4 0 8 放射光第 13巻第 5 号 (2000年) くコ研究会報告じ〉 第 7 田 SRI2000報告 吉田 啓晃 (広島大学大学院理学研究科) 8 月 21 日から 25 自までの 5 日間,第 7 田シンクロトロ ン放射光装霞技術国際会議 (7th I n t e r n a t i o n a lC o n f e r e n c e onS y n c h r o t r o nR a d i a t i o nI n s t r u m e n t a t i o n ;SRI2000) が ドイツのベルリンで開催された。 SRI は 3 年に 1 回開催 される放射光関連装霊技術に関する国際会議で,前回は 1997年に SPring-8 をホストとして姫路で開催された。筆 者はこのときの参加が初めてで,今回は 2 回目になる。 ホストはベルリン工科大と BESSY で,会場はベルリン中 心部にある工科大の校舎であった。外見は近代的なビルデ ィングなのだが,校舎内に入って 2 措に上がると真ん中 に吹き抜けを持つ中世の宮殿風の内装になっている。オー ラル講演は近代的な講堂や教室で,ポスター講演と企業展 恭の一部はこの宮殿風の広間とそれを囲む廊下を利用して 写真 1 ベルリン工科大入口 行われた。会議はチェアマンの一人である BESSY の W. Gudat 教授のオープニングトークに始まり,工科大副学長 やベルリン市長らによる歓迎の挨拶があった後, SSRL の J .Stぬr 教授による全体講演で実繋的にスタートした。毎 朝一番に全体講演があり,その後は 3 会場パラレルのオ ーラルセッションが関かれ, 2 日目と 4 日目の夕方にポス ターセッションが設けられていた。以下,筆者が出席した セッションの講演の中からいくつか代表的なものを挙げて 触れることにする。 まずは毎朝一番に行われる全体講演について。初日,上 述の J. Stぬr 教授による講演は íThe P ower o f Xマay P o l a r i z a t i o n F r o mS p e c t r o s c o p yt oMicroscopyj という 題目で,円偏光発生のしくみから始まり Multiplet s t r u c ュ t u r ee n h a n c e dX r a yM a g n e t i cL i n e a rD i c h r o i s m(XMLD) , i c r o s c o p e (STXM) , P h o ュ S c a n n i n gt r a n s m i s s i o nXマay m t o e m i s s i o ne l e c t r o nm i c r o s c o p y(PEEM) へと話が広がっ てゆき,最後は今後 10年における挑戦すべき課題として, 1) 空間分解能 1 nm , 2) 偏光の自由な切り替え, 3) 空間分 写真 2 受付 s i o n (SASE) に基づいたシングルパスの Free E l e c t r o n L a s e r (FEL) の現状について講演された。 VUV 領域(波 解能 5nm かつ時間分解能50 ps という点を挙げて話を締 長 108.5 nm) での SASE-FEL は既に DESY で今年の 2 めくくられた。 2 日自,ノースカ口ライナ州立大の H. 月に発振に成功している。これをおよそ 12keV のエネル Ade 教授の講演は íA p p l i c a t i o n si nPolymerS c i e n c eena嗣 b l e dbyNEXAFSM i c r o s c o p yInstrumentationj という題 ギーまで拡張する計画が進行中で, で,ポリマーの NEXAFS の話から始まり Microscopy, L i n e a r Dichroism , PeakBril1iance が何 と 10 33 photons にも達するはずとのことだった。 オーラルセッションはテーマごとに最初にやや長めの招 STXM と続き,内容的には前自の 待講演があり,その後何件かの選ばれた短い講演が続いて Stöhr 教授と比較的近いものであった。 4 日自,ハンブル 2 時間で一区切りという形式で行われた。以下,発表者の F r e eE l e c t r o n S p o n t a n e o u sE m i s - 侊ime R e s o l v e d Techniquej グ大の B. Sonntag 教授は íVUVandX傾向y 敬称は省略する。初日, Lasersj という題で Self欄Amplified セッションでは,まず初めに ALS の Schoenlein により, の -52- (C) 2000 The Japanese Society for Synchrotron Radiation Research 放射光第 13巻第 5 号 4 0 9 (2000年) 蓄積リング内の電子のパンチ(幅 30 ps) に同期させて 動き,簡単なレイトレースから VLS 回折格子の設計まで 1 0 0fs 幅のレーザーパルスを打ち込むことで得られた 300 出来るそうである。 iSpectroscopyJ のセッションでは, fs 程度のパルス SR 光についての紹介があり,引き続いて 大阪大の Suga により, 同じ ALS でのレーザー照射後の結品の超高速 X 線回折実 の性能評価に始まって,末端の実験装置で得られた High 験,マインツ大での放射光のパルス講造を利用した TOF r e s o l u t i o nphotoemission , twod i m e n s i o n a lphotoemission , XMCD , PEEM などの成果が次々と息つく暇もなく紹介 PEEM 実験などの講演が続いた。 iMirrors a n dG r a t i n g s J S P r i n g 8BL25SU の VLS 分光器 C a r lZeiss 社と Jobin Yvon 社の研究 された。次に Trieste の Gotter により ELETTRA の 者による回折格子の設計,製造,性能評価に関する最近の “ALOISA" というビームラインの末端に設置された An欄 成果がそれぞれ報告された。 1 つのセッションには通常招 g l e r e s o l v e d A u g e r P h o t o e l e c t r o n c o i n c i d e n c e 待講演は 1 件だけなのだが,片方の会社だけを選ぶこと troscopy を行うための実験装霞が紹介された。オージェ のセッションでは, spec輔 には開題があったのか,両社仲臭く招待講演で開じ時間だ 電子と光電子の角度相関測定を行う装置であり,チャンバ け話をした。 Zeiss の方は,これまでホログラブィック回 ー内に軌道半径33mm の半球型電子エネルギー分析器を 折格子のイオンゼームプレージング角が 5 度以上という 7 つも組み込んで,そのうちの 5 つは光軸のみを回転軸と 制限のためそれより小さなプレーズ角の回折格子は機械刻 するのに対して,残りの 2 つは極方向にも回転可能にな 線をしていたが,新たにプレーズ角1. 3 度のイオンビーム っていて,試料表面からあらゆる方向に飛び出した 2 つ プレージングに成功したこと, 1nmr.mふ以上あった の電子についての角度相関の測定が可能になっている o microroughness を 0 .4-0.7 nmr.m ふにまで減らすことに iTwo C o l o r ExperimentsJ のセッションでは, ALS の 成功したことなどを発表した。一方, J o b i nYvon の方は, Glover により LASER と SR 光の Two-Color 実験による 非球面波露光によるホログラフィック可変刻線間隔 Si(lll) からの photoemission についての結果が報告され (VLS) 回折格子が作れるようになったことなどを発表し た。次に UVSOR の Kamada により SR と LASER を用 た。両社とも出来上がった製品に対する AFM や Long いた Pump-probe 光篭子分光実験システムに関する講演 t r a c ePro臼er を用いた表面プロファイルの測定を行うの があった。引き続き SLS , が常識となりつつあるようだ。それらの装置が BESSY 瓦 pump-probe 実験が紹介された。対象とする物質は表面, NSLS , LURE での同様の や LURE にあるのも大いに役立っているようである。 溶液,孤立分子とそれぞれ異なっているが, iVUV-andS o f tX-RayBeamlinesJ のセッションでは, BESSYII の Follath により, BESSY互における SX700型 ってまさにこれからの発展が望まれる研究分野といえよ PGM の改良の歴史がレビューされて,最近のメカの改良 つ。 目的はいずれ も短寿命中間種の検出である。レーザー技術の進歩と相ま オーラル講演の際に,ノートパソコンをプロジェクター と光学素子の角度の精密な制御により分光器の安定性が飛 躍的に改善されて,エネルギーの絶対較正さえ可能になり に接続してパワーポイントを使って行う講演も何件か見ら つつある現状が紹介された。新たに開発された UHV 角度 れた。さすがに国際学会ということもあって慎重に準備を エンコーダーを平面鏡や回折格子の回転軸に痕接マウント 進めているのか,講演中にパソコンがフリーズしてしまう することにより,非常に高い安定性と再現性が得られるよ ような状況は筆者の見た隈りではなかった。通常の OHP SRRC, BESSYI I, による講演では表すことができないアニメーションなどが Super-ACO と 3 件のビームラインの紹介があったが,い 可能であり,より視覚的に訴えるという点では有効なの ずれも楕円偏光アンジュレーターを光源として利用するも で,今後は増えていくことが予想される。 うになったとのことであった。その後, のであった。 Weiss によって紹介された BESSY II の ポスター講演は 2 日自と 4 日目の夕方の都合 2 回行わ UE56/1 は 2 台の APPLE アンジュレーターから発せら れた。合計436件もあり,参加者の大部分がここで発表を れるダブルビームを同じ分光器に通して,出射スリット手 行う。発表を申し込んだ本人が参加せずに共同研究者でも 前に置かれたチョッパー(1 32 Hz) を田して偏光をスイ ない人が代わりにポスターだけ貼っていて,発表時間には ッチするという仕掛けのものである。これは翌日の 誰もいないようなものもあった。紙数が課られているの BESSYII ツアーの際に現物を見せてもらった。 Nahon に で,ポスター講演の内容については触れないことにする よって紹介された Super-ACO の SU5 は OP日ELIE と呼 が,今西は非常に多くの日本人が参加していたにもかかわ ばれる Onuki-type c r o s s e dundulator らず, を備えていて,直線 偏光も円偏光も出すことが可能である。 6.65 m o f f p l a n e 日本の放射光施設の紹介ポスターが SPring-8 のも のただ 1 件しかなかった。日本からは若手の参加者が多 Eagle 分光器が付いていて, VUV 領域での超高分解能実 くて施設全体の説明をされるような重鎮の方々の参加者が 験を臣的としている。このセッションの最後には LURE 少なかったからかもしれないが,ちょっと寂しい思いをし の Mirone によってビームラインの設計と最適化のための たのは筆者だけで、はないと思う。ポスターそのものについ “SOLEMIO" というソフトウェアに関する報告があった。 ては, J o b i nYvon 社との共開開発のソフトで, LINUX 環境で い? )にタイトル,国,表や文章をレイアウトして印刷し 53- 1 枚の大きな用紙 (AO サイズあるいはもっと大き 4 1 0 放射光第 13巻第 5 号 写真 3 ポスターセッション 写真 4 (2000年) BESSYII 見学 てしまう(もちろんカラー)手法が,諸外国では主流にな XRayMicroscopy りつつあるようだ。日本人のポスターでもかなりその種の Microfocus を行うものが比較的多く目についた。 ものが自に付いた。持ち運びはちょっと面倒かもしれない Lithography の展示ブースには直径2.2mm のマイクロモ が,何と言っても見映えが抜群に良い。いろいろと聞いて ーターを 2 台搭載した全長 2cm ほどのマイク口ヘリコプ や X-Ray Lithography などのために みると,情報量が多くて一部が印刷されなかったり文字化 ターが,スイッチを入れると実捺にプロペラが回転して空 けを起こしたりするようであるが,これもやはり今後は増 中に浮かび上がる様子が実演されていてとても興味深かっ えていくであろう。 た。ビームライン見学コースの最後には日本の電総研に相 さて,講演に関してはこれくらいにして,その他のイベ 当する The P h y s i k a l i s c h T e c h n i s c h e B u n d e s a n s t a l t ントについて述べる。 3 自民の午後は BESSYII 見学ツア (PTB) の専用ラインが 8 本あり,光源,検出器の較正や ーにあてられていて,多くの人々が参加した。パス 7 台 光学素子の性能評儲をそれぞれの目的に合わせて設計した をチャーターしてベルリンの援の残骸や“ Molecular ビームラインで行っていた。階段を登り降りして蓄積リン man" なる川の中に蛇立する訳のわからない巨大なオブジ グ内に入り, APPLEII タイプの可変偏光 double undula暢 ェなどを横自に見ながらベルリン市内を巡った後,郊外の t o r (UE56/1) を見学した後,建物の外に出ると既にレセ a n dT e c h n o l o g yC e n t e rBerlin輔Ad プションは始まっていて大勢の人が食べ物を求めて長蛇の lershof) に向かった。ベルリン南東部に位寵するこの科 列をなしていた。この時期のドイツの日没は午後 8 時頃 科学公園都市 (Science 学公園都市は 420 ha に及ぶ広大な敷地を有しており, 3 0 0 なので,まだ日が落ちる前の明るい時間であり,皆片手に に及ぶ企業と 13 の独立研究所が誘致されて 2010年の完成 はビールやワインを持ち,ソーセージや豚の丸焼き (1 匹 を目指してあちらこちらで工事が進められている。そのな を丸ごと焼いて肉を少しずつ削って配る! )などっつきな かで目玉となるのが第 3 世代高輝度シンクロトロン放射 がら談笑に興じていた。特に堅苦しい挨拶など何もなく, 光施設 BESSYII である。バスは公圏内のいくつかの建物 携帯オルガンをバックにドイツ民謡を唄う芸人もいれば を巡った後にようやく BESSYII に到着した。公盟都市内 (これは誰も聞いてはいなかったが…) ,ジャズバンドによ の各通りには様々な科学者の名前がつけられており, る演奏もあった。筆者らはたまたまテーブルに来られた “ Kekuléstraße' ,などの標識が交差点ごとに設置されてい C .T .Chen 教授の た。建物内に入るとあとは決められた順路どおりに各自で がった。 Chen 教授は非常に気さくな方で, Dragon 分光 rSuper NatureJ の話で大いに盛り上 廻った。まず外周のビームラインを 1 周し,次に内周の 器で窒素の高分解能内殻吸収スペクトルを取ったときのエ 蓄積リングを 1 周する。その後,反対側の出口から外に ピソードなどを面白おかしく話してくださった。次第に食 出ると BESSYII 主催のレセプションが開かれているとい べるものもなくなり日が暮れて寒くなってきたので,筆者 う見学コースだった。各ビームラインや末端装置ごとにポ らは帰りのパスを待たずに S バーンの駅まで歩いて帰っ スターが掲示されていて担当の人が丁寧に説明をしてくれ てしまった。 た。分光器は Petersen-type PGM が主流であり,平面鏡 4 日目の夜はパンケットがあり,ベルリン西南の郊外に と平面回折格子をそれぞれ回転させるための独自のメカを あるヴァンゼーという湖を周遊するボートの中で行われ 開発して改良を重ねており,多くのビームラインに共通し た。このパンケットは事前の人気が非常に高くて,参加者 たコンポーネントとして,そのセットアップと調整法がし が多すぎてボートに乗り切れないのではー・という d捧報も学 っかりと確立されている。ビームラインの内訳としては, 会期間中に流れたくらいであった。前日間様に工科大から -54 放射光第 13巻第 5 号 4 1 1 (2000年) どメイン料理が食べられなかったので、はないかと思う。食 べ物がなくなった後は皆ひたすらビールやワインを飲みな がらボートの中にいることなどは忘れて談笑に耽ってい た。ずっと以前に別の学会のバンケットでやはり今回と同 じヴァンゼーのボートツアーに参加した方の話では, í昔 (まだベルリンの壁が崩壊する前の冷戦時代)は湖の中の 島に上陸して大いに騒いだ。東ドイツ領の直ぐそばまで行 って静まり返っているのを尻自にドンちゃん騒ぎをした。 j とのことだったのですが,今回はボートから降りることも なく暗闇の中をいつのまにか元の港に戻ってきていた。ボ ートを降りて帰りのパスに乗り,工科大まで再び、戻ってき たのは午後 11 時過ぎであった。 写真 5 BESSYJI レセプション。 rSuper N a t u r e J について語る 最終日の午前中には「註ot topicsJ という会議の期間中 C .T .Chen 教授(中央) に講演者を決めたセッションも催された。午前中の講演が 終わると昼食を挟んで íClosingJ セッションだけが午後 にあるというプログラムだったので,会議に参加していた 日本人の大部分は既に帰ってしまい,最後までいた人はか なり少なかった。 ESRF の C. Kunz 教授による Sum mary では今回の講演数とその内訳,参加者とその内訳な どが明らかにされた。全参加者700人あまりで,そのうち ドイツ国外からの参加者は 471 人であった。国別の棒グラ フを示すと,開催国であるドイツの 220人に次いで,日本 人が 170人あまりで断トツに多かった。その次がアメリカ で 70 人程度,隣国のフランスからでも 50 人程度である。 国外からの参加者のうち 3 人に 1 人以上は日本人という ことになる。このとき会場にいた自本人は 20 人程度だっ たのを Kunz 教授が見ていたとは思えないが,棒グラフの 写真 6 突出した日本を指して, í 日本からの参加者が他と比べて パンケット。ボートツアー船内にて。 異常に多い J と笑っておられたのが印象的だった。その 後,今回の講演の中から各分野でのトピックスに相当する パスで移動し,湖に到着すると早速停泊中のボートに乗り ものを 1 つずつ選んでは簡単なコメントを述べられた。 込んだ。船は完全に貸し切りになっていて,参加者は上下 教授の一番の関心事はやはり本年 2 丹の DESY での のフロアーに適当に分かれて着席した。ボートが出発して VUV 領域における SASE-FEL の発振であった。最後に, もなかなか料理が出来上がらないので,配られたビールや 「この学会の参加者は自分も含めてだいぶ年齢層が上がっ ワインを飲みながら,甲板に上がって沈む夕陽を眺めたり てきたので,もっと若い人にこの分野にどんどん入って来 して過ごした。しばらくして上の階では Gudat 教授によ てもらわなければならない」と締めくくった。その後,次 る官頭の挨拶があったが,筆者らがいた下の階にはそんな 回 SRI2003 の開催地がサンフランシスコであることが発 ものは全然開こえないので,お構いなしに誰かが出来上が 表された。 VUV-12 , ICESS-8 など最近立て続けにサンフ った料理を取りに立つといっせいに皆が立ち上がって料理 ランシスコで学会が開かれている。ホストは ALS と の列に並んだー・というより群がった。上の階はオードブル SSRL が共障で担当する。 ALS の N. Smith によるサンフ が中心で下の階はメイン料理が中心という構成だったにも ランシスコの紹介があった後,次回 SRI2003 のチェアマ かかわらず,最初のうちは上下共に同じ料理があるものと ンが ALS の H. Padmore 教授と SSRL の J. Stöhr 教授で 曽思い込んでいて上下の往来がなかった。結果的には下の あることがアナウンスされた。最後にスタップ一同の紹介 階にいた人がメイン料理の大部分を食べてしまい,上の階 と花束贈呈が行われ,拍手喝采のもとに SRI2000 は閉幕 のオードブルがなくなってから下に降りてきた人はほとん した。 5 5
© Copyright 2024 Paperzz