第49回 ( 宮崎大学イブニングセミナー Evening Seminar ) 宮崎大学では、各学部等の研究者が各分野での研究内容やその研究成果等を理解し、協 同した教育・研究等を実施する契機とするとともに、地域の皆様と本学の知的資源を共有し、 地域社会との連携を一層深めるため「宮崎大学イブニングセミナー」を開催いたしますので、 多数ご来場いただきますようご案内いたします。 ◆日時 : 平成24年9月13日(木) 18:00~19:30 ◆場所 : 総合教育研究棟1階プレゼンテーションホール(清武キャンパス) テーマ 『脳高次機能の分子機構から疾患解明へ』 電位依存性カルシウムチャネルと神経伝達 村上 学(医学部 教授・機能制御学講座薬理学分野) 高電位依存性カルシウムチャネルは興奮性細胞膜上に存在する。電位依存性カルシウムチ ャネルは細胞膜の脱分極に応じてカルシウムを流入させ、神経伝達物質の放出など、生命 にとって基本的な機能を多数制御する。 高電位依存性カルシウムチャネルはヘテロマルチマーと言われる構造をとり、α1、α2 δ、β、γサブユニットから構成される複合体である。α1サブユニットがカルシウムが 通過するチャネルポア(孔)を構成し、膜電位変化を感受する電位センサーでもあり、カ ルシウム拮抗薬など、さまざまなカルシウムチャネルを修飾する薬物の結合部位である。 βサブユニットは4種類の遺伝子が報告されているが、副サブユニットとしては生理学的 に最も重要と考えられている。生理・薬理学的に5つのカルシウムチャネルが分類されて いるが、交感神経系の神経終末において最も重要なのは N 型カルシウムチャネルと考えら れている。このカルシウムチャネルのチャネルポアは CaV2.2(旧α1B)遺伝子によってコ ードされ、主なβサブユニットはβ3である。電位依存性カルシウムチャネルの交感神経 における役割について概説する. 交感神経系はキャノンの言う”戦闘あるいは逃避反応”における本質的な制御システムであ り、ストレスや危険な状態において鍵となる行動である。N 型チャネルの交感神経系にお ける意義を精査するために、われわれはβ3遺伝子欠損、β3過剰発現トランスジェニッ ク、および CaV2.2 遺伝子欠損のマウスを解析した。 β3過剰発現トランスジェニックは心拍数増加を示し、N 型チャネル阻害薬に対する反応 性が増大していた。ランゲンドルフ心による解析では電気刺激に対する反応性の増大を示 した。β3欠損、あるいは CaV2.2 遺伝子欠損マウスにおいては反応性の低下が認められ た。これらの結果から、CaV2.2、およびβ3が交感神経 N 型カルシウムチャネルの構成 において、生理学的にも決定的に重要であることが確かめられた。 神経変性疾患の克服を目指して 西頭 英起(医学部 教授・機能制御学講座機能生化学分野) 超高齢化社会を迎えた我が国では、認知症、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患 に罹患する患者が急増しています。それらの疾患のほとんどは、未だ病態分子メカニズム が不明のため根本的治療法が存在せず、それぞれの疾患克服が急務とされています。その 中の一つ、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis: ALS)は、運動神経が特 異的に障害され人工呼吸器を装着しなければ発症後 3~5 年で死に至る、きわめて重篤な進 行性神経変性疾患です。約 90%は孤発性疾患で、残り 10%の家族性 ALS うち約 20%が SOD1 の遺伝子変異により発症します。アルツハイマー病では、APP や Presenilin1, 2 と いった遺伝子変異が発見され、そこから発見された分子メカニズムから、γセクレターゼ 活性およびアミロイドβ蓄積をターゲットとした分子標的診断・治療薬の開発が今まさに 進んでいます。これと同様に、ALS においても遺伝子変異による疾患分子機構の解明に基 づく ALS 診断と治療法の確立が期待されています。しかしながら、未だ孤発性を含む全 ALS 病態を説明しうるメカニズムの解明には至っておらず、そのため有効な治療法も存在 しません。私たちは、変異型 SOD1 に特異的に結合する分子として小胞体膜タンパク質 Derlin-1 を同定し、この結合により惹起される小胞体ストレスを介した運動神経細胞死が ALS 病態に関与することを見出しました。この分子メカニズムに基づいて作られた変異型 SOD1 特異的抗体は、ALS の診断と治療に繋がるツールとして現在研究を進めています。 記憶・学習の分子機構 高宮 考悟(医学部 教授・機能制御学講座統合生理学分野) 学習や記憶で代表される高次脳神経機能は、高等生物であるわたくしたちが、より人間ら しく生きていく上で基本となるものであり、この脳機能なしにはわたくしたちは生きてい くためのさまざまな判断や問題を解決することができません。またこれらは、下等な生物 においても単純ながら保存されている脳機能であることが知られており、神経の研究の中 でもっとも研究の進んでいる分野のひとつでもあります。これまでに学習や記憶のメカニ ズムを解明するために、 多くの研究者が多大の労力を費やしてきました。そして、特にそ の基盤となる神経機能であるシナプス可塑性の分子機構の解明は、過去30年間の研究の 末、近年急速にその理解が進みました。現在、これら脳機能の分子レベルの理解が、学習 や記憶のメカニズムのみでなく、広く脳におけるその他の高次脳機能の理解や、これまで 理解困難であった精神疾患の病因解明へと広げられてきています。今回のセミナーで、こ のシナプス可塑性において中心的役割を担っているグルタミン酸受容体の役割について、 自身の最近の研究内容も含めて紹介します。
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