他人性 - 日弁連交通事故相談センター

6 交通事故相談ニュース 30号 (2013年3月1日)
することは許されないと判示しました(最判昭和50年11月4日
民集29巻10号1501頁)。この判例の判旨からすると、被害
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自賠責保険シリーズ
者である運行供用者による運行支配が、他の運行供用者の
運行支配と比べて間接的、潜在的、抽象的である場合には、
当該運行供用者は、他の運行供用者との関係では他人性
が肯定されることになります。
4 自動車所有者等が乗車していた場合の「他人性」
他人性
自動車の所有者が知人から当該自動車を貸して欲しいと言
われたことから運転を交替し、電車で帰るために駅まで送って
1 自賠責保険における他人性の意義
もらおうと同乗していた所有者が死亡した事案において、運
自賠責保険によるてん補がなされるためには、その被保険
といえるかについて、事故の防止につき中心的な責任を負う
者である加害自動車の保有者(自動車の所有者その他自動
所有者として同乗していたことから、当該知人が当該所有者
車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行
の運行に服さず当該所有者の指示を守らなかった等の特段
の用に供するもの)が、自動車損害賠償保障法(自賠法)3
の事情のない限り、当該所有者の運行支配の程度は当該知
条1項の運行供用者責任を負っている必要があります(自賠
人のそれに比して優るとも劣らず、当該所有者は「他人」に
法11条1項)
。そして、運行供用者責任が発生するためには、
はあたらないと判示しました(最判昭和57年11月26日民集36
「運行供用者がその運行によって他人の生命又は身体を害し
行供用者である当該所有者が当該知人との関係で「他人」
巻11号2318頁)
。この判例の判旨からすると、運行供用者
たこと」が必要となります。
である所有者が被害者となる場合には、特段の事情のない
そのため、被害者が運行供用者(自己のために自動車を
限り、当該所有者は、加害者との関係では、他人性が否定
運行の用に供する者)との関係で「他人」であるか否かは、
されることになります。
自賠責保険によるてん補を受けられるか否かにとって重要な
勤務先から自動車の常時使用を許されていた者が運転代
意味をもちます(他人性の問題)
。
行業者に運転代行を依頼し、運転代行業者から派遣された
2 基本的な考え
代行運転者に当該自動車を運転させて、これに同乗してい
た際、事故で傷害を負った事案において、自動車の常時使
この点、判例は、
「他人」とは、運行供用者及び運転者以
用を許されていた被害者が当該運転代行業者との関係で
外の者を指すと判示しています(最判昭和37年12月14日民集
「他人」といえるかについて、このような場合には、当該自動
16巻12号2407頁、最判昭和42年9月29日判時497号41頁)
。
車の運行による事故の発生を防止する中心的な責任は当該
そのため、自動車の運行供用者、運転者にあたらないか
運転代行業者が負い、被害者の運行支配は運行供用者で
ぎり、所有者の妻や子が同乗していても他人性が否定される
ある当該運転代行業者のそれに比べて間接的、補助的なも
わけではありません。
のにとどまっており、前掲昭和57年最判の「特段の事情」に
3 運行供用者が「他人」となる場合
該当するとして、当該運転代行業者との関係では「他人」に
もっとも、被害者が運行供用者であるというだけで、一切
他人性が否定されるのかというとそういうわけでもなく、他の
運行供用者との関係で他人性が肯定される場合もあります
(共同運行供用者の他人性の問題)
。
当たると判示しました(最判平成9年10月31日民集51巻9号
3962頁)。
5 相談にあたって
以上のように、判例は、「他人」の意義について、運行供
この点、厳重に管理されているわけではない会社所有の自
用者及び運転者以外の者としながらも、運行供用者が「他
動車を取締役が当該会社に無断で私用のために持ち出して
人」となりうる場合があるとしています。
運転し、その後、当該会社の従業員と運転を交替し、それ
ただ、運行供用者は、本来は、自動車事故が発生した場
に同乗したところ当該従業員が事故を起こして受傷した事案
合にその損害賠償責任を負うべき立場の者であり、救済され
において、運行供用者である当該取締役が運行供用者であ
るべき者ではないことから、相談にあたっては、運行供用者
る当該会社との関係で「他人」といえるかについて、当該会
が自賠責保険によって救済されるような場合、すなわち、他
社による運行支配が間接的、潜在的、抽象的であるのに対し、
人性が肯定される場合は、限られた場面に過ぎない旨を説明
当該取締役による運行支配ははるかに直接的、顕在的、具
しておく必要があると思います。
体的であり、このような場合には当該取締役は他人性を主張
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