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e-NEXI
2009 年 6 月号
➠特集
ロシア有限会社法の改正・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
ロンドン大学教授・弁護士 小田博
金融危機はアフリカでの鉱業投資にチャンスか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)希少資源備蓄部企画課長 北良行
金融危機に対する日本貿易保険の新たな対応について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
➠NEXI ニュース
2009 年ベルン・ユニオン・イスタンブール会合について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
2009 年ベルン・ユニオン・イスタンブール会合に関するベルン・ユニオン事務局によるプレスリリースについて・・・・・・・32
発行元
発行・編集 独立行政法人日本貿易保険(NEXI)
総務部広報・海外グループ
e-NEXI (2009 年 6 月号)
ロシア有限会社法の改正
ロンドン大学法学部教授・弁護士
(長島・大野・常松法律事務所顧問)
小田 博(おだ・ひろし)
はじめに
昨年、「ロシアの法的投資環境」と題する本誌上の連載でロシアの会社法について解説する機会があり、
その折に民法典と株式会社法、および有限会社法とが会社法の主要な法源であると説明した。その有
限会社法が 2008 年 12 月 30 日に大幅に改正された。これは担保法と同様に「緊急経済対策」の一環
をなす改正であり、社員の脱退権や社員間協定に関して重要な改正を含んでいる。改正法は、本年 7
月 1 日から施行される。以下、今回の改正について検討したい。
ロシア法でも有限会社と閉鎖型株式会社とは概念上は明確に区別される。株式会社は株式を発行
するのに対して、有限会社は、「定款資本が社員間に定款にしたがって持分として配分される」会社であ
る。社員数は 50 名以下でなければならない一方、取締役会の設置は任意であり、また監査制度も簡
易である。しかし、これらの点は閉鎖型株式会社でも異なるところはない。そこで予てから有限会社と閉
鎖型株式会社を統合することが提案されていた。この問題が現在、大きな争点となっている。
12 月 30 日の改正では有限会社法のみが改正され、株式会社法は改正されなかった。その背景には、
いくつかの要因があると思われる。まず第一に 1996 年の制定以来、株式会社法は何回か大きな改正を
経ているが、有限会社法改正は立ち遅れていて利益相反取引などの規制が十分ではなかった。そこで
有権会社法の改正がより緊急の課題となっていた。第二に有限会社は、投資形態として以下にのべる
社員の脱退権のためにロシア側との合弁事業には使いにくく、外国投資を誘引するためには改正が必要
であった。第三に、ロシアでは株式会社に比べて有限会社が圧倒的多数に上るために、焦眉の課題とし
てまず有限会社法を改正したとも考えられる。2008 年の統計では、株式会社が 20 万弱であるのに対し
て、有限会社は 300 万社を超えている。
今回の改正は、株式会社法との整合性を確保するための改正とともに、社員の脱退権の制限や、社
員間協定の公認など、外国投資を誘引するための制度改革も含んでいる。しかし、外国投資家が懸念
する、社員*の追放に関する規定は、改正をみなかった。
* 本稿で「社員」は、有限会社の出資者の意味で用いる
1.社員の脱退権
外国投資家にとってロシア側との合弁事業で有限会社形態が使いにくかったのは、何よりも社員の脱
退権が保護されていたためであった。改正前の有限会社法によれば、社員はいつでも他の社員の同意な
くして会社を脱退することができる。脱退した場合は、その意思表示の時点からその社員の持分は会社に
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移転する。会社はその社員に持分の現在価額を払い戻すか、相手方が同意した場合は、持分相当額
を現物で引き渡す義務を負う。払い戻しの資金不足の場合には、減資が予定されていた。これでは社員
の脱退によって会社が立ち行かなくなる。しかも、この脱退権は定款によっても制限できないものとされた。
実際にも、日ロ合弁企業で社員の脱退と持分の払い戻しをめぐって紛争が生じた例がある。そこで合弁
企業をロシア国内で設立する場合は、有限会社ではなく株式会社形態をとることが推奨された。
今回の改正で、民法典と有限会社法のこの点に関する規定が改正された。これらの規定によれば、有
限会社の社員は、「定款に定めがある場合は」いつでも他の社員の同意なくして会社を脱退することがで
きる。すなわち定款に定めなければ社員には任意に会社を離脱する権利はなくなったのである。これは大
きな進歩であるといえる。
しかし、注意しなければならないのは、持分譲渡の規定である。第三者への持分譲渡については定款
により、これを禁止し、または他の社員の同意を要求することができる。問題は、こうした場合に他の社員
が持分を引き受けなかったとき、またはその同意が得られなかったときである。その際には、持分を譲渡する
社員の請求により、会社はその持分を買い取らなければならない。有限会社では定款により、少なくとも
第三者への持分譲渡に他の社員の同意を要求するのが一般的であるから、合弁事業の相手方が好ま
しからざる第三者への持分譲渡を提案したときは、結局、会社がその持分を買い取ることを余儀なくされ、
脱退権が認められる場合と同じ結果になる可能性がある。
2.持分譲渡
有限会社の社員は、定款に別段の定めがない限り、他の社員にその持分を自由に譲渡することができ
る。持分の社員以外の第三者への譲渡は、定款に禁止されていない限り、可能である。第三者への譲
渡が認められている場合には、他の社員は、第三者に提示された価格による先買い権をもつ。また、定
款により、他の社員がこの権利を行使しない場合の会社の先買い権を定めることもできる。改正法は、
他の社員の先買い権行使価格について、第三者に提示した価格による他、定款に予め定めた価格、ま
たは価格算定基準によって譲渡価格を定めることを認めた。純資産、前期の資産の帳簿価格、純利益
などが算定の基礎として挙げられている。
また、改正法は、持分の譲渡には公証人の認証を要するものとした。これはしばしばみられる持分売却
をめぐる不正行為や紛争を予防するための制度である。
3.社員を除名する権利
有限会社法によれば、10%以上の持分をもつ社員は、社員としての義務の重大な違反を犯した社員、
またはその作為、または不作為により、会社の活動を不可能にし、ないしは著しく困難にする社員の除名
を裁判所に申し立てる権利をもつ。この制度はドイツの他、中東欧諸国にもみられるもので、それ自体は
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奇異なものではない。ハンガリーなどでは、当初裁判所の関与なくして社員の除名が認められていたが、
濫用が多く、裁判所への申立が要求されるようになった。ただ、ロシアのように裁判所の公正さが完全に確
立されていない国では、裁判所が関与しても濫用が懸念され、実際にそのような例もある。しかし、今回
の改正では残念ながら削除されなかったこの規定は維持された。
4.社員名簿
株式会社法には株主名簿の規定があったが、有限会社法には対応する規定がなかった。改正法は、
有限会社は、各社員に関する情報、および各社員の持分額、払い込みの有無、会社に属する持分の
額、および会社がその持分を取得した日付に関する情報を内容とした社員名簿を作成し、管理すること
を会社の義務と定めた。単独制執行機関は、定款に別段の定めがない限り、これらの情報が会社登記
簿に記載された情報、および会社に知れた持分譲渡に関する公証人が認証した取引に関する情報と一
致するようにさせなければならない。両者に不一致がある場合は、情報の真偽は登記にしたがう。
5.利益相反取引・大規模取引
株式会社法の利益相反取引・大規模取引に関する規定は、以前に改正され、整備されていたが、有
限会社法の規定は法制定時から変わらなかった。今回の改正でこれらの規定は株式会社法並みになっ
た。たとえば利益相反取引・大規模取引の規制対象となる取引について、「借り入れ、融資、担保の提
供、保証」が例示された。これは従来の裁判で争われた事例を反映させたものである。また、利益相反
取引の当事者として、取締役や単独制執行機関、合議制執行機関の構成員、20%以上の株主に止
まらず、「会社に対して拘束力ある指示を与える権限をもつ者」が加えられた。また利害関係者である兄
弟姉妹についても「全血、半血」の兄弟姉妹とされた。
利益相反取引は、社員総会で利益相反関係にない社員の過半数で承認されなければならない。この
場合の社員総会に提示される情報について、改正法は、取引の当事者名、受益者名、取引の目的物、
価格、その他取引の重要な条件を開示することを義務づけた。これも株式会社法の規定と同じである。
さらに「関係者」に関する条項が新たに導入された。これによれば、「関係者」の定義は他の法律で定め
られるが、一般的には「事業活動を行う私人、または法人に対して影響力を行使する能力がある者」を
いうとされる。(注 1)「会社の関係者」は、新たな持分の取得により、議決権の 25%以上を行使できるよう
になったときは、その旨を取得後 10 日以内に会社に書面により通知しなければならない。この義務の懈
怠により会社に損害を与えた場合には、関係者は会社に対して損害賠償責任を負う。
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6.出資者間協定の有効性
株主間協定・出資者間協定の有効性はこれまで会社法上は明確ではなかった。ロシアへの外国投資
では 1990 年代からこうした協定は広範に用いられてきた。これらの多くはイギリス法など外国法を準拠法
とし、紛争処理規定としては国際商事仲裁を定めるのが一般的であった。協定は、取締役の選任(一
例として、ある企業に関する協定では、株主がそれぞれ 4 名の取締役を出し、そのうち 1 名は独立取締役
とし、さらに 1 社が他社の同意を得てもう一名を推薦できるという協定があった)、株式譲渡の制限(一定
の条件が成就するまでの譲渡禁止、譲渡承認の要求、他の株主への先買い権賦与、持株数の上限
設定など)、株主総会や取締役会での議決権行使の制約(議決要件の加重など)など、多岐に及ぶ。
こうした協定が多用されたにもかかわらず、その有効性がロシアで裁判により争われることがなかったのは、
仲裁条項を置くことが一般的であったことも一因であろう。
この問題が初めてロシアの裁判所に係属したのは、メガフォン社(株式会社)の株主間協定の有効性を
めぐる紛争である。メガフォン社はロシアの大手携帯電話会社であり、北欧の企業など、外国投資家が
参加している。投資家の間には、取締役、および general director の選任、取締役会の定足数、株式
譲渡の場合の先買い権などの合意の他、株主が他の株主の同意なくしてメガフォン社の競争者に株式
を譲渡することを禁止する規定を含む株主間協定が締結された。ところが数年後、株主のうちの 25.1%
を保有する 1 社がメガフォン社の競合企業であるヴィンペルコム社の大株主が所有する企業に株式を譲
渡した。そこからこの 25.1%の株式の帰属をめぐる紛争が生じたのである。
この協定の当事者である会社の一株主が、株主間協定の無効を主張して裁判所に出訴した。株主
間協定を無効にしないと株式の譲渡が成立しないという事情が背景にある。この協定は、スエーデン法を
準拠法とし、ストックホルム仲裁を定めていた。したがって協定の当事者は、その有効性を裁判所で争うこ
とはできない。ところが原告は、協定の当事者ではなく、その株主であるために、仲裁合意に拘束されない
という前提であった。訴えは、ハンティ・マンシースクというチュメニ地方の商事裁判所に提起された。
第一審裁判所において原告は、株主間協定が外国法を準拠法としていることを取り上げ、これをロシ
アの公序違反であると主張した。すなわち、この協定は、ロシア法人の法的地位、会社経営に関する株
主の権利・義務、会社の財務、株式の譲渡、競業の禁止などを定めるが、協定のこれらの条項は、ロシ
アの憲法、民法、会社法、その他に反するというのである。第一審裁判所はこの訴えを認め、協定を無
効とした。上訴審の西シベリア管区裁判所も 2006 年 3 月 31 日の判決でこの結論を支持した。この判決
は、また、仲裁合意の有効性については、裁判所は、原告は協定当事者ではなく、仲裁合意に拘束さ
れないと判断した。
管区裁判所の判決によれば、民法典、および株式会社法に照らしてロシアの会社の法的地位、および
活動、そして株主の権利・義務は、排他的にロシア法によって規律され、株主間協定は、ロシア法、およ
び定款に反することはできない。問題の株主間協定はロシア法とメガフォン社の定款とに反するものであり、
また、スエーデン法を準拠法とすること自体、ロシア国際私法上、認められないとのべた。(注 2)
メガフォン社の株主間協定をめぐっては、これより先に別にモスクワの商事裁判所に係属した事件があり、
ここでも株主間協定は無効とされていた。他にもこの件では、スエーデンやニューヨークの商事仲裁、スイス
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の裁判などが行われた。
この事件には政治的な背景があり、西シベリア管区裁判所の判決の先例的な価値については疑問が
あった。実際、ロシア連邦最高商事裁判所は、この判決の裁量的審査の申し立てを数回にわたって斥け
ている。しかし、これは上級審の判決であったために、一定の影響力があり、株主間協定のロシア法上の
合法性についての疑問をもたらしたといわれる。
株主間・社員間協定の有効性についてはロシアでも意見が分かれる。問題は二つある。まず第一にこう
した協定は、ロシアの実体法上、有効であるのか、第二に外国法を準拠法とした協定は、ロシアの国際
私法上、認められるかである。
第一の問題については、会社法は民法の特別法として、任意法規も含んでいるという見解と、会社法
は独自の法領域として、基本的には強行法規から構成されているという考え方がある。後者によれば、会
社法の規定には「強行性の推定」が働く。条文に「契約に別段の定めがないときは」などの留保がついて
いない限り、条文から逸脱することは許されない。その限りでは当事者間で会社法の規定と異なる合意を
する余地は少ない。しかし、「明文で禁止されていないことは許容される」というロシア法の基本原則からは、
これは疑問とされる。
しかし「株主は、株式会社法、および定款に定められた権利・義務に加えて、追加的な権利・義務を
合意することができる」と一般的に認める論者でも、「株主の契約の自由にも限界がある」として、たとえば
定足数や議決方法に関する合意など、「法律、または定款に直接に反する」合意は無効であるとする。
(注 3)また、有力な民法学者は、株主間協定はそもそもロシア法を潜脱するための制度であり、法律で
公認する必要はないとのべた。(注 4)
第二の問題は、会社法の強行法規性にも関連するが、問題となる規定が強行規定であるとして、当
事者がこれとは異なる外国法の適用を合意することが許されるか否かである。西シベリア管区裁判所の
判決は、「国際私法における当事者自治」、すなわち当事者による準拠法の選択の自由は、「無制限で
はない」と指摘した。この関係では、国際私法の規定である民法典第 1192 条が準拠法の選択は、強行
規定の効力を損なわないと定め、また第 1193 条がロシアの公序に反する例外的な場合には、当事者が
選択した外国法は適用されないと定める。そこで問題の規定が一旦強行規定と認定されると、これと異
なる外国法に準拠した協定は、無効とされかねない。
このように株主間協定・社員間協定をめぐるロシアの問題状況は混迷を極めているが、改正有限会社
法は、社員間協定を正面から認める規定を導入した。すなわち、
発起人(出資者)は、社員総会において特定の方向で議決権を行使し、他の社員と協調して議決
権を行使し、持分の全部、または一部を協定に定められた価格で譲渡し、および/または一定の条
件が成就された場合に譲渡すること、または一定の条件が成就するまで持分の全部、または一部を
譲渡しないこと、さらには協調して会社の経営または会社の設立、活動、再編、及び清算を行うなど、
その他の行為を含めて、自己の権利を特定の方法で行使し、および/またはその行使を抑制すること
に関して協定を締結することができる。このような協定は、当事者が署名した書面によって締結されな
ければならない。
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これは有限会社について社員間協定を認めた画期的な規定である。しかし、この問題についてはこの
一般的な規定があるのみで、具体的にどのような事項について協定が許容されるか、詳細は明らかでは
ない。たとえば議決要件の加重(単純多数決に変えて特別多数、または全員一致を要件とする)は、文
面上は含まれていないようにみえる。一定の場合に持分譲渡を義務付ける合意についても同様である。
社員間協定がともかくも認められたのは、長い間その法的評価が明確ではなく、それが、つとに外国投
資家の要望事項であった懸案を解決して投資を誘引する、「緊急経済対策」の一環だからである。しか
し、有限会社法だけをとっても、社員間協定を原則的に許容する規定だけでは、制度は機能しない。とく
に問題となるのは、外国法を準拠法とした社員間協定が有効か否かである。もともとロシア法の硬直性を
避けるために株主間協定や社員間協定が用いられるのであるから、ロシア法が許容する範囲でのみ、協
定が許容されるのでは、協定の意義は著しく減殺される。
この問題は、紛争処理に関しても重要である。株主間・社員間協定は、紛争を仲裁に付託する条項
を含むのが一般的である。しかし、会社法の強行法規性の強調は、協定をめぐる紛争は仲裁になじまな
い、言い換えれば仲裁可能性がないという結論に至りかねない。また、外国法を準拠法とすることが否定
されれば、少なくとも外国での仲裁は排除されることになる。
ウクライナでは、最近、新会社法が制定され、株主間協定が認められた。しかし、その一方、協定はウ
クライナ法に準拠することが要件であると報告されている。
ロシアでも 6 月 3 日に株式会社法の改正法が公布され、即日施行された。改正法は、株主間協定を
公認したが、その範囲は限定的である。この改正法については、改めて検討することにしたい。
(注 1) A.N.Kail’, 競争擁護法コンメンタール、2009 年。
(注 2) D.Stepanov、「企業法律家」2008 年 9 号。
(注 3) A.Sergeev、「企業法律家」2007 年 10 号。
(注 4) 大統領府民事法法典化・改正会議議事録、2008 年 10 月 23 日。
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金融危機はアフリカでの鉱業投資にチャンスか
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)
希少資源備蓄部企画課 課長 北 良行(きた・よしゆき)
アフリカの資源と言えば、第一に紛争ダイヤモンド、青少年の不法労働、呪われた資源と言うマイナスイ
メージが連想される。しかしアフリカは、金、プラチナなどの貴金属から、石油、ベースメタルと多岐にわたる
資源を先進諸国に供給している。
アフリカは一般に、地中海に面する北部アフリカのマグレブ、その南のサハラ砂漠より南部を総称するサブ
サハラに分けられる。文化的に見れば、前者はベルベル・アラブの世界で、日本人にとってのアフリカはサブ
サハラであり、バンツーと言われる黒人が生活する。サブサハラは大部分が 19 世紀および 20 世紀初頭に
欧州に植民地化されたため、植民地時代の旧宗主国から色分けする事もできる。宗主国や開拓者たち
は、現地言語、行政制度や法体制、現在においてもインフラや経済状況にも重大な影響をもたらし、資
源開発もこれらの環境に強く関わることになる。
今回は、アフリカの資源、アフリカへの鉱業投資傾向、さらにはアフリカにおける資源開発と問題点や国
の援助スキーム等を紹介し、最後に金融危機はアフリカ鉱業投資にとって千載一隅のチャンスであること
を提言したい。
Ⅰ.アフリカの資源
それでは、まず、アフリカにはどの様な資源があるのか、そして何が開発されているのか紹介したい。第 1
表にアフリカの主な鉱産物を示す(USGS Home page Minerals Information 2006)。金、プラチナをはじ
めとした貴金属、鉄、銅、鉛、亜鉛、ニッケル、アルミ等のベースメタル、さらにはダイヤモンド、ウランなどが
産出することがわかる。この他にも、石油、天然ガス、石炭等のエネルギー資源、マンガン、クロム、バナジ
ウム等のフェロアロイ、タンタル、錫、タングステン等のレアメタル、燐灰石と多岐にわたる鉱産物が生産され
ている。
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第 1 表 アフリカの主な鉱産物
USGS Home page
Minerals Information 2006 から作成
第 1 図には、生産(PRD)もしくはその可能性がある(Other)鉱産物を地図上に国毎に表示した
(Metals Economics Group の資料を参考に作成、石油、石炭は含まれない)。これらの情報に沿ってア
フリカの資源を概説すると以下の通りとなる。
北アフリカ・地中海沿岸は、マグレブとよばれるが、石油が重要な産物となる。石油の分布はリビアからス
ーダン、チャド、そしてサハラ砂漠を超えてナイジェリア、アンゴラと広がっている。また、マグレブの西端である
モロッコでは亜鉛などのベースメタルや燐灰石の産出・ポテンシャルが知られている。
モロッコから南下すると西アフリカとなるが、マリ(Sadiola 金山、Morila 金山等)、ガーナ(Obuasi 金山、
Tarkwa 金山など)など金の産出が知られている。これらの国の金生産はアフリカでは南アフリカに次ぐ、2
位、3 位の量を誇る。この地域では、シラレオーネなどダイヤモンドも産出するが、残念なことには DRC コン
ゴとともに紛争ダイヤモンドの悪名で知られることになった。また、マリより内陸にはいったニジェールからはアク
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ータ鉱山等ウランが産する。西アフリカではガボン(Moanda 鉱山)、ガーナ(Nsuta 鉱山)などマンガンが産
出する。
アフリカ中央部には多様な資源を産出する DRC コンゴがある。コンゴ南部のザンビアとの国境周辺は
Sakania の長靴と呼ばれ、世界最大級の産銅地帯、カッパーベルトが存在する。特にコンゴ側では副産
物としてコバルトの存在も知られている(主産物と言っても過言でない)。コバルトについては、世界の埋蔵
量の多くを占め、Tenke Fungurume をはじめとした開発を控えた大型案件が多数存在する。DRC コンゴ
とルワンダ、ブルンジ、その国境近くでは錫、タングステン、タンタルが生産されている。ザンビアはかつて
Anglo American 社や ZCCM(Zambia Consolidated Copper Mines Ltd:銅鉱山公社)を中心に開発さ
れた Konkola 鉱山、Nkana 鉱山、中国が開発を進める Chambish 鉱山、さらには FQM 社(First
Quantum Minerals Ltd.)が開発した Kansanshi 鉱山などが生産を行っている。この地域の銅生産は
1960-70 年代には世界の 3 割近くに達し、当時は銅の値決めにも大きな力を持っていた。
さらにザンビアから南下すると、いわゆる南部アフリカと言われる SADC(Southern African Development
Community:南部アフリカ開発共同体)地域となる。ナミビアには世界的な Rossing ウラン鉱床が存在、
日本にも輸出されている。同国には南アフリカとの国境付近に世界で唯一、湿式製錬法により亜鉛地金
を生産している亜鉛鉱山があることでも知られている。ナミビア南部海岸とその東隣国ボツワナにはダイヤ
モンドが存在する。さらにボツワナ東部では Selebi Phikwe ニッケル鉱山が存在する。その東隣のジンバウ
エは、かつて、金、クロムをはじめとした多くの鉱産物が生産されていた。しかし、Mugabe 政権の疲弊によ
り、経済活動が停止したことは多くが知るところである。アフリカ最南端の国、南アフリカでは、金、プラチナ、
ダイヤモンドから、クロム、バナジウム、マンガン等のフェロアロイそして石炭まで多数の鉱床が存在している。
まさに、資源における神が作り上げた不公平の典型と言っても過言でない。最も注目を集めるプラチナ鉱
床については、南アフリカ北部 Bushveld 岩体からジンバブエの Great Dyke 岩体に分布が及んでいる。
この様に概説しただけでも、アフリカは実に多彩な鉱物資源が存在する大陸であることが理解できる。ア
フリカにおいては、特に貴金属の金やプラチナ、ダイヤモンドが重要であり、一般にも興味がもたれているの
で、まずはプラチナの概要を紹介させてもらう。
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第 1 図 アフリカの鉱産物国毎の分布
(Metals Economics Group の資料を参考に作成、石油、石炭は含まれない)。
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Ⅱ.アフリカにおけるプラチナ族金属
プラチナ族金属(プラチナ族金属とはプラチナ、パラジウムなど6つの金属)の主な生産地は、南アフリカ、
ロシア、カナダ、米国、ジンバブエで、このうち南アフリカはプラチナ生産の 77%、パラジウムの 32%を生産して
いる。これにロシアの生産量を加えると、プラチナ 91%、パラジウム 85%となり、生産の集中が極めて高い金
属であることがわかる。特にプラチナの場合、南アフリカは 1975 年、すでに全世界の生産量 79 トンの 70%、
55 トンを生産していたが、2007 年には生産の集中がさらに高まり、77%まで増加している。しかも、この 33
年間の増産 125 トンのうち、82%の 102 トンが南アフリカからの増産である。自動車産業を始め世界的に
不可欠の金属であるにもかかわらず、南アフリカへの偏在と生産集中が極端な状態といえる。第 2 図に
南部アフリカにおけるプラチナ鉱山の分布を示し、以下に、南アフリカとジンバブエでのプラチナ生産の概要
を述べる。
第 2 図 南部アフリカにおけるプラチナ鉱山の分布
出典:Zimplat Home page
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Ⅱ−1.南アフリカ
南アフリカにおけるプラチナ族金属の生産は、例外を除けば、すべてが Bushveld 岩体からの生産である。
この岩体は水平方向に連続するいくつもの層が累重して構成、プラチナはこの地層の一部に濃集して埋
蔵する。埋蔵する層は、上部に行くほどプラチナ金属品位が高まり、最上位にある UG2 Reef、Merensky
Reef と呼ばれる部分(Reef は鉱脈のこと)では、経済的品位に達している。Bushveld 岩体は、地表部で
は Western Limb、Eastern Limb 及び Northern Limb の 3 地域に分かれて分布する。Western Limb で
は開発がかなり進んで多くの既存鉱山が存在するが、他方、Eastern Limb 及び Northern Limb ではいく
つかの鉱山がプラチナを生産しているが、総じて開発が進みつつある段階である。なお、Western Limb で
は UG2 Reef、Merensky Reef とも採掘対象となっているが、Eastern Limb では一般に UG2 Reef のみ
が採掘対象で、自動車の触媒で知られる3種類のプラチナ族金属(プラチナ、パラジウム、ロジウム)の産
出比率が異なる点に注意しなければならない。
Anglo Platinum 社が世界最大のプラチナ族金属生産者であり、現在、Bushveld 岩体で JV や尾鉱か
らの回収を含め 12 鉱山を稼行している。最も大きな鉱山は Rustenburg 鉱山 (プラチナ年産 64.5 万オ
ンス)で、次に Amandelbult 鉱山(同、57.6 万オンス)で、この 2 鉱山で生産量は百万オンスを越える(1
トロイオンス=31.1g)。Anglo Platinum 社全体ではプラチナ 216.4 万オンス、パラジウム 119.9 万オンス、
ロジウム 28.5 万オンスを生産している。世界 2 位は Impala Platinum 社で 2007 年にはプラチナ生産量
105.5 万オンス、プラチナ族金属総量で 187 万オンスを生産している。南アフリカの主な鉱山の生産量を
集計するとプラチナ 510.2 万オンス、パラジウム 265.9 万オンス、ロジウム 65.2 万オンスで、プラチナはまさに
世界の 8 割近くを占める。第 3 図に Bushveld 岩体でのプラチナ鉱山等の分布を示す。
第 3 図 南アフリカ Bushvelt 岩体でのプラチナ生産鉱山(Anlgo Platinum 関係)
Anglo Platinum 社 Home ページより
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Ⅱ−2.ジンバブエ
ジンバブエのプラチナ生産は Great Dyke 岩体に限られる。Great Dyke 岩体はジンバブエ国の中央に南
北 550km、幅 4∼11km に亘り分布する岩体で、地域的に Musengezi、Hartley、Selukwe、Wedza の4
岩体に再区分されている。
Musengezi 岩体は Snake Head とも呼ばれ、JOGMEC が前身の MMAJ 時代に探査プロジェクトを実
施している。Hartley 岩体は Hartley、Ngezi の 2 鉱山が知られているが、前者は 1995∼99 年まで、また、
後者は 2002 年から生産を開始した。Selukwe 岩体には Unki 鉱山が存在するが、2010 年フル生産に向
け開発が進んでいる。Wedza では Mimosa 鉱山が生産をしている。この Great Dyke 岩体には世界の埋
蔵量のおよそ1割、8,000t の PGM が存在するが、その内の 8 割は Hartley 岩体にあると言われている。
第 4 図に記載されるように、岩体別には、Hartley 2,400t(3.6g/t), Selukwe 284t(3.5g/t) Wedza
124t(3.5g/t)の埋蔵量が見積もられている。
第 4 図
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ジンバブエの Great Dyke 岩体とプラチナプロジェクト
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Ⅲ.資源における日本とアフリカの関わり
日本が自らアフリカで資源開発を行うことを考えると、現在でもかなりの困難に立ち向かうことが予想され
る。しかし、1960 年代の話となるが、現に資源開発に挑んだ日本企業がいた。アフリカカッパーベルトでの
日本鉱業(現ジャパンエナジー)のムソシ鉱山(ザイール)開発がその例である。ムソシ鉱山はザイール(現
DRC コンゴ)南部のシャバ州に所在する。1960 年、日本鉱業がアフリカにおける探鉱開始、1972 年、
生産開始を行った。しかし、1974 年以降、銅価格低落、輸送コスト上昇(周辺国の政情不安によるル
ート変更などが要因、特にタンザン鉄道)により経営が不振となり、経営権をザイール政府に譲渡、1983
年 6 月に撤退する事となった。この間(1972 年∼1983 年)の生産量は銅品位 2.81 %で出鉱量で
14,778,753 トンであった。その後も、隣国ザンビア側では商社による融資買鉱などを介して、長年にわたり
日本への銅供給に貢献し続けてきた。
現在は、南アフリカを中心にフェロアロイ事業への投資、モザンビークでの Mozal アルミ精錬への投資が行
われている。更に、2010 年を目指してマダガスカルでの Ambatovy ニッケルプロジェクトが進められている。
多くの場合、日本はオペレータシップをとることはないが、Hernic Ferrochrome を開発する三菱商事はオ
ペレータシップをとって積極的な開発をしている。レアメタル等日本の輸入先を第 2 表に示す。現在でも
クロム、マンガン、バナジウム、プラチナ、パラジウム、チタン、ジルコニウムで南アフリカが輸入先として上位に
あることが理解される。
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第 2 表
レアメタル等日本の輸入先
レアメタルの我が国輸入相手国推移
出典:日本貿易月表(各年12月号)
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Ⅳ.アフリカへの鉱業投資傾向
それでは、この様なアフリカに対して、世界の鉱業界はどの様な投資をしているのか探ってみる。Metals
Economics Group レポートによれば、2008 年の世界探鉱費総額は 137.5 億ドル(予算ベース)であった。
このうち金への探鉱投資が 35.8%、ベースメタル 37.4%、これに、ダイヤモンド、ウランが続く。探鉱投資さ
れる地域は、ラテンアメリカ 31.28 億ドル、カナダ 24 億ドルで、アフリカへは 18.834 億ドルが投資されている。
世界の探鉱投資は 2002 年までは減少傾向にあった。しかし、その後の資源ブームにより 2008 年までは
飛躍的な伸びが見られ、アフリカを例とした場合でも、探鉱投資額は 1999 年の 3.77 億ドルから、2008
年には 5 倍近い 18.83 億ドルに増加している。
2008 年のアフリカへの投資を金属別に見れば、金 7.57 億ドル、ベースメタル 4.21 億ドル、ダイヤモンド
4.69 億ドル、プラチナを含めたその他 2.35 億ドルであった。世界全体の探鉱投資比率と比較するとベース
メタルへの比率が少ない。なお、世界のダイヤモンド探鉱投資の半分はアフリカに注入された模様である。
アフリカ地域に限った投資先国については、もちろん 1 位は南アフリカの 3.57 億ドル(19%)であるが、2
位は DRC コンゴの 3 億ドル(15%)で、3 位アンゴラ 1.94 億ドル.(10%)で、更にガーナ、タンザニアと続く。
南アフリカ以外への投資では、ガーナ、タンザニアの投資額は金の実生産に見合った探鉱投資といえるが、
DRC コンゴ、アンゴラと言った国が 2 位・3 位を占めることは注目点と言えよう。
探鉱投資のターゲット鉱種をみれば、南アフリカではプラチナが主であるのに対し、DRC コンゴはベースメ
タル、アンゴラではダイヤモンド、そしてガーナとタンザニアは金が主流である。更に、調査・開発ステージ別
にみても、南アフリカでは初期、晩期から鉱山サイト(Brown Field といわれ鉱山周辺での鉱量確定に関
する作業)までと万遍なく投資されているが、DRC コンゴ、アンゴラは殆どが初期段階(FS などを行う前段
階)への投資である。
なお、2008 年アフリカ鉱業探鉱投資セミナーの情報によれば(JOGMEC 久保田博志、栗原政臣報
告)、197 件のアフリカにおける探鉱案件のうち南アフリカに 27%の 56 件、ボツワナに 14%に当たる 29 件が
位置している。
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第 5 図 . 国別プロジェクト数(国名、件数、割合)
久保田、栗原 2008
これらを段階別に見た場合、FS を開始する前の探鉱ステージへ 60%にあたる 100 件(初期段階 41 件、
中期段階 38 件、晩期段階 41 件)である。また、鉱種別の集計では金 19%、銅 15%、ウラン 11%、プラチ
ナ 9%と集計されている。
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第 6 図 . 開発段階別プロジェクト数(開発段階、件数、割合)
久保田、栗原 2008
第 7 図 . 対象鉱種別プロジェクト数
久保田、栗原 2008
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Ⅴ.鉱業投資とアフリカ
Ⅴ−1.鉱業投資
他の産業同様、鉱業でも活性化のためには投資をもたらす必要がある。鉱業と他の産業の大きな違い
としては、対象とする鉱産物は減耗性であること、資源が存在する場所で開発しなければならないなどが
あげられる。したがって、下流の加工工程が特別工業地区の様な指定された場所の誘致で可能である
のに対し、採掘を行う鉱業自体に対する優遇が最重要になる。
参入機会を形態で大別すれば、資源獲得を目指す企業自身が積極的に案件発掘を行う場合(能
動的)と、外部から持ち込まれた案件(受動的)を評価して参加するという2形態になる。資源開発は
「探鉱→開発→生産→閉山対策」という流れで実施されるのが一般的で、いずれの場合もかなり広い範
囲・段階で参入機会がある。
投資への判断材料は、自然条件と人的条件に分類して考えることができる。自然条件としては、①地
質条件すなわち鉱床ポテンシャルはあるのか、②新たな資金をつぎ込んで更にステージの高い段階に進む
ための基本的判断材料(地質データなどの整備)は整っているのかということがあげられる。人的条件では、
他の投資同様に政情、税制・法制度、労働力等とそれらの運用環境、道路、電力などのインフラやその
運用手続等の整備状況が判断材料となる。
また、投資をする企業による戦略に違いが見られる。鉱山会社(日本の鉱山会社は、現状、製錬が主
な生業)として、また、自社の生産ラインに必要な資源の直接確保、さらには第三者に対する資源の提
供を前提とした商社という立場もある。探鉱→開発→生産のどの段階から参加するのか、どの様な資源
の提供に関わるのか、企業規模などの違いも影響してくる。
鉱山会社の例では、大企業では長期的視野により基礎的調査から、大規模鉱床を対象とする開発
計画にも対応できる。投資資金は数千億円規模以上で、オペレーションシップをとることが当然のこととな
る。中小企業では、探鉱段間では大型案件も対象となるが、ステージが進むにつれて、開発の資金提供
者を募るという作業も必要となる。資金力から考えて短期プロジェクトや開発規模が比較的小さな開発
が対象となる。たとえば、中小の参入として、プラチナ大手 4 社が Bushveld での開発を牛耳っていた南ア
フリカにおいて、Aquarius Platinum 社が Kroondal プラチナ鉱山の開発を行った事例を好例としてあげるこ
とができる。
邦人企業に限った傾向として、以下の点を指摘することができる。企業が対象とする鉱種についてみる
と、鉱山会社は自社の製錬施設への鉱石供給に重点をおくため、銅、鉛、亜鉛、ニッケルを主たる対象
とするのに対し、商社はその顧客のニーズに応えるため、ベースメタル(銅、鉛、亜鉛、アルミ、ニッケル)、フ
ェロアロイ(マンガン、タングステン、バナジウム)、マイナーメタル(モリブデン、タングステン、レアアース)からプ
ラチナ、金、ウラン等多岐に渡る。商社では体力に大きな差があるため、石炭石油などのエネルギー資源
から多岐にわたる鉱種を扱うことができる大手と、レアメタルの中でもいわゆるマイナーメタルと言われる比
較的規模の小さな鉱種で活動する中小に分類できる。
いま、企業政略で列記しただけでも鉱種がかなりあり、したがって、守備範囲をどうするかということも焦
点となる。すなわち、ベースメタル、フェロアロイ、マイナーメタル、貴金属、エネルギー資源、それぞれが各々
の特徴と役割を持っているため、開発の方法、顧客環境(市場)、投資環境が異なる。このため、自然条
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件、人的条件から顧客環境などを個々のターゲット毎により注意深く、開発・参加方法を見極めて行く
必要がある。
判断材料の一つとして周辺インフラをあげることができる。たとえば開発規模との関連であるが、上述した
鉱種によってある程度の開発規模が想定される。鉱種によってはインフラを殆ど必要としない規模の鉱種
から、ある程度のインフラの存在もしくは補助的に追加するだけで開発可能となるもの、そして、中にはイン
フラを作ってしまうような鉱業も存在する。具体的には、ベースメタル、フェロアロイ、エネルギー資源では大
規模な開発が必要な場合が多く、既存のインフラがあれば開発コストの低減となるが、十分なインフラが
存在しなければ自ら作らなければならない。一方、マイナーメタル、貴金属では、一般に大規模な開発同
様のキャピタルコスト負担は困難となるため(最近は大規模なこともある)、既存のインフラもしくは補助的
なインフラ整備程度の想定が起業上の投資上限と考えるべきであろう。
余談となるが、鉱山開発で市況を予測する場合、貴金属やベースメタルは公的市場が存在することか
ら市場予測が第一であるが、エネルギー資源は電力会社、クロムやマンガンは鉄鋼会社への相対販売と
なるため顧客を捜すこと(投資サイドから見れば顧客が想定されている)が最も重要となるなどは、鉱種に
よる判断条件の違いの一つとしてあげることができる。
Ⅴ−2.アフリカにおける資源開発と問題点
具体的にどの様な環境が投資を呼び込めるかと言う問題では、対象国と投資政略の現状を理解する
必要がある。しかし、2000 年から 2008 年までは、中国の爆食と投資資金などの流入など異常な現象が
あり、アフリカへの鉱業投資は方向性が見失われていた感がある。
アフリカでは、1990 年代までは、実際に投資を呼び込みたいアフリカ政府と先進国投資家の認識の差
がかなりあったといえる。たとえば、アフリカ各国の首脳は、資源開発の実績が少ない国になればなるほど、
「我が国には資源がたくさんある」、「法整備も行った」、「なぜ投資がこないのか」と言う表明を行っていた。
一方、開発が遅れている国に対して、投資家側からは、「資源があるという可能性の証拠等示す努力が
足りない」、「法整備などよりは実際には裁量権が強い」、「事務手続きののろさ」、「税制優遇への引き
替えの権益汚職」などが指摘されていた。実際、2000 年当初には、アフリカ最大の鉱業投資会議
(INDABA)でも双方が行う講演からこれらの隔たりがかなり広いことを伺うことができた。
アフリカでの事業は、鉱業に関わらず、特に日本人にとって馴染みが薄いが、実際に基本的な点で多く
の問題を抱えている。その第一にあげられる問題が、政情が不安定である。統治能力に欠ける国が多数
存在していると専門家たちは指摘している。植民地時代、アフリカの地理や民族とは全く関係なく国境線
が引かれ、700 以上存在するとされる民族は全く彼らの歴史とは関係ない器に押し込まれてしまったと言う
ことも尾を引いている。たとえば、西アフリカはアフリカの他の地域に比べると、圧倒的に小さな区画で国が
存在している。一説によれば、アフリカの中では比較的文化・歴史が存在したと思われる同地域に対し、
フランスが国家としての体系をなさないように国の単位を小さくしたのではと言われる。また、サブサハラでは
国家体制や経済体系はすべて欧州を模倣して発展している。したがって、鉱業法を含め、基本法制度
自体、一見整っているように見える。しかし、実際は運用における問題を多く生じている。特に、幅広い裁
量権が一部に集中したり、担当者の許認可権が申請手続の遅延や汚職問題につながっている。文化・
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歴史的な意味なく直線で引かれた国に押しこまれれば、統治する側もされる側も国としての意識レベルが
落ちることはやむを得ないことである。
目の前に見せつけられる鉱物資源という宝物は、そのことからも紛争の火種ともいわれる。21 世紀の
BRICs を中心とした経済発展は、リーマンショック以前にアフリカへ多くの投資をもたらした。これにより多く
の国や地域において、長期にわたった内戦や紛争が終息傾向になり、和平・民主化プロセスが一層進展
している。しかし、他方で、未だ紛争が継続している地域があるほか、多くのアフリカ諸国では、その平和は
依然として脆弱である。さらには、リーマンショック以後の投資の引き上げで、アフリカの平和が後戻りを起
こす可能性もある。
第二の問題としてあげられるのが、広大な大陸と低い人口密度である。そのような地域は、当然、経済
的重要性も低いため、自ずとインフラ整備が不足する。また、アフリカには、自ら鉱山開発を行う経済資
本がなく(南アフリカももちろん元々は欧米系資本)、欧米を中心とした資金での開発となった。そもそもの
目的が、先進国への資源供給であり、資金供給も先進国であれば、地元への利益還元も限られる。イ
ンフラが必要な工業(鉱業を含む)にとっては、きわめて不利な環境である。
また、人間としての意識の問題は、統治側のみならず、労働者側にもある。未熟な技術と職に対する
意識の低さ、さらには、エイズ問題などがあげられる。これらは、適切な労働者の確保問題につながってい
る。一方、富の再分配が適切でないため、貧富の差が大きく、これらのことは地域経済の発展にも悪影
響を及ぼしている。教育体制とそのレベルの低さもこれらのバックグラウンドとなっている。これらは、鉱山開
発にはマイナス評価につながる。
以上のようなリスク・不安があるアフリカでも比較的安定度の高い南部アフリカでは幸いなことに、豊富な
金、プラチナ、クロム、マンガンが存在し、これらの開発が地域的安定をもたらし、さらに相乗効果をもたら
すことで、自ずと鉱業開発の中心となった。日本もその地域への投資が拡大することになった。
Ⅴ−3.援助による活性化と国有化による衰退
以上の様な状況であるため、しばしば、欧米資本の動向次第で鉱業が衰退したり、ポテンシャルが必ず
しも引き出されていないことがあった。アフリカにおける鉱山開発に立ちはだかる困難が ODA などの関与に
よって取り除かれ、生産が活性化した例としてマリとタンザニアの金をあげることができる。一方、国有化に
より衰退した例もカッパーベルトにあげられる。
1990 年代はじめ、マリ共和国の金生産量は 5 トン前後と低迷していた。この生産量はそのポテンシャル
に比して遙かに少ない生産量といわれた。特に、ロシアが引き上げたあとの衰退は急激であった。同国の
経済状況もあるが、技術的にはインフラや地質情報等の不整備が衰退の最大要因で、UNDP などが中
心となり調査活動が進められていた。さらに、1990 年中盤から EDF(European Development Fund)のロ
ーンで鉱業データの整備が行われた。日本からは金属鉱業事業団(MMAJ:JOGMEC の前進)などが探
査活動を実施した。これらの活動が後押しして、多数の企業が探鉱投資に臨み、鉱床開発につながるこ
ととなった。2001 年には金の生産量はなんと 10 倍の 50 トンを超え、2003 年には世界 10 位の産金国に
躍進している。
タンザニアでも 1990 年代には、鉱業部門では多くの問題を抱え、生産は低下傾向にあった。施設の老
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朽化、インフラの未整備、技術レベルの低さ、硬直的な認可制度、不法採掘、密輸出などがその要素と
してあげられていた。1990 年には金市場で闇取引が横行していたが、政府はその機能を削ぐことを目的と
して小規模鉱山業者に積極的に取引免許を与える制度を開始した。これにより、実勢相場に基づいた
市場の開設、流通が「表の経済」で行われるようになった。特に、金、ダイヤモンドの生産・流通システムの
改善が顕著で、外国資本を含む投資及び生産量の増大がはかられた。タンザニアでは、金は従来、小
規模の業者が大半を占めていたが、現在は南アフリカ等外資が入り、Ashanti Anglo Gold 社の Geita 金
山などビクトリア湖南岸を中心に大規模な金開発が行われている。鉱業の成功と経済の安定は、元来
注目されていた同国の銅・ニッケルといったポテンシャルへも注がれ、多くの調査が実施されるに至っている。
まさしく大きな波及効果を生みだした。
一方、衰退した例として、ザンビア・DRC コンゴにまたがるアフリカンカッパーベルトをあげることができる。
1900 年には欧米資本により銅資源供給源として、輸送ルートなどのインフラを含め大規模な開発がなさ
れた。アフリカの銅生産は、この地域からの産出が殆どで、かつて、世界の 3 割以上を占め、価格決定に
多大な影響力を持っていた。しかし、タンザニアなど周辺諸国での政情不安から、輸送ルート問題が発
生した。また、内部では国営企業の弊害、すなわち政権による裁量権と汚職や富の搾取、さらには事業
再投資への不理解、DRC コンゴでは内戦・政権交代などが起き、両国とも銅の生産量が激減、これによ
りカッパーベルトは銅供給地としての地位を失うことになった。
2000 年に入り、Anglo American 社を中心に再度、民営化が検討されたが、結局、同社は手を引き、
インドやスイス資本により建て直しがはかられた。折しもこの民営化は、資源価格の高騰に支えられ 2008
年までは順調に鉱業を押し進めることとなった。
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Ⅵ.今後の展開
Ⅵ−1.国の援助スキーム等の活用
我が国が実施する鉱業関係の経済協力には、経済産業省、外務省を中心に、石油天然ガス・金属
鉱物資源機構(JOGMEC)、国際協力機構(JICA)の協力事業、国際協力銀行(JBIC)による資源
金融がある。また、OOF 等として JOGMEC の探鉱補助、日本貿易保険 NEXI による貿易保険等が活
用されている。資源確保事業全般に渡って見た場合、協力調査は、探鉱、開発、閉山、各段階で有
効であった。特に、権益確保に注目した場合、初期段階では、1)案件発掘の情報整備や、2)初期段階
での探鉱リスク回避、3)関係官庁との友好関係構築が有効で、前二者の段階の協力調査は資源国で
ある先方政府が日本政府に希望する協力調査としても合致していた。ただし、数も量も圧倒的に不足し
ている。
第 8 図 鉱物資源確保ワンストップ体制
(拡大版はこちらから)
一方で単発の行動のみならず、資源はインフラとの関わりが強いことを考慮して、ODA インフラ、OOF 案
件の交渉段階から積極的に関わることにより、「インフラの提供と資源権益確保」という組み合わせも大い
に活用する必要を感じる。
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若干議論がずれるが、カナダ、オーストラリアでは、地質・鉱業情報の整備と提供システム、衛星画像を
加味した地質データのコンパイル、さらには広域探査などの実施を通じて、いわゆる Competitive Risk、す
なわち誰かが代表して実施することで、各社が重複して負担しているようなコスト軽減まで、国家組織が
自ら整理することにより、投資を促進するための環境づくりに努力している。
金融危機の影響では、南部アフリカでも多くの探鉱案件撤退が予測され、当該国政府の注目が、民
間投資から ODA ・OOF への期待増加に移ることも予想され、政府関与の活動には一層の活躍が期待
されると思慮する。
今後、日本の政府に強化が求められる事としては、民間企業の活動との連携、政策・制度改革支援
型円借の活用、CSR への活用、ODA を即対応型へブラッシュアップがあげられる。さらに、ファイナンス支
援はカナダやオーストラリアに比べて弱いとされるが、より充実した選択肢、採択条件の緩和と鉱山開発に
必要な資金投資規模に適応可能な体制へのシェープアップが望まれる。なお、経済産業省等による一
連の活用スキームが「資源確保ワンストップ体制」として第 8 図の様にとりまとめられている。
Ⅵ−2.金融危機は千載一隅のチャンス
話は南アフリカに戻るが、南アフリカでは ANC 政権発足以来、鉱業は白人への富の集中の象徴とされ、
黒人の経済参加への最初の標的となった。これにより、これまで土地所有者個人に帰属していた鉱業権
が、国家に帰属・管理されることになった。この新しい鉱業法への鉱業権移行では、たとえば、黒人の資
本比率 26%等達成を鉱業憲章として掲げ、黒人経済参加を促す政策をとった。新鉱業法への申請受
付は 2009 年 3 月に計画通り終了予定であるが、2008 年 11 月頃で大企業ではほぼ終了、全体でもお
およそ 70%程度達成率となっている。まだ登録されていないプロジェクトは、探鉱案件や黒人の資本参加
未達プロジェクトが多い模様で、金融危機の影響で、プロジェクト自体への資金供給の途絶、黒人への
資金提供の鈍化から、登録・認可の可能性が減少、中断プロジェクトが増加すると思われる。
この様な状況を加味すると、特に南アフリカのプラチナを中心に新規参入のチャンスが到来していると判
断できる。JOGMEC でもすでに 3 件のプラチナ案件を Bushveld 岩体で進展中であり、Platinum Metals
Group 社と War Springs 地域で共同探鉱を開始している。アフリカにおいて、最初で最後のチャンスととら
え、これまで以上に集中した活動展開が不可欠と考える。
それだけではない。経済の減退は、南アフリカ同様、南部アフリカの鉱業案件に大きく波及している。前
述の通り、金融危機後の探鉱案件撤退は、民間投資から ODA ・OOF への期待増加に移る。繰り返し
になるが、アフリカの特徴を教科書的に言えば、鉱業に不可欠なインフラが整っていない、政情不安な国
が多いなどがあげられる。ODA ・OOF による基本インフラとの相乗効果やワンストップ体制の活用をふまえ
た活動がより有利な展開を生み出すと思慮する。
なお、旧英国領は地質等データが比較的整理、旧フランス領はデータが比較的未整理、その他の国で
は調査自体が不十分と整理することもできる。アフリカの探査を戦略的に考えた場合これらのバックグラウ
ンドの配慮も必要であろう。ここで最後に区分けした「その他の国」では、最近政情が安定、新たなポテン
シャルを探る能動的調査には絶好のチャンスが訪れている。これらの国には、アンゴラやモザンビークと言っ
たポルトガル語圏が含まれ、本来はアフリカで実績のないブラジルの Vale が JOGMEC のパートナーとなっ
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たのは、同一語圏であるという強みを生かせるメリットも考慮したものであろう(これまではフランス語と英語
に精通するカナダ資源会社が重宝された)。JOGMEC ではすでにボツワナベースで SADC 諸国の探査活
動を展開しており、民間ベースの JV を基本とした調査は、南アフリカ、タンザニアを始めとして多くの案件が
進展中で、好調な状態にあるといえる。これらの活動はいずれアフリカでの開発を目指す邦人企業に大い
に役立つものと信じている。
第 9 図 JOGMEC 南部アフリカでの展開
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参考文献
北 良行(2003)カッパーベルトの現状と今後の市場への影響、日本メタル経済研究所報告書
北 良行(2008)日本へのメタル供給−特に南アフリカとプラチナ族金属、鉱山2009-1月
北 良行(2008)経済協力での資源確保における探査の貢献、資源地質58(3)
北 良行(2008)燃料電池とプラチナ、エネルギー・資源、Vol 29 No. 6
北 良行(2009)南アフリカ:政治・経済と鉱業の動向― 金融危機後のレアメタル・PGM供給 ―金属
資源レポートVol.38 No.6 2009.3
北 良行(2009)日本へのレアメタル供給−特に南アフリカとプラチナ族金属 鉱山2009年1月号
久保田博志、栗原政臣(2008) アフリカ大陸で活躍する豪州系探鉱ジュニア企業 JOGMEC カレントッ
トピックスセミナー報告 2008 年 66 号
経済産業省 (2009)総合資源エネルギー調査会鉱業分科会(平成21年4月6日)資料 レアメタル
確保戦略 検討の基本的な方向について(資源エネルギー庁鉱物資源課)
経済産業省、国際鉱物資源開発協会(2008)平成19年度経済協力評価事業−地球的規模の問
題解決に資する経済協力に関する政策評価
日本貿易月報(2008 他)
Anglo Platinum 社 Home page
Impala Platinum 社 Home page
Zimplat 社 Home page
USGS Home page Minerals Information 2006 データ
Metals Economics Group 各種データ
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金融危機に対する日本貿易保険の新たな対応について
(支店取引への対応等)
2009 年 6 月 16 日
独立行政法人日本貿易保険
金融危機に対する対応として、海外支店の締結する契約及び本邦法人のストックセールスへの付保、
及びバイヤーズクレジットのローカルコストの取扱いについて、このたび付保範囲を拡大しましたので、以下
その内容について具体的に説明します。
1.本邦法人の海外支店が名義人となる契約に対する付保
(1) これまでの対応
これまで、海外支店が名義人となって海外バイヤーと締結する契約については、貿易保険の引受
の対象とされていませんでした。
これは、貿易保険運用上、適格被保険者を本邦居住者に限定してきたためです。貿易保険法
上、被保険者適格は「契約の当事者」、又は「本邦人、本邦法人」と規定されていますが、これは
外為法の「居住者」 1と同義と解釈されています。よって、海外支店は居住者ではない、すなわち被
保険者適格を有さず、当該者の締結する契約については付保対象外とされてきました。
(2) 今後の対応
しかし、本邦法人のグローバル展開の進展に伴い、バイヤーとの販売交渉を迅速且つ円滑に行う
こと、販売後のアフターフォローを適切に行うこと等を目的として、外国支店等の拠点を現地に設立
して対応することが一般化している現状に鑑みて、当該支店名義で締結される契約についても、国
際競争力の維持の観点から付保の対象とすることが必要と考えられます。
そこで、次のような考え方にしたがって、本邦法人の代理人という立場にある海外支店が、支店
名義で締結する契約についても貿易保険の対象とすることとしました。
先述の外為法は、その適用範囲について「本邦内に主たる事務所を有する法人の代表者、代
理人、使用人その他の従業者が、外国においてその法人の財産又は業務についてした行為にも適
用する。」としており、海外支店の行う行為に対して外為法が直接適用される場合があることを定め
ています(外為法5条)。こうして同法6条では、非居住者たる海外支店は外為法の適用対象
「者」ではないとする一方で、その「行為」については、同法5条に基づき、居住者である本邦の法人
が行った行為とみなし、外為法が適用されることになります。
外為法の法目的が、対外取引に対し適切な管理等を行うことにより「対外取引の正常な発展」
1外為法6条5号は、
居住者について「本邦内に主たる事務所を有する法人、及び非居住者の本邦内の支店、
出張所その他の事務所」
(同法6条5号)と規定しており、海外支店は、非居住者と扱われています(外為
法為替法令の解釈及び運用について(昭和 55 年 11 月 29 日付蔵国第 4672 号)6-1-5、6 2(1))
。
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(同法1条)の実現することであるのに対し、貿易保険法の法目的は、対外取引において通常の保
険で救済することができない危険を保険することにより、「対外取引の健全な発達を図ること(同法
1条)であり、両法の法目的は共通しているものと考えられますから、貿易保険法においても外為法
5条の考えを類推適用して、海外支店は適格被保険者ではないものの、海外支店の行為について
は本邦法人の行為であるとみなして付保の対象とすることは可能であると考えました。
(3) 具体的な運用について
具体的な保険契約の内容は以下のようになります。なお、包括保険における取扱いについては
検討中ですが、個別案件のご相談はお受けしております。
①被保険者適格
前述のように、海外支店自体に被保険者適格は認められず、海外支店の行為について
は本邦本店の行為として付保することとなることから、被保険者は本邦本店となります。
②保険契約者
被保険者と同様に本邦本店となります。
③保険金受取人
原則として、被保険者、保険契約者である本邦本店となります。
④現地付保規制
海外支店が締結する契約については、前述の通り本邦本店にその法的効果が帰属する
ため、被保険利益は本邦にありますから、現地国の海外付保規制に抵触する可能性は
低いと考えます。仮に、現地国の海外付保規制の関係で問題が生じる場合には、経済
産業省とも協議を行いつつ、個別に対応していく方針です。
(4) 海外現地法人への対応
本邦法人と別個独立の法人格を有する現地法人の行う契約については今回の措置の対象とは
なりません。
2 本邦法人のストックセールスに対する付保
(1) これまでの対応
ストックセールスとは、輸出者が販売先企業の所在国又は近隣国に本邦貨物を自己の名義で
一旦在庫した上で、当該貨物を販売する取引形態を言います。こうしたストックセールスは、バイヤ
ーの需要に迅速に対応し、納品までの期間を短縮する効果があり、国際競争力の維持・強化に重
要な取引形態となっています。
ストックセールスの特徴は、貨物が輸出され、販売地等に在庫された後にはじめて販売契約が締
結される点です。この点、貿易保険法では、保険引受の対象となる「輸出契約」は、本邦内で生
産され、加工され、又は集荷される「貨物を輸出する契約」(2条2項)と定められており、保険の対
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象となるのは、輸出契約に基づいて貨物を輸出すること、すなわち、まず輸出契約が締結され、これ
に基づいて貨物の輸出行為がなされることが条件とされていました。したがって、輸出行為の後に販
売契約が締結されるストックセールスは付保の対象とされていませんでした。
(2) 今後の対応
上記のように、確かにストックセールスは輸出契約の契約締結と、貨物の輸出の順序が通常の取
引と逆になっているのですが、取引の対象となる貨物に着目すれば、本邦内で生産、加工、集荷さ
れた貨物であること、最終的に海外において販売することを目的として輸出されていること、現地にお
いても所有者は当初の輸出者と同一であること等の点で通常の輸出契約と変わるところはありませ
ん。また、てん補する危険も、結局は対外取引に基づく販売不能リスク、代金回収不能リスクである
点も一般的な輸出契約の場合と同様です。
そこで、ストックセールスについては、輸出行為と販売契約を一体ととらえ、その全体を「輸出」とみ
なすことにより貿易保険の対象とすることとしました。
(3) 運用上の留意点
①付保対象となる期間
以上のように、ストックセールスについては輸出行為からその後の販売契約までの行為全体を「輸
出」ととらえますが、バイヤーが明らかにならない限り保険の申込はできません。したがって、輸出行
為後、販売契約締結時点から保険責任は始まります。
②輸出の時点
また、輸出の時点はいわゆる船積時点であることも通常の輸出契約と代わりはありません。
上記、①、②を併せて考えると、保険責任は販売契約締結以降ということになり、この保険責任
開始時点では、船積は既に終わっていますから、船後のみの保険設計と言うことになります。なお、
具体的な運用につきましては、現在、検討中です。
(4) 海外現地法人への対応
今回の対応では、本邦法人が「自己の名義で」外国に一旦在庫する場合のみが対象となります。
このため、本邦法人が現地法人に販売という形態をとって一旦ストックし、その後販売するという方
式は今回の措置の対象外ということになります。
3.バイヤーズ・クレジットにおけるローカルコストの取扱いについて
(1) これまでの対応
輸出代金貸付保険は、輸出代金貸付者が輸出代金貸付契約(輸出契約に基づく輸出貨物
の代金等を外国法人等に貸し付ける契約)に基づいて資金を貸し付けた場合に当該貸付金につ
いててん補する保険です(貿易保険法 30 条2項)。この貸付金の対象として本邦貨物の輸出代金
に加えて、本邦貨物の輸出に付随する現地調達貨物の代金についてもその対象とすることが必要
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となる場合があります。
この背景には、プラント輸出契約等、単に本邦貨物の納入のみならず、現地における物品の調
達や役務の提供を重要な一部とする複合的取引が増加していることがあげられます。そこで、輸出
部分と現地調達部分について、原則として同一契約であること、輸出部分と現地調達部分が二本
の契約に分かれる場合には、輸出契約の当事者である本邦法人が現地調達部分についても履行
責任を負うこと、を条件にこれまで付保を認めてきました。これは輸出代金貸付契約の対象は、輸
出貨物の代金等とされているから、現地調達品も輸出契約の一部に含まれる必要があるとの考え
に基づいたものです。
(2) 今後の対応
しかし、このような対応に対しては、OECD ルールが「輸出者の契約がその一部を構成する事業
遂行のため、または輸出者の契約遂行のために必要な現地での支出」をローカルコストと定義して、
輸出契約に含まれない現地調達品等も支援の対象と認めていることから、国際的に競争上不利
な条件を我が国企業に対して課していることとなります。
そこで、輸出部分と現地契約部分が二本の契約に分かれている場合であっても、これらの契約
全体について一括して貸付を行っている場合、保険引受においてもこれらの契約全体についてカバ
ーすることとしました。
また、実務上の問題としても、これまでの運用では輸出部分と現地調達部分について資金使途
を厳密に区別することは難しいことからも妥当と考えます。
(3) OECD ルール
OECD ルールでは、ローカルコスト(「輸出者の契約がその一部を構成する事業遂行のため、又は
輸出者の契約遂行のために必要な現地での支出」であり、上記現調貨物がこれに当たります。)に
対する公的支持については、輸出契約金額の 30%を超えてはならないとされているので(同第 10
条 d))、内容に従うことが必要となります。
ただし、これらの条件、ルール等が変更された場合には、当該変更内容に応じて引受条件につい
ても見直しを行っていくことが適当と考えます。
以上
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2009年ベルン・ユニオン・イスタンブール会合について
2009 年 6 月 16 日
独立行政法人 日本貿易保険
ベルン・ユニオン(BU)の 2009 年春の会合が、5 月 4 日∼6 日にかけてトルコのイスタンブールで開催され
ました。世界的な金融危機の中で、ECA の国際金融変動のセーフティネットとしての役割に対する期待
の高まりを受け、加盟機関のメンバーが、具体的な対応策などを真剣に話し合いました。NEXI からは、
今野理事長、加藤理事、パリ事務所、シンガポール事務所、本店営業関係者等8名が参加しました。
今回の会合では、通常の短期委員会、投資委員会、中長期委員会の議論の場に加え、新たな試み
として、各委員会のメンバーが横断的に参加する All-Member Day の会合が開催され、議論が一層深ま
りました。1 ヶ月前にロンドンで開催されたG20金融サミットでは、世界の ECA が今後2年間で 2,500 億ド
ルの引受を行うことが宣言に盛り込ましたが、これに積極的に応えていくため、各委員会での議論も、金
融危機は貿易保険にどのような影響を与えているか、各 ECA はどのように対応し、今後如何に対応しよ
うとしているのかについて活発な議論が行われました。民間保険会社が中心となっていた短期分野につい
ても、EU における公的 ECA の復帰の動きについても紹介がありました。
今回会合での議論を経て、参加者の間では、世界の貿易・投資の拡大に向け、ECA が引き続き重要
な役割を果たしていくための努力を行っていくことで認識が一致し、後日、BU としてのプレスリリースを発表
しました。次回は、毎年秋に開催されるBU総会が、10 月 12 日∼16 日にソウルで予定されています。
また、イスタンブール会合の前日に開催されたアジア地域の ECA 会合においては、昨年 11 月に東京で
開催されたアジア ECA 特別会合について、第 2 回会合をバンコク(ホスト:タイ輸銀)で開催することが決
定されました。(その後、8 月 5∼7 日での開催が決定。)
夕食会で挨拶する今野BU議長
隣はホスト機関のトルコ輸銀 Kilicoglu 総裁。
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イスタンブールの風景
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e-NEXI (2009 年 6 月号)
2009年ベルン・ユニオン・イスタンブール会合に関する
ベルン・ユニオン事務局によるプレスリリースについて
2009 年 6 月 16 日
独立行政法人 日本貿易保険
2009 年のベルン・ユニオン(BU)春の会合が 5 月 4 日∼6 日にかけてトルコのイスタンブールで開催されま
した。その概要は 6 月号の e−NEXI の貿易保険ニュースにも掲載いたしましたが、5 月 18 日付でBU事
務局から主要プレス宛てにプレスリリースが発表されていましたので、原文および要約(仮訳)をご紹介しま
す。
本会合は昨年 11 月の会合に引き続き、世界的な金融危機の影響、BU 及び ECA のビジネスの役割
について精力的な議論が行われました。プレスリリースは会合での議論を踏まえて、BU メンバーは、世界
の貿易・投資の安定的な促進に向けて積極的な役割を果たすため、引き続き協力を進めていくことを主
な内容としています。
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ベルンユニオン−プレスリリース
世界貿易の継続的支援にとって極めて重要な担い手:貿易保険機関
各国政府や国際社会が世界的経済危機への対応に追われる中、国際貿易・投資を維持するための
中心的存在である関係機関がトルコのイスタンブールに集まり、貿易の流れを維持するための信用・投資
保険の重要性を再確認した。世界の主要な輸出信用および投資保険機関の集まりであるベルンユニオ
ンのメンバーらは、5 月 4 日から 6 日に開かれた会合において、世界の貿易の流れを維持するために各機
関が導入した措置について議論した。
ベルンユニオンのキンバリー・ウィール事務局長は「将来への見通しが利かない現在、貿易金融に携わる
人々が、リスクを軽減する手段としてますます信用・投資保険を頼りにしています。」と説明した。
さらに、「メンバー機関に対する最近の調査によれば、全体的なリスクレベルは高まっているものの、受け
入れ可能なリスクに対するキャパシティは十分にあることがわかりました。
ただそれは、過去 30 年間に亘って、メンバー機関の多くが国際信用市場における役割を適切に果たし、
経験を積んできていることを考えれば、当然かも知れません。」と続けた。
去年の金融危機の発生以来、ベルンユニオンのメンバー輸出信用機関(ECA)は主に次の四つの方法
により貿易量を回復するという課題に対処してきた。
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引受限度の引き上げ:EDC(カナダ)は授権資本を 15 億カナダドルに引上げ。EKN(スウェーデン)は
引受枠を 1500 億スウェーデンクローナに引上げ。HKEC(香港)は最大引受枠を 150 億香港ドルに
引上げ。
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付保率の引き上げ:COSEC(ポルトガル)は最大付保率を 98%に引上げ。MEHIB(ハンガリー)は
付保率を 95∼100%に引上げ。SERV(スイス)は信用危険の付保率を 95%に引上げ。
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輸出者への運転資金供給の支援:NEXI(日本)はグローバルサプライチェーンを支援するためにバン
クローンへの付保を提供。US EXIMBANK(米国)は後の輸出のために米国企業に売られた商品に
対して運転資金保証を供与。
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輸出者及び関連産業への流動性の提供:ASHRA(イスラエル)は 125 百万米ドルの新たな輸出者
向け基金を設立。FINNVERA(フィンランド)は 37 億ユーロまでの資金及び追加資金を提供。
さらに、メンバーECA 全体では合計 0.5 兆ドルのリスクを毎年引き受けており、メンバー民間保険会社の
取引高と合わせベルンユニオンとしては世界貿易量の約 10%をカバーしている。
イスタンブール会合は、4 月 2 日の G20 首脳による貿易金融に対して 2500 億米ドルの追加支援を提
供するという発表にも積極的に対応した。
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ベルンユニオン議長である NEXI(日本)の今野秀洋氏は次のように説明した。「世界の貿易の流れを回
復することは、より広範囲に亘る国際経済の回復のために必須であり、世界的な経済課題に対処するた
めには、ECA の技術的・財政的処理能力を引き上げることが、最も効果的な方法のひとつであることを示
しています。
我々のメンバー機関は国際的な貿易の流れを維持するために非常に熱心に取り組んできました。そし
て、これをアナウンスすることは、我々の対応している危機が世界的な規模のものであることだけでなく、そ
の危機に対処する手段としての貿易金融の重要性の証しでもあるのです。
そのようなわけで、我々は各国政府や国際社会と共に国境を越えた貿易・投資の流れを維持し、向
上させる役割を ECA が果たせるものと確信しているのです。」
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18 May 2009
NEWS RELEASE
FOR IMMEDIATE RELEASE
Insurance experts essential to continued support for global trade
As national governments and the international community respond to the world economic crisis,
some of the key players in maintaining international trade and investment gathered in Istanbul,
Turkey, to reaffirm the importance of credit and investment insurance in keeping trade flowing.
Meeting from 4 - 6 May, members of the Berne Union – the world’s leading export credit and
investment insurers – assessed the effects of the measures they put in place to maintain world
trade flows.
Berne Union Secretary-General, Kimberly Wiehl described how “those involved in trade finance
are increasingly looking to credit and investment insurance as a means to mitigate risk in these
uncertain times. Our latest survey of members shows that despite the rise in overall risk levels,
there is ample capacity to cover acceptable risks.
This is to be expected, however, as many of our members have successfully played a
counter-cyclical role in the international credit market over the past 30 years, and have long
experience to draw from.”
Since the outbreak of the financial crisis last year, Berne Union’s export credit agency members
(ECAs) have responded to the challenge of recovering trade volumes in four main ways:
·
Raising the ceiling for the business volume: EDC (Canada) increased its capital limit by
Can$1.5 billion; EKN’s (Sweden) limit was increased by Skr150 billion; HKEC (Hong Kong)
increased its maximum limit to HK$15 billion
·
Raising the cover ratio: COSEC (Portugal) increased its maximum cover percentage to
98%; MEHIB (Hungary) increased to 95-100%; SERV (Switzerland) increased to 95% for
commercial risk
·
Supporting the working capital supply for the exporters: NEXI (Japan) provides cover for
bank loans to support global supply chains; US EXIMBANK (USA) provides working capital
guarantees for goods sold to US companies for subsequent export
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·
Providing liquidity to the exporters and related industries: ASHRA (Israel) established a
new exporter’s fund of US$125 million; FINNVERA (Finland) provides funding and
refinancing up to €3.7 billion
Moreover, the ECA members underwrite a combined total of half a trillion dollars worth of risks
yearly – and combined with the business volume of our private insurer members, the Berne Union
covers approximately 10 per cent of world trade volume.
The Istanbul gathering also responded positively to the announcement on 2 April by G-20 leaders
to provide US$250 billion in additional support for trade finance activities.
Berne Union President, Hidehiro Konno from NEXI Japan, explained that “the recovery of world
trade flows is vital to the broader recovery of the international economy and increasing the
technical and financial capabilities of ECAs represents one of the most effective ways to meet the
global economic challenge.
Our members have been working exceptionally hard to keep international trade flowing. And this
announcement is testament not only to the global extent the crisis we are dealing with but also the
importance of trade finance as a means to counteract it.
That is why we are confident that along with national governments and the international
community we can play our part in sustaining and improving cross border trade and investment
flows.”
Note to editors:
About the Berne Union
Celebrating its 75th anniversary in 2009, the Berne Union (International Union of Credit &
Investment Insurers) is the leading international association for the export credit and investment
insurance industry. It works for cooperation and stability in cross-border trade by supporting the
international acceptance of sound principles in export credits and foreign investments and by
providing a forum for professional exchange among its members.
Members
The 49 members of the Berne Union covered over US$1.5 trillion worth of business in 2008, which
is about 10% of the world's total export trade. Members are both private companies, offering
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worldwide risk management solutions, and state backed export credit agencies, focusing upon the
support of national exports and outward investments.
Interaction
Members benefit from the highest quality information exchange through several yearly meetings,
seminars and workshops, and interactively online. Exchanges focus on technical aspects of
international trade, as well as developing and promoting best practices.
Links
The Berne Union has well established links with other organisations that play important roles in
world trade including the WTO, World Bank, IMF, OECD and regional development banks.
The Secretary-General of the Berne Union is Ms Kimberly Wiehl, and the Secretariat is based in
London.
See www.berneunion.org.uk for more information.
Contact:
Kimberly Wiehl
Secretary-General
Berne Union
27-29 Cursitor Street
London EC4A 1LT
United Kingdom
t
+44 20 7841 1110
f
+44 20 7430 0375
e
[email protected]
w
http://www.berneunion.org.uk
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