トルクメン通信 第2号 2015 年 10 月 17 日作成 こんにちは。上原です。トルクメン通信第 2 号です。 赴任から 1 か月が過ぎ、大分こちらの生活にも慣れてきました。この間、体調を崩したり、水漏れが発生した り、水道管が壊れたり、給与の支払いが遅れしばらく倹約生活をしたり・・・などといろいろトラブル続きの日々 を過ごしておりましたが、今は正常に戻りつつあります。正直、何度も「日本に帰ってやる!」と思いましたが、 一方「これも海外の生活らしいなぁ」なんてちょっと楽しんだりもしていました笑。ただ、「日本語教えたくな い」と思ったことは一度もないです。うれしいことに、学生が「先生大丈夫ですか?くすりあげます!(ちなみ にこの薬の成分が強すぎて、さらに体調が悪化しました) 」や「お金がありますか?今日は私がご飯を買ってあげ ます!(学生にこんなこと言われる俺って一体…) 」、 「もし先生がつまらなかったら、先生の家に話に行きます! (いや、風邪うつっちゃうから大丈夫だって!) 」といろいろ声をかけてくれたので、すごく支えられました。 さて、日本ではシルバーウィークに体育の日の連休と休日が多いこの時季ですが、トルクメニスタンも祭日や 祝日が重なる時季です。まず、 「グルバンバイラム」というイスラム教の祭日があります。毎年時期は異なり、今 年は 9 月 24 日から 26 日までした。この日は屠殺した羊の肉を食べます。次に 10 月 6 日の震災追悼記念日(こ ういう名前なのかわかりませんが、勝手に命名しました)で、60 年ほど前にトルクメニスタンで起きた大地震で 亡くなった犠牲者を追悼するための日です。そして 10 月 27 日の「独立記念日」 。トルクメニスタンで一番重要 な祝日です。この独立記念日に開催されるイベントにアザディ大学の学生も参加します。そのイベントの練習の ため、授業が度々休講になります。事前に休講になる日を知らせてくれればいいのですが、 「はい、今日休講だか らよろしく!」と急に言われるので、やろうとしていたことができなかったりします(話は脱線しますが、 「突然 何かを言われる」というのは当たり前のことで、今は慣れましたが最初はすごく戸惑いました) 。でも、どんなイ ベントなのか興味津々です。イベントの様子はまた次号以降で紹介できればと思います。 前置きが長くなりましたが、今回はアザディ名称世界言語大学の様子と、私が今受け持っている 3 年生のクラ スの様子を紹介したいと思います。 ★ アザディ名称世界言語大学の様子 前号でも少しご紹介しましたが、今回はもう少し詳しい大学の姿をお伝えしたいと思います。 大学ですが、とにかく建物が古いです。いろいろなところにヒビが入ってたり、穴が開いていたり…。ですが、 授業をする分には問題ないので先生や学生は普通に使っています。教室には、黒板(ホワイトボード)、机、イス のみと至ってシンプル。学生は卒業までの 5 年間、その教室を使い続けるようなので、マグカップなど学生の私 物もちらほらと見受けられます。大学の構内には寮が併設されており、地方から通っている学生は寮で生活しな がら大学に通っています。こちらに来て驚いたのが、コピー用紙や文房具などの備品は学生が用意するという点 です。日本だと大学が用意してくれると思うのですが、こちらでは学生全員が奨学金をもらっているので、その 奨学金から備品の費用を捻出することとなっています。なので、たとえばコピー用紙がなくなったら、 「紙なくな ったから次までに買ってきてねー」と学生に頼んでおく必要があります。 トルクメニスタンの大学には制服があります。男子学生は白 シャツにスーツ、ネクタイを着用し、ひげや長髪は禁止です。 女子学生は「コイネク(koynek) 」という赤いトルクメンドレス に三つ編みという服装です。そして男子も女子も「タフヤ (tahya) 」という帽子の着用が義務づけられています。結婚し 「タフヤ(tahya) 」 た女性の場合、帽子ではなく頭にスカーフを巻いています。学 (左が男子用・右が女子用) 生のうちに結婚するという例は多く、中には子どもを産み育て ながら大学に通っている学生もいます。授業中は帽子を脱いで いることが多いのですが、学部長がたまにフラっと制服のチェックに来るので、そのときだけは全員起立、帽子 をしっかりかぶり、学部長の逆鱗に触れないようにしています。学部長は普段はとてもやさしい方なのですが、 学生に厳しく怒鳴りつけている場面に度々遭遇します。ちなみに私はポロシャツにチノパンという比較的カジュ アルな格好で授業をしています。外国人講師は基本的にどのような格好でも良く、私のような格好をしている先 生方も多いのですが、トルクメンの先生方も基本的にスーツ/トルクメンドレスなので、かなり浮いています笑。 また、トルクメンの学生にはいろいろなルールがあるようです。運転をしてはいけない、海外旅行をしてはい けない、卒業後 2 年間、男子は兵役、女子は働かないと学位がもらえない、午後や休日にイベントがある場合は 必ず参加しなければならない、風邪をひいても基本的に学校にいなければならない、などです。月一回「健康の 道」という山道を歩くイベントがあるようなのですが、日曜の朝 5 時くらいから始まるので大変ですね・・・。 3 年生の様子 ★ いろいろルールがあって大変そうな大学生活ですが、日本語の授業の時はみんな元気です。頑張って日本語を 話そうとしてくれるのはうれしいのですが、何せ一斉に話しかけられるので、対応が大変です。聖徳太子のよう に 10 人の話を一度に聞ければいいのですが、そんな器用なことはできません笑。一方、授業に遅刻してきたり、 授業中に携帯をいじったりしている生徒もいます。立場上、一応注意はしますが、気持ちは分からなくはないで す。だっていつ使うかわからない日本語を勉強しているんですから笑。でも、そんな生徒も振り向かせられるよ うな授業をしようと日々奮闘しています。 中でもにぎやかな、というか、うるさいのが 3 年生のクラス。当初は学級崩壊状態でした。女子は比較的真面 目なのですが、男子はやる気がなく、遅刻する、携帯でゲームする、漢字が多いプリントには取り組まない…。 もちろん日本語はあまり身についていません。しかも女子と男子でケンカをし始める始末…。さて、どうしたも のかと考えていたのですが、よくよく授業中の様子を観察してみると、男子のいいところがだんだんと見えてき ました。例えば、漢字を丁寧に書いたり、折り紙を上手に折ったり、動詞の変換は誰よりも正確だったり、自由 作文で面白いことを書いていたり。また、作文の授業で「私の家族」をテーマに作文を書いたときも、正直、私 は「ありきたりなテーマで面白くないなぁ、まぁでも日本語の練習にもなるし、みんなの家族がどんな人か知り たいからいいか」とあまり乗り気ではなかったのですが、いざ作文を書かせてみると、男子が(たぶん) 「こんな ことを言いたいんだけど、なんて書けばいいんだ?!」とトルクメン語で女子と話していたり、私が作文を見て 「面白いですね!ちなみにこれはどういうこと?」などと質問やコメントすると一生懸命説明したりうれしそう な顔を見せたりしてくれました。このように、一見男子はやる気がなさそうに見えますが、実際はそんなことは なく、むしろ日本語で表現することに対しては非常に意欲的である様子が見えてきました。 そこで、授業では一言でもいいので全員が自分の思いや考えていることを言える時間を 取り入れること、そこでは日本語の間違いに目を向けずその言葉をしっかりと受け止めて 言葉を返す、つまり「ちゃんとやりとりをする」ことをより意識するようにしました。 「私 の日本語がわかってもらえた」という体験を積み重ねていき、日本語学習に対する意欲を 高めるためです。また、学生の得意なことを把握し、学生それぞれが活躍できる場面を増 やすようにしています。例えば、漢字が得意な学生だったら見本の漢字を書いてもらう、 動詞の変換が正確な学生は最初に指名して変換してもらう、折り紙の得意な学生は私の代 わりに説明してもらう、1 年生に折り紙を教えるために折り方をトルクメン語に翻訳して もらう、などです。本当は「語彙」の授業なので、教える内容もすべて決まっているのです が、彼らの興味や関心に合わせて適宜変更しています。結果、ほぼカリキュラム通りになっていません! こんな感じで授業を進めていくうちに、クラスの雰囲気が少しずつ変わってきました。特に男子は以前より日 本語についての質問や「今何をすればいいんだ」のような確認のやりとりが増え(ちゃんと指示出してるんです が笑)、授業に関わろうという様子が見えてきました。また、女子の男子に対する評価も変わりつつあり、 「日本 語はできないけど折り紙は上手」 「漢字はきれいに書きます」のように「日本語がで きるかできないか」という軸にとらわれず、多面的にクラスメイトの特長を把握で きるようになってきました。ことばでやり取りをしながら、相手のいろんな部分を 発見しその良さに気付くクラス創りを目指してきた私にとっては、とてもうれしい 変化です。もちろん課題はいろいろあるのですが、彼らと一緒に私も考えたり、話 したり、楽しんだり、時には悩んだり、怒ったりしながらクラスを作っていきたい と思います。ちなみに上の写真にある兜ですが、3 年生の学生が折りました。丁寧で本当に上手です。 今回は、大学の様子と 3 年生の様子を紹介しました。やっぱり学生のことになると長くなってしまいますね。 そして現在、 「トルクメニスタンで日本語を学んでいる/学んでいた学生は、大学での日本語学習をどのように 意味づけているのか」をテーマにインタビューをしています。そのインタビューの内容や日本語学科の先生方・ 学生の声もトルクメン通信でご紹介したいと思います。トルクメニスタンの学生がどんなことを考えて日本語を 勉強しているかなんてなかなか知ることができないので、貴重なインタビューになると思います。また、最近、 日本語教育がアザディ大学以外の大学や中等教育機関でも行われることが政府により決定されました。これから 日本語教育の分野で様々な変化がありそうなトルクメニスタン。その様子を少しでもこのトルクメン通信でお伝 えできればと思います。第 3 号もお楽しみに! アザディ名称世界言語大学 上原龍彦 (ご質問・ご感想などは azadyuehara★gmail.com へ。 ★を@に変えてください)
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