社労士便り (2008 年4月) (Vol.025) 『 ● 名ばかり管理職 』 名ばかり管理職の法的根拠 「名ばかり管理職」が頻繁にマスコミで取り上げられています。 この問題は決して他人事ではありません。よもや労使間で裁判沙汰になる前に自社 の管理職状況をチェックしましょう。 大前提として当該問題に関する労働基準法の条文を理解する事から始めなければ なりません。 「管理職には残業代を支給しなくても違法ではない」という法律根拠は労働基準法 第 41 条「労働時間・休憩・休日規定の適用除外」にあります。 この法律条文は次のとおりです。 「次の者には労働基準法第 4 章、第 6 章及び第 6 章の 2 で定める労働時間、休憩及 び休日に関する規定は適用されない」 1. 農業・畜産・水産業の事業に従事する者 2. 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を 取り扱う者 3. 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が所轄労働基準監督署長の許可を 受けた者 このように「名ばかり管理職」とは大きく 3 つの対象者のうち、2 の「監督若しく は管理の地位にある者」に該当するかどうかの問題であり、実際には残業をしても残 業代が支給されなくても良いとされる対象者は他にもいるのです。 たとえば 2 の「機密の事務を取り扱う者」の中には社長と行動を供にする秘書など も含まれるかもしれませんし、「断続的労働に従事する者」の中には幹部専用車の運 転手も含まれるかもしれません。 また、「第 4 と第 6 章及び第 6 章の 2 で定める労働時間、休憩及び休日に関するあ らゆる規定」とは労働時間に関する様々な条文を指しますが、ここで重要となる条文 は第 32 条「労働時間の原則」と第 36 条「時間外及び休日の労働」となります。 ● 第 32 条・第 36 条そして第 37 条 第 32 条「労働時間の原則」 1. 使用者は労働者に休憩時間を除き 1 週間について 40 時間を超えて労働させて はならない 2. 使用者は 1 週間の各日については労働者に休憩時間を除き 1 日について 8 時間 を超えて労働させてはならない 第 36 条「時間外及び休日の労働」 1. 使用者は業務繁忙等の事由により労働者を時間外又は休日労働させる場合に は、労使が書面により時間外・休日労働協定をし、行政官庁に届け出ることが 必要である。 2~4 項は省略。 以上を簡潔にまとめると、 「使用者は 1 日 8 時間、1 週 40 時間超の労働を労働者 に命じてはならないが、多忙につき時間内に業務完結が見込めない場合は 36 協定 の提出により例外的に労働させることができる。」ということです。 つまり管理監督者等はこの規定が適用されないということになりますので、言い 替えれば、36 協定なしに 1 日 8 時間、1 週 40 時間超の労働を行うことができます。 ただし、この条文だけでは「管理職には残業代を支給しなくても良い」という根 拠になりませんので、更に他の条文を探してみると労働基準法第 37 条「割増賃金」 第 3 項において次のように定められています。 「労働基準法第 36 条第 1 項の規定により労使協定(36 協定)をし、労働基準監 督署に届け出て労働時間を延長し若しくは休日に労働させた場合、使用者は割増賃 金を支払わなければならない。 」(一部アレンジ) これを言い替えると第 36 条 1 項の対象外である管理職等は時間外・休日労働に 対して残業代を支給しなくても違法ではないということになるのです。逆に深夜労 働は管理職等も対象ですので 25%以上に深夜割増賃金を支給しなくてはならず、こ れを怠っている企業が意外と多く見受けられます。 ● 「監督若しくは管理の地位にある者」の定義 結局のところ名ばかり管理職の原因は社内における管理職と労働基準法上の管理 職の定義が違う事を企業が知らずに放置していることです。 ただし複数の大企業が管理職の定義を巡り裁判で争うぐらいですから、定義の違い を明確に理解することは難しいのも事実です。 そこで行政通達における管理監督者の判断基準を参考にしましょう。 1. 一般的には部長・工場長など労働条件の決定その他労務管理について経営者 と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず実態判断すべきもの である 2. 労働時間・休憩・休日等に関する規制の枠を超えて活動する事が要請せざる を得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も労働時間等の規制に なじまないような立場にある者に限られる 3. 定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇が なされているか否か、ボーナスなどの一時金の支給率、その算定基礎賃金な どについても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているこ と これを踏まえてチェックポイントを挙げてみました。御社の管理職が下記要件 に該当すれば「名ばかり管理職」の可能性が生じますが、あくまで参考ですので、 ご了承ください。 1. 管理職に昇進前後で職務内容が変わらない 2. 直属の部下が一人もいない 3. 直属の上司の指揮監督下で日々働いている 4. 会社の機密情報をほとんど知らない 5. 幹部会議へ参加したことがない 6. 自らの裁量で残業・休日出勤ができない 7. 遅刻・早退をするとその分の賃金が控除される 8. 私用外出が許されていない 9. 出退勤時のタイムカード打刻が義務づけられている 10. 管理職手当が支給されていない。 11. 管理職手当がそれまでの残業代よりも低額だ 12. 部下の担当職務を命じる権限がない 13. 部下を査定する権限がない 14. 基本給が一般社員と同レベルだ 15. ボーナスの支給率が一般社員と同レベルだ ● プロフィール 社会保険労務士 佐藤 敦 平成 2 年:明治大学商学部 卒業、同年:ライオン株式会社 入社 平成 16 年:全国社会保険労務士連合会・神奈川県社会保険労務士会登録 ● 著書発売のお知らせ(平成 20 年 3 月 7 日発売) 『働く高齢者の給料が減っても手取りを減らさない方法』(ダイヤモンド社) ● ホーム・ページ: 『中小企業の労務改革提案』 URL : http://www5f.biglobe.ne.jp/~asato/
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