窒化ガリウム系電界効果型トランジスタの 光応答とその応用に関する研究

窒化ガリウム系電界効果型トランジスタの
光応答とその応用に関する研究
2008 年 3 月
岡田
政也
内容要旨
窒化ガリウム(GaN)は高周波高出力デバイス用半導体材料として期待されている。優れて
いる理由は破壊電界が大きくシリコンに比べて微細化が可能であり、半絶縁性基板上に作
製できることなどが挙げられる。一般的に、GaN は有機金属気相成長法(MOCVD: Metal
Organic Chemical Vapor Deposition)により作製される。通常、残留ドナーにより n 型とな
るため、成長条件の工夫や不純物のドープにより深い準位を形成することで、残留ドナー
を補償し半絶縁性 GaN 層を得る。一方、深い準位の応答に起因する不安定現象が問題とな
っている。GaN は最大で 1.7 eV の深い準位が存在する可能性がある。そのため、深い準位
の電荷放出時定数は数マイクロ秒から天文学的数字の時定数を持つ深い準位が想定される。
本 研 究 で は 深 い 準 位 に よ る 不 安 定 現 象 の 解 析 の た め 、 AlGaN/GaN HFET
(Heterostructure Field Effect Transistor)の 2 次元デバイスシミュレーションやしきい値
電圧の光照射および温度特性などの分析、GaN を用いた新デバイスの提案を目的とした。
本研究により得られた主な知見を以下にまとめる。
GaNバッファ層に深い準位が存在するとき、深い準位の電荷放出時定数が長いためDC特
性とRF特性が異なることをデバイスシミュレーションにより示した。高周波回路設計には
パルスI-V特性によるパラメータ抽出が有効である。また、光照射による深い準位の応答に
よってAlGaN/GaN HFET用エピタキシャル基板の電気特性が変化することを観測した。
深い準位の電荷放出時定数は温度上昇により短縮する。暗状態熱処理による光の影響を無
視できる安定的な基板評価法を提案した。AlGaN/GaN HFETしきい値電圧の光照射およ
び温度依存性のメカニズムを解析した。しきい値電圧の変動はGaNバッファ層の深い準位
の応答による基板ポテンシャルの変動により起きる。光照射によるキャリアの変化量を深
い準位の速度反応式であるSRH(Shockley-Read-Hall)統計を元に、光照射による励起を入
れて解析を行った。基板ポテンシャルの変動量は光照射による伝導帯電子濃度の変化量に
比例し、暗状態での残留電子濃度に反比例する。即ち、高抵抗GaNバッファ層上のHFET
はしきい値電圧の光応答が顕著になる。温度変化による基板ポテンシャルの変動量および
向きは深い準位の電子占有率により決まり、正方向にも負方向にもなる。また、光応答を
応用してGaNを用いた新しいデバイスのGaN/AlGaN/GaNゲート構造のフォトトランジス
タを提案した。光励起されたホールをゲート下部に蓄積することでドレイン電流が変調さ
れ、紫外光を検出する。この構造はゲインセルと呼ばれ、デバイス自身が増幅機能を有す
るために小面積でも大電流を得ることができる。
GaN は新しいデバイス材料として有望であるが、深い準位による不安定現象の解決には、
結晶改善やデバイス構造の最適化が必要であり、深い準位を導入する箇所および濃度など
の最適化が重要である。本研究で得られた知見が開発の一端を担えるものと思われる。
i
「窒化ガリウム系電界効果型トランジスタの光応答とその応用に関する研究」
-目次-----1
第一章 序論
1.1 研究背景
1.1.1 エレクトロニクスの現状と課題
-----1
-----1
1.1.2 窒化ガリウムの物性特性および電子デバイスの開発状況 -----2
1.2 本研究の目的と意義
-----6
1.3 本論文の構成
-----7
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
-----13
2.1 パルス I-V 特性とは
-----13
2.2 深い準位モデル
-----15
2.3 デバイスシミュレーション
-----19
2.3.1 デバイス構造
-----19
2.3.2 ドレインラグのシミュレーション
-----21
2.3.3 パルス I-V 特性のシミュレーション
-----24
2.4 まとめ
-----27
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
3.1 基板の電気特性評価
-----31
3.1.1 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板評価の問題点 -----31
3.1.2 渦電流抵抗測定法
-----32
3.2 暗状態での AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板の 2DEG
シート抵抗の変動
-----33
3.2.1 サンプル構造
-----33
3.2.2 測定結果
-----34
3.3 2DEG シート抵抗変動のメカニズム
-----36
3.3.1 光照射による深い準位の応答
-----36
3.3.2 暗状態熱処理による熱平衡状態での測定
-----41
3.4 まとめ
-----43
ii
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
-----47
4.1 はじめに
-----47
4.2 素子分離領域層抵抗の光照射依存性
-----48
4.3 HFET 電流電圧特性の光照射依存性
-----50
4.3.1 ウエハ構造と測定条件
-----50
4.3.2 測定結果
-----52
4.3.3 ドレイン電流の照射光スペクトル依存性
-----54
4.4 光照射によるしきい値電圧変動のメカニズム
-----56
4.4.1 バックゲート効果によるドレイン電流の変動
-----56
4.4.2 光照射による GaN バッファ層キャリア濃度の変動
-----60
(ⅰ) 深い準位からの光励起によるキャリア濃度の変動 ---60
(ⅱ) バンド間遷移によるキャリア濃度の変動
4.4.3 基板ポテンシャルの変動
4.5 しきい値電圧の温度依存性
-----62
-----63
-----65
4.5.1 測定結果
-----65
4.5.2 温度上昇によるしきい値電圧変動のメカニズム
-----67
(ⅰ) 暗状態での基板ポテンシャルの温度依存性
-----67
(ⅱ) 光照射時の基板ポテンシャルの温度依存性
-----70
(ⅲ) チャネル部ポテンシャルの温度依存性
-----71
4.6 まとめ
-----72
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
-----77
5.1 紫外線受光素子の用途と現状
-----77
5.2 GaN/AlGaN/GaN ゲート構造 UV フォトトランジスタ
-----78
5.2.1 動作原理
-----78
5.2.2 デバイス構造とプロセス工程
-----80
5.2.3 I-V 特性と分光感度特性
-----81
5.3 紫外線検出回路
5.3.1 回路構成と出力特性
5.4 まとめ
-----85
-----85
-----87
iii
第六章 結論
-----91
6.1 本論文のまとめ
-----91
6.2 今後の課題と展望
-----93
謝辞
研究業績
第一章 序論
-1-
第一章 序論
本章では、窒化ガリウムの物性特性の優位性による窒化ガリウム系電子デバイスの特徴
および開発状況について述べ、本研究の目的と意義ならびに本論文の構成を示す。
1.1 研究背景
1.1.1 エレクトロニクスの現状と課題
現在のエレクトロニクスの最も重要な半導体材料はシリコンである。シリコンを用いた
マイクロプロセッサやメモリの高性能化により、パソコンや携帯電話などに代表される高
度情報処理技術が飛躍的に成長している。シリコンは結晶成長技術やデバイス作製プロセ
ス技術、複雑なデバイス構造に対する加工技術が成熟期に達している。シリコン集積回路
の要素デバイスとして最も重要である電界効果型トランジスタ(MOS FET: Metal Oxide
Semiconductor Field Effect Transistor)を例に挙げて述べる。信号処理速度はMOS FETの
遮断周波数により決まる。遮断周波数とは電流利得が 1 となる動作周波数のことであり、
次式で表される1)。
fT ∝
µ (VG − VTH )
L2G
(1.1)
ここで、µは電子移動度、VGはゲート電圧、VTHはしきい値電圧、LGはゲート長である。こ
の式より、高周波動作のためには電子移動度が速い材料を用いるか、ゲート長を短くすれ
ばよい。そのため、スケーリング則2)を指針とし、デバイス構造は微細加工化技術の開発が
進められており、現在では 60 nmプロセスが確立されている。しかし、ゲート長が短くな
れば、材料により決まる破壊電界の関係から、集積回路の電源電圧を下げる必要がある。
理論的にはボルツマン分布関数の関係から、室温での動作電圧の最低値は約 250 mVであり、
理論限界に近づきつつある。
1980 年にTakashi Mimuraらによりガリウム砒素(GaAs)を用いた高電子移動度電界効果
型トランジスタ(HEMT: High Electron Mobility Transistor)が開発された3)。それ以降、
GaAsに限らず、さまざまな化合物半導体を用いた高周波高出力電子デバイスの開発が急速
に発展を遂げた。これらのデバイスを用いることで、衛星放送の送受信や携帯電話、デジ
タル放送網など、高周波高出力な信号処理を行うアプリケーションが普及している。また、
地球温暖化が進む近年においては、温暖化ガスである二酸化炭素の削減が求められている。
各種家電および照明器具など、すべての電気製品において低消費電力や高効率といった性
-2-
第一章 序論
能が要求されている。さらに、低排気ガスであるハイブリッド自動車や電気自動車など、
自動車部品に代表されるパワーエレクトロニクス分野においても高効率な電力変換素子が
求められている。ワイドバンドギャップ半導体を用いることにより、シリコンでは実現不
可能であった高周波・高出力なデバイスが作製可能であると考えられており、研究開発が
進められている。
1.1.2
窒化ガリウムの物性特性および電子デバイスの開発状況
数あるワイドバンドギャップ半導体のなかでも、窒化ガリウム(GaN)に注目が集まってい
る。GaNはバンドギャップが 3.39 eVとワイドバンドギャップ半導体である(表 1.1)。かつ
ては困難であったp型層の結晶成長が可能となった4,5)。それにより、高効率な青色および白
色、紫外光の発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)が開発された6,7)。LEDは長寿命、
高効率であることから、各種信号照明や自動車用照明、屋外照明などの多くがLEDに置き
換えられつつある。さらに、青紫色レーザダイオードが作製可能8)となったことで、Blu-ray
DiscやHD DVDなどの次世代DVDが実用化されている。
GaN の 電 子 デ バ イ ス は 1993 年 に M. Asif Khan ら に よ り MES FET (Metal
Semiconductor Field Effect Transistor) が 作 ら れ た 9) 。 そ の 後 、 AlGaN/GaN HFET
(Heterostructure Field Effect Transistor)が作られた10)。電子デバイスにおいては、ワイド
バンドギャップであることから高耐圧性が期待されている。破壊電界の材料による比較と
して、インパクトイオン化係数が指標として用いられる。
インパクトイオン化係数とはキャリア 1 個が単位距離を走行中に発生させるキャリア数
である。Si、GaAs、GaNの電界に対するインパクトイオン化係数を図 1.1 に示す。インパ
クトイオン化係数が 104 個/cmのときを破壊電界と定義すると、GaNは 3.3×106 V/cmとな
り、SiやGaAsに比べて約 1 桁も破壊電界が大きい(表 1.1)11)。破壊電界が大きいということ
は、同じ電界を印加する場合に他の材料に比べてゲート長が短くすることが可能である。
式(1.1)に示すように、遮断周波数はゲート長に反比例することから、微細なゲートを作製
すればGaNはSiやGaAsよりも高周波動作が可能である。実測においても、ゲート長 30 nm
でfT=181 GHzのAlGaN/GaN HFETが報告されている12)。
-3-
第一章 序論
表 1.1 主な半導体材料の物性値
単位
誘電率
Si
GaAs
SiC
GaN
11.9
13.1
10
8.9
バンドギャップエネルギー
eV
1.12
1.42
2.86
3.39
電子移動度
cm2/Vs
1400
8500
400
2000
破壊電界
V/cm
2.9×105
3.8×105
3×106
3.3×106
熱伝導度
W/cmK
1.5
0.46
4.9
1.5
Ionization Coefficient (cm-1)
108
105
102
Si
GaAs
GaN
10-1
10-4
104
105
106
107
Electric Field (V/cm)
図 1.1 シリコン、ガリウム砒素、窒化ガリウムのインパクトイオン化係数
-4-
第一章 序論
無線情報通信技術の向上に伴い、周波数資源の枯渇が危惧されている。特に、60~65 GHz
帯は免許不要な帯域として開放されており、ミリ波デバイスの実用化が急がれている。ミ
リ波のアプリケーションが実現できない主な要因に部品が高価格であることが挙げられる。
信号処理を行うのはSi LSIであり、送信部のアンテナに信号伝送を行う結合部分での機械精
度が求められる。GaNはサファイア基板上にエピタキシャル成長を行うことができる。サ
ファイア基板は誘電損失が小さいほか、大口径化も可能であるため増幅部のGaN HFETと
送信部のアンテナを実装するのに適している。すべての工程がリソグラフィーによるIC作
製技術で可能であるため、低価格化も可能であると考えられる。これらの技術を向上すれ
ばモノリシックマイクロ波集積回路 (Monolithic Microwave Integrated Circuits: MMIC)
が作製できる(図 1.2)13)。
サファイア基板
GaNFET 回路
・パワーアンプ
・スイッチ
・ミキサー
シリコンチップ
パッチアンテナ
図 1.2 マイクロ波集積回路のイメージ
窒化ガリウムを用いた電子デバイスは電気自動車などの電力変換素子としても期待され
ている。そのため、高出力、高耐圧であるほか高温動作といった特性が求められている。
近年では、結晶性の向上にともない耐圧が向上しているほか、電極材料の工夫も試みられ
ており、225 ºCのSiデバイスでは動作不可能な高温環境下において高耐圧、高速スイッチ
ング特性なAlGaN/GaN HFETが報告されている14)。従来の技術ではGaNはイオン注入が難
しいなど、Siデバイスのような構造上の工夫は困難であった。しかし、近年ではイオン注入
や熱拡散といったSiデバイスで築かれた技術の応用が検討されているほか、再成長といった
新たな手法が検討されている。これらの技術開発が進み、GaNデバイスにおいてもさまざ
まなデバイス構造が検討されている。
第一章 序論
-5-
Siのパワーデバイスでは、高耐圧化のためには不純物濃度を低濃度にして空乏層を広くと
り、さらにドリフト層を長くする必要がある。そのために損失やチップサイズが大きくな
る。GaNでは破壊電界がSiよりも約 1 桁大きいため、高効率な高出力デバイスが作製可能
である。フィールドプレートと呼ばれるチャネル部の電界集中を緩和する構造の最適化に
より、600V/4.7Aの高出力かつ低オン抵抗なAlGaN/GaN HFETが開発されている15)。また、
GaN自立基板を用いればドリフト層を縦方向にとることが可能であるため、高電流密度、
低損失な構造のHFETが報告されている16,17)。また、インバータ回路はトランジスタとダイ
オードで構成されるため、高耐圧なダイオードも求められている。低転位GaN基板を用い
たショットキーバリアダイオードで耐圧 580 V 、オン抵抗 1.3 mΩcm2、pn接合型ダイオー
ドでは耐圧 925 V、オン抵抗 6.3 mΩcm2のデバイスが実現されている18,19)。このように、
窒化ガリウムは次世代エレクトロニクス用デバイスの材料として期待されており、さまざ
まなデバイスが研究開発されている。
しかし、GaN系電子デバイスの性能が十分発揮されているわけではない。パワーエレク
トロニクスにおいては、制御回路の観点からノーマリーオフデバイスが必要となる。
AlGaN/GaN HFETはAlGaN層の自発分極やピエゾ電荷によりゲートバイアスを印加しな
くてもチャネル層が形成されるノーマリーオン動作である。そこで、リセスエッチングに
よりAlGaN層の薄層化や、ゲート下部にp-GaN層を導入するなどして、しきい値電圧を正
方向に制御するデバイスが提案されている。また、絶縁膜とGaN界面の特性向上により
MOS FETも開発されており、パワーデバイスとして期待されている20)。GaNの理論的な破
壊耐圧までデバイス特性が及ばない要因の一つに、デバイス構造や結晶性の問題が挙げら
れる。オフ状態での耐圧を向上するためにはGaNバッファ層の低抵抗化が重要である。一
般的にGaNの成長に用いられる有機金属気相成長法(MOCVD: Metal Organic Chemical
Vapor Deposition)により成長したアンドープGaNは、残留電子によりn型となる。そこで、
成長条件の工夫や、意図的に不純物をドープして深いアクセプタ準位を形成し、残留ドナ
ーを補償することで半絶縁性GaNバッファ層を得る21)。しかし、深い準位は電荷放出の時
定数が非常に長く、その応答は電流コラプスやヒステリシスといった不安定現象の要因と
なる。電流コラプスとはトランジスタに高電圧を印加したときに、印加前に比べて電流が
減少する現象である。これにより高出力が得られない。その抑制にはリセスゲート構造や、
SiNパッシベーション膜22)が有効とされているが、表面準位や絶縁膜との界面準位、結晶中
の深い準位の因果関係が明確にはなっておらず、それらの解析が求められている。
-6-
第一章 序論
1.2 本論文の目的と意義
これまでに述べた背景において、本研究ではワイドバンドギャップ半導体において問題
となっている深い準位による不安定現象の解析および GaN を用いた新デバイスの提案を目
的とする。デバイスシミュレータを用いて AlGaN/GaN HFET の深い準位に起因する不安
定現象についてのシミュレーション(第二章)や、AlGaN/GaN エピ基板の 2 次元電子ガス層
(2DEG: Tow-Dimensional Electron Gas)の光照射による深い準位の応答に伴う変動を評価
した(第三章)。また、深い準位による AlGaN/GaN HFET しきい値電圧の光照射および温度
依存性の解析を行った。光照射や温度変化に伴うしきい値電圧の変動が GaN バッファ層中
の深い準位の応答により起きることを SRH(Shockley-Read-Hall)統計を用いて解析を行っ
た(第四章)。また、紫外光に感度を有する GaN を用いて紫外線フォトトランジスタの開発
を行った(第五章)。
次に、本論文の意義について述べる。現在、GaN 系電子デバイスの開発が進められてお
り、一部においては実用化されている。しかし、GaN の優れた物性特性を活かしきれてい
るわけではなく、さまざまな問題があり改善が求められている。一般的に電流コラプス現
象やヒステリシス現象は、半導体中の深い準位や、半導体/絶縁物界面もしく半導体表面の
界面準位により起きると考えられている。GaN 系電子デバイスの特性向上には深い準位の
解析が必須となっている。また、高周波動作において寄生容量低減のため半絶縁性 GaN バ
ッファ層が重要となる。MOCVD による成長では成長条件の制御や不純物のドープにより
深いアクセプタ準位を形成し、残留電子を補償することで半絶縁性 GaN バッファ層を得る。
一方で、バッファ層中の深い準位が不安定現象の要因となるため、デバイス特性とのトレ
ードオフを取る必要があり、深い準位の応答とデバイス特性との相関関係の解析が重要と
なる。そこで本研究ではデバイスシミュレーションや実測において深い準位に起因するさ
まざまな現象の解析を行った。
さらに、GaNの性質を活かせばこれまでにない特性のデバイスが実現できると考えられ
ている。受光素子においてはGaNのバンドギャップが 3.39 eVであり、365 nm以下の紫外
光に感度を有することから、紫外光受光素子の開発が進められている。主に、ショットキ
ー型23,24)やpn接合型などのダイオード構造のデバイスが開発されている。しかし、ダイオ
ード型ではリーク電流を低減するために電極構造および結晶性の最適化が課題となってい
る。さらに、外部回路を駆動させるための電流を得るために大面積を必要とする。そこで、
本研究ではゲインセル効果によりデバイス自身が増幅効果を持つ紫外線フォトトランジス
タを提案する。
第一章 序論
-7-
1.3 本論文の構成
図 1.3 に本論文の構成を示す。本論文は第一章の序論から第六章の結論までの全六章で構
成されている。研究の本論としては第二章において GaAs と同様に GaN においても深い準
位に起因する不安定現象が起きるかを検証するために、デバイスシミュレーションを用い
て、GaN バッファ層に深い準位を有する AlGaN/GaN HFET においてドレインラグ現象や
パルス I-V 特性の変動が起きることを確認した。第三章では、AlGaN/GaN HFET 用エピタ
キシャル基板の 2DEG の光照射による変動を観測し、その変動が深い準位に起因すること
を解析した。第四章では、AlGaN/GaN HFET しきい値電圧が光照射および温度変化によ
り変動することを観測した。その変動が GaN バッファ層の深い準位の応答による基板ポテ
ンシャルの変動により起きることを解析し、SRH 統計を用いて GaN バッファ層の抵抗と
の相関について述べる。第五章では GaN を用いた新デバイスである GaN/AlGaN/GaN ゲ
ート構造の紫外線フォトトランジスタの開発について述べる。最後に、第六章では本論文
の総括を行い、GaN 系電子デバイスの今後の展望について述べる。
-8-
第一章 序論
第一章 序論
本研究の背景と目的
第二章 深い準位による I-V 特性の
過渡応答のシミュレーション
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル
基板 2DEG シート抵抗の光応答
第四章 深い準位によるしきい値電圧の
光照射および温度依存性
第五章 GaN 用いた紫外線フォトトランジスタ
第六章 結論
本研究のまとめと今後の課題
図 1.3 本論文の構成
第一章 序論
-9-
参考文献
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- 10 -
第一章 序論
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第一章 序論
- 11 -
Characteristics of Undoped AlGaN/GaN HEMT’s,” IEEE Trans. Electron Devices 21
(2000) 268.
23)Hao Jiang, Akihiro Okui, Hiroyasu Ishikawa, Chun Lin Shao, Takashi Egawa and
Takashi Jimbo, “GaN Metal-Semiconductor-Metal UV Photodetector with Recessed
Electrodes,” Jpn. J. Appl. Phys. 41 (2002) L34.
24)Atsushi Motogaito, Motto Yamaguchi, Kazumasa Hiramatsu, Masahiro Kotoh,
Youichiro Ohuchi, Kazuyuki Tadatomo, Yutaka Hamamura and Kazutoshi Fukui,
“Characterization of GaN-Based Schottky Barrier Ultraviolet (UV) Detectors in the
UV and Vacuum Ultraviolet (VUV) Region Using Synchrotron Radiation,” Jpn. J.
Appl. Phys. 40 (2001) L368.
- 12 -
第一章 序論
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
- 13 -
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
本章では、GaN バッファ層に深い準位を定義した AlGaN/GaN HFET のデバイスシミュ
レーションを行った。深い準位の応答に伴うドレインラグ現象やパルス I-V 特性への影響に
ついての解析結果を述べる。
2.1 パルス I-V 特性とは
ワイドバンドギャップ半導体において、結晶欠陥に起因する半導体中の深い準位や、界
面準位からのキャリアの生成再結合など、時定数が非常に長い応答が存在する。そのため、
GaAs MESFET (Metal Semiconductor Field Effect Transistor) や GaAs HJFET
(Heterojunction Field Effect Transistor)など化合物半導体のFET系では、ドレイン電極に
パルス状に変化する電圧を印加したとき、深い準位の応答によりドレイン電流が遅れて応
答する。このような現象をドレインラグと呼ぶ1)。
深い準位(トラップ)とはバンドギャップ内に形成される室温での熱励起によりイオン化
されない準位であり、その帯電量はSRH (Shockley-Read-Hall)統計により表現される。一
般的に、深い準位の電荷の放出および捕獲の時定数は長く、それによりDC特性と高周波特
性が異なり(図 2.1)、Gm、GDSの周波数分散やパルスパターン効果などが報告されている。
また、基板内の深い準位の応答によりバックゲート効果が生じる2)。ワイドバンドギャップ
半導体を用いた電子デバイスにおいては、深い準位の解析が重要となる。これらの現象に
より、高周波デバイスの回路設計において問題が生じる3-6)。
一般的に、実測データからの回路パラメータ抽出にはトランジスタ特性を測定し、DC特
性と動作点でのSパラメータから行う。しかし、DC特性ではトラップの影響で高周波動作
時とは異なるGm、GDSを示すほか、Sパラメータ特性では大振幅動作時の歪や飽和に対応で
きない。そこで、高周波デバイスの特性評価および回路設計においてパルスI-V特性が注目
されている。パルスI-V特性とは、始バイアス点から各終バイアス点にパルス電圧を印加し
て、その変化後の初期電流でI-V特性をプロットするものである(図 2.2)。パルスI-V特性の
特徴は、基準バイアス点での電流はDC特性と一致し、バイアス点近傍でのGm、GDSは小信
号測定と一致する(図 2.3)。高周波、大振幅動作を表現可能であることから、パルスI-V特性
のシミュレーションが大振幅高周波回路の回路パラメータ抽出に利用可能である。高出力
高周波デバイスとして期待されているAlGaN/GaN HFETにおいてもパルスI-V特性による
評価が必要となる。本研究では、GaNバッファ層に深い準位を入れた構造のAlGaN/GaN
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
- 14 -
HFETのドレインラグとパルスI-V特性について、デバイスシミュレータを用いてシミュレ
ーションを行った。
Drain Current (mA)
800
600
400
200
0
0
2.0
6.0
4.0
8.0
Drain Voltage (V)
図 2.1 GaAsMESFET での DC 特性と高周波特性
実線:DC 特性
DC
IIDD DC
破線:高周波特性
Pulse
Pulse
Bias Point
バイアスポイント
図 2.2 パルス I-V 特性のバイアス変化の例
VD
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
IID
- 15 -
パルス
特性
Pulse
P
ulseI-VI-V
D
Bias Point
バイアスポイント
高周波特性
高周波特性
DC 特性
DC
特性
V
VD
D
図 2.3 パルス I-V 特性と DC 特性および高周波特性との比較
2.2 深い準位モデル
バンドギャップ内の深い準位(トラップ)を介した生成再結合はSRH統計のモデルで表す
ことができる7,8)。深い準位の電子占有率は f T = nT / N T と表すことができる。深い準位へ
のキャリアの捕獲、および深い準位からのキャリアの放出(図 2.4)は電子占有率の速度方程
式として次式で表すことができる。
df T
= nC n (1 − f T ) − en f T − pC p f T + e p (1 − f T )
dt
(2.1)
ここで、第一項は深い準位の電子捕獲を示し、nは伝導帯の電子濃度、Cnは深い準位の電子
捕獲係数である。第二項は深い準位からの電子放出を示し、enは電子放出係数である。第三
項は深い準位のホール捕獲を示し、pは価電子帯のホール濃度、Cpは深い準位のホール捕獲
係数である。第四項は深い準位からのホール放出を示し、epはホール放出係数である。
- 16 -
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
(ii) e-emit
EC
(iii) h-capture
EF
(i) e-capture
EV
(iv) h-emit
図 2.4 深い準位を介したキャリアの生成再結合過程の模式図
深い準位の電子捕獲速度は電子密度と深い準位の空いている状態密度の積に比例する。
ホールの場合も同様である。電子占有率が 1 のとき深い準位は電子で埋まっており、言い
換えるとそこにホールは存在しない。そのため、電子捕獲のときは電子の空き数である(1-fT)、
ホール捕獲のときはfTに比例し、その係数をそれぞれCn、Cpとしている。深い準位のキャ
リア放出は伝導帯および価電子帯のキャリア濃度には依存しないため、深い準位の電子占
有率のみに比例し、その係数をen、epとしている。電子およびホールの捕獲係数それぞれ次
式で表すことができる。
C n = σ nν thn
, C p = σ pν thp
(2.2)
ここで、σn、σpはそれぞれ電子およびホールの捕獲断面積である。νthn、νthpはそれぞれ電
子およびホールの熱速度であり、(3kT/mn,p)1/2 ≈ 107 cm/sである。
熱平衡状態では伝導帯と価電子帯それぞれの電子濃度およびホール濃度の時間変化はゼ
ロであり、次式で表される。
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
dn
= − N T nC n (1 − f T ) + N T en f T = 0
dt
dp
= − N T pC p f T + N T e p (1 − f T ) = 0
dt
- 17 -
(2.3)
式(2.3)より、
en = nC n
1 − fT
fT
fT
e p = pC p
1 − fT
(2.4)
となる。トラップの電子占有率はフェルミ-ディラック分布により示されるので、
fT =
1
⎛ E − E FT ⎞
1 + exp⎜ T
⎟
kT
⎠
⎝
(2.5)
となる。ここで、ETは深い準位、EFTは深い準位の電子フェルミ準位である。また、電子濃
度およびホール濃度はボルツマン分布により示されるので、
⎛ E − E Fn ⎞
n = N C exp⎜ − C
⎟
kT
⎠
⎝
⎛ E Fp − EV ⎞
⎟⎟
p = N p exp⎜⎜ −
kT
⎝
⎠
(2.6)
となる。ここで、NC、NVはそれぞれ伝導帯と価電子帯の有効状態密度である。EFn、EFpは
それぞれ電子とホールの擬フェルミ準位である。kはボルツマン定数、Tは温度を示す。
熱平衡状態では電子、ホール、深い準位のフェルミ準位はすべて等しいため、式(2.4)に式
(2.5)と(2.6)を代入すると深い準位のキャリア放出時定数と捕獲係数の関係は次式で表すこ
とができる。
en = C n n1
, e p = C p p1
(2.7)
n1、p1はフェルミ準位が深い準位と等しいときの伝導帯の電子濃度と価電子帯のホール濃度
であり、
⎛ E − ET ⎞
n1 = N C exp⎜ − C
⎟
kT ⎠
⎝
⎛ E − EV ⎞
p1 = N V exp⎜ − T
⎟
kT ⎠
⎝
と表される。
(2.8)
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
- 18 -
深い準位は電荷量の変化による分類と、応答するバンドの種類(伝導帯もしくは価電子帯)
による分類の 2 つがある。電荷量の変化による分類とは、深い準位の電荷量をQTとすると
QT = q N T (1 − f T )
(2.9a)
で示すように、QTが深い準位に電子が存在するときゼロ、電子が存在しないときは正電荷
となるものをドナー型と呼ぶ。同様に、
QT = − q N T f T
(2.9b)
で示すように、QTが深い準位に電子が存在する(ホールが存在しない)とき負電荷、電子が存
在しない(ホールが存在する)ときはゼロとなるものをアクセプタ型と呼ぶ。
一方、応答するバンドの種類による分類とは伝導帯のキャリアとの生成再結合が優先的
な深い準位を電子トラップ、価電子帯のキャリアとの生成再結合が優先的な深い準位をホ
ールトラップと呼ぶ。定常状態では深い準位の電子占有率の時間変化はゼロであるため式
(2.1)、(2.7)より、
fT =
nC n + p1C p
C n (n + n1 ) + C p ( p + p1 )
(2.10)
と表される。電子トラップの場合はCn»Cpもしくはn1»p1であるため式(2.10)は、
fT ≈
n
n + n1
(2.11a)
となり、深い準位の電子占有率は電子濃度により決まる。同様に、ホールトラップの場合
はCp»Cnもしくはp1»n1であるため式(2.10)は、
fT ≈
p1
p + p1
(2.11b)
となり、深い準位の電子占有率はホール濃度により決まる。
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
- 19 -
2.3 デバイスシミュレーション
2.3.1 デバイス構造
デバイスシミュレーションには 2 次元デバイスシミュレータの ISE 社 DESSIS を用いた。
基本方程式は次に示す Poisson 方程式と電子およびホールの電流連続の式である。
∇2Ψ = −
q
ε
(p − n + N
SD
+
−
− N SA + N DD
− N DA
∂n 1 → →
= ∇⋅ J n + G − R
∂t q
1→ →
∂p
= − ∇⋅ J p + G − R
∂t
q
)
(2.12)
Ψは静電ポテンシャルで、qとεはそれぞれ素電荷量と誘電率である。pとnはそれぞれホール
濃度と電子濃度である。NSDとNSAはそれぞれ浅い準位のドナーとアクセプタ濃度である。
浅い準位であるために室温においてすべてイオン化している。NDD+、NDA-はそれぞれ深い
準位のドナーとアクセプタ濃度であり、帯電量は電子占有率に従う。
デバイス構造はAlGaN層のAl組成比が 0.3、ドナー濃度が 2×1018 cm-3である。ピエゾ電
荷としてAlGaN表面とAlGaN/GaN界面にそれぞれ 1×1013 cm-2の正および負の固定電荷
を定義した。ゲート電極は幅および長さはともに 1 µm、バリア高 1 eVとした(図 2.5)。GaN
バッファ層全域にはエネルギー準位が伝導帯から 0.5 eV、電子およびホールの捕獲断面積
がそれぞれ 1×10-13 cm2のドナー型トラップを 1×1017 cm-3導入した(表 2.1)。この深い準位
は電子トラップとなる。トラップの電子放出時定数は式(2.7)より、
τ=
1
1
1
=
=
en n1C n n1σ nν thn
(2.13)
となる。伝導帯の有効状態密度を 2.65×1018 cm-3、電子の有効質量を 0.19me、電子の捕獲
係数σnはおよそ原子半径程度であるため 1×10-13 cm2とすると、このときの電子放出時定数
は 31 µsとなる。
- 20 -
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
Gas 2.5 µm
source
1 µm
1 µm
1 µm
drain
gate
AlGaN layer
AlGaN 25 nm
Mole fraction:0.3
Piezoelectric Charge 1×1013 cm-2
ND:2×1018 cm-3
Bulk Trap
GaN 2 µm
Sapphire 3 µm
図 2.5 シミュレーションを行ったデバイス構造
表 2.1 GaN バッファ層に定義したトラップのパラメータ
エネルギー準位
0.5
eV (from C.B.)
トラップ濃度(ドナー型)
1×1017
cm-3
固定電荷(アクセプタ)
-5×1016
cm-3
電子の捕獲断面積
1×10-13
cm2
ホールの捕獲断面積
1×10-13
cm2
伝導帯の有効状態密度
2.65×1018
cm-3
電子の有効質量
0.19
電子放出時定数
31
µs
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
- 21 -
2.3.2 ドレインラグのシミュレーション
次にドレイン電極にパルス電圧を印加したときのドレイン電流の時間変化のシミュレー
ション結果について述べる。印加バイアスは始バイアスがVG=-3.5 V、VD=16 Vのオフ状態
で終バイアスがVG=0 V、VD=5 Vのオン状態、バイアスの変化時間が 100 psである。GaN
バッファ層に深い準位を導入していない場合では、印加バイアスの変化時間よりもデバイ
スの遮断周波数のほうが早いため、バイアス変化直後にドレイン電流は定常状態に達して
いる。一方、GaNバッファ層に深い準位を導入しているモデルでは、バイアス変化後にド
レイン電流はいったん増加し、トラップの時定数である 31 µs付近でさらに増加する過渡応
答が見られた(図 2.6)。
ドレイン電流の過渡応答の過程を解析するため、AlGaN/GaN界面から 100nm深さの、
各時間における電荷分布を図 2.7 に示す。バイアス変化前はドレイン電圧が 16 Vでありゲ
ート-ドレイン間において深い準位が負に帯電している。そして、バイアス変化直後の 1×
10-9 s後、および深い準位の電子放出時定数より前の 1×10-6 s後ではドレイン電圧が 5 Vに
なるが負電荷は同じ状態を保つ。そして、深い準位の電子放出時定数後の 1×10-3 sには深
い準位からの電子放出により負電荷量が減少している。基板内での電子のフェルミ準位は
ソース電極においてグランドに固定されている。したがって、基板内の電子濃度の変化は
基板ポテンシャル、つまり伝導帯のポテンシャル変動により起きる。ゲート下部のエネル
ギーバンド図の模式図を図 2.8 に示す。バイアス変化前では深い準位は負に帯電しており、
バイアス変化後も深い準位の電子放出時定数までは電子を捕獲したままである。深い準位
の電子放出時定数後は、深い準位から伝導帯に電子が放出される。深い準位の濃度に比べ
て伝導帯の電子濃度は小さい。深い準位の負電荷が減少することで基板ポテンシャルが減
少する。それによりドレイン電流が増加している。
同様の過程における基板ポテンシャルの時間変化を図 2.9 に示す。バイアス変化直後の
10-9 s、10-6 s後ではドレイン電圧が 5Vになりポテンシャルが上昇する。しかし、深い準位
は負に帯電したままでゲート端のポテンシャルが上に凸型になっている。さらに、深い準
位の電子放出時定数後の 1×10-3 s後には深い準位が電子を放出するためポテンシャルが減
少している。以上の結果より、ドレイン電流の過渡応答はGaNバッファ層中の深い準位の
帯電量の変化に伴う基板ポテンシャルの変動により起きていることが確認できた。
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
DRAIN CURRENT [mA/ µm]
- 22 -
1.5
wiwith
th Bulk
Trap
Bulk Trap
100 ps
ババイアス変化
イアス変化100ps
without
Trap
without Bulk
Bulk Trap
1
ττ=31µs
(1/en)=40µs
0.5
Initial : VG=–3.5V, VD=16V
0 –12
10
Final : VG=0V, VD=5V
–9
10
–6
–3
10
10
TIME [s]
図 2.6 ドレインラグのシミュレーション結果
18
1018
-1× 10
Space Charge[cm-3]
AlGaN
100nm
17
-1× 10
1017
16
-1× 10
1016
15
-1× 10
1015
t=0s
t=1× 10 -9 s
t=1× 10 -6 s
t=1× 10 -3 s
Initial:V G =-3.5,V D =16
Final: V G =0,V D =5
–1
0
X[µm]
図 2.7 基板内の電荷分布の時間変化
1
0
10
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
IONIZED
REGION
NEUTRAL
REGION
EC
ΨFE
EV
tAlGaN
xI
図 2.8 ゲート下部のエネルギーバンド模式図
Conduction Band[eV]
実線がバイアス変化直後、点線がトラップの電子放出時定数後
AlGaN
0
100nm
–4
–8
–12
–16
–2
t=0s
t=1×10-9s
t=1×10-6s
t=1×10-3s Initial:VG=-3.5,VD=16
Final: VG=0,VD=5
–1
0
X[µm]
1
図 2.9 基板ポテンシャルの時間変化
2
- 23 -
- 24 -
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
2.3.3 パルス I-V 特性のシミュレーション
次にパルスI-V特性のシミュレーション結果について述べる。始バイアスはVG=-3.5 V、
VD=16 Vとし、終バイアスをVG=0 V、-2 V、-4 VでVD=0 Vから 20 Vまでの各電圧とした。
そのときの各時間におけるドレイン電流とDC特性を図 2.10 に示す。ドレイン電圧が低い領
域において、バイアス変化直後のドレイン電流とDC特性が異なり、深い準位の電子放出時
定数後には各終バイアス点においてDC特性と一致した。
次に始バイアスをVG=0 V、VD=0 Vとし、終バイアスは前述と同様の各電圧にしたときの
パルスI-V特性とDC特性を図 2.11 に示す。各終バイアス点においてドレイン電流の時間変
化はほとんど見られず、DC特性とほぼ一致している。このように始バイアスによってパル
スI-V特性は異なる。
この結果を解析するため始バイアスがVG=0 V、VD=0 V、終バイアスがVG=0 V、VD=16 V
としたときの電荷分布(図 2.12(a))と基板ポテンシャル分布(図 2.12(b))を示す。電荷分布と
基板ポテンシャル分布はともに 1×10-9 s後から一定の分布であることが分かる。このバイ
アス条件ではどの終バイアス点でもドレイン電圧が増加する方向に変化する。したがって
ドレイン側ゲート端下部では常に深い準位が電子をさらに捕獲するように働く。そのため、
応答の速さは深い準位の電子捕獲の時定数によりきまる。深い準位の電子捕獲の時定数は
式 2.1 第 1 項より、伝導帯の電子濃度に比例する。2DEGに大量の電子が流入したため、チ
ャネル近傍のトラップは早い時定数で電子を捕獲し、基板ポテンシャルは一定となる。そ
のため、始バイアス点よりも終バイアス点でのドレイン電流が増加する場合は、ドレイン
電流の応答が見られず、パルスI-V 特性とDC特性がほぼ一致する。GaAsの場合では同様の
シミュレーションにおいてパルスI-V特性の応答が見られた。今回のシミュレーションでは
パルス変化時間がトランジスタの遮断周波数よりも早かったため応答が見られなかったの
であろう。以上のことからパルスI-V特性はGaNバッファ層中の深い準位の応答により決ま
り、初期バイアスにより異なることが確認できた。DCとRFではI-V特性が異なり、これが
コラプスの原因と推定される。
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
DRAIN CURRENT [mA / µm]
1.5
–9
t = 1 × 10 s
–6
t = 1 × 10 s
–3
t = 1 × 10 s
DC特性
1
0.5
0
0
Initial Point
VG : 0 to –4V , –2V step
10
DRAIN VOLTAGE [V]
20
図 2.10 始バイアスVG=-3.5 V、VD=16 VのときのパルスI-V特性
DRAIN CURRENT [mA / µm]
1.5
–9
1
t = 1 × 10 s
–6
t = 1 × 10 s
–3
t = 1 × 10 s
DC特性
0.5
VG : 0 to –4V , –2V step
0
0
Initial Point
10
DRAIN VOLTAGE [V]
20
図 2.11 始バイアスVG=0 V、VD=0 VのときのパルスI-V特性
- 25 -
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
- 26 -
18
-1×10
1018
Space Charge[cm-3]
AlGaN
100nm
1717
-1×10
10
t=0s
t=1×10-9s
t=1×10-6s
t=1×10-3s
1616
-1×10
10
Initial:VG=0,VD=0
Final: VG=0,VD=16
1515
-1×10
10
–1
0
X[µm]
1
図 2.12(a) 始バイアスVG=0 V、VD=0 V、終バイアスVG=0 V、VD=16 V時
の電荷分布
4
AlGaN
100nm
Conduction Band[eV]
0
–4
–8
Initial:VG=0,VD=0
Final: VG=0,VD=16
–12
–16
–2
t=0s
t=1×10-9s
t=1×10-6s
t=1×10-3s
0
X[µm]
2
図 2.12(b) 始バイアスVG=0 V、VD=0 V、終バイアスVG=0 V、VD=16 V時
の基板ポテンシャル分布の時間変化
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
- 27 -
2.4 まとめ
本章では GaN バッファ層に深い準位を定義した AlGaN/GaN HFET のドレインラグとパ
ルス I-V 特性のデバイスシミュレーションの結果を示し、以下の知見を得た。
(1) GaN バッファ層に伝導帯から 0.5 eV の深い準位が存在する場合、電子放出時定数が約
31 µs となる。パルス状にバイアスを変化させると、深い準位の応答により、基板ポテンシ
ャルが遅れて変動する。この基板ポテンシャルの変動に伴うバックゲート効果により、ド
レイン電流に時間的な遅れが生じる。
(2) 深い準位の電子およびホール放出時定数はエネルギー準位の深さ、つまり伝導帯および
価電子帯からの差分の指数関数で決まる。GaN の場合は最大で 1.7 eV の深い準位が存在す
る可能性がある。ワイドバンドギャップ半導体においては数マイクロ秒から天文学的数字
の時定数を持つ深い準位が想定される。
(3) GaNバッファ層に深い準位を入れたデバイス構造モデルのパルスI-V特性は、始バイア
スがVG=-3.5V、VD=16Vのときバイアス変動直後ではDC特性よりもドレイン電流が小さく、
深い準位の電子放出時定数後はDC特性と同じであった。始バイアスVG=0 V、VD=0 Vのと
きは深い準位が電子を捕獲するためパルスI-V特性はどの終バイアスでもDC特性とほぼ同
じであった。始バイアスによりパルスI-V特性が異なることを確認した。
AlGaN/GaN HFET は高耐圧、高出力デバイスとして期待されている。GaN は MOCVD
により成長すると残留ドナーにより n 型となる。そのため、深いアクセプタ準位を意図的
に導入することで補償を行い半絶縁性にしている。半絶縁性基板上に作製するため寄生容
量が小さく、伝送損失を低減することができるため、高周波デバイスでのメリットとなる。
また、ワイドバンドギャップ半導体であることから破壊電界が大きく、高出力特性が期待
できる。しかし、大振幅動作を行うと GaN バッファ層中の深い準位が電荷の捕獲を行い帯
電量が変動する。時定数が極端に短い、もしくは一度帯電すると半永久的に電荷量が変動
しないほど長い場合は問題とならないが、一般的にアプリケーション動作中におけるトラ
ップの挙動による不安定現象の解明が課題となっている。
パルス I-V 特性は熱や深い準位などの遅い応答が存在するデバイスに対して、高周波、大
振幅動作をほぼ正確に表現することができる。そのため、高周波デバイスの回路パラメー
- 28 -
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
タの抽出に有効であり、測定とデバイスシミュレーションの比較に適している。今回はGaN
バッファ層中の深い準位に関してシミュレーションを行ったが、深い準位が存在する可能
性がある場所はAlGaN中、AlGaN表面の界面準位などが考えられる。これらの深い準位に
関してもドレインラグに対する影響を確認する必要がある。界面準位の帯電による電流コ
ラプスやヒステリシス現象が問題となっている。実際のデバイスにおいてはSiNによる保護
膜によりこれらの現象が軽減できるといわれている9)。しかし、界面準位による不安定現象
が完全に解決されたわけではなく高周波特性に影響を与える。界面準位に関してもパルス
I-V特性のデバイスシミュレーションによりパラメータ抽出が可能である。デバイスシミュ
レーションによるパルスI-V特性と実測との比較を行うことで、AlGaN/GaN HFETの特性
向上に寄与できるものと考えられる。
参考文献
1)国弘和明、
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8)R. N. Hall, “ Recombination processes in semiconductors,” Proc. Inst. Elec. Eng. 106B
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第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
- 29 -
9)Green, B. M. Chu, K. K. Chumbers, E. M. Smart, J. A. Shealy, J. R. Eastman, L. F.,
“The effect of surface passivation on the microwave characteristics of undoped
AlGaN/GaN HFETs,” IEEE Trans. Electron Devices Lett. 21 (2000) 268.
- 30 -
第二章 深い準位による I-V 特性の過渡応答のシミュレーション
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
- 31 -
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板2DEG シート抵抗の光応答
本章では、渦電流を用いた非接触での電気抵抗測定法により、AlGaN/GaN HFET 用エ
ピタキシャル基板の 2 次元電子ガスの電気抵抗の光照射による変動について述べる。暗状
態での長時間の変化および光照射や温度などの測定環境が基板評価におよぼす影響につい
て解析を行った。
3.1 基板の電気特性評価
3.1.1 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板評価の問題点
AlGaN/GaN HFETは高出力高周波デバイスとして期待されている 1,2) 。その特徴は
AlGaN/GaNへテロ構造にある。ヘテロ構造とは、異なるバンドギャップを持つ 2 種類の半
導体を接合させた構造であり、界面においてバンドオフセットが生じる。AlGaN/GaNの場
合、AlGaNのAl組成比が 0.25 のときバンドギャップは 4.1 eV、GaNはバンドギャップが
3.39 eVであり伝導帯に約 0.5 eVのオフセットが生じる。AlGaN/GaNへテロ構造は エピタ
キシャル成長と呼ばれる基板の結晶配列を連続的に成長する薄膜成長法により作製される。
シリコンn-MOS構造ではキャリアである電子はp基板に発生し、アクセプタの正電荷がチ
ャネル層に存在するため不純物散乱が大きく電子移動度は小さい。一方、AlGaN/GaNへテ
ロ構造ではチャネル層はi-GaN層であるため不純物が少ない。さらにAlGaNの自発分極やピ
エゾ電荷によりAlGaN/GaN界面には 1×1013 cm-2程度の正電荷が存在し、ヘテロ界面には
下に凸のポテンシャル井戸が形成される。そのため伝導帯のポテンシャル井戸には 2 次元
電子ガス(2DEG: Two-Dimensional Electron Gas)と呼ばれる電子のチャネル層が形成され
る。不純物散乱が少なく、ヘテロ界面はエピタキシャル成長により形成されるため界面散
乱も小さい。そのため 2DEGは高電子移動度であり、かつ高密度であるためAlGaN/GaN
HFETは高周波高出力デバイスとして期待されている。
現在、AlGaN/GaNエピタキシャル基板は有機金属化学気相成長法(MOCVD: Metal
Organic Chemical Vapor Deposition)によりサファイアc面上に作製するのが一般的である。
サファイア基板とGaNの格子定数差は 15 %ときわめて大きく、熱膨張率も異なる。成長時
は 1000 ºC程度の高温にさらされている。成長後の温度変化により、サファイア基板とGaN
の熱膨張率の差による歪が生じる場合がある。これらの歪は結晶中にクラックなどを形成
する。これらの結晶の歪は結晶構造が不均一であるため深い準位を形成する要因となる。
ワイドバンドギャップ半導体の場合、深い準位の応答速度は天文学的な時間となることも
- 32 -
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
ある。また、時間変化に伴い応力が変化し、歪が変化する。そのため、光照射や温度変化
によって特性が異なるといった現象が問題になっている3)。
3.1.2 渦電流抵抗測定法
AlGaN/GaN HFET 用エピ基板の評価法はいくつかある。AlGaN 層の膜厚を評価するに
は水銀プローブによる C-V 法、表面粗さの測定には AFM などが用いられるが、いずれの
評価も非破壊検査である必要がある。2DEG チャネル層の電気的評価もいくつか方法があ
るが、非接触で行う方法の一つに渦電流抵抗測定法がある。渦電流抵抗測定ではサンプル
面に対して垂直方向に交流磁場を印加する。サンプルに導電性があると電磁誘導により渦
電流が発生する。発生した渦電流により磁場が変調されるため、装置入力側から見たイン
ピーダンスに変動が生じる。その変動量を換算してサンプルの電気抵抗を算出する。サン
プルには電極形成や前処理を必要としないので、基板の出荷前検査などにも用いられてい
る。測定にはナプソン社製の NC-10 を用いた。サンプルサイズが小さいと交流磁場がサン
プル面外にもれる為に測定誤差が大きくなる。そのために、測定器のセンサ部分のコイル
を小さくし、小面積(1 cm×1 cm)のサンプルでも測定可能にした。シート抵抗の測定範囲
は 50~2000 Ωで測定精度は 3 %以内である。今回は暗状態や光照射時でのチャネル抵抗の
変化を長時間測定するために、Visual Basic の測定プログラムによる PC 制御により自動測
定を行った。
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
- 33 -
3.2 暗状態での AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板2DEG シート抵抗の
変動
3.2.1 サンプル構造
2 種類の AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板の 2DEG シート抵抗を暗状態にて長
時間測定を行った。測定サンプルは MOCVD 法により c 面サファイア基板(430 µm)上に成
長した AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板である。サンプル 1 は AlGaN 層の膜厚
が 12 nm、Al 組成比は 0.25、GaN バッファ層が 2 µm で Mg をドープし深いアクセプタ準
位を形成することで残留電子を補償し高抵抗化している。サンプル 2 は AlGaN 層の膜厚が
24 nm、Al 組成比は 0.24、GaN バッファ層が 3 µm である(図 3.1)。2 つのサンプルはメー
カーが異なり、成長条件も大幅に違うものと思われるが、ともに AlGaN/GaN HFET を作
製するエピタキシャル基板として標準的な仕様である。
AlxGa1-xN 24 nm x=0.24
AlxGa1-xN 12 nm x=0.24
GaN 3µm
GaN 2µm
Mg high doping
Sapphire
Sapphire
サンプル 1
サンプル 2
図 3.1 サンプル構造
- 34 -
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
3.2.2 測定結果
光照射の光源は室内灯用の蛍光灯である。光源のスペクトル分布を図 3.2 に示す。光照射
時の 2DEG 層のシート抵抗はサンプル 1 が約 728 Ω、サンプル 2 は約 886 Ωであった。そ
れぞれのサンプルを暗状態にした後の 2DEG シート抵抗の時間変化を図 3.3 に示す。サン
プル 1 は暗状態直後からシート抵抗が上昇し、約 160 時間後には約 1504 Ωであった。サン
プル 2 は暗状態にして約 72 時間には約 940 Ωに上昇した。さらに暗状態を保持したままで
約 200 時間保管した後に測定を再開すると、シート抵抗は保管前よりもさらに上昇してお
り、はじめの暗状態開始時から約 300 時間後には約 960 Ωまで上昇した。
1.2
Intensity(a.u.)
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
300
400
500
600
700
Wavelength(nm)
図 3.2 照射光(室内用蛍光灯)のスペクトル分布
800
900
Sheet Resistance[Ω]
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
1600
- 35 -
(a)Sample1
1400
1200
1000
800
728[Ω]
600
0
20
40 60
80 100 120 140 160 180
Sheet Resistance[Ω]
Time[hour]
980
(b)Sample2
960
940
暗状態で保管
920
900
886[Ω]
880
0
50
100
150
200
250
300
Time[hour]
図 3.3 AlGaN/GaN HFET エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗
の暗状態での時間変化
350
- 36 -
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
3.3 2DEG シート抵抗変動のメカニズム
3.3.1 光照射による深い準位の応答
AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板2DEG シート抵抗の暗状態での時間変化は結
晶中にある深い準位の応答によるポテンシャルの変動により起きる。この変動に寄与する
深い準位が存在するのは AlGaN 層と GaN バッファ層の二ヶ所の可能性があり、それぞれ
について解析を行った。
図 3.4 に光照射によるポテンシャルの変動の模式図を示す。まずAlGaN層に深い準位が
存在する場合を考える。EC-ETもしくはEV-ET以上のエネルギーの光が照射されると電子正
孔対が励起される。ピエゾ電荷によりAlGaN層の価電子帯が傾いているために、電子は
2DEG層に移動するがホールは表面方向に移動して蓄積する。表面に蓄積したホール正電荷
により AlGaN層のポテンシャルは水平となり、それ以上ホールが蓄積しなくなる。
AlGaN/GaN界面において電荷中性が成り立つためには、ポテンシャル変化に伴い2DEG
密度が増加しなければならないので、結果的に光照射により2DEGシート抵抗は減少する。
次に GaN バッファ層に深い準位が存在する場合を考える。GaN バッファ層は MOCVD
法により結晶成長を行うと一般的に残留ドナーが存在し、n型となる。そのために、成長
条件の制御や不純物のドーピングにより深いアクセプタ準位を形成することで、浅いドナ
ー準位を補償し半絶縁化を行う。浅いドナー準位の電荷を深い準位の電荷で補償するが、
深い準位の電荷量はフェルミ-ディラック分布に従う。基板内で電荷中性を成り立たせるた
めに、フェルミ準位は深い準位近傍に存在する。これをフェルミピンニングと呼ぶ。
GaN バッファ層に光が照射されるとバンドギャップエネルギー以上の波長の光の場合、
バンド間遷移により電子正孔対が生成される。また、バンドギャップエネルギー以下の波
長の光の場合でも、深い準位から電子正孔対が励起される。イオン化層においては深い準
位は電子で満たされている。光照射により電子正孔対が生成されるが、伝導帯に励起され
た電子は 2DEG に移動する。ホールは基板奥に移動するが、サファイア基板上の半絶縁性
GaN バッファ層内においてホールが流出する箇所は存在せず、再結合により消滅する時間
も長いために励起されたホールは蓄積される。電荷中性を保つために基板奥では電子濃度
も増加するため、マクスウェル-ボルツマン分布則に従い電子のフェルミ準位と伝導帯の差
が小さくなる。結果、基板ポテンシャルが正バイアス方向に変動し、2DEG が増加しシー
ト抵抗が減少する。GaN バッファ層での光照射による電子およびホール濃度の変動に伴う
基板ポテンシャルの変動については第四章において詳細に解析を行っている。
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
Air
AlGaN
- 37 -
GaN
EC
EF
EV
図 3.4 光照射による AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板のポテンシャルの変動
実線が暗状態、点線が光照射時
光照射を停止し、暗状態にした後、熱平衡状態に戻るには深い準位および伝導帯、価電
子帯それぞれの電荷量とフェルミ準位の位置のすべてがバランス関係を保っている必要が
ある。深い準位から光照射により励起された電子は2DEG から排出され、深い準位は正帯
電した状態となっている。深い準位が熱平衡状態となるためには電子を捕獲するかホール
を放出する必要がある。しかし、半絶縁性基板であるため電子は空間的に同一位置に存在
しないので、熱平衡状態に達するためには深い準位からホールが放出されなければならな
い(図 3.5)。
- 38 -
Air
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
AlGaN
GaN
EC
EF
EV
図 3.5 光照射後に暗状態にしたときの AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル
基板のポテンシャル変動
実線が光照射直後、点線が暗状態
第二章でも述べたように、深い準位の生成再結合速度はSRH(Shockley Read Hall)統計に
より表すことができる4,5)。
df T
= nC n (1 − f T ) − en f T − pC p f T + e p (1 − f T )
dt
(3.1)
となる。ここで、fTは深い準位の電子占有率、nは伝導帯の電子濃度、pは価電子帯のホール
濃度、Cn、Cpはそれぞれ深い準位の電子およびホールの捕獲係数である。深い準位からの
ホール放出の時定数は
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
df T
= e p (1 − f T )
dt
t⎞
⎛
f T = A exp⎜ − e p ⎟
τ⎠
⎝
1
1
=
τ=
ep
p1C p
- 39 -
(3.2)
となる。ここで、p1は深い準位がフェルミ準位と一致しているときの価電子帯のホール濃度
である。epは深い準位のホール放出係数、p1はフェルミ準位が深い準位と等しいときの価電
子帯のホール濃度である。マクスウェル-ボルツマン分布により
⎛ E − EV ⎞
p1 = N V exp⎜ − T
⎟
kT ⎠
⎝
(3.3)
となる。Cpは深い準位のホール捕獲係数でありCp=σpνthpと表すことができる。σpは深い準
位のホール捕獲断面積、νthpはホールの熱運動速度でありνthp=(3kT/mp)1/2~107 cm/sと表さ
れる。GaNにおける深い準位の捕獲断面積はおよそ 1×10-14cm-2といわれている6)。したが
ってワイドバンドギャップ半導体ではp1が非常に小さい値となるため、深い準位からのホー
ル放出時定数はとても長くなる。深い準位の存在するデバイス構造上の場所によってはバ
イアス変化によりキャリアの充放電が行われる場合がある。そのために、同一条件でのデ
バイス特性評価が重要となる。
ここで式(3.2)を温度依存に関して解くと
τ=
1
p1C p
1
⎛ E − EV ⎞
N V exp⎜ − F
⎟σ pυ p
kT ⎠
⎝
1
=
3
⎛ 2πm p kT ⎞ 2
⎛ E − EV
⎟⎟ exp⎜ − F
2⎜⎜
2
kT
⎝
⎠
⎝ h
1
=
⎛ E − EV ⎞
KT 2 exp⎜ − F
⎟
kT ⎠
⎝
3
1
⎞ ⎛⎜ 3kT ⎞⎟ 2
⎟σ p ⎜
⎠ ⎝ m p ⎟⎠
⎛ 2πm p k ⎞ 2 ⎛ 3k
*
⎟⎟ σ p ⎜
K = 2⎜⎜
2
⎜m
h
⎠
⎝
⎝ p
1
⎞2
⎟
⎟
⎠
(3.4)
- 40 -
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
となる。ここで、Tは絶対温度、kはボルツマン定数、hはプランク定数である。mpはホー
ルの有効質量で 0.6×9.11×10-31 kg、σpは深い準位のホール捕獲断面積で 1×10-14 cm-2とし
た。価電子帯から 1.5 eVにある深い準位からのホール放出時定数は 300 Kの場合は約 9 時
間となる。一方、600 Kにするとその時定数は約 0.03 msとなる(図 3.6)。したがって、暗状
態で光による深い準位からのキャリアの励起が無い状態にして、温度を上昇することで光
照射後から熱平衡状態に達する時間を短縮することができる。
1015
1012
109
τ (s)
106
103
Year
Month
Day
Hour
2 eV
from V. B.
100
10
1.5 eV
-3
1 eV
10-6
10
-9
0.5 eV
0 100 200 300 400 500 600 700 800
Temperature (K)
図 3.6 深い準位からのホール放出時定数の温度依存性
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
- 41 -
3.3.2 暗状態熱処理による熱平衡状態での測定
光照射による深い準位の応答により、一度光が照射された AlGaN/GaN HFET 用エピタ
キシャル基板は熱平衡状態に戻るのに長時間を有する。深い準位の応答を早くするために、
サンプルを暗状態で 600 K にして、暗状態のまま 2DEG シート抵抗を渦電流抵抗測定器に
より測定し、長時間暗状態で保管したときの抵抗値と比較を行った。測定に用いたサンプ
ルは図 3.1 に示した 2 種類の AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板である。サンプル
温度を上昇するためには定温乾燥機を用いた。アルミホイルでシャーレ内のサンプルを覆
い、光を遮断した状態で 600 K に設定した炉内にサンプルを入れ、シャーレ内が 600 K に
達するまで 1 時間放置した。その直後から、暗状態で抵抗を測定した。サンプル 1 は光照
射時のシート抵抗は 728 Ωであったのに対し、暗状態熱処理を行った直後では 1757 Ωであ
った。サンプル 2 は光照射時のシート抵抗は 886 Ωであったのに対し、暗状態熱処理を行
った直後では 1040 Ωであった。室温にて暗状態で約一ヶ月保管した後のシート抵抗に比べ
て、両サンプルともに暗状態熱処理後のほうが高かった(図 3.7)。
前節で示したように、深い準位のホール放出時定数は温度により大きく異なる。室温(300
K)では数週間の時定数を持つ 1 eV 付近の深い準位も、600 K にすると、数ミリ秒後にはホ
ールを放出し熱平衡状態に達する。基板評価を行うには、測定環境を同じにするだけでな
く、熱平衡状態にする必要がある。暗状態熱処理を行うことにより、短時間で熱平衡状態
にすることが可能であることが確認できた。
- 42 -
Sheet Resistance[ Ω]
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
2000
熱処理
1600
暗状態保管後
1200
800
400
Sample1
0
0
20
40
60
80
100
120
50
60
Sheet Resistance[Ω]
[min]
T Time
ime[min]
Time[min]
1200
熱処理
1000
暗状態保管後
800
600
400
200
Sample2
0
0
10
20
30
40
Time [min]
Time[min]
図 3.7 暗状態 600 K 熱処理後と暗状態一ヶ月保管後のシート抵抗時間変動の比較
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
- 43 -
3.4 まとめ
本章では、AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板の 2DEG シート抵抗の光照射によ
る変動と深い準位の応答の因果関係を解析し、以下の知見を得た。
(1) AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板の 2DEG シート抵抗は光照射によって低抵抗
となる。これは基板内の深い準位から光照射により電子正孔対が光励起され、深い準位が
正帯電することによって基板ポテンシャルが変動することにより起きる。
(2) 光照射後、暗状態では非常に長い時定数でシート抵抗は高抵抗に変動した。深い準位は
暗状態にした直後においては非平衡状態にある。熱平衡状態に至るには電子を捕獲するか、
ホールを放出する必要がある。しかし、半絶縁性 GaN バッファ層においては伝導帯の電子
濃度が非常に小さく、深い準位は電子を捕獲できない。一方、ホール放出時定数も深い準
位が価電子帯に比べて深いと長くなる。300 K で数日間の時定数であったことから、今回の
サンプルは価電子帯から約 1 eV 付近に深い準位が存在していると推定できる。
(4) 深い準位からのホール放出時定数は温度に対して指数関数で相関がある。深い準位が価
電子帯から 1 eV の深さに存在するとき、光照射後に帯電しているホールを放出する時間は
300 K の場合は約 9 時間であるが、暗状態 600 K の熱処理を行うと約 0.01 ms で熱平衡状
態に達する。
現在、AlGaN/GaN HFET用エピタキシャル基板はc面サファイア基板上にMOCVD法に
よりエピタキシャル成長するのが一般的である。サファイア基板とGaNの格子定数や熱膨
張係数の違いからGaN層には転位と呼ばれる欠陥が多く(>10-9 cm-2)存在する。さらに、放
熱性やコストを考慮してSiC(シリコンカーガイド)基板 7) やSi基板上 8,9) のAlGaN/GaN
HFET用エピタキシャル基板が作製可能になっている。また、低転位GaN自立基板が実用
化されている。GaN基板を用いると格子整合の歪がなく、高品質高純度な結晶が得られる
ことが報告されている10)。AlGaN/GaN HFET用エピ基板はまだまだ開発段階であり、特性
向上が見込まれている。
また、AlGaN/GaN HFET 用エピ基板の特性評価において、測定環境によるばらつきが
問題となっている。光の影響、温度変化により測定値が大きく異なる。基板成長直後とデ
バイスプロセス後の評価を比較するためには、これらの条件を統一する必要がある。光に
- 44 -
第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
よる影響は深い準位の応答により非常に長い時定数を持つ変動である。その変動を定量的
に比較するのは困難である。そのため、本研究では暗状態熱処理による短時間での熱平衡
状態の実現を提案した。深い準位による不安定現象は GaN 系電子デバイスのみでなく、ワ
イドバンドギャップ半導体を用いたデバイスに共通する問題点である。基板の特性評価は
製品生産における重要な評価である。安定的に AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板
の電気特性評価を行うためには、深い準位の応答による影響を考慮する必要があり、暗状
態での熱処理により同じ条件での評価が可能となる。
今後の課題として、エピ基板中の深い準位が存在する箇所を同定することが挙げられる。
AlGaN 層と GaN バッファ層のどちらに深い準位が存在しても本章で述べた光によるシー
ト抵抗の変調が起きる。AlGaN 層と GaN バッファ層の深い準位を分離して評価する手法
を本研究の延長として開発する必要がある。
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第三章 AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の光応答
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
- 47 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
本章では、GaN バッファ層が高抵抗な AlGaN/GaN HFET のしきい値電圧が光照射およ
び温度変化による変動を示す。しきい値電圧の変動は GaN バッファ層中の深い準位の応答
による基板ポテンシャルの変動により起きる。さらに、SRH 統計の速度反応式による深い
準位のキャリアの応答の解析により、GaN バッファ層の特性と基板ポテンシャルの変動の
関係について述べる。
4.1 はじめに
AlGaN/GaN HFETは高周波高出力デバイスとして期待されている1-3)。高周波特性に優れ
ているメリットは、サファイア基板上の半絶縁性GaNバッファ層上に作製することが挙げ
られる。サファイア基板は誘電損失が小さいため、高周波伝送線路の基板として用いられ
る。また、半絶縁性GaNバッファ層上のHFETは寄生容量が小さい。そのため高周波動作
時の寄生インピーダンスを小さくすることができる。
現在、サファイア基板上のGaNバッファ層はMOCVD法により成長されている。しかし、
通常の成長条件では残留電子の影響によりn型となってしまう。そこで、成長条件の工夫や、
不純物をドープすることで深い準位のアクセプタを形成し、浅い準位のドナーを補償する
ことで半絶縁化を行っている4,5)。一方で、深い準位の応答によりヒステリシスや電流コラ
プスといった不安定現象が問題となっている6)。
本章では、光照射によるしきい値電圧の変動が GaN バッファ層中の深い準位の応答に起
因することを明らかにし、しきい値電圧の変動が基板ポテンシャルの変動によるバックゲ
ート効果により起きることを示す。深い準位の光照射による応答を SRH 統計により解析し
た。また、応答する波長スペクトルから深い準位の位置を推定した。また、光照射時のし
きい値電圧の温度依存性と基板ポテンシャルの変動の因果関係を明らかにする。
- 48 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
4.2 素子分離領域層抵抗の光照射依存性
AlGaN/GaN HFETの下地層であるGaNの素子分離層抵抗の光照射依存性を測定した。こ
の部分は半絶縁性GaNバッファ層の抵抗に対応する。測定ウエハは 2 種類である。それぞ
れc面サファイア基板上にMOCVD法により作製したAlGaN/GaNエピタキシャル基板であ
る。提供元が違うので成長条件などが異なり、2 つのウエハのGaNバッファ層の特性は異な
る。ウエハ 1 はGaNバッファ層の膜厚が 2 µm、AlGaN層はAl組成比が 0.25 で、上部u-AlGaN
層の膜厚が 10 nm、下部u-AlGaN層の膜厚が 3 nm、u-AlGaN層の中間にSiを 2×1018 cm-3
ドープしたn-AlGaN層があり、膜厚は 15 nmである。ウエハ 2 はAlGaN層のAl組成比が 0.25
で、上部u-AlGaN層の膜厚が 6 nm、下部u-AlGaN層の膜厚が 6 nm、u-AlGaN層の中間に
Siを 4×1018 cm-3ドープしたn-AlGaN層があり、膜厚は 12 nmである(図 4.1)。オーミック
電極はTi/Al/Ni/Auを 50/200/40/35 nmそれぞれスパッタ法により堆積しリフトオフ法によ
り形成した後、窒素雰囲気中にて 800 ºC、10 分間の熱処理を行った。次に、2DEGの除去
のために、RIE(Reactive Ion Etching)により 60 nmの深さでAlGaN層とGaNバッファ層の
エッチングを行い、GaNバッファ層の抵抗を測定した。
測定パターンはオーミック電極の幅 100 µm で電極間距離は 5 µm である(図 4.2)。照射
光の光源は顕微鏡用白熱電球である。スペクトル分布を図 4.3 に示す。GaN のハンドギャ
ップエネルギーである 3.39 eV に対応する波長の光は含まれていない。そのため、光照射に
よるバンド間遷移は生じない。キャリアの光励起はバンドギャップ内の準位からのみであ
る。
GaN バッファ層抵抗の光照射依存性を図 4.4 に示す。サンプル 1 の GaN バッファ層抵抗
は白熱電球照射時が約 200MΩ、暗状態では約 500MΩであり、光照射により約 1 桁低抵抗
になっている。一方、サンプル 2 は光照射の有無に関わらず約 20kΩとサンプル 1 に比べて
低抵抗であった。
- 49 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
u-AlxGa1-xN x=0.25 t=10 nm
u-AlxGa1-xN x=0.25 t=6 nm
Si-Doped(n=2×1018 cm-3)
AlxGa1-xN x=0.25 t=15 nm
Si-Doped(n=4×1018 cm-3)
AlxGa1-xN x=0.25 t=12 nm
u-AlxGa1-xN x=0.25 t=3 nm
u-AlxGa1-xN x=0.25 t=6 nm
u-GaN 2 µm
u-GaN
Sapphire
Sapphire
ウエハ 1
ウエハ 2
図 4.1 試料構造
白熱電球のスペクトル
5 µm
1.0
100 µm
AlGaN
60 nm
AlGaN
GaN
Intensity[a.u.]
0.8
0.6
0.4
GaN
GaN
0.2
3.4eV
3.39 eV
0.0
図 4.2 測定パターン
2
3
Energy[eV]
図 4.3 白熱電球のスペクトル分布
4
- 50 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
-3
10
-4
10
-5
10
ウエハ 2 2
Sample
Light
Dark
-6
Current (A)
10
-7
10
-8
10
-9
10
-10
ウエハ 1
Sample
Light
Dark
10
-11
10
-12
10
-6
-4
-2
0
2
4
6
Voltage (V)
図 4.4 GaN バッファ層抵抗の光照射依存性
4.3 HFET 電流電圧特性の光照射依存性
4.3.1 ウエハ構造と測定条件
ウエハ 1、2 を用いて作製したAlGaN/GaN HFETのID-VD特性とID-VG特性の光照射依存
性を示す。HFET作製のプロセス工程は基本的には前節の素子分離領域の測定サンプルと同
様である。ウエハクリーニング後に、オーミック電極をスパッタ法によりTi/Al/Ni/Auを
50/200/40/35 nm堆積し、リフトオフ法により形成した。オーミック化のために熱処理を窒
素雰囲気中にて 800 ºC、10 分間行った。そして、RIE(Reactive Ion Etching)により 60 nm
の深さで素子間分離を行った。ゲート電極はNi/Auを 70/30 nmスパッタ法により堆積した
(図 4.5)。HFETパターンはゲート長が 2 µm、ゲート幅が 50 µm、ゲート-ソース間距離お
よびゲート-ドレイン間距離はそれぞれ 3 µmである(図 4.6)。照射光は顕微鏡用白熱電球と
赤色、青色LEDの 3 種類を用いた。それぞれのスペクトル分布を図 4.7 に示す。どの光源
の光もGaNのバンドギャップエネルギーに対応する 366 nm以上の波長の光しか出ていな
い。そのため、バンド間遷移が起きることはなく、光励起が起きるのはバンドギャップ内
の準位からのみである。
- 51 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
サンプルクリーニング
Gate
オーミック電極堆積
(Ti/Al/Ti/Au = 50/200/40/35 nm)
素子間分離
Source
(RIE 60 nm)
50 µm
熱処理(N2,850 ºC, 10min)
Drain
ゲート電極堆積
(Ni/Au = 70/30 nm)
3 µm 2 µm 3 µm
図 4.5 プロセスフロー
1.2
1.0
Intensity
0.8
図 4.6 HFET パターン
Incandescent lamp
Blue LED
Red LED
659nm (1.88eV)
465nm (2.67eV)
0.6
0.4
0.2
0.0
GaN EG=3.39eV
200
400
600
800
Wavelength (nm)
図 4.7 照射光のスペクトル分布
1000
- 52 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
4.3.2 測定結果
GaNバッファ層が高抵抗なウエハ 1 とGaNバッファ層が低抵抗なウエハ 2 のID-VD特性を
図 4.8 に示す。暗状態とはサンプルをプローバ上にセットした後、プローバ全体に暗幕をか
けて暗状態にして 1 時間後の測定結果である。
ウエハ 1 は白熱電球の光を照射したときと、
青色LEDの光を照射したときはほぼ等しい特性であった。また、暗状態および赤色LEDの
光を照射したときは、白熱電球の光照射時および青色LEDの光照射時に比べIDMAXが低くか
った。ドレイン電流の変動はしきい値電圧の変動によるものである。一方、サンプル 2 で
は白熱電球のおよび赤色、青色LEDの光照射時と暗状態でほぼ等しい特性となった。
30
25
Drain Current(mA)
VG=1 to -6 in -6V
(サンプル
a)
ウエハ 11
白熱電球
赤色
青色
暗状態
20
15
10
5
0
0
2
4
6
8
Drain Voltage(V)
30
VG=1 to -6 in -6V
サンプル
(b)
ウエハ 22
Drain Current(mA)
25
白熱電球
暗状態
20
15
10
5
0
0
2
4
6
Drain Voltage(V)
図 4.8 VD-ID特性の光依存性
8
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
- 53 -
図 4.9 にID-VG特性の光照射依存性を示す。ドレイン電圧は 0.1 Vである。GaNバッファ
層が高抵抗なウエハ 1 は暗状態と赤色LEDの光照射時にしきい値電圧の変動は見られなか
った。白熱電球の光照射時と青色LEDの光照射時は、暗状態と赤色LEDの光照射時に比べ
てしきい値電圧が約-1 V変動している。IDMAXの増加はしきい値電圧が負バイアスに変動し
たことによるものである。一方、GaNバッファ層が低抵抗なサンプル 2 は白熱電球の光照
射時と暗状態でしきい値電圧の変動に差は見られなかった。
-3
10
-4
Drain Current (A)
10
-5
ウエハ
Sample
2 2
(Low resistivity)
Incandescent lamp
Dark
10
-6
10
ウエハ
Sample
1 1
-7
10
-8
10
-9
10
(High resitivity)
VD=0.1V
LG=2µm
WG=50µm
-8
Incandescent lamp
Red LED
Blue LED
Dark
-6
-4
-2
Gate Voltage (V)
0
2
図 4.9 光照射時と暗状態でのID-VG特性
白熱電球の光照射後の暗状態にした後のドレイン電流の時間変動を図 4.10 に示す。ドレ
イン電圧は 0.1 V、ゲート電圧は-3 V で一定とした。白熱電球の光を照射した状態でサンプ
リングを開始し、5 分後に照明を消して暗状態とした。さらに 60 分後に再び白熱電球の照
明を照らした。しきい値電圧に光応答が見られたウエハ 1 は暗状態にした後、ドレイン電
流が減少した。その時定数は約 20 分であった。再び白熱電球の光を照射すると、すぐにド
レイン電流は増加し、測定開始時とほぼ等しい値となった。暗状態でのドレイン電流の変
化は時定数が非常に長いことから深い準位の応答によるものであると推測できる。ウエハ 2
は光照射の有無によらず、ドレイン電流は一定であった。
- 54 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
7x10-4
Drain Current[A]
6x10-4
ウエハ 2
sample2
5x10-4
4x10-4
ウエハ 1
sample1
3x10-4
2x10-4
1x10-4
0
VD=0.1V
VG=-3V
L=2µm
W=50µm
10 20 30 40 50 60 70
TIME[min]
図 4.10 暗状態でのドレイン電流の時間変動
4.3.3 ドレイン電流の照射光スペクトル依存性
青色 LED、白熱電球の光照射時にはドレイン電流が増加したが、赤色 LED の光照射時
は暗状態と同じであった。そこで、単色光を連続的に照射することにより反応する光の波
長を調べた。光源には 500 W のキセノンランプをモノクロメータ(HORIBA H-10UV)によ
り分光した光を用いた。グレーティング幅は 1200 grooves/mm、スリット幅は 1 mm であ
る。単色光の半値幅は約 10 nm である。キセノンランプからの連続光はモノクロメータの
グレーティングを熱から守るために、熱線吸収フィルタを通してモノクロメータに入射さ
れる。モノクロメータで分光した光は光ファイバを通して、暗幕内のプローバ上にセット
されたサンプルに照射される。半導体パラメータアナライザ(Agilent 4155C)とモノクロ
メータを VBA(Visual Basic for Applications)と GPIB コマンドにより PC から自動制御に
より測定を連続的に行った(図 4.11)。
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
- 55 -
Heat absorption filter
Spectroscope
Xenon lamp
Mirror
Optical fiber
Sample
Agilent 4155C Wafer prober in black box
図 4.11 ドレイン電流の照射光波長依存性の測定系
図 4.12 にキセノンランプの光強度波長依存性と、各ウエハのドレイン電流の照射光波長
依存性を示す。キセノンランプの光強度波長依存性はシリコンフォトダイオード
(HAMAMATSU S1336-5BQ)を用いて測定した。フォトダイオードの分光感度特性は補正
してある。測定バイアスは、ウエハ 1 はゲート電圧を-4.5 V、ウエハ 2 はゲート電圧を-5.4
V、両サンプルともにドレイン電圧は 0.1 V で一定とした。
両方のウエハとも、バンドギャップエネルギー3.39 eVに対応する 365 nm付近でドレイ
ン電流が増加している。これはバンド間遷移が起きて電子正孔対が光励起されたことによ
るためであると考えられる。ID-VG特性の光依存性において、しきい値電圧の光による変動
が見られなかったウエハ 2 は、どの波長においてもドレイン電圧はほぼ一定であった。一
方、しきい値電圧に光による変動が見られたウエハ 1 は、約 425 nm(2.92 eV)付近の光が照
射されるとドレイン電流が増加している。バンドギャップ以下のエネルギーであることか
ら、GaNバッファ層中の深い準位からの励起によりドレイン電流が増加している。
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
10-3
Drain Current (A)
10
GaN EG=3.39eV
1.2
Xenon Lamp
Spectrum
-4
Wafer2
1.0
10-5
0.8
10-6
0.6
Wafer1
-7
0.4
10-8
0.2
10
10-9
300
425nm=2.92eV
350
400
450
500
Wavelength (nm)
Intensity (arb. unit)
- 56 -
0.0
550
図 4.12 ドレイン電流の照射光波長依存性
4.4 光照射によるしきい値電圧変動のメカニズム
4.4.1 バックゲート効果によるドレイン電流の変動
図 4.9 に示したように、光照射によるドレイン電流の増加はしきい値電圧の変動により起
きている。しきい値電圧の変動は基板ポテンシャルの変動により起きる。これはシリコン
MOSFET のバックゲート効果と同様である。バックゲート効果とはシリコン MOSFET の
基板電極にバイアスを印加することで、チャネル部のポテンシャルが変動し、しきい値電
圧がシフトする現象である。光照射時においては、GaN バッファ層において電子正孔対が
光励起される。これにより、フェルミ準位を基準としたときの伝導帯および価電子帯のポ
テンシャル、言い換えると基板ポテンシャルが変動し、チャネル部のポテンシャルが変動
することでしきい値電圧がシフトする。
光照射によるキャリアの光励起には 3 つの過程が考えられる。深い準位から伝導帯への
電子の励起(図 4.13(a))、深い準位から価電子帯へのホールの励起(図 4.13(b))、価電子帯か
ら伝導帯へのバンド間遷移(図 4.13(c))の 3 つである。ドレイン電流の照射光波長依存性か
- 57 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
ら、光照射によるキャリアの光励起の準位は 2.92 eV から 3.39 eV の間の深い準位からによ
るものであると考えられる。
CONDUCTION
BAND
TRAP LEVEL
VALENCE
BAND
(a)
(b)
(c)
図 4.13 キャリアの光励起プロセス
(a) 深い準位から電子の励起
(b)深い準位からホールの励起
(c)バンド間遷移
図 4.14 に印加電圧と基板ポテンシャルの関係を説明するために、AlGaN/GaN HFETの
断面構造を示す。しきい値電圧はゲート電極ソース端部でのチャネル電荷がゼロになるゲ
ート電圧で定義される。ゲート電圧はソース電圧、即ちソース電極のフェルミ準位を基準
にして測定される。ここで、GaNバッファ層中の電位の変動、即ち静電ポテンシャルの変
動を説明上、伝導帯のエネルギーで定義し基板ポテンシャル(qVSUB)と呼ぶ。真空電位と伝
導帯エネルギー準位、深い準位、価電子帯エネルギー準位はGaN層中においてその差は一
定である。そのため、基板ポテンシャルの変動を議論する場合には、どの準位で考えても
同じである。ドレイン電圧が印加された場合においてもそのバイアスが小さければ、しき
い値電圧はゲート電極ソース端のチャネル電荷により決まる。
- 58 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
Y
SOURCE
GATE
DRAIN
AlGaN
GaN
X
Sapphire
図 4.14 しきい値電圧状態での AlGaN/GaN HFET の断面構造図
ゲート電極ソース端のエネルギーバンド模式図(図 4.14Y軸方向)を図 4.15 に示す。GaN
バッファ層の深部では電荷中性が成り立ち、さらに電流が流れていないために、伝導帯お
よび価電子帯、フェルミ準位はそれぞれ平坦である。また、ドレイン電圧が小さく、暗状
態では熱平衡であるために電子のフェルミ準位とホールのフェルミ準位は一致している。
GaNバッファ層は半絶縁性であり、浅いドナー準位を深いアクセプタ準位で補償している。
仮にその関係が反対であり、浅いアクセプタ準位を深いドナー準位で補償している場合に
おいても深い準位の帯電量によりその関係は置き換えられるために、今後の解析において
それは問題とならない。基板奥では半絶縁層が電荷中性となるためにフェルミ準位は深い
準位近傍にピンニングされている。そのために基板ポテンシャルはチャネル近傍よりも高
く位置している。チャネル近傍になると、深いアクセプタ準位がイオン化することで負電
荷が帯電するために、バンド図においてポテンシャルは上に凸型に湾曲する。この領域を
イオン化領域と呼ぶ。しきい値電圧の定義を 2DEG濃度を一定とすると、しきい値状態で
はAlGaN/GaN界面の基板ポテンシャル(図 4.15 P1)は一定である。ゲート電圧は 2DEGの電
位にAlGaN層中で発生する電位差が足しあわされた電位となるために、しきい値電圧の変
動はチャネル近傍での伝導帯の傾きの変動のみにより起きる。即ち、しきい値電圧の変動
はバッファ層の基板ポテンシャルの変動∆VSUBにより起きる。もし、イオン化層膜厚が一定
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
- 59 -
であるとすると、しきい値電圧の変動∆VTは次式で表すことができる7)。
∆VT = −
ε GaN t AlGaN
∆VSUB
ε AlGaN x I
(4.1)
ここで、εGaNおよびεAlGaNはそれぞれGaNおよびAlGaNの誘電率である。tAlGaNはAlGaN層
の膜厚、xIはイオン化層の膜厚である。そのためにしきい値電圧の変動はGaNバッファ層中
の電荷中性領域の電子のフェルミ準位を基準とした基板ポテンシャルの変動により起きる。
これはシリコンMOSFETでのバックゲート効果と同じである。
先に述べたように基板ポテンシャルの変動量は、電子のフェルミ準位を基準とした伝導
帯の変動により表される。伝導帯の変化量は電子濃度からマクスウェル-ボルツマン分布に
より決まる。即ち、光照射による GaN バッファ層の電子濃度の変化が基板ポテンシャルの
変動を引き起こす。シリコン MOSFET では基板電極を接地することでバックゲート電圧を
固定していた。そのために、基板電圧が変動することはない。しかし AlGaN/GaN HFET
はサファイア基板上半絶縁性 GaN バッファ層に作製する。半絶縁化のために導入した深い
準位が光照射により電荷を放出し、基板ポテンシャルが変動する。
∆VT
φM
EC
∆VSUB
VT
ΨFE
P1
EV
tAlGaN
xI
図 4.15 しきい値電圧印加時のゲート電極ソース端下部のエネルギーバンド模式図
- 60 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
4.4.2 光照射による GaN バッファ層キャリア濃度の変動
バンドギャップエネルギー以下の波長の光照射により半絶縁性 GaN バッファ層中の深い
準位から電子およびホールが光励起される。バンドギャップエネルギー以上の波長の光照
射ではバンド間遷移により電子正孔対が光励起される。これらの過程を SRH 統計を用いて
解析を行い、光照射による GaN バッファ層キャリア濃度の変化量を導出する。
(ⅰ)深い準位からの光励起によるキャリア濃度の変動
はじめに深い準位からキャリアが励起される場合を考える。ここでは、浅いドナー準位
を深いアクセプタ準位により補償した半絶縁性 GaN バッファ層を仮定する。しかし、SRH
統計においてはその関係が反対であっても結論に影響しない。電荷中性の法則から半絶縁
性 GaN バッファ層中の電荷濃度は、
Q = q( N D − N T f T + p − n ) = 0
(4.2)
となる。ここで、NDは浅いドナー準位濃度、NTは浅いアクセプタ準位濃度、fTは深い準位
の電子占有率、pおよびnはそれぞれ価電子帯のホール濃度および伝導帯の電子濃度である。
暗状態での電子濃度、ホール濃度、深い準位の電子占有率をそれぞれn0、p0、fT0とする。
光照射後の電子濃度、ホール濃度、深い準位の電子占有率は暗状態から微小変化するため
それぞれ、
n = n 0 + ∆n
p = p 0 + ∆p
(4.3)
f T = f T 0 + ∆f T
となる。式(4.3)を用いると式(4.2)は
N D − N T ( f T 0 + ∆f T ) + ( p 0 + ∆p ) − (n0 + ∆n ) = 0
N D − N T f T 0 + p 0 − n0 − N T ∆f T + ∆p − ∆n = 0
(4.4)
N T ∆f T − ∆p + ∆n = 0
伝導帯の電子濃度および価電子帯のホール濃度の時間変化は SRH 統計を用いると、
(
)
dn
= − nC n N T (1 − f T ) + e nt + e no N T f T
dt
(
)
dp
= − pC p N T f T + e tp + e op N T (1 − f T )
dt
(4.5a)
(4.5b)
と表すことができる。ここで、ent、eptは熱励起による深い準位からのキャリア放出係数、
eno、epoは光励起による深い準位からのキャリア放出係数である。今回のモデルでは、光励
起された電子はチャネルに流出する。しかし、光励起された電子の量が小さいときは、電
- 61 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
子の移動に伴うフェルミ準位の傾きは小さい。よって、電子のフェルミ準位は常に一定で
あるとする。光励起されたホールは外部に流出する部分がないために、GaNバッファ層内
に蓄積される。ホールは電子と再結合して消滅するが、半絶縁性基板では電子濃度とホー
ル濃度はともに小さいために、基板内での再結合速度は遅い。増加したホール濃度にした
がって基板内のホールのフェルミ準位はシフトする。この場合においても基板内でホール
のフェルミ準位は一定であり、シフトは同様である。
式(4.5a)より光照射時の伝導帯の電子濃度の時間変化は
(
)
dn
= −(n0 + ∆n )C n N T (1 − ( f T 0 + ∆f T )) + ent + eno N T ( f T 0 + ∆f T )
dt
≈ − n0 C n N T (1 − f T 0 ) + ent N T f T 0 − ∆nC n N T (1 − f T 0 ) + ∆f T n0 C n + ent + eno N T + eno N T f T 0
(
)
ここで、光励起による変化量は小さいために 1 次の項までとした。定常状態では電子濃度
の時間変化はゼロであるから、
(
)
− ∆nC n N T (1 − f T 0 ) + ∆f T n0 C n + ent + eno N T = −eno N T f T 0
(4.6a)
となる。同様に、式(4.5b)から光照射時の価電子帯のホール濃度の時間変化から、
(
)
− ∆pC p N T f T 0 − ∆f T p0 C p + e tp + e op N T = −e op N T (1 − f T 0 )
(4.6b)
となる。式(4.6a)(4.6b)と式(4.4)から∆fTを消去し、熱励起による深い準位からの電子および
ホール放出時定数をent=n1Cn、ept=p1Cpで置き換えると、
[
]
[
]
]= e
∆n C n N T (1 − f T 0 ) + (n0 + n1 )C n + eno − ∆p (n0 + n1 )C n + eno = eno N T f T 0
[
]
[
− ∆n ( p0 + p1 )C p + e op + ∆p C p N T f T 0 + ( p0 + p1 )C p + e op
o
p
(4.7a)
N T (1 − f T 0 ) (4.7b)
となる。ここで、n1およびp1はフェルミ準位が深い準位に等しいときの電子およびホール濃
度であり、マクスウェル-ボルツマン分布より次式で表される。
⎛ E − ETE ⎞
n1 = N C exp⎜ − C
⎟
kT
⎝
⎠
⎛ E − EV ⎞
p1 = N V exp⎜ − TH
⎟
kT
⎝
⎠
(4.8)
これらは極めて小さいのでCn(n0+n1)、Cp(p0+p1)およびeno、epoはCnNTにCpNT比べて非常に
小さくなり無視できる。そこで式(4.7a)、式(4.7b)は
[
]
∆n C n N T (1 − f T 0 ) + eno − ∆p = e no N T f T 0
(
)
− ∆n + ∆p C p N T f T 0 + e op = e op N T (1 − f T 0 )
(4.9a)
(4.9b)
となる。よって光励起による電子濃度とホール濃度の増加量は
- 62 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
∆n =
fT 0
eno
C n (1 − f T 0 )
1 − fT 0 o
∆p =
ep
C p fT 0
(4.10)
と表される。電子濃度の増加は電子の励起のみによって決まり、ホールの励起には関係し
ない。ここでは記していないが式(4.4)から深い準位の電子占有率はGaNバッファ層の電荷
中性を保つように変化する。また、電子濃度の増加量は深い準位の電子占有率と捕獲係数、
光強度によって決まり、熱平衡状態での電子濃度n0には依存しない。
(ⅱ)バンド間遷移によるキャリア濃度の変動
次にバンド間遷移によるキャリア濃度の変動について解く。伝導帯の電子濃度および価
電子帯のホール濃度の時間変化は式(4.5a)、(4.5b)と同様に SRH 統計によって、
dn
= − nC n N T (1 − f T ) + en N T f T + K BB
dt
dp
= − pC p N T f T + e p N T (1 − f T ) + K BB
dt
(4.11a)
(4.11b)
と表される。ここで、KBBは光照射により励起される電子正孔対濃度の比例係数であり、光
強度と吸収係数により決まる。バンド間遷移であるため深い準位の電子占有率や捕獲係数、
放出係数などには依存しない。深い準位からの励起と同様に、電荷中性の法則とSRHの式
を用いると電子濃度およびホール濃度の増加量は、
∆n =
1
K BB
C n N T (1 − f T 0 )
1
∆p =
K BB
C p NT fT 0
(4.12)
となる。電子濃度とホール濃度は同時に増加するが同じではない。電荷中性はそれらの電
荷および深い準位の電荷により保たれる。深い準位の濃度が大きい場合、深い準位を介し
た再結合が多くなるために電子濃度およびホール濃度は小さくなる。
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
- 63 -
4.4.3 基板ポテンシャルの変動
暗状態では電子、ホールおよび深い準位のフェルミ準位はすべて一致している。光照射
時は非平衡状態になるためそれらのフェルミ準位はそれぞれ独立して存在する。電子濃度
およびホール濃度、深い準位の電子占有率はマクスウェル-ボルツマン分布およびフェルミディラック分布より、
⎛ E − qΨFE ⎞
n = N C exp⎜ − C
⎟
kT
⎝
⎠
⎛ E − qΨFH ⎞
p = N V exp⎜ V
⎟
kT
⎝
⎠
fT =
(4.13)
1
⎛ E − qΨFT ⎞
1 + exp⎜ T
⎟
kT
⎝
⎠
と表される。ここで、NC、NVは伝導帯および価電子帯の有効状態密度である。EC、EV、
ETはそれぞれ伝導帯、価電子帯、深い準位のエネルギー準位である。ΨFE、ΨFH、ΨFTはそ
れぞれ電子、ホール、深い準位のフェルミ準位である。EC、EV、ETは半導体材料により固
有の値であるために、基板ポテンシャルが変動するとすべて同じ量だけ変動する。しきい
値電圧変動を考える場合、フェルミ準位の中で電子のフェルミ準位だけがソース電極の接
地により固定されている。そのため、基板ポテンシャルの変動量は伝導帯の電子濃度と関
係する。暗状態における熱平衡状態での電子濃度をn0、電子のフェルミ準位をΨFE0、伝導
帯ポテンシャルをECとすると、電子濃度の変化量∆nは
∆n = n − n0
⎛ E − qΨFE ⎞
⎛ E − qΨFE 0 ⎞
= N C exp⎜ − C
⎟ − N C exp⎜ − C 0
⎟
kT
kT
⎝
⎠
⎝
⎠
(4.14)
と表すことができる。式(4.14)から、
⎛ E − qΨFE ⎞
N C exp⎜ − C
⎟
kT
∆n
⎝
⎠ −1
=
−
Ψ
E
q
n0
⎛
FE 0 ⎞
N C exp⎜ − C 0
⎟
kT
⎝
⎠
⎛ E − EC ⎞
= exp⎜ C 0
⎟ −1
kT
⎝
⎠
(4.15)
となる。ここで基板ポテンシャルの変動量は∆VSUB=EC0-ECと表せるので、
- 64 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
∆n
⎛ ∆V
= exp⎜ SUB
n
⎝ kT
∆VSUB
⎞
⎟ −1
⎠
⎛ ∆n ⎞
⎟
= kT ln⎜⎜1 +
n0 ⎟⎠
⎝
(4.16)
となる。
ホール濃度の変化はホールのフェルミ準位と基板ポテンシャルの関係が変化を引き起こ
し、結果的にホールのフェルミ準位と電子のフェルミ準位が分離して非平衡定常状態に至
る。しかし、しきい値電圧は電子のフェルミ準位を基準にした基板ポテンシャルの変動に
より決まるので、ホール濃度の変動はしきい値電圧の変動には直接には寄与しない。光照
射による電子濃度の変化量は式(4.10)、(4.12)に示したように光強度に比例し、熱平衡での
基板電子濃度には依存しない。一方、式(4.15)から分かるように、光照射による電子濃度の
増加量が同じであっても、熱平衡状態での電子濃度が小さいと基板ポテンシャルの変動量
が大きくなる。したがって、熱平衡状態での電子濃度が小さい、言い換えると暗状態での
GaN バッファ層の抵抗が大きいと基板ポテンシャルの変動量が大きくなる。基板ポテンシ
ャルの変動は式(4.1)から、しきい値電圧の変動につながる。つまり、GaN バッファ層の抵
抗が大きいとしきい値電圧の光応答が顕著になる。
ウエハ 1 の GaN バッファ層は高抵抗であり、光照射によって抵抗が 1 桁近く変動した。
そのため、基板ポテンシャルの変動が大きく、しきい値電圧の変動が顕著に現れた。式(4.1)
から分かるように、しきい値電圧の変動はイオン化層膜厚によっても変わる。基板ポテン
シャルの変動量が同じであっても、イオン化層膜厚が薄いとしきい値電圧の変動は大きく
なる。また、ウエハ 1 は深いアクセプタ準位がチャネル近傍まで入っており、イオン化層
膜厚が薄くなっているものと考えられる。
FET がオフ状態では GaN バッファ層を介した電流がリーク電流を支配する。GaN バッ
ファ層の半絶縁性化は高周波デバイスのみならず、高電圧デバイスでの耐圧設計にとって
も必要なことである。しかし、単純にそれを無くしたり、低濃度化すればいいというもの
ではない。入れるべき所と入れてはいけないところを認識して結晶成長を行う必要がある。
- 65 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
4.5 しきい値電圧の温度依存性
4.5.1 測定結果
しきい値電圧の温度依存性を光照射のあり、なしで測定した。測定サンプルはしきい値
電圧の光応答が顕著であったウエハ 1 である。ウエハ構造およびプロセス工程は前節(4.3.1)
に示している。プローバステージを 25 ºCから 200 º Cまで 25 º Cずつ変化させて、それぞ
れの温度でのID-VG特性を測定した。ドレイン電圧は 0.1 Vとした。暗状態と白熱電球の光
照射時で測定を行った(図(4.16(a))、図(4.16(b))。
光照射の有無によらず、ゲート電圧がしきい値電圧以上でのドレイン電流は温度上昇に
伴い減少している。これは、しきい値電圧の影響と温度上昇に伴う散乱の増加で、移動度
が低下したためでもあると思われる。ゲート電圧がしきい値電圧以下では、ドレイン電流
は温度上昇に伴い増加している。ソース電流の変化からこれは温度上昇に伴うゲートリー
ク電流の増加によるものである。暗状態、光照射時ともにしきい値電圧は正方向にシフト
している。図 4.17 にしきい値電圧を 300 Kドレイン電流が 1×10-6 Aのときのキャリア濃度
と等しくなるゲート電圧と定義したときの温度依存性を示す。暗状態でのしきい値電圧の
温度特性は+0.28 mV/deg、光照射時は+3.44 mV/degであった。光照射によるしきい値電圧
の変動は温度上昇に伴い減少し、200 ºCでほぼ差がなくなっていた。
-3
10
-4
Drain Current (A)
10
-5
10
VD=0.1V
LG=2µm
WG=50µm
Temperature
25 °C to 200 °C
at 25 °C step
-6
10
25 °C
50 °C
75 °C
100 °C
125 °C
150 °C
175 °C
200 °C
-7
10
-8
10
-9
10
-8
-6
-4
-2
Gate Voltage (V)
0
図 4.16(a) 暗状態でのID-VG特性温度依存性
2
- 66 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
-3
10
-4
Drain Current (A)
10
-5
10
VD=0.1V
LG=2µm
Temperature
25 °C to 200 °C
at 25 °C step
WG=50µm
-6
10
25 °C
50 °C
75 °C
100 °C
125 °C
150 °C
175 °C
200 °C
-7
10
-8
10
-9
10
-8
-6
-4
-2
0
2
Gate Voltage (V)
図 4.16(b) 白熱電球の光照射時でのID-VG特性温度依存性
-4.0
Threshold Voltage(V)
-4.2
-4.4
+0.28mV/deg
-4.6
+3.44mV/deg
-4.8
-5.0
-5.2
暗状態
光照射時
-5.4
250
300
350
400
450
Temperature(K)
図 4.17 しきい値電圧の温度依存性
500
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
- 67 -
4.5.2 温度上昇によるしきい値電圧変動のメカニズム
ゲート電圧がしきい値電圧でのゲート下部のエネルギーバンド模式図を図 4.18 に示す。
しきい値電圧の温度依存性には基板ポテンシャルの変動に伴うバックゲート効果とチャネ
ル部ポテンシャルの変動が寄与する8)。ここでは、影響が少ないと考えられるイオン化層幅
の温度依存性、成長温度に比べて十分低い 200 ºC以下での変動であるためにピエゾ電荷の
温度依存性を無視している。
∆VSUB
∆VT
EC
VT
∆ΨS
ΨF
EV
tAlGaN
xI
図 4.18 しきい値電圧の温度依存性に寄与する各ポテンシャルの変動
(ⅰ) 暗状態での基板ポテンシャルの温度依存性
半絶縁性 GaN バッファ層は浅いドナー準位を深いアクセプタ準位で補償して半絶縁化し
ている場合を考える。前節でも述べたようにこれらの関係は反対であってもそれぞれ置き
換えられるために以下の解析においても同様である。GaN バッファ層において電荷中性が
成り立つので
Q = q( N D − N T f T + p − n ) = 0
(4.17)
ここで、NDは浅いドナー準位の濃度、NTは深い準位の濃度fTは深い準位の電子占有率、p
およびnはそれぞれ伝導帯の電子濃度および価電子帯のホール濃度である。半絶縁性である
ことからキャリア濃度nおよびpは小さいので無視できるため、
- 68 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
fT =
ND
NT
(4.18)
となり、深い準位の電子占有率は浅い準位と深い準位の濃度により温度に寄らず一定であ
る。一方で深い準位の電子占有率はフェルミ-ディラック分布に従うので、
fT =
1
⎛ E − qΨF ⎞
1 + exp⎜ T
⎟
kT
⎠
⎝
(4.19)
となる。式(4.19)においてET-qΨFが温度変化に対してfTを一定に保つように変動する。GaN
バッファ層内の電子のフェルミ準位はソース電極の接地により常に固定されている。した
がって、ET-qΨFの変化は基板ポテンシャルの変動∆VSUBと表せる。よって、式(4.19) より
⎛ 1 − fT
dVSUB
= k ln⎜⎜
dT
⎝ fT
⎞
⎟⎟
⎠
(4.20)
となる(図 4.19)。
nチャネルのシリコンMOSFETの場合は、p型基板であり電荷中性はアクセプタ濃度とホ
ール濃度によって決まる。通常ホールのフェルミ準位は基板電極の接地により固定されて
おりアクセプタ濃度はNVより小さいのでΨFEはEVの上にあり、さらにフェルミ準位と価電
子帯の差はkTに比例するので、しきい値状態での基板ポテンシャルの変動は必ず下向きに
なる。しきい値電圧の変化には基板ポテンシャルの変動とチャネル電荷を一定に保つため
のチャネル部のポテンシャル変化により起きる。後者は温度変化に対して常に負方向であ
る。したがって、温度変化に伴うしきい値電圧の変動が負方向となる9)。半絶縁性基板上の
HFETにおいてはトラップ準位とフェルミ準位の差は温度に比例する。フェルミ-ディラッ
ク分布と電荷中性の法則から、フェルミ準位とトラップ準位の差は浅いドナーとアクセプ
タの濃度比により決まるので、状況によりしきい値電圧の変動は正方向にも負方向にもな
る(図 4.20)。電荷中性でのフェルミ準位がトラップ準位と同じ、即ちトラップの電子占有率
が 0.5 の場合、基板ポテンシャルの変動は起きない。今回、しきい値電圧が正方向に変動し
ているのは基板ポテンシャルの変動が 2DEG部の変動を上回るほど大きかったためである
と思われる。
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
- 69 -
∆VSUB/∆T (mV/deg.)
0.4
0.2
0.0
-0.2
-0.4
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
fT
図 4.19 基板ポテンシャル温度特性の深い準位の電子占有率依存性
∆VSUB
∆VT
tAlGaN
xI
∆VSUB
∆VT
tAlGaN
(a)
xI
(b)
図 4.20 基板ポテンシャルの温度依存性
(a)fT < 0.5 (b)fT > 0.5
- 70 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
(ⅱ) 光照射時の基板ポテンシャルの温度依存性
光照射による基板ポテンシャルの変動は式(4.16)で表される。室温においてはこの効果が
大きくしきい値電圧は負方向にシフトしている。光照射により励起される電子濃度の増加
量は温度に依存しない。一方、熱平衡状態での電子濃度はマクスウェル-ボルツマン分布に
より
⎛ E − qΨFE ⎞
n0 = N C exp⎜ − C 0
⎟
kT
⎠
⎝
(4.21)
となる。温度上昇に伴い熱平衡状態での電子濃度が増加する。基板ポテンシャルの変動量
は式(4.16)により表されるように、光照射により励起される電子濃度の増加量と熱平衡状態
での電子濃度の比により決まる。温度上昇に伴い熱平衡状態での電子濃度が増加すると基
板ポテンシャルの変動量は小さくなり、光照射によるしきい値電圧の変動量が小さくなる。
よって、光照射時の温度依存性は正方向となる。さらに、高温時での熱平衡状態での電子
濃度が光照射により励起される電子濃度の増加量よりも十分大きくなった場合は、式(4.16)
は
⎛ ∆n ⎞
⎟
∆VSUB = kT ln⎜⎜1 +
n0 ⎟⎠
⎝
≈0
(4.22)
となる。そのために、光照射による基板ポテンシャルの変動がなくなるために、光照射時
においても 200 ºC でのしきい値電圧は暗状態とほぼ一致している。
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
- 71 -
(ⅲ) チャネル部ポテンシャルの温度依存性
チャネル部ポテンシャルは光応答への影響はなく光の有無に寄らず一定となる。チャネ
ル部ポテンシャルの温度依存性について述べる。しきい値電圧をしきい値状態でのドレイ
ン電流のときのゲート電圧と定義する。しきい値状態でのチャネル濃度をnTとすると、移
動度の温度依存は無視できるので、温度変化に対してnTを一定に保つための伝導帯ポテン
シャルが変動する。AlGaN/GaN界面の表面電子濃度をnとするとnTは
∞
nT = ∫ ndx
0
=∫
∞
0
⎛ E (T ) − qΨF ⎞
N C exp⎜ − C
⎟dx
kT
⎝
⎠
(4.23)
ここで、xは基板奥方向である。2DEG表面の伝導帯ポテンシャルをEC0、イオン化層での伝
導帯の傾きはES、イオン化層幅をxIとすると、
∞
⎛ E (T ) + E S x − qΨF ⎞
nT = ∫ N C exp⎜ − C 0
⎟dx
0
kT
⎝
⎠
⎛ E (T ) − qΨF ⎞ ∞
⎛ E x⎞
= N C exp⎜ − C 0
⎟ ∫0 exp⎜ − S ⎟dx
kT
⎝
⎠
⎝ kT ⎠
(4.24)
ここで、AlGaN/GaN界面の伝導帯ポテンシャルΨS=EC0(T)-qΨFとすると、
⎞⎛ kT
⎟⎜⎜
⎠⎝ qE S
kT ⎛ qnT E S ⎞
⎟
ΨS = −
ln⎜
q ⎜⎝ kTN C ⎟⎠
⎛ qΨ S
nT = N C exp⎜ −
⎝ kT
⎞
⎟⎟
⎠
(4.25)
となる。ここで、イオン化層幅の温度依存性は小さいとし、ESは温度に寄らずに一定とす
ると、温度変化に伴いnTを一定に保つようにΨSが変動する。よって、ΨSの温度依存性は式
(4.25)より、
dΨS
d ⎛⎜ kT ⎛ qnT E S ⎞ ⎞⎟
⎟
=
−
ln⎜
dT
dT ⎜⎝ q ⎜⎝ kTN C ⎟⎠ ⎟⎠
k ⎛ qn E
= − ln⎜⎜ T S
q ⎝ kN C
⎞ kT d
⎟⎟ −
(ln Nc − ln T )
⎠ q dT
k ⎛ qn E
= − ln⎜⎜ T S
q ⎝ kN C
⎞ kT d ⎛ 3
⎞
⎟⎟ −
⎜ − ln T − ln T ⎟
⎠
⎠ q dT ⎝ 2
k ⎛ ⎛ qn E
= − ⎜⎜ ln⎜⎜ T S
q ⎝ ⎝ kN C
⎞ 5⎞
⎟⎟ − ⎟
⎟
⎠ 2⎠
(4.26)
- 72 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
となる。しきい値での電子濃度はNCよりも小さいのでlog内は通常 1 以下となり、この値は
正となる。
温度変化に対してチャネル濃度を一定に保つために、チャネル部ポテンシャルは光の有
無によらず常に上昇する。それに伴い、しきい値電圧は負方向の変動となる。一方、基板
ポテンシャルの変動は暗状態では、深い準位の電子占有率によりその大きさおよび向きが
異なる。また、光照射により基板ポテンシャルが下がるが、その下がり方が熱平衡状態で
の電子濃度の増加に伴い小さくなる。そのために光照射時の基板ポテンシャルの変動は温
度上昇に伴い常に上昇する。チャネル部ポテンシャルの変動と基板ポテンシャルの変動と
しきい値電圧の温度依存性は
⎛ dΨ
t
dVT
= −⎜⎜ S − AlGaN
dT
xI
⎝ dT
⎛ dVSUB dΨS
−
⎜
dT
⎝ dT
⎞⎞
⎟ ⎟⎟
⎠⎠
(4.27)
となる。したがって、しきい値電圧の温度依存性は AlGaN 層膜厚とイオン化層幅の比が基
板ポテンシャル変動量の重み付けとなっている。ウエハ 1 の暗状態での温度依存性が正方
向であったことを考えると、GaN バッファ層の電子占有率が小さく、チャネル近傍まで深
い準位が存在しているためイオン化層幅が薄いといえる。
4.6 まとめ
本章では AlGaN/GaN HFET しきい値電圧の光照射依存性と、暗状態および光照射時の
しきい値電圧温度依存性を観測した。しきい値電圧の変動と GaN バッファ層中の深い準位
の応答の関係を光励起による電子濃度およびホール濃度の増加を加えた SRH 統計に基づく
解析を行い、以下の知見を得た。
(1) 光照射による AlGaN/GaN HFET しきい値電圧の変動は、基板ポテンシャルの変動に
よるバックゲート効果により起きる。基板ポテンシャルの変動は暗状態での電子濃度に依
存するため、GaN バッファ層抵抗が高抵抗であれば基板ポテンシャルの変動量が大きい。
しきい値電圧と基板ポテンシャルの変動量の関係はイオン化層幅にも依存するため、半絶
縁化のためにチャネル近傍まで深いアクセプタ準位が存在する AlGaN/GaN HFET は照射
によるしきい値電圧の変動が顕著である。
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
- 73 -
(2) ドレイン電流の照射光波長依存性から、今回のサンプルは伝導帯から 2.92 eV の位置に
深い準位が存在し、しきい値電圧の変動に寄与している。価電子帯からは 0.47 eV に相当す
るため光照射によりホールも励起されているが、基板ポテンシャルの変動は電子のフェル
ミ準位が基準となるため、ホール濃度の増加はしきい値電圧の変動に寄与しない。
(3) AlGaN/GaN HFET しきい値電圧に温度依存性が見られた。暗状態では+0.28 mV/deg、
光照射時は+3.44 mV/deg であり、ともに正方向の変動であった。
(4) AlGaN/GaN HFET しきい値電圧の温度依存性は GaN バッファ層中で電荷中性が成り
立つので、深い準位の電子占有率を一定にするための基板ポテンシャルの変動と、しきい
値電圧状態での 2DEG 濃度を一定に保つためのチャネル部伝導帯ポテンシャルの変動によ
り起きる。
(5) 暗状態での基板ポテンシャルの温度依存性の大きさおよび向きは深い準位の電子占有
率により決まる。また、電子占有率は電荷中性の法則から、浅い準位と深い準位の濃度比
により決まる。電子占有率が 0.5 のときは基板ポテンシャル変動の温度依存性はない。チャ
ネル部ポテンシャルの温度依存性は常にしきい値電圧変動が負方向に働く。そのため、イ
オン化層幅や各部ポテンシャル変動の大きさにより AlGaN/GaN HFET しきい値電圧の温
度依存性は正方向にも負方向にもなりうる。
(6) 光照射時の基板ポテンシャルの変動は光励起による電子濃度の増加量と熱平衡状態で
の電子濃度の比により決まる。温度上昇に伴い熱平衡状態での電子濃度が上昇するので、
光照射による基板ポテンシャルの変動量は小さくなる。即ち、光照射によりしきい値電圧
は負方向にシフトするが、基板ポテンシャルの変動量は温度上昇に伴い減少するため、光
照射により負方向にシフトしていたのを戻すように、しきい値電圧を正方向に変動するよ
うに働く。
光照射後は深い準位から電子が励起されており、深い準位は正帯電している。光照射後
に熱平衡状態に戻るためには、深い準位が電子を捕獲するか、ホールを放出することでフ
ェルミ-ディラック分布に従う電子占有率に戻る必要がある。半絶縁性基板においては電子
濃度が小さく、深い準位の電子捕獲速度は非常に遅い。一方、ホール放出速度は深い準位
と価電子帯のエネルギーの差により決まる。今回のサンプルは価電子帯から 0.47 eV のに深
- 74 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
い準位が観測された。ホール放出時定数は第三章で述べたように室温では 0.44 µs となる(図
3.6)。しかし、暗状態でのドレイン電流変動の時定数は約 20 分と遅かった。AlGaN/GaN
HFET にはホールに対するオーミック電極は存在しない。深い準位から放出されたホール
は基板内に留まる。暗状態での時定数はそのホールが再結合する速度によって律速されて
いるものと思われる。
高周波回路において基板が高抵抗であると伝送線路での伝送損失が小さくなる。さらに
HFET の OFF 耐圧を上げるためにも半絶縁性バッファ層は重要である。MOCVD 法におい
ては GaN バッファ層に深いアクセプタを導入することで残留ドナーを補償し、高抵抗化す
る。しかし、深い準位の応答により、しきい値電圧の光応答や温度依存性が顕著となる。
このことは、半絶縁性基板を用いるトランジスタにおいて同様の現象が起きうると考えら
れる。したがって、ワイドバンドギャップ半導体 HFET において、バッファ層の結晶の残
留電子濃度を小さくするか、深い準位を導入する箇所の最適化が必要である。AlGaN/GaN
HFET の特性向上には結晶性の更なる改善も重要である。
参考文献
1)U. K. Mishra, P. Parikh, and Y.-F. Wu, “AlGaN/GaN HEMTs—An overview of device
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第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
- 75 -
7)Y. Ohno, “Short-channel MOSFET VT-VDS characteristics model based of a point
charge and its mirror images,” IEEE Trans. Electron Devices 29 (1982) 211.
8)石尾隆幸、
「AlGaN/GaN HFET しきい値電圧の温度依存性の研究」修士論文、徳島大学、
(2007) 16.
9) F. P. Heiman and D. S. Miller, “Temperature dependence of n-type MOS transistors,”
IEEE Trans. Electron Devices 12 (1965) 142.
- 76 -
第四章 深い準位によるしきい値電圧の光照射および温度依存性
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
- 77 -
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
前章では、バンドギャップ以下のエネルギーの光照射により深い準位から電子正孔対が
励起されて FET 特性に影響を及ぼすことについて述べた。深い準位が存在しないときは、
バンドギャップエネルギー以上の光でなければ電子正孔対は励起されない。GaN はバンド
ギャップが 3.39 eV であり、波長に換算すると 365 nm の紫外光によってバンド間遷移によ
り電子正孔対が励起される。そこで、本章では紫外線に対して優れた感度を持つ GaN/
AlGaN/GaN ゲート構造の紫外光フォトトランジスタを提案する。
5.1 紫外線受光素子の用途と現状
オゾン層破壊により、地表に照射される紫外線量の増加による健康被害が問題となって
いる。また、紫外線受光素子と紫外線発光ダイオード(UV-LED: Ultraviolet Light Emitting
Diode)を組み合わせた殺菌や紙幣センサなどのアプリケーションや、ガスコンロの燃焼時
に発光する紫外線をモニタすることで、燃焼効率を最適に制御するアプリケーションなど、
紫外線受光素子を用いた新しい市場、アプリケーションが考えられている。そのために、
低価格、高効率な紫外線検出装置の需要が高まってきている。現在の受光素子は Si とフィ
ルタを組み合わせた構造が一般的である。しかし、Si はバンドギャップが狭いために、可
視光領域の光に対しても感度を有する。よって、フィルタにより可視光を遮断して紫外線
の選択性を得ている。そのため効率が悪く、センサ回路を駆動させるために必要な電流を
得るためには大面積を必要とする。
そこで、注目されている半導体材料が窒化ガリウム(GaN)である。GaNはバンドギャップ
が 3.39 eVであり、光波長に換算すると 365 nmとなる。窒化ガリウム系材料により青色、
白色および紫外光LEDならびにLD(LASER Diode)が開発され実用化されている1-3)。また、
紫外光にのみ感度を有することから、紫外線受光素子の開発が進められている。一般的に
はi-GaN/n-GaN構造のショットキーダイオード型やpn接合ダイオード、AlGaNやInGaNを
用いたダイオード型が主流である4-7)。しかし、ダイオード構造では暗状態でのリーク電流
が大きいために光電流とのS/N比が悪くなる。S/N比を改善するためにはショットキー電極
のリーク低減や結晶構造の改質など技術的に困難な部分が多い。また、効率が悪く光電流
を多く取り出せない。そのため、外部回路を駆動するために必要な電流を得るために大面
積を必要とするといった課題がある。
- 78 -
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
5.2 GaN/AlGaN/GaN ゲート構造 UV フォトトランジスタ
5.2.1 動作原理
低価格、高効率な紫外線受光素子としてゲインセル構造を持つフォトトランジスタを提
案する。トランジスタの構造は AlGaN/GaN HFET と同様である。ゲート下部に GaN キャ
ップ層を導入している。GaN キャップ/AlGaN 界面には負のピエゾ電荷が存在するため、
価電子帯に上に凸のポテンシャル井戸が形成される。これをホールポケットと呼ぶことと
する。紫外光照射により GaN キャップ層で電子正孔対が生成される。電子はゲート電極に
流出するが、ホールはホールポケットに蓄積される。これにより AlGaN/GaN 界面の 2DEG
が変調され、トランジスタのドレイン電流が増加する。ゲートからの電子のリークはホー
ルの蓄積には関与しない。また、GaN に対するショットキーゲートのバリア高は約 1 eV で
ある。したがって、価電子帯からのバリア高は約 2.39 eV と高いため、ゲート電極からのホ
ールのリークは小さい。ゲート下部のホールは一度蓄積されると再結合速度が遅いために
消滅しない。いったん蓄積されたゲートに負バイアスを印加することで放出できる(図 5.1)。
GaN
AlGaN
GaN
UV
GaN
AlGaN
GaN
UV
2DEG
Hole Pocket
(a)
(b)
図 5.1 GaN/AlGaN/GaN ゲート構造 UV フォトトランジスタのゲート下部のバンド図
(a) VG=0 V、ホール蓄積時
(b) VG<0 V、ホール排出時
- 79 -
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
この動作を実現するためには暗状態でホールポケットのホール濃度がゼロに等しくなけ
ればならない。VG=0 Vのときに 2DEGがしきい値状態に達しているバンド構造がホール蓄
積時に最もドレイン電流の増加量が大きくなるため高感度となる。図 5.2 にデバイス作製に
用いたエピタキシャル基板のバンド構造の計算値を示す。結晶中に電荷は存在しないと仮
定し、各層の電界はポアソン方程式より界面での電荷総量と膜厚から算出した。膜厚はGaN
キャップ層が 16 nm、AlGaN層が 12 nmである。誘電率はGaN、AlGaNともに 9.5 とした。
AlGaNのAl組成比は 0.25 とした。ピエゾ電荷はGaNキャップ/AlGaN界面に-1×1013 cm-2、
AlGaN/GaN界面に 1×1013 cm-3とした。GaNバッファ層ではフェルミ準位は伝導帯から 1.7
eVにピンニングされている。イオン化層幅は 1 µm、ショットキーバリア高は 1 eV、ヘテ
ロ界面でのバンドオフセット係数 (dE C / (dE C + dEV
)) は
0.75 とした。しきい値電圧での
2DEG濃度は 1×1010 cm-2と仮定した。
VG=0 Vのとき、ホールポケットの価電子帯とフェルミ準位の差は-1.7 eVであり、ホール
濃度は 4×10-48 cm-3で十分小さい。また、GaNキャップ層の電界がフェルミ準位に対して
平行となるとき蓄積ホールがゲート電極に流出して蓄積されなくなるとすると、ホール流
出電圧は-1.47 Vとなる。
4
3
2
Energy (eV)
1
Ec
VG
0
-0.01 0
-1
ΨF
0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09
-2
-3
EV
-4
GaN
AlGaN
GaN
-5
Wafer Defth (um)
図 5.2 GaN/AlGaN/GaN ゲート構造のエネルギーバンドの計算結果
0.1
- 80 -
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
5.2.2 デバイス構造とプロセス工程
デバイス構造とプロセスフローを図 5.3、図 5.4 に示す。デバイスの作製にはc面サファイ
ア基板上にMOCVD法によりGaN/AlGaN/GaNをそれぞれ 16/12/3000 nm成長したエピタ
キシャル基板を用いた。デバイス作製ははじめに王水、有機溶剤でのウエハクリーニング
を行った。その後、ICP-RIE (Inductively Coupled Plasma Reactive Ion Etching: samco
RIE-200-iPG)を用いてCl2ガスで深さ 60 nmエッチングをして素子間分離を行った。コンタ
クト抵抗の低減とホールポケットをなくすために、オーミック電極下部のGaNキャップ層
を除去する必要がある。GaNキャップ層とAlGaN層の中間までエッチングするために、1
nmオーダーのエッチング精度が要求される。低エッチングレートかつ表面形状を平坦にす
るために、エッチングにはICP-RIEを用いてSiCl4ガスでリセスエッチングを行った8)。エッ
チング深さは 23.4 nmであり、AlGaN層が 4.6 nm残されている。オーミック電極は
Ti/Al/Ti/Auをスパッタ法で堆積した後にリフトオフ法で形成した。窒素雰囲気中にて 800
ºC、30 秒間の熱処理を行った。ゲート電極はNi/Auをスパッタ法により堆積し、リフトオ
フ法により形成した。最後にバッド部分を金メッキ処理した。ゲート幅は 50 µm、ゲート
長は 2 µmである。受光面であるGaNキャップ層がある面積はゲート部分を含めて 6×10-4
mm2である。
ウエハクリーニング
AlxGa1-xN t=12 nm x=0.25
GaN t=12 nm
素子間分離
ICP-RIE Cl2 60 nm
GATE
DRAIN
SOURCE
オーミックリセスエッチング
ICP-RIE SiCl4 23.4 nm
オーミック電極形成・熱処理
u-GaN t=3 µm
Ti/Al/Ti/Au N2 800ºC 30s
ゲート電極形成
Sapphire
Ni/Au
金メッキ
図 5.3 デバイス構造
図 5.4 プロセスフロー
- 81 -
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
5.2.3 I-V 特性と分光感度特性
照射光は 500 Wキセノンランプを分光器により分光した 350 nmの単色光を用いた。測定
系は図 4.11 と同様である。暗状態および紫外光照射時のID-VD特性を図 5.5 に示す。VG=+0.5
V、VD=10 Vの時、ドレイン電流は暗状態が 3×10-6 A、紫外線照射時が 4×10-4 Aであった。
VG=0 V、VD=10 Vの時の変換効率は 2.7×105 A/Wであり、非常に大きな値であった。
図 5.6 に暗状態および紫外光照射時のVD=10 VのときID-VG特性を示す。紫外光照射時は
しきい値電圧が負方向に変動しており、ドレイン電流が増加している。暗状態でゲート電
圧を正にしたときにヒステリシスが見られる。光の有無に関わらず若干のホール生成があ
るためにヒステリシスが見られたと考えられる。図 5.7 に暗状態および紫外線照射時の
IG-VG特性を示す。順方向電流にヒステリシスが見られるが、これもID-VG特性のヒステリ
シスと関係し、ポテンシャル分布の変化の影響であると考えられる。
0.5
VG=+0.5V to -2V step -0.5V
UV(350nm)
Drain Current(mA)
0.4
0.3
0.2
0.1
Dark
0.0
0
2
4
6
8
Drain Voltage(V)
図 5.5 暗状態および紫外光照射時のID-VD特性
10
- 82 -
Drain Current(A)
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
100
10-1
10-2
10-3
10-4
10-5
10-6
10-7
10-8
10-9
10-10
10-11
10-12
-5
UV(350nm)
Dark
VD=10V
-4
-3
-2
-1
0
1
2
Gate Voltage(V)
Gate Current(A)
図 5.6 暗状態および紫外光照射時のID-VG特性
10-1
UV(350nm)
10-2
Dark
10-3
10-4
10-5
10-6
10-7
10-8
10-9
10-10
10-11
10-12
10-13
-10 -8 -6 -4 -2
0
2
Gate Voltage(V)
図 5.7 暗状態および紫外光照射時のIG-VG特性
4
6
- 83 -
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
図 5.8 に紫外光照射後のドレイン電流の時間変化を示す。ゲート電圧は+1 V、ドレイン
電圧は 10 V で一定である。サンプリング時間は 1 s とした。紫外光を照射したまま測定開
始し、3 分後に紫外光を遮断した。ドレイン電流は徐々に減少し、その時定数は約 10 秒で
あった。その後、再び紫外光を照射するとドレイン電流は増加し測定開始時とほぼ等しい
値となった。
光照射により蓄積されたホールは、ワイドバンドギャップであり再結合速度が遅いため
光照射を止めても瞬時には消滅しない。一方、紫外線照射時は時間に比例して蓄積ホール
は増加し、それに伴いドレイン電流も増加する。暗状態にして再び紫外線を検出するとき
は蓄積したホールを排出する必要がある。ホールポケットからホールを排出するために、
ゲート電極にホールポケットのポテンシャルが平坦以上になる負バイアスを印加しなけれ
ばならない。
1.0
VG=+1V VD=10V
interval of Sampling 1s
Drain Current(mA)
0.8
OFF
0.6
0.4
0.2
0.0
ON
UV:350nm
0
180
360
540
Time(s)
図 5.8 暗状態でのドレイン電流の時間変化
720
- 84 -
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
分光感度特性を図 5.9 に示す。ドレイン電圧は 10 Vである。ゲート電圧はそれぞれ 1 V、
0 V、-3 Vである。比較のためにSiフォトダイオード(浜松フォトニクス社 S1336-5BQ
受
光面積:5.7 mm2)の測定結果も示す。キセノンランプの分光波長には強度依存性があるが、
今回の測定結果はどちらのデバイスに関しても補正を行っていない。Siフォトダイオードで
は紫外光領域において電流が減少している。一方、GaNフォトトランジスタはバンドギャ
ップエネルギーにあたる 365 nm以下の領域において電流が急激に増加しており、紫外光に
感度があるとともに、選択性も優れていることが確認できる。VG=-3 Vの時は、励起された
ホールはゲート電極に流出し蓄積されないため光感度はない。単位面積当たりの光電流は
GaNフォトトランジスタはSiフォトダイオードの 400 万倍である。
0.005
1.0
0.8
GaN Band Gap(3.4eV)
GaN Device
0.7
0.004
VG=+1V
0.003
0.6
0.5
Si Photo-diode 0.002
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
300
VG=0V
0.001
VG=-3V
350
400
450
0.000
500
Wavelength(nm)
図 5.9 GaN/AlGaN/GaN ゲート構造 UV フォトトランジスタと
Si フォトダイオードの分光感度特性
Anode Current(mA)
Drain Current(mA)
0.9
- 85 -
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
5.3 紫外線検出回路
5.3.1 回路構成と出力特性
負荷抵抗とGaNフォトトランジスタを用いたインバータ型の紫外線検出回路を試作した
(図 5.10)。負荷抵抗は 100 kΩ、電源電圧は 10 Vである。ゲートバイアスはファンクション
ジェネレータによりパルス信号を印加した。周波数は 300 HzでVHighは 0 V、VLowは-10 V、
Duty比は 80 %とした。照射光の光源には 27 Wのブラックライトを用いた。ピーク波長は
369 nm、半値幅は 17 nmである。照射距離は約 10 cmである。出力電圧はオシロスコープ
により検出した。入出力特性を図 5.11 に示す。図 5.6 から分かるようにVG=0 Vでは光感度
があるが、このデバイスではVG=-1.5 V以下ではホールポケットにホールが蓄積されずにゲ
ート電極に排出されるため、紫外線の感度がない。暗状態ではGaNフォトトランジスタは
常にOFFであるため、インバータ回路の出力電圧は電源電圧 10 V(High)で一定である。紫
外光が照射されている時は、ゲートバイアスがVG=-10 V(Low)のときはホールが存在しない
ためGaNフォトトランジスタはOFFであり、回路の出力電圧は 10 V(High)である。VG=0
V(High)のときは励起されたホールが蓄積によりGaNフォトトランジスタは徐々にONとな
るため、出力電圧が低下する。暗状態との最大電圧差は 7.87 Vであった。
VDD=10 V
ブラックライト
RL=100 kΩ
VOUT
オシロスコープ
Agilent 54621A
ファンクションジェネレータ
Agilent 33220A
GaN UV フォトトランジスタ
VG
図 5.10 GaN UV フォトトランジスタを用いたインバータ型紫外線検出回路
- 86 -
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
Voltage(V)
12
Vout(Dark)
10
8
6
7.87 V
4
2 Vout(UV)
0
-2
-4
-6
-8
Vin
-10
V =0 V, V =-10 V f=300 Hz
-12
-6 -4 -2 0 2 4 6
Time(ms)
High
low
図 5.11 出力特性
紫外線検出回路ではゲートバイアスにパルス信号を印加することで、蓄積ホールの排出
を行う。今回の測定系では負荷抵抗とオシロスコープのプローブ容量により決まる時定数
により 1.2 µs 以下の信号を検出することは不可能である。ホール排出時定数は GaN キャッ
プ層の膜厚とホールの移動度により決まる。今回作製した GaN/AlGaN/GaN ゲート構造は
GaN キャップ層が 10 nm と薄いためゲート下部のホールはゲートにバイアスを印加すれば
ドリフトにより瞬時に排出される。受光面にはゲート金属がない領域が存在するが、1.2 µs
以内にトランジスタが OFF になっていることが確認できたため、この領域においてもその
時定数ではホールが排出されていることが判る。
図 5.12 にブラックライトの照射距離を 10 cm、20 cm、30 cmと変化させたときの出力波
形を示す。ゲート信号はVHighが 0 V、VLowが-10 V、Duty比が 80 %で先ほどと同じで、周
波数は 100 Hzである。ブラックライトの照射距離が遠いと光強度が弱くなる。そのためホ
ールが励起される量が少なくなるために、フォトトランジスタがONとなる時間が長くなる。
そのため、出力電圧が十分に変化しないうちに次のパルス信号が印加される。一方、ブラ
ックライトの照射距離が近すぎると光強度が強いため、フォトトランジスタがONになる時
間は短く、出力波形はすぐに飽和してしまう。よって、光強度に対する線形性を保つため
には、測定する光強度に合わせてゲートパルス信号のパルス幅を調節する必要がある。言
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
- 87 -
い換えると、微小な光に対しては蓄積時間を長くし、強力な光に対しては蓄積時間を短く
することで幅広いレンジの光強度に対して出力を得ることが可能である。その際の回路応
答速度は光強度により決まり、微小な光に対しては長時間となる。感度の下限は光以外に
よるホールの生成速度により決まる。
Dark
Vout
30cm
Voltage(V)
12
10
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
-10
-12
20cm
10cm
Vin
-10
-5
0
5
Time(ms)
10
図 5.12 出力波形の紫外線照射距離依存性
5.4 まとめ
本章では GaN/AlGaN/GaN ゲート構造の紫外線フォトトランジスタの動作原理とデバイ
スの特性を示した。また、インバータ型回路を用いた簡便な紫外線検出回路を試作し、出
力特性を示した。本章で述べた結果により得られた知見を以下にまとめる。
(1) GaN/AlGaN/GaN ゲート構造はピエゾ電荷により GaN キャップ層下部にホールを蓄積
するポテンシャル井戸が形成される。GaN キャップ層に紫外光が照射されると、電子正孔
対が励起されてホールポケットにホールが蓄積される。それにより 2DEG のポテンシャル
が変調されてドレイン電流が増加することで紫外光を検知する。
- 88 -
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
(2) ゲート下部にホールを蓄積してドレイン電流を変調させるため、ゲインセル構造と同様
に出力電流が増幅される。そのため、受光面積が小さくても大電流を得ることができ高感
度である。今回作製したデバイスは受光面積が 600 µm2、VG=0 V、VD=10 Vのとき 350 nm
の波長に対する変換効率は 2.7×105 A/Wであった。
(3) いったん蓄積されたホールは再結合速度が遅いために消えない。その時定数は約 10 秒
であった。ゲートに負バイアスを印加することで蓄積したホールを排出し、リセット状態
にすることができる。
(4) インバータ型検出回路ではゲートにパルス信号を印加することで、ホールの排出と蓄積
時間の調節を行った。それにより、幅広い光強度に対して出力電圧を得られることを確認
した。
紫外光受光素子はオゾンホールの拡大による健康被害の増加や各種アプリケーションに
おいて需要が高まっている。GaN を用いた紫外線受光素子は現在ではダイオード型が一般
的で、ゲートリークの改善や高効率化には課題がある。それらの課題を解決するためには
結晶性の改善が必要不可欠である。今回提案した GaN/AlGaN/GaN ゲート構造 UV フォト
トランジスタではゲインセルによりドレイン電流が増幅されるために大電流を得ることが
容易であるほか、ゲートリークは小さく現状の結晶性でも優れた特性を得られた。しかし、
分光感度特性ではバンドギャップエネルギー以下の波長である 450 nm 付近からドレイン
電流の増加が見られたことから、GaN キャップ層もしくは AlGaN 層に深い準位が存在し、
そこからのホールの励起があるものと思われる。ブラインド特性をさらに向上させるため
には結晶性の改善が必要である。
今回はフォトフォトトランジスタのホールの蓄積および排出を確認するために、簡便な
インバータ型回路を用いて紫外線検出回路を試作した。光強度に対する線形性を保つため
には、入力のパルス信号のパルス幅を調節しなければならない。さらに高度な線形性を得
るためには差動対回路など既存の回路を用いればよい。簡単なパルス信号回路で駆動する
ことができるため、GaN/AlGaN/GaN ゲート構造フォトトランジスタと Si LSI と組み合わ
せることで安価で高感度な紫外線検出回路が作製できると思われる。新しいデバイスを提
案することにより GaN の更なる可能性を示した。
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
- 89 -
参考文献
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- 90 -
第五章 GaN を用いた紫外線フォトトランジスタ
第六章 結論
- 91 -
第六章 結論
本章では、本研究から得られた結果をまとめ、それを踏まえた今後の課題と展望につい
て述べる。
6.1 本論文のまとめ
本論文は GaN 系デバイスの有する問題点の一つである、深い準位に起因する不安定現象
についての解析を目的とし、シミュレーションや実測を行った。特に、デバイス評価時に
おいて、特性が不安定であった原因の一つである光照射による影響について、エピタキシ
ャル基板の特性変動および HFET しきい値電圧の変動のメカニズムを示した。さらに、GaN
を用いた新デバイスである紫外線フォトトランジスタの提案を行った。
以下に第二章から第五章の要旨と主要な結論について述べる。
第二章では、GaN バッファ層に深い準位が存在するとドレインラグ現象が生じ、パルス
I-V 特性と DC 特性に差異が生じることを、デバイスシミュレーションにより確認した。パ
ルス I-V 特性は高周波回路設計にすでに使われている。今後、深い準位の空間分布や表面準
位などのパラメータを変化させてデバイスシミュレーションを行うことにより、高周波用
デバイスの不安定性の正確な解明や構造改善に役立つものと考えられる。
第三章では、AlGaN/GaN HFET 用エピタキシャル基板 2DEG シート抵抗の、光照射に
よる変動のメカニズムについて解析を行った。暗状態でシート抵抗を渦電流測定器により
非接触で長時間測定を行った。光照射を止めてから 1 週間経過しても測定値が安定しなか
った。光照射によりシート抵抗変動するのは深い準位の応答に起因する。暗状態でのシー
ト抵抗変動の時定数から、深い準位は価電子帯から 1 eV 付近に存在すると推測できた。300
ºC の暗状態熱処理により、短い時間で熱平衡状態に回復することができる。安定的な
AlGaN/GaN HFET エピタキシャル基板の電気特性評価法として暗状態熱処理法を提案し
た。
第四章では、AlGaN/GaN HFET しきい値電圧の光応答と温度依存性について述べた。
しきい値電圧の変動は基板ポテンシャルの変動により起きる。基板ポテンシャルの変動は、
光照射による伝導帯の電子濃度の変化量に比例し、暗状態での残留電子濃度に反比例する。
- 92 -
第六章 結論
即ち、深い準位による補償を行った高抵抗 GaN バッファ層上の HFET はしきい値電圧の
光応答が顕著になる。温度変化による基板ポテンシャルの変動量および向きは深い準位の
電子占有率により決まり、正方向にも負方向にもなる。耐圧の向上や、高周波用 HFET で
は伝送損失を小さくする目的から、高抵抗バッファ層を用いるのが望ましい。しかし、深
い準位による補償による手法では不安定現象の要因となるため、深い準位を導入する箇所
および濃度などの最適化が必要である。
第五章では、GaN を用いた新しいデバイスの GaN/AlGaN/GaN ゲート構造のフォトトラ
ンジスタを提案した。GaN はワイドバンドギャップであることから、バンド間遷移が起き
る光のエネルギーが紫外光以下の短波長帯に対応する。さらに、一度励起された電荷の再
結合速度は遅い。ゲート下部に GaN キャップ層を形成すると、負のピエゾ電荷によりでき
る価電子帯に上に凸のポテンシャル井戸ができる。紫外光照射により GaN キャップ層で電
子正孔対が励起される。電子はゲート電極に流出するが、ホールはポテンシャル井戸に蓄
積されるので、2DEG が変調され紫外光を検出することができる。蓄積されたホールはゲ
ートにパルス信号を印加することで排出することができる。この構造はゲインセルと呼ば
れ、デバイス自身が増幅機能を有するために小面積でも大電流を得ることができる。簡単
なパルス回路で駆動できるため、安価で高感度な紫外線検出器を作製することが可能であ
ると考えられる。
GaAs 系電子デバイスにおいても、結晶表面の界面準位や結晶中の深い準位による不安定
現象が問題となっていた。それらの解決手法は GaN においても適用可能な部分が多い。し
かし、GaN はワイドバンドギャップであるためにミッドギャップ近傍の準位のキャリア輸
送の時定数は天文学的な数字となる。そのような応答を解析する手法として、光照射と暗
状態での特性評価と温度依存性が有効であることを示した。ワイドバンドギャップである
と再結合速度が遅い。そのために HFET などのユニポーラデバイスにおいては、アバラン
シェ破壊や光励起により生成されたホールの取り扱いが耐圧向上やコラプス現象の改善に
重要である。その特性を逆手にとると、紫外光により励起されたホールを意図的に蓄積す
ることで新しい紫外線フォトトランジスタが実現できる。リフレッシュ動作が必要である
ことや動作回路などの課題はあるが、GaN の物性特性を生かした新しいデバイスを提案し、
GaN の新たなるポテンシャルを示した。
第六章 結論
- 93 -
6.2 今後の課題と展望
無線通信用の 2 GHz 帯高出力デバイスは性能的に十分なものが得られており、携帯電話
や衛星放送などの普及に寄与している。この帯域でのアプリケーションに対して GaN を用
いるためには、製造コストや信頼性などが開発課題となる。信頼性の向上には、表面準位
に起因する電流コラプスの対策として SiN 保護膜やリセス構造などが提案されている。同
時に、結晶内部の深い準位の応答によるコラプスも課題となっているので、結晶性の向上
やデバイス構造の改善が必要となっている。結晶成長技術は日々進歩しており、現在では
GaN 自立基板を用いることで高品質な結晶を得ることができ、青色 LD が製造されている。
電子デバイスにおいては、深い準位の濃度やレベルをどこまで制御する必要があるかを検
証する必要があり、本論文で述べた手法や、新たなる解析方法により結晶性とデバイス特
性の更なる詳細な相関を得ることが課題となる。また、エッチング技術や再成長技術、イ
オン注入法など従来、Si や GaAs で用いられているプロセス技術が GaN においても利用可
能になりつつある。それにより、GaN においてもデバイス構造の工夫がさらに容易になり、
それに伴い特性改善が見込まれる。また、新たな周波数資源であるミリ波応用や、エネル
ギー問題の解決策の一つとして高効率パワーデバイスの開発が求められている。その開発
指針として過去の電子デバイス開発における技術の蓄積を踏まえ GaN に対して応用してい
く必要があると考えられる。GaN 系電子デバイスの研究は開発が始められて以来、十数年
で目覚しい発展を遂げている。しかし、GaN の物性特性を十分に発揮するまでにはいたっ
ておらず、本論文で得られた知見が開発の一端を担えるものと思われる。
- 94 -
第六章 結論
- 95 -
謝辞
本研究を行うにあたり学部生時より長年にわたり、終始懇切なるご指導を賜りました徳島
大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部先進物質材料部門
大野泰夫
教授に心より感
謝申し上げます。
論文の審査ならびに適切なご助言、ご指導を頂きました徳島大学大学院ソシオテクノサイ
エンス研究部先進物質材料部門
酒井士郎
イエンス研究部情報ソリューション部門
教授、ならびに徳島大学大学院ソシオテクノサ
小中信典
教授に感謝申し上げます。
試料作製のご指導およびご助言を頂きました徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研
究部先進物質材料部門
敖金平
講師に感謝申し上げます。
試料作製および測定評価においてご尽力を頂きました徳島大学大学院ソシオテクノサイ
エンス研究部先進物質材料部門
直井美貴
准教授、西野克志
准教授、富永喜久雄
准教
授に感謝申し上げます。
試料の提供およびご助力を頂きました株式会社パウデック
河合弘治
氏、ならびに同社
社員の皆様に感謝申し上げます。ご助力およびご助言を頂きました有限会社ワイ・システム
ズ
イーヴ・ラクロワ
氏、ならびに同社社員の皆様に感謝申し上げます。試料の提供を頂
きました日亜化学工業株式会社の皆様に感謝申し上げます。ご助力を頂きました住友電気工
業株式会社の皆様に感謝申し上げます。
実験装置の保守管理および装置作製においてご尽力頂きました徳島大学大学院ソシオテ
クノサイエンス研究部総合技術センター分析・解析技術分野
測・制御技術分野
氏、玉谷純二
育成研究室
桑原明伸
氏、大崎貴之
佐野伸子
氏、山中卓也
稲岡武
氏、同センター計
氏、同センター設計・製作技術分野
森本努
氏、ならびに徳島大学産学官連携プラザベンチャービジネス
氏に感謝申し上げます。
最後に、酒井研究室および富永研究室の皆様と、日ごろの研究活動におけるご指導と有益
な議論を頂きました京セラ株式会社
西薗和博
氏、ならびに豊田中央研究所
菊田大悟
氏をはじめ大野研究室の卒業生・在籍者のすべての皆様に心より感謝の意を表します。
平成 20 年 3 月
岡田
政也
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研究業績
Ⅰ. 主著論文
[1] Masaya Okada, Ryohei Takaki, Daigo Kikuta, Jin-Ping Ao and Yasuo Ohno
“Temperature and Illumination Dependence of AlGaN/GaN HFET Threshold
Voltage”
IEICE TRANS. ELECTRONICS E89-C NO. 7 (2006) 1042.[第四章]
[2] Masaya Okada, Kazuaki Matsuura, Jin-Ping Ao, Yasuo Ohno and Hiroji Kawai
“High-Sensitivity UV Phototransistor with GaN/AlGaN/GaN Gate Epi-Structure”
phys. stat. sol. (a) 204, No. 6 (2007) 2117.[第五章]
[3] Masaya Okada, Hideki Ito, Jin-Ping Ao and Yasuo Ohno
“Mechanism of AlGaN/GaN Heterostructure Field Effect Transistor Threshold
Voltage Sift By Illumination”
to be published in Jpn. J. Appl. Phys.[第四章]
Ⅱ. 主著国際会議
[1] Masaya Okada, Ryohei Takaki, Daigo Kikuta, Jin-Ping Ao and Yasuo Ohno
“Temperature and Illumination Dependence of AlGaN/GaN HFET Threshold
Voltage”
6th Topical Workshop on Heterostructure Microelectronics, TuD-7, Hyogo Japan,
2005.[第四章]
[2] Masaya Okada, Kazuaki Matsuura, Jin-Ping Ao, Yasuo Ohno and Hiroji Kawai
“High-Sensitivity UV Phototransistor with GaN/AlGaN/GaN Gate Epi-Structure”
International Workshop on Nitride Semiconductors 2006, WeDE2-6, Kyoto Japan,
2006.[第五章]
Ⅲ. 共著論文
[1] Daigo Kikuta, Ryohei Takaki, Junya Matsuda, Masaya Okada, Xin Wei, Jin-Ping Ao
and Yasuo Ohno
“Gate Leakage Reduction Mechanism of AlGaN/GaN MIS-HFETs”
Jpn. J. Appl. Phys. 44 (2005) 2479.
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[2] Kazuhiro Nishizono, Masaya Okada, Minoru Kamei, Daigo Kikuta, Kikuo Tominaga,
Yasuo Ohno and Jin-Ping Ao
“Metal/Al-doped ZnO Ohmic Contact for AlGaN/GaN High Electron Mobility
Transistor”
Appl. Phys. Lett. 84 (2004) 3996.
Ⅳ. 共著国際会議
[1] Kazuhiro Nishizono, Masaya Okada, Minoru Kamei, Kikuo Tominaga, Jin-Ping Ao
and Yasuo Ohno
“Al-doped ZnO Intermediate Layer for AlGaN/GaN HEMT Ohmic Contact”
The 2003 International Conference on Solid State Devices and Materials, P5-12,
Tokyo, Japan, 2003.
[2] Daigo Kikuta, Ryohei Takaki, Junya Matsuda, Masaya Okada, Xin Wei, Jin-Ping Ao
and Yasuo Ohno
“Gate Leakage ReductionMechanism of AlGaN/GaN MIS-HFETs”
The 2004 International Conference on Solid State Devices and Materials, D-6-1,
Tokyo, Japan, 2004.
[3] Jin-Ping Ao, Ryota Kan, Toshio Hirao, Hideki Okada, Masaya Okada, Daigo Kikuta,
Shinobu Onoda, Hisayoshi Itoh and Yasuo Ohno
“Gamma Radiation Effects on the Ohmic Contact of AlGaN/GaN HEMTs”
The 2005 International Conference on Solid State Devices and Materials, I-6-1, Kobe
Japan, 2005.
[4] Cheng-Yu Hu. Kazuaki Matsuura, Masaya Okada, Jin-Ping Ao and Yasuo Ohno
“Ohmic Contact for Dry-Etched p-GaN Realized by High Temperature Annealing”
7th Topical Workshop on Heterostructure Microelectronics, ThC-7, Chiba, Japan,
2007.
[5] Jin-Ping Ao, Yuya Yamaoka, Masaya Okada, Cheng-Yu Hu, and Yasuo Ohno
“Investigation on Current Collapse of AlGaN/GaN HFET by Gate Bias Stress”
7th Topical Workshop on Heterostructure Microelectronics, FrB-5, Chiba Japan,
2007.
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[6] Cheng-Yu Hu, J.-P. Ao, M. Okada, M. Sugimoto, T. Uesugi, T. Kachi, and Y. Ohno
“Low Resistance Ohmic Contact Formation to Dry-Etched p-GaN”
The 34th International Symposium on Compound Semiconductors, Kyoto Japan,
2007.
Ⅴ. 国内発表
[1] 岡田政也、亀井稔、西園和博、敖金平、富永喜久雄、大野泰夫
「ZnO/Metal を用いた AlGaN/GaN HEMT 用オーミック電極の検討」
第 64 回応用物理学会学術講演会、1a-P7-18、2003 年 9 月
[2] 岡田政也、菊田大悟、敖金平、大野泰夫
「AlGaN/GaN HFET パルス I-V 特性シミュレーション」
電子情報通信学会 2004 年総合大会、C-10-19、2004 年 3 月[第二章]
[3] 岡田政也、高木亮平、菊田大悟、敖金平、大野泰夫
「AlGaN/GaN HFET 電流電圧特性における光応答」
第 65 回応用物理学会学術講演会、2a-ZS-4、2004 年 9 月[第四章]
[4] 岡田政也、高木亮平、菊田大悟、敖金平、大野泰夫
「AlGaN/GaN HFET しきい値電圧の温度および光照射依存性」
第 52 回応用物理学関係連合講演会、31a-S-9、2005 年 3 月[第四章]
[5] 岡田政也
「AlGaN/GaN HFET 用エピ基板バッファ層の温度特性および光照射による評価」
第 66 回応用物理学会学術講演会、8p-W-7、2005 年 9 月[第三章]
[6] 岡田政也、松浦一暁、敖金平、河合弘治、大野泰夫
「GaN キャップ層ピエゾ電荷を用いたエンハンスメントモード AlGaN/GaN
第 67 回応用物理学会学術講演会、31p-ZB-16、2006 年 9 月
[7] 岡田政也、国貞雅也、敖金平、河合弘治、大野泰夫
「GaN/AlGaN/GaN フォトトランジスタを用いた UV センサ回路」
電子情報通信学会 2007 年総合大会、C-10-10、2007 年 3 月[第五章]
[8] 西薗和博、岡田政也、亀井稔、敖金平、富永喜久雄、大野泰夫
「AlGaN/GaN に対する ZnO オーミック電極の検討」
第 50 回応用物理学関係連合講演会、29p-ZF-8、2003 年 3 月
HFET」
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[9] 亀井稔、岡田政也、西薗和博、敖金平、富永喜久雄、大野泰夫
「AlGaN/GaN 上 ZnO:Al スパッタ膜の電気特性評価」
第 50 回応用物理学関係連合講演会、28a-S-7、2003 年 3 月
[10] 亀井 稔、岡田政也、西薗和博、敖 金平、富永喜久雄、大野泰夫
「AlGaN/GaN 上 ZnO:Al 膜のアニール特性評価」
平成15年度電気関係学会四国支部連合大会、11-8、2003 年 10 月
[11] 西薗和博、岡田政也、亀井 稔、敖 金平、富永喜久雄、大野泰夫
「ZnO : Al キャップ層を用いたセルフアラインリセス構造 AlGaN/GaN HFET」
第 51 回応用物理学関係連合講演会、30p-S-18、2004 年 3 月
[12] 高木亮平、岡田政也、菊田大悟、敖 金平、大野泰夫
「AlGaN/GaN
HFET のサイドゲート効果における光の影響」
日本物理学会中四国支部、応用物理学会中四国支部、物理教育学会四国支部連絡協議会
2004 年度支部学術講演会、Ap2-4、2004 年 7 月[第三章]
[13] 高木亮平、岡田政也、菊田大悟、 敖 金平、 大野泰夫
「熱酸化による AlGaN/GaN MIS-HFET ゲート電流の低減」
第 52 回応用物理学関係連合講演会、30p-YC-5、2005 年 3 月
[14] 菅良太、平尾敏雄、小野田忍、伊藤久義、岡田英輝、岡田政也、菊田大悟、敖金平、
大野泰夫
「AlGaN/GaN
HFET 電気特性へγ線照射の影響」
第 66 回応用物理学会学術講演会、8p-W-8、2005 年 9 月
[15] 敖金平、長岡史郎、岩崎聡一郎、岡田政也、大巻雄治、大野泰夫
「EB 露光 Cu ゲート AlGaN/GaN HFET の高周波特性」
第 53 回応用物理学関係連合講演会、24a-ZE-14、2006 年 3 月
[16] 石尾隆幸、岡田政也、敖 金平、廣瀬和之、河合弘治、大野 泰夫
「AlGaN/GaN HFET しきい電圧の温度依存性の測定」
第 67 回応用物理学会学術講演会、1a-ZB-2、2006 年 8 月[第四章]
[17] 山岡優哉、 岡田政也、 敖 金平、河合弘治、大野 泰夫
「AlGaN/GaN HFET しきい電圧のゲートストレスバイアス依存性」
第 67 回応用物理学会学術講演会、1a-ZB-3、2006 年 8 月
[18] 敖 金平、澤田剛一、新海聡子、岡田政也、胡
成余、廣瀬和之、河合弘治、大野泰夫
「TiN ゲート AlGaN/GaN HFET の特性評価」
第 68 回応用物理学会学術講演会、6p-K-6、2007 年 9 月
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[19] 胡
成余、岡田政也、敖 金平、大野泰夫
「Ni 処理を用いたドライエッチ p‐GaN への低抵抗オーミック形成」
第 68 回応用物理学会学術講演会、6a-K-6、2007 年 9 月
[20] 澤田剛一、新海聡子、敖 金平、岡田政也、胡
成余、廣瀬和之、河合弘治、大野泰夫
「n‐GaN への高温処理 ZrN 電極ショットキー特性」
第 68 回応用物理学会学術講演会、5a-K-4、2007 年 9 月
[21] 野久保宏幸、岡田政也、胡
成余、敖 金平、大野泰夫
「GaN MIS ダイオードによる絶縁膜界面評価」
第 68 回応用物理学会学術講演会、4p-N-10、2007 年 9 月
[22] 大野泰夫、山岡優哉、岡田政也、胡
成余、敖 金平
「ゲートストレスバイアスによる AlGaN/GaN MIS HFET の電流コラプス評価」
第 68 回応用物理学会学術講演会、4p-K-13、2007 年 9 月
Ⅵ. 受賞
[1] 岡田政也
応用物理学会講演奨励賞
「AlGaN/GaN HFET しきい値電圧の温度及び光照射依存性」
2005 年 9 月 7 日
Ⅶ. 特許
[1] 発明の名称:半導体光検出器
特許出願番号:特願 2006-137713(平成 18 年 5 月 17 日)
特許公開番号:特開 2007-311475(平成 19 年 11 月 29 日)
発明者:大野泰夫、河合弘治、岡田政也、敖金平