この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった 2014 年 3 月 31 日以前に発行されたものです。詳細は www.strategyand.pwc.com. で ご確認ください。 特集 ◎ マーケティングとメディアの未来 ショッパー・ マーケティングと インストア・ メディア 編者:岸本 義之 消費者の自宅でのタッチポイントではインターネットが革 大きな期待を集める分野 新を 起こし、自宅と店 舗 の間 の タッチポイントではスマート フォンが革新を起こしている。では肝心の小売店頭では何が 米国食品製 造 者協会( GMA )とブーズ・アンド・カンパニー 起きているのだろうか。それがショッパー・マー ケティングと が 2010 年に実 施した 第 4 回ショッパー・マー ケティング 調 査 呼ばれる革 新である。これは狭 義には小売 店頭での活動、よ によると、消費 財(食品、飲料、健 康 美容、日用品)メーカーの り広義には自宅、モバイル、店頭のすべてで顧客(ショッパー) 55% は、今後 3 年間でショッパー・マーケティングへ の支出を との タッチポイントを 緊 密 化 する活 動 をさ す。ショッパー・ 年 5% 以上増加させると回答している(図表 2 参照)。一方で従 マー ケティングに含まれる手 法 の 範 囲は広く、店内ディスプ 来型の販売促進や印刷媒体、テレビなどでは支出は減らすと レイ広告、クーポン、ダイレクト・マー ケティング、検 索、ソー 回答した企業のほうが、増やすという企業よりも多かった。この シャル・メディア、情報コンテンツ、アプリなどにわたり、伝統的 ことは、ショッパー・マーケティングが実際の消費者行動に与 手段 から進化したものと、デジタル手段として登場したもの える影響力に関する認識が高まっていることの表れといえる。 とが含まれる(図表1参照)。このなかで店舗内のデジタル端末 米国では従来からクーポンによる値引きが広く受け入れら を利用したもの(インストア・ビデオなどの画像 端末、それら れており、消費 者の購買行動のなかに、クーポン収 集という と連 動した電子クーポン系 の販 促)が 一 般 的にインストア・ 行動が自然と入り込んでいるが、それが今ではデジタルに置き メディアと呼ばれる。 換わり始めている(図表 3 参照)。メーカーの立場からすると、 広告 効率はメディア視 聴者の 分 散化によって低下し、大手小 売 業 か ら の 特 売 要 請 の プ レ ッ シャ ー は 強 まり、リ ー マ ン Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 7 2011 Summer 21 岸本 義之(きしもと よしゆき) ([email protected]) ブーズ・アンド・カンパニー 東 京オフィス のディレクター・オブ・ストラテジー。20 年以 上にわたり、金融機関を含む幅広い クライアントと共に、会社戦略、営業マー ケティング戦略、グローバル戦略、組織改 革などのプロジェクトを行ってきた。 図表1:ショッパー・マーケティングの全体観 ディスプレイ/ インストア広告 値引き販促 リレーションシップ・ マーケティング ソーシャル メディア 検索/ リスティング テーマ別 コンテンツ アプリ オフ・シェルフ 掲示/広告 チラシ ダイレクト・メール ブランデッド コミュニティ 検索結果への スポンサリング ブログ 価格比較 オン・シェルフ 掲示/広告 リベート ニュースレター 商品レビュー 商品・価格の比較 マイクロサイト 店舗案内 パッケージング/ 陳列 インストア クーポン 値引き・イベント・ サンプルの案内 ユーザー・ジェネレー モバイル・サーチ テッド・コンテンツ サイトレット バーコードスキャナ 店内サンプリング チェックアウト クーポン 個人化された eメール ソーシャル ショッピング 商品の在庫確認 短編ビデオ ショッピング リスト 店内イベント プリンタブル eクーポン ショート メッセージ 口コミ マーケティング バーチャル ディスプレイ デジタル・マガジン 購買 インストア・ビデオ eチラシ 個人化された トップページ マイクロ スポンサーシップ 二次元バーコード / QRコード 商品検索 デジタル/ 双方向キオスク カード直結型 クーポン ソーシャル・ゲーム 双方向TV /アプリ 商品の在庫確認 携帯スキャナ/ スマートカート モバイル/ロケーショ ン連動の販促 拡張現実 出所:ブーズ・アンド・カンパニー ショック以降の消費者の倹約志向の高まりによって値引きが デジタルな手段の試用を始めているメーカーが約半数に上って 常態 化してきているという厳しい 環 境である。こうしたなか いることが注目に値する。 で、消費者のブランド認知とロイヤルティ、さらに購買喚起に も効果のあるショッパー・マーケティングに期待がかかってい 目的別に最適な手段を る。ショッパー・マーケティングというと小売業 主導 のような 選択する 響きもあるが、むしろメーカーから小売店頭の消費者へ直接 語りかけ、小売 店 頭 からメーカー へと情 報のフィードバック 伝 統 的 な POP や クーポ ン はともかく、デジタルを 用 い た を行う仕組みである。 ショッパー・マーケティングにおいては、目的を明確化したう ショッパー・マー ケティングの 範 疇に含まれる活 動は多岐 えで、その目的にふさわしい手段を選 択し、消費 者の購買行 にわたっているが、そのなかで米国の消費 財メーカーが最も 動にうまくマッチするように設計したうえで、本格展開の段階 多用しているのが店内ディスプレイとクーポンである(図表 4 に進むことが必要になる。 参照)。店内ディスプレイには伝統的な POP 広告、クーポンに 店舗内での消費者行動にマーケターが働きかける目的は、 は伝統的なチラシ型のものも含まれており、ここだけを見る 大 別すると3 つある。1つは「認知および考慮」を高めることで とそれほど目新しくはない。しかし、店内ディスプレイにはイ あり、この目的においては店内ディスプレイが最も有 効に作 ンストア・ビデオ、クーポンにはデジタル・クーポンも含まれ 用する。過 去 に見 た 広告 の 多くは 消 費 者 の 意 識下 の 深くに ており、これらの 普及率も上 がってきている。一方、ソーシャ 追いやられており、店頭で自然と思い出されるわけではない。 ル・メディア、検索、情報コンテンツ、アプリといった本質的に しかし、店 頭ディスプレイが 有 効に機 能すれば、過 去 の広告 22 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 7 2011 Summer 特集 ◎ マーケティングとメディアの未来 図表 2:米国消費財メーカーの広告・販促支出の変化 (今後 3 年間の自社の支出の変化予測) ソーシャル・メディア 41% ネットのブランド広告 52% 45% ショッパー・マーケティング 41% 28% 55% モバイル・マーケティング 3% 自社メディア 3% 34% 24% リスティング広告 10% 34% 24% 消費者販促 3% その他媒体 7% テレビ 14% -14% 印刷物 17% 値引き販促 7% 45% 10% 28% 17% 14% ショッパー・ マーケティングの 伸び率の予想が 最も高い 3% 24% 17% 38% 7% 7% 24% 7% 14% 24% 10% ■5%以上の削減 ■5%以内の削減 ■5%以内の増加 ■5%以上の増加 出所: GMA、ブーズ・アンド・カンパニー 図表 3:米国消費者の値引き利用状況 (買い物回数の半数以上で下記の値引きを利用していますか?) 71% 新聞チラシを確認 59% 新聞チラシのクーポンを切り抜き 小売店のサイトで値引きの案内を確認 42% インターネットのクーポンを印刷 42% 小売店のサイトからクーポン入手 30% クーポン専用サイトからクーポン入手 29% 27% メーカーのサイトからクーポン入手 小売店の値引き案内を他社サイトで確認 17% ロイヤルティ・カード連動のクーポン利用 16% 一般サイトからクーポン入手 携帯電話でクーポン入手 62%の消費者は 買い物回数の 半数以上で デジタルの値引き を利用している 11% 5% 出所: GMA、ブーズ・アンド・カンパニー Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 7 2011 Summer 23 図表4:米国消費財メーカーによる利用率 (下記の手法をどの程度利用していますか?) 店内ディスプレイ/インストア広告 3% クーポン/値引き販促 1% リレーションシップ・マーケティング 3% ソーシャル・メディア テーマ別コンテンツ アプリ 4% 4% 2% 18% 27% 4% リスティング広告 13% 46% 39% 46% 36% 46% 47% 25% 49% 33% 43% 22% 43% 38% 15% 15% 16% 6% 15% 2% 7% 4% 7% 3% 10% 4% ■未利用・今後の意向もなし ■未利用・今後の意向あり ■たまに利用 ■頻繁に利用 ■いつも利用 ■ 出所: GMA、ブーズ・アンド・カンパニー (もしくは自身の記憶、他人からの推奨など)を思い出しても 画面で利用するクーポン、特典がカードに直接読み込まれる らうことができる。自宅などで見る広告は「認 知」に作用した クーポンなどが登場しているが、これらのデジタル・クーポン としても、その次の段階である「購買考慮」に進む率はそれほ はネットやモバイルの広告とも連 動させやすい点と、顧客 ID ど高くならないが、店頭で見る広告は「認知」からすぐに「購買 を 特 定して配 布 できる点 が 新たなメリットである。さらには 考慮」の段階に達しやすい。新たな技術のなかでは、情報コン モバイル端末アプリとも連 動し、時間、場所、人を特定してプ テンツ提 供に注目が 集まる。調 理 のレシピや、ハウツー のビ ロモーション・メッセージを送ることも可能になっている。伝 デオなど、ウェブ上で提 供されているようなコンテンツをモ 統 的クーポンが 価 格志向のター ゲット顧客を 価 格で引き込 バイルやインストア・ビデオなどにも転 用すれば、 「 今日はこ むことを目的としていたのと比べると、デジタル・クーポンは のメニューにしよう」 「 ではこの食 材と調味料を買おう」とい 価格志向ではないターゲット顧客に対しても有効であり、商 う具合に購買考慮に進みやすい。インストア・メディアの多く 品の特 徴を訴求して試用購買につなげる(その後のリピート はこの目的のために実施されている。 にもつなげる)ことが可能になっている。 目的の 2 つ目は「試 用購買」を促 進することである。この 分 目的の 3 つ目は「ロイヤルティと推 奨」を促 進することであ 野ではクーポンが米国で多用されてきた。伝統的クーポンは る。デジタル・クーポンなどで試用してくれた 顧客には eメー 新聞チラシもしくは店内で配布されるものであり、利用され ルなどでフォローアップ を行い、再購買を促すことが可能で たクーポンが店頭で回収されるために、利用者の数を計 測す ある。リピート購買に応じてポイントがたまるというかたちの ることが容易(つまりクーポン販促のリターンの計算も容易) プロモーションを(小売業ではなく)メーカーが行うことも可 な点がメリットである。単なる特売では顧客全 員に対する値 能になる。従 来はメーカーが顧客に直接働きかけることは難 引きになってしまうが、クーポンであれば価格志向の強い顧 しく、eコマースで直接販売しようとすると「小売店はずし」で 客のみに値引きを提 供できるため、利益を大きく損なうこと はないかと大手小売の反発を受けることになりやすかった。 なく試 用 購買を 促 進 できる。近 年ではこれ がデジタル・クー しかし、店頭 購買を促すようなプロモーションをモバイルで ポンに進化している。自宅で印刷して利用するクーポン、携帯 個人 別に行うのであれば、 「 小売店はずし」にならずに顧客と Booz & Company 24 M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 7 2011 Summer 特集 ◎ マーケティングとメディアの未来 の接点を緊密化できる。ヘビーユーザーに消費が集中する傾向 揮を取らないといけなくなる。時として、メーカー社内の部門 のある商品(酒、タバコ、嗜好品)のメーカーにとっては、ヘビー の壁を打ち破ることのほうが難題になるかもしれない。マー ユーザーとの 接 点を直 接 作り出すことのメリットは大きい。 ケティング部門はマス広告に特化し、小売業との接点は営業 さらにはソーシャル・メディアを使って他者に「推奨」を広めて 部門任せで、各々が決まりきった活動をしてきたという企業 もらえれば、なおさら効果的になる。自分の買った商品を他者 の場合、部門の 壁を 越 えて新たな 取り組みを行うことは、意 に推奨するというのは、最もロイヤルティの高い行動であり、 外とさまざまな困難を伴う。 この推奨行動がどの程度 起きているかを計測することは、表 最後に重要なのが、タイムリーに効果を測定することであ 面的な顧客満足度調査よりも有意義と考えられている。 る。マス広告中心のマーケティング・サイクルは数カ月単位の ゆっくりとした周期になりがちであるが、ショッパー・マーケ ショッパー・マーケティングに ティング では顧 客 の反 応 が すぐに返ってくるために、そ の 効 必要な能力 果をすぐに測定し、結果を踏まえて次の打ち手に反映させる というサイクルを 速くまわすことが可能であり、必須でもあ ショッパー・マー ケティングはさまざまな活動を含むもの る。ショッパー・マーケティングでは多様な手段を組み合わせ であり、これを成 功させるためには組 織的な能力を高めるこ ているが、そのどの 部分へ の支出をより増やし、どの 部分は とが必 要になる。まず必 要になるのは、顧 客(ショッパー)に 縮小すべきかを迅速に判断することも重要になる。 対 する洞 察 力を高め ることであ る。これまでメーカーは、何 ケース売れたかだけを見ていればよく、それを何人 が買った のか(多数のライトユーザーなのか、少数のヘビーユーザーな 参考文献 のか)に関しては、データが入手不能であったこともあり興味 “Shopper Marketing 4.0: Building Scalable Playbooks That Drive を払ってこなかった。多くのメーカーにとって「顧客」とは小売 Results” by Matthew Egol, Report with GMA. 業を指す言葉であり、ショッパーを指すわけではなかった。し かし、今 後 は ショッパー と 直 接 の 接 点 を 作 ること が で き、 データも入手可能になるのである。 次に 重 要な点は 小売 業との 協 業 体 制 を 組むことであ る。 ショッパーとの関係性を作ることがショッパー・マーケティン グのゴールではあるが、そのためには小売 業 のアシストがな ければならない。効率的に売上を増やすことができるのであ れば小売 業にとってもメーカーにとってもWin-Winであり、 互いに協業する動機を持っている。 そして、戦 略 的な目的を定め、それにふさわしい 手法を 選 択 する。自社 の 商 品 が目指 すべきな の は「認 知と考 慮」な の か、 「 試用購買」なのか、 「 ロイヤルティと推 奨」なのか。それに 応じて、選択される手法も異なる。 その次に、クリエイティブの制作、プラットフォームの構築、 プログラムの実行へと作業が続いていく。マス広告とは異な り、クリエイティブ・コンテンツを作るだけでは作業は完結し ない。どのデジタル・プラットフォームを 使うのか、どの 技 術 を利用するのか、どの開発業者をパートナーに起用するのか、 決 定すべき事項は多い。関連するパートナー企業の数も多い ので、そ のとりまとめだけでも大 変 ではある。前例 のない 取 り組みであればあるほど、メーカーのマーケターが自ら総 指 Booz & Company M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 7 2011 Summer 25
© Copyright 2024 Paperzz