「名ばかり管理職」リスクの 回避策

Available Information Report for Corporate Management
経 営 情 報 レ ポ ー ト
第 38 号
法令を遵守し会社を守るための
「名ばかり管理職」リスクの
回避策
1 「名ばかり管理職」が社会問題化している背景
2 「名ばかり管理職」に対する行政指導の実例
3 「名ばかり管理職」問題への緊急対応策
4 管理職の過重労働に対する根本的対応策
森田 務 公認会計士事務所
法令を遵守し会社を守るための「名ばかり管理職」リスクの回避策
「名ばかり管理職」が社会問題化している背景
1│日本マクドナルド事件の波紋
最近、「名ばかり管理職」あるいは「偽装管理職」などと称される報道が見られるよう
になりました。それらの報道では、管理職としての実質的な権限がないにもかかわらず、
「管理職」として扱われ、割増賃金などの支給もないままに長時間の労働が強いられてい
るという問題提起がされています。
そして、平成 20 年1月 28 日に東京地裁において、ハンバーガーチェーン大手のマクド
ナルドの店長が労働基準法(以下、「労基法」という)41 条2号の「管理若しくは管理の
地位にある者」(以下、「管理監督者」という)には該当しないとして、未払いの割増賃
金請求等を認める判決が言い渡されました。
現在、この判決は多くの波紋を呼んでいます。
全国展開するサービス業では、各地の拠点に営業店を設置し、多くの場合、その店長を
管理監督者と位置づけてきたからです。コンビニエンスストア大手のセブンイレブンにお
いては、直営店の店長に時間外手当を支払う方針を固めるなど、各企業において店長、あ
るいは管理職の労働条件を見直そうとする動きも見られるところです。
また、平成 20 年4月1日には、厚生労働省労働基準局監督課長名で都道府県労働局長宛
てに「管理監督者の範囲の適正化について」というタイトルの付された行政通達(基監発
第 0401001 号、平成 20 年4月1日)が出されました。今後、労働基準監督署においては、
管理監督者の範囲等について、サービス業だけではなく、すべての業種に対する積極的な
監督・是正指導が行われていくことが予想されます。
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2│「管理職」と「管理監督者」の違い
(1)「管理職」イコール「管理監督者」ではない
企業での管理職と、労働基準法でいう管理監督者とは異なります。課長職以上を管理職
として扱っている企業が多いと思いますが、労働基準法の管理監督者は役職名や肩書きで
判断できません。労働基準法上では「監督もしくは管理の地位にあるもの」「部長、工場
長など労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるもの」とさ
れています。
つまり、管理監督者について各企業で勝手に「課長職以上は管理監督者だから、残業代
は支払わない」というように決めてよいわけではありません。あくまでも客観的に決まる
ものです。客観的に「労働時間、休憩、休日を適用除外にしても、労働者保護の観点から
問題がない」と言える範囲に限定されます。
管理監督者の意義・範囲については、法令は特段に定めていないため、行政解釈が示さ
れています。管理監督者とは、労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的
立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべし、とされています
(昭 22.9.13 発基 17 号、昭 63.3.14 基発 150 号)。
その要件は以下の通りとなります。
①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮管理監督権限
を認められていること
②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
③一般の従業員に比べその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられ
ていること
労働の質、量、およびそれに対する待遇等を、総合的かつ実態的に判断されるというこ
とです。
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(2)管理監督者の判断基準
管理監督者の判断基準についてのチェックリストは次のようになります。チェックリス
ト形式にしましたが、管理監督者の判断は実態に即した総合判断になりますので、最終的
には総合判断が必要です。
■管理監督者 チェックリスト
職務内容・権限・責任等
○・×
1 募集・採用条件・採用について決定権限があるか
2 人事考課、賞与額について決定権があるか
3 昇進・昇給について決定権限があるか
4 人事計画の作成について権限があるか
5 重要事項を決定する会議への参加権限があるか
勤務態様
○・×
6 自己の勤務時間について、実質的に見て裁量権が行使できるか
7 早退・遅刻のとき賃金が控除されないか
待遇
○・×
8 すぐ下の非管理監督者の賃金水準と比較して十分といえるか
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管理監督者になり、時間外手当が支払われなくなったことにより、以前より
賃金が低くなってはいないか
10 役職手当を含めた待遇が管理監督者に見合うものか
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(3)企業における管理監督者の意味合い
労基法 41 条2号において、管理監督者については、同法の労働時間、休憩および休日に
関する規定を適用しないと定めています。
①労働時間
1日8時間以内、1週40時間以内とする
②休憩
労働時間が6時間を超える場合45分以上の休憩、8時間を超える場合は1時間
以上の休憩を与える
③休日
1週に1日以上の休日を与える
つまり、管理監督者には時間外労働、休日労働という一般の従業員への考えは当てはま
らず、残業代は支払わなくてもよいことになります。ただし、年次有給休暇や深夜業務の
割増賃金の支払義務は適用されます。
管理監督者は、経営者と一体的な立場にあり、自らの労働時間の管理について裁量権を
もっているので、上記のような規制になじまないためとされています。
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「名ばかり管理職」に対する行政指導の実例
1│行政指導の現状
(1)裁判例の基準
管理監督者性の判断をする多くの裁判例は、日本マクドナルド事件の判決に限らず厳格
です。特に、職務権限がある程度認められても、相当程度の広い権限と裁量性がないと、
待遇がある程度のレベルでも管理監督者性を容易に認めません。
裁判で否決されると、役職手当を支給していたときは、その解釈が争点となります。つ
まり、当該役職手当は、割増賃金の算定基礎に入るのか、そして計算された割増賃金から
既払いの定額残業代として控除できるのかということです。
また、付加金の支払いを命じる裁判例もあります。金額については、いろいろあります
が割増金額と同額まで命じた裁判例もあります。
(2)裁判による対応例
管理監督者性としての実態がないのに管理監督者と位置付けていたときは、以下のよう
な対応を命じられます。
①労働時間、休憩、休日の労基法の規制が及ぶことになり、法定労働時間(1日8時
間、1週 40 時間)を超えれば、割増賃金を支払わなければなりません。
②役職手当を支払っていても、その手当の取扱いが問題となり、役職手当を割増賃金
の算定基礎に算入しなければならず、かつ、計算された割増賃金からその役職手当
分を控除することができない可能性があります。
③付加金の支払う可能性があります。
賃金債権の時効は2年ですから、2年分の未払い賃金を支払わなければならなくなり、
莫大な負担となります。
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(3)労働基準監督署による監督・是正指導
労働基準監督署により、管理監督者性について違法と判断した場合は、是正勧告を出し、
労働時間管理と時間外・休日出勤に対する割増賃金の支払いを勧告します。
しかし、この判断は実態に沿った総合判断である性質上、労働基準監督署が違法と断定
して勧告するケースは少ないと予想されます。違法とまでは言えないが、改善すべしと判
断し指導票を出し、再検討を指導するケースがほとんどです。
指導票を出された場合、指定の期日までに是正し、労働基準監督署に是正報告書を提出
しなければなりません。是正事項によっては、期日に間に合わないこともあります、その
場合は、その具体策と予定年月日を報告することになります。
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■指導票 例
指
導
票
平成○○年○○月○○日
株式会社○○○○○
代表取締役○○○○○殿
○○○労働基準監督署
労動基準監督官
○○
○○
㊞
あなたの事業場の下記事項については改善措置をとられるようにお願いします。
なお、改善の状況については○○月○○日までに報告してください。
指
導 事 項
1.労働基準法第 41 条第2号の管理監督者について
労働基準法の管理監督者とは「労働条件の決定、その他労務管理について経営者と
一体的な立場にある者」と規定されており、名称ではなく、実態的に判断されるもの
とされており、具体的には①実態上の職務内容、責任と権限が伴うか、②勤務態様の
実態はふさわしいか、③適切な待遇がなされているか、④スタッフ職の場合は、経営上
の重要事項に関する企画立案の部門に配属され、ライン管理職と同格以上に適されて
いるか、によって判断すべきとされています。
ついては、上記の視点から、管理監督者の範囲について精査し、実態を踏まえた適正な
運用が図られるよう検討すること。
また、管理監督者といえども深夜勤務を行った際には、別途深夜労働手当が発生する
ことを説明するとともに、過重労働防止の概念から日々の労働時間の把握に努めて下さい。
2.(省略)
受領年月日
平成○○年○○月○○日
受領者職氏名
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■是正報告書 例
是
正
報
告
書
平成○○年○○月○○日
○○○労働基準監督署
労働基準監督官
○○
○○ 殿
事業所名
代表者職氏名
平成○○年○○月○○日貴署
○○
○○
代表取締役
○○
○○
㊞
監督官から、指導票により是正・改善を
指示された事項については、下記のとおり是正・改善しましたので報告します。
記
指導票
改善年月日
1.労働基準法第41
平成○○年○○
条第2号の管理監督
月○○日
者について
改善内容
管理監督者の労働時間について以下の是正を行い
ました。
①出勤・退勤に関して
(以下省略)
2.(省略)
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「名ばかり管理職」問題への緊急対応策
1│すぐにできる実務対応
会社が管理職に対して、すぐにできる対応例として、4つあります。
①時間管理の区分
②賃金の見直し
③管理職の権限の見直し
④残業代定額払い
以下に詳しく紹介します
(1)管理職と非管理職との時間管理を明確に区分する
自己の勤務時間に関する自由裁量の有無が「管理監督者」の該当性を判断する基準の1
つとされています。そこで、管理職と非管理職との間で時間管理を明確に区分するという
方法があります。具体的には、以下の3点になります。
管理職
非管理職
欠勤・遅刻・早退に
ついて
報告・届出事項とする
承認事項
賃金と労働時間
完全月給制
賞与と労働時間
連動しない
ノーワーク・ノーペイ
連動する
(例:欠勤・遅刻・早退などが査定
基準となる)
(2)下位の職位にある者との賃金の比較
「役付者以外の一般労働者に比し、優遇措置が講じられているか否か」として、下位の
職位の者との賃金比較も判断の基準の1つとされています。
特に、割増賃金を含めた月例給与において、管理職とその下位者との間で金額の逆転が
生じている場合、必ず対策を講じなければなりません。具体的には以下の2点があります。
①役付者にふさわしい役職手当、基本給を支給する
②賞与額の支給率を見直す
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(3)管理職の権限の見直し
現実に部下もいないなど管理職としての実態に欠ける従業員までも管理職として扱うこ
とは妥当ではなく、「管理監督者」に該当する管理職の権限の見直しも行うべきです。「監
督権限・管理権限を有しているか否か」ということが判断の基準になります。
ここでいう監督権限とは、部下に対して、指揮命令の権限と業務命令権(例としては、
時間外・休日労働命令など)を合わせたものです。また、管理権限とは、採用、解雇、昇
給等の人事権を指します。
このような監督権限、管理権限を有しない管理職については、管理監督者として扱うこ
とを再検討すべきです。
(4)残業代定額払いでの対応
管理監督者としての位置付けに自信を持てなければ、残業代定額払いでの対応を検討し
てください。一般的に、管理監督者へは、見込まれる残業時間に対する残業代を含めて、
役職手当や基本給に上乗せする形として、非管理職よりも高い給与を支給しているという
面があると思います。しかし、その上乗せしている部分が明確ではない以上、法的には所
定労働時間の賃金と見なされます。
そこで、これまでの賃金を所定労働時間分と時間外労働分に分け、残業代を支払ってい
ることを明確に従業員に示すことでトラブル防止対策にもなります。
所定労働時間分の賃金
(基本給、役職手当等)
管理職の賃金
時間外労働分の賃金
(定額の時間外手当)
また、管理監督者として位置付けている以上、実際の時間外労働の時間が、定額払いと
して支払済みの時間数を超えても、精算の必要はありません。ただし、管理監督者性が否
定された場合は、実際の時間外労働の時間に応じた精算が必要となります。
ただし、所定労働時間分の賃金は下がることになりますので、労働条件の不利益変更の
問題となりかねないので、従業員への説明を慎重に行わなければなりません。
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2│管理監督者性が否定された場合の対応法
管理監督者性が否定された場合、単純にそれを非管理職に位置付け直して残業代を支払
うことだけ行っても、問題の解決にはまったくなりません。人件費の負担だけ増えるだけ
です。抜本的な賃金制度の見直しによって、コスト増の問題を解決しなければいけません。
①賞与査定の厳格化
従業員に支払う月例賃金が高くなっているのにも関わらず、当該従業員の出した成果
はそれまでと変わらず生産性が上がっていないということなら、業績配分が基本的性格
であるはずの賞与に反映させることによってコスト増を抑制します。賞与査定の中で、
成果が依然と変わらないということを重要項目として厳格に査定し、賞与額に反映すべ
きです。
②職務給の額を毎年改定する
従業員に支払った月例賃金の年額と当該従業員の年間の成果や生産性が見合わないと
きには、翌年の職務給を改定することを検討すべきです。賃金制度の中に、一定限成果
主義の要素を取り入れ、「月例賃金 = 基本給 + 職務給」などの構成とし、職務給は一
定の幅を持たせ、その幅の中で、年間の成果を評価して増減させるのです。
③降格
従業員に支払った月例賃金の年額と当該従業員の成果や生産性が見合わず、かつ改善
が見込めないと判断したときは、降格することも検討すべきです。ほとんどの企業で降
格ということは行っていないのが現状とは思いますが、成果や生産性が今までと変わら
ず、時間外手当分だけ給与が増えるということを考えれば、当該従業員の能力に見合っ
た職位に戻すことを検討すべきです。
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法令を遵守し会社を守るための「名ばかり管理職」リスクの回避策
管理職の過重労働に対する根本的対応策
1│現在の管理職をめぐる根本的な問題
(1)管理職に課される過重労働
現在の管理職をめぐる最大の問題は、管理職に対する割増賃金の支給如何よりも、管理
職とされた労働者が限度を超えた過重労働により健康を害されるリスクにさらされている
こと、そしてそのような過酷な労働環境により使用者と管理職との信頼関係が揺らいでい
ることです。
割増賃金支払いの問題として、労働時間短縮が意識されるようになったため、企業にお
いては一般社員に対して残業を命じることを差し控えるようになりました。しかしながら、
企業として収益を上げ、存続するためには一定の成果を上げる必要があり、そのためには
必要な業務はこなさなければならないことには変わりはありません。このような状況で、
部下の時間外労働を控えざるを得なく、自らもプレーヤーとして業務量が増加し、また管
理職としても従来求められていた役割・業務以上のものが求められるようになり、それが
さらなる業務量の増加につながっているというのが現状です。
現在管理職となっている 30 歳代後半∼40 歳代の世代層は、まさに企業において中心と
なって活躍することが期待されています。勤務先が一企業として成果を出し、生き残って
いくためには、管理職に対して一定レベルの業務・役割を要求せざるを得ません。
一方で、このような管理職の業務量の増加により、過重労働を余議なくされ、健康を害
するケースが多くの企業に見受けられます。脳疾患労災事例の年代別の割合を見ると、管
理職の多くを占める 40 歳代・50 歳代における事例が最多となっており、この世代におけ
る身体的負担が多くなっていると考えられます。
これからの管理職の労務管理を考えるにあたって、過重労働への対策について、会社が
サポートしていくことが、管理職層との信頼関係の確保には重要です。
(2)過重労働対策の失敗例
これまで、多くの企業で様々な過重労働対策が講じられてきました。それにも関わらず、
なぜ状況は改善しないのでしょう。それは、今までの過重労働対策は、ただ単に、制度面
の改善のみに終始していたからです。
例えば、過重労働の削減のためにせっかく「フレックスタイム制」を導入しても、その
後うまくいかずに廃止してしまう企業が少なくありません。その理由として、次のような
2つのケースが挙げられます。
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1つは、制度を利用して遅く出社すると、周囲から好ましく見られないために、結局従
来と変わらず定時出社になってしまったというケース。もう1つは、次第に社員の出社時
間が遅くなり、それが常態化してしまい、顧客からの早朝の電話に出る者が一部の出勤者
に偏ってしまい、クレームにつながってしまったケース。
■フレックスタイム制での失敗するケース
①全員元の定時出社になってしまう
②出社時間が遅くなるのが常態化してしまう
また、
「ノー残業デー」や「一斉消灯」を取り入れている企業も多くなっていますが、水
曜日にノー残業デーを導入しても、仕事の仕組みを変えない限り、その分木曜日の残業が
増えるだけです。20 時に一斉にスペースの明かりを消灯しても、導入当初はショック療法
としての効果はあるでしょうが、しばらく経つとまた明かりをつけて仕事を続けるケース
がほとんどです。
(3)過重労働の削減に必要な考え方
いくら制度を導入しても、その制度がいかに良いものであったとしても、社員の意思や
上司のマネジメントの方法が変わっていなければ、残念ながら期待したほどの効果には結
びつきません。要は労働時間に関係する法令や制度面の対策だけではなく、管理職のマネ
ジメントのあり方やビジネスプロセス、そして組織体質の改善にまで踏み込み、単位時間
生産性を高めながら進めていくこと、これなしには過重労働の削減は一向に進みません。
単に労働時間を短くしようとすれば成果が下がり、企業の業績も低下してしまうだけです。
個々人の多様性を重んじるマネジメントの時代にあっては、労働時間を画一的に短くす
るというかつての時短は有効ではありません。業務プロセスの効率化と社員のモチベーシ
ョンを高め、単位時間生産性を高めていく取組みが必要です。
■過重労働の削減のためには
①管理職のマネジメントのあり方の改善
②組織体質の改善
③単位時間の生産性を高める対策
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2│管理職の過重労働を削減する方法
(1)経営トップが本気になる
管理職の過重労働を削減するために、一番重要なことは「経営トップが本気で過重労働
への対策に取り組むこと」です。経営トップ自らが朝礼、社内報、メール等により明確な
意思を示し、役員自ら現場を回って直接説明したり、外部から講師を招いてセミナーを開
催したりするなど、多様な手段を用いて社内に経営者の意思を浸透させることが重要です。
加えて、
「長時間労働が成果の証」と考える管理職の考え方が、従業員の長時間残業を生
んでいるケースについては、
「長時間労働は必ずしも成果と一致しない」という管理職の意
識改革を図ることが欠かせません。
「管理職の本分は部下のマネジメントであり、部下がい
かに短時間で多くの成果をあげるようにするのかということが管理職の評価になる」とい
うことを徹底しなければなりません。
併せて、健康障害、メンタルヘルス不全を予防することの重要性や、労働基準法などの
コンプライアンスを重視することの大切さ、さらには、ワーク・ライフ・バランスの重要
性についても管理職に理解してもらうことが重要です。
(2)管理職の本来の役割を認識させる
管理職の本来の役割とは、仕事のプライオリティをつけることです。ここでいうプライ
オリティには2つあります。
1つは「仕事の優先順位」に関するプライオリティです。日々、並行的に仕事を進めて
いく中で、投入されるエネルギーと締切時間を瞬時に判断して、仕事の優先順位を毎日変
えていくわけですが、その際、管理職はグループ内を統括してみて、どの仕事を優先的に
行うかを判断しなければなりません。
2つ目は、
「業務分担」に関するプライオリティです。仕事が詰まってきたときに重要な
のは、この仕事を部下の中の誰に振るかを決定することです。若干余裕のある部下に任せ
たり、大変な仕事だから能力のある者に任せて、その社員が今もっている仕事を代わりに
この社員に任せるといった判断をすることで、与えられた戦力の中で業務分担を決定する
ことも管理職の重要な役割です。こうしたマネジメントができるのが真の管理職であるこ
とを認識させるとともに、こうした管理職のマネジメント能力を高める活動を強化するこ
とが必要です。
併せて、残業前提の仕事の指示、長時間労働の背景にある必要以上の資料の作成をなく
すなどの、業務の計画的かつ効率的な遂行を実現するために、管理職の業務管理能力の向
上や会議の持ち方自体の改革に取り組むことが重要です。
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法令を遵守し会社を守るための「名ばかり管理職」リスクの回避策
(3)ファーストリテイリングの成功例
管理職の過重労働対策で成功しているのが、全国にユニクロを展開するファーストリテ
イリングです。同社では、
「活躍している女性は皆、長時間勤務も休日勤務も転勤もいとわ
ず、それこそ男性のように働ける独身者ばかり」という声が現場の女性店長から上がり、
女性が働きやすい環境を整備する必要性が高まっていました。こうした中、柳井正会長兼
CEO(当時)は 2004 年3月に『女性店長プロジェクト』を発案しました。
数店舗から構成されるエリアの店長をすべて女性に任せる「モデルエリア」を作り、女
性の活躍を阻害する問題点や課題を探り、ここで得られる解決策や成果を、今後の企業戦
略に活かそうという試みです。
■女性店長プロジェクト
●6人の店長がタイムスケジュールを洗い出す。
●仕事を「店長でなければできない仕事」と「店長でなくてもできる仕事」に分ける。
●1つの仕事にかかる時間を互いに比較する。
●「店長でなくてもできる仕事」をスタッフに移譲する。
●互いのスケジュールを見比べ、意見を述べたりなどの仕事の効率化を図る。
6人の店長全員が
勤務時間8時間、土日公休
残業なしを達成!
この成功事例の鍵は2つ。1つはトップの強い意志、女性店長だけのエリアをつくるな
どの女性が活躍する環境を必ずつくるという強い思いがあったこと。もう1つは、外から
の押し付けではなく、社員が自らの力で考え、対策を取りまとめたことです。
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法令を遵守し会社を守るための「名ばかり管理職」リスクの回避策
3│今後の課題
多くの企業が、過重労働を何とかしなければならないと考えていますが、どこから手を
つけていいのかわからない状況に置かれています。そこで制度だけを変更してしまうと、
かえって弊害が多くなることもあります。まず過重労働の原因を究明し、それから必要な
施策を打つというステップが重要です。
仮に、今後ホワイトカラー・エグゼンプションが採用され、多くの従業員が労働時間の
適用除外になったとしても、現実に労働時間が長くなれば、従業員は疲弊し、企業の生産
性向上は期待できません。企業の業績を高めるためには、やはり単位時間の生産性を高め、
従業員が生き生きと働くことのできる労働環境を築くことが大切ではないでしょうか。
<参考文献>
「就業規則の作り方・見直し方」
東京管理職ユニオン 監修
ポプラ社
「監督官がやってくる!小さな会社の労基署調査対策」福田秀樹 著
2005 年
日労研
2008 年
「サービス残業・労使トラブルを解消する就業規則の見直し方」
北見昌朗 著
東洋経済新報社
2008 年
「ビジネスガイド
2008 年6月号」 鈴木潔 編
日本法令
「ビジネスガイド
2008 年8月号」 鈴木潔 編
日本法令
「日経ビジネス
2008 年7月7日号」 日経BP社
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【著 者】日本ビズアップ株式会社
【発 行】森田 務 公認会計士事務所
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