INTECRIO、 統合プロトタイピング環境

INTECRIO、
PSA Peugeot Citroën
Alexis Riera、
ETAS
Guillaume François
統合プロトタイピング環境
PSA・プジョーシトロエン社、ETASツールの活用でチームワークを効率化
PSA・プジョーシトロエン社のPSEO(Prototypage et Simulation Electricité Electronique Organes)部門では、
ラピッドプロトタイピング技術を使って新しい制御機能の評価を行い、テストベンチや実車でテストを行うことにより、量産
車に対応する品質確保を図っています。それら制御機能の一例として、Citroën C4 PicassoのHill AssistやCitroën C3の
Stop & Start、ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる粒子状物質を取り除く装置(DPF)等が挙げられます。開発期間の短
縮を可能にするため、2005年1月、PSEOはPSA・プジョーシトロエンのツール環境にINTECRIO統合プラットフォームを導
入することを決定しました。同社におけるプロトタイピングの工程は、INTECRIOの導入後半年で効率化の効果が現われ、時
間・労力を最大50%削減することに成功しました。
プジョー407車両に
組み込まれた
ES1000システム
動車メーカーの開発部門では、開発期
自
間の短縮への圧力が強まる中で、燃費
向上や快適性・安全性といった要件を満た
すために複雑化が進む一方の電子制御シス
テムを開発する厳しい課題に直面していま
す。このような状況から、PSA・プジョー
シトロエンのPSEO部門では、ラピッドプロ
トタイピングの統合・妥当性確認の工程に
かかる時間を削減する方策を導入すること
になりました。エンジン、シャシー、トラン
スミッションのラピッドプロトタイピングを
担当するPSEO部門がINTECRIOを選択した
理由は、このツールがソフトウェアバイパス
のさまざまな課題を解決し、時間・労力の
削減に有効で、制御モデルの交換や共有を
容易にするといったさまざまなメリットを提
供するためでした。また、外部のサプライ
ヤが提供するファンクションモデルを組み
込む際の問題を解消できる点も重要でした。
PSA・プジョーシトロエンの
そのため当部門では社内のさまざまな部門
パワートレイン用
と連携し、ガソリン直噴システムやCitroën
ラピッドプロトタイピング
C6の減衰力可変機能を備えたアクティブサ
PSEO部門は電子制御システムの開発工程
スペンション等を対象に、ラピッドプロト
の重要な役割を担っており、信頼性の高い
タイピング実験を行い、テストベンチや実
ファンクションの仕様化をめざして、新し
車でテスト・妥当性確認が可能なシステム
い電子制御機器のコンセプトの評価を行っ
を構築しています。
ています。この工程では、量産車向けに新
しいコンセプトを実現する上で想定される
あらゆるリスクを考慮する必要があります。
14
RT J 1. 2 0 0 8
PSA・プジョーシトロエンの
ラピッドプロトタイピング専門家、
Alexis Riera
エンジンマネジメントシステムを例に挙げれ
PSEOではさまざまな開発パートナーとの連
のようにPSEOでは、既存のASCETファン
携活動を促進するために、ルノーやフォー
クションを再利用して、イニシャライズ
ドといった自動車メーカーや、 Bosch や
Delphi Diesel Systems、VDO Automotive
フェーズやパワーラッチシステム、 EEPROMマネジメントといったローレベルの
等のエンジン制御システムサプライヤ、ま
ファンクションの新規開発を進めることが
たイータス等のツールサプライヤに広く呼び
できます。実際、INTECRIOをラピッドプロ
かけて、ラピッドプロトタイピングの会合を
トタイピング実験に活用することで、エン
定期的に開催しています。この機会は、開
ジン開発者と電子制御の開発者が同じ「言
発プロジェクトの途上で生じるさまざまな
語」でやりとり可能になり、実行可能なプ
問題や、新しい機能を実装する上での課題
ロトタイプをエンジン開発者の設計に精密
を解決するための積極的な意見交換の場と
に適合させることができます。
して有効に活用されています。
ば、CSMT(Conception Système Moteur
INTECRIOはまた、PSA・プジョーシトロエ
Transmission)部門のエンジン制御開発者
INTECRIOにより
によって開発された新しいアルゴリズムの
ラピッドプロトタイピングで
ンにおいてハードウェアの統合に要する時
ツールや手法を提供することがPSEOの役目
間の短縮を可能にしました。INTECRIOで
は、同じ妥当性確認のプロジェクトで種類
50%の時間短縮を実現
開発工程にINTECRIOを導入したことで、 の異なるハードウェアシステムを構築し保
です。CSMTでは要求資料に基づいて、機
統合・妥当性確認に要する作業の多くが簡
存することができます。またその逆に、同じ
能の仕様をモデル形式で作成します。
素化され、社内に分散している各開発チー
ハードウェアの構成を、別のプロジェクト
ムの連携が可能になり、全体として開発工
に再利用することも可能です。ソフトウェ
CSMTにてSimulink®モデルが作成される
と、PSEOでは実行可能なモデルを作成する
程の効率化が実現されました。以下に詳し
アのコンパイルが行われると、必要なハー
く紹介します。
ドウェアの構成内容を引き出して、コンパ
のに必要なプロトタイピングを提供します。
INTECRIOは、MATLAB®/Simulink®やASCETで作成されたモデルに加え、開発環境
に関わらず作成されたレガシーCコードをモ
イルされたソフトウェアに組み込むことがで
リケーションに応じて、ES1000システムや
ジュールとして統合することが可能なプラッ
ES910システムの構成を利用しています。
妥当性確認を可能にするために、必要な
プロトタイプのファンクションを、新しい
ECUアーキテクチャに最終的に統合する場
合、実際の量産用ECUがまだ手に入らない
状況では、プロトタイプECUが作成あるい
トフォームを提供します。すなわちPSEOで
は使用されます。この手法は、すべての
は、CSMTで作成されたSimulink®モデル
ECUのファンクションをプロトタイプECU
と、既存のASCETモデル、レガシーCコー
に組み込むため、フルパスと呼ばれていま
ドを使って、妥当性確認を行うシステムを
す。一方、既存 ECU の機能の一部を、ラ
構築することができます。
きます。PSA・プジョーシトロエンではアプ
➔
■
ピッドプロトタイピングハードウェア上で実
行される新しい機能に置き換える方法とし
以前のASCET環境で必要だったSimulink®
て、バイパスと呼ばれる手法があります。
モデルからASCETモデルへの書き直し作業
PSEO ではETAS 製のモジュール式ハード
ウェアES1000シリーズや小型ラピッドプロ
トタイピングハードウェア ES910 と ETK
ECUインターフェースを活用しています。
が不要となり、その分時間を節約できます。
実際、以前に比べて最大50%の労力が削減
されました。機能の仕様を統合する段階で
は多数の反復作業が必要ですが、 INTE-
CRIOでは問題ありません。また、最新バー
ジョンのSimulink®モデルを既存のINTE-
CRIOプロジェクトに統合する作業も数秒も
かかりません。INTECRIOはあらゆるモデリ
ング言語に対してオープンであり、ASCET
で作成されたファンクションをプロトタイピ
ングに統合することも容易に行えます。こ
15
J 2 0 0 8 .1 R T
INTECRIOの導入により、PSA・プジョー
シトロエンでは開発工程が効率化され、
Simulink®モデルの品質が明らかに向上し
ました。それぞれのファンクションに対して
モデルが1つしか存在しないため、電子制御
とエンジンの開発者が使用するレファレン
スは同一のもので、部門間のコミュニケー
ションは著しく改善されました。
現在から将来に渡り、
有効なツールとして活用
PSA・プジョーシトロエンにおけるINTECRIOプロトタイピングの成功は、
Simulink®モデルを効率的に統合できる点
が大きく寄与しています。この特長は、ラ
ピッドプロトタイピングの迅速化や、エン
ジン部門と電子制御部門の連携改善に役
立っています。INTECRIOは将来的にも有
用な資産として活用できます。ツールのバー
ジョンアップは一貫した製品開発プランを
ベースにリリースされています。ETASの開
INTECRIO
バイパスプロジェクト
Simulink®モデルの品質向上に
PSEOではINTECRIOの導入によって生じた
発にはユーザーの要望や意見が取り入れら
必要とされる共通の開発ツールとして
プロセスの変更にうまく対処してきました。
れており、 INTECRIO ユーザーの貴重な
INTECRIOを活用
INTECRIOの導入により、PSA・プジョー
モデル評価のプロセスを、統合段階の最初
フィードバックが製品の継続的な最適化に
に導入するというのもその一例です。この
反映されています。
シトロエンでは開 発 プロセスや手 法 の
段階で、最終ターゲットの制約事項やテク
一部に変更の必要性が生じました。以前の
ニカルデータが適切に扱われているか、ま
ASCET環境で必要だったSimulink®モデル
た、モデリングルールにどの程度準拠して
からASCETモデルへの書き直し作業は不要
いるかがチェックされます。ファンクション
となりましたが、Simulink®モデルの品質を
開発者のニーズを満たすために、モデルの
確保してINTECRIOを有効に活用するため
更新が行われる度に小規模な評価が繰り返
には、適切なモデリングのルールづくりや
されます。
Simulink®のライブラリ定義が必要です。
INTECRIOは、A2LファイルやSimulink®モ
INTECRIO製品ファミリは進化を続けてお
り、ECUソフトウェアのCコードベース開発
を可能にするINCODIO(ETASパートナー
企業 SYSTECS社製品)との連携や、AUTOSAR サポートが提 供 されています。
PSA・プジョーシトロエンはサプライヤと協
業して、再利用可能なAUTOSAR ソフト
ウェアコンポーネントの開発に取組んでお
デルといったソースエレメントの品質に対し
り、ターゲットECUに近い条件で挙動の評
て厳しい要求を課します。実行モードや最
価を行うために、INTECRIOを使用してAU-
適化、リアルタイム挙動といった組込みシ
TOSARコンポーネントをプロトタイピング
ステムの制約を処理することをファンクショ
プロジェクトに組み込むことが検討されて
ン開発者は認識しているため、この品質改
います。
善の作業には当初かなりの手間がかかりま
したが、おかげで50%の工数削減という成
INTECRIOの導入により、新しいアプリケー
果を得ることができました。INTECRIOユー
ションや妥当性確認のテストが可能になり
ザーのモデリング技術は着実に向上してい
ますが、PSA・プジョーシトロエンが特に
るため、将来的にはさらなる時間短縮が見
関心を持っているのは、バーチャルプロト
込まれます。
タイピングの分野です。MiL(Model-in-
the-Loop)手法やSiL(Software-in-theLoop)手法、あるいはAUTOSARソフト
ウェアコンポーネントのバーチャル評価と
いった工程の導入を通じて、そのプロトタ
イピング実験を改善するためのソリューショ
ンを実現していきたい考えです。
16
RT J 1. 2 0 0 8