C2-3 凧による航空風力を利用する風力発電の基礎研究

C2-3 凧による航空風力を利用する風力発電の基礎研究
Airborne Wind Energy Employed with Kite
藤井 裕矩**
Hironori A. FUJII
Abstract: A fundamental study is reported on an
airborne wind energy employed with the
airborne technique of a kite and a glider. Air
wind energy produced by the kite and the glider
is transferred through tether to a generator
placed on the ground and the efficiency of the
energy transfer through tether is examined by
wind tunnel test and field demonstration.
Results of experiment show sufficient effective
energy transfer through the tether.
1. はじめに
高空の安定した強い風力を用いた発電手法は、
風力発電における有効な手法の一つと考えられる。
このような試みの一つとして洋上風力発電のように
大型化するものがある。一方、大型の風車を構築す
ることなく高空の風力を用いる方法として凧や気球
などを用いる手法がある。
凧を用いて風車の高空への設置はすでに 1980
年代から試みられている 1)。しかしながら、材料技
術の進歩による軽量化や電子技術による自動化の未
適用、さらには、エネルギー伝達手法の困難さから
決定的な実用化の域に達していないようである。
直線翼風車
発電機
テザー
Fig.1 凧を用いた風力発電の概念図
しかしながら、先進的な技術を用いて高空の風力を
利用する試みとして、1)ヘリウムガスなどを用い
て風車を浮揚させる飛行船型、2)パラグライダー
のようなパラシュートを用いて浮揚させる柔軟翼凧
型、3)グライダーや航空機モデルを用いて浮揚さ
Fig.2 グライダーを用いた風力発電の概念図
*平成 26 年 11 月 28 日第 36 回風力エネルギー利用シンポジウムにて講演
** 会員 神奈川工科大学工学部 〒243-0292 神奈川県厚木市下荻野 1030
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せる飛行機型、などがある。これらは剛体機体か、
柔軟機体かで分類される。
また、重量のある発電機を高空に持ち上げるか、
地上に設置するかでも二つに分けることができる。
前者の場合、高空で発電した電力を地上に移送する
必要があるが、高空に設置された発電機を導電性の
ある電線で地上とつなぐ必要がある。後者の場合、
高空で得た風力エネルギーを地上の発電機に送る工
夫が必要になる。
さらに、高空の風速をそのまま、すなわち正対
して受けるか、自ら飛行してその飛行速度を加えた
風力を利用するかでも二つに分けることができる。
ここでは、先端的技術として宇宙テザー技術を用
いて高空で得られた風力エネルギーを地上に伝達す
る手法について検討を行い、二つの手法を提案し、
これらについていくらかの実験結果を得たので報告
する。
2. テザーを用いたエネルギー伝達手法
ここで提案する二つの手法は、1)凧を用いた
風力発電(Fig.1)ならびに、2)グライダーを用い
た風力発電(Fig.2)、である。
いずれも、重量物である発電機を地上に設置し、
凧、または、グライダーを高空に浮遊させて、テザ
ーによって高空で得た風力エネルギーを伝達するも
のである。
テザーによって伝達されるエネルギー
(仕
事率)
はテザー張力とテザーの速度の積になるので、
伝達における損失は原則的にゼロである。
1)凧を用いた風力発電手法は、通常の伝統的
な凧上げであって、ヘリウムによる浮揚力を付加し
た凧に風車をつけ、風車の回転によるエネルギーを
地上に設置した発電機に送るものである。この時、
凧の姿勢・高度制御とともに、テザー張力、ならび
に、
テザー全体の長さの調節が技術的な課題となる。
このため現在、法的な規制も考慮して高度は 100m
程度でを想定している。
2)グライダーを用いた風力発電手法は、テザ
ーで発電機につなげたグライダーを高空に8ノ字飛
行をさせ上昇とともにテザーの張力で発電機を回転
させて発電する。ある程度高度があがると、短い時
間上昇開始高度まで降下飛行して再度8ノ字飛行で
上昇させる。この降下飛行の間は発電しないが上昇
時の 5 分の1程度であり、全体として十分な発電量
を得ることができる。高度は 600m程度を想定して
おり最大 2.5MWクラスの発電を目標としている。
3. 凧を用いた風力発電
風洞内に風車モデルを置き、下部においた発電
Fig.3 風洞実験
Fig.4 テザーによるエネルギー転送効率の比較
機とテザーで結び、テザーによる送電効率を実験的
に検討した。実験装置の写真を Fig.3 に示す。ここ
で、風洞は神奈川工科大学の測定部 600mm×
600mm ゲッチンゲン型風洞であり、風車の風洞実
験モデルは直径 0.138m、翼幅 0.2m×2 組のブレー
ドによる直線翼風車であり、基礎実験においては翼
型には性能のよく知られている NACA4412 を用いて
いる。
発電機はボールベアリング組込で 鉄心を用い
ないコキングレスのスカイ電子 HR125 を用いて、適
宜抵抗を付加し対応させている。
テザーによるエネルギー伝送効果を見るため
に、
長さの異なるテザーを用いた発電量を検討した。
この結果を Fig.4 に示す。ここで、"Direct"と表示
した結果は、風車から係留プーリーを通して発電機
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をほぼ直接につなげた時のテザー長さを 0.540mと
した場合であり、"Tethered"と表示したものは風車
と発電機を 1.920mと大きく離した場合である。さ
らに、"Kite Powered" と表示したものは風車を固定
せず凧のモデルから吊り下げた場合である。
テザーによるエネルギー伝達は、テザー張力とテ
ザー繰りだし速度に依存し、理論的にはいずれも変
化しないのでエネルギー損失はない。これは、以上
の発電特性の実験結果からも確認することができる。
したがって、テザーを用いたエネルギー伝達は、プ
ーリー、ギアなどの損失を考えなければ張力を適切
に制御することによって損失なく行えることが分か
った。
ただし、テザーの柔軟性と一様性が伝達性能に大
きな効果を持ち、かつ、張力制御が極めて重要な技
術となることが分かっている。
本手法においては宇宙テザー技術における微小な
張力測定と制御手法を応用する予定である 2),3)。
4. グライダーを用いた風力発電
実験時飛行中のグライダー垂直尾翼に取り付
けたカメラからの画像を Fig.5 に示す。この時に用
いたグライダーは発電コンセプト実証機であり、翼
幅 5.5m の 10kW 級である。現在は翼幅 10m、発電
量 0.2MW の実用型プロトタイプを製作し実験に入
っている(Fig.6)。最終的には翼幅 30m,2.5MW 級の
ものにする予定である。これは複座のグライダー程
度のものとなるので、グライダー技術としては特に
問題ではない。
同じ 2.5MW 級の通常の風力装置(Vestas V52)
との規模の比較を Fig.7 に示す。通常の大型風車で
はブレードの先端部が最大速度となり発電量のほと
んどを占め、ブレードの根本部分などはデッドウェ
イトである。また、風車の最上部に働く風力によっ
て大きな曲げモーメントが働くのでタワー重量は増
加し、構造的強度が要求される。これに対して、本
手法では、グライダーの翼面すべてが飛行速度が加
わった風力に対してのブレードに相当するので構造
的にはもっとも有効となり、少ない重量の構造で済
む。
現在、Fig.6 に示した実用型プロトタイプを用
いて、離陸ー上昇ー8ノ字飛行経路投入ー降下の一
連のプロセスを含む自律飛行について試験を行って
いる段階である。
本機は、
プロペラを装備しており、
これによって発電できるので、時間無制限で狭い範
囲での離発着が可能である。
実験では2 時間を超える連続した飛行のデモン
ストレーションを行った。この実用型プロトタイプ
Fig.5 垂直尾翼から見た飛行中のグライダー
(コンセプト実証機)
Fig.6 実用型プロトタイプと 90kW 発電機
Fig.7 大型風車(Vestas V52)との比較
の一世代前の機体である発電コンセプト実証機の飛
行データの解析が終わっており、その結果の一部を
Figs.8~9 にしめす。ここで、ウィンチで測定したケ
ーブルの張力の実験結果を Fig.8 に、これによる発
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電量を Fig.9 に示す。
これらの実験結果をもとに、数値シミュレーショ
ンモデルを改良し解析を行った。その結果、この発
電量は実際に地上で得られると考えられ風力発電手
法の有効性を示すものである。
解析により、最大のケーブル張力による発電量曲
線の検討を行った。それによって得られた興味深い
結果は、実際のテザーの空気抵抗がグライダーの飛
行性能に非常に大きな影響を持つことである。発電
量については風速に対して3乗則が成り立つが、細
いテザーでは風速の低いところで張力が最大になり、
その後風速が増えるとほとんどの領域で張力増加は
直線的になる。したがって、より太いテザーのほう
が風速に対する 3 乗増加則が高速域まで延びるので
好ましいように思われる。しかし、テザーが太くな
ると抵抗が大きくなり、低速域でも十分張力が得ら
れないばかりか、不必要な大きな抵抗増加が生じる
ことになる。このため、テザーの太さの検討が重要
である。
5.まとめ
高空の安定したより強い風力を用いて発電する方
法について 2 つの方法を提案し、これまで得られた
知見を報告した。これらは、古くから人類が経験を
持つ、凧とグライダーの手法を用いて風車を高空に
浮揚させる方法であり、いずれも重量のある発電機
を地上に設置する。このとき、高空で得られた風力
エネルギーをテザーを用いて地上の発電機に伝送す
るものである。いずれも、強風時などは地上に収納
できるので、地上設置型の通常の風力装置に比べて
簡単な構造にすることができる。
凧を用いる場合は、風に正対し風速を利用する
ものでテザー張力の適切な調整の下ではほとんど損
失なしに地上に風力エネルギーを送ることができる
ことが分かった。風車の軽量化、さらに、ヘリウム
ガスによる浮力の補助で凧を高空に安定に設置する
手法の確立を現在検討中である。
グライダーを用いる場合は、正対する風速に加
えてグライダーの飛行速度を加えた風力エネルギー
を得ることができる。実験においては現在数10
kW 級を試験中であり、最終的には 2.5MW 級の発
電能力を狙っている。発電が間欠的にはなるが、複
数機設置によるウインドファームなどを形成すれば
有望な発電手法が得られると思われる。
参考文献
1.Uwe Ahrens, Moritz Diehl, Roland Schmehl, ed.,
Airborne Wind Energy, Springer, 2013.
Fig.8 ウィンチでのケーブル張力
Fig.9 発電コンセプト実証機による発電結果
(2011 年)
2. Fujii,H.A., Fan,J., Watanabe,T., Kusagaya,T.
and Anma,K., “Tether Actuator to Control
Vibration of Space Structures,” 65th International
Astronautical Congress, Toronto, Canada. Sept.
29~October 3, 2014.
3.Fujii, H. A., and Mizuno, T., “Length
Measurement of Tape-Tether Deployed in Space
(Inverse-ORIGAMI Method),” Special Issue,
Transactions on Advanced Research IPSI Bgd
Internet Research Society, July 2013 Vol. 9 No. 2.
July 2013 Vol. 9 No. 2, pp.33-37.
4.Hironori A. Fujii, Yuskuke Maruyama, Yukihide
Motegi, and Kazuki Kida, “A Model Demonstration of
Kite-Type Windmill,” International Conference and
Exhibition, Grand Renewable Energy 2014, July
27-August 1, 2014, Tokyo Big Sight, Tokyo, Japan
5. Pim Breukelman, Michiel Kruijff, Hironori A. Fujii,
Yuusuke Maruyama, “A New Wind-Power Generation
Method Employed with High Altitude Wind,”
International Conference and Exhibition, Grand
Renewable Energy 2014, July 27-August 1, 2014,
Tokyo Big Sight, Tokyo, Japan
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