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新病院での
感染対策活動
JA 秋田厚生連 大曲厚生医療センター
感染管理認定看護師
1. 病院紹介
五十嵐 孝
活動しています(写真2)。I CD は1名で、感染症専門
医と抗菌化学療法指導医の資格を有し、感染対策専任
当院は平成26年5月の新病院移転と同時に、病院
医師として ICTメンバーの指導的な役割を担っていま
名を「仙北組合総合病院」から「大曲厚生医療センター」
す。また薬剤師1名は抗菌化学療法認定薬剤師の資格
に改称しました。秋田県南内陸部に位置し、
「大曲の
を持ち、病棟担当薬剤師や医師からのコンサルテー
全国花火大会」で知られている大仙市の大曲駅より徒
ションにも対応しています。臨床検査技師は細菌検査
歩1分の距離にあり、地域中核病院としての役割を担っ
を通常業務とする傍ら、感染対策に関する資格取得を
ている病院です。昭和9年に開設し、現在は18診療
目指しているところです。私は感染対策専従看護師と
科437床(一般病床324床、地域包括ケア病床109
して活動していますが、資格を有した ICTメンバーの
床、感染症病床4床)を有しています
(写真1− ①、②)。
専門性が現場に還元できるよう、他のメンバーや看護
新病院となってからは、県内初の救急ワークステー
部感染対策組織のリンクナース委員会の協力をいただ
ションと屋上ヘリポートから直接患者搬送できる救急
き、組織横断的な感染対策活動を実践しています。
わたしの病院の感染対策
医療体制や緩和ケア病棟(13床)を新しく整備しまし
た。また病院に隣接したショートステイ施設とは渡り
廊下で行き来できる構造となっており、超高齢化社会
に適応した地域医療を担うことができる病院づくりを
目指しています。
写真2 大曲厚生医療センター 感染対策チーム
上段左から:臨床検査技師・鈴木なお子、薬剤師・加賀谷明日美、
リンクナース副委員長・梅川磨由子、
臨床検査技師・鈴木誠、薬剤科主任・国安美和、
ICN・五十嵐孝(感染対策室)
下段左から:ICD・佐々木重喜(内科科長)
、
リンクナース委員長・佐々木富美子、
感染対策委員長・小野文徳(診療部長)
写真1− ① 病院全景
(写真奥の建物)
3. ハード面で変わった感染対策
新病院で大きく変わったことは、もちろん病院自体
の構造、つまり「ハード面」です。
旧病院では薬剤調製場所がナースステーション内に
あり、スタッフの動線が交差するため汚染区域と清潔
区域のゾーニングに苦慮していましたが、新病院では
写真1− ② 駅側から見える病院
「サテライトファーマシー」という専用の部屋ができ
ました。「サテライトファーマシー」は緩和ケア病棟
2. はじめに
10
を除く8つの病棟にあり、クリーンベンチ1台と薬剤
(写真3−①、②)。現在、
師用の PC が設置されています
当院の感染対策チーム
(以下、ICT)は平成18年7月
クリーンベンチはまだ使用されていませんが、薬剤師
に発足しました。発足当初は7名でしたが、現在は医
の人数が充足でき次第、稼働する予定です。このよう
師4名(内科医師2名、外科医師2名)、薬剤師2名、
に病棟に専用個室があることによって薬剤調製する上
臨床検査技師2名、看護師4名、事務1名の13名で
での清潔管理が可能となりました。
丸石感染対策 NEWS
写真3− ① ナースステーションから見た
サテライトファーマシー
写真5 ナースステーション入口の手洗いシンク
また当院は第二種感染症指定医療機関ですが、対象
となる感染症患者の入院治療がスムーズにできるよ
う、4階∼7階までの病棟各階に感染症個室を1床ず
つ設け、計4床で対応できるようになりました。その
他、透析治療が可能な陰圧個室も含め各病棟には2∼
写真3− ② サテライトファーマシー内での 薬剤師用PC使用風景と薬剤調製場面
3室の陰圧個室を設けているため、空気感染対策が必
要な入院患者のベッドコントロールが早い段階で可能
となりました。
洗浄容器の洗浄と熱水消毒ができるベッドパンウォッ
シャーを設置しました
(写真4)。
わたしの病院の感染対策
次に汚物室には尿器・さし込み便器、貯尿器、陰部
4. ソフト面で変わった感染対策
1)手指衛生
新病院へ移転すると同時に、擦式アルコール消毒剤
を「ゲル状」のものから「泡状」の消毒薬に切り替え
ました
(写真6)。
写真4 汚物室内のベッドパンウォッシャー
これは全病棟と救急外来に合わせて10台あります。
乾燥機能がついていないタイプのベッドパンウォッ
シャーですが、洗浄後は90℃での熱水消毒が行われ
るため、専用ラックに尿器などをセットしておくと短
時間で乾燥ができています。ベッドパンウォッシャー
を取り入れたことで、職員の湿性生体物質からの曝露
予防と使用器材処理の時間短縮や汚物室内の整理、
清潔管理などができるようになり、業務改善にもつな
がっています。
さらに手洗い関連の設備についても改善されまし
た。オープンカウンターになっているスタッフステー
ションの出入り口2か所と病棟の全病室に手洗いシン
クを設置したことで、ケアや処置の動線上での手洗い
ができる環境が整いました
(写真5)。
写真6 病室入口とナースカートに設置した
擦式アルコール消毒剤 2014 DEC No.6
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手指衛生は感染対策の基本であり、いかにして遵守
認、などです。ラウンドにあたっては、患者の基本情
してもらうかが課題ですが、擦式アルコール消毒剤の
報や体温・CRP・WBC 等のデータ、培養検査実施状
選択も大切なポイントの一つと考えています。また手
況と結果、抗菌薬使用状況を1枚の個人シートとして
指衛生の遵守向上には教育と評価が重要とされてお
作成し、培養検査が実施されている場合は、細菌検査
り、当院では平成22年度から擦式アルコール消毒剤の
技師よりグラム染色写真と同定結果、抗菌薬への感受
使用量を測定して1患者1日当たりの手指衛生回数を
性結果などが報告されます。このようにラウンド前に
算出する手指衛生サーベイランスを行っています(図
情報共有した後、対象患者のベッドサイドに伺いま
1)。サーベイランスを開始したばかりの平成22年度の
す。実際にベッドサイドに訪問すると、データだけの
手指衛生回数は1.6回でした。そこで看護部の感染対
イメージとは違った状態が確認できる場合も多くあり
策組織であるリンクナース委員会の各委員より、各部
ます。ラウンド後は、電子カルテに ICTコメントを入
署から手指衛生遵守に向けた年間目標と具体策および
力して主治医にフィードバックするようにしています。
年度末には評価と次年度課題を提出してもらい、それ
②抗菌薬届出制
師長会議を通してフィードバックしました。この活動は
抗菌薬の適正使用に向け、抗 MRSA 薬をはじめと
平成22年度∼24年度まで行いましたが、手指衛生回
した広域スペクトル抗菌薬の届出制を行っている病院
数は年々増加し、新病院移転後の5月∼9月の手指衛
は多いと思います。当院では平成18年10月より抗
生回数は3.1回となっています。まだまだ手指衛生回
MRSA 薬の届出制を開始しましたが、広域スペクト
数は少ないで状況ですので、現在行っている手指衛生
ル抗菌薬については事後調査制で使用状況の監視を続
サーベイランスを継続しつつ、手指衛生をいつ、どの
けてきました。平成25年度の抗菌薬使用状況は図2−
タイミングで行うかなど、集合教育や ICTおよび ICN
①、②に示した通りです。しかし、抗菌薬を使用する際
ラウンドでの現場指導を通して手指衛生遵守率向上の
に培養検査が実施されないケースやターゲットとする病
取り組み活動を継続していきたいと考えています。
原体に対して最適な抗菌薬治療がされないケースなど
が多々みられる状況でした。そこで当院でも本年10
1患者1日当たり手指衛生回数
3.5
月より「特定抗菌薬届出制」を開始しました。特定抗
3.0
3.1
2.5
2.0
1.5
1.6
1.8
2.1
全抗菌薬AUD
(g/DDDs 1000bed days)
2.3
1.0
0.5
0.0
平
成
22
年
度
平
成
23
年
度
平
成
24
年
度
平
成
25
年
度
平 5
成 月
26
年
度
∼
手指衛生回数︵回︶
わたしの病院の感染対策
を ICNが一覧表にしてリンクナース委員会だけでなく
■ペニシリン系
■セフェム系(第1世代)
■セフェム・オキサセフェム
(第2世代)
■セフェム系(第3世代)
■セフェム系(第4世代)
■カルバペネム系
■アミノグリコシド系
■フルオロキノロン系
7月
∼
10月
3月
6月
9月
平成25年
12月
図1. 1患者1日当たりの手指衛生回数
∼
4月
∼
1月
∼
※手指衛生回数=擦式アルコール使用量÷のべ入院患者日数÷1回の適正使用量
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
■抗MRSA系
■その他
図2− ① 全抗菌薬の使用状況
2)抗菌薬適正使用に向けた取り組み
特定抗菌薬AUD
(g/DDDs 1000bed days)
①微生物・抗菌薬ラウンド
I CT ラウンドでは環境ラウンドとは別に、平成25年
度より微生物・抗菌薬ラウンドを週1回行っています。
担当の I CT メンバーは医師1名、薬剤師1名、細菌検
査技師1名、看護師1名で、毎週水曜日の午前11時∼
12時の時間枠で、事前の情報共有とベッドサイドの
域抗菌薬を使用している症例への指導、de-escalation
の推奨、最適治療の確認、感染対策の実施状況の確
12
丸石感染対策 NEWS
■ゾシン
■セフェム系(第4世代)
1月
4月
7月
10月
3月
6月
9月
平成25年
12月
∼
す。主なラウンド理由は、培養検査が未実施のまま広
■フルオロキノロン系
∼
薬剤科からの抗菌薬使用情報レポートにより決定しま
■カルバペネム系
∼
る ICT会議での細菌検査室からの感染情報レポートと
■抗MRSA薬
∼
ラウンドを行っています。対象患者は、前日に行われ
40
35
30
25
20
15
10
5
0
図2− ② 特定抗菌薬の使用状況
・AUD(Antimicrobial use density)
=
[特定期間の抗菌薬使用量(g)/
(DDD)
×特定期間の入院患者延べ日数]
×1,000
・DDD(Defined Daily Doses):抗菌薬標準使用量
菌薬としているのは、抗 MRSA 薬、カルバペネム系
相互評価においては、チェック用紙を用いた評価と
抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬、βラクタマーゼ阻
現場ラウンド、そして各施設の難渋している問題につ
害薬配合剤(ゾシン)、第4世代セフェム系抗菌薬で
いて検討などを行っています(写真7−②)。加算1同
す。届出する際に医師の負担にならないよう、電子カ
士の病院なので、ときには厳しい意見もありますが、
ルテにある届出文書の該当項目にチェックするだけの
それが講評の文書になり病院長宛に届くことで、改善
簡単な書式にしています。ただ、使用開始から3日以
する大きな力となっていると感じています。今後も加
上経過しても届出がない場合は、使用抗菌薬は払い出
算1病院や加算2病院と良い関係を保ち、お互いの施
しできないシステムにしました。このシステムを開始
設での感染対策の改善に向けていきたいと思います。
する際は、管理者会議に案件を提出して「 I CT で管
理」、つまり「中止する権限」も承認されました。その
後、診療科長会議や医局会、感染対策委員会、看護師
6. 地域住民への啓発活動
長会などでもアナウンスしてスタートしました。まだ
地域住民の方々への
始まったばかりですが、週1回の微生物・抗菌薬ラウ
感染対策の啓発活動と
ンドと併せて、抗菌薬適正使用に向けた活動を継続し
ていければと考えています。
して、毎年の病院祭で
「正しい手洗い方法」
を紹介しています(写
真8)。私も参加して
5. 地域連携
いますが、中心となる
当院は平成24年の診療報酬改定より、感染防止対
のは看護部感染対策組
策加算1と感染防止対策地域連携加算の申請をしてい
織のリンクナース委員
ます。年4回の合同カンファランスを行っている加算
です。この手洗いブー
スには毎年、100名∼
120名の方が来てくだ
を行っているのは、平成24年度3施設、平成25・26
さいます。小さなお子
年度5施設です。
様から年配の方に普段
合同カンファランスは当院主催で行いますが、開催
の手洗いをしていただ
する会場は当院だけでなく加算2の病院も使用させて
き、そのあとブラック
いただいています
(写真7−①)。カンファランスでは
ライトを用いて洗い残
参加施設の四半期ごとの耐性菌・微生物検出状況や抗
しを実際に見ていただ
菌薬使用状況、擦式アルコール消毒剤の使用状況を報
くと、
「 普段はこんな風
告していただくほか、会場となっている病院の環境ラ
に洗っていたんだ∼。
ウンドも行い、参加者より不備な点につきコメントし
気を付けないとね」と
てもらっています。各施設で問題となっている事項が
いう驚きの声が聞かれます。その後はリンクナース委
あれば議題として取り上げ、ディスカッションします。
員が正しい手洗い方法を説明しながら手洗いを一緒に
8回目の合同カンファランスでは、加算前後の感染対
行い、毎回、楽しく指導させていただいています。
わたしの病院の感染対策
2の病院は、平成24年度5施設、平成25年度4施
設、平成26年度3施設で、地域連携加算で相互評価
写真8 病院祭での手洗い
指導の様子
策の変化を評価していただき、各施設の代表者より報
告していただきました。どの施設も現場スタッフの感
染対策に関する意識が向上し、実践現場での改善が多
くみられていました。
7. おわりに
新病院に移転して半年余り経ちました。病院の構造
や様々な器材が変わったことで感染対策を実践する上
で迷うことが多かった現場も、そろそろ落ち着き始め
ました。建物や器材がいくら変わっても、実践する職
員の意識や手順が確実に行われなければ、患者様や
職員自身を感染から守ることはできません。今一度、
感染対策チームが中心となって感染対策の目的や基本
はもちろん、新しい情報などもしっかり伝え、職員が
写真7− ① 加算2病院との
合同カンファランス
写真7− ②
加算1病院同士での
部署ラウンド
(相互評価)
実践できるよう今後も取り組んでいきたいと考えてい
ます。
2014 DEC No.6
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