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乳牛における分娩後の濃厚飼料増給率と栄養代謝因子
および繁殖性の関係
石原, 美紀, ISHIHARA, Miki
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Issue Date
URL
2007-01
http://ir.obihiro.ac.jp/dspace/handle/10322/913
Rights
帯広畜産大学学術情報リポジトリOAK:Obihiro university Archives of Knowledge
乳牛における分娩後の濃厚飼料増給率と
栄養代謝因子および繁殖性の関係
平成 19 年
(2007 年 1 月)
帯広畜産大学大学院 畜産学研究科
修士課程 畜産衛生学専攻
石原 美紀
Effects of Increasing Rate of Dietary Concentrate
During the Early Lactation on Metabolic Status and
Reproductive Performance in Postpartum Dairy Cows
January 2007
Miki ISHIHARA
Master Course of Animal and Food Hygiene
GRADUATE SCHOOL OF OBIHIRO UNIVERSITY
目 次
緒
論・・・・・・・・・・・・・ 1
材料および方法・・・・・・・・・・ 4
結
果・・・・・・・・・・・・・11
考
察・・・・・・・・・・・・・ 19
結
論・・・・・・・・・・・・・24
謝
辞・・・・・・・・・・・・・25
参 考 文 献・・・・・・・・・・・・26
要
約・・・・・・・・・・・・・ 31
緒論
過去 20 年間の乳牛の遺伝的改良に伴い,1 頭あたりの乳量は著しく増加してきた[1]。
これに対応するため,濃厚飼料の増給やクローズアップ期の設置など,飼養管理の方法
の改善により泌乳量を維持してきた[2]。しかし,その一方で,分娩から初回排卵まで
の期間の延長,初回授精に対する受胎率の低下,生産病の発生など,新たな問題が発生
してきている[1, 3-6]。
高泌乳牛では,乳量は分娩後から急激に増加し 4-8 週目にピークに達する[7]。しか
し,採食量は 10-18 週目にピークに達するため,泌乳初期には乳量に対して採食量が足
りず,負のエネルギーバランス(NEB)の状態になる[7]。分娩後において NEB の程度が
著しく落ち込むことが,繁殖性低下の一因と考えられており[8, 9],NEB の度合いが大
きくなると,初回排卵が延長すること,また,代謝異常が発生することが報告されてい
る[10-12]。
分娩後の NEB 時において代謝状態が大きく変動するため,これには様々な栄養代謝
因子が卵巣機能に影響を及ぼしている可能性があると考えられている[13]。栄養代謝ホ
ルモンは飼料摂取によって制御されており、主に成長ホルモン(GH),インスリン,イ
ンスリン様成長因子-1(IGF-1)が挙げられる。GH は,191 個のアミノ酸残基からなる
ペプチドホルモンで,視床下部から放出される成長ホルモン放出ホルモンとソマトスタ
チンによって分泌が調節されている[14]。GH は,分娩時のように過度のエネルギー不
足に陥ると体脂肪動員のために分泌が促進されるが[15, 16],その後徐々に減少する。
インスリンは,21 個のアミノ酸残基の A 鎖と 30 個のアミノ酸残基の B 鎖がジスルフ
ィド結合したペプチドホルモンで,膵臓に存在する膵島β細胞で産生される[17]。イン
スリンは,一般的に血中のグルコースを体組織中に取り込む同化作用を促進し,さらに
卵巣において卵胞発育やエストラジオール(E2)濃度増加を促進することが明確になっ
1
ている[18, 19]。また,GH によって制御される IGF-1 は,70 個のアミノ酸残基からな
る塩基性の単鎖ポリペプチドで[20],主に肝臓から分泌され,インスリン活性やタンパ
ク合成を促進し,直接的に卵胞発育や E2 産生を促進する[21, 22]。また,エネルギー
指標の血液生化学成分として重要であるグルコース,遊離脂肪酸(NEFA),総コレステ
ロールなども,代謝状態に大きく作用する因子である。グルコースは飼料摂取状況の指
標になり,分娩後など採食レベルが低下した場合に低値を示す。NEFA は,主にエネル
ギー不足に体脂肪動員の状況をあらわし,
分娩後の NEB 下では NEFA は急増するが[1],
エネルギー状態の回復とともに減少する。総コレステロールは,総合的な栄養摂取状況
と肝機能を反映して変化し,低値は栄養不足や肝機能低下を示す[23]。
分娩後に NEB を示すことに加え,反芻動物では揮発性脂肪酸(VFA)を主要なエネル
ギー源としており,単胃動物とは代謝が異なっているのが特徴である[24]。VFA は,飼
料中の糖や繊維などがルーメン内に生息する嫌気的微生物の発酵により産生されたも
ので,採食行動や摂取エネルギーレベルによって変化し,主に酢酸,プロピオン酸,酪
酸から成っている[24]。ルーメン内で産生される VFA の比率は,酢酸が 60-70%,プロ
ピオン酸が 16-20%,酪酸が 10-15%であり,給与飼料の質と量によってそれらの比率
は変化し[25],粗飼料の摂取量が増加すると酢酸の比率が上昇し,濃厚飼料の摂取量が
増加するとプロピオン酸および酪酸の比率が上昇する[26]。分娩後の濃厚飼料の多給に
よって粗濃比に不均衡が生じると,ルーメン内環境が大きく変化し,亜急性ルーメンア
シドーシス(SARA)発生の可能性が高まる[27, 28]。SARA は生理的な乾物摂取量低下に
加え,濃厚飼料多給や粗飼料不足による周産期のルーメン機能の減退によって発生し,
繁殖性低下を招く周産期の代謝病,第四胃変位,繁殖障害,蹄病などの生産病の根本的
な原因である[29]。また,SARA は,単に濃厚飼料給与量が多いということではなく,
分娩後の濃厚飼料増給のペースが速すぎることで発症している可能性が強く,濃厚飼料
の急激な増給が,これら生産病に関与している疑いがあることが報告されている[30,
2
31]。
そこで本研究は,乳生産を低下させることなく,生産病を予防し,受胎率の維持に繋
がる飼養管理方法を構築することを目的とした。濃厚飼料の増給量は 0.3-0.4kg/日が,
ルーメン微生物の対応可能量であるとされている[26]ことを基準として,1kg/2 日の増
給(急激区)と 1kg/4 日の増給(緩徐区)の 2 つの給与モデルを設計し,周産期の乳牛を飼
育して実験を行い,分娩後の濃厚飼料の増給率の違いが乳牛のルーメン発酵,栄養代謝
因子および繁殖性にどのような影響を及ぼすかを検討した。
3
材料および方法
1. 試験農場
試験は搾乳頭数約 110 頭,平均乳量約 8,600kg/305d の帯広畜産大学畜産フィールド
科学センターで行った。搾乳回数は 1 日 2 回(6:00 と 18:00)であった。
2.供試家畜と実験計画
供試家畜は,2005 年 9 月から 2005 年 10 月に分娩予定の乳牛 10 頭(経産牛 6 頭,
未経産牛 4 頭)を用いた。乳牛は分娩予定日 2 週間前から分娩後 7 週目までドアフィ
ーダー実験施設に収容し,その後はフリーストールに戻して分娩後 14 週目まで実験を
行った。
飼料は,分娩までグラスサイレージとコーンサイレージ,濃厚飼料(ドライベース
17)を主体とした移行期飼料を給与し,分娩直後からはTMRと濃厚飼料(ウィンド
18)を主体とした飼料を給与した。また,乾草,水,鉱塩は自由摂取とした。
実験は,分娩後に給与する濃厚飼料(ウィンド 18)の増給率の違いによって 2 つの
試験区を設けて行った。試験区は,濃厚飼料を分娩後から 2.5 週までに 10kg まで増加
させる急激区と,
分娩後から 5 週目までに 10kg まで増加させる緩徐区を設けた。また,
急激区は 2.62kg から 3.49kg まで増加させ,
濃厚飼料を分娩 2 週間前から分娩までに,
緩徐区は 1.74kg から 2.62kg まで増加させた。但し,増給終了以降は両区とも同条件で
飼料を給与した。分娩 2 週間前から分娩までを『乾乳期』,分娩後から緩徐区の増給が
終了する分娩後 5 週目までを『増給期』,その後 14 週目までを『同量期』とした。
4
3. 試料採取
1) 血液
血液は,分娩予定日 2 週間前から分娩まで週 1 回,分娩日翌日から分娩後 5 週目ま
で隔日,その後 14 週目まで週1回採取した。採血は,朝搾乳前に尾静脈より行った。
ホルモン測定用として,7ml EDTA 真空採血管(VP-NA070K;TERUMO,東京)及
び 5ml ヘパリン真空採血管(VP-H050K;TERUMO,東京),血液生化学検査用とし
て 9ml プレイン真空採血管(VP-AS109K;TERUMO,東京)を用いた。
採血後は速やかに氷入りの保温箱に入れて冷却した。ホルモン測定用の採血管は,そ
の後,4℃,3000rpm で 20 分間遠心分離を行った。また生化学検査用の採血管は 38℃
で 30 分保温したのち同条件で遠心分離した。分離した血漿,血清は分析まで-30℃で凍
結保存した。
2) ルーメン内容液
ルーメン内容液は,分娩予定日 1 週間前から分娩後 6 週目まで週 1 回,正午に経口
ルーメンカテーテル(富士平工業株式会社,東京)を用いて採取した。
ルーメン内容液採取後は,直ちにパラフィルムで密封し,その後 2 重ガーゼを用いて
濾過し,pHを測定した。pHの測定はpHメータ(F-51,HORIBA,Ltd.,京都)
により行った。測定後は,濾過液に 5%硫酸を数滴入れてサンプル処理まで-30℃で凍
結保存した。
濾過液のサンプル処理は、4℃,8000rpm,10 分間遠心分離を行った後,内部標準と
して2-エチル酪酸(10mM)を含む 25%メタリン酸(1:1)を加え,一晩以上凍結保
存した。
5
3) 採食量
採食量(給与量及び残餌量)は,分娩予定日 2 週間前から分娩後 7 週目まで毎日朝夕
計量した。
4)乳量
乳量は,分娩後6日目までを初乳とし,分娩後7日目から記録した。
4. 測定項目
1) 生殖ホルモン;血漿中 P4
栄養代謝ホルモン;血漿中 GH,IGF-1,インスリン濃度
血液生化学検査;グルコース,NEFA,β‐ヒドロキシ酪酸,総コレステロール,
グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT),
γグルタミルトランスぺプチターゼ(γ‐GTP)
2) ルーメン内容液組成;VFA 濃度(酢酸,プロピオン酸,酪酸),総 VFA 濃度,
A/P 比(酢酸÷プロピオン酸),pH
3) 採食量;乾物摂取量(DMI),粗飼料率,濃厚飼料合計(濃飼合計),
粗飼料合計(粗飼合計)
4) 乳量
5) 繁殖成績;初回排卵日,初回授精日,受胎までの授精回数,
分娩後 120 日以内の受胎の有無
6
5. 測定方法
1) 血漿中の各項目について,下記のとおり測定した。
① P4 の測定
血漿中の P4 濃度は,
二抗体法 Enzyme Immunoassay(EIA)法を用いて測定した[32]。
抽出は,本研究室で確立した方法を用い,ジエチルエーテルによって行った。P4 の EIA
の標準曲線の範囲は 0.05-50ng/ml,ED50 は 3.2ng/ml,測定内および測定間変動係数は
6.7%および 7.2%であった。なお,抽出効率は 93%であった。
② GH の測定
血漿中GH濃度は,Biotin-streptavidin 法を利用した Kawashima らの EIA 法[33]
を用いて測定を行った。抗ウサギ・ヤギ IgG
(270335;SEIKAGAKU CORPORATION,
東京)をコーティングしたマイクロプレートを用いた。プレートの液を捨て,well 内
に GH 抗体(AFP0802210;NIDDK,MD,USA)を 100μl 分注し,常温で 24 時間
インキュベーションした。サンプルおよび緩衝液で希釈した標準 GH(AFP9884C;
NIDDK,MD,USA)を 15μl 分注し,1%chiken serum を含む緩衝液(1:10,000)
を 100μl ずつ加え,常温で 24 時間インキュベーションした。液を捨てた後,ビオチン
標識 GH 希釈液(1:20,000)を 100μl ずつ加え,常温で 3 時間インキュベーション
した。液を捨て Streptavidin Peroxidase Polymer(S-2438,Sigma,St.Louis,MO,
USA)希釈液(1:10,000)を加え,常温で 15 分インキュベーションし,4 回洗浄の
後 Substrate solution を 150μl 分注し,37℃で 40 分間発色反応を行った。その後,
50μl の 4N H2S04 で反応を停止し,450nm の波長で吸光度を測定した。標準曲線の範
囲は 0.78-100ng/ml,ED50 は 10.8ng/ml,測定内および測定間変動係数は 10.3%および
13.0%であった。
7
③ IGF-1 の測定
血漿中 IGF-1 濃度は,Biotin-streptavidin 法を利用し Kawashima らの EIA 法[33]
を 一 部 改 変 し て 測 定 を 行 っ た 。 抗 ウ サ ギ ・ ヤ ギ IgG ( 270335 ; SEIKAGAKU
CORPORATION,東京)をコーティングしたマイクロプレートの well 内に酸エタノー
ル法[34]により抽出したサンプルおよび緩衝液で希釈した標準 IGF-1(Roche,
Indianapolis,IN,USA)を 50μl 分注した。さらに抗ヒト IGF-1・ウサギ血清
(AFP18111298;NIDDK,MD,USA)希釈液(1:200,000)およびビオチン標識
IGF-1 希釈液(1:20,000)を各 100μl ずつ加え,4℃下で 48 時間インキュベーショ
ンした。液を捨てた後,Streptavidin Peroxidase Polymer(S-2438,Sigma,St.Louis,
MO,USA)希釈液(1:20,000)を加え 4℃下で 15 分インキュベーションし,4 回洗
浄の後 Substrate solution を 150μl 分注し,37℃で 40 分間発色反応を行った。50μl
の 4N H2SO4 で反応を停止し,450nm の波長で吸光度を測定した。標準曲線の範囲は
0.39-50ng/ml,ED50 は 2.9ng/ml,測定内および測定間変動係数は 7.5%および 16.4%
であった。
④ インスリンの測定
血漿中インスリン濃度は,Biotin-streptavidin 法を利用した Kawashima らの EIA
法[33]を用いて測定を行った。抗モルモット・ヤギ IgG をコーティングしたマイクロプ
レートの well 内に,サンプルおよびチャコール処理によりインスリンを吸着した血清
(insulin-free)で希釈した標準インスリン(Sigma,St.Louis,MO,USA)を 30μl
分注した。さらに抗ウシ・モルモットインスリン(Schams 教授より供与;ミュンヘン
工科大学,Germany)希釈液(1:150,000)を各 100μl ずつ加え,4℃下で 24 時間イ
ンキュベーションした。液を捨てた後,ビオチン標識ウシインスリン希釈液(1:50,000)
を各 100μl ずつ加え,4℃下で 2 時間インキュベーションし,4 回洗浄の後 Substrate
8
solution を 150μl 分注し,37℃で 40 分間発色反応を行った。50μl の 4N H2SO4 で反
応を停止し,450nm の波長で吸光度を測定した。標準曲線の範囲は,0.25-4.6ng/ml,
ED50 は 682.3pg/ml,測定内および測定間変動係数は 12.3%および 9.9%であった。
2) 血液生化学検査
血液生化学自動分析装置(TBA-120FR,東芝,東京)を用いて,グルコース,NEFA,
β‐ヒドロキシ酪酸,総コレステロール,GOT,γ‐GTP を測定した。
3) VFA の測定
VFA 濃度は,ガスクロマトグラフ(GC-14B,島津製作所,京都)にカラム長 2.0m,
カラム径 3mm のガラスカラム(Unisole F-200 30/60,ジーエル・サイエンス株式会社,
東京)を装着して分析し,クロマトパック(C-R8A,島津製作所,京都)の自動演算プ
ログラムで算出した値を VFA 濃度とした。各 VFA 濃度の同定は,酢酸,プロピオン酸,
酪酸,イソ吉草酸をそれぞれ 50mM 含む標準液,および内部標準として 10mM の 2エチル酪酸をガスクロマトグラフに供し,これらのピークの保持時間から行い,ピーク
面積より濃度を計算した。
ガスクロマトグラフの運転条件は,以下の通りである。メイクアップガスおよびキャ
リアーガス(ともにヘリウム)の圧力はそれぞれ 400KPa および 50KPa に設定し,ま
た圧縮空気および水素の圧力はともに 50KPa に設定した。ガスクロのカラム,インジ
ェクタ,ディテクタの温度はそれぞれ 145℃,175℃,175℃に設定し,FID(水素炎イ
オン化ディテクタ)でのイオン電流の測定感度は 102 に設定した。クロマトパックの分
「SPEED(記録紙の送り速度)
」を
析パラメータは,
「ATTEN(プロッタ感度)」を3,
10 に設定した。
9
6. 分娩前後の定義
,0 週から 14 週までを「分
本実験では,分娩週を 0 週とし,-2,-1 週を「分娩前」
娩後」と定めた。
7. 分娩後初回排卵の定義
初回排卵日は,血漿中 P4 濃度の動態から決定し,P4 濃度が 1ng/ml 以上になった日
を初回排卵日とした[35]。
8.統計処理
処理間の差はスチューデントの t テストを用いて比較した。VFA 濃度およびpH の
経時的変化は,分散分析を行った後,Fisher’s PLSD 法の多重比較検定を用い,また,
栄養代謝ホルモンおよび血液生化学成分の経時的変化は,反復測定分散分析を用いて検
定した。受胎の有無の検査は,カイ二乗検定を用いた。P<0.1 のときを傾向ありとし,
P<0.05 のときを有意差ありとした。
10
結果
1.乳量および採食量
図 1 に乳量,図 2 に採食量の結果を示した。乳量は両区間で差がみられず,両区とも
分娩後 1 週間で 30kgを超える高泌乳であった。DMI 計(A),粗飼合計(D) は両区間で
差がみられなかった。粗飼料率(B)は,両区とも経時的に有意に減少し(P<0.05),分娩
後 1-3 週目において,急激区のほうが緩徐区と比較して有意に低く(P<0.05),分娩後 3
週目に 0.38 まで低下した。また分娩 1 週間前および分娩後 4 週目において,急激区の
ほうが低い傾向が認められた(P<0.1)。濃飼合計(C)は,両区とも経時的に有意に上昇し
(P<0.05),分娩 1 週間前および分娩後 2 週目から 4 週目において,急激区のほうが緩徐
区と比較して有意に高く(P<0.05)、また分娩後 0 週目および 1 週目において急激区のほ
うが高い傾向が認められた(P<0.1)。
(kg)
急激区(n=5)
55
緩徐区(n=5)
45
35
25
7
14
21
28
35
42
49
56
63
70
77
84
91
分娩後日数(日)
図 1 分娩後の濃厚飼料増給率別における,分娩後 7 日目からの乳量
(mean±SEM)
11
98
(A)DMI計 (kg)
(C)濃飼合計 (kg)
30
16
25
14
*
12
20
10
6
10
4
5
*
†
2
0
0
-1
0
1
2
3
4
5
-1
6
(B)粗飼料率
0.9
†
8
15
* *
0
1
2
3
4
5
6
3
4
5
6
(D)粗飼合計 (kg)
†
14
0.8
0.7
* * *
0.6
0.5
0.4
12
10
†
8
6
0.3
4
0.2
2
0.1
0
0
-1
0
1
2
3
4
5
6
-1
0
1
2
分娩後日数(週)
分娩後日数(週)
急激区(n=5)
緩徐区(n=5)
図2
分娩後の濃厚飼料増給率別における,
(A)DMI 計,
(B)粗飼料率,
(C)濃飼合計および(D)粗飼合計の変動
(mean±SEM)
†;区間に傾向あり(P<0.1)
*;区間に有意差あり(P<0.05)
12
2.VFA 濃度および pH
図 3 に VFA 濃度および pH 値の結果を示した。酢酸(A) は,分娩後 3 週目において,
急激区のほうが緩徐区と比較して有意に高く(P<0.05),また,急激区において分娩後 1
週目と比較して 6 週目に有意に上昇した(P<0.05)。プロピオン酸(B)は,分娩後 6 週目
において急激区のほうが緩徐区と比較して有意に高く(P<0.05),また分娩後 3 週目にお
いて急激区のほうが高い傾向が認められた(P<0.1)。さらに,急激区において分娩後 0
週目と比較して 3-6 週目に有意に上昇し(P<0.05),緩徐区においては分娩後 5 週目に有
意に上昇した(P<0.05)。酪酸(C) は,分娩後 3 週目において急激区のほうが緩徐区と比
較して有意に高く(P<0.05),また分娩 1 週間前において急激区のほうが高い傾向が認め
られた(P<0.1)。さらに,急激区において分娩後 0 週目と比較して 3 週目に有意に上昇
し(P<0.05),緩徐区においては分娩後 0 週目と比較して 5 週目に有意に上昇した
(P<0.05)。総 VFA 濃度(D)は,分娩後 3 週目において急激区のほうが緩徐区と比較して
有意に高かった(P<0.05)。また,急激区において分娩後 0 週目および 1 週目と比較して,
3 週目および 6 週目に有意に上昇し(P<0.05),緩徐区においては分娩後 1 週目と比較し
て 5 週目に有意に上昇した(P<0.05)。pH 値(F)は,分娩 1 週間前および分娩後 3 週目に
おいて,急激区のほうが緩徐区と比較して有意に低く(P<0.05),また,急激区において
分娩後 0 週目と比較して 3 週目に有意に低下した(P<0.05)。A/P 比(E)は両区間で差が
認められず,経時的な変動もなかった。
13
(D)総VFA (mM)
(A)酢酸 (mM)
50.0
ab
45.0
*
ab
80
b
ab
ab
70
ab
ab
40.0
30.0
-1
ab
a
0
1
3
4
5
18.0
c
bc
y
8.0
-1
8
ab
bc
x
x
0
1
x
2
3
4
*b
5
-1
0
1
2
3
4
5
ab
ab
ab
4
5
6
6
b
2.80
2.60
ab
5
-1
6
xy
0
6
z
7.4
ab
a
7.2
7
y
xyz
6.8
ab
xy
6.6
xyz
6.4
ab
*
ab
ab
b
6.2
6
4
1
5
(F)pH
xy
a
4
2.40
ab
x
3
3.20
xy
xy
x
7
6
2
3.00
11
†
1
3.60
(C)酪酸 (mM)
9
0
3.40
abc
a
10
xy
a
3.80
abc
x
xy
4.00
*c
16.0
10.0
xy
(E)A/P比
†
12.0
xy
a
-1
6
(B)プロピオン酸 (mM)
ab
b
40
2
20.0
14.0
xy
y
ab
x
ab
50
ab
xy
60
35.0
*b
2
3
4
5
-1
6
0
分娩後日数(週)
1
2
*
3
分娩後日数(週)
急激区(n=5)
緩徐区(n=5)
図 3 分娩後の濃厚飼料増給率別における,ルーメン内(A)酢酸,
(B)プロピオン酸,(C)酪酸,(D)総 VFA,
(E)A/P 比
および(F)pH の変動(mean±SEM)
a,b,c;異なる文字間に有意差あり(P<0.05)
x,y,z;異なる文字間に有意差あり(P<0.05)
†;区間に傾向あり(P<0.1)
*;区間に有意差あり(P<0.05)
14
3.栄養代謝ホルモン
図 4 に血中 GH(A),インスリン(B),IGF-1(C)の結果を示した。GH 濃度は,分娩 7
日前,分娩後 3 日目および 23 日目において,急激区のほうが緩徐区と比較して有意に
低く(P<0.05),また,分娩後 19 日目,29 日目,32 日目,84 日目および 98 日目にお
いて,急激区のほうが低い傾向がみられた(P<0.1)。増給期後半に両区間で多く差が確
認され,急激区のほうが低値で推移した。インスリン濃度は,分娩後 31 日目および 84
日目において,急激区のほうが緩徐区と比較して有意に高く(P<0.05),また分娩後 7 日
目において急激区のほうが高い傾向が確認されたが(P<0.1),全体的に差は認められな
かった。IGF-1 濃度は両区間で差がみられなかった。
(A)GH (ng/ml)
200
*
20
15
(C)IGF-1 (ng/ml)
†
25
**
180
†
†
160
† †
140
120
10
100
5
80
60
0
-14
1
5
9
13
17
21
25
29
33
42
56
70
84
98
-14 1
5
(B)インスリン (pg/ml)
9
13 17 21 25 29 33 42 56 70 84 98
分娩後日数(日)
1400
*
1200
*
†
1000
800
急激区(n=5)
600
緩徐区(n=5)
400
200
-14
1
5
9
13
17
21
25
29
33
42
56
70
84
98
分娩後日数(日)
図 4 分娩後の濃厚飼料増給率別における,血中(A)GH,
(B)インスリン,
(C)IGF-1 濃度の変動 (mean±SEM)
†;区間に傾向あり(P<0.1)
*;区間に有意差あり(P<0.05)
15
4.血液生化学成分
図 5 にグルコース(A),NEFA(B),β‐ヒドロキシ酪酸(C),総コレステロール(D),
GOT(E),γ‐GTP(F)の結果を示した。グルコース濃度は,両区とも分娩後から有意に
低下した(P<0.05)。さらに,分娩後 3 日目,5 日目および 11 日目において,急激区の
ほうが緩徐区より有意に高く(P<0.05),また分娩後 9 日目において急激区のほうが高い
傾向が確認され(P<0.1),増給期前半に両区間で多く差が認められた。β‐ヒドロキシ
酪酸は,分娩後 5 日目,9 日目および 29 日目において,急激区のほうが緩徐区より有
意に低く(P<0.05),また分娩後 13 日目および 23 日目において急激区のほうが低い傾向
が確認され(P<0.1),増給期に両区間で多く差が認められた。NEFA は,分娩 1 週間前
において,急激区のほうが緩徐区と比較して有意に高く(P<0.05),また分娩 2 週間前に
急激区のほうが高い傾向が確認されたが(P<0.1),増給期に両区間で差は認められなか
った。GOT は,分娩後 42 日目において,急激区のほうが緩徐区より高い傾向が確認さ
れたのみで(P<0.1),全体的に差は認められなかった。総コレステロールおよびγ‐GTP
は,両区間で差は認められなかった。
16
(D)総コレステロール (mg/dl)
(A)グルコース (mg/dl)
300
80
75
*
*
70
65
60
250
200
†*
150
55
100
50
50
45
40
0
-14
1
5
9
13 17
21
25 29
33 42
56 70
84
(B)NEFA (μEq/l)
9
13 17 21
25 29 33 42 56 70 84 98
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
1000
800
600
†*
200
0
-14
5
(E)GOT (IU/l)
1200
400
-14 1
98
1
5
9
13
17 21
25 29 33
42 56
70 84
98
(C)β-ヒドロキシ酪酸 (μM)
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
*
†
-14
1
5
9
13
17
21
25
29 33 42 56
70
84
98
56 70
84
98
(F)γ-GTP (IU/l)
60
†
50
*
40
†
*
30
20
10
0
-14
1
5
9
13
17 21
25 29 33
42 56
70 84
98
-14
1
5
分娩後日数(日)
9
13 17
21
25 29
33 42
分娩後日数(日)
急激区(n=5)
緩徐区(n=5)
図 5 分娩後の濃厚飼料増給率別における,血中(A)グルコース,(B)NEFA,
(C)β-ヒドロキシ酪酸,(D)総コレステロール,(E)GOT
および(F)γ-GTP の変動 (mean±SEM)
†;区間に傾向あり(P<0.1)
*;区間に有意差あり(P<0.05)
17
5.繁殖成績
図 6 に P4,表 1 に繁殖成績の結果を示した。P4,初回排卵日および初回授精日は,
両区間で有意な差が確認されなかった。受胎までの授精回数は,急激区のほうが緩徐区
と比較して有意に少ない結果になった(P<0.05)。分娩後 120 日以内の受胎の有無におい
ては,受胎したウシが急激区で 5 頭中 4 頭,緩徐区で 5 頭中 1 頭確認され,急激区の
ほうが有意に多かった(P<0.05)。
6
5
†
4
3
2
急激区(n=5)
1
緩徐区(n=5)
0
-14
1
5
9
13
17
21
25
29
33
42 56
70
84
98
分娩後日数(日)
図 6 分娩後の濃厚飼料増給率別における,P4 の変動(mean±SEM)
†;区間に傾向あり(P<0.1)
表1
分娩後の濃厚飼料増給率別における,繁殖成績の結果
初回排卵日
初回授精日
授精回数
急激区(n=5)
36.6±9.1
75.6±9.8
1.4±0.4
緩徐区(n=5)
34.0±5.0
90.8±5.2
4.0±1.0
mean±SEM
初回排卵および初回授精日;分娩後日数
授精回数;受胎までの授精回数
受胎あり;分娩後 120 日以内に受胎した頭数
*;区間に有意差あり(P<0.05)
18
受胎あり
*
4/5 *
1/5
考察
本研究では,乳生産を低下させることなく,生産病を予防し,受胎率の維持に繋がる
飼養管理方法を構築することを目的とし,分娩後の濃厚飼料増給率の違い(急激区 vs.
緩徐区)がその後のウシの状態(乳量・採食量・VFA・栄養代謝ホルモン・血液生化学成
分・繁殖成績)にどのような影響を及ぼすのかを解析した。乳量および DMI は両区間で
ほとんど差がみられなかった。増給期中,急激区のほうが緩徐区に比べて,揮発性脂肪
酸およびグルコース濃度が高く,GH およびβ‐ヒドロキシ酪酸濃度が低かった。これ
らの結果から,TDN 含量の多い濃厚飼料の摂取量の多かった急激区のほうが,エネル
ギー状態が良好であることが明らかとなった。また,急激区のほうが,受胎成績が良好
であったことから,エネルギー状態が良好なことが正常な卵巣と子宮機能の回復を良好
にしたと考えられた。
濃厚飼料の増給率の高い急激区のほうが緩徐区に比べて,濃飼合計が有意に高かった
が,両区の採食量および粗飼合計にほとんど差がなかった。濃厚飼料に含まれる炭水化
物は,主に非繊維性炭水化物(NFC)であり,極めて消化率が高い[26]。したがって,濃
厚飼料は TDN 値も高く,摂取されるエネルギー量も多くなる。一方,粗飼料の炭水化
物は,主に中性デタージェント繊維(NDF)であり,ルーメンマット形成には必要不可欠
であるが,一般に TDN 値は低い[26]。したがって,粗飼料は摂取されるエネルギー量
が少ない。しかし,本実験で給与した TMR のサイレージは高蛋白であり(17~18%,
cf.十勝管内平均 12%),
また NDF が少なかったため(50~55%,cf.十勝管内平均 66%),
TDN が濃厚飼料並みに高くなり(推定 70.2~71.5%,cf.十勝管内平均 60.7%),摂取し
たエネルギーは,採食量に差がなかったことから両区ともほぼ同量であったと考えられ
る。また,分娩後 1-3 週目において急激区のほうが粗飼料率が有意に低くなったが,粗
飼料率の異常低下までには至らなかった。これは,急激区の粗飼料の食い込みが良好で
19
あったためと考えられる。さらに,分娩後 3 週目において,急激区のほうが,pH 値が
有意に低かったが,異常値の 5.5 を下回っていないことから[29, 36],両区ともルーメ
ン発酵の恒常性が保たれたと考えられる。その結果,ルーメン発酵異常が原因で引き起
両区とも栄養代謝が正常に行われたと推測される。
こされる SARA の発症が回避でき,
分娩後の濃厚飼料増給率とルーメン内 VFA 濃度の関係の解析では,急激区の濃厚飼
急激区のほうが緩徐区に比べて,総 VFA,
料増給が終了した後の分娩後 3 週目において,
酢酸,プロピオン酸および酪酸の濃度が高いことが示された。VFA 濃度は,採食量と
飼料組成によって左右され[37],NDF の多い粗飼料を摂取すると酢酸が増加し,NFC
の多い濃厚飼料を摂取するとプロピオン酸および酪酸が増加する[26]。酢酸はアセチル
-CoA に転換し,直接 TCA 回路に入ってエネルギーに変換され,また,プロピオン酸は
肝臓での重要な糖新生の基質となっている[24]。酪酸はルーメン上皮でβ‐ヒドロキシ
酪酸を中心としたケトン体に変換され,上皮細胞のエネルギー源として利用されたり,
肝臓でアセチル-CoA を経てグルコースに取り込まれることから[24],VFA 濃度は摂取
したエネルギー量の指標にもなる。したがって,急激区の濃厚飼料増給が終了した後の
分娩後 3 週目において,急激区のほうが濃厚飼料による NFC 摂取量が僅かに緩徐区よ
り多く,エネルギー状態が良好であったと考えられる。また,両区間で A/P 比に差が
みられなかった理由として,濃厚飼料の増給率の高かった急激区においても粗飼料の摂
取量が多かったため,酢酸濃度もプロピオン酸濃度とともに上昇し,それらの比率が大
きく変化しなかったと考えられる。ヒツジにおいて,採食後 4-6 時間の総 VFA 濃度は
120-200mM になることが報告されているが[14],本実験の VFA 濃度の値は,実際の濃
度より低い値になった。本実験で用いた経口カテーテル法によるルーメン液採取では,
唾液混入やルーメン内の採取部位の違いが成分濃度に影響することから,ルーメン壁に外
科的に取り付けた窓から直接採取するフィステル法と比較して,pH は有意に高く,総
VFA 濃度は有意に低いという報告がある[38]。したがって,本実験で採取したルーメン
20
液は,唾液の混入等による希釈が起こっていた可能性が高い。一方,分娩予定日 1 週間前
において,急激区で pH 値が有意に低くなったが,その原因として,分娩前の濃厚飼料
の給与量が,急激区のほうが緩徐区よりも若干多かったことが挙げられる。濃厚飼料中
の NFC がルーメン微生物の分解を急速に受け,その結果,pH 値が低下したと推測さ
れる。
分娩後の濃厚飼料増給率と栄養状態の関係の解析では,血中 GH 濃度は,分娩後の濃
厚飼料増給期後半に両区間で多く差が認められ,血中 GH 濃度に濃厚飼料増給が影響を
及ぼした可能性があることが示された。GH は体脂肪動員の指標であり,高値でエネル
ギー不足のため体脂肪が動員されていることを示す。また,DMI の採食制限を施され
たウシは GH の値が上昇することも報告されている[16]。したがって,緩徐区のほうが
急激区に比べて,血中 GH 濃度が高い値で推移していることから,分娩後早期に濃厚飼
料の増給量が少なく TDN が充足しなかったため,エネルギー不足による体脂肪動員が
大きかったと考えられる。しかし,濃厚飼料増給期中において,体脂肪動員の程度の直
接の指標となる血中 NEFA の値に両区間で差がなかった。この理由として,緩徐区の
ほうが,実際には体脂肪動員が多かったにもかかわらず,肝臓で代謝された体脂肪が急
激区よりも多く,その結果,血中の NEFA の値に差がみられなかったことが考えられ
る。このことは,β‐ヒドロキシ酪酸が濃厚飼料増給期において,緩徐区のほうが有意
に高くなったことからも支持される。β‐ヒドロキシ酪酸は, NEFA が肝臓でエネル
ギーに代謝される際に産生されるケトン体の一種であることから,ケトン体の産生が少
なく抑えられた急激区のほうが,エネルギー状態が良好であった可能性が高い。さらに,
血中 GH 濃度が,分娩予定日 7 日前において,緩徐区のほうが有意に高い値を示した
ことについては,分娩前の濃厚飼料給与量においても両区間で差を設けていたことが影
響を及ぼしたのではないかと推測される。分娩前においても緩徐区のほうが急激区に比
べて,濃厚飼料の給与量が若干少なかったため,分娩前から緩徐区でエネルギー状態が
21
若干悪かった可能性が高い。
また,グルコースおよびβ‐ヒドロキシ酪酸濃度は,濃厚飼料増給期前半に両区間で
多く差が認められたことから,これらの因子に対して濃厚飼料増給が影響を及ぼした可
能性があることが示唆された。グルコース濃度は採食によって大きく左右され,採食量
が多くエネルギーが充足していると高値を示す。両区の採食量に差がみられなかったに
もかかわらず,分娩直後のグルコース濃度の低下の度合いが,急激区のほうが小さく抑
えられた結果になった。このことから,急激区のほうが緩徐区より,分娩後からの濃厚
飼料の摂取量が多かったため,分娩後から比較的エネルギーが充足していたと考えられ
る。このことは,濃厚飼料増給期前半において,β‐ヒドロキシ酪酸の濃度が,急激区
のほうが緩徐区に比べて,有意に低く推移していることからもからも示唆される。
一方,血中インスリン,IGF-1 濃度,総コレステロール,GOT およびγ-GTP の値
については,両区間で顕著な違いが確認されなかった。分娩後エネルギー不足の状態に
あるウシでは,血中 GH 濃度は高値を示し,血中インスリンおよび IGF-1 濃度は低値
を示す。本実験で,血中 GH 濃度においては両区間で有意な差が確認されたが,血中イ
ンスリンおよび IGF-1 濃度に同様の結果がみられなかった理由として,濃厚飼料増給
によるエネルギー摂取が十分でなかった緩徐区においても,エネルギー不足の程度が軽
く,血中インスリンおよび IGF-1 濃度にまで影響を及ぼさなかったことが考えられる。
本実験で用いたウシは両区とも,NEB の度合いの大きいウシと比較して,血中 IGF-1
濃度が高い値で推移していることから,急激区・緩徐区ともにエネルギー状態が比較的
良好であったと推測される。
分娩後の濃厚飼料増給と繁殖成績の関係の解析では,初回排卵日および初回授精日は
両区間で有意な差がみられなかったが,分娩後 120 日以内に受胎したウシは,急激区
で 5 頭中 4 頭,緩徐区で 5 頭中 1 頭確認され,エネルギー状態が良好であった急激区
のほうが,受胎率が良いことが示された。乳牛におけるエネルギー代謝は,生命維持・
22
泌乳・繁殖・成長の優先順位で配分されるという報告がある[39]ことから,急激区のほ
うが,エネルギー状態が良く余力があったため,繁殖までエネルギーが配分されたので
はないかと推測される。また,受胎までの授精回数も,急激区のほうが有意に少ない結
果となった。エネルギー不足は,周産期に卵巣内で発生し始める原始卵胞に影響し,
60-80 日後に排卵期を迎える成熟卵子に著しい悪影響を及ぼして受精能を低下させる
と言われている[40]。したがって,エネルギー状態の良好であった急激区のほうが,卵
巣機能の回復が良く,受精能力の高い卵子を生成できたため,少ない授精回数で受胎に
至ったのではないかと推察される。
本実験では,VFA 組成,栄養代謝因子および P4 濃度の値に両区間で有意な差が多く
認められず,それらの相互作用および繁殖性に及ぼす影響も明確に解析することができ
なかった。本実験で給与した粗飼料の栄養価が濃厚飼料と同程度であったため,両区の
エネルギー摂取量に大きな差がなかったことがその一因として考えられる。仮に,粗飼
料の質が例年通りであった場合は,両区のエネルギー摂取量に大きく差が発生し,両区
間で各因子に差が多く認められていた可能性も高い。さらに,本実験では,両区とも粗
飼料の食い込みが良好であったため NDF が充足し,濃厚飼料中の NFC とのバランス
が保たれた結果,両区ともルーメン発酵の恒常性が維持されたと考えられる。したがっ
て,実際の酪農現場における飼養管理に本実験結果を応用する場合,毎年収穫した粗飼
料を分析することが重要になる。さらに,その分析結果をもとに,栄養バランスが保た
れるように濃厚飼料の給与量を調節し,栄養量も不足なくルーメン発酵も充実されるよ
うな飼養管理が要求される。北海道では,粗飼料を安価かつ安定して自給することが可
能である。したがって,飼料分析を活用した飼養管理方法が確立されれば,飼料を低コ
ストで効果的に給与することができる。さらに,生産病の予防にも繋がり,高泌乳・高
受胎が達成されるのではないかと期待できる。
23
結論
分娩後,濃厚飼料を急激に増給した急激区,緩やかに増給した緩徐区とも,乳量およ
び DMI はほぼ同量であったが,TDN 含量の多い濃厚飼料の摂取量が多かった急激区の
ほうが,エネルギー状態が良好であり,その結果,繁殖成績も良好になることが示され
た。また,粗飼料の質と食い込みが良かったため,濃厚飼料を急激に増給した急激区で
もルーメン発酵が正常に行われ,その結果,ルーメンの健常性が維持され良好な繁殖成
績に繋がったと推察された。以上のことから、粗飼料の質と量が確保されれば,分娩後
濃厚飼料を増給してもルーメン発酵の恒常性を維持することが可能になり,エネルギー
状態および繁殖成績も良くなることが検証された。
ルーメン環境 良好
粗飼料
粗飼料の食い込み ↑
ルーメンマット形成 ↑
粗濃比の均衡維持
ルーメン発酵の恒常性維持
TDN摂取量 ↑
VFA産生 ↑
濃厚飼料
生殖機能
初回排卵日
・・・差なし
初回授精日
グルコース ↑
受胎率UP!
授精回数 ↓
受胎率 ↑
GH ↓
ケトン体 ↓
エネルギー状態 良好
授精能力の高い卵子産生?
24
謝辞
稿を終えるにあたり,論文作成に終始ご指導ならびにご校閲を賜りました帯広畜産大
学生殖科学研究室
宮本明夫教授,松長延吉助手,清水隆助手に深く感謝いたします。
また,修士論文審査に当たり副査を務めて下さった本学家畜生産衛生学講座
口田圭吾
助教授,フィールド科学センター 木田克弥助教授に感謝いたします。さらに,実験に
快くご協力いただきました本学畜産フィールド科学センター職員の皆様,本当にありが
とうございました。
研究を進めるにあたり,共に実験を行い,そして多く助言とご指導をいただいたフィ
ールド科学センター 木田克弥助教授,臨床獣医学講座 松井基純助手,COE 研究員
の川島千帆さん,金子悦史さん,須藤奈都子さんに感謝いたします。また,共に実験に
参加しサンプルの採取・分析を行った本研究室学部 4 年の永嶋俊太郎君,岡田早織さん,
木田研究室学部 4 年生のみなさんにも感謝いたします。また,フィールド科学センター
精密機械分析室の天野貴子さん,修士 1 年片岡美幸さんにも何から何まで大変お世話に
なりました。心より感謝いたします。
同輩である佐山浩平君,渡辺翔君,お二人の忍耐力・包容力・寛容さに感嘆するとと
もに,心から感謝します。お二人の叱咤激励に鈍い反応しか示すことができなかった私
に最後まで愛想を尽かすことなく,絶えず私の力になってくれようとしたことを大変嬉
しく思います。
最後に、いつも私の意志を尊重し,私を信頼し,遠くから絶えず支えてくれた両親に
最大の感謝を捧げます。
25
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Abstract
Effects of Increasing Rate of Dietary Concentrate
During the Early Lactation on Metabolic Status and
Reproductive Performance in Postpartum Dairy Cows
Master Course of Animal and Food Hygiene
Miki Ishihara
The objective of this study was to establish strategies of feeding management,
which could achieve high milk production and high fertility, and also prevent
production diseases. The experiment was conducted to compare the effects of the
two types of the increasing rate of transition diets fed during the postpartum period
on hormones, metabolic status and reproductive performance in postpartum dairy
cows.
Prepartum Holstein dairy cows (n=10) were assigned to two groups of five each.
Beginning at 14 d before expected calving, cows were held into the door-feeder pens,
and after parturition, one group was fed diets with concentrate increased at the rate
of 1kg/2 d until 2.5 wk postpartum (Rapid Group ; RG), and the other group was fed
diets with concentrate increased at the rate of 1kg/4 d until 5 wk postpartum
(Gradual Group ; GG). Amount of milk production was recorded daily, and amounts
of feed intake and remain were also recorded daily from 2 wk prepartum to 7 wk
postpartum. Rumen fluid for ruminal VFA and pH determinations were collected
weekly from 1 wk prepartum to 6wk postpartum, and blood samples for several
hormones and metabolites analyses were collected weekly from 2 wk prepartum to
parturition, collected daily from parturition to 5 wk postpartum and collected
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weekly after 5 wk postpartum until 14 wk.
There were no significant differences in milk production, DMI, insulin and IGF-1
concentrations between two treatments. The dietary ratio of forage to concentrate
had a significant difference between treatments from 1 wk postpartum until 3 wk
(P<0.05), however, the ratios ranged from 0.4 to 0.5, which meant that ruminal
fermentation was normal. RG had significantly higher concentrations of VFA on the
3 wk postpartum compared to GG (P<0.05), and also had significantly higher
concentrations of glucose and significantly lower concentrations of GH and
beta-hydroxybutyrate during the treatment period (P<0.05). As for reproductive
performance, days to first ovulation and days to first AI did not differ between
treatments, but RG had significantly better results on number of AI to pregnancy
and conception rate at 120 days postpartum, compared to GG (P<0.05).
There was no difference in DMI between treatments. However, RG had larger
amount of TDN from concentrate, which could cause better energy status and may
result in better reproductive performance, compared to GG. Besides, even RG could
have normal ruminal fermentation as they were able to consume enough forage to
keep it properly, which could maintain rumen health and achieve good fertility.
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