欧州の航空機カスタマー・サービス施設の数々 ヨーロッパを取材してきた。今回は、メンテナンスをはじめ顧客サービスが主テーマ。 詳細は次回以降に順次取り上げていくとして、訪問箇所をダイジェストで紹介していく。 ◆ ダッソー・ファルコン・サービス(DFS) ジェット機メーカー世界大手ダッソー・ファルコンのグループ会社。パリのビジネスジ ェット専用国際空港ル・ブルジェ(パリ航空ショーの会場としても有名)に立地し、ダッ ソー・ファルコン製ビジネスジェットのチャーターおよび運航受託からメンテナンスに至 るまで、ワンストップのサービスを提供している。ル・ブルジェ空港内には他にも複数の 大手サービス会社が立地しているが、DFS はいわばメーカー直営のサービス・センターで あることが大きな特徴となっている。 写真の格納庫は、2008 年に完成した最新のメンテナンス格納庫で、面積約 3,000 ㎡。ダ ッソー社製最新機種ファルコン7X を6機まで同時に格納できる。 この格納庫では業務効率化のため、日本発の職場環境改善スローガン“5S(整理・整頓・ 清掃・清潔・しつけ)”を初導入した。その結果、他の格納庫に比べ生産性が9%向上した ことから、同社では他の格納庫にも5S の導入を進めている。 ↑ダッソー・ファルコン・サービス社の整備格納庫のひとつ。同規模の格納庫が他にも複数 存在しており、世界各地から整備用の機材が運び込まれる ◆ JET Aviation バーゼル支社 ビジネスジェットは、購入客のニーズに応じてキャビンなどがオーダーメイドされるた め、旅客機にはない独自のデザイン産業が発達している。スイス・バーゼル空港に立地す る JET Aviation 社のサービス・センターは、ビジネスジェット整備工場としても、インテ リアのデザイン・製造・艤装まで一括して手がけるインテリア工場としても、小型のビジ ネスジェットのみならず、エアバスやボーイングの旅客機を改装した大型ビジネスジェッ トまで、主要機種のほとんどをカバーする能力を備え、世界最大級の規模を誇っている。 創業者のカール・ハーシュマン氏は、アメリカで出会ったビジネス航空が、やがてはヨ ーロッパでも発展することを予測し、1967 年にビジネスジェット専門の整備会社として JET Aviation 社を設立した。ハーシュマン氏の予測は的中し、同社は次第に FBO やチャー ターといった運航関連事業、ビジネスジェットの販売や運用マネジメントなどにも進出し、 ビジネスジェットに関するあらゆるサービスを提供する巨大企業へと成長するに至った。 ↑JET Aviation のバーゼル支社。プライバシー保護の観点から、格納庫内で撮影した写真に は利用許可の手続きが必要なので、今回はオフィスビルの外観のみ ◆ エアバス総本部(フランス・トゥールーズ) エアバスは 2010 年、ビジネスジェット(エアバスではコーポレート・ジェットと呼ぶ) の年間デリバリー数が 15 機と過去最高に達した。旅客機改装タイプも含め、あらゆる競合 ビジネスジェット機種の中で最も広い客室を備えるエアバス・コーポレート・ジェットは、 商談会での注目度も高く、実績を伸ばしている。 顧客サービス強化のため、2007 年にトゥールーズ本部に新設されたコーポレート・ジェ ット・センターでは、A320 以下の全エアバス・コーポレート・ジェットに対し、メンテナ ンス、インテリアのデザイン・製造・艤装、運用サポートなどあらゆるサービスを提供し ている。 こちらではビジネスジェット関連の施設だけでなく、旅客機関連の施設も見せてもらう ことができた。各機材の内装を、実物大の機体模型で展示しているモックアップ・センタ ーでは、航空会社の責任者らに実際の機内の様子を体感してもらいながら、綿密なミーテ ィングを重ねて商談を進めていく。 ↑エアバス総本部のモックアップ・センター。主翼以外はほぼ実物通りに再現された機体 が並ぶ(上) 。機内も実物通りに再現されている(下) ◆ エアバス英国フィルトン工場 英国南西部のブリストルに近いフィルトンには、英国におけるエアバスの中核拠点が立 地している。エアバス機の主翼、着陸装置や燃料システムの開発・設計などをおこなって いるほか、風洞試験、さらに航空機分野にとどまらず全産業を対象とした炭素複合材研究 の英国における中心的役割を担っている。また、最新の大型軍用輸送機 A400M の主翼の製 造拠点でもある。 南西イングランドはロールス・ロイスを筆頭に、英国の航空機関連企業トップ 12 社の9 社が集積する、イギリス最大の航空機産業クラスターとなっている。ここには特にアジア から、高度な教育を受けた人材が大量に送り込まれ活躍している。一方、英国はじめヨー ロッパの学生たちの間で、技術者を目指す若者が減少していることから、エアバスでは将 来の技術競争力の衰退を懸念して、学生たちに航空機産業への関心を持ってもらうための 活動にも取り組んでいる。 ↑A350 用着陸装置の稼動テスト施設。離陸時・巡航時・着陸時など、状況に応じて適切な位置 に着陸脚が動くか否か、ソフトとの連動性なども含めてチェックする 以上4箇所を取材させてもらったが、初めて目の当たりにするサービスや技術も多く、 興味の尽きない旅行となった。 文責:石原達也(ビジネス航空ジャーナリスト) ビジネス航空推進プロジェクト 略歴 http://business-aviation.jimdo.com/ 元中部経済新聞記者。在職中にビジネス航空と出会い、その産業の重 要性を認識。NBAA(全米ビジネス航空協会)の 07 年および 08 年大 会をはじめ、欧米のビジネスジェット産業の取材を、個人の立場でも 進めてきた。日本にビジネス航空を広める情報発信活動に専念するた め退職し、08 年 12 月より、フリーのジャーナリストとして活動を開 始。ヨーロッパの MRO クラスターの取材を機に、C-ASTEC とも協 力関係が始まる。2010 年6月、C-ASTEC 地域連携マネージャー就任 (ビジネス航空研究会担当、非常勤)
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