EuroAirport Basel Mulhouse Freiburg

EuroAirport Basel Mulhouse Freiburg
-ターミナル内に国境跡が残る、スイス・バーゼルの空港-
中部航空宇宙技術センター・メルマガ(愛知県委託事業)内連載記事 2012 年2月上旬号
以前、スイス第3の都市バーゼル近郊にある世界最大級のビジネスジェット専用 MRO セ
ンターについて、本連載記事で紹介した。同センターが立地する EuroAirport Basel
Mulhouse Freiburg(=ユーロエアポート-バーゼル・ミュルーズ・フライブルク、以下バ
ーゼル空港)は定期便空港も兼ねているが、スイスとフランスの国境にまたがって立地し
ているため、ターミナル・ビル内がスイス領とフランス領に分かれており、国境の跡も残
っている。今回は、このユニークな定期便ターミナルを紹介する。
写真=スイス領とフランス領にまたがるバーゼル空港。写真はスイス側の定期便駐機場。
★ バーゼル
バーゼルはスイス北端、フランスおよびドイツの国境と接する都市。人口約 19 万人、都
市圏人口は約 48 万人。銀行の自己資本比率などに関する国際ルール“バーゼルⅢ”などの
用語を目にされた方も多いと思うが、BIS(国際決済銀行)の本部が立地する金融都市であ
る。また、医薬品販売額世界2位の Novartis(ノバルティス)、同5位の Roche(ロシュ)
がそろって本社を立地するなど、バイオ・メディカル産業の集積地でもある。建築デザイ
ナーが多数集まるデザイン都市としても有名であるほか、スイスでも最も保存状態が良い
とされる旧市街地など観光地としても名高い。鉄道ネットワークの国際ハブでもあり、パ
リやジュネーヴといった主要都市と TGV で2時間ほどで結ばれている。バーゼル空港とは
バスで 20 分ほどの距離。
写真=バーゼル市庁舎前広場。街を網の目のように走るトラム(市電)が市民の足となっている
フランス都市ミュルーズは繊維産業、機械・化学工業などの集積地で、都市圏人口は約
17 万人。バーゼル空港とはバスで 30 分ほどの距離。
ドイツ都市フライブルクは公共交通や太陽光発電など先進的な環境政策で有名で、
“環境
首都”の異名も併せ持っている。都市人口約 22 万人。バーゼル空港とはバスで1時間ほど
の距離。なおフライブルク近郊には、ビジネスジェットや救急ジェット、自家用機や熱気
球などの専用空港 City Flugplatz Freiburg も立地している。
★ 左右対称の定期便ターミナル
バーゼル空港は、30 カ国 62 空港に定期便が就航しており、20 航空会社が日々70 便以上
のフライトをおこなっている。2011 年の航空機発着回数は 87,584 回(前年比 14%増)、う
ちビジネスジェットや自家用機などが 21,383 回を占めている。2011 年の旅客数は 505 万
3,649 人(前年比 22%増)。2011 年 12 月 28 日に年間旅客数 500 万人を突破し、1946 年の
開港以来の最高記録を達成した(これ以前は 2007 年の年間旅客数 430 万人が最高)。
定期便ターミナルは中央で分かれ、北半分がフランス領、南半分がスイス領となってい
る。内部構造はほぼ完全な左右対称。それぞれにチェックイン・カウンター、送迎デッキ、
レストラン、売店、レンタカーなどのサービス・カウンター、免税店フロアなどが設けら
れている。
スイス側(↑)、フランス側(↓)。両エリアは売店エリアでつながっている
出発ロビーの階では、スイス領とフランス領を行き来する際に航空チケットの提示を求
められる。送迎デッキは国境で仕切られており、行き来できない。バス・タクシーの乗降
場もスイス・フランスそれぞれに設けられ、その間はフェンスで仕切られて越えることが
できない。ただし到着ロビー階に残る国境跡は自由に通過できるので、この通路でスイス
-フランス間を行き来できる。
写真=スイス-フランス間の国境跡。反対側から撮影してしまったので見づらいが、通路上
の青いパネルに、“Exit Switzerland” の文字が見える
バーゼル空港の建設計画は 1930 年代に持ち上がったが、フランスとの国境線の画定の問
題から、開港は第2次世界大戦後にずれ込んだ。現在ではバーゼル空港は、スイス・フラ
ンスの2国間協定によって共同運営されている。
同空港には、ビジネスジェット MRO 世界大手 Jet Aviation が9つの整備格納庫を展開し
ているが、そのうちのひとつ、総2階建ての超大型機エアバス A380 も収容できる最新の格
納庫はフランス領に立地している。この最新の格納庫では、ビジネスジェットのキャビン
のオーダーメイドおよび機体製造の完成段階を手がけており、A380 やボーイング 787 とい
った最新旅客機の、ビジネスジェットへの改修もおこなっている。
空港だけでなくバーゼルの鉄道ターミナル駅にも、フランスとの国境跡がある。各駅停
車の列車に乗って数分も走れば外国に行けるわけだが、隣町でもフランス領に入った途端
に英語が通じなくなるなど、大陸の町ならではの面白さがある。
写真=バーゼル空港定期便駐機場スイス側。格安航空会社 easyJet の機材の向こうには、量産型
貨物機として世界最大のアントノフ An124 が並んでいる
◆ Jet Aviation バーゼルの記事はこちら↓
http://c-astec.sakura.ne.jp/merumaga2/AerospaceInfo2011_03723/2011_037_bijinesu.pd
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文責:石原達也(ビジネス航空ジャーナリスト)
ビジネス航空推進プロジェクト
略歴
http://business-aviation.jimdo.com/
元中部経済新聞記者。在職中にビジネス航空と出会い、その産業の重
要性を認識。NBAA(全米ビジネス航空協会)の 07 年および 08 年大
会をはじめ、欧米のビジネスジェット産業の取材を、個人の立場でも
進めてきた。日本にビジネス航空を広める情報発信活動に専念するた
め退職し、08 年 12 月より、フリーのジャーナリストとして活動を開
始。ヨーロッパの MRO クラスターの取材を機に、中部航空宇宙技術
センターとも協力関係が始まり、現在に至る