局荷重に与
1) 終局荷重条件に対する風車クラスおよびカテゴリの影響
える影響をまとめると次の通りとなる。
は、荷重条件により異なり、Vref はクラスによる差が顕著で
- 354 -
を開発や制御パラメータの最適化などの対策が必要と考え
られる。
IEC61400-1 Ed.3 では、風モデルを用いる設計荷重条件
は、風車の制御方法に加え故障・事故などの発生回数やヨ
ー角、計算セット数などを考慮する必要があり、シミュレーシ
ョンの妥当性を確保するためには、相当数のシミュレーショ
ンの実施が必要となる。風車の設計方法により評価結果の
傾向が変わるが、風モデルの選択については、一部選択方
法が明記されておらず、改善が望まれる。
参考文献
(1)
IEC61400-1 ed.3:Wind turbines - Part 1 Design requirements,2005.
(2)
Fig.4 Total contribution on the ultimate load cases
谷垣三之助,小垣哲也,松宮煇,今村博,我国風況
の乱流特性と IEC61400-1 Ed.3 の乱流モデル-第 1 報,
第 31 回風力エネルギー利用シンポジュウム講演論
Tab.3 Influences for ultimate load
Parameter
Vref
Iref
AOI
Influence
Large
Small
small
DLC
6.X, 7.1
2.1, 1.3
6.X, 7.1
文集,2009,pp.161-164.
(3)
谷垣三之助,小垣哲也,松宮煇,今村博,我国風況
の乱流特性とIEC61400-1Ed.3の標準乱流モデル-第2
報-、第 32 回風力エネルギー利用シンポジュウム、
2010.
あり、クラス T およびクラス R ではクラス I 風車の荷重の
(4)
部分安全率ではカバーできないことが分かった。
今村博,戸塚義孝,小垣哲也,谷垣三之助,風車疲
労荷重解析による複雑地形風特性モデルの評価,日
2) 終局荷重条件に対する Iref の影響はあまり大きくなく、カ
本機械学会 2011 年度年次大会講演論文集(in
テゴリ H はカテゴリ A 風車の部分安全率でカバー可能な
CD-ROM)
,2011,p.5.
(5)
範囲にある。
3) 吹き上げ角は終局荷重の評価にはあまり関与せず、荷
荷重に与える影響の評価,日本機械学会 2011 年度年
次大会講演論文集(in CD-ROM)
,2011,p.4.
重条件によっては、ヨーミスアライメント角の影響が大き
い。
今村博,戸塚義孝,鈴木章弘,極値風速が風車終局
(6)
J.M. Jonkman and M. L. Buhl Jr.,FAST User’s Guide,
(7)
GL Garrad Hassan,Bladed V4,2010.
(8)
B.J.
NREL/EL-500-38230,2005.
4. おわりに
日本を代表とする複雑地形に起因する乱流強度、ガスト
TurbSim
User's
Guide
,
NREL/TP-500-46198,2009.
特性、台風といったトロピカルサイクロン襲来に伴う極値風特
性を反映した複雑地形・台風要因極値風特性モデルが風車
Jonkman,
(9)
G. Bywaters,et al.,Northern Power Systems WindPACT
設計に及ぼす影響を、空力弾性解析ソフトウェアを用いて評
Drive Train Alternative Design Study Report ,
価した。
NREL/SR-500-35524,2004.
クラス T を追加することで、熱帯低気圧が通過する地域を
(10) J. Jonkman, et al., Definition of a 5-MW Reference Wind
含めて、日本のほぼ全ての地域をカバーすることが期待で
Turbine
きるが、終局荷重解析の結果から、クラス T の風車はクラス I
NREL/TP-500-38060, 2009.
の荷重の部分安全率ではカバーできないことが分かり、クラ
ス T 対応の新しい設計が必要なことが示された。
解析で用いた風車モデルは、GFRP を用いたコンベンショ
ナルな仕様であり、本解析で示された終局荷重条件に対し
てブレードの健全性を維持するためには、従来の手法によ
る設計ではコストの増加は避けられないため、ブレード材料
に CFRP を導入するなどして、軽量かつ強度の高いブレード
- 355 -
for
Offshore
System
De-velopment,