国際標準化の現場で何が起きているのか?

国際標準化の現場で何が起きているのか?
問われる日本の国際標準化戦略
その手足を低き地に働かし、その心を高き天に置けよ。
河村九淵
今の日本に必要な人は、口先だけの評論家ではなくて、高邁な思想に生きる実践家だ。
・QRコード(部品実装用)、スイカ(ソニーのFeliCa)、UHV(東京電力)の国際標準化請負達成
・IEC(国際電気標準会議)/SMB(標準管理評議会)日本代表委員(2004年1月から継続中)
・国際標準化活動への功績により内閣総理大臣表彰を受彰(2008年10月)
・NHKの社会報道番組「追跡!A to Z 国際標準戦争」に出演(2009年8月)
・著書「世界市場を制覇する国際標準化戦略」が大川出版賞を受賞(2010年3月)
日本規格協会国際標準化支援センター主幹 原田節雄
2010年7月29日(本資料には作者の著作権を主張し、無断のコピー、転用を禁止します。)
参考図書
世界市場を制覇する国際標準化戦略(2008年9月、東京電機大学出版局、1995円)
目からウロコの英語とタイプの常識(2008年1月、パレード・星雲社、2100円)
ユビキタス時代に勝つソニー型ビジネスモデル(2004年3月、日刊工業新聞社、1470円)
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良書を読み、深く考え、広く経験し、真実を知り、真理を求め、そして実行する人になろう!
1. 国際標準化ビジネスの環境変化
ルール・ビジネス(法務、金融、保険、知財、標準など)の時代――政治の時代
誰もが認識し始めた事実
・今、日本にとって国際標準化が重要な課題になっていること
・当然、国際標準化を推進できる人材も必要になっていること
日本の産業発展を願う心は産官学で同じだが ・・・ その現実は:
誰もが具体的な問題点を把握していない。漠然とした理解からは、漠然が生まれる。
敗者になり、さらに捕虜になっても、その事実を自覚できない日本人
・沈黙する技術大国日本の護送船団型企業
・暗躍する政治大国欧米の独立独歩型企業
国際標準化バトルフィールドで欧米に負け続ける日本の現実 ・・・ 幾多の事例 ・・・
それは一体、誰の責任なのか?電力、通信、鉄道などの業界は何をしてきたのか?
国際標準化の21世紀の意義と国際標準化の全体像を知らない人たちが、自分が理解して
いる範囲内で、国際標準化を捉えて話している。評論家ばかりで、実践家がいない世界。
国際標準化の成否は、技術の優劣ではなくて、政治の巧拙で決まる。だが、政治家がいない。
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2. 貧困→成長→富裕への社会経済変化
衣食住から、衣食住医飾へ
貧困社会:衣食住だけを求めて、医も娯楽もない社会
成長社会:衣食住に加えて、医と娯楽が求められる社会
富裕社会:衣食住を忘れてしまい、医と娯楽(飾)だけに生きる社会
娯楽社会の特徴(必要社会 → 不要社会)与えられる餌に喜ぶ受動的な人々の増加
虚飾:非権力者が娯楽に踊ってカネを使う行為。しかし、飾だけでは日本が滅びる。
士農工商から、士農工商法へ(金融、保険、法務、知財、標準などのルールビジネスの繁栄)
士業社会:武力で土地を奪い、農業、漁業、林業などを始めることを可能にする。
農業社会:農業を発展させて、最低限度の食生活を安定させる。
工業社会:工業を発展させて、農業、漁業、林業などの生産性向上を図る。
商業社会:商業を発展させて、生産性向上の結果としての余剰産物を売り豊かになる。
法業社会:法規で社会を縛り、実業(士農工商)から利益を奪う虚業がはびこる。
規制社会の特徴(実業社会 → 虚業社会)すべての仕組みを複雑にする人々の増加
規制:権力者が仕事を作ってカネを得る行為。しかし、法だけでは日本が滅びる。
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3. 国際標準化の縛りと環境の変化――経済戦争の武器
国際標準化の歴史的な四大イベント
(a) 富裕社会になってすることがなくなり、規制(標準)を作りいじくり続ける人・組織・国の増加
(b) 先進国並になった日本の賃金と、通信網や交通網などの発達による世界文化の均一化
(c) WTO/TBT(貿易の技術的障壁)およびWTO/GP(政府調達)の協定締結(1995年)
(d) 中国のWTO加盟(2001年)
国際標準を貿易障壁にしない行為(非排他)は、それを貿易障壁にする行為(排他)でもある。
・WTOが国際標準の意義を変えた。しかし、WTOは政府間の交渉問題だ。
・提言する政府(日本)と実現する政府(米国とEU)の違いを理解しよう。
・提言に失敗はないが、実現(ビジネス)に失敗はある。
富裕で平和な国際社会になると、人々は武力戦争をしなくなり、経済戦争をするようになる。
武力戦争の武器は兵器。経済戦争の武器は法規。 法規は個人の都合でつくられる。
発言人、陳述人、懇願人と、交渉人は違う。
文句を言う人、意見を述べる人、陳情をする人は行動する。 取引する人は実現する。 4
4. 日本企業の国際標準化の課題
なぜ、社会経済の変化が認識できないのか?――激変する国際社会と出遅れる日本企業
(a) 貧困社会では、工業標準分野で重視されてきた度量衡標準が主体
工業先進国の英独仏の得意分野
(b) 成長社会では、世界市場で重視されてきた機器互換性標準が主体
寡黙で勤勉な日中韓の得意分野
(c) 富裕社会では、国際貿易で重視されている各種の管理標準が主体
政治に長けた英語国の得意分野
なぜ、国際標準の獲得が必要なのか?
(a) WTO(世界貿易機関)のTBT(貿易の技術的障壁)とGP(政府調達協定)
表層的な話で、実際に問題になった事例は少ない。(例:JR東日本のSuica)
(b) 高品質かつ低賃金の労働から、高品質かつ高賃金の労働へ(機械労働から人脳労働へ)
実質的な話で、独自技術を開発して国際市場を技術と政治でリードし続けることの必要性。
なぜ、日本企業は国際社会で存在感を失っていくのか? 国際標準化で失敗し続けるのか?
・技術と企業経営だけを論じ、人と組織(政治)の問題を看過している。
・規格作成プロセスだけを論じ、企業経営とスキル(タイプ・英語・交渉)の問題を看過している。
・貧困・成長・富裕(誕生・成長・成熟)という事象の変化への認識と違いへの対応ができていない。
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5. 三大国際標準化機関――ルール・ビジネスの主役
国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)
無線および有線の電気通信分野の技術標準化
国連機関の一つで、原則として国(総務省)が参加する?
国際電気標準会議(IEC: International Electrotechnical Commission)
電気および電子関係の分野の技術標準化
任意団体で、代表として一国から一組織(JISC経済産業省)が参加する?
国際標準化機構(ISO: International Standardization Organization)
上記の二機関が担当しない分野の標準化(技術に限定されない)
任意団体で、代表として一国から一組織(JISC経済産業省)が参加する?
標準化プロセスロンダリング機関(民間企業参加)
ITU -> 欧州電気通信標準化機構(ETSI: European Telecommunication Standards Insititute)
IEC -> CENELEC、エクマ(Ecma International)、IEEE
ISO -> CEN、エクマ(Ecma International)
・三大国際標準化機関は、スイスのジュネーブに立地している。
・国際標準化プロセスは、国が代表として参加していると信じられている。
・その現実の姿では、民間企業が代表として参加し国際標準化を進めている。
・採択自由の任意規格だが、参加国にとっては紳士協定による順守が求められる。
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6. 縦横に組織が分断されている国際標準化機関
International SDOs
IEC
CO
Organizations
Hierarchy
I
I
T I J S
U E T O
C C
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JISC/APC・ANSI, etc.
TC/SC
WG/PJ
Technical Fields
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7. 国際標準の二面性――排他性と非排他性
広義の標準化とは?
放置すると数が増えて複雑化し無秩序化する実体を少数化・単純化・秩序化する活動のこと
技術の標準化の意義と効用とは?
品質の確保、安全性の確保、互換性の確保など、利便性を成立させること
国際標準化の目的とは?
利便性を念頭においた国境をまたぐ社会の構築のこと(国という概念を否定する行為)
四種類の国際標準化ビジネス――その本音はすべて排他的(公益の仮面に隠された私益)
自由ビジネス:デファクト標準で市場を寡占化して稼ぐこと → 建前の排他性
特許ビジネス:特許という排他的権利を利用して稼ぐこと → 建前の排他性
規制ビジネス:デジュール標準で市場を共通化して稼ぐこと → 建前の非排他性
認証ビジネス:認証という作業でお墨付きを与えて稼ぐこと → 建前の非排他性
・国際標準は、使う側から見れば非排他的であり、作る側から見れば排他的な存在だ。
・民間企業にとって、非排他的な実体に排他性を組み込む行為が国際標準化だ。
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8. 標準化の二面性の理解――共通化と寡占化
二種類の国際標準化手法への理解(演繹と帰納の手法の違い)
デファクト標準(寡占化を目指す私的標準=帰納的な”結果”標準)
市場競争の結果、広く使われるようになった(標準化された)規格のこと
デジュール標準(共通化を目指す公的標準=演繹的な”原因”標準)
世界的に著名な国際標準化機関、地域/国家標準化機関、国内標準化機関(工業団体)
などで標準という名前で登録された(標準という呼称を与えられた)規格のこと
時代と場合で選べる標準化手法の一つ (権力または教育による大衆の洗脳)
・国家権力による演繹的標準化(原因標準・権力標準・演繹標準という言葉で理解する)
(開発途上国に多いデジュール標準的発想で、行政任せの共通化)
・市場競争による帰納的標準化(結果標準・教育標準・帰納標準という言葉で理解する)
(工業先進国に多いデファクト標準的発想で、民間任せの寡占化)
標準化という言葉のビジネス上の意味は曖昧だ。共通化または寡占化という言葉で理解
しよう。ただし、共通化して寡占化することもあれば、寡占化して共通化することもある。
究極の標準化: 思想(宗教)、経済(貨幣)、文化(言語)の社会生活標準化! ツールが必要。
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9. ビジネスとして理解するべき国際標準化――その縛り
二種類の国際標準化ビジネスへの理解(行政/団体と民間の立場の違い)
(a) 協定または法律(社会基盤)へ対応する標準(デジュール標準的発想)
・WTO/TBT(Technical Barriers to Trade)Agreement: 貿易の技術的障壁に関する協定
・WTO/GP(Government Procurement)Agreement: 政府調達に関する協定
・特許法(IPRs/TMs)
・著作権法(AVコンテンツ、規格文書、規格に含まれるソフトウエア)
・独占禁止法(標準化手法および市場占有における排他性)
・電波法
・安全法
・セキュリティー、暗号
・システム管理標準(ISO9000やISO14000などの準法規)
・数値のカタログ記載を目的とした各種性能仕様測定方法(ビジネスに直接影響する)
(b) ライフスタイル(個人嗜好)へ対応する標準(デファクト標準的発想)
・ビデオカセットおよび記録再生フォーマット
・光ディスク物理フォーマット
・インターフェース, etc.
民間企業にとって、 (a) と (b) の両方が重要だ。しかし、標準化団体の目は (a ) に向き、
民間企業の目は (b) に向く。(a)へ の無関心と無頓着が、企業ビジネスの損失になる。 10
10. 歴史に伴い変化する国際標準化の対象と場所――頂上と底辺
Standards’ Profit and Choice Pyramids
Visible(Ad.)
Equipment
Regulation
権力という道具
(Service→Lifestyle)
Components
Semiconductors
Software
(Equipment→Service)
Materials
Invisible
(Mass production and sales)
(Patents and applications)
Lifestyle
差別化→教育、という道具
A variety of choices
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11. 日本と欧米の比較――成長できない人と国
国際標準化後進国の日本=下請け構造の部材メーカー(従属の構図)
標準の種類と数
部材メーカーの立場
日本 < ISO/IEC < ドイツ
部材 < 機器
< システム
自国に国家標準がほとんどない。不良品排除が目的。モグラ叩き型。
ISO/IECという場所で、国際標準化が検討されているらしい。
会議に出席して、日本の意見を言い、その意見を規格に反映させなければならない。
安心・安全・環境・公益という大儀名分の下に、公共の利便性が議論がされているという想像。
国際標準化先進国(欧米)
自国にたくさんの国家標準がある。不便の解消が目的。土地改良型。
そろそろ国家標準を国際標準にして市場を世界に広げたい。
ISO/IECという場所に提案して、そのまま国際標準にしてしまおう。
安心・安全・環境・公益という大儀名分の下に、国と企業のエゴが展開されているという現実。
国際標準は、必要なので提案されている。
提案者を国や組織だと思わないこと。提案者は個人。その個人名と提案の意図を確かめること。
提案者が所属する組織は腹黒く、提案者も腹黒い人だと思うこと。
そこからまともな対話が始まる。
武士道を信じる日本人。握手をした笑顔の手の下で、足払いをかけてくる欧米人。
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12. 日米欧ビジネスバトル――欧米に追いついた富裕の日本
日米欧に同じ産業が存在する場合(主流は二人)
社会インフラ:電力、鉄道、通信、エネルギー(不変)・・・・日本が問題を感じにくい部分(島国孤立)
軍事インフラ:半導体、暗号、コンピューター(不変)・・・・日本が問題を感じにくい部分(米国追従)
家庭インフラ:家電製品、自動車、ゲーム機(変化)・・・・国家戦略として絶対的に必要ではない。
国家としての必要度が高いほど、日米欧(または日中韓)の椅子取ゲームになる。
日本人のマインドの問題(会話ロボットの究極の一語)
日本人ロボット: I am sorry. (すみません) 決まりですから、仕方がありません。
欧米人ロボット: I do not know. (私は知らない) 私には無関係の話です。
自己主張が強い欧米人 vs 自己主張が弱い日本人。日本語という柔軟で脆弱な言語の問題。
標準化専門家が活躍できる場の絶対数が少ないので、学習機会が少ない。しかし、企業間バトル
の経験が複数回可能な場だから、優秀な人間を充てると専門家として育てることが可能。
企業の事業戦略の企業間バトルの経験は一生に一度しかできないのが普通。
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13. 日本行政と純民間企業が考える国際標準化アライアンス
某省の国際標準化戦略(国内市場保護という弱点)
日本独自のテレビ放送方式や携帯電話方式を海外に持ち出して欧米に敗れた。
だから、アジア諸国と標準化協力体制を構築して、日本を中心に欧米標準に対抗する。
某省の国際標準化戦略(アジア連合の夢と米国追従という弱点)
米国の国防省と商務省の力と保護の下で日本の安全や経済が保証されている。
だから、アジアを仲間に入れながら、米国とアライアンスを組んで欧州標準に対抗する。
某省の国際標準化戦略(外敵に無防備で海外市場を知らないという弱点)
鉄道は国内に閉じた産業だった。しかし、海外からの攻撃に気づき目覚めた。
台湾や中国など、海外(主にBRICs)に進出しなければならない。でも、どうしたらよいのだろうか?
某社の国際標準化戦略(海外市場を知っているが社会インフラ市場を知らないという弱点)
欧州は東欧から西アジア、それから東アジア、中国へと拡大している。海を隔てた英国と日本は?
だから、中国を仲間にして、欧州とアライアンスを組むべきだ。すでに日米欧中のインサイダーだ。
・日本という国は、欧米亜諸国のインサイダーにはなれない。
・日本という国の企業は、欧米亜諸国の企業のインサイダーになれる。
日本発の国際標準化はことごとく欧米に負けたが、一企業発の国際標準化なら欧米に勝てる。
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14. 世界の行政と民間企業の国際標準化アライアンスの現実
欧州の行政と企業(欧州地域標準化を目標から民需インフラの国際標準化へ)
EUが欧州各国の企業と手を組みながら、EUの費用をつぎ込んで技術開発と国際標準化を進め
ている。国際社会インフラの構築が標準化の中心になっている。
米国の行政と企業(米国国家標準から官需インフラの国際標準へ)
DOD/DOCが米国の企業と手を組みながら、米国の費用をつぎ込んで技術開発と国際標準化を
進めている。セキュリティーなど、軍事インフラの構築が標準化の中心になっている。
中国の行政と企業(中国独自標準の国際標準化による自国の経済保護)
国が国家研究機関を支援しながら、中国の費用をつぎ込んで技術開発と国際標準化を進めてい
る。海外からの特許攻撃に対する防御が標準化の中心になっている。
日本の行政と企業(日本発の国際標準化の重要性を叫ぶだけ)
国が国家研究機関や民間企業に国費で標準化を支援し、バラバラな政策で無策を続けている。
民間企業も、ことの重大さに気づかない。口で注意するだけで、子どもの躾ができない親と同じ。
主体性の欠如:国際標準化関係の会議に出席するので国が支援して欲しい、と言う企業は標準
化ビジネスの敵ではない。これが、黙って自社負担で出席するようになると要注意の企業になる。
韓国の行政と企業(日本追従から米国追従へ。そして今、米国追従から欧州追従へ)
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15. ビジネスマインドの破壊――製造業の縛り(受注)の道具
系列の構図
国家の系列:イスラエル = 米国
米国 → 日本、韓国、フィリッピン、メキシコ、イラク
英国 → インド、香港、オーストラリア、ニュージーランド
オランダ → インドネシア、南アフリカ
行政の系列:総務省 → NTT各社、民法各社、NHK
経済産業省 → 電力各社、ガス各社
国土交通省 → JR各社、民鉄各社、住宅・都市整備公団
企業の系列:NTT各社 → NEC、富士通、沖電気、岩崎通信機
電力会社 → 三菱電機、東芝、日立、AEパワーなど
JR各社 → 川崎重工、東芝、日立、日本信号など
住宅・都市整備公団 → ゼネコン各社
系列の絆を決める同化(支配)ツール
武力:武器供与のこと(強)
経済:経済支援のこと(中)
文化:共通言語のこと(弱)
日本の同化ツール(経済)は国内だけで通用する。
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中途半端な同化ツールしか使えない日本には、欧米を掌の上で踊らせるしたたかさが必要だ。
16. 貧困社会から富裕社会へ――製造業の歴史と改革
貧困から富裕への製造業の実態の変化
模造(貧困):先進国の他社製品を模造して売る。品質が悪いことが多い。
改造(成長):先進国の他社製品を改造して売る。性能が改善されていることが多い。
新造(成長):独自の製品を製造して売る。既存の製品を参考にして独自性を出していく。
創造(富裕):まったく新しい概念や新しい技術の製品を開発する。開拓者なので手本がない。
二種類の社会インフラ
新規概念の社会インフラ
インターネット、映像・音楽配信システムなど
必要な技術革新の例:パソコンや大規模集積回路(LSI)の実用化
新規代替の社会インフラ
旧来の電力、学校、郵便、鉄道、電話、放送、銀行などのバイパス
必要な技術革新の例:電気自動車、LED照明、超高圧伝送、ICカード、携帯電話、太陽光発電
革新型と保守型の二種類の企業
革新型=貧困型:製品の開発と同時に市場開拓を進める。設計・開発・製造のリスクをとる。
保守型=富裕型:製品の注文を受けてから製造を始める。設計・開発・製造のリスクをとらない。
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17. 富裕(人工)時代に生きる――人為の必要性
技術、経済、生物、組織の転生と回生
技術:誕生 → 成長 → 成熟 → 同種の変化または異種の発生(転生)
経済:貧困 → 成長 → 富裕 → 自然に衰退または人為で維持(回生)
生物:誕生 → 生長 → 成熟 → 自然に死亡および自然に誕生(転生)
組織:誕生 → 成長 → 成熟 → 自然に壊滅または人為で存続(回生)
同種の変化は「改良」
同種の媒体の形状や性能、サイズなど、媒体属性の大幅な変化のこと。
異種の発生は「改革」
同種の媒体の改良ではなくて、まったく異なる媒体への置き換えのこと。
理解されていない競争原則――社会奉仕でもない、自己満足でもない、それがビジネス。
価格競争原則
コストダウンをしない。価格競争ができるコスト力を維持する。
タイミングを見極める。セールスと経営者は立場が違う。
技術競争原則
改良と改革を同時進行させる。改良や改革を市場に投入できる力を維持する。
タイミングを見極める。技術者と経営者は立場が違う。
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18. 国際社会における日本人企業経営者の欠陥
ビジネスにとって最も重要な視点は何か。唯一欠けているのが、企業経営者の目だ。
・企業経営者の目で見た国際標準化ビジネス
・技術専門家の目で見た国際標準化プロセス
・学識経験者の目で見た国際標準化スタディー
・行政担当者の目で見た国際標準化サービス
標準化とは技術規格制定のことだ。 → 人間のライフスタイル創造ビジネスのことだ。
これら四種のすべてが分からないと相手の立場に立てない。技術専門家が企業経営者
の目で国際標準化を捉えることは、ほとんどありえない。自主提案を通すことではなくて
会議に参加することに意義を見出す日本の技術専門家は、海外の技術専門家からの
評価が異常に高い。
日本人が日本で欧州の安全基準を作成する会議:誰も開催しないし、誰も参加しない。
外国人が日本で欧州の安全基準を紹介する会議:高額の費用を払って大勢参加する。
同床異夢で、かつ建前と本音が違う行政人、団体人、学会人、企業人の協力が必要だ。
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19. 人と組織の問題――組織に所属して働く人の二面性
五種類の人と、その表(おもて)の活動(公)の建前と裏(うら)の活動(私)の本音
(a) 政治人(政党という組織に所属して働く人)
日本のために働く人?
(b) 行政人(官公庁という組織に所属して働く人)
国民のために働く人?
(c) 団体人(業界団体という組織に所属して働く人)
団体のために働く人?
(d) 学会人(大学や研究機関という組織に所属して働く人)
学会のために働く人?
(e) 企業人(民間企業という組織に所属して働く人)
企業のために働く人?
貧困時代には人が建前で働く。建前と本音が一致している。
成長時代には人が建前と本音の間でぶれる。
富裕時代には人が本音で働く。建前と本音が一致しない。
貧困、成長、富裕で人が変わる。その人で構成される組織も変わる。
年齢でも同じことがいえる。若者は建前に近く、老人は本音に近い。
人は本音で動かす。
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20. 人と組織の問題――二種類の組織
責任という面で異なる二種類の組織
(a) 有責任組織(主人が明確な組織)自分の資金で運営する組織
(b) 無責任組織(主人が不明な組織)他人の資金で運営する組織
小さい組織では、組織が頭から栄えて、頭から腐る。貧困時代の組織になる。
大きい組織では、組織がいたるところから腐る。富裕時代の組織になる。
政治人、行政人、団体人、学会人は、無責任組織に所属している。
企業人は、有責任組織に所属している。
ただし、大企業の本社で働く企業人は、無責任組織に所属している。
富裕社会や成長社会において人や組織を壊さないためには、これまでの人、組織の二面性を
理解して、節度(In between)をもって働くこと。
・ヘリコプターで組織の頂上に着陸してはいけない。(富裕の時代の経営者)
・梯子を昇って組織の頂上に到達してはいけない。(成長の時代の経営者)
・いろは坂を登って組織の頂上に行け。(貧困の時代を経験する経営者になること)
そうしないと、組織は理解できないし、組織の運営もできない。
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21. 人と組織の問題――人の理解の三段階
理解度で違う三種類の人
(a) ものごとを知らないことに気づかない人
独善でものごとを進める人
(b) ものごとを知らないから他人に訊ねる人
アンケートを頼りにものごとを進める人
(c) ものごとを広く深く知って自分で考える人
自分が相手の立場に立ってものごとを進める人
・Why? は、他人に向けて発する前に、まず自分に向けて発すること。
・他人に聞くという行為には、自ら考えるというプロセスが欠如していることが多い。
覚える人:賢明に見える人
考える人:愚鈍に見える人
覚えもしないし、考えもしない人:普通に見える人
2QT: 質(Quality)、量(Quantity)、時間(Timing)を意識できない人々
極端に大量の作業を極端な短時間にこなすと、それは質を越えることができる。
質(働かず)を量で評価し(休まず、遅れず)、量(休む、遅れる)を質(働く)で評価する。
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22. 人と組織の問題――ビジネスに登場する五種類の人
(1) 放火する人 --- 役者(デファクト標準化担当)または黒衣(デジュール標準化担当)が居る。
(2) 防火する人 --- 黒衣なので、誰からも認められない。放火はアドホック、防火はスタンディング。
(3) 消火する人 --- 役者だが、防火が完璧なら不要な人。防火をしないで消火に走る人も居る。
(4) 野次馬 ------- 火事場泥棒よりマシだが、防火や消火の邪魔。役者・黒衣が観客になる。
(5) 火事場泥棒 --- 防火や消火の邪魔で、野次馬より悪質。役者・黒衣が観客中のスリになる。
不要な人(野次馬)が評価され、必要な人(防火する人)が評価されない企業の仕組み
必要な人:放火する人と防火する人(優秀な国際標準化専門家)
不要な人:野次馬と火事場泥棒
高く評価される人:放火する人と消火する人と野次馬
無視される人:防火する人
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23. 人と組織の問題――社会・組織・技術の三段階の変化
三段階のコンセンサスと注意点(貧者とは国民のことで、富者とは行政のこと)
(a) 貧困社会のコンセンサス(一致のコンセンサス)
貧富の差がなく誰もが痩せている時代
(b) 成長社会のコンセンサス(談合のコンセンサス)
貧富の差が発生して、貧者が痩せて富者が太っている時代
(c) 富裕社会のコンセンサス(洗脳のコンセンサス)
貧富の差が固定されて、貧者と富者の両方が太っている時代
成長社会のコンセンサスで、貰う立場の人が洗脳されてしまう。ガラパゴス諸島の生物は、
島内の均衡を維持する(談合)だけで進化しない。海外へ進出しない日本人・・・
社会(組織)なら貧困・成長・富裕。 技術なら誕生・成長・成熟。 富裕と成熟は人工社会。
洗脳の法則
小出しに餌を与えて手なずける。手なずける側になろう。
防御の法則
ムフテヒカの法則を適用する。ムで怒ればフにして、それでもダメならテヒカを適用して抑える。
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24. 国際会議に参加する標準化専門家の役割
調停役
ITUやISOでは議長、IECでは幹事が相当する。審議している議事全体を理解し、メンバーから
尊敬される中立的な人。ただし、会議運営や発言はマイルドでも、何かにこだわる場合がある。
主導者
調停役と組になって、思いどおりの標準化を進めていく。的を射た発言をしながら、会議を前に進
める。調停役と主導者が組んで標準化を推進していると、非常に排他的な会議になることがある。
政治家
民間企業の代表が多い。企業の意思を表明する。英語での会議討議能力を持っている。また、会
議の結論を誘導することができる。
専門家
特定の技術審議に詳しい人。寄与文書を作成する。英語に弱いことがある。標準化の世界を広い
視野で捉えていない。
参加者
議事メモを作成して、それを日本に持ち帰り、所属団体や所属企業で報告する人。ほとんど能力
がないのに、報告だけで高く評価されることがある。
誰もが最初は初心者だ。問題は、ほとんどの人が参加者の立場に留まって進化しようとしないこと
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だ。書を読み、経験を積んで、さらに高度な仕事をしようとする人が日本人技術者には少ない。
25. 国際ビジネス推進リーダーとしての標準化専門家の役割
事象や行動の二面性を理解して自分の立ち位置を決めること
すべての事象や行動には二面性がある。その二面性を理解しないと国際標準化は成功しない。
広く深く技術を理解すること
技術の上に政治がある。また、技術分野は輻輳する。一分野の専門家では役に立たない。
縦割りと横割りの組織の内部を自由に動くこと
組織のフラグメントに入り込むと全体が見えなくなる。そうすると、進むべき道(戦略)が分からない。
技術と政治の違いを知ること
技術論議の国際標準化と政治論議の国際標準化を区別できないと国際標準化は成功しない。
人と組織を自由に動かせること
交渉術・会議術・闘争術を身に付けて、国際会議の外で標準化を決める。
国際ビジネスに「武士道」という言葉はない。私は全員が協力して作成した標準を見たことがない。
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26. シンプルな標準化ビジネス理論――量と質とタイミング
1. システム=量(生活インフラ)――それ自体で標準である。したがって:
どんなシステムでも国際標準登録して国際市場を縛る。
2. 機器=質AND量(システムのツール)――広く使われたら標準になる。したがって:
システムに組み込む機器(質 < 量)はシステムの構成要素としてデジュール標準登録する。
単独で販売する機器(質 > 量)は標準化し易い方法(デファクト・フォーラムなど)で標準化する。
3. 部材=質OR量(機器の生命)――部材として売る場合と売らない場合を区別する。したがって:
汎用部品と一般素材(量)は、その全体を標準化してコストダウンを図り共通化(市場拡大)する。
専用部品と特殊素材(質)は、その品質・性能、測定法などを標準化して寡占化(市場創造)する。
4. 時代の変化(技術と社会)――どんな技術でも陳腐化し、どんな社会でも富裕化する。したがって:
技術:誕生 → 成長 → 成熟(質重視から量重視へ = 機器としての価値が下がる)
技術の陳腐化に従い、標準化して大量を安売りする。 → 組み立て業への変身。
社会:貧困 → 成長 → 富裕(量重視から質重視へ = 部材としての価値が上がる)
社会の富裕化に従い、国内から海外へ市場を広げる。 → システム業への変身。
他社との差別化が可能な材料や部品の製造(内製)ノウハウを標準化してはならない。27
27. 国際標準化戦略を核とした国際ビジネスのまとめ
1. 人と組織の真実と、その二面性を理解すること
2. ものごとの二面性の中で自分の立ち位置を決めて、自分は「両知善行人」になること
3. 相手が悪知悪行人や無知悪行人でも、相手を否定しないこと
4. 貧困・成長・富裕(誕生・成長・成熟)の三相と、2QTを常に意識して仕事をすること
5. 国際標準化の縦割り組織と横割り組織の内を串刺しで自由に動くこと
6. 目的意識とプロセス(5W1H)を明確にして、意識に曖昧さを残さないこと(OBRO → CGTS)
7. 学習と経験を積み、なにごとも広く深く知る人になること
8. 交渉(ギブアンドテイク)を忘れずに、特に相手への思い遣り(ギブ)を忘れないこと
9. 英語で話して英語で考えて、国際社会に溶け込める人になること
ビジネスはすべて、特定の人が相手になる。
国際標準化は、技術の優劣よりも政治の巧拙で決まる。
国際市場獲得は、国際標準よりも戦略的で優秀な人材によって決まる。
国際標準化は、国際ビジネスに必須の交渉術、会議術、闘争術が学べる格好の場だ。
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