自賠責保険における被保険者 - 日弁連交通事故相談センター

8 交通事故相談ニュース 32号 (2014年3月1日)
己に帰属する以上、運行供用者に該当しますが、正
当な権原がないことから保有者には該当しません。
そして、泥棒運転者が自賠法3条の運行供用者責任
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自賠責保険シリーズ ■
を負うとしても、自賠責保険の被保険者である保有
者が自賠法3条責任を負うわけではないので、自賠責
保険は適用されません。このような場合の被害者の
保護は、自賠責保険ではなく政府保障事業(自賠法71
条以下)によって図られます。
自賠責保険における被保険者
(2)
運転者概念
1
被保険者概念
運転者とは「他人のために自動車の運転又は運転
の補助に従事する者」
(自賠法2条4項)であり、
「他人
損害保険契約における「被保険者」は、
「損害保険
契約によりてん補することとされる損害を受ける者」
のために」は、
「自己のために」
(自賠法2条3項、同法3
条)の反対概念です。
(保険法2条4号イ)であり、損害保険契約のうち「被
運転者は、運行支配と運行利益が自己に属しない
保険者が損害賠償の責任を負うことによって生ずる
点で運行供用者と区別され、保有者とは異なる概念
ことのある損害」をてん補する契約が責任保険契約で
です。
すから(保険法17条2項)
、責任保険契約における被
保険者は、事故によって生命身体財産に対する損害
を受ける者(被害者等)ではなく、被害者等に対する
賠償責任を負う者(加害者等)を意味します。
運転者には、狭義の運転者と運転補助者が含まれ
ます。
狭義の運転者は、他人との間の雇用、委任その他
の契約関係に基づき自動車を運転する者であり、法
人タクシーの運転者等がこれに該当します。
自賠責保険における被保険者
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∼保有者概念と運転者概念∼
運転補助者は、運転行為の一部を分担するもので
あり、運転助手等がこれに該当します。なお、運転
補助者が被害者となった場合、一般に他人性(自賠
自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の被保険者
法3条1項)が否定されることから、他人性を巡って運
は、
「保有者」と、保有者が自動車損害賠償保障法(自
転補助者に該当するか問題となることが多くありま
賠法)3条の責任を負う場合の「運転者」です(自賠法
す。
11条)
。
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運転者を被保険者に含めた趣旨
(1)
保有者概念
保有者とは、
「自動車の所有者その他自動車を使用
運転者は、運行供用者に該当せず、自賠法3条に基
する権利を有する者で、自己のために自動車を運行
づく賠償責任を負いませんが、民法709条等に基づく
の用に供するもの」をいいます(自賠法2条3項)
。後段
賠償責任を負う場合があります。保有者のみを自賠
の「自己のために自動車を運行の用に供するもの」は
責保険の被保険者とした場合、賠償義務を履行した
運行支配と運行利益が自己に帰属する者を指し、自
保有者(保険会社)が運転者に求償することを防ぐた
賠法3条の「自己のために自動車を運行の用に供する
め、保有者のみならず運転者も被保険者に含めたも
者」
(運行供用者)と同義です。
のとされています。
運行供用者のうち、所有権、賃借権その他の正当
したがって、保有者に自賠法3条の責任が発生する
な権原に基づく使用権を有するものが保有者であり、
ことを条件として運転者が被保険者に該当すること
自家用自動車の所有者、自動車の賃借人、法人タク
とされたのです(自賠法11条)
。
シーの法人、運転代行業者(最判平成9年10月31日民
集51巻9号3962頁)等が保有者に該当します。
(東京弁護士会 村木 政之)
しかし、泥棒運転者は、運行支配と運行利益が自
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