重回帰分析を用いた流出特性と流域特性との関連性検討 パシフィックコンサルタンツ株式会社 1. 正会員 ○湯浅 岳史 パシフィックコンサルタンツ株式会社 斉藤 泰久 国土交通省中部地方整備局沼津工事事務所 伊藤 覚 検討の概要 国土交通省沼津工事事務所は、水循環モデル構築の基 礎調査として、狩野川上流域において長期流量観測を行 っている。本検討は、地形・地質、土地利用、植生等の 流域特性が、流量データから明らかになった流出特性に 及ぼす影響について、重回帰分析を用いて検討したもの である。 2. 検討対象流域と流量観測概要 検討対象としたのは、山地地域であり、大部分が山林 を占める狩野川上流域である。山地域の水循環機能の把 握のため、ここに 15 の流量観測地点を設け、01 年 8 月 以降継続して流量観測を実施している(図 1)。 3. 検討した流出特性指標と流域特性指標 (1)流出特性指標 流出特性指標として、01 年 12 月 13 日降雨によるピ 図 1 検討対象流域 ーク流量、表面流出率、中間流出率、降雨流出率(表面 流出率+中間流出率)の 4 指標を検討した。 天城地点の 12/13 降雨の総降雨量は 63mm、 表 1 検討した流域特性指標 時間最大降雨量は 24mm であった。狩野川上 流域の降雨観測地点(6 地点)の降雨から、 分類 指標 単位 データ作成方法 2 流域面積 km ティーセン法により各流観流域の流域平均 流域周囲長 km 降雨量を設定した上で、流出率の計算に用い 主流長 km 流域内最大標高点へ向かう一番大きな沢の長さ 流域平均幅 km 流域面積÷主流長 地象 た。 流域集中度 谷密度 % 谷部分の面積割合 窪地面積率 % 窪地の面積割合 (2)流域特性指標 流域特性指標として、地形・地質、土地利 用、植生等の 20 指標を検討した(表 1)。精 主流勾配 傾斜 km/km (流域内最高標高-流域内最低標高)÷主流長 流域平均傾斜 ° 流域での傾斜の平均 平坦地 % 傾斜10°以下の面積の割合 急傾斜地 % 傾斜30°以上の面積の割合 針葉樹林 % 針葉樹林(主にスギ・ヒノキ・サワラ群落)・マツ類の割合 広葉樹林等 % 落葉広葉樹類(主にコナラ、ヤマボウシ-ブナ群落)、竹林の割合 草地等 % 裸地等 % 伐採地(萌芽林)、果樹園、草地、笹・ススキ、 人工草地(ゴルフ場)、耕作地の割合 市街地、裸地の割合 度の高い地形情報の算出のため、北海道地図 株式会社の 10mメッシュ標高データを用い、 GIS の水系抽出機能により流域面積・主流 km/km 流域と同面積の円の円周÷流域周囲長 土地利用 長・窪地面積率・谷密度などを求めた。また、 土地利用と NVI(正規化植生指標)は、 植生 NVI(植生指標) - NVI(0~10で評価)の観測流域での平均 IKONOS 衛星画像によるリモートセンシン 地質 地質浸透性 - 地質浸透性(浸透係数から求めた)の観測流域での平均 グ解析から求めた。 キーワード 連絡先 水循環、森林管理、流出特性、重回帰分析、GIS 〒163-0730 東京都新宿区西新宿 2-7-1 新宿第一生命ビル パシフィックコンサルタンツ株式会社 TEL 03-3344-0816 4. 重回帰分析による流出特性と流域特性の関連性 (1)多重共線性の確認 表2 多重共線性を避けるため、流域特性指 流出特性 指標 標間の相関係数が 0.7 以上であれば、片 方を分析から除外することとした。この 結果、流域周囲長、主流長、平均幅、主 流勾配、平坦地面積割合、急傾斜地面積 ピーク比流量 表面流出率 中間流出率 降雨流出率 流域特性指標 流域 面積 窪地 谷密度 面積率 流域特性指標を目的変数、流域特性指 -0.32 -0.38 -0.71 0.36 0.33 表3 流出特性指標 標を説明変数とし、ステップワイズ法で 重回帰分析を実施した。変数投入のため 平均 傾斜 14.58 割合、針葉樹林の 7 指標が除外された。 (2)重回帰分析 構築された重回帰モデル 採用された 流域特性 指標数 広葉 草地等 裸地等 樹林等 -0.21 -0.88 -0.08 0.57 5.33 -0.26 -0.11 0.61 NVI 定数 56.18 -487 9.11 0.58 12.11 重回帰モデルの適合度 決定係数 決定係数 分散分析 自由度調整済 決定係数 F値 有意確率 ピーク比流量 4 0.9 0.85 18.24 0.000 表面流出率 中間流出率 4 2 0.96 0.74 0.92 0.66 27.11 9.834 0.001 0.009 降雨流出率 5 0.99 0.97 51.1 0.001 の F 値(Fin)を 0.201、変数削除のため の F 値(Fout)を 0.200 に設定した。 重回帰分析の結果、流出特性指標毎に ピーク比流量 50 重回帰モデルが構築された(表 2)。全てのモデルは、有意水準 ろ、実測値と予測値の相関はよく、構築した重回帰モデルを用 いて流域特性から精度よく流出特性を予測できることがわかっ 2 30 3 と、重回帰モデルによる予測値とを散布図にプロットしたとこ 40 予測値(m /s/100km ) α=0.01 で有意であった(表 3) 。また、流出特性指標の実測値 20 10 た(図 2)。 (3)流出特性に及ぼす影響の大きい流域特性 0 0 重回帰分析の標準化係数の絶対値の大小から、流出特性に及 ぼす影響の大きい流域特性指標を整理し、表 4 に示す。 例えばピーク比流量で見ると、広葉樹林の面積が増えるほど 予測値(%) 8 4 量が高いなど、一般的に想定される流出機構にそぐわない指標 2 も見られた。これについては、今後の流観データの質・量の充 0 まとめ 狩野川上流域において、降雨流出特性を 目的変数、地形・地質、土地利用、植生な 0 図2 表4 50 6 2 4 実をまって見直す必要がある。 5. 40 2 降雨流出率 12 どピーク比流量が大きくなることがわかる。ピーク比流量を下 ただし、同じくピーク比流量で、NVI が高いほどピーク比流 30 3 10 くするなどが必要であることがわかる。 20 実測値(m /s/100km ) ピーク比流量が小さくなる、逆に裸地等の面積が大きくなるほ げるためには、広葉樹林面積を大きくする、裸地の面積を小さ 10 6 実測値(%) 8 10 実測値と予測値の相関 流出特性に及ぼす影響の大きい流域特性指標 流出特性指標 流出特性に及ぼす影響の大きい流域特性指標 どの流域特性を説明変数とする重回帰分 ピーク比流量 谷密度, 広葉樹林等, NVI, 裸地等 析を行ったところ、精度のよい重回帰モデ 表面流出率 草地等, 広葉樹林等, 窪地面積率, 平均傾斜 ルを構築することができた。この結果、広 中間流出率 流域面積, 窪地面積率 降雨流出率 窪地面積率, 草地等, 流域面積, 広葉樹林等, 平均傾斜 葉樹林は降雨流出の低減に、裸地・草地等 は降雨流出の増加に寄与していることが わかった。 12 ※ 流域特性指標の記載は、重回帰分析の標準化係数の絶対値の順。記載した流域特性指標 の順に、流出特性に及ぼす影響が大きい。 ※ 網掛けの指標は逆の相関が強い、すなわち流域指標が小さくなるほど、流出特性指標が 大きくなることを示す。 ※ 斜字体の指標は、一般的に想定される流出機構にそぐわない(逆の傾向を示す)指標で ある。
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