産業経済研究所紀要 第21号 2011年3月 論 文 自動車産業の未来と中部圏 ∼EV化の進展による構造変化∼ The Future of the World Automobile Industry and the Chubu Region: The Impact of the Expanding Electric Vehicle Market 鈴 木 正 慶 Masayoshi SUZUKI 中 津 道 憲 Michinori NAKATSU 永 井 義 明 Yoshiaki NAGAI 第1章 エコカーの市場成長動向 1.エコカーを中心とする自動車市場動向に関する整理 始めに自動車の世界市場規模の推移をみる。 図表1−1−1は2000年以降の世界自動車販売台数の推移を示している。2000年前半 から2006年にかけて販売台数は順調に増加した。しかし2007年のいわゆる世界金融・ 経済危機1)の表面化以降,一転減少に転じ2009年は6年ぶりに6,000万台を割り込む 水準にまで縮小した。 また2010年には各国の景気対策効果と新興国市場の急成長により約7,200万台規模 にまで膨らんだと見込まれる。特に新興国の発展は目覚ましく,なかでも中国市場は 約1,800万台と米国の約1,200万台を大きく上回り2年連続で世界第1位となった。人 口規模からみた潜在需要力と経済の成長力からみて,中国自動車市場は当面急テンポ の拡大が見込まれるということで,世界自動車市場は一大転換点を迎えている。 次にハイブリッド車(以下HVとする)の販売状況に注目する。2008年9月のリーマ ンショック前後からのガソリン価格の急上昇と高額耐久消費財の購入意欲の冷え込み は,世界の自動車販売を大きく減少させた。その中で米国オバマ大統領のいわゆるグ リーンニューディールの表明等を背景として,既に量産車として市場投入されていた HVに注目が集まった。 ― 125 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 図表1−1−1 世界の自動車販売台数の推移 7500 世 界 自 動 車 販 売 台 数 ︵ 単 位 万 台 ︶ 7000 6500 6000 5500 5000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 (年) 出所:世界自動車統計年鑑 HVは作動原理の異なる複数の動力源を備えており,走行時の状況に応じて動力源 を単独もしくは同時に使い分けることにより走行する。実際にはガソリンエンジンと 電気モーターの2つの動力源の使い分けといってよい。 我が国においては2009年2月に発売開始されたホンダ・インサイト,また同年5月 に投入された3世代目トヨタ・プリウスにエコカーの代表選手として関心が向けら れ,2009年車種別販売台数第1位と第3位を占めるにいたった。同年の我が国の自動 車年間販売台数は約460万台に対し,プリウス約21万台,インサイト約9万台で両車 合計約30万台,シェアにして約6.5%である。 2010年における我が国の自動車年間販売台数は約495万台,そのうちプリウスが約 32万台,インサイト・約4万台,サイ・約3万台,また三菱i−MiEVは約3千台と みられエコカーの合計販売台数はおよそ40万台前後,シェアにして約8%と推定さ れ,ふた桁のシェアまでもう一歩のところである。 2010年末にはホンダがフィット,GMがシボレーボルトを投入し,トヨタは全車種 HV取り揃えを目差しレクサス含め着々とHVの品揃えを充実させている。GM, フォードの米国企業も1,500cc前後の小型HVの投入予定を発表しているだけに,ド イツ車も含めHVを中心とするエコカー市場は成長に向けてドライブが掛かりつつあ るとみられる。 なおプラグインハイブリッド車(PHV)の進展動向にも注目する必要がある。トヨ タ,ホンダともに 2012 年にPHVの市場投入を予定している。PHVは高性能なリチ ウムイオン電池を搭載し家庭電源でも充電可能とされる。これまでの発表ではPHV ― 126 ― 自動車産業の未来と中部圏 のEVだけでの航続可能距離は25km前後とされている。買い物など日常のタウン走 行であればPHVのEV走行だけで間に合いそうであるし,バッテリー切れの恐れの あるときはHV走行となるだけにコストダウンの進展次第ではエコカーの中心に位置 づく可能性も否定できない。 続いて電気自動車(EV)の販売状況について述べる。 電気自動車(以下EVとする)は,一般に充放電可能な二次電池から電力供給を受 け電動モーターによって走行する。電動のため走行中にCO2 やNOx,PMを排出しな い。通常,発電所段階でのCO2 の発生面を考慮したうえでEVの優位性をみるなら 「小型電気自動車のCO2 発生量換算では小型ガソリン車のおよそ1/4弱」2)との試算 もなされており,EVの環境面での優位性は上位である。 EVとして世界初の量産車・三菱i−MiEVは2009年央に市場投入された。リチウ ム二次電池を用いた世界初のEV量産車である。また2010年末には日産リーフも発売 され,市場においてのEVの認知度も急速に高まってきた。 EVのメリットとしては,上述のように走行中のCO2 等の排出が無いといったこと だけでなく騒音が極めて小さい,また部品点数が内燃機関に比して大幅に少なくシス テムの単純化が可能なことなどが指摘できる。他面デメリットとしては,二次電池が 現時点で高額かつ大重量でかさばること,航続距離が短いこと,二次電池の充電に時 間が掛かり過ぎること,及び充電ステーションのインフラ未整備等が指摘できる。こ のようなEVのデメリットの殆どは実は二次電池の課題といってよい。 このようなメリットとデメリットの現状を総合的に捉えるなら,EV化は二次電池に 関する今後の研究・技術開発,製品化の進展次第とみることができる。環境対応面で の大きなメリットを踏まえるなら,EV化に向けた我が国の研究・技術開発のスピー ドアップに大いに期待したいところである。 2.HV・PHV・EV進化の方向 前述のとおりHVとは,作動原理の異なる複数の動力源を備え走行時の状況に応じ て動力源を単独もしくは同時に使い分けることによって走行するクルマのことをい う。動力源としてはガソリンエンジン,電気モーター,ガスタービン,ロータリーエ ンジンなどの幾つかの駆動系の組合せが想定される。ただし,現状では「ガソリンに よるレシプロエンジンと電気モーター」の組合せが中心である。 さて,このようなHV市場の将来変化の方向を検討してみたい。図表1−2−1は 「プロダクトとプロセスのイノベーションとインプルーブメント」について一般論を マトリックス整理するとともに,既存自動車,HV,EV等の現状位置を捉え,将来 変化の方向を考察するため基礎的資料として作成したものである。 我が国は伝統的にモノを洗練させることに優れている。過去を振り返ってみると ― 127 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 1970年代から1980年代に掛けて日本の製造業は世界に誇れる品質と低コストを実現し た。その時代の日本の国際市場での優位性は,従来からのビジネスモデルの改善と磨 き上げ,及び従来からの既存製品の磨き上げ(改良,改善)によって性能と品質アッ プを実現させたものであった。この努力はプロダクトのインプルーブメントとともに 製造プロセスのインプルーブメントによって達成された。既存の同種モデルのもとで の競争に関してはインプルーブメントによるモデルの錬磨競争に突き進むことが有効 だといわれる3)。 さて同図のマトリックス上に,エコカーの発展の現状位置を示した。まずプロダク トとプロセスともにインプルーブメントのステージには,「マツダ:清ら(直噴エンジ ン用アイドリングストップ機構搭載)」,「メルセデスベンツほか欧州メーカー:クリー ンディーゼル車」などが位置すると考える。 これまでのレシプロエンジンの技術錬磨により「マツダ・清ら」は10・15モード燃 費で32km/rを達成している。またディーゼル車はもともとCO2 排出は低水準で相 対的に燃費もよい(ガソリン車に比して2∼3割上回る)が,加えてNOx(窒素酸化 物),PM(粒子状物質)等の排出削減に取組み,平成21年排出ガス規制(ポスト新長 期規制)4)に適応する水準を達成したクリーンディーゼル車がここに位置づくと考え る。いずれも既存のプロダクトと製造プロセスのインプルーブメントによって実現さ れたとみる。 図表1−2−1 イノベーション・インプルーブメントとエコカー化 EV,FCV プ ロ ダ ク ト プロダクト イノベーション 画期的製品を 既存の製造技術で生産 画期的製品を 画期的製造技術で生産 PHV HV プロダクト インプルーブメント 既存製品の改良品を 既存の製造技術で生産 既存製品を 画期的製造技術で生産 CDV,GV プロセス イノベーション プロセス インプルーブメント プロセス (注)図中の英文字は以下を示す。EV・電気自動車,FCV・燃料電池車,HV・ハイブリッド車, PHV・プラグインハイブリッド車,CDV・クリーンディーゼル車,GV・ガソリン車 出所:中部大学・産業経済研究所作成 ― 128 ― 自動車産業の未来と中部圏 次にHVについてはマトリックス上のほぼ真ん中に位置すると考えている。上述の ようにHVは,既存のガソリンエンジンに電気モーターを加えた複数の動力源を備え たクルマである。勿論,その機構面の分類側面からみると違いが幾つか認められるも のの,基本的には2つの動力源を巧妙に制御するシステムを備えたクルマと見ること ができる。より具体的にはガソリンエンジン部分については既存のプロダクトとプロ セスのインプルーブメント,電気モーターと電池等の部分については新たな技術開発 によるプロダクトイノベーション及び製造プロセスのイノベーションに取り組んでい る成果が現状のHVだといってよい。すなわちHVは,同図マトリックス上のほぼ真 ん中に位置すると考える。またプロダクト,プロセスともにイノベーションの位置に あるのは,まさにEVとFCV(燃料電池車)と考える。EVは平成21年に三菱自動 車・i−MiEVによって世界で初めて量産車として市場投入された。富士重工のステ ラもそれに続いて市場投入された。 平成21年はEV元年といえる年であった。しかしまだまだエコカーの中心プレイ ヤーへと進展するためには航続距離の延長,充電時間の短縮化等の技術開発・技術 革新とともに製造コストダウンが不可欠の状況である。自動車産業に対して一層のイ ノベーションの必要性が迫られている。同じクルマとはいえこれまでのガソリンエン ジン車とEVでは全く異質なステージからのビジネスモデルが要請されている。 なおFCVについては,トヨタ自動車及び本田技研において既にクルマとしての基 本技術と製造技術面においてほぼ完成段階に到達しているといわれる。しかし水素を 安全に大量に安価に製造するための研究開発,及び水素供給インフラの社会的整備等 にまだ年月を要する段階で一段のイノベーションが要請されるステージにある。 同図に沿って改めて考察を加えたい。大胆に図中マトリックス上のクルマの位置, 及び縦横軸が有する性格を定性的に捉えるなら,マトリックス左下から右上方向に向 けてクルマの進化のベクトルを感じることができそうである。あたかも変化の潮流を 感じさせられる。単純化して述べるならガソリンエンジン自動車と電気自動車の2台 分の機能を併せ持つHVにおいて,技術開発努力の到達点は完全EV化することと いってもよさそうである。 3.EV化に向けての基本的課題と期待 EVの現状の問題点として以下が指摘される。 ・ 航続距離が短い ・ 二次電池への充電時間の長さ ・ 高額車になる ・ 充電施設始めケア・サービス施設がインフラとして未整備 ― 129 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 現段階においてのEVの航続距離はおよそ100km程度に過ぎず,また室内温度調節 のために暖・冷房を入れるとなるとさらに航続距離は短くなるというのが一般的見方 である。充電にも数時間を必要とするとともに社会的なインフラは未整備である。ま た特に二次電池が高コストであるため販売車両価格は高額になる。 このような問題点を背景としてこれまで電気自動車の市場投入は見送られてきた が,平成21年度に初の量産型EVが世に出て以降,急速にEV受け入れ態勢は整備さ れつつある。 しかし上述のような問題点は,インフラ未整備以外はそのほとんどが自動車用二次 電池の問題に行き着いてしまう。実は二次電池としての性能さえ進展すればEVが次 世代車として最も有望であることは関連技術者の殆どが認めてきたことである。 ところで,ガソリンエンジン車が「ガソリン&レシプロエンジン」で動くクルマに 対して,EVは「二次電池&電気モーター」で動くクルマである。つまり二次電池と ともにEVにとっては電気モーターの性能も極めて重要であるだけに各社は一層の技 術開発に向けて努力している。同時に既に一定の水準はクリアされているとも言われ ている。したがって,現段階において最も重視すべきは二次電池に対してであり, 「車載用電池はクルマの性能を決定する心臓部」といっても過言ではない。 さて,電気自動車普及上のネックとして認識されてきた二次電池性能が,HVへの 関心と信頼の高まりとともに急速に向上し始めたことも事実である。HVは平成22年 現在トヨタ・プリウス,ホンダ・インサイトともにニッケル水素電池を使用している。 ニッケル水素電池は単純な回路で充放電が可能,安全性が確立されている等の要因か らHV用の主流電池として使用されているが,EV向けとなると性能面において限界 がある。 EV用二次電池として現在,自動車メーカー,電気関連メーカーともに研究・技術開 発に注力しているのはリチウムイオン電池であり,EV化をめぐっての電池市場での 開発競争は一段と激しさを増している。特にこれまでの自動車完成車メーカーにと っての存立基盤がガソリンエンジン製造の内製化にあったことを考えるなら,EV時 代においては「電気モーター,車載用二次電池」の開発・製造の内製化が最大の戦略 テーマと位置づけられるはずである。事実,電気モーターについてはトヨタ,ホンダ, 日産ともに内製を志向し既に概ね実現させている。また車載電池に関しては電子電気 関連メーカーとの資本提携のもとに,いわばグループ内企業化を進展させている。 その中にあってトヨタ自動車がパナソニックとの共同出資会社・パナソニックEV エナジーへの出資比率を60%から80.5%へと引き上げることを予定している。パナソ ニックが三洋電機を子会社化するにあたっての対応結果と言われているが,トヨタ自 動車の出資比率が大きく高まることになる。 なお我が国の大学,研究所,民間企業等において,現在のリチウムイオン電池に代 ― 130 ― 自動車産業の未来と中部圏 わる次世代型革新電池の研究開発も重ねられている。 代表例として以下の3タイプがあげられる。 ・ リチウム硫黄電池 ・ 金属空気電池 ・ 多価イオン電池 ここでの詳述は割愛するが,現在のリチウムイオン電池の5∼10倍の性能アップが 見込まれる。経産省においても次世代型電池の開発,EVへの利用推進を強く謳って いるとおり,革新電池の研究開発はいわばオールジャパンで取り組むべきテーマであ る。同時に個別に有力民間企業レベルでの研究開発テンポも上がっており,今後の進 展が大いに期待されるところである。 ところで,これまでの成熟したガソリン自動車産業とは一線を画したベンチャー企 業が積極的に市場参入を果たしていることに注目する必要がある。日米欧を中心とす るガソリン自動車のトップ企業及びその顧客の多くはEVに対してもガソリン自動車 並みの航続可能距離,ゆとりある室内空間などを追い求めがちである。しかしながら 既存の有力完成車メーカーの多くが慎重なスタンスを継続しているうちにベンチャー 企業は次々にEVを市場投入している。米国のテスラモーターズ,フィスカ・オート モーティブ,中国のBYD,韓国のCT&Tなど多くのベンチャー企業が積極的に市 場開拓しつつある。特に中国においては,リン酸鉄系電池を使用するローコストなタ ウンカー・EVを国内標準にしようという動きがあり,小資本の新規参入企業がさら に輩出される可能性さえある。このようなEV市場におけるベンチャー企業の積極的 な市場参入の動向は,既に「スモール・ハンドレッド」時代が幕開けしていると言え る。 EV化がスモール・ハンドレッド時代をもたらす基本的な背景としては,EV化が 電気製品型のユニット化,モジュール化を進展させることによって擦り合せ・設計プ ロセスを簡略化させ,徐々にEVの組立を相対的に容易にしてしまうという一面を見 落とせない。ゼロエミッションとITとの相性もよいEV産業が,新たに強力なグロー バル・プレイヤーを産み出す可能性さえ感じさせる。ただし安心・安全への取組みは 常に最重要なテーマであることを見落としてはならない。 第2章 我が国のモノづくり特性に関する分析 中部大学経済産業研究所の昨年度(平成21年度)と今年度(平成22年度)との有識者 及び経営者に対するアンケート調査の結果1)2)から,中部圏の自動車産業にもEV化 ― 131 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 の波が押し寄せそうな兆候が現われて来ているように考えられる。中部圏を中心とし た我が国のモノづくりの在り方を考えるために,我が国のモノづくりの特性に関する 分析を行い,今後の展望を検討する基礎を構築することを目指した。 1. 「擦り合せ型」と「選択・組合せ型」の特徴と優位性 日本のモノづくりの特性を捉えようとする場合,日本の現実の生産現場に踏み込ん で研究を行うことが重要である。現代日本のモノづくりの中心となっている自動車産 業のモノづくり現場の研究が重要である。藤本隆宏教授のグループは長年の日本の自 動車産業の現場の研究から「擦り合せ型」,「選択・組合せ型」というモノづくりアー キテクチャーについてのモデル化を行い,日本のモノづくりの特徴,強み,弱みを分 かり易く捉えることに成功してきている3)。 「擦り合せ型」と「選択・組合せ型」というモノづくりアーキテクチャーの視点は, 日本のモノづくりを見るために極めて効果的な道具を与えていると考えられる。我々 はこの視点を使うことにより日本のモノづくりの風景をクリアに見ることができるよ うになったと思われる。しかし,今後10∼15年後の自動車産業を展望しようとする と,今までクリアに見えていたものが焦点の定まらない状態に陥ってしまった。具体 的には, ① EVの今後の普及を考えると,今までのガソリンエンジンの時代の「擦り合せ型」 アーキテクチャーから「選択・組合せ型」アーキテクチャーへ移行していくの か。もし移行していくならば,既存の完成車メーカーはどのような立場となる のか。 ② 「選択・組合せ型」となった場合,自動車業界のイニシアティブはどのような 企業が握ることになるのか。また,イニシアティブを握るよりどころとなるも のは何か。 ③ 現状のガソリンエンジンからEVへ徐々に移行するとした場合,「擦り合せ型」 「選択・組合せ型」の両方が同時に(場合によれば,同じ企業内で)存在するこ とになるのか。あるいは, 「擦り合せ型」 「選択・組合せ型」というタイプ分け があまり意味を持たなくなり,生産アーキテクチャーの変質が進んでいくのか。 ④ 「選択・組合せ型」の典型的な例として取り上げられるPC(パソコン)の事例 のように,ハードウェア製品では主要な部品メーカーのインテルが,ソフトウェ ア製品では,デファクトスタンダードとなったOSを提供しているマイクロソフ トがイニシアティブを握ったように,自動車業界の主要ハードウェア部品メー カーがイニシアティブをとるのか,マイクロソフトのような基盤ソフトウェア 部品を提供した企業が握るのか。 ― 132 ― 自動車産業の未来と中部圏 モノづくりアーキテクチャーでの「擦り合せ型」と「選択・組合せ型」との分かれ道 は,対象製品の製造特性によるところが大きい。つまり,対象製品の主要部分の構造 が相互に密接に影響し合う部品で構成されているか否かにより決められると考えられ る。相互に密接に関連した部品から構成された製品は「擦り合せ型」のアーキテク チャーで生産されないと良質で安価な製品を大量に製造することはできない。「選 択・組合せ型」が力を発揮する製品は互いにあまり密接に関係し合わない部品から構 成できることが業界で認知され,個々の部品がコモディティー商品として容易に入手 できる状態であると考えられる。「選択・組合せ型」への生産アーキテクチャーの移 行には次の2つのタイプが起こり得る。 1つは,「擦り合せ型」で作っていた製品が設計の進展によりあまり密接に相互関 係を持たない複数の部品から構成されることが認知されたとき。密接な相互関係を持 たないとは,広く認知されたインタフェースが存在しそのインタフェースの向こう側 のことを考える必要がないことである。広く認知されるためには国際機関による標準 化と市場で認知されるデファクト標準化とがあり,どちらも「選択・組合せ型」への 移行の契機となり得る。 2つ目は製品が変わってしまうとき。「擦り合せ型」を必須とした特性が不要ある いは重要ではなくなり,あまり相互に密接に関係しないような部品から構成されるよ うになると一挙に「選択・組合せ型」へ移行することになる。ガソリンエンジン車か らEVへの転換期である現状はまさにこのケースに該当すると思われる。 「擦り合せ型」と「選択・組合せ型」という類型化とは別のモノづくり類型化として 「垂直統合型」と「水平分業型」とがある。これらの2つの類型化は異なる視点からの 生産アーキテクチャーを見るものであるが,2つの視点を合わせた分析をすると更に モデルの見通しが良くなると考えられる。「擦り合せ型」の場合は本来的に「垂直統合 型」に対応すると考えられる。現時点までの自動車産業はこの型である。一方,「選 択・組合せ型」の場合は,「垂直統合型」も「水平分業型」も存在しうると考えられる。 例えば,現在のPCの中の Windows OS 搭載PCは「選択・組合せ型」で「水平分業 型」であり,アップル社の携帯端末の iPadなどは「選択・組合せ型」で「垂直統合型」 であると考えられる。一般に,「選択・組合せ型」が始まる初期段階では,「垂直統合 型」の製品が市場に受け入れられることが多いと考えられる。 「垂直統合型」モノづく りアーキテクチャーにおいてイニシアティブを有する企業の支配力は強い。一方, 「水平分業型」生産アーキテクチャーにおいてイニシアティブを有する企業の支配力 は弱い。逆に,市場規模でみると「水平分業型」の方が大きくなる傾向がある。 「垂直 統合型」の場合,支配力に付随する収益源の独占が起きやすいので,イニシアティブ を持たない企業は支配下から抜けたり,他のイニシアティブを持つ企業の傘下へ加わ るなど「垂直統合型」のイニシアティブを握る市場は小さくなりがちである。 ― 133 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 「擦り合せ型」 「選択・組合せ型」の類型化と「垂直統合型」 「水平分業型」の類型化 とに焦点を合わせたモノづくりアーキテクチャーの進化モデルを図表2−1−1に示 す。 図表2−1−1 モノづくりアーキテクチャーの進化モデル タイプ1進化モデル 「擦り合せ型」で「垂直統合型」 タイプ2進化モデル 「擦り合せ型」で「垂直統合型」 「選択・組合せ型」で「垂直統合型」 「選択・組合せ型」で「垂直統合型」 「選択・組合せ型」で「水平分業型」 「選択・組合せ型」で「水平分業型」 統合 タイプ1進化モデルは,徐々に「擦り合せ型」から「選択・組合せ型」へ移行して行 くモデルであり,ラジオ,テレビ,テープレコーダーなど家電品において低価格製品 を中国や東南アジアなど海外に生産を移行するにつれて進んで行き,現在は日本の シェアが失われてきた状況を表現した進化モデルである4)。 一方,タイプ2進化モデルは,コンピュータ産業で現われたモデルである。当初は IBM,日立,富士通などの大手電機メーカーが大型のメインフレーム・コンピュー タを製造・販売していたが,隣接した製品カテゴリーの市場ニーズから出発したマイ クロプロセッサーを使用したPCが登場し,やがてメインフレーム・コンピュータが 押さえていた市場を席巻してしまった事例は,タイプ2進化モデルによる技術転換で ある。 2.自動車産業と電子電気機器産業のモノづくり特性 日本のモノづくりを更に深く考察するため,日本の代表的な産業である自動車産業 と電子電気機器産業を取り上げて比較検討することは有益であると考えられる。自動 ― 134 ― 自動車産業の未来と中部圏 車産業の製品の特徴は,中心となる技術要素がガソリンエンジン(間欠燃焼を用いた 内燃機関)によることである。ガソリンエンジンは極めてコンパクト(単位重量当た りのエネルギー発生量が大きい)ではあるが,良く考えてみると矛盾に満ちた動力エ ネルギー発生装置であるため,微妙な制御を行わないと期待したほど動力を作り出す ことが難しい方式である5)。特に,燃料をタンクからエンジン近くまで,パイプを通 して運び,空気と絶妙な制御の元で混合して爆発させている。燃料と空気の混合のさ せ方,点火プラグで着火するタイミング,瞬間的な爆発力からスムースな回転運動へ 変換するためのシリンダーとクランクシャフト,シリンダーの微妙な密閉状態を維持 しながら,シリンダーを上下させるためのピストンリングなどエンジン回りの多数の 相互に深く影響し合う部品から構成されている。しかも爆発により熱を発生させなが ら連続的に運動エネルギーを取り出すために適切に冷却しなければならない。全体を 効率的なガソリンエンジンとするためには,中心となるエンジン設計部門が緻密に設 計するだけでは良いガソリンエンジンは製造できず,エンジンを構成する多数の部品 の製造やテストを行なう機関や,あるいは,自動車ユーザーからの苦情や要望などの フィードバックを含めた多数の関連構成主体が密接に絡み合ったまさに「擦り合せ型」 の設計製造アーキテクチャーが必須とされるものであった。 一方,電子電気機器製造業は,当初の製造現場では自動車産業と似たように「擦り 合せ型」のアーキテクチャーであったが,マイクロプロセッサーが開発され制御部品 として利用されるようになって大きく変貌を遂げた。電気信号により家電機器の動作 を制御する仕掛けがそれまでは個々の製品ごとに別々の制御回路を作成し,個別の制 御部品を使って制御を行う方式を採用していた。ところが,マイクロプロセッサーを 使用した標準基板を用いて,個々の製品に特有な機能部分の多くをソフトウェアで実 現できるようになってきた。このことにより低コスト化だけではなく,製品開発期間 の短縮化,信頼性の向上などの複数の効果があることが判明し,業界で広範に活用さ れることになった。また,付帯的な効果として,標準的なモジュール部品の組合せで 製造できるため,高度な製造技術を必要とする部品は日本で生産し,組み立てはアジ ア諸国で製造できるようになってきた。更に家電の製品ラインの中で低価格のものは 組み立てと共に部品もアジア諸国で製造できるようになってきた。コモディティ化し た家電製品は,アジア諸国だけで充分製造可能となり,徐々に低付加価値の家電製品 のシェアは我が国からアジア諸国に移って行くことになった。 電子電気機器製造業の中で,コンピュータ産業のモノづくりアーキテクチャーに関 する技術転換の経緯を分析することにより,自動車産業の今後の技術転換について考 察を行うこととする。コンピュータは大きく分けるとメインフレーム・コンピュー タとパーソナルコンピュータ(PC)に分けられる。メインフレーム・コンピュータ は,高速性や信頼性を重視したため集積度を高められないバイポーラICを使用した ― 135 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 演算装置であったため,演算機構のモジュール化が進まず,IBMをはじめとする世界 の大企業が「擦り合せ型」アーキテクチャーで生産してきており,この流れは現在に 続いている。一方,PCは1971年にインテルが4ビットCPUである4004(MOS IC: 高集積度ではあるが当初は高速処理には不適で,汎用電卓の技術から派生した)を開 発して以来,市場規模も拡大の一途を辿った。現在は,メインフレーム・コンピュー タの市場は相対的に小さなものとなってしまった。自動車産業の参考とするために, PCの技術転換の分析を進めた。 パーソナルコンピュータの開発史を次に示す。 1971年 インテルが世界初のマイクロプロセッサー4004開発(4bit CPU) 1974年 インテル8080開発(8ビットCPU) 1974年 M I T S 社世界初の消費者向けPCであるAltair 8800(S100バス)開発。 S100バス (拡張スロット)に差し込む周辺回路ボードや,S100バス用のメー カーなどサードパーティーが多数参入し,電子機器マニアの注目を得た。 ― S 100 バス マニア向けパソコンの時代(第1次プラットフォームの時 代)― 1981年 IBMが IBM PCを開発。Word Star(ワープロ)がIBM PCに移植さ れ使い勝手が良かったので,一般オフィスのタイプライターの代わりに使 われ大ヒット商品となった。IBM PCはそれまでのIBM製品と異なり 殆ど全ての部品を社外のメーカーから調達して製造を行った。しかも,知 財権を強く主張しなかったため,サードパーティ企業が多数参入し,互換 機を開発するようになった。特に,IBM PCの周辺回路用のバス(拡張 スロット)は仕様も公開され,多数の弱小メーカーも互換の周辺回路ボー ドを開発し,市場が急拡大した。 1984年 IBM PC/ATを開発。インテル80286(16ビットCPU)を使用した改良 版で,ISAバス(拡張スロット)と言われる16ビットの周辺機器制御回路 向けのバスを公開したので,多数のサードパーティ企業が参入し,市場規 模が更に拡大した。ソフトウェアでもIBM PCで動作するLotus 1−2−3 が1983年に発売され,大ヒット商品となった。 ― ISA バス 一般ユーザ向けパソコンの時代(第2次プラットフォームの 時代(前期) )― 1985年 IBM PCの開発チーム全員がデルタ航空機の墜落事故で死亡した。それ までのIBM経営(内製,知財クローズ)に戻り,知財権をサードパーティー ― 136 ― 自動車産業の未来と中部圏 企業に追加要求するようになり,これ以後イニシアティブを失っていった。 インテルがチップセットという概念を開発するまでの間は,イニシアティ ブを目指して幾つかの企業が覇権を競った。 ― ISA,EISAバス IBM PC互換機の時代(第2次プラットフォームの時 代(後期))― 1995年 インテルが Pentium 用にチップセットを開発。以前もIBM PC/AT以 来のISAバスにより,キーボード,マウス,ハードディスク,FD,ネッ トワークや音声など比較的低速な周辺回路を制御する拡張回路ボードは サードパーティ企業でも比較的容易に設計/製造可能であったが,CPU 周りのメモリや高速グラフィックデバイスの制御は高度な技術を必要と し,コンパック,HP,DECなど大手メーカーにしか開発できなかった。 しかし,インテルがチップセットを開発し,チップセットを使ったPCマ ザーボードの開発方法を公開し,リファレンス用のマザーボードを出荷す る よ う に な っ た 。 1997年 か ら 毎 年 イ ン テ ル IDF( Intel Developers Conference)を開催し,開発者向けに情報公開を行っている。 ソフトウェアの面では,マイクロソフトが Windows 95 を発売し,OSの 市場を独占すると同時にPCの販売台数を飛躍的に拡大することに貢献し た。このときからPCがマニアでなく一般人に広く認知されることになっ た。また,WindowsのAPI(Application Program Interface)の元で多数の サードパーティ企業がPC用のソフトウェアやソフトウェアとハードウェ アを一体化した製品を発売し始め更にPC市場が急拡大した。 ― Wintel (Windows のマイクロソフトとインテル)イニシアティブのパソコ ンの時代(第3次プラットフォームの時代)― 2002年 amazon.com が Amazon Web Serviceを開始。クラウド的な運用が開始。 2006年 Google の CEO のエリック・シュミットが「クラウド・コンピューティン グ」という表現を使用。 2008年 Googleが Google Application Engineの一般公開を発表。実際にクラウド が利用できるようになった。多種多様な多数の企業がクラウドを使用した サービス製品を開発してきた。 ―クラウドコンピューティングの時代(第4次プラットフォームの時代)― コンピュータ業界の事例では,「擦り合せ型」と「選択・組合せ型」の違いは,メイ ― 137 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 ンフレームコンピュータとパーソナルコンピュータ(パソコン:PC)とに対応する。 自動車の場合と対比して示すと次の図表2−2−1のようになると考えられる。 コンピュータ業界の場合のメインフレームコンピュータとPCとの事例から類推す ると,EVが市場に登場した現在の自動車産業では,従来のガソリンエンジン車とEV との並立状態が続くが,徐々にEVへ重点が移って行くものと考えられる。 図表2−2−1 コンピュータと自動車の生産アーキテクチャーの比較 擦り合せ型 選択・組合せ型 コンピュータ メインフレーム・コンピュータ パソコン 自動車 ガソリン(ディーゼル)エンジン車 電気自動車(EV) 内燃機関であるガソリンエンジンを使った自動車は,すぐには無くならない。コン ピュータの事例と同様に,自動車もガソリンエンジン車のユーザー層とEVのユー ザー層は必ずしも同じではないと考えられる。EVも最初はマニア層に広がるだけで あると思われるが,徐々に一般ユーザー層に使われるようになると考えられる。一般 ユーザー層に広く受け入れられるためには,コンピュータの世界でIBM PCが果た した役割を担う製品が出現する必要があると考えられる。コンピュータ産業における メインフレーム・コンピュータの場合のように,自動車産業におけるガソリンエンジ ン車は小規模な企業が参入できるようなものではなかった。自動車業界でもガソリン エンジン車を製造販売できる企業は,GM,フォード,トヨタ,日産などの大企業の みであった。自動車産業の現状は,EVの可能性が世の中で認知され,「選択・組合 せ型」の初期段階が始まろうとしている状態と思われる。その1つの流れが,既存の 自動車を改造してEVを作ろうとするビジネスモデルのように思われる。現在,試行 されている例では既存の軽自動車からガソリンエンジンとその関連部品(燃料タンク, 排気管など)を取り外し,別のメーカーが市販し始めたEV化キットを取り付けて調 整を行って出荷する方式である6)。現状ではまだまだ「選択・組合せ型」の良さを生 かせていないが,ガソリンエンジンを取り外した車台などの自動車部品の標準化が進 めば,この標準に合わせたEV化キットが各社から多数製品化される可能性が出てく るものと思われる。 コンピュータの例ではIBM PC(IBM PC/AT)とそのISAバスで実現されたよ うに,極めてスマートな(機能的,価格的なバランスが良く,ユーザビリティが高い) デザインの自動車車台を提供する企業が現われ,その製品が市場に認知され,大きな ― 138 ― 自動車産業の未来と中部圏 シェアを握ることになると,その自動車車台に合わせたサードパーティー製品が豊富 に出荷されるようになると思われる。この自動車車台メーカーの製品が良好なもので あれば,EV化により「選択・組合せ型」に転換する議論の中で弱小メーカーでは自動 車の安全性の問題を解決できないと言われた課題を解決できると思われる(ガソリン エンジンという危険な爆発物を扱うこと以外の安全性の問題は,走行時の運転性能や 制動(ブレーキ)性能となるが,これらは殆ど自動車の車台の部分で対応可能と考え られる)7)。 ガソリンエンジン車は,ガソリンエンジンの熱対策の問題やピストン運動を回転運 動に変換するときに発生する強い振動に対応する配慮からボディーに鋼鉄を必要とさ れていたが,EVの自動車車台部分はこの部分をもっと軽量でかつ加工しやすい強化 プラスティックあるいはカーボンファイバーなどが利用できるため,自動車完成車 メーカー以外から自動車車台製造への参入が激しくなり,イニシアティブをとってい た当初の自動車車台メーカーの力が弱まり乱戦状態になる。これは丁度PCの場合の IBMに対し,コンパックなどの互換機メーカーが乱立し競争が激しくなってきた状 態に相当すると考えられる。「選択・組合せ型」へ転換することによりイニシアティ ブを握るのはEVの主要部品で全体のEVになくてはならないものを握る企業と考え られる。これにはバッテリーとEVシステム全体を制御するソフトウェアが有力な候 補と考えられる。コンピュータ産業で言えばインテルのCPUとオペレーティングシ ステムのマイクロソフトに相当する。次の段階では,モビリティシステムとして捉え たインフラを含めたプラットフォームを握った企業がイニシアティブを握ると予想さ れる。これは,コンピュータでのクラウド+高機能UI端末に相当すると考えられる。 第3段階と第4段階はまだ先の事柄であるので,時期や期間は特定できないが,この ように自動車産業は進化して行くと類推される。 コンピュータの技術転換のモデルと自動車の技術転換のモデルとを対比しながら記 述すると図表2−2−2のようになる。 自動車産業についても,既存の化学的な反応(ガソリン燃焼)や機械的な制御構造 が中心の仕組から,コストダウンと均質な製品を早期に大量生産可能な電子制御を取 り入れて行くに従い,必然的に「選択・組合せ型」のモノづくりアーキテクチャーに 近づくように感じられる。一方,ガソリンエンジン車では,「擦り合せ型」を抜け出 ることはできず,コンピュータの場合のメインフレーム・コンピュータのように徐々 に市場における重要度が減少して行き,EVのような新エネルギーを使用した自動車 へ市場を譲ることになると類推される。 自動車産業において第1次プラットフォームになるのは,最近マスコミなどで注目 されているコンバートEVであると考えられる。丁度,PCの場合,S100バスがデ ファクトスタンダードとなり,S100バスのプラットフォーム上に多数の中小企業が製 ― 139 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 品を出荷したように中古のガソリン自動車からガソリンエンジンとその関連部品を取 り外したものにEVコンバージョンキットを付けたEVが先ずマニア層に普及すると 考えられる。ここで重要なことは,自動車の安全性の問題が中古車あるいは新車の車 台を使うことにより担保されることである。現時点のEVコンバージョンキットは回 生エネルギー機構が不十分など改善の余地は大いにあるが,これから市場が大きくな って行くに従い急速に改良されて行くと考えられる。 図表2−2−2 コンピュータと自動車の技術転換のモデル コンピュータ メインフレーム 1945 IBM S360 1970 ガソリン/ ディーゼル エンジン車 自 動 車 1900 PC (マイクロプロセッサ応用機器) EV 2010 S100バス 第1次 プラットフォーム (第1 (第1次プラ 第1次プラットフォーム) IBM PCバス 第2次 プラットフォーム (第2 (第2次プラ 第2次プラットフォーム) Wintel プラットフォーム 第3次 プラットフォーム (第3 (第3次プラ 第3次プラットフォーム) クラウドコンピュータ (第4次プラ (第4 第4次プラットフォーム) 2010 2020 第4次 プラットフォーム 2030 第2次プラットフォームであるが,これば,PCの場合に丁度IBM PCが開発さ れて爆発的に市場が拡大したように,自動車の車台部分にEVの特性を活かした改良 が進展すると思われる。EVは,ガソリンエンジンのように高温を発生する部分がな い,また,レシプロエンジンに起因する強い振動を発生することもない。従って,鋼 鉄以外の強化プラスティックなどの成型加工の容易な素材の利用割合を大幅に増やす ことが可能となる。このことから,軽量化,低コスト化が図れるとともにデザイン面 での自由度が飛躍的に拡大する。また,中小企業でも容易に参加できるようになると 考えられる。市場の立ち上げ時にはPCの場合のIBMのような大企業がデファクト スタンダードとなるEV用の自動車の車台を開発し,これを用いたEVコンバージョ ンキットの市場が形成されるようになる可能性がある。 第3次プラットフォームは,PCで丁度 Wintel 連合(Windowsのマイクロソフト, ― 140 ― 自動車産業の未来と中部圏 CPUのインテル)がプラットフォームを構築したようにEVの重要部品に大きな技術 革新が起こると思われる。候補としては,先ず,第1に考えられるのは,電池で,次 にEVの制御ソフトウェア共通基盤(PCの場合のOSに相当する)と思われる。電池 については,現状のリチウムイオン電池の効率及びコストが2倍∼10倍ほど向上する 技術が期待される。あるいは,金属空気電池が実用化されるかも知れない。金属空気 電池の場合は2次電池ではなく,金属リチウムあるいは金属マグネシウムを使った燃 料電池になる可能性が存在する。 第4次プラットフォームは,相当先のことになるが,PCで丁度クラウド・コン ピューティングが重要性を高めて来ているように,自動車産業でもスマートグリッド やITSなどのインフラ環境まで含めたプラットフォームがイニシアティブを議論す る上で中心になって行くように思われる。 ここで,我が国の自動車産業として留意すべきことは,第3次あるいは第4次のプ ラットフォームに向けてどのような戦略で事業展開を図るか戦略の見極めが重要であ ると思われる。コンピュータも含めた電子機器分野で「選択・組合せ型」で成功を収め ている例として,2つのタイプが報告されている8)。1つは,PCにおいてインテル が実施している① CPUのブラックボックス化,② CPU周辺の技術のインタフェー スの標準化(デファクトも含む)オープン化であり,2つ目はノキア・モトローラに よるヨーロッパでの携帯電話システムのインフラ側のブラックボックス化と連動した 携帯電話端末の製品化戦略である。EV化の進展に伴い,選択組合せ型の自動車生産 方式への転換が進むものと考えられるが,自動車の「選択・組合せ型」アーキテク チャーで何がキー要素となって誰がイニシアティブを握るかが注目される。 自動車産業のエコシステム(生態系システム)の中でなくてはならない構成要素を 為し,且つ,その構成要素の生産に責任,権限がある企業(主体)がその全体の製品 の支配を行おうとする意思を持つ企業(主体)である場合にイニシアティブを握るこ とができる。自動車を中心とした社会システムを含めたエコシステムという「場」を 構築し,生産者およびユーザーの両方の関係者を集め,運命共同体とし,この中で イニシアティブをとって行く戦略が重要と思われる。最近の議論の一つに「プラット フォーム戦略」9)がある。これはインターネット中心で主に議論されているのに対し, 自動車の場合は,実世界の「場」を構築するものである。自動車産業におけるプラッ トフォーム戦略を実施して行くためには, (1)常に最先端の技術を持ち,関係者に理解/納得される (2)その事業のビジョンを持つと共にそのビジョンをエコシステム(生態系)関係 者に理解/納得され,強固な「場」を形成する (3)そのプラットフォームが成功しそうに皆が思える雰囲気を創り出す ― 141 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 が必要と思われる。(1)では常に他より一歩先んじている必要がある。少しでも停 滞すれば,リバースエンジニアリングで後発企業がプラットフォームを奪う危険性が 強くなる。我が国の自動車産業が進むべき道は,自動車産業の付加価値が大きい基礎 部品の設計/製造,あるいは,製品サービス,運営,課題解決/システム提供の部分 に焦点をあてるべきと考えられる。基幹部品については,蓄電池が第1候補と考えら れるが,インテルのCPUのようにほぼ独占的な立場になるためには,特許など知的 財産権を確保することが要求されるが,現状の最先端製品であるリチウムイオン電池 では既に各企業が製品を開発しており,これから1社が独占できるようになるか疑問 である。 PCの例では,インテルがCPUでほぼ絶対的な地位を確保できたのは,IBM PC に使われ,その後,度重なる技術革新を継続的に成功させ,市場の強い支持を得たこ とにより手に入れたものである。インテルの共同創業者のゴードン・ムーアの法則 「ICのトランジスタ数は18カ月で2倍になる」の通りに,ICの集積度が上がれば上 がるほど設計は難しくなり,それまでのノウハウの重要性が増してくる。競合メー カーはインテル社のCPUと外見上は等価な命令(インストラクション)を実装しな がらインテル社よりも顧客にとって良い設計をしなくてはならないという困難に直面 した。イニシアティブをとることは継続的な努力が必須であり,これを継続すること ができる企業のみがイニシアティブを握っていることができる。 一方,製品サービス,運営,課題解決/システム提供の領域は,EVで特に重要と なるインフラ部分と考えられる。 自動車産業の場合,インフラでイニシアティブをとる候補として次のような事項が 考えられる。 ① EV用の充電インフラのハードウェアとソフトウェア 家電製品の殆どのものがアジア諸国にシェアを握られている中で,唯一我が国 がシェアを確保できているデジタルカメラの例が参考にできる。EVでは,SIM ドライブ社1 0 )が採用している戦略で,バッテリー,モーター,インバーター, ステアリング,ブレーキなど運航に直接関連する部分をEVシャーシーとして 提供し,ボディーや周辺の付属品などについてサードパーティーに参画を促す ビジネスモデルが考えられる。 ② 自動車をモビリティ提供システムの一部と捉えて,モビリティ提供システムの インフラを提供するハードウェアとソフトウェア イニシアティブを握るためには,継続的に技術の進化が必須である。通信(特 に無線)インタフェースはまだまだ継続的に進化が予想されるので通信を軸と したインフラシステムは期待できる。将来的には,自動運転システムへの発展 ― 142 ― 自動車産業の未来と中部圏 もこの分野では期待される。EVになれば制御が全て電気,電子となるので, コンピュータ制御の自動運転には極めて馴染みやすくなる。 ③ 自動車のブランド化 デザインを中心に自動車という商品を捉え直し,継続的なデザインの改良を 行ってプラットフォームのイニシアティブを握って行くことが考えられる。 PC業界の例では,アップル社の iTunes,iPod,iPhone,iPad がこれに相当 すると考えられる。EV化が進めば,自由な発想のデザインが出てくる可能性 は高いと考えられる。特に,家の一部ともなり得るので,家電品,家具,イン テリアの延長線上でのデザインが受け入れられる可能性も出てくる。 何れにしろ基幹部品(要素)のシェアが高くても,その製品のエコシステム(生態 系システム)を支配しようとする意思がなければ,イニシアティブを握ることはでき ない。次のような諸点も重要と思われる。 ① 製品エコシステム(生態系システム)をどのように定義するのか。 ② 支配するという意思を持つ。 ③ 世の中にビジョンを公開し,インタフェースの標準化を行いオープン化する ④ 世の中の支持を集め,リーダーとなる。 ⑤ 常にリファインを行いながら,常に進化させて行く。他社が追随して来たら すぐ引き離すようにする。 中部圏の現在の主要な産業である自動車産業が,丁度,EV化という技術転換点を 迎え,今後の見通しに霞がかかったような状態にあるように感じられる。早急にこの もやもやから抜け出さねばならないと思われる。本研究を更に深めて行き,中部圏の 自動車を中心とした産業が今後どのように進んで行くべきか,有識者及び経営者の 方々の叡智の集まり(集合知)から有益な解を模索して行きたいと考えている。 第3章 EV化に伴うマーケティング視点,及び業務プロセス変化に関する検討 1.マーケティング戦略視点からの変化見通しの検討 前章までで自動車産業におけるHV及びEVの現状と変化動向,及びHVからEV に向けての変化方向を見てきた。エコカーに関する開発競争は,一見HVに焦点が当 てられているように見えるが,大手各社は間違いなくその先となるEVを見据えて取 り組んでいる。 ― 143 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 このような状況の下,中部大学・産業経済研究所では有識者及び経営者の方々を対 象に「エコカー(環境対応車)の進展と自動車産業の将来変化に関するアンケート調 査」を実施した。実施時期は平成22年3月,調査方法はインターネットアンケート法 (調査票の送付・回収ともにインターネット利用)により実施した。このアンケート 調査の対象層は,事業の周辺環境を敏感に嗅ぎ取り速やかに事業経営に反映し実践す ることに留意されている経営層の方々,また社会変化や技術革新・開発の変化方向を 常にウォッチし深い見識と洞察力をお持ちの学者,経営コンサルタント,調査研究者 の方々である。その方々に対して我々研究メンバーが想定した変化仮説を質問形式で 尋ねご回答いただいた。その貴重なデータである。 以下ではその貴重な調査データをもとに,EV化に伴う自動車業界のマーケティン グ戦略策定に関連する環境変化の可能性といった視点から考察,検討を行う。 図表3−1−1(質問) 「10∼15年後の自動車のエネルギータイプの見通し」 ⑤解答なし 1% アンケート 9% (平成 22 年3月) 0 41 % 10 20 30 44 % 40 ①ガソリンエンジン ②ハイブリッド車 が主流 が主流 50 60 70 6% 80 ③EV等クリーンエンジン が主流 90 100(%) ④その他 出所:中部大学・産業経済研究所「エコカーの将来に関するアンケート」2010年 ①10∼15年後の自動車のエネルギータイプ 始めに10∼15年後の自動車エネルギー・タイプに関する見方から把握する。 最も支持率が高かったのは,「EV等化石燃料に頼らないクリーンエンジンが主流 になっていると思う」という見方で44%,それに続いて「ガソリンと電気モーター併 用のハイブリッド車が主流になっていると思う」で41%であった。 「これまでのガソリ ンエンジン,ディーゼルエンジンが低燃費化を実現し主流になっていると思う」は 9%と低水準である。 これまでの化石燃料エンジンの低燃費化に期待する見方も約1割の支持があるもの の,EV等クリーンエンジンとHVを支持する割合が圧倒的である。地球環境重視の 価値観の高まりを背景に自動車のクリーンエンジン化に向けての変化ニーズは大変強 く,この変化期待ニーズをベースに自動車産業は変革を進めるべきと見ることができ る。 ― 144 ― 自動車産業の未来と中部圏 ②EV化の中での業界のモノづくり文化,統率力の変化の可能性 この質問を用意した趣旨は,クルマの電子電気機器化の進展がこれまでの自動車づ くりの産業構造を今後大きく変革させるのではないかといった問題意識と仮説によ る。この質問に当たって用意した説明文を参考までに以下に掲載する。 〈質問説明文〉日本の技術開発力が誇る代表的なグローバル製品は,「自動車」と 「デジタル家電,特にパソコン(PC)」といわれます。ところがこの2つの製品は, 「自動車が高付加価値」を維持発展させてきたことに対して,「PCは急速に価格低 下し付加価値は限定的」と非常に対照的な一面があります。 この状況に関する1つの見方として,「自動車は多くの部品がメーカーや車種に固 有の設計となっており,それらを製品統合に向けて擦り合せることが不可欠」,それ に対して「PCはほとんどの部品・機能が業界標準に準じており,それらを選択・組 み合せる能力があれば求める機能は比較的容易に実現可能」とされます。そのような PCに代表されるデジタル家電製品は,早期に急速な価格低下に見舞われかねず,結 果としてコモディティ化が進むと見られています。 ところで,電気自動車に代表されるエコカーの時代になると,これまでの自動車業 界の「擦り合せ型」の中に,デジタル家電業界の「選択・組合せ型」の特徴を部分的 であれ,併せ持つことになるといった見方も一部に見られます1)。 この説明文でも示しているように,EV化はおそらく自動車産業構造に一大変革を 招来する可能性があるが,この点についてはまた後の質問回答結果とともに触れるこ ととする。 回答選択肢は以下の4つで,その回答率は以下のようである。 〈①〉 既存完成車メーカーが「擦り合せ型」の取組みを継続・ 強化し,統率力を発揮し続けると思う。 :11% 〈②〉 「擦り合せ型」と「選択・組合せ型」が混在するが,従 来の「擦り合せ型」の重要度が依然強いと思う。 :41% 〈③〉 「擦り合せ型」と「選択・組合せ型」が混在するが,PC のような「選択・組合せ型」の重要度が上回ると思う。 〈④〉 :28% デジタル家電業界と同様に「選択・組合せ型」中心へと 移行し,これまでの自動車完成車メーカーの統率力は弱 〈⑤〉 くなると思う。 :15% その他&回答なし :5% ― 145 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 図表3−2−2には昨年のほぼ同時期に我々で実施した全く同じ質問でのアンケー ト結果2)も掲載した。僅か1年間においての意識変化から把握することとしたい。 平成22年度で最も支持率の高かったのは「〈②〉両型混在するが擦り合せ型重要度 が依然強い」で41%である。しかし1年前の平成21年度の同支持率は50%であったこ とからすると1年間で約10%減少したことになる。 また以下のように同種の選択肢の支持率を合算し,1年前と比較すると以下のよう である。 『擦り合せ重視』 〈①〉+〈②〉:52%(1年前 62%) 『選択組合せ重視』 〈③〉+〈④〉:43%(1年前 36%) ほぼ同じ対象層からの回答結果のもと,僅か1年間での支持率変化が7∼10%見ら れるという事実は重要な変化と受け止めるべきではなかろうか。 図表3−1−2 (質問) 「EV化の中での業界のモノづくり文化,統率力の変化の見通し」 1% 0% 昨年度アンケート 12 % (平成 21 年 2 月) 0 10 50 % 20 30 24 % 40 50 60 70 12% 80 90 100(%) 2% 今年度アンケート 11 % (平成 22 年 3 月) 0 10 41 % 20 30 ①既存完成車メーカーが 「擦り合せ型」を強化し 統率力を発揮 28 % 40 50 60 70 ③両型混在するが、 「選択・組合せ型」 重要度が上回る ②両型混在するが、 「擦り合せ型」 重要度が依然強い 15 % 80 90 100 3% ⑤その他 ⑥回答なし ④「選択・組合せ型」中心へ 移行し既存完成車メーカー の統率力は弱体化 出所:中部大学・産業経済研究所「エコカーの将来に関するアンケート」2010年 なお『擦り合せ重視』の見方には,世界に誇る日本の自動車産業界の強さへの信頼 感や期待へのこだわりに基づく既存構造への継続希望意識が,また『選択組合せ重視』 の見方には既存構造の変化に向けての改革期待と不安意識などが複雑に入り混じって いるのが実情ではないかと考えられそうである。 実はこの2つの型の支持層の間には,他の多くの質問に対する回答において非常に 大きなギャップがあることも分かった。多くの場合,『選択組合せ重視層』は変革へ ― 146 ― 自動車産業の未来と中部圏 の反応が相対的に強く,『擦り合せ重視層』は変革への反応が相対的に慎重であるこ とが特徴的である。以下においては参考のためこの両者を表側としてクロス集計を 行った結果も併せて掲載する。 図表3−1−3(質問) 「新たな価値判断基準の設定必要性」 はい いいえ 24 % 68% 全 体 0 10 20 擦り合せ 重視層 選択・ 組合せ 重視層 無回答 30 40 50 60 70 65.4% 10 20 30 90 26.9% 74.4% 0 80 8% 40 7.7 % 18.6% 50 60 70 80 100(%) 7% 90 100(%) 出所:中部大学・産業経済研究所「エコカーの将来に関するアンケート」2010年 ③これまでのエンジン排気量に代わる新たな価値判断基準設定の必要性 「自動車の価値基準が走りのよさから地球環境への対応力へと変化すると思う。」と の質問で「はい」との回答率は全体で68%,クロス集計による「選択組合せ重視層」の 同回答率は74%,「擦り合せ重視層」は65%と選択組合せ重視層が約1割上回った回 答結果となっている。 これまでの自動車の価値基準は排気量をベースにした馬力,トルク,運転操作性と いった要因が重視されてきた。しかし今後はCO2 ,NOx・PM等の厳格な排出抑制対 応が必須のものとして受け止められるべき時代が到来するとみるべきである。この変 化はクルマの全体的なコンセプト,さらには設計思想を根底から変革させるものとし て受け止めるべきものである。アンケート回答率で7割弱の方々が,自動車の価値判 断基準は地球環境への対応力に移行するとみており,自動車コンセプトの基本設定を 見直すべき時期が到来していることが認識される。 ― 147 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 ④ エンジン駆動系の機械部品メーカーの取引量減少,反面モーターや電装品供 給メーカーとの取引量増加可能性 「自動車の部品調達額は,電子・電機機器部品メーカーからの調達が増大すること によって,自動車部品メーカーの部品市場での地位が低下すると思う。」との質問で 「はい」との回答率は全体で61%,クロス集計によると「選択組合せ重視層」72%, 「擦り合せ重視層」52%である。 自動車完成車メーカーによる部品調達額に占める電子関連部品の割合は既に40% 強,とりわけHVでは60%以上3)に達している。また現在の自動車の部品点数は約3 万点とみられるがEV化の進展次第では1千点以下4)にまで減少する可能性があると いわれる。勿論単純な部品点数計算ではなく,電子関連部品のモジュール化の一段の 進展が想定されてのことである。アンケート結果において,特に「選択・組合せ重視 層」の反応が相対的に高いことが注目される。 図表3−1−4 (質問)「機械部品メーカーとの取引量減少,電装品 関連メーカーとの取引量増加の可能性」 はい いいえ 無回答 3% 36% 61% 全 体 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%) 0.0% 擦り合せ 重視層 51.9% 48.1% 4.7 % 選択・ 組合せ 重視層 72.1% 0 10 20 30 40 23.3% 50 60 70 80 出所:中部大学・産業経済研究所「エコカーの将来に関するアンケート」2010年 ― 148 ― 90 100(%) 自動車産業の未来と中部圏 ⑤ 走りの性能はモーター,電池,インバータによる走行制御技術が重要に。大 手自動車メーカーはこの技術の内製化,提携関係強化を推進可能性 「電子制御技術が基幹部品となり,大手自動車メーカーはこの基幹部品技術の内製 化や提携関係強化を推し進めると思う。」との質問で「はい」との回答率は全体で 87%,クロス集計による「選択・組合せ重視層」86%,「擦り合せ重視層」90%ある。 我が国の主要完成車メーカーは既にモーターの内製化を志向し,現状では内製化を ほぼ実現してHV,EVに取り組んでいる。また二次電池,インバータについても内 製化に向けて注力しているとみられる。電池については主要な電子電気・バッテリー 関連メーカーが本業の拡大・発展を目指して開発に取り組んでおり,完成車メーカー としては資本関係も含めより密接な取引を求めている。この両者の相互関係は,当面 電池製造関連企業群の技術開発・製品化力に依存した関係が強く認識されるであろう が,次第にクルマ全体の構想力,企画力,コンセプト設定,事業化力のある企業にイ ニシアティブは移行していくと見るのが自然ではなかろうか。最も近い存在はこれま での完成車メーカーのように思えるが,電子電気関連企業もパワーの蓄積次第では本 格的なイニシアティブを握る可能性も十分あると思われる。経営戦略,事業戦略, マーケティング戦略等の立案・策定・実行力が問われることを意識した取組みがのぞま れる。 図表3−1−5 (質問) 「走行制御技術の内製化,提携関係の強化推進可能性」 はい いいえ 無回答 3% 87% 全 体 0 10 20 30 40 50 60 70 10% 10.0% 80 90 100(%) 1.9% 擦り合せ 重視層 90.4% 7.7% 2.3% 選択・ 組合せ 重視層 86.0% 0 10 20 30 40 11.6% 50 60 70 80 出所:中部大学・産業経済研究所「エコカーの将来に関するアンケート」2010年 ― 149 ― 90 100(%) 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 ⑥ EV化でエンジン関係整備の不要化可能性(各種調整・整備作業,エンジン& ブレーキ等オイル交換などの不要化で販売店収益は大幅減少化) 「電子化の進展により,メンテナンス・サービスの中心はこれまでの機械修理型か ら電子機器に対する保守サービス型に変化すると思う。」との設問で「はい」との回答 率は全体で67%,クロス集計による「選択・組合せ重視層」86%, 「擦り合せ重視層」 52%である。両者の反応のギャップは大変大きい。この後でも触れる事となるが,流 通・アフターケア関連の質問に関する両者の反応のギャップは大きく,とりわけ選択 組合せ重視層の反応率が全般的に高いのが特徴的である。 一般的見方としてEV化の進展に伴ってメンテナンスの中心は電気モーターはじめ 電子機器関連部品へのケアに重点が移行する。さらに電子機器関連の単純修正から アップデートへの移行可能性も高くなる。またこれまでの機械部品メンテナンスの領 域は格段に縮小することも予想されるだけに,ディーラー,(ガソリン)サービスス テーション等においては,教育研修の実施も含め新たな仕組み構築が要請されること になろう。なおHEVの販売台数が急激に伸長しているが,HVへの流通・アフターケ アへの取組みは将来のEV化への移行のための事前準備段階として受け止めるべき重 要なステップと位置付けることができる。 図表3−1−6 (質問) 「電子化の進展がクルマのメンテナンスサービスを変革させる可能性」 はい いいえ 無回答 2% 31% 67% 全 体 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%) 0.0% 擦り合せ 重視層 51.9% 48.1% 2.3% 選択・ 組合せ 重視層 86.0% 0 10 20 30 40 50 11.6% 60 70 80 出所:中部大学・産業経済研究所「エコカーの将来に関するアンケート」2010年 ― 150 ― 90 100(%) 自動車産業の未来と中部圏 ⑦ モーターの制御プログラム・アップデートやソフト的対応範囲の増大可能性 (車両通信技術の進展で制御プログラム交換が通信機能のダウンロードで実 現) 「通信機能によるダウンロードの実現・進展等により,顧客からの自動車販売店への 依存度は低下し,その結果,販売店のこれまでの自動車販売力も低下すると思う。」 との質問で「はい」との回答率は全体で37%,クロス集計による「選択組合せ重視層」 56%,「擦り合せ重視層」21%である。この質問については将来を想定し難くリスク の予見も困難な状況もあるが,あえて質問を試みたものである。全体で4割弱の反応 であるが,両支持層の反応のギャップの大きさも注目される。 現在,屋外無線LANのインフラ整備が着々と進展しつつある。さらなる進展により クルマのパソコン化も現実のものとなろう。自動車での情報通信が可能となり,携帯 電話やPC同様に車載制御プログラムのアップデートも自動的に実行されることまで も予想される。ただし,見落としてならないのはクルマは動く乗物だけに「安全性」 に対するリスクは,おそらく耐久消費財の中で最も大きいはずで慎重に対処されねば ならない。それだけに見通すことの難しさがあるが,情報通信業界の識者による「全 てのものはパソコン化しネットワークにつながる。」5)との言葉を十分に念頭に置く べきであろう。 図表3−1−7 (質問)情報通信機能の進展によりディーラー・販売店への依存度低下可能性 はい いいえ 無回答 1% 62% 37% 全 体 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%) 0.0% 擦り合せ 重視層 21.2% 78.8% 0.0% 選択・ 組合せ 重視層 55.8% 0 10 20 30 44.2% 40 50 60 70 出所:中部大学・産業経済研究所「エコカーの将来に関するアンケート」2010年 ― 151 ― 80 90 100(%) 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 その前提を置いたもとで,もしも制御プログラムのダウンロード時代が到来すると, これまでのディーラーの存立基盤であるキメの細かいユーザー対応の頻度と密度は低 下し,高度な顧客囲い込み対応が困難となる可能性もある。結果としてディーラーが 果たすべき範囲は狭くなり,期待されるマーケティング機能もシンプルなものへと変 質していく可能性も否定できない。 ⑧ EV化による既存ディーラー・販売店の整理再編可能性,さらに専売制の変 革可能性 「自動車販売店はメーカーごとの「専売店」ではなく,複数のメーカーの自動車を同 時に扱う「併売店」が多くなると思う。」との質問で「はい」との回答率は全体で56%, クロス集計による「選択・組合せ重視層」67%,「擦り合せ重視層」48%である。 上記⑦のような状況を前提にするとディーラー・販売店の間での整理再編が促され ることになろう。またこれまでの完成車メーカーを軸とした専売チャネルから複数の 完成車メーカーを取り扱う併売チャネルも出現する可能性がある。特に相対的に弱小 メーカー,及び部品メーカ−やベンチャーなどの新規参入企業は併売チャネルへの志 向を強める可能性さえ予想される。 図表3−1−8 (質問) 「EV化に伴い流通チャネルは専売制から併売制化の可能性」 はい いいえ 無回答 3% 41% 56% 全 体 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%) 3.8% 擦り合せ 重視層 48.1% 48.1% 0.0% 選択・ 組合せ 重視層 67.4% 0 10 20 30 40 32.6% 50 60 70 80 出所:中部大学・産業経済研究所「エコカーの将来に関するアンケート」2010年 ― 152 ― 90 100(%) 自動車産業の未来と中部圏 ⑨ 大手家電量販店,大手カー用品店などEV本格的販売開始の可能性 「新たな自動車販売店として,大手家電量販店などが電子・電機商品に関する説明対 応力と全国店舗網を活用して成長すると思う。」との質問で「はい」との回答率は全体 で42%,クロス集計による「選択・組合せ重視層」70%, 「擦り合せ重視層」19%であ る。この質問に対しても両者の反応ギャップは大変大きいことが注目される。 図表3−1−9 (質問) 「大手家電量販店などによるEVの本格的取り扱い可能性」 はい いいえ 無回答 1.0 % 57.0% 42.0% 全 体 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%) 0.0% 擦り合せ 重視層 19.2% 80.8% 0.0% 選択・ 組合せ 重視層 69.8% 0 10 20 30 30.2% 40 50 60 70 80 90 100(%) 出所:中部大学・産業経済研究所「エコカーの将来に関するアンケート」2010年 EV化の中でとりわけアフターケア機能に着目するなら,大手家電量販店の説明販 売員にも対応潜在力があると思われること,また全国販売網を活用した販売&ケア体 制を経営資源として活用しうることなどを背景に,EV流通業界で本格展開する可能 性もあるのではなかろうか。回答率からすると「選択・組合せ重視層」が70%と相対 的に高い反応であるのに対して「擦り合せ重視層」は20%弱と大変慎重な姿勢であ る。今後の変化可能性に注目したいところである。 ⑩ネットでのEV専門モールの成長可能性 「インターネットを活用した自動車販売・ネットモールが成長すると思う。」との質 問で「はい」との回答率は全体で60%,クロス集計による「選択・組合せ重視層」 74%, 「擦り合せ重視層」48%である。 クルマのネット販売はこれまで中古車を中心に行われてきた。しかしこのところ, 新車を取り扱うネット販売も注目され始めた。特にセブンイレブン・ジャパンなど大 ― 153 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 手流通業からの資本参加もあり,徐々に信頼度も増してきた。ただしこれまでは「新 車は高額品。販売店を自ら訪問し情報を十分得て購入決定する耐久消費財だ。それだ けにネット販売事業としては成立させ難い。」といった過去の苦労経験の事例なども ありネット市場では出遅れている商材である。 しかしながらEV化への将来変化を想定するなら,おそらく高級高額車から大衆中 低額車まで幅広くラインナップされるであろう。実際,街中用の超小型「コミュータ EV」6)が韓国で,また日本でも注目され始めているだけに,EVは使用目的別に航 続可能距離と販売価格等から比較検討され,選択決定が行われる時代の到来も想定さ れる。街中近距離用の安価な小型エコカーはとりわけネット販売に乗りやすい条件を 持っているし,同時に逆のハイエンドにある高額高機能で趣味的なクルマ商材を求め るマニア層から支持される可能性も否定しがたい。 図表3−1−10(質問) 「ネットでのEV専門モールの成長可能性」 はい いいえ 無回答 2% 38.0% 60.0% 全 体 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%) 1.9% 擦り合せ 重視層 48.1% 50.0% 0.0% 選択・ 組合せ 重視層 74.4% 0 10 20 30 25.6% 40 50 60 70 80 90 100(%) 出所:中部大学・産業経済研究所「エコカーの将来に関するアンケート」2010年 以上,アンケート調査結果を軸にエコカー,特にEV化の変化方向のもとで今後の マーケティング戦略策定のため留意する必要がありそうなテーマ,あるいはヒントと なりそうな質問回答結果を抽出して考察,検討を行ってきた。その内容を踏まえるな ら,EV化は流通チャネル始め幅広い分野にまたがって新たなマーケティング展開を 強く要請し始めていると考えられる。 まだ先のことではなく,早期に柔軟なスタンスによって検討を開始し,周辺状況の 変化のキザシが感じ取れる際には,速やかに実務レベルでの取組みにつなげられるよ う準備しておくことが肝要であろう。 ― 154 ― 自動車産業の未来と中部圏 2.EV化に伴う産業構造変化と業務プロセス変化に関する検討 EV化は,これまでのガソリンエンジン自動車ベースのビジネススキームを大きく 変化させる可能性がある。使用するエネルギーがガソリンから電気に代わるというこ とは,商品としての自動車の変革とともにメンテナンスの体制,さらには販売体制に まで業務変革を迫る可能性がある。 前節と同様に「エコカー(環境対応車)の進展と自動車産業の将来変化」に関する有 識者&経営者アンケート調査結果に基づき,自動車業界においてのEV化に伴う業務 変革の見通しについて検討する。 図表3−2−11は,EV化に伴って発生すると思われる自動車業界の変化に関する 要因(質問)に対して,回答者を次にように2分割して捉え作図を行った。図表の縦 軸には「選択・組合せ型重視層」による「はい(そう思う)」の回答率をとり,横軸に 「擦り合せ型重視層」による「はい(そう思う)」との回答率をとり,質問個別にプロッ トしている。 ところで前節からも認識される通り,「選択・組合せ型重視層」はEV化に伴う自 動車業界変化が相対的に早期に現実化する,あるいは変化を相対的に積極的に受け止 めようとする傾向を示している。それに対して「擦り合せ型重視層」は,変化に対し て相対的に慎重なスタンス,あるいは変化を相対的に消極的に受けとめようとする傾 向を示している。 また図中には原点から縦横軸で同率値の位置上に45度の直線を引いている(作図上 の制約で若干45度を下回っている)。それに加え縦横軸ともに50%の位置を示す直線 を引いている。 さて縦横軸の両者の基本的特性,及び図中45度線の位置を踏まえるなら,次のよう に解釈することができる。図中45度線より上方に位置する要因は,相対的に早期に現 実化するとみる反応率が慎重なスタンスで捉える反応率を上回っている。45度線より さらに上方に位置するほど「早期現実化」の反応がより高くなる要因と見ることがで きる。 逆に45度線より下方に位置する要因は,相対的に慎重なスタンスで捉えようとする 反応率が早期に現実化するとみる反応率を上回っている。45度線よりさらに下方に位 置するほど「変化への慎重スタンス」の反応がより高くなる要因と見ることができる。 このような認識のもとで,図中に示す通り,要因を以下の6グループ化した。 ① 変革見通し:高群Ⅰ ② 変革見通し:高群Ⅱ ③ 変革見通し:高群Ⅲ ― 155 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 ④ 変革見通し:中群Ⅰ ⑤ 変革見通し:中群Ⅱ ⑥ 変革見通し:低群 以下,個別にその特徴を述べる。 ①変革見通し:高群Ⅰ ここに位置する要因は原点からほぼ45度線上で,かつ70%以上の高い反応率を得て いる。つまり「擦り合せ型重視層」,「選択・組合せ型重視層」ともに今後の変化可能 性について同程度の高い反応を示している。言い換えると「変化への慎重スタンス層」 も,「変化の早期現実化(支持)層」と同程度に強く変化可能性を意識している要因群 がここに位置している。このような図の意味に従うと,ここに位置する要因は今後着 実にそして早期の変化出現可能性を感じさせられる。 このグループ要因を業務プロセスとの関連から整理すると以下のようである。 A)グローバル展開プロセスに関連して ・グローバルなサプライチェーン・マネジメント(SCM)の進展 ・グローバルSCMとともにクラウド・コンピューティングの進展 ―但しセキュリティ面に留意しグローバル活用は慎重に B)ベンチャーの発展と研究開発プロセスに関連して ・大手企業とベンチャーの提携,資本関係強化の進展 C)研究開発プロセスに関連して ・電子制御技術の基幹部品化,大手完成車メーカーによる基幹部品技術の 独自開発と内製化,研究開発に関連する提携強化が進展 D)メンテナンス・サービスプロセスに関連して ・EVの制御プログラムが「通信機能によるダウンロード」による更新へ と進展 このグループには,大変重要な変化可能性を示唆する要因が含まれていることに留 意する必要がある。重複するが,グローバルな戦略的視点からの取組みが不可欠な自 動車市場において,SCMの進展とともにクラウド・コンピューティングへの取組み の進化充実に向けた変化可能性が高い支持を受けている。またEV化に伴って,既に 世界市場で注目すべきベンチャーが出現しているが,加えて今後については大手企業 がベンチャーとの提携,及び資本関係強化を推進させる可能性についても高い支持を 受けている。事実,本アンケート調査実施後の2010年央に,トヨタ自動車が独フォ ― 156 ― 自動車産業の未来と中部圏 ルクスワーゲン社に続き米国シリコンバレーに拠点を置くテスラ・モーターズ社に約 40億円の出資を行い注目されている。 図表3−2−11 自動車業界のEV化に伴う業務改革見通し (%) 変革見通し:高群Ⅰ 100.0 選 択 ・ 組 合 せ 型 重 視 層 ・ 回 答 者 の 反 応 率 ︵ % ︶ 90.0 変革見通し:高群Ⅱ 10 変革見通し:中群Ⅰ 13 80.0 12 28 70.0 30 6 9 26 5 7 4 15 25 3 16 60.0 11 19 20 13 1 21 8 22 17 14 24 29 変革見通し:高群Ⅲ 23 50.0 2 40.0 27 30.0 変革見通し:中群Ⅱ 変革見通し:低群 20.0 10.0 0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0(%) 擦り合せ重視層・回答者の反応率(%) 出所:中部大学産業経済研究所 作成 またこの要因グループの中で注目すべきは,電子制御技術が基幹部品化することに 伴い大手完成車メーカーによる基幹部品技術の独自開発と内製化,及び研究開発に関 連する提携強化が進展する可能性についてである。既にトヨタ始め日産,ホンダとも にモーターの内製化を実現させており,強化推進体制も整備されている。加えて二次 電池についてもトヨタ,日産は着実に内製化に向けて注力しているだけに,この変化 要因は既に表面化しているとともに今後充実に向けての加速化が予想される。 注目すべきもう一点は,車両通信技術に関連してEVの制御プログラムが「通信技 術によるダウンロード」による更新へと進展する可能性についてである。2009年にお いてのトヨタ・プリウスのリコール対応の際,整備士が小型モニターを手にプログラ ― 157 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 ム・バージョンアップに当たっている映像がテレビで何度か放映された。整備士がボン ネットを開けて対応するかつての作業とは隔世の感があった。他面で屋外無線LAN のインフラも着実に進展している。この無線LANインフラの進展を背景として,車 両のパソコン化は確実に進展する。携帯電話が既に自動バージョンアップされるよう に,自動車も同様に自動バージョンアップがなされる可能性が高く支持されているこ とに注目したい。 図表3−2−12 業務変革要因群別の要因(番号対応) 変革見通し:高群Ⅰ 変革見通し:中群Ⅰ 12.EMSの出現 14.自動車ディーラーへの依存度低下 15.自動車販売ネットモールの成長 16.家電量販店の自動車販売成長 17.併売化の進展 28.大手自動車メーカーの弱体化 30.大手自動車メーカーのSG,ITS 企業への変身 5.基幹部品技術の内製化 8.制御プログラムのダウンロード更新化 9.大手とベンチャーの提携&資本関係 強化 19.グローバルSCMの進展 21.クラウドのグローバル活用は慎重に 変革見通し:高群Ⅱ 1.価値基準の変化 3.自動車部品メーカーの地位低下 4.既存系列内の調達減少 6.新規参入の容易化 7.ベンチャーによる部品調達容易化 10.擦り合せ型設計方式の省略化 11.開発費の変動費化 13.メンテナンスの変質 18.中印のEV化進展 20.グローバルSCM推進にクラウド 25.EV用電池のリース方式良し 26.電池交換方式良し 変革見通し:中群Ⅱ 2.自動車の若者離れ進展 24.HV技術を公開 29.IT産業の成熟産業化 変革見通し:低群 23.HVは短命 27.マニュアル技術の見直しあり 変革見通し:高群Ⅲ 22.グループ内クラウドへの取組み ②変革見通し:高群Ⅱ ここに位置する要因は「選択・組合せ型重視層」からの反応が70%以上と高いのが 特徴的であるが,併せて「擦り合せ型重視層」からも50%以上と半数以上の高い反応 を得ているグループである。つまり「変化への慎重スタンス層」からも相対的に高水 ― 158 ― 自動車産業の未来と中部圏 準の支持を得ているが,とりわけ「変化の早期現実化(支持)層」からは絶対的に高い 支持を得ているのが特徴的である。したがって,ここに位置する要因は今後若干のリ スクを伴うかもしれないが,大胆に大きな変化を見せる可能性を持つと想定される。 このグループ要因を整理すると以下のようである。 A)製品コンセプト設定,企画プロセスに関連して ・自動車の価値基準が「地球環境への対応力」へと変化進展 B)部品調達,購買プロセスに関連して ・電子電機部品メーカーからの部品調達が増大,既存部品メーカーの地位 低下の進展 ・既存系列内からの部品調達減少の進展 C)研究開発プロセスに関連して ・電子電気機器のモジュール化の進展で,「擦り合せ型設計方式」の簡略・ 省略化進展 ・電子化により研究開発関連ベンチャーの多数輩出,そしてその利活用の 現実化に伴い開発費の変動費化が進展 ・電子化による部品点数減少が,ベンチャーや新興国企業の新規参入の容 易化を進展 D)メンテナンス・サービスプロセスに関連して ・メンテナンス・サービスの中心は機械修理型から電子機器保守サービス 型へと進展 E)電池充電・交換プロセスに関連して ・充電時間短縮のため空電池と充電済み電池との交換方式の進展 F)グローバル関連 ・中国,インドなど新興国でも予想以上のスピードでEV時代が進展 前述の「変革見通し:高群Ⅰ」と同様に,このグループにも大変重要な変化可能性 を示唆する要因が多く位置している。まず自動車のこれまでの価値基準の中心に「走 りのよさ」が位置していたが,EV化のもとでは「地球環境対応力」に移行する可能 性が認識される。この変化はクルマのコンセプト設定,あるいは企画プロセスに変化 をもたらす要因として注目されるが,実はクルマの完成に至るまでの全般に渡って変 革をもたらす要因として受け止めるべきものではなかろうか。 次に既存の購買プロセスにもたらす変化として,電子電気部品メーカーからの調達 増大により自動車部品メーカーの地位低下の可能性,及び既存の系列内からの部品調 達が減少する可能性要因は,とりわけ「選択・組合せ型重視層」からの反応が高いの ― 159 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 が注目される。 既にこのような現象は一部で表面化していることでもあり,既存部品メーカーの危 機感は日増しに高まっている。 研究開発プロセスにおいては,電子電気機器のモジュール化の進展により,従来の 「擦り合せ型設計方式」の省略あるいは簡略化が進展との反応が,とりわけ「選択・ 組合せ型重視層」において93%と大変高いことが注目される。ちなみに「擦り合せ型 重視層」の同反応率は52%であるから,その差は約1.8倍にもなる。「擦り合せ型重 視層」は擦り合せを重視する層であるから,擦り合わせ方式の否定は受け入れがたい 一面があるはずだけに当然の反応結果と言う事が出来るものの,電子電気部品を活用 せざるを得ない以上はやむを得ない変化という見方も自動車業界識者へのインタビュ ー調査から得られている。 またこのところEV関連のベンチャーに対して,世界の大手有力完成車メーカーが 出資するケースが注目されている。先述のとおり代表例は米国のテスラ・モーターズ 社に対して独フォルクスワーゲン社に続きトヨタ自動車も出資を行ったケースであ る。その目的は電子電機業界と同様に研究開発費の変動費化を目指すこととともに, ベンチャーのスピーディーな経営体質を自動車大企業が吸収したいという狙いがある ものとみられる。この両面ともに将来的な業務プロセスに大きな変革をもたらす可能 性がある。 次にメンテナンス・サービスプロセスに関連しては,EV化でエンジン関係整備の 不要化が徐々にだが加速度的に訪れる可能性要因がある。特にガソリンスタンドや カーサービス・ステーションにおいては,エンジン始め各種の調整・整備作業,オイ ル交換などの業務が次第に減少し,やがて不要となる可能性もありそうである。 グローバル関連としては,中国・インドなど新興国でも予想以上のスピードでEV 時代が進展との見方について,とりわけ「選択・組合せ型重視層」からの反応が約 90%と非常に高い支持を得ていることが注目される。新興国では低価格ガソリン車の 成長力が評価されているものの,想定以上のスピードでEV化も進展するかもしれな い。特にガソリンエンジン車のメンテナンス・サービス体制が必ずしも充分とは言い 難い状況からは,今後機械修理型の充実に努力するより一足飛びに電気修理型に注力 する方がコスト的にもスピード面でも有利といった見方もある。 以上,この「変革見通し:高群Ⅱ」のグループには,前述のとおり若干のリスクを 伴うかもしれないが,同時に大胆に大きな変化が現れる可能性を持つ要因が位置して いるようだ。それだけにこのグループ要因に対しては,他グループ要因以上に関心を 持って変化動向を把握・分析する体制をとることが重要と言える。 ― 160 ― 自動車産業の未来と中部圏 ③変革見通し:高群Ⅲ ここに位置する要因は原点から45度線より下方部に位置し,「擦り合せ型重視層」 からの反応が80%以上と高いながらも「選択・組合せ型重視層」においても67%と比 較的高い反応率を示している。ここには,自社グループ系列内で閉じた形のグループ 内クラウド・コンピューティング(プライベート・クラウド)に取組むことになると 思う,といったクラウド・コンピューティングの進展可能性の要因が1点位置づいて いるだけである。 なおクラウド・コンピューティングについては,「高群:Ⅰ」において触れたよう にクラウド・コンピューティングのグローバル活用は慎重にといった要因が,また 「高群:Ⅱ」にはグローバルSCM推進にはクラウド・コンピューティングの重要性 が高まるといった要因もあり,要因グループとしては若干異なるものの,いずれも変 革見通しとしては高群に位置している。すなわちクラウドについては前向きな見方で の変化の進展が示唆されていると見ることができそうである。但しグローバル展開に ついては慎重さを求めている一面も感じ取れることに留意すべきであろう。 ④変革見通し:中群Ⅰ ここに位置する要因は「選択・組合せ型重視層」からの反応が50%以上と高いなが らも,「擦り合せ型重視層」においては50%未満と相対的に低位な反応率を示してい るグループである。つまり「変化への慎重スタンス層」からの支持は低位であるが, 「変化の早期現実化(支持)層」からは比較的高い支持を得ていると言ったように両 者のギャップが大きいのが特徴的である。したがって,ここに位置する要因群は前述 の「高群Ⅱ」以上のリスクを伴うかもしれないが,同時に大胆に大きく変化が現れる 可能性も決して否定できない要因群と見ることができよう。 このグループの要因群を整理すると以下のようである。 A)生産プロセスに関連して ・新規参入企業や中堅クラスメーカーから製造受託するEMS企業の出現 と進展 B)販売プロセスに関連して ・既存自動車販売店への顧客依存度の低下が進展 ―通信機能の進展に伴う自動車のパソコン化が自動車販売店への顧客依存 度を低下させるとともに,既存販売店の販売力を低下させることの進展 ・インターネットを活用した自動車販売・ネットモールの進展 ・家電量販店の自動車販売の進展 ・これまでの自動車販売専売店型から併売店型への進展 ― 161 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 C)その他 ・大手自動車メーカーの弱体化 ・大手自動車メーカーのスマートグリッド,ITS企業への進展 生産プロセスに関連してEMS(エレクトロニクス・マニュファクチャリング・サー ビス)の出現要因は,「選択・組合せ型重視層」から約80%と高い支持を得ているの が注目される。 「擦り合せ型重視層」の反応40%弱と比較すると約2倍の格差となる。 ちなみに世界のEMS業界の第1位企業は電子電機業界のホンハイ(台湾)で世界の 従業員数の合計が 50万人を超える巨大企業である。ちなみに自動車業界トップ層へ のインタビュー調査において,EV化の進展に伴いEMSの活用度が次第に増してい くであろうとの見方が得られている。特に東南アジアに拠点を置くEMS企業に関心 が向けられる可能性が相対的に高そうである。 次に販売プロセス関連では4要因がこのグループに位置している。通信機能と通信 インフラの両面からの進展に伴い,自動車のパソコン化が実現する可能性が強いこと を「高群Ⅰ」のメンテナンス・サービスの変化に関連して触れた。とりわけ「通信技 術によるダウンロード」による更新へと進展する可能性はメンテナンス市場,さらに は直営型の販売店網を揺るがしかねない大きな変化要因となる。販売面に及ぼす変化 可能性としては,ユーザーとメーカー直営型自動車販売店との接触頻度を低下させ, 結果的にメーカー販売店に対するロイヤルティーは低下し,引いては販売力も低下す るといった可能性である。 またインターネット活用の自動車販売ネットモールの成長可能性要因,家電量販店 においての自動車販売の進展可能性要因,及び自動車の併売店型への移行可能性要因 がここに位置している。「選択・組合せ型重視層」からの反応率は55%∼75%と比較 的高いが,「擦り合せ型重視層」の反応は20%∼48%と低位で,したがって現実のも のとして定着するか否かは慎重にみる必要がある。とは言え新規参入業者の取組み方 いかんでは十分に変化をもたらす可能性が感じ取れる。既にネットモール型販売は着 実に成長しているとともに,大手家電量販店では家電製品に加え自動車販売コーナー の常設化もみられる。EV化時代の助走が既に開始されているという見方もできそう である。 ⑤変革見通し:中群Ⅱ ここに位置する要因は「選択・組合せ型重視層」と「擦り合せ型重視層」がいずれ も50%程度の反応率で両者の差が小さいグループである。 A)自動車の若者離れの進展 ― 162 ― 自動車産業の未来と中部圏 B)HV技術は公開すべき C)IT産業は成熟化 この3要因は業務プロセスとの関連が比較的低位である。ただいずれも自動車市場 の重要な戦略対象要因であるだけに,今後の変化可能性と取組みに関して慎重に臨む 必要があろう。 ⑥変革見通し:低群 ここに位置する要因は「選択・組合せ型重視層」と「擦り合せ型重視層」がいずれ も50%未満の反応率の要因グループである。 A)HVは短命 B)マニュアル技術に対するユーザーからの見直しあり 本調査結果からみる限り,この2要因の進展可能性は低位とみられるだけに詳述は 割愛する。 以上,EV化に伴う産業構造変化を背景としての業務プロセス変化に焦点を当てて 分析,検討を行った。特に図中・縦軸の「選択・組合せ型重視層」と横軸の「擦り合 せ型重視層」の反応には,アンケート調査設計段階での想定以上の格差が認められた。 いずれも重要な示唆に富むものと言えるが,EV化に向けて産業構造の一大変化が予 想される現状を踏まえるなら,大胆に大きな変化の可能性を示唆する要因に注目し今 後の経営,マーケティング戦略の立案,策定につなげることが重要な視点となりそう である。 第4章 EV化の進展と中部圏 1.未来の自動車市場・産業 10∼15年後の世界の自動車市場・産業がどのような姿になっているのかを洞察する のは困難なことであるが,未来へ向かう大きな流れを捉えることはある程度出来るで あろうとの前提で,以下の論議を進める。 前章迄ですでに取り上げられている中部大学・産業経済研究所がリーマンショック 後の2009年1∼2月に実施した「有識者及び経営者の方々へのアンケート調査」1)に よると,10∼15年後の世界での自動車の生産台数は概ね年間9,000万∼1億台に達す るとの結果が出ている。(2010年の実績は7,760万台)もし,未来の姿の大枠がそうで ― 163 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 あれば,どのようなプレイヤーがどのような車(クルマ)を作り,どのような地域の どのような市場に売っているのであろうか?そして,我が国の自動車メーカーはその 時どのような位置付けになっているのであろうか?この問いは,自動車市場・産業の 将来を考えるには素朴ではあるが,基本的なものであろう。その答えの一つを与えて くれたのが皮肉ではあるがリーマンショック(2008年9月)ともいえよう。 確かにリーマンショックを前後して世界の自動車市場・産業の姿は以下の4点から 大きく変わり,その流れは今後もさらに強まりつつあるといえよう。 ①新興国市場の急拡大 ②プレイヤーの多様化と相互連携・競争 ③エコ関連技術の革新 …… エコカー・EVの普及・進展 ④ICT(情報通信技術)革新の活用と融合 第一の新興国市場の急ともいえる拡大についてみると,すでに周知のこととなって いるが2009年,2010年の自動車国内販売台数では中国が米国を抜いて世界最大の市場 として位置付いている。また,ブラジルはドイツを抜き,日本に次いで第4位となろ う。さらにロシア,そしてインドなどアジア各国の最近の販売推移は2桁の伸びを示 しているところが多い。新興国の多くは経済成長の波に乗り,モータリゼーションの 幕開けの指標といわれる1人当たりGDP3,000ドルのレベルに達しようとしている。 一方,米・欧・日の先進国市場は政府補助金等に支えられ回復基調に戻りつつあると はいえ,今後を展望すると基本的には買い替え需要を中心として成熟化を深めていく 方向にある。10∼15年後の世界の市場はどのような姿になっているのだろうか関心が もたれるところである。 第二のプレイヤーの多様化と相互連携・競争についてみてみよう。これまで盤石と も思わせるような存在感を示していた先進諸国の大手完成車メーカーに加え,それら が保有する経営資源やビジネスモデルだけでは対応し難い新しい市場に適合したプレ イヤーの登場がここのところ顕著といえよう。新興国市場の成長に伴う現地新興企業 の登場・増大,エコカーとりわけEV市場の萌芽に拍車を掛けるベンチャー企業等新 規参入者の続出など新旧,大小の動きがプレイヤーの多様化を窺わさせる。そして, 注目すべきは,新旧,大小の境なくプレイヤー間の連携・競争が繰り広げられている。 さらに,イノベーションのジレンマに苦心する主要完成車メーカーだけでなく,メガ サプライヤーや中堅サプライヤーを中心にして周辺・部品産業の再編の波が投資ファ ンド等も絡みグローバルにうねりはじめている。 2009年の米国クライスラーとGMの破綻は世界の自動車市場・産業の大きな変動 (ビッグ3からスモール100sへ)を象徴するような出来事であったが,新興国市場で ― 164 ― 自動車産業の未来と中部圏 の覇権争いにおいては,中国吉利汽車のボルボ買収,米国最有力投資会社バーク シャー・ハザウェイの中国BYDへの投資,そのBYDによる我が国車体金型トップ メーカーのオギハラの買収,中国奇瑞汽車と富士重工業の合弁工場建設,日産とロシ ア最大手アフトワズの提携等々,米・欧・日の主力メーカーと新興国現地企業との連 携や相互買収等の動きが活発である。次世代エコカーでの技術開発や市場対応では, 独VWとスズキの提携,トヨタやパナソニックの米EVベンチャーのテスラ・モー ターズへの出資・提携,GMと韓国LG化学との技術提携,日産と独ダイムラーの相 互協力,三菱自動車と日産そして仏ルノーとの連携等々,先進国主力メーカー,ベン チャー企業,異業種参入企業,新興国企業間での連携・競争が盛んである。 また,世界市場でのトッププレイヤーの様相も変わりつつあり,新興国市場に強い VWは勿論であるが,韓国の現代自動車(含起亜自動車)の躍進は著しく,世界市場 での存在感を増している。そして,エコカーとくにEV事業では多様なプレイヤーが 多彩なバックグランドを背負い,各地域から多数登場しており,そのなかで安価で長 寿命の二次電池の開発がもし進めば,拡大する新興国市場でのEVの普及の可能性は 十分あるといえよう。 第三のエコ関連技術の革新…エコカー・EVの普及・進展については,第1章です でに述べられているが2),自動車の進化を「プロダクトとプロセスのイノベーション とインプルーブメント」マトリックス図,すなわち,製品の改良・革新の軸と製造プ ロセス(つくり方)の改良・革新の軸で方向付けると,GV・CDV(ガソリンエンジ ン車の低燃費化・クリーン化)→HV→PHV→EV→FCV(燃料電池車)・水素自 動車と進化していくことを示唆している。この技術進歩の流れの中でのFCV以降は, 燃料とする水素の供給等に関する諸問題を考えると完全実用化までに乗り越えなけれ ばならない課題は多いといってよいであろう。そして,現時点では,HVやPHVに 比して,EVは万人の実用からすると課題3)は多いものの,量産化が始まり市場導入 の(一般ユーザーの評価を受けつつある)段階にすでに到達しているのである。EV の今後は,ガソリンやディーゼルエンジンに代わる動力源となる二次電池の性能の技 術進歩に大きくかかっているといえよう。すなわち,既存一般車(ガソリンやディー ゼルエンジン車)をほぼ全ての面で性能的に上回るEV(二次電池等)の開発を最終 目標に置けばその道のりは遠いとも思われるが,用途を限定すれば(例えば100km 以 内の短・中距離で街中を中心に走るタウンカーとして使うならば),価格と重量の問 題を除き,すでに現段階でも十分な水準になっているといえよう。 二次電池の性能については,既存一般車の性能を目標にすれば,航続距離,充電時 間,重量・サイズ,充電インフラ等改良・革新の余地は大きいのであろうが,米シリ コンバレーのITベンチャー出身者が起業したテスラ・モーターズの開発したEV・ ロードスターは既成のPC用のリチウムイオン電池をコンピュータ制御で約7,000個 ― 165 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 繋げて動力源にしている。我が国のリチウムイオン電池の性能向上の努力が「大容量 の蓄放電可能な装置を軽く小さく創る」だとすれば,テスラの考え方は既に有るもの を繋げていくという,いかにもシリコンバレー的なオープンで水平思考的(フラット) なものである。しかし,これも見方を代えれば立派なイノベーションといえよう4)。 このことは,多様なプレイヤーが世界中に続々と登場しその考えがオープンに交換さ れる今後のEV化の流れの中でみられるイノベーションの姿の一面を示唆するものと 考えられる。 2009年就任したバラク・オバマ米国大統領のグリーン・ニューデイールの提唱はエ コ関連技術の開発や新産業創造・新事業創出を活気付けてきたといえるのであるが, エコ関連技術の革新を生み出す土壌はますます整備され,その背景にはエコ(地球環 境問題,低炭素社会・持続可能社会等)に対する強い社会的要請があり,そのことが 人類の共有する確固たる社会的価値になりつつあることが窺える。したがって,エコ 関連技術の進歩・革新には今後ともますます期待されるといえよう。その中でも,エ コカーとりわけEVはゼロエミッションカー(無公害車)として期待は大きいのであ る。そして,これまでの章でもたびたび論じられてきているが,EVの普及は,クル マのつくり方(設計思想等)を大きく代えてしまうような変化をもたらす可能性や危 険性を秘めているのである。 第四のICT革新の活用・取り込みと,その変化との融合については,今後のクル マの概念を変えてしまうような意味を含む流れともいえるのである。開発・製造段階 のICT活用は勿論,クルマの駆動制御でのICTの活用は不可欠であり,いまや部 品コストの50%以上が電子制御関連といわれ,さらにGPSなど高度な通信機能の搭 載など,クルマのPC(パソコン)化が進んでいるといわれている。10∼15年後を視 野に入れれば,今後のICT革新のさらなる進展,広範化と深化(クラウド化・ユビキ タス化)の加速は,このような状況をさらに進展させ,さらにクルマの設計・開発・生 産,マーケティング・販売,保守・サービス,駆動制御・運転操作等のあり方を大きく 変えようとするであろう。そして,とくにEV化の進展はこれまでの機械制御系のク ルマの概念から電子・電気制御系の概念への変化を意味し,このことはICT革新と 非常に親和性・融合性があり,クルマのPC化という流れと相乗し,それに拍車を掛 けるようにさらに大きな流れを生み出し,自動車産業そのものの姿を大きく変えてい く力を秘めているようにすら思えるのである。 自動車を含む都市の交通システム全体をICTを用いて最適に制御するITS(高度 道路交通システム)の研究は以前より進められてきているが,ここにきて,地域全体 のエネルギーの効率的・環境配慮的制御を合せて総合的に実施するインフラとしての スマートグリッド(次世代送電網)構想が世界的に打ち出され,我が国でも経済産業 省が主管となり横浜市,豊田市などを中心に実験的に進められている。これは,エコ ― 166 ― 自動車産業の未来と中部圏 シティ構想とも呼ばれ,地域全体で持続可能な低炭素社会の構築を目指すものであり, このなかでエコカーとくにEVやPHVは「走る蓄電池」として位置付けられている。 大容量の蓄電装置の開発が技術的に難しいなかで,たとえば2,000台のPHVやEVの リチウムイオン電池をICT制御で送電網に住宅の電源から繋げば,計算上は中規模 の火力発電所の電力を一時的にではあるが供給出来ることになる。EVなどのエコ カーが社会システムとしてのこの次世代のインフラ送電網の重要機能となるといえよ う。個人の生活に必要とされるスタンドアロン製品としてのクルマが,地域全体・街 全体を支えるシステムの中核として欠かせない社会的公器に変容していく可能性は十 分あり得るのである。そして,このエコシステム全体を社会インフラの一つとして次 世代の都市整備を必要とする世界各国に提供していく事業展開も現実に動き始めてい る。横浜市での日産,豊田市でのトヨタ自動車などは完成車メーカーとしての本業を 要にした新しい事業分野の創造を模索しているといえよう。 以上,4点から未来の世界の自動車市場・産業の変化の大きな方向を現実を踏まえ て論じたが,これらの流れは,リーマンショク以前から市場・産業の底流に静かに, ゆっくりと動いていたのであるが,リーマンショックを機に一挙に表出したともいえ るのである。そして,これらは今後とも相互に因果となり密接に関連し合って大きな うねりとなって進んでいく可能性がある。 なお,この4つの流れに加え,未来の姿の実像を創っていく重要な要素は,この市 場・産業でリスクに立ち向かい夢やチャンスに挑戦するプレイヤーの未来観である。 彼らが未来社会をどのように認識しどのような事業創造活動をするかによって未来の 姿も異なってくるといえよう5)。 2.EVの未来:3つの道 我が国の経済産業省が提示している次世代エコカー普及目標は,2030年へ向けて国 内新車市場の50∼70%であり,そのうちEVはPHVと同じカテゴリーに入っている が20∼30%とされている。 現実のエコカー市場の中で先行し優勢な地位を占めているHVに対して,EVは一 昨年(2009年)量産・発売されたi−MiEV(三菱自動車),昨年末(2010年)本格市 場導入のリーフ(日産),ボルト(GM)によって,市場の評価を得るべく事業がスター トをしたばかりである。一般に航続距離で難点のあるEVであるが,GMのボルトは 補助エンジンを積んで公表では600kmの航続が可能(但し,搭載する韓国LG化学の リチウムイオン電池だけで走れる距離は50kmといわれている)となっており長距離 走行が日常でも必要になる米国市場に合致した機構になっているともいえる。これは 一般のEVとはそのまま性能比較出来ないものであり,「EVにあらず」との意見や批 判も出ているが,市場の特性に合ったEVの一つのあり方と考えるのも市場を制覇す ― 167 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 るかどうかの戦いを想定すればごく自然のことでもあろう。 EVは,既存のガソリンエンジン車やHVにくらべて,一般に必要な部品点数も少 なく,つくり方が簡単で,資本力や人材・組織力が劣っていても挑戦的プレイヤーで あればこの市場や事業に参入しやすいといわれている。実際,EVに係るプレイヤー は図表4−2−1でみるように多様である。とくに新規参入者での,つくり方,電池 関連の技術,顧客・市場の狙い方,販売方式・チャネルなどは多様であり,様々なかた ちのビジネス・イノベーションの出現が期待出来るといえよう。 図表4−2−1 EV化の動向* 会 社 三菱自動車 日 米 欧 発 売 価 格 航続距離(km) 2009年6月 398万円 富士重工業(現在生産中止中) プラグインステラ 2009年7月 472万円 90 日産自動車 リーフ 2010年12月 376万円 200 トヨタ自動車 iQ 2012年(予定) (注1) 105 ホンダ フィットEV 2012年(予定) (注1) 160 160 GM シボレー・ボルト** 2010年12月 フォード フォーカス 2011年後半(予定) ダイムラー(独) Aクラス E−セル 2013年(予定) (注1) 200 スマートEV 2012年(予定) (注1) 135 (注1) 130 メルセデス・ベンツ VW(独) テスラ(米) 新 興 ・ ベ ン チ ャ ー 車 名 アイミーブ VWUp 2013年(予定) ロードスター 2008年 モデルS 2012年(予定) フィスカ・オートモーティブス(米) カルマ** 2009年 ゼロスポーツ(日) (2011.3倒産) ZERO EV 2011年(受注) シムドライブ(日) エリーカ 2013年頃(予定) CT&T(韓) e ZONE 2009年 Think Global(ノルウェー) Think city 2010年 BYD(中) e6 2010年(未実現) 約40,000ドル(注2) 56 (注1) 160 約1,300万円 394 約400万円 480 88,000ドル(注2) 80 大手の70∼80% 100 150万円 300 98万円 70∼120 (バッテリーレンタル方式) 34,000ドル(注2) 160 30万元(注4) 328 奇瑞汽車(中) M1 2012年(予定) 149,800元(注4) 110 タタ(印) インディカ Vista EV 2012年(予定) 29,000ポンド(注3) 160 マヒンドラ・マヒンドラ(印) マヒンドラ・REVA 2009年 15,000ユーロ(注3) 160 注1)2011年2月現在まで販売価格未発表 注2)2011年2月現在の米国発売価格 注3)2011年2月現在のEU発売価格 注4)2011年2月現在の中国発売価格 *2011年3月現在の主要EV **発電用エンジン搭載 出所:各種資料より作成 さて,前章から本章前節まででは,EV化が進展することにより将来の自動車市 場・産業に大きな変化・影響(クルマのつくり方の根本的変化等)をもたらすだろう との示唆を述べているが,そうだとすれば今後の10∼15年後を視野に入れ,EVの普 及がどのような勢いで,どこまで進むかを考察することは,我が国の経済・産業,ま ― 168 ― 自動車産業の未来と中部圏 してや中部圏の将来を考察するには,「鍵」となる重要なポイントといえよう。以下 ではこの点を論じてみよう。 EV化の進展の今後を考える場合,エコカー市場での競合車とも考えられるHVと の現段階での性能・価格の比較をみることが参考となろう。図表4−2−2でみると, EVはHVに比して,排出CO2 や燃費(ランニングコスト)の面での有利性はあるも のの,航続距離や車両価格(イニシャルコスト)の面で大きく劣っているといえよう。 また,本表では読み取れないが,電池の重量やサイズ(かさばり)による居住・収納 スペースの狭小性の問題や,逆に静かで加速が良い点なども一般的にEVの特徴とも いわれている。 なおEVの基本的劣性は,その直面する課題として本章前節 6 ) でまとめている 「EVの現状の問題点」に集約されよう。そして,EVの基幹部品となる電池やモー ター等で必要となるレアメタル,レアアースの確保で国際政治的な動きがネックに なっていることも認識しておかなければならない。 図表4−2−1 主要エコカー(HV,EV)の性能・価格比較 メーカー 車 名 トヨタ自動車 プリウス(HV) 日 産 ホ ン 2010(注1) (第3世代) 航続距離 (最高燃費) CO 2 排出量 610g/10km 1,770km (38km/?) 電気・燃料費 充電時間 (急速充電) 32円/10km 205万円 200V 8時間 (30分) 200km 最低価格 リーフ(EV) 2010 0g/10km 376.4万円 インサイト(HV) 2009 774g/10km 1,200km (30km/?) 40円/10km 189万円 フィット(HV) 2010 967g/10km 1,008km (30km/?) 50円/10km 159万円 i−MiEV(EV) 2009 0g/10km ボルト(EV) 2010 ダ 三菱自動車 G 発売年 M ― 160km 50km 補助エンジン 600km 10円/10km 200V 7時間 (30分) 240V 3時間 398万円 約332万円 注1)プリウス第1世代は1996年発売開始 出所:日経新聞,産経新聞等各種資料より作成 以上から考えて,現段階ではEVを期待される革新的製品と考えてもエコカー市場 で先行基盤を築いているHVには太刀打ちできない状態であろう。したがって当面の EVを支える市場としては,エコ対応など社会的責任感の強い法人需要にくわえ個人 需要ではライフスタイル的にエコ意識(こだわり)の強い,経済的にもゆとりのある 一戸建てに住むような(家庭充電がやり易い),新製品を積極的に取り入れるイノベー ター層・アーリーアダプター層が一つの狙い目ともいえる7)。あるいは,離島などの ― 169 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 観光地や自然保護地域,さらには世界的視野をもって米国西海岸地域(加州)や欧州 各国のような環境規制の厳しい地域などのセグメントされた市場から普及の基盤を築 いていくことが重要となろう。 これまでの議論を踏えて,今後10∼15年後へ向けてのEVの普及の過程を新車需要 をベースとして大胆に考えると以下の3本の道が考えられる。 第一の道は,EVが電池の性能革新などでその基本的課題を解決できないで,HV (含2012年に市場に本格導入されるPHV)に対して性能・価格面でその劣性を克服で きない場合である。この道を進まざるを得ない場合は,EVは限定されたニッチな市 場で生き残ることになろう。 そして,この道ではHVは寿命の長い(次世代のエコ カーとも期待されているFCVが本格普及するまで,たとえば20年以上稼ぎ頭になる ような)製品・事業になる可能性が高い。したがって,EVの社会的存在感は,HV にくらべてきわめて限定的といえよう。 第二の未来への道では,EVが二次電池の革新的性能・品質向上(大容量化,長寿 命化,高安全化,低価格化等)や充電インフラの整備が進み,ゼロエミッションカー として,HVや一般低燃費車・低公害車に代替するエコカーの地位を確立する。 そし て,エコ意識の浸透・定着,エコ規制の強化等を背景に盤石な市場基盤がEVを支え ている姿が想定される。 電池の技術革新・市場支配については,現状では我が国が世界で一歩リードする立 場にあるのであるが,今後のエコカー・EVにおける二次電池分野では,我が国の視 野の外で,ITなど異業種から参入するベンチャー(米国・テスラ,中国・BYD, 韓国LG化学等)や国家的支援を背景とした集中開発・投資と国際連携(中国,韓国, 米国,欧州等)強化などでのプレイヤーの躍進が,ときには想定外のイノベーション を生み出し,新興市場など成長する市場に合致した性能・価格で展開する場合があり 得ることを中・長期的視点をもって考えておく必要があろう。このような場合では, HV(の長命化)にこだわる我が国のプレイヤーだけがグローバルに拡がるEV事業の 発展で取り残され,最高技術を誇るHVのガラパゴス化現象が起こる危険性もあり得 よう。 ここで参考までに,未来の市場・産業の担い手・プレイヤーである自動車関係の経 営者等はHV市場の将来(寿命)についてどのように考えているかをみてみよう。今 後EV化の進展によりクルマのつくり方が水平分業的な「選択・組合せ型」に変ると 考えている者の49%が「HV時代としての寿命は短期間で終わる」と考えているのに は驚かされる。HVの製品ライフサイクルの将来に対する危機感は予想以上に強いと いえよう8)。 第三の道は,二次電池の性能改良・革新が進み,EVの現在抱えている課題は完全 とはいえないが徐々に改善,解決されていくが,各エネルギータイプのクルマの特性 ― 170 ― 自動車産業の未来と中部圏 が活かされ,尊重され,その特性(価値)に合った市場や社会インフラ・社会システ ムとの融合性・相乗性をベースとした棲み分けがなされる姿である。ここでは,文字 通りGV・CDVなど低燃費車,HV,PHV,EV,さらにはFCV,水素自動車,ソー ラーカー等も共存し,より良い都市環境,安心・安全を含めた生活アメニティーを形 成するための手段として補完関係を保っている姿が想定されよう。ただし,EVは 短・中距離用途のタウンカー・コミュニティカーと初めから棲み分け規定をすれば, EV用電池の性能の革新は進みにくくなるかも知れない。EV(の電池)だけが高性能 化を進めているのではなく,各エネルギータイプのクルマにおいても日進月歩の改 良・革新は進められるのであり,今後ともEVの棲み分けポジションを失わないため にも,さらには新しいポジションや領域を獲得するためにも技術革新・事業革新への 挑戦は続けなければならないのである。 以上,EVの将来をHVの存在を意識して論じてみたが,未来へ向けてどの道を歩 むかは定かではない。ただし,グローバルに多様化するプレイヤーの登場とその動向 に対する注意は怠ってはならないであろう。 ここで,将来のエコカー市場・産業を創造・構築する担い手としてのプレイヤーの未 来観を構造分析すれば,選択・組合せ型のつくり方に大きくシフトするEV化の進展 (逆に考えればHV時代の短命化)を判断するポイント(変化・現象)は,以下の4点 であることが浮き彫りになっている9)。 「EV化の進展を判断する変化・現象」 ① 家電量販店での自動車販売拡大 ② 生産受託専門会社(EMS)の出現・増大 ③ 電子機器関連対応の保守サービス体制への変質 ④ 系列内の部品調達の減少 最近の新聞報道等によれば,電子機器関連対応の保守サービス体制への変質や系列 内の部品調達の減少等の変化は勿論であるが,家電量販店ビッグカメラやヤマダ電機, さらには米・ベストバイでのi−MiEVの販売開始,そして世界最大の電子製品 EMS・鴻海精密工業(台湾)と吉利汽車集団(中国大手自動車メーカ)とのEV共同開 発の動きは,EV化の勢いを示し,その普及を促進する重要な出来事と捉えることも できよう。これらの変化・現象の継続的チェックは,後節で論ずる将来の自動車市 場・産業の構造的変化やそれによる地域経済(中部圏等)への影響を早期に察知する ための仕組み(Early Warning System:早期警報システム)の一つとして位置付けら れよう。 ― 171 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 3.EV化の進展による中部圏へのインパクト 2008年9月に生じたリーマンショックは,それまで盤石と思われていた我が国の自 動車産業を大きく揺るがすことになった。そして,自動車産業を中心に‘モノづくり にっぽん’を支えていたともいえる中部圏経済にも多大の影響をもたらした。以来, 我が国だけではなく世界の自動車市場・産業の姿は大きく変わろうとしている。その ような変化のなかでエコカーへの期待とりわけEV化は世界的潮流として動き始めて いるといえよう。 前章まででも論じられているが,EVの出現・普及は,これまでのクルマのつくり 方を大きく変えてしまう可能性(立場によっては危険性)をもっている。ガソリンエ ンジンを中心とした機械制御系のこれまでのクルマにくらべ,電気モーターを中心に 電気制御で動くEVは,つくり方も簡単になり,当然必要とされる部品の点数も大幅 に少なくなり,組み立ても容易で, 「擦り合わせ」要素が極端に減少すると考えられる。 実際,新興市場で登場している韓国や中国のEV市場参入企業は,つくり手の納得い く‘モノづくり’というよりか,初めてクルマを求める顧客でも買いやすい‘商品づ くり’に注力し,既製のコストパーフォーマンスの良い部品・材料を内外から調達し, 組み立ててつくる 水平分業的「選択・組合せ型」で展開しはじめている。このような EV化の流れのなかで,世界的にプレイヤーの増大・多様化が進めば,「選択・組合 せ型」のクルマのつくり方が急速に拡大・波及していくことも予想されよう。 野村総合研究所編著「グローバル化と地域に根ざす自動車部品業界」によれば, 「自 動車産業就業人口数は,日本の全就業人口の8%を占めており,非正規雇用を含めれ ばさらに大きな比率となる。また,日本の製造品出荷額において,自動車産業は全体 の17%強であるが,実際には,自動車の重要な材料である鉄鋼をはじめとした素材産 業や,今や自動車は‘走るパソコン’ともいわれるほど多様な電子部品が搭載されて おり,それらを供給する電機業界などを含めれば,自動車にかかわらない産業を見つ け出すことが困難なほど,自動車と日本の各産業とのかかわりは深い」と,これまで の自動車産業の日本経済に占めるウエイトの大きさや重要性・基幹性を示している。 したがって,我が国の自動車市場・産業の変動は‘モノづくり にっぽん’の経済・産 業に変化を少なからず呼び起こすことになる。さらに,もしクルマの‘つくり方’の 根本が変るとすれば,わが国の産業構造の構図や地域経済の姿も大きく変化していく 可能性がある。とりわけ,自動車産業の存在が極めて大きい中部圏においては,その 影響は甚大であろう10)。 われわれ中部大学・産業経済研究所が先行的に別途まとめている研究「中部圏の産 業クラスターの発展と課題」1 1 )によれば,中部圏は自動車産業を中心とした典型的な 「擦り合せ型」産業の集積地となっていて,これまでの‘モノづくり にっぽん’の中 ― 172 ― 自動車産業の未来と中部圏 核地域との自負もあり比較的閉ざされた系の中で営まれてきていた。 そして,将来の地域経済・産業の成長・発展を呼び寄せるというオープンイノベー ション1 2 )の源泉となる他の智の拠点(大学・研究機関,専門サービス機関,ベンチャ ー企業等)との交流や連携,さらには智の交換・増殖機能や問題解決機能を持つ専門 サービス機関(PSF)の存在・活動が,首都圏などとくらべるとかなり少なく,地域 経済圏,産業集積圏として独自の展開をしている中部圏の姿が浮き彫りになっている。 これは,必要な知識や技術,人材等を自前で持っていて他に頼らなくとも済む磐石 な体制(未来への備えとしての巨額なR&D投資を含め)があるからともいえるが, このような自己完結型組織は新しく生じる急激な,とりわけグローバルな規模で起こ る変化には非常に脆い面もあるといえよう。リーマンショック以降,新グローバル化 など新たな環境の変化への対応を精力的に進めているとはいえ,これまで築き上げて きた特性により中部圏は「智の神の潜む杜」的な,懐の深い奥行きのある地域とでも いえよう。しかし「智の神は万物に宿り,時空を瞬時に越える」グローバルなオープ ンイノベーションを梃子に展開する電気自動車(EV)の時代のパラダイムとは少々 距離がある地域でもあり,今後の変化への対応にも予断を許されない状況といえよ う。 図表4−3−1 10∼15年後の中部圏の自動車産業と産業構造 ⑤ 自動車産業は 衰退し他産業も 成長なし 8% ⑥ 回答無し 2% ① 自動車産業が 一層中心の構造 7% ② 自動車産業中心だが 他の産業も成長 ④ 自動車産業が やや衰退を他産業が 補って成長 37 % 26 % ③ 現状どおり 20% 出所:「有識者及び経営者の方々へのアンケート調査」 (2009)中部大学・産業経済研究所 ― 173 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 さて,ここで全国シェア約10%の中部圏(愛知,岐阜,三重の3県)経済の10∼15 年後の未来がどのようになっているかをプレイヤーである経営者や有識者に訊ねてみ ると, 「現状より(やや・大きく)衰退」とする者が33%であり, 「現状と同じ」とす る者が 3 8%となっている。一方,「現状より(やや・大きく)発展する」と楽観的に考 える者は28%と少ない。 また,自動車を中心としている産業構造の変化については,「現状どおり」とする 者は20%であるが,「自動車産業が地域経済の牽引役としてより一層中心的な存在に なる」と考えるプレイヤーは僅か7%である。一方,「自動車産業は衰退し他の産業 が成長し補っている」とする者は34%,「自動車産業が依然中心であるが,他の産業 の成長に期待する」者は37%,とくにEV化の進展を予想し期待するプレイヤーは地 域の衰退を懸念する傾向が極めて強くなっている1 3 ) 。地域における自動車産業のウエ イトは下がり,存在感も減らし,さらにその産業的な体制や構造も来るべき世界的大 競争時代の中で付加価値の取りにくいものに変容していく危険性は大きい。リーマン ショックの前は,トヨタを中心とする自動車関連産業を核にして万全の地域経済の発 展を謳歌していた中部圏であったが,未来の方向は翳りも出て来て先行きは不透明な 状況ともいえよう。(図表4−3−1参照) 以上を背景として,中部圏の未来を意識し,これまでの垂直統合型の自動車産業の 将来に懸念を抱いている産業の担い手としてのプレイヤーは,未来に向けた閉塞突破 策として3つの方向を考えていると思われる。第一の方向は,より一層の低燃費化や HV,PHV,EV,FCV,水素自動車,ソーラーカーなど次世代エコカーとくに PHVやEVの技術・製品開発を戦略的に進めると同時に,拡大する新興国市場での地 位獲得と確保を狙う。これは,本来の自動車を本業とする者の努力の方向であろう。 そして,それをサポートする周辺産業としての部品・材料メーカー等は世界的に競争 力のある高付加価値製品の開発力や新興国市場の開拓力をオープンイノベーションの 梃子などを駆使して強化し,展開していくように努力することである14) 。 第二の方向は,自動車を社会システムの一部と位置付けて今後のICT革新とのリ ンクを取りながら(自動車のICT重装備化・高性能電池の搭載の流れを,CO2削 減,安全確保,交通渋滞回避,住宅・オフィス・店舗との連絡やエコ化・省電力化 等々社会の制御システムへ連結・拡張・統合させる)そのなかで大きな役割を担う。 すなわち,ITSやスマートグリッド,スマートシティーへのエコカーとくにPHV やEVをコア機能としての提供・参加である。場合によっては,システム全体の統 合・運営機能も担う。その方向への期待はかなり大きいといえよう。(図表4−3− 2参照) そして第三の方向は,自動車産業に代わる地域経済を牽引する新しい産業の育成・ 強化・拡大である。これは,自動車企業からみれば,異業種多角化でもあろう。ある ― 174 ― 自動車産業の未来と中部圏 いは,産業の主役交代ともいえようか。中部圏では次世代の主要産業分野として,自 動車よりさらに部品点数の多い航空機,そしてバイオ,再生医療,セラミック,ICT 等々が挙げられるが,擦り合せ型・垂直統合型巨大産業である現在の自動車からみれ ば,現段階では少々影の薄い存在ともいえよう。しかし,中・長期的視野をもって ニューフロンティア(新成長分野)の芽として,これらを育成することも必要であろ う15)。 図表4−3−2 スマートグリッドや I T S への展開について 〈大手自動車メーカーはスマートグリッドやITS・総合交通システムを提供する企業へ の変身・脱皮していくと思う〉 はい いいえ 無回答 1% 47% 52% 全 体 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%) 0.0% 擦り合せ 38.5% 重視層 選択・ 組合せ 重視層 61.5% 69.8% 0 10 20 30 40 30.2% 50 60 70 80 90 100(%) 出所:「有識者及び経営者の方々へのアンケート調査」 (2009)中部大学・産業経済研究所 ここで現実を直視すると,中部圏経済の現状(リーマンショック以降2010年9月ま で)を企業業績等でみてみれば,けっして良い状況といえない。中部大学が所在する 春日井市近辺でみても,中堅企業,中小企業の経営は円高等による不況が中・長期化 すれば,自動車関係の製造業を中心に相当のダメージをさらに受けることになる。そ して,同時に教育機関においても,その出口,学生の就職先の確保は益々厳しい状況 になってくると思われる。そのような流れの中で,多治見市などで進められている 中・長期的視野をもった起業家育成・支援,あるいは産官学連携による新産業の創 造・育成など,地域に根ざした地道な取組みも今後は強く求められるようになるであ ろう1 6 )。このような各地域の取組みが相乗し中部圏全体の将来のための底上げをする ことになることも,一方で考えておく必要がある。 ― 175 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 4.むすびにかえて: EWSによる中部圏産業構造変化の中・長期的なモニタリング17) これまで述べてきている未来社会(10∼15年後の環境変化)の方向から洞察される 自動車市場・産業への影響や課題を,そしてトヨタ自動車を中核に発展してきている 中部圏への影響を,より先見的に,より正確に,そしてより具体的に,世界的な視野 をもって継続的にフォロー・観察することは,自動車産業の将来,地域経済・産業, さらには我が国の将来を考え,戦略的に行動していくためには非常に重要で意味ある こととなる。「ツボ」あるいは「震源地」となるような重要な兆候を察知し,その意味 を分析・警告し,対応策を提言することは中部圏の「智の拠点」としてのシンクタン ク:中部大学・産業経済研究所:の次代(ポスト30年)へ向けた発展には欠かせない ことといえよう。 クリーンエネルギー革命,ICT革新,新興国成長を軸とした世界経済牽引(新グ ローバル化)の進展等で大きく変わろうとしている我が国の自動車産業と中部圏が, 今そしてこれから必要とする‘EWS’を考えると,その観測・モニタリングポイン トは以下の3点と考えられる。 ① 未来社会を創るプレイヤーの自動車市場・産業に対する洞察・考察を知る。 「有識者・経営者へのアンケート調査」による重要事項(current and key issues)の分析。 ② 中部圏に所在する自動車関連の重要企業・機関を選別し,それらをEWSの 観測地点として,その企業や機関のKey Persons, Key Players,Entrepreneurs へ の イ ン タ ビ ュ ー 実 施 と 内 容 解 析 , さ ら に は 別 途 彼 ら と の 討 議 (Creative Discussions)18)。 ③ エコカーの動向のモニタリング:世界の自動車市場・産業のパワースポット システムの構築(エコカーに関する主要新聞記事等情報の継続的な収集・分 析し,エコカー普及のダイナミズムを生み出す世界的な震源地としてのス ポット:地名や企業・車名等:を発掘し世界地図上にプロットし,モニタリ ング分析する) 。 以上のシステム(仕組み)構築と維持,そして調査・分析をベースにした研究を積み 上げていくことにより,「あてになる」EWSの構築が進み,自動車市場・産業の変化 と中部圏へのインパクトを構造的に,そしてより先験的に洞察することも可能になる と思われる。なお,本章で論じている世界の自動車市場・産業の動向や今後の展望は, ここで提示しているこれまでに構築してきたEWS(観測・モニタリングシステム) の分析結果を活用することによって可能となっている。 ― 176 ― 自動車産業の未来と中部圏 注 第1章 1) サブプライムローンについてはその担保信用保証面の問題が以前から浮上していたが,強 く意識され始めたのは2007年夏ごろからであった。 2) 自動車業界ヒアリング調査,及びWikipediaによる。 3) 妹尾堅一郎『技術力で勝る日本が,なぜ事業で負けるのか』ダイヤモンド社 2009年 4) 国土交通省は新車のトラック・バス及び乗用車から排出される窒素酸化物(NOx)及び粒 子状物質(PM)の更なる低減を図るため,世界最高水準の厳しい規制である,いわゆる 「ポスト新長期規制」を制定し,新車ディーゼル車に対しては平成21年10月から適用開始。 この規制によって新車ディーゼル車は平成17年規制(新長期規制)適合車に比してNOx 40 ∼65%,PMを53∼64%低減させることとなり,基本的にガソリン車と同レベルの排出ガス 規制となった。政府ではポスト新長期に適合したクルマを「クリーンディーゼル車」と呼 んで区別している。 第2章 1) 産業経済研究所「有識者及び経営者の方々へのアンケート調査―地球環境問題と自動車産 業の将来変化について―」2009年2月 2) 産業経済研究所「有識者及び経営者の方々へのアンケート調査―「エコカー(環境対応車) の進展と自動車産業の将来変化に関するアンケート調査―」 2010年3月 3)「擦り合せ型」および「選択・組み合せ型」について:日本の技術開発力が誇る代表的な グローバル製品は,「自動車」と「デジタル家電,特にパソコン(PC)」といわれる。と ころがこの2つの製品は,「自動車が高付加価値」を維持発展させてきたことに対して, 「PCは急速に価格低下し付加価値は限定的」と非常に対照的な一面がある。 この状況に関する1つの見方として,「自動車は多くの部品が企業や車種に固有の設計とな っておりそれらを製品統合に向けて擦り合せることが不可欠」,それに対して「PCはほと んどの部品・機能が業界標準に準じており,それらを選択・組み合せる能力があれば求め る機能は比較的容易に実現可能」とされる。そのようなPCに代表されるデジタル家電製 品は,早期に急速な価格低下に見舞われかねず,結果としてコモディティ化が進むと見ら れている。 電気自動車に代表されるエコカーの時代になると,これまでの自動車業界の「擦り合せ型」 の中に,デジタル家電業界の「選択・組み合せ型」の特徴をも部分的であれ,併せ持つこ とになるといった見方も一部に見られる。 4) 小川紘一(2009)「国際標準化と事業戦略」白桃書房 P.5 図1.1「東京大学 知的資産 経営・総括寄付講座発表資料」 ― 177 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 5) 電気モーターのエネルギー効率は約90%,ガソリンエンジンのエネルギー効率は約20%で ある。Well To Wheel で見ても,ガソリンエンジン車の1km 走行当り一時エネルギー投入 量はEVの約2.5倍である(JHFCプロジェクト「平成17年度発表資料―総合効率検討結果」 「平成20年度 JHFC 総括」)。 6) 村沢義久(2010)「電気自動車 市場を制する小企業群」毎日新聞社 7) 上記1)のアンケート調査の問8の付問1への回答において,「擦り合せ型」重視の回答者 が「安全性」を高頻度で記載していたことによる。 8) 小川紘一(2009)「国際標準化と事業戦略」白桃書房 9) なお,「プラットフォーム戦略」とは,「多くの関係するグループを「場」に乗せ,マッチ ングや集客などさまざまな機能を提供し,検索や広告などのコストを減らし,外部ネット ワーク効果を創造することで,「新しいエコシステム」を構築する戦略である。(出所:平 野敦士カール他「プラットフォーム戦略」東洋経済2010年7月) 10) 株式会社 SIM-Drive の Web 参照。URL:http://www.sim−drive.com/index.html 第3章 1) 自動車業界が製品統合に向けて「擦り合せ型」,電子電機業界が「選択・組合せ型」の特徴 を有しているとの指摘・提唱は,東京大学・藤本隆宏教授によるビジネス・アーキテクチャ ーに関する概念による。大学,産業界,公的分門を問わず多くの方々から支持されてきた 概念といえる。 2) 中部大学・産業経済研究所で実施の有識者及び経営者の方々へのアンケート調査で「地球 環境問題と自動車産業の将来変化について」と題し2009年2∼3月実施。郵送法にて実施 し対象数1,500サンプル,回収数520サンプル,回収率35%であった。 3) 自動車業界ヒアリング調査結果による。 4) 自動車業界ヒアリング調査結果による。 5) クオンタムリーブ代表取締役&元ソニーCEO・出井伸之氏ほかの方々の言葉である。 6) 韓国「CT&T」社。2002年の創業で韓国ヒュンダイ自動車のエンジニアが開始したEVベ ンチャー。2009年東京モーターショーに「コミューターEV」を展示し注目を集めた。 第4章 1)「有識者及び経営者の方々へのアンケート調査」 (2009)中部大学・産業経済研究所 参照。 2) 本論文第1章3節を参照。 3) 本論文第1章2節を参照。 4) シリコンバレーのインベーションを生み出す背景は,「米・中・日アントレプレナー比較研 究:シリコンバレーからの考察」(鈴木 他 2005),「なぜ,アントレプレナーか?:アメリ カ西海岸からの視点」(渋谷祐司 2004)などを参照。 ― 178 ― 自動車産業の未来と中部圏 5) 特別研究レポート「自動車産業の未来と中部圏:EV化の進展による構造変化」(中部大 学・産業経済研究:2010・6)第4章を参照のこと。 6) 本論文第1章3節参照。 7) E・ロジャースの新製品等イノベーションの波及・普及過程を説明する理論モデルを参照。 本モデルをベースに展開した研究としては,「新製品普及予測のための調査・研究」(鈴木 正慶,他 1968,1970),「Crossing the Chasm」(G・Moore 1991)などがある。 また,先端技術(原子力発電など)に対する社会的受容性の調査・研究もEVの普及の洞察 には参考となる。 8)「有識者及び経営者の方々へのアンケート調査」(中部大学・産業経済研究所 2010)の データを用いたプレイヤーの判断(回答等)のクロス集計分析結果にもとづく。 9) 中部大学・産業経済研究所 特別研究レポート「自動車産業の未来と中部圏:EV化の進 展による構造変化」2010.6 第3章を参照。 10)「業界再編の波を迎える自動車部品産業」(中神,山浦 2009) , 「次世代自動車が及ぼす自 動車産業の構造変化とモノづくり企業の発展戦略」(財団法人 機械新興協会・経済研究所 2010)参照。 11) 中部圏の地域経済圏,産業集積圏(クラスター)としての特性,課題,将来方向等の詳しく は「東海地域の産業クラスターの発展の課題:産官学連携の中小企業への影響を中心に」 中部大学産業経済研究所‘産業経済研究所紀要」第16号,2006年3月 参照。 12) オープンイノベーションとは,自社技術だけでなく他社や外部研究機関がもつ技術やノ ウハウ・アイディアを繋げ・組合わせて,革新的な製品や事業を創りだすことであり,自 社の研究開発(R&D)だけに頼るクローズドなやり方と対比される。(日経情報ストラテ ジー参照) 13)「有識者及び経営者の方々ヘのアンケート調査」 (2009)中部大学・産業経済研究所 参照。 14) 前出「自動車産業の未来と中部圏:EV化の進展による構造変化」(中部大学・産業経済研 究所 2010)の第2章2節 参照。 15)「東海ビッグバン:グレーター・ナゴヤの新たなる飛躍に向けて」(此本,岩垂,他2004) 参照。 16)「Tajimist」No.2059,2005年2月1日 参照。 17) EWSとは Early Warning System の略であり, 「早期警報システム」といわれる危機管理の 仕組みのことをいう。ここでは,中長期的・世界的視点で自動車産業や中部圏,さらには 日本経済等に大きな影響をもたらし危機となるような兆候や事象の出現・変化などを継続 的にウォッチ,モニタリングする仕組み(システム)と位置付けている。なお,EWS的 意味を含めて,今後の自動車市場・産業の未来への考察として,「クオターリー生活福祉研 究(明治安田生活福祉研究所調査報)」70号,72号,74号にて掲載しているので,参照され たい。 ― 179 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 18) Entrepreneursには大企業・機関内で革新的・挑戦的活動している人々は勿論,とくにベン チャー企業やEVなど新規事業に挑戦している起業家を含んでいる。 参考文献・資料 第1章 川原英司(2009)「電気自動車が革新する企業戦略」 近能善範(2008)「自動車のエレクトロニクス化と先端技術協業」 妹尾堅一郎(2009)「技術力で勝る日本が,なぜ事業で負けるか」 竹森俊平(2009)「経済危機は9つの顔を持つ」 中部経済産業局(2009)「クルマの未来とすそ野の広がりを考える懇談会」 藤本隆宏(2007)「モノづくり経営学」 第2章 鈴木正慶,中津道憲,永井義明(2010)「自動車産業の未来と中部圏−EV化の進展による構造 変化」産業経済研究所特別研究レポート 舛山誠一,鈴木正慶(2006)「東海地域の産業クラスターの発展の課題」『中部大学産業経済研究 所紀要』第16号 藤本隆宏(2004)「日本のもの造り哲学」日本経済新聞出版社 妹尾堅一郎(2009)「技術力で勝る日本が,なぜ事業で負けるのか」ダイヤモンド社 小川紘一(2009)「国際標準化と事業戦略」白桃書房 川原英司他(2009)「電気自動車が革新する企業戦略」日経BP出版センター Remco R. Bouckaert 他(2010)“WEKA Manual for Version 3-6-3” University of Waikato 豊田秀樹(2008)「データマイニング入門」東京図書 廣田幸嗣 他(2010)「電気自動車工学」森北出版 村沢義久(2010)「電気自動車市場を制する小企業群」毎日新聞社 舘内 端 (2010)「ついにやってきた!電気自動車時代」学研パブリッシング 平野敦士カール(2010)「プラットフォーム戦略」東洋経済新報社 伊丹敬之(2010)「技術経営の常識のウソ」日本経済新聞出版社 経済産業省(2010)「産業構造ビジョン2010」『産業構造審議会産業競争力部会報告書』 第3章 川原英司(2009)「電気自動車が革新する企業戦略」 近能善範(2008)「自動車のエレクトロニクス化と先端技術協業」 ― 180 ― 自動車産業の未来と中部圏 住商アビーム自動車総研(2008)「自動車立国の挑戦」 野村総合研究所(2009)「知的資産創造」 藤本隆宏(2007)「モノづくり経営学」 桃田健史(2009)「エコカー」 第4章 中部大学・産業経済研究所(2009,2010)「有識者及び経営者の方々へのアンケート調査」 (集計 結果表):中部大学「EV研究会」 鈴木正慶,中津道憲,永井義明(2010)「自動車産業の未来と中部圏:EV化の進展による構造変 化」(特別研究レポート):中部大学・産業経済研究所 鈴木正慶(2009)「自動車産業の未来への一考察」(明治安田生活福祉研究所調査報70号) 鈴木正慶(2010)「パワーシフト:東京モーターショーからの考察」(明治安田生活福祉研究所調 査報72号) 鈴木正慶(2010)「電気自動車が問いかける‘ものづくり’の未来」(明治安田生活福祉研究所調 査報74号) 友田雄輔(2010)「世界の自動車市場の未来について:EVを巡る大競争時代への一考察」(中部 大学・大学院 特別講義):中部大学・産業経済研究所 Matthew M. Amano(2008)「Alpha One」(EV Start Up):Essay from Emeritus Professor of Oregon State University 中神貴之,山浦耕太郎(2009)「業界再編の波を迎える自動車部品産業」(知的資産創造09・7 号):野村総合研究所 居城克洽,岩城富士大,太田志乃,他(2010)「次世代自動車が及ぼす自動車産業の構造変化と モノづくり企業の発展戦略」(機械工業経済研究報告書 N21―3):財団法人 機械新興協 会・経済研究所 廣田幸嗣他(2010)「電気自動車工学」:森北出版 Everett M. Rogers(1968)「Diffusion of Innovations」:New York, The Free Press 鈴木正慶,他(1981)「原子力発電に対する意識構造に関する調査:先端技術に対する社会的受 容性に関する調査・研究」 (原子力委員会月報26・2) 鈴木正慶,他(1987)「閉塞突破の経営戦略:事業創造のニューパラダイム」(野村総合研究所 編):野村総合研究所 鈴木正慶,渋谷祐司(2005)「米・中・日アントレプレナーシップ比較研究:シリコンバレーか らの考察」(特別レポート):中部大学・産業経済研究所 鈴木正慶,他(2007)「アントレプレナーシップの日・米・華比較」 (第10章):創成社 鈴木正慶(2007)「アントレプレナー教育・育成への一考察」(特別レポート):中部大学・VMS (ベンチャー・マネジメントスクール) ― 181 ― 鈴 木 正 慶 ・ 中 津 道 憲 ・ 永 井 義 明 鈴木正慶企画・編(2005)「地域活性化とアントレプレナーシップ」(特別研究会レポート):中 部大学・産業経済研究所 舛山誠一,鈴木正慶(2006)「東海地域の産業クラスターの発展の課題」(中部大学・産業経済研 究所紀要 第16号) 此本臣吾,岩垂好彦,他(2004)「東海ビッグバン:グレーター・ナゴヤの新たなる飛躍に向け て」(野村證券・東海三県プロジェクトチーム編):中日新聞社 鈴木正慶,相澤吉勝(2006,2007,2008)「中部圏におけるIT産業:Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ」(研究レポー ト):中部大学・産業経済研究所 鈴木正慶,他(2005)「大学における新しい社会チャネルの構築及び教育ニーズの対応に関する 研究」中部大学・研究委員会 ― 182 ―
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