最適化した在宅医療の提供に関する研究

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医療経済および患者や家族側の顧客満足度の観点からの
在宅症例の解析・評価、最適化した在宅医療の提供に関する研究
筑波大学大学院人間総合科学研究科 呼吸病態医学分野 講師
森島 祐子
私たちは、在宅医療においていかに満足度の高い医療を提供できるかということに
ついて検討を行なっています。今回はその中で、どのような要素に着目すれば満足度
の高い医療を提供できるか、また、現在行なわれている在宅医療の現実についてお話
しさせていただきたいと思います。
【ポスター 1】
まず背景ですが、これは、終末期患者の看取りの場所の推移を示しています。1950
年代は自宅で亡くなる方が約 80 %でした。それが時代と共に低下しまして、現在で
は 1 2 . 2 %の方が自宅で亡くなっ
ています。1 9 7 6 年がターニング
ポスター 1
ポイントと言われていまして、
現在、病院・診療所で亡くなる
方が右肩上がりで増えています。
つまり、現在は、病院で最期を
迎えるのが当然の時代というこ
と で す 。 一 方 で 、 2 0 3 8 年には
170 万人の亡くなる方がいて、そ
の受け入れ先がなくて困ってし
まうのではないかとも予測され
ています。
【ポスター 2】
ポスター 2
厚生労働省は、医療費の削減
をしなくてはいけない、医療機
能の分担をしなくてはいけない
ということで、とにかく病院死
から在宅死へということを大き
な目標として掲げています。そ
のために 2 0 0 6 年以降、在宅医療
に手厚い診療報酬改定を行なっ
たり、 2 0 1 1 年には介護療養病床
の廃止等を予定して、入院施設
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を絞っていこうという施策を打ち出しています。
またその外郭団体では、今後 5 年で在宅での看取りを現在の倍の 25 %まで増やそ
うという啓蒙活動を盛んに行なっています。しかし、国の方針とは裏腹に現実は非常
に厳しく、患者、家族、更には医療者にとっても満足度の高い在宅医療が行われてい
るとは言い難い現状です。
【ポスター 3】
在宅医療において患者を取り巻く要素はさまざまあります。内的要素としては患者
さんの基礎疾患、年齢、文化的な背景などがあるかと思います。宗教なども含まれま
す。外的要素としては家族環境、つまり介護する家族にどのような方がいるか、また
はサービスなどを含めた介護環境は整っているか、そして医療環境です。在宅医療を
している医療者が周りにきちんと整備されているかということは重要な点です。
私たちは、これらの要素の中でどの点に着目すればいいかということを検討してい
るのですが、今回は、内的要素に着目してお話しさせていただきます。
外科治療に適応というものがあるのと同じように、在宅医療にも良い適応というも
のがあるのではないでしょうか。在宅医療に適切な要素を多く持つ患者さんを在宅医
療に誘導することによって、患者・家族の在宅療養に対する満足度は上がるのではな
いかと、私たちは思っています。
【ポスター 4】
茨城県つくば市で在宅専門型医療機関であるホームオン・クリニックにおいて、
2 0 0 2 年から 2 0 0 6 年までの 5 年間に在宅医療を提供し、その後の経過を追跡し得た
444 名の患者を対象に検討を行いました。
看取りまで在宅医療を継続し得た患者を「在宅死」症例、また、入院や入所によっ
て在宅医療が中断し、最終的には施設で看取った患者を「非在宅死」症例としました。
「在宅死」症例は、在宅医療に対して比較的満足度が高かったのではないかと考え、
在宅医療を継続する要因について解析しました。
ポスター 3
ポスター 4
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【ポスター 5】
ポスター 5
在宅死と非在宅死の割合につ
いて、年齢別に解析したもので
す。ホームオン・クリニックで
は、全体の 5 2 . 1 %が在宅で看取
られましたが、8 0 歳を境に、年
齢が高くなればなるほど在宅死
に誘導しやすいことが分かりま
した。
【ポスター 6】
次に、在宅死と非在宅死の割合
について、疾患別に解析しました。
「老衰」とは、認知症や多発性脳梗塞等があって、特定の疾患というよりは全身的
身体機能が衰えて亡くなった高齢者のことを指しています。この老衰とがんに関して
は、在宅死に誘導できた例が非常に多くありました。
良性疾患というのは、良性という言葉が適切かどうか分からないのですが、非がん
を指しています。内訳としては、ALS 等の神経筋疾患や肺気腫等の慢性呼吸器疾患、
関節リウマチ等です。これらの疾患の場合は、在宅医療の継続は困難で、最終的に施
設で看取る例が非常に多いのが特徴的でした。
【ポスター 7】
非在宅死症例、要するに在宅で死を迎えられなかった方々の疾患の内訳を見ますと、
脳梗塞で麻痺等のあるような脳血管疾患後遺症、認知症、神経筋疾患、慢性呼吸器疾
患、関節リウマチがほとんどで 7 割を占めていました。
【ポスター 8】
また、比較的在宅死に誘導しやすいがんについて経年的な変化を見ますと、平成 14
ポスター 6
ポスター 7
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年から 1 8 年にかけて、意外にも
ポスター 8
在宅死に持っていける率が年々
少なくなっていることが分かり
ました。これは、近年、ホスピ
スや緩和ケア病棟など、いろい
ろな施設面での充実があり、必
ずしも患者さんや家族が在宅死
を望まないということで、少な
くなっている印象でした。
【ポスター 9】
まとめです。年齢に関しては、
高齢であるほど在宅死を達成し
ポスター 9
やすいということが分かりまし
た。この要因としては、家族の
理解が得られやすいということ
があげられます。ネガティブな
要因として、収容先の病院が見
つけにくいので仕方がなく、と
いう症例も少し入っています。
疾患に関しては、がん等は在
宅死を達成しやすいことが分か
りました。がんという疾患の性
質上、在宅医療のメリットに関し
て家族の理解が得られやすいこと、また、在宅での死について本人や家族の意思が固
い例が多いこと、加えて、予後が限定的で療養期間が比較的予測可能ということから、
家族が頑張れるということが要因としてあると思います。
それに対して、良性疾患に分類される神経筋疾患や呼吸器疾患等は、非常に在宅死
を達成しにくい状況がありました。これは、疾患の性質上、終末期に対しての家族の
理解が得られにくいこと。また、療養期間の予測が困難ということで、予想外に長期
化すると家族が介護に疲弊してしまうこと、あるいは、予想外に急変して家族がうろ
たえてしまうということなどが要因となって、施設に収容されるケースが多くありま
した。
結論としては、在宅医療に適した年齢、疾患を考慮することで、在宅医療をスムー
ズに導入し、在宅医療に対する患者や家族の満足度を上げ、最終的には看取りまで含
めた在宅医療を提供し得ることが示唆されました。
また、在宅医療の継続困難な例では、どのような援助があれば在宅療養が可能とな
るかは、更なる検討が必要であると思われました。
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質疑応答
会場: 北海道薬科大学から参りました。実は、本学は夕張医療センターと提携をし
まして、これから在宅、それから予防医療を調査・研究しようということで、
今日のフォーラムを楽しみにしていました。
在宅死とか非在宅死という形の統計分析をレトロで出していただいたのです
が、これは患者さんやご家族の希望とのズレ・ギャップはどうなのかというこ
と、それと、最後の方で満足度をお話しされていましたが、そこに非常に興味
があるので、そういったことで何か知見といいますか、ある程度結果が出てい
ましたら、ご紹介いただきたいと思います。
森島: ホームオン・クリニックで院長をされている平野先生とこの研究を行ったの
ですが、現場で平野先生が実際にこれらの患者さんを全てお一人で診られてお
りますので、意見を述べていただきたいと思います。
平野: 私のクリニックには、意識が明確な患者さんもいますし、もう既に昏睡の患
者さん、認知症の患者さんもいます。本当は、病院から退院されてきた時、あ
るいは入院中に患者さんの所に出向いて、在宅死を希望されるかどうかという
質問をして、どこまで在宅を続けるつもりかということを自分たちも知りたい
所なのです。
患者さんの多くには、ここにいる皆さんもそうだと思うのですけれども、で
きれば家でという気持ちが当然あるのです。しかし、例えば、家族がいなけれ
ば自宅という選択もできません。また、家族は「急変」という言葉を使います。
「急変」した場合は病院に戻したいと言うのですが、私たち医療従事者として
は、がんに「急変」という言葉はないと思っています。私の予想の範囲の中で
起きていることなのです。意識が混濁しても、それも正常な流れです。考えて
みれば、生まれてきた以上死に至るというのは正常な流れなので、そこを、満
足度という点から考えれば、宗教的なことも含めて話すのが在宅医療をやって
いる私の仕事だと思うのです。
満足度に関してアンケートを取ろうとしたのですけれど、難しい所がありま
す。そこで、残ったご家族が「私もこういう死に方を選択したい」とか「結果
としてこれで良かった」と言っていただければ、満足したのではないかと考え
聞き取り調査をしました。
統計の数字は全部まだ出していないのですけれども、8 割から 9 割は「私は
こうしたい」とは言うのですが、でも、次の世代の介護者に面倒を見てもらう
形になるわけですので、「それは自分の子供たちにはできないだろう」と皆さ
んおっしゃいます。だから、逆にこれから先、いかに政府が体制を取ったとし
ても、在宅医療で最期を看取るという数値は下がっていくような予測をしてい
ます。
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テーマ:医療と評価
会場: 素人の質問で申し訳ないのですけれども、在宅医療というものを、死亡の文
脈の中で語られるのに違和感があるのです。在宅医療を受けている患者さんで
も、これから自分は元気になるのだという方もいらっしゃるでしょうし、病院
のアクセスが非常に悪い所も多いですし、たとえ病院はあっても、行ったら一
日待たされるので状態的に行けないとか、そういう所では在宅での医療を希望
される方もいらっしゃると思うのです。
在宅医療というのは、死亡までの療養という意味で語られなければいけない
ものなのか、それともアクセスを改善する、言ってみれば外来の代わりのよう
な形というサービスの利用があっていいものなのか、その辺のご意見をおうか
がいしたいのですが。
森島: それはとても重要なことで、いろいろな過疎地もありますので、今後そうい
う形態はあってしかるべきだと思います。ただ、私たちの地域はそれほど僻地
ではないので、基本的には外来に来られる患者さんは、病院ではないにしても
医療施設に通院されていて、在宅になる方というのは基本的には「もう行けな
い」という形で在宅になるケースが多いので、どうしても看取りとリンクして
くることが多くなります。
ただ、将来的には、先生がおっしゃるように、地域によっては通院に代わる
ような在宅医療があってもいいと思います。
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