統計的損傷診断法を用いた 知的構造ヘルスモニタリングに関する研究 2002 年 3 月 東京工業大学 大学院 理工学研究科 機械物理工学専攻 岩﨑 篤 第1章 緒 論 _____________________________________ 1 1.1 研究背景 __________________________________ 1 1.2 知的構造ヘルスモニタリングの損傷診断に関する過去の研究 __________________________________3 1.2.1 構造ヘルスモニタリングに関する研究 1.2.2 損傷同定手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 1.2.3 損傷検知手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 1.3 研究目的 1.4 本論文の構成 __________________________________ 7 ______________________________ 8 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 参考文献 第2章 ・・・・ 3 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 2.1 緒 言 2.2 回帰分析を用いた損傷同定 ______ 15 ___________________________________ 15 _________________ 17 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 2.2.1 緒 言 2.2.2 電気抵抗変化を用いた複合材料積層板の層間はく離同定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 2.2.3 電気抵抗変化法の原理と測定システムの概要 2.2.4 解析手法 2.2.5 損傷診断手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 2.2.5a BPANN 法 2.2.5b 応答曲面法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 解析結果と考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 2.2.6 2.2.6a はく離位置と寸法の同定結果 2.2.6b BPANN と RSM の比較 2.2.7 2.3 ・ 18 ・・・・・・ 23 ・・・・・・・・・・・ 23 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 結言 判別分析を用いた損傷同定 2.3.1 緒 2.3.2 マハラノビス距離を用いた判別分析 2.3.2a 言 _________________ 27 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27 マハラノビス距離 ・・・・・ 29 ・・・・・・・・・・・・ 29 2.3.2b マハラノビス距離による判別分析例 2.3.2c 帰属率導出 2.3.3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 電気抵抗変化法を用いた層間はく離同定問題 2.3.3a 電気抵抗変化 2.3.3b 試験片および実験方法 2.3.4 ・・ 30 ・ 31 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 31 ・・・・・・・・ 31 最小マハラノビス距離を用いた平板試験片の層間はく離同定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 2.3.4a はく離同定手順 2.3.4b 水準分割 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 2.3.4c 同定結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 2.3.5 結 水準帰属率を用いた層間はく離同定 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 35 水準帰属率 2.3.5b 有意水準を用いた層間はく離同定 結 ・・・・ 35 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 言 言 ___________________________________ 37 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38 参考文献 第3章 ・・・・ 35 2.3.5a 2.3.6 2.4 ・・・・・・・・・・・・ 32 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 言 ________ 63 3.1 緒 ___________________________________ 63 3.2 提案手法の原理およびシステム有効性の実験的検証 3.2.1 緒 言 3.2.2 統計的診断手法 _ 65 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65 3.2.2a 応答曲面法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65 3.2.2b 最小二乗法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65 3.2.2c 応答曲面の係数検定 3.2.2d F 検定による応答曲面同一性の判定 3.2.2e 統計的診断システム 3.2.3 ・・・・・・・・・・ 66 ・・・・・・・・ 68 パイプ曲げ損傷検知システムへの適用 3.2.3a 構成システム 3.2.3b 実験装置 ・・・ 67 ・・・・・ 69 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 69 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69 3.2.3c 学習モード 3.2.3d 損傷モニタリングモード 3.2.4 3.2.4b 無損傷時のモニタリングモード ・・・・ 71 3.2.4c 損傷時モニタリングモード ・・・・ 71 3.2.4d 損傷診断結果 3.2.4e 判定精度の向上 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 72 ・・・・・・・・・・・・・・ 72 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73 確率分布変数を用いた閾値の決定 緒 3.3.2 応答曲面比較による損傷診断 結 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74 ・・・・・・・ 74 3.3.2a 損傷診断概要 3.3.2b F 検定による応答曲面同等性検定 3.3.2c 損傷診断手順 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 74 表面ひずみ変動を用いた層間はく離検出 試験片および実験方法 3.3.3b 応答曲面 3.3.3c 仮説棄却領域 3.3.3d 診断精度 言 ・・・ 75 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 76 3.3.3a 参考文献 結 言 ___________ 74 3.3.1 3.3.4 第4章 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71 学習モード 3.3.3 3.4 実験結果と考察 ・・・・・・・・ 70 3.2.4a 3.2.5 3.3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 結 言 ・・・ 77 ・・・・・・・・ 77 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 78 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80 ___________________________________ 82 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83 論 ___________________________________ 101 各章に対応する投稿論文 _________________________________105 付録 A1 2応答曲面の同等性検定 ____________________________A1 第1章 緒 論 第1章 緒 1.1 論 研究背景 近年,機器・構造物に各種センサーを取り付け,その機器全体の状態を常時 診断する知的構造ヘルスモニタリング技術(1)が様々な分野で注目されてきてい る.とくに構造健全性保証の分野においてはトンネル内のコンクリートはく離 事故や,首都高速道路の老朽化に見られるように,近年では高度経済成長期に 建設された様々な大型構造物が次々設計寿命を迎えており,稼働中のインフラ ストラクチャーの破壊を常時診断することが重大事故防止の観点からも必要不 可欠であり知的ヘルスモニタリング手法の構造への適用が重要となってきてい る.しかしながらこれら大型構造物の損傷診断は目視点検などの現場点検に依 存しており,多大なコストを要求する上に迅速な損傷報告は困難なのが現状で ある.そのためこれら構造物の損傷をリアルタイムで自動的に診断するための 手法の開発が必要とされている. 一般的な損傷診断手法としては,構造機器をモデル化しシステムの特性を表 すパラメータの変化から損傷を診断するパラメトリック法,ニューラルネット ワークなどを用いることで構造の出力から逆問題で損傷を診断するノンパラメ トリック法がある.パラメトリック法は損傷に関する詳細な知見が得られる反 面,あらかじめ構造・損傷の正確なモデルが必要であり,対象となる構造物に 対する詳細な知見,材料・損傷に関する専門的知識が必須である.一方ノンパ ラメトリック法では,学習用に多数の損傷とセンサーデータの測定結果が必要 であるが,事前の詳細な検討は不要である.このため一般には損傷がセンサー 出力に及ぼす影響が複雑な場合ではノンパラメトリック法が採用される. しかしながら,次節に示すように,ニューラルネットワーク(2)等を用いたノン パラメトリック法では,適切な逆解析モデルの設定や過剰学習に至らない最適 1 第1章 緒 論 な学習回数の設定に試行錯誤が必要であり,これらの作業には多大なコストを 要求する.そのため逆解析モデルの評価が簡便かつ,繰り返し学習が不要な簡 便な最適化手法が望まれている. また,高速道路や橋梁等,既存の稼働中構造物の損傷診断を行う場合,構造 物は各々が固有の特性を持つ上,いずれも多くの部材が複雑に組み合わされた 複雑なシステムであることから数理モデル化が極めて困難である.さらに破壊 的実験も不可能であることから,損傷時の構造情報を必要とする損傷診断法を 適用することは不可能に近い.そのため,既存構造に適用可能でかつ,簡便な 損傷診断法が強く望まれているのが現状である. 2 第1章 緒 論 1.2知的構造ヘルスモニタリングの損傷診断に関する過去の研究 1.2.1 構造ヘルスモニタリングに関する研究 ヘルスモニタリングとは医療分野に用いられている言葉で患者の状態を常時 診断することを示しており,これが転じ,構造ヘルスモニタリングとして構造 状態のリアルタイム計測の意味で用いられてきた.これが構造物に各種センサ ーを取り付け構造の損傷有無を診断し,構造の健全性を常時診断すると転じた のは1988年のアメリカのアロハ航空機事故をきっかけとしている.これが 現在の構造ヘルスモニタリングの概念であり,それ以来研究が活性化し,数多 くの研究が行われてきている. 現在構造ヘルスモニタリングに関する研究は,主にデータ収集に関する研究 と,データ処理による損傷診断手法の二つに大別される(図 1.1).データ収集 に関する研究としては,構造に取り付けられたセンサーを用い構造の現在の状 態を取得する研究として,橋梁や,大型構造物モニタリングのシステム構築に 関する研究(3,4),測定データのイーサネットによる転送に関する研究(5-9)など実機 のヘルスモニタリングを行った数多くの研究が行われている.これらの研究は, 構造に取り付けられたセンサーからリアルタイムにデータの取得を行い,構造 の損傷状態が変化することにより測定データが変化することを示している.ま た,センシングと同時に構造の制御を行う手法として,センサーだけでなくア クチュエータとしても期待されるピエゾ素子(10)を用いた構造ヘルスモニタリン グに関する研究(11,12)も行われている.また通常データ転送に用いられる光ファ イバーをセンサーとすることで一本でデータ測定・転送を行う事が可能なレー ザードップラーセンサー(LDV)(13),ブラグ格子センサー(FBG)(14),BOTDR(15)を用 いた構造ヘルスモニタリングの研究(16-22)が行われている.これらの研究により, 遠隔地から,損傷の発生に起因する構造の現在のひずみ・温度等の状態量変化 を簡便に測定することが可能であることが明らかにされており,これらの手法 を用いることで,遠隔地で構造状態を常時測定できることが示されている. 次に測定データによる損傷診断手法であるが,これは構造の異常発生を診断 する損傷検知,構造の状態を推定する損傷同定とに分けられる(図 1.2).損傷 3 第1章 緒 論 検知はリアルタイムに損傷の発生を検知することで,損傷発生による2次災害 発生を防止するため,並びに目視点検など現場点検のコスト削減と損傷報告の 迅速化のため行われる.損傷同定は構造の余寿命評価など構造の継続使用が可 能であるか,あるいはどの程度,どのような対応が必要であるかの調査のため 行われている.これら損傷検知・同定に関しては大別して次節以降に述べる. 1.2.2 損傷同定手法 構造の損傷同定問題の解法は一般的に次の2種に分類される.1つは実験, あるいは構造・損傷の数理モデル化により,システム特性を表すパラメータを 抽出し,パラメータの変化から構造状態を推定するパラメトリック法である. もう一方は,システム同定問題と同様に,実測・解析から得られたデータを既 知の量とし,構造状態を逆解析で推定するノンパラメトリック法である(図 1.3). パラメトリック法では構造全体を有限のパラメータで診断するため,固有振 動数を用いた損傷同定(23),ウエーブレット解析をもちいた損傷同定(24)など,振 動パラメータを用いた手法が多く用いられる.パラメトリック法は,損傷の特 性を表すパラメータが既知の場合や,構造の数理モデル化が容易である場合に 有効である.パラメトリック法では,パラメータの変化から,損傷が直接同定 できるため,損傷を物理的に把握することができる反面,構造と損傷を数理モ デルで記述する必要があるため,構造に対する詳細な知見が必要であり,かつ 都市構造物に見られるような複雑な構造では,その特性をモデル化することは 難しい.そのため構造全体の健全性を診断する構造ヘルスモニタリングへの適 用は困難である. 一方,ノンパラメトリック法を用いた損傷同定は,逆解析で構造からのセン サー出力と損傷の関連を解き明かすことから,システムからの出力とシステム の内部パラメータを同定するシステム同定問題に還元でき,損傷同定はシステ ム同定における誤差最小化の最適化問題と等価となる.そのため,遺伝的アル ゴリズム(25)を用いた損傷同定(26-30),局所フレキシビリティー法を用いた損傷同 定(31,32),応答曲面法(33)を用いた損傷同定(34,35),判別分析を用いた損傷同定(36,37)な ど最適化手法を用いた数多くの研究が行われている.その中でももっとも活発 4 第1章 緒 論 に研究が行われているのは,ニューラルネットワーク(38)を用いた損傷同定(39-46) である.ニューラルネットワークには様々存在するが,誤差逆伝播形のニュー ラルネットワーク(BPANN)を用いた逆問題解析による損傷同定,ノード数が少な いためBPANNに比べ収束速度・精度が高いと言われるホログラフィックニューラ ルネットワーク(HNN) (47)を用いた損傷同定(48),水準への同定を目的とした学習 ベクトル量子化ニューラルネットワーク(LVQ) (49) を用いた損傷同定 (50,51) など 様々な研究が行われている.これらノンパラメトリック法による損傷同定では, 損傷と物理パラメータとの関係が不要であるため,損傷とパラメータの関係が 未知な場合や構造が複雑であり損傷・パラメータの関係の取得が困難である場 合に有効である.しかしながら,逆解析モデルの最適化に試行錯誤が必要であ り,これらの作業に多大なコストを要求する欠点もある. 以上の理由により,複雑な構造形状を持つ都市構造物の構造ヘルスモニタリ ングには,損傷・パラメータの関係が不要なノンパラメトリック法が有望であ るが,最適な逆解析モデル導出の際に試行錯誤が必要であるため,モデルの最 適化が容易な手法の構築が望まれる. 1.2.3 損傷検知手法 一般的に損傷の検知はパラメトリック法を用い,特定のパラメータに閾値を 設定し,パラメータの変化から損傷を検知することが行われている.しかしな がら,実験室ではなく外気にさらされる都市構造物,とくに常に荷重状態の変 動する橋梁構造などは,損傷によるパラメータの変化と温度変化や季節変化な どの環境の変化によるパラメータの変動を明確に区別することが困難であり, 判定が難しい.また損傷発生を示す閾値自体が構造に固有であり,都市構造物 などは破壊的実験が不可能であることから,経験により決定しているのが現状 である.そのため単一のパラメータではなく,システムの変動を検出するよう なノンパラメトリックな損傷検知法が望まれる.ノンパラメトリックな損傷検 知法としては無損傷時データのニューラルネットワーク学習を用いた損傷検知 法(52),密度推定を用いた時系列データ予測による損傷検知法(53)がある.これら の研究では,損傷時・無損傷時における出力が定性的に異なることが示されて 5 第1章 緒 論 いるものの定量的考察は行われておらず,損傷を取得データから定量的に検知 可能な手法の構築が望まれる. 6 第1章 1.3 緒 論 研究目的 1.2 節に示された様に構造の損傷同定問題では,構造・損傷が複雑なため数理 モデル化が困難であり,出力から事象を逆問題で推定するノンパラメトリック 法が多用される.ノンパラメトリック法はニューラルネットワークに代表され るが,汎化能力が高いものの繰り返し学習による最適化が行われており,最適 な逆解析モデルの選定の際多くの計算コストを要求する.そのため,逆解析モ デルの最適化が容易な手法の開発が望まれている(図 1.4).また,損傷検知問 題では一般的にパラメトリック法が用いられているが,多種多様な既存構造物 への適用が望まれている以上,個別の構造のモデル化を必要とせず,かつ破壊 的実験を伴わない手法の構築が望まれている(図 1.4). 一方,同様に複雑でとらえにくい事象を多次元の測定データから具体化する 手法として統計データ解析がある.統計データ解析には各種分析手法に最適モ デル選定が含まれており最適なモデルの構築やデータ処理による特性の抽出が 容易であると考えられる.また統計データ解析を用いた逆問題解析では解析モ デルの設定,誤差など得られた結果に対する統計的な評価が容易であり,効率 的な損傷診断が可能であると考えられる. そこで本研究では,統計データ解析手法用いた損傷診断手法の確立を目的と し,損傷同定手法・損傷検知手法の提案と有効性の実証を行う. 具体的には,複合材料積層板の層間はく離同定問題を対象として,応答曲面 法による回帰分析,マハラノビス距離を用いた判別分析を用いた繰り返し学習 が不要なノンパラメトリック損傷同定法を構築し,その有効性および妥当性を 実証する. 続いて,金属材料の曲げ損傷検知および,複合材料積層板の層間はく離検知 問題を対象として,応答曲面法によるシステム同定と同定されたシステムの統 計的比較による統計データ解析を用いた損傷時のデータが不要なノンパラメト リック損傷検知法を構築し,既存構造の構造ヘルスモニタリングシステムに対 する有効性および妥当性を実証する. 7 第1章 1.4 緒 論 本論文の構成 本論文は知的構造ヘルスモニタリングのための損傷診断手法として,新たに 統計的データ解析手法を用いて損傷診断を行う手法を提案し,その有効性を主 に実験的に検討した物であり,以下の4章からなる. 第1章「緒言」では,研究の背景と,従来の知的構造ヘルスモニタリングに おける損傷診断手法について述べ,従来手法における問題点・課題を明らかに し,本研究における目的を示した. 第2章「構造損傷同定への統計的診断手法の適用」では,複雑な構造物に適 用可能な損傷同定法の構築を目的とし,統計データ解析を用いた構造のモデル 化が不要なノンパラメトリック損傷同定法について考察を行っている. 第3章「構造損傷検知への統計的診断手法の適用」では,損傷検知に特化す ることで,無損傷状態の初期データと現在のデータから応答曲面法と統計的検 定を用いて損傷時の構造状態を考慮することなく損傷検知を行うシステムの提 案を行い,その有効性の実験的検証を行っている. 第4章では以上の研究結果の総括を述べた. 8 第1章 緒 論 参考文献 (1) 例えば,山本鎮男,構造ヘルスモニタリング,(1999),共立出版 (2) 例えば,矢川元基・吉村忍,計算力学[V]-材料力学のためのニューロ応 用―,(1997),養賢堂 (3) A.E.Aktan, A.J.Heimicki and V.J.Hunt, Smart Materials and Structures, 7(1998), 674-692 (4) J.P.Darryii, A.L.Philip,Smart Materials and Structures, 7(1998), 627-636 (5) P.L.Fuhr, D.R.Huston, T.P.Ambrose, E.F.Mowat, SPIE vol.2446(1995),301-306 (6) D.Take, T.Riddle, F.W.Williams, NEL Letter Report 6180/393A.1, July 1(1993) (7) C.M.Ballard, S.S.Chen, Proc.SPIE Smart Structures and Materials, vol.2719(1996), 102-111 (8) R.A.Daniel, Instrumentation & Control Systems, 10(1997),37-40 (9) R.Winkler, Sensors EXPO 97,(1997), 135-138 (10) 例えば,内野研二,圧電/電歪アクチュエータ,森北出版(1986) (11) 例えば,西垣勉・小田原靖・遠藤満,日本機械学会論文集(C編),63-615 (1997), pp3728-3734 (12) 例えば,D,K,Shah, W.S.Chan and S.P.Joshi, Smart Material and Structures, 3(1994),293-301 (13) 影山和郎・金原勲・鈴木敏夫・大澤勇・島村淳,日本造船学会論文集, 178(1995),583-591 (14) D.H.Simonset, R.Paetsch and J.R.Dunphy, Proceedings of SPIE International Society of Optical Engineering, 1777(1992), 73-79 (15) 堀口常雄・倉嶋利雄・立田光廣,電子情報通信学会論文集,J-74-C-II, 5(1991),467-472 (16) 影山和郎・金原勲・鈴木敏夫・大澤勇・村山英晶・高橋淳,日本造船学 会論文集,182(1997),579-587 (17) R.L.Idriss, M.B.Kodindouma, A.D.Kersey and M.A.Davis, Smart 9 第1章 緒 論 Materials and Structures, 7(1998), 209-216 (18) P.L.Fuhr, D.R.Huston, M.Nelson, O.Nelson, J.Hu and E.Mowat, J of Intelligent Materials Systems and Structures, 10(1999), 293-303 (19) Rolf Brönnimann, P.M.Mellen and U.Sennhauser, Smart Materials and Structures, 7(1998), 229-236 (20) 座古勝・裏垣博・小舘一浩,材料,44-499(1995),493-497 (21) R.C.Tennyson,A.A.Mufti,S.Rizkalla,G.Tadros and B.Benmonkrane, Smart Materials and Structures, 10(2001), 560-573 (22) N.D.W.Glossop, S.Dubois, W.Tsaw, M.Leblanc, J.Lymer, R.M.Measers and R.C.Tennyson, Composites,21-1(1990),71-80 (23) 例えば,金澤健司・平田和太,日本建築学会構造系論文集,529(2000), 89-96 (24) 例えば,曽根彰・山本鎮男・増田新,日本建築学会構造系論文集, 512(1998),61-66 (25) 例えば,坂和正敏・田中雅博,遺伝的アルゴリズム,1995,朝倉書店 (26) 古口日出男・渡辺浩・矢田敏夫,日本機械学会論文集(A編), 60-572(1994),1029-1034 (27) 中村正行・田中正隆,日本機械学会論文集(A 編),60-574(1994), 1430-1436 (28) 陳鵬・千場隆之,谷口雅俊・奈須政巳・豊田利夫,日本機械学会論文集 (A編),65-640(1999),4790-4795 (29) P.Chen, T.Toyota, IEICE TRANSSACTIONS, E78-A-12(1995),1620-1626 (30) 堀部忠志・浅野直輝・岡村弘之,日本機械学会論文集(A編), 66-646(2000),1756-1761 (31) 邊吾一・山口達也・福田行義・青木義男・K.C.Park,日本機械学会論文 集(A編),66-644(2000),721-726 (32) K.C.Park and C.A.Felippa, Journal of Applied Mechanics, 65-1(1998), 242-249. 10 第1章 (33) 緒 論 例えば,R.H.Myers, D.C.Montgomery, "Response Surface Methodology: Process and Product Optimization Using Designed Experiments", (1995), John Wiley & Sons. Inc. (34) 稲田貴臣・島村佳伸・轟章・小林英男・中村春夫,日本機械学会論文集 (A編),65-632(1999),776-782 (35) 田中雄樹・轟章・島村佳伸,日本機械学会論文集(A編),65-640(1999), 2432-2438 (36) K.Worden and A.J.Lane, Smart materialsand structures, 10(2001), 540-547 (37) C.R.Farrar, D.A.Nix, T.A.Duffey, P.J.Cornwell, G.C.Pardoen, Proceedings 17th international Modal Analysis Conference, 1999, 599-607 (38) 例えば,矢川元基,吉村忍,計算力学[V]-材料力学のためのニュー ロ応用―,養賢堂;1997 (39) 邉吾一・西恭一・黄一正・藤川由美,日本機械学会論文集(A編), 62-602(1996),2338-2343 (40) 望月義彦・矢川元基・吉村忍,日本機械学会論文集(A編),57-540(1991), 1923-1929 (41) 吉村忍・矢川元基・豊永健・大石隆寛・望月義彦,日本機械学会論文集 (A編),58-550(1992),1689-1695 (42) 大石篤哉・山田勝稔・吉村忍・矢川元基,日本機械学会論文集(A編),, 62-602(1996),2351-2357 (43) A.C.Okafor, K.Chandrashekhara and Y.P.Jiang, Smart materials and structures, 5(1996), 338-347 (44) C.C.Chabg, T.Y.P.Chang and Y.G.Xu, Journal of Intelligent Material Systems and Structures, 11(2000), 32-42 (45) G.Kawiecki, Y.G.Xu, Journal of Intelligent Material Systems and Structures, 10(1999), 797-801 (46) J.L.Zapico, K.Worden, F.J.Molina, Smart Materials and Structures, 11 第1章 緒 論 10(2001), 553-559 (47) J.G.Sutherland, International Journal of Neural System, 1-3(1990),259-265 (48) 萩原一郎・井上亜友子・施勤忠,日本機械学会論文集(C編), 64-621(1998),1574-1579 (49) T.Kohonen, International Joint Conference On Neural Networks, I(1990), 545-550 (50) 施勤忠・萩原一郎,日本機械学会論文集(C編),64-625(1998),3375-3383 (51) 施勤忠・萩原一郎・関根俊彰,日本機械学会論文集(C編),65-635(1999), 2771-2778 (52) 朝倉俊行・小林孝・許宝傑,日本機械学会論文集(C編),65-632(1999), 1498-200 (53) M.L.Fugate, H.Shon, and C.R.Farrar, Proceedings of IMAC-XVIII: A Conference on Structural Dynamics(2000), 652-659 12 第1章 データ収集 計測 状態変化を観測して信号に変換 信号処理 信号の伝達 データ処理 診断 信号から状態を推定 Fig.1.1 構造ヘルスモニタリングシステムの構成要素 損傷診断 損傷同定 損傷検知 損傷により発生した症状から, 損傷箇所・程度など構造状態の 詳細を推定する 観測量から,自動的に損傷を 発生を検知する [目的] ○構造の余寿命評価 ○損傷発生構造に対する対応 (修復,継続使用等)の決定 [目的] ○損傷発生による2次災害の 発生防止 ○定期検査コストの低減 ○損傷報告の迅速化 Fig.1.2 損傷診断手法概要 13 緒 論 第1章 緒 損傷同定・検知 パラメトリック法 ノンパラメトリック法 構造の数理モデル,実験から得ら れた固有の変化から損傷を診断 出力から内部パラメータを推定する 逆問題解析を行い損傷を診断 [利点]パラメータと損傷に直接的 な関連があるため,損傷を物理的 に把握することが可能 [欠点]複雑な構造物全体への適 用が困難 [例] 固有振動数変化 ウエーブレット解析等 [利点]構造・損傷に対する知識が不 要.複雑な構造物への適用が容易 [欠点]最適な逆解析モデルの構築 が困難 [例] ニューラルネットワーク 遺伝的アルゴリズム 応答曲面法等の最適化手法を用い た逆問題解法 Fig.1.3 従来の損傷診断手法 要求 損傷同定 損傷検知 ○構造のモデル化を必要 としない ○構造のモデル化を必要 としない ○逆問題解析が容易なノン パラメトリック手法の開発 ○構造の破壊的実験を伴 わない Fig.1.4 要求される損傷診断手法 14 論 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 2.1 緒 言 一般的に構造物は様々な部材の組み合わせで構築された極めて複雑なシステ ムであり,かつ構造ごとに固有の損傷モードを示すため構造全体に対する厳密 な数理モデルの構築は困難である.そのため1章に示されたように,一般的に は計算力学の立場から逆問題で現在の測定値から損傷を推定する事になる.損 傷同定における逆問題解析は,推定誤差最小化の最適化問題であり,一般的な 最適化のツールを用いることが可能である.これまでの研究では,1.2節で示 された様にニューラルネットワークや,遺伝的アルゴリズムなど繰り返し学習 に基づく最適化が行われているが,これらは想定不可能な複雑な逆解析モデル の導出が可能な反面,最適な逆解析モデル生成には試行錯誤が必要であり,1 つのモデルの導出に繰り返し学習が必要な以上,多くの計算コストを要求する. そこで本研究では,繰り返し学習が不要な損傷診断法の確立が重要であると考 え,繰り返しではなく統計的データ解析手法を用いて最適化を行う手法による 損傷診断法を提案し,その有効性について実験的・解析的に検討を行っている. 具体的には,回帰分析手法としての応答曲面法の有効性検証と,判別分析手法 としてのマハラノビス距離を用いた損傷診断手法の提案・検証を行う. 2章2節「回帰分析を用いた損傷同定」では回帰分析手法の1つである応答 曲面法による逆問題解析と,一般的にノンパラメトリックな損傷同定手法とし て用いられているニューラルネットワークによる逆問題解析との比較を行い, 複合材料梁の電気抵抗変化による層間はく離同定を対象とした解析結果により, 応答曲面法による損傷同定の有効性を明らかにしている.続いて,2章3節「判 別分析を用いた損傷同定」ではデータの分散共分散を用いた距離尺度であるマ ハラノビス距離を用いて損傷を同定する手法を提案し,複合材料平板の電気抵 15 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 抗変化による層間はく離同定を対象とした実験結果により,水準化した位置・ 寸法領域へのマハラノビス距離から,逆問題を用いずにノンパラメトリックな 損傷同定が可能であることを示し本手法の有効性を明らかにしている. 16 第2章 2.2 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 回帰分析を用いた損傷同定 2.2.1 緒 言 2.1節で示されたように,逆問題解析を用いたノンパラメトリックな損傷同定 法においては,誤差逆伝播方式のニューラルネットワーク(以下BPANNと略記) が多く用いられている.しかしながら,ニューラルネットワークは高い汎化能 力を持つ反面,最適な逆解析モデル作成には試行錯誤が必要であり,一つのモ デルの導出に繰り返し学習が必要な以上,多大なコストを要求する. そこで本研究では回帰分析手法の1つである応答曲面法による逆問題解析と, 一般的に構造モデルが不要な手法として用いられている手法であるニューラル ネットワークによる逆問題解析の有効性の比較を目的として,複合材料梁に生じ るはく離に起因する電気抵抗変化のFEM解析結果を用いて,BPANNと応答曲面法 の近似能力と汎化能力の性能差の解析的な検討を行った. 2.2.2 電気抵抗変化を用いた複合材料積層板の層間はく離同定 CFRP積層板は比強度・比剛性などの力学的特性が従来金属材料と比較して非常 に優れており,航空宇宙分野などの輸送機器からスポーツ用品に至るまで幅広い分 野に適用されている.しかしながら,積層構造であるため層間強度が弱く,工具落 下など面外からの衝撃により容易に層間はく離を生じる.この層間はく離は目視発 見が困難である上,積層板の圧縮強度・圧縮剛性を著しく低下させる.このため, 積層構造物の信頼性確保のために層間はく離を現場で容易に検出する手法の開発 が必要とされている. この層間はく離の診断手法としては,CFRPの強化材である炭素繊維の導電性を 利用し,層間はく離によって生じるCFRP積層板内部の電気抵抗変化を積層板表面 に作成した複数の電極を用いて測定することによって,層間はく離の位置および寸 法を定量的に同定する電気抵抗変化法がある (1)(2).構造材として既に埋め込まれて いる炭素繊維をセンサとして利用することで,光ファイバなどの異物を新たにセン サとして埋め込むことによる強度低下(3)や成型法の問題もなく,また無負荷の状態 17 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 で診断が可能であり,かつ実際の工程が電極を構造表面に作成するだけであるため, 既存の構造に容易にかつ安価に適用可能である.そのため,電気抵抗変化法はCFRP 積層構造の機器のはく離ヘルモニタリングに最適な方法である. 2.2.3 電気抵抗変化法の原理と測定システムの概要 一方向プリプレグを多方向に積層して作成するCFRP積層板では,理想的には 繊維は直線的であるが,現実的には図2.1に示すように繊維は直線ではなくうね りを有し,隣接繊維と接触点を有している.そのため,CFRP積層板は繊維直交 方向に繊維方向に比較して非常に小さい電気伝導率を有している.この値は繊 維方位の電気伝導率を1とするとき,およそ10-3の程度である. プリプレグシートの厚さ方向に関しては,構造的には繊維直角方位と同じであ るが,実機の積層板には実際には図2.2に示すように層間に樹脂リッチな層が存 在するため,繊維接触の確率は繊維直交方向と比較してやや減少し,厚さ方位 の電気伝導率は10-4の程度になっている. この繊維接触によるネットワーク構造により,試験片全体に有限な値の異方性 電気抵抗が存在する.はく離が発生した際には,はく離がこの繊維ネットワー クを切断するため電気抵抗が変化し,この電気抵抗変化を測定することではく 離の発生を検知することが可能である. 実際の測定システムでは表面に多数の電極を作成して,電極間の電気抵抗変化 をひずみゲージと同じ電気抵抗線ブリッジ回路を用いて測定する.梁方式の場 合の測定システム例を図2.3に示す.図2.3からわかるように,電気回路自体はひ ずみゲージ用回路とほぼ等価であり,アンプはひずみゲージ用の物をそのまま 使用可能である.このため,既存の測定器をそのまま利用することが可能であ り,電気抵抗変化法は低コストでの適用が可能である. 2.2.4 解析手法 本研究では電極から離れた位置(電極間)にはく離き裂が存在する場合を解析 するため,図2.4の試験片形状のCFRP梁を解析対象とした.試験片においてx軸 18 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 の原点は積層板の左端とした.航空機等の薄板殻構造の内側に電極を取り付け ることを想定して,電極を試験片の同一表面に作成した. 試験片では電極位置x=0,35,70,105,140[mm]の5点に電極を作成した.一 般に積層板に衝撃荷重が加わる場合,衝撃面と逆側の表面近くに大きなはく離 が発生する.そこで,構造物の外側から衝撃が加わると仮定し,電極を作成す る層(内側層)とその下の層の層間にはく離が発生するとした.この試験片に電流 を流し,電極間ではく離が発生する場合について有限要素法で解析し,はく離 検出を行った.解析に用いた積層構成は[04/904]sである. 本研究では層間はく離を有限要素法でモデル化する際,モードIの開口型はく 離を仮定し,はく離位置の節点を二重に定義し,それぞれの節点の連結をはず すことではく離をモデル化した.これによってはく離を横切る電流は流れない. また要素は,四角形四節点要素の一辺を0.25[mm]以下に設定し,ANSYSで自動 要素分割を行い,約6000要素に分割した. モードⅠ層間はく離試験での電極間電気抵抗変化の実験結果と数値解析結果 との比較から(1),試験片の厚さ方向の導電率σtと繊維方向の導電率σ0の比σt/ σ0を1×10‐4とした.また,90º方向の導電率σ90と0º方向の導電率σ0の実測結 果からそれらの比σ90/σ0を1×10‐3として解析を実施した. ここでFEMにおいては,微視的に不均一な複合材料を均一異方性材料にモデル 化した.つまり本来,層内と樹脂リッチな層間は異なる導電率を有しているが, 簡単のために厚さ方向に均一な導電率を有する要素とモデル化して解析した. このため厚さ方向の導電率σtは層内の90º方向の導電率σ90より小さい. 電気抵抗の強い異方性のため,電極間に電流を流して電気抵抗を測定する際に 隣接している電極間にまで電流が流れてしまう.このため,隣接電極近くに大 きなはく離がある場合と,測定している電極間に小さいはく離がある場合など で類似した電気抵抗変化を示し,電極間の電気抵抗変化の閾値だけではく離位 置と大きさを同定することは困難である.そこで,測定した電気抵抗変化から 逆問題解析を用いてはく離位置と大きさを同定する必要が生じてくる. 19 第2章 2.2.5 2.2.5a 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 損傷診断手法 BPANN法 誤差逆伝播方式の学習方法を採用した多層ニューラルネットワークは,既に良 く知られた方法(4)(5)であるため詳細な解説は省略し,ここでは電気抵抗変化を用 いたはく離位置,寸法の同定問題への適用を示す. 本研究では図2.5に示す3層ニューラルネットワークを用いた.入力には電極 間の電気抵抗変化の比v1,…v4,出力にははく離の位置,寸法を用いた.中間層の 数と中間層ニューロンの数は一般的に経験的に決定されており,本研究でも複 数回の試行の結果,本研究では中間層数1,中間層ニューロン数30とした. ニューロンの学習には,学習パターンごとに結合係数を積算して一括修正する 一括修正型モーメント法を用いた.用いたモーメント係数mは0.5,学習レートA は0.8である.各ニューロンの結合係数wは次式に従って学習を行った. Δw(t ) = d + m ⋅ Δw(t − 1) (2-1) ここでdは誤差からの修正量であり,次式で定義される. d = A⋅δ ⋅ I (2-2) ここでδは誤差,Iは入力側ユニットの出力である. 学習は,指定回数終了時に終了させた.指定回数は学習パターンごとの結合係 数の修正が終了後に残差平方和を求め,その値が十分小さいと判断されるまで 試行錯誤で決定した.今回は5×105回とした. 2.2.5b 応答曲面法 応答曲面法(RSM)(6)は品質管理のために実験的最適化手法として開発された. 応答曲面法は少ない測定結果で小さい分散の変数-応答間の近似関係式を得る ために適用される.応答曲面の近似関数は多項式に限定されない.例えば,ロ ジスティック曲線を用いることも可能であり,この場合にはパーセプトロンニ ュラルネットワークも応答曲面と同じになる.ここでは簡単のために多項式を 選択する.2次多項式を選択する場合,次式となる. y = β 0 + ∑ j =1 β j x j + ∑ j =1 β jj x 2j + ∑i =1 ∑ j =i +1 β ij xi x j k k k −1 20 k (2-3) 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 本研究では,各電極間の抵抗変化をパラメータとするため,独立変数k=4であ る.応答曲面法では,この係数βの推定値bは最小二乗法から導出する.応答曲 面法の利点は,近似関数を得るために多項式の最小二乗法を用いており,統計 的手法により回帰係数の有意性を評価できること,回帰モデルの修正が容易に 可能であることにある. 式(2-3)においてxj,xj2,xixjを新たにxmとおくと,式(2-3)は次式に線形化される. y = β0 + ∑m=1 βm xm p−1 (2-4) ここでp=(k+1)(k+2)/2-1である.このように,高次多項モデルは線形重回帰モデ ルに変換できる.式(2-4)から,最小二乗法を用いて多項式の回帰係数を推定す る.n個(n>p)のデータ点とその評価値(応答)yi(i=1,…,n)が実験あるいは解析によ って与えられている場合,p個の係数の重回帰モデルは次式で表現される. Y = Xβ + ε (2-5) ただし,各変数ベクトルは以下のように定義される. ⎧ y1 ⎫ ⎪y ⎪ ⎪ ⎪ Y = ⎨ 2⎬ ⎪M ⎪ ⎪⎩ y n ⎪⎭ ⎡1 x11 ⎢1 x 21 X=⎢ ⎢M M ⎢ ⎣1 xn1 ⎧ β0 ⎫ ⎪ β ⎪ ⎪ 1 ⎪ β=⎨ ⎬ M ⎪ ⎪ ⎪⎩ β p −1 ⎪⎭ x12 x22 M xn 2 L x1, p −1 ⎤ L x2, p −1 ⎥ ⎥ O M ⎥ ⎥ L xn , p −1 ⎦ ⎧ε 1 ⎫ ⎪ε ⎪ ⎪ ⎪ ε = ⎨ 2⎬ ⎪M⎪ ⎪⎩ε n ⎪⎭ ここで,Yはn個の測定(解析)された評価値(応答),Xはn個の測定点(座標)の集 合である.βは重回帰係数ベクトルであり,εは誤差ベクトルである.最小二 乗法を用いることで,βの期待値bは次式で得られる. b = ( X ' X ) −1 X ' Y (2-6) 残差平方和SSEは次式で定義される. SSE = Y' Y − b' X' Y (2-7) 応答Yの平均値周りの総和Syyは次式で定義される. 21 第2章 (∑ y ) = Y' Y − n Syy 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 2 i=1 i (2-8) n ここで,回帰式の近似精度を表す自由度調整済み決定係数R2adjは次式で定義され る. R2adj = 1 − SSE (n − p) Syy (n − 1) (2-9) 回帰が良好であるときにはR2adjは1に近い値をとり,回帰が悪い場合には0に近 い値となる. 各係数bの分散共分散行列Cijは次式で定義される. cov(bi , bj ) = Cij = σ 2 (X' X) −1 (2-10) ここで,σ2はyの分散であり,不偏推定量として次式が用いられる. σ2 = SSE n− p (2-11) 応答曲面作成の際にはさらに,減少法によって回帰を悪化させる項を削減し, 最良回帰式を選定する.減少法とは,式(2-4)中の全項の係数を決定後,全項を 回帰方程式に最後に導入された変数であるかのように扱い,t検定値tjを計算し, 有意水準αから求まるtの限界水準tα と比較してtj<tα ならばtjを引き起こすよう な変数xjを考慮から除外し,残りの変数についても同様の操作を繰り返して項数 を削減して回帰式を改良する方法である.各係数のtjは次式で求められる. tj = bj (2-12) σ 2 C jj 本研究ではその際の有意水準αを0.05とした. 応答曲面法では回帰に使用する実験点(解析点)を,係数の分散が最小になる ように最適化する.これを実験計画とよぶ.実験計画は式(2-10)の(XTX)-1を最小 化するように選択される.実験計画にはさまざまな種類があるが,本研究では, はく離位置と寸法を変えた解析結果全てを回帰に用いるため,実験計画は用い ない. 22 第2章 2.2.6 2.2.6a 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 解析結果と考察 はく離位置と寸法の同定結果 本論文では54通りのはく離位置と寸法の異なる場合を解析し,その結果か らBPANNおよび応答曲面法(RSM)で電気抵抗変化からはく離の位置と寸法を求 める逆問題解析を行った.ただし,新規データへの汎化能力を判定する目的で 実際に学習あるいは回帰に用いたのは49点であり,学習(回帰)に用いない残 りの5点を新規データとして汎化能力評価に用いた.全データを表2.1に示す. BPANNでは5×105回の学習を実施した. BPANNを用いた場合の,はく離同定結果を図2.6(a),(b)に示す.図中で○印は BPANNの学習に用いたデータを電気抵抗変化として入力した場合の推定結果で あり,▲印は新規データに関する推定結果である.全ての図で,横軸は実際の 規格化されたはく離の位置や大きさであり,縦軸は推定された値である.従っ て図中の対角線は線上の点で実際の値と推定値とが一致することを示している. 図2.6(a)に示されるように学習に使用されたデータは,ほとんどのデータで推 定値と実際の値とが一致しており,学習データに対してBPANNは非常に優れた 推定値を与えている.しかしながら学習に使用しない新規データに対しては, 実測0.64の点がほぼ0と推定されるなど,推定値と実際の値との差異が大きい. 図2.6(b)に示されるように寸法推定に関しても同様に新規データに対しての推定 精度が悪いという傾向が見られる.これは一般に過剰学習によるものである. 過剰学習の影響について考察するため,図2.7(a)(b)に誤差二乗和の学習段階で の変化を示す.BPANNは乱数に基づいているため,乱数種を変えて5回計算した 結果の平均値である.この図から明らかなように,学習に用いたデータの誤差 は,学習回数の増大につれ一様に減少するが,新規データに関しては極小が存 在し,それ以上学習を繰り返すと過剰学習に陥り推定精度が低下する.このこ とから,BPANNを用いる場合,新規データの同定精度を考慮に入れ適切な学習 回数を設定する必要がある. 2.2.6b BPANNとRSMの比較 過剰学習の一般的判定はBPANNでは困難である.知的構造の診断部分として 23 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 は,学習データ以外の新規実験は高コストであるので,過剰学習判定だけに用 いる新規データを省略し,調整なしで新規データに対して汎化能力がある方が 良い. そこで,以上の知的構造判断装置の観点からBPANNとRSMの性能比較を実施 した.BPANNについては過剰学習を避ける目的で,学習終了時のBPANN以外に, 図2.7における新規データ誤差最小点(位置同定:36600サイクル,寸法同定:60100 サイクル)のBPANNも用いた. まず新規データ誤差最小点のはく離位置推定結果を図2.8(a)(b)に示す.図から 明らかにわかるように,学習を中断したBPANNでは新規データに対しては推定 値が大きくはずれる点はなく,比較的良い推定を与えている.しかしながら, 学習データに対しては推定値と実際の値が一致する点はほとんど無く,完全学 習済みのBPANNに比較して劣る結果となっている.これは,一括学習法のため, 全体の誤差を最小とする方向に学習が行われているため,学習不足のBPANNで は全データでほぼ均一に誤差が残ってしまうためである. BPANNの学習データと同じ49個のデータを回帰に使用して求めたRSMのは く離位置の推定結果を図2.9(a)(b)に示す.図中で縦軸と横軸はBPANNと同じであ る.図中の□印は回帰に使用したデータの推定結果であり,■印は新規データ の推定結果である.また,表2.2に位置推定時のBPANN,RSMによる学習データ・ 新規データの誤差二乗和を示す.BPANNに関しては収束時,新規データ最小時 の双方を示した. 表2.2からも明らかなように,多少のばらつきは存在するが,RSMの推定結果 は36600回学習のBPANNよりもばらつきは小さく,しかも新規データに対する推 定精度は高い.このRSMの決定係数はR2adj=0.56であり,それほど良好ではない が,推定結果は実用上十分な精度を有している.位置推定に用いたRSMを以下 に示す. p = 0.4651 - 6.507v1 + 2.604v 2 - 3.793v 3 + 11.51v 4 - 6.679v1 v 2 L + 42.54v1 v 3 - 9.117v 2 v 3 - 84.82v1 v 4 + 27.34v 2 v 4 - 8.416v 3 v 4 (2-13) なお,大きさの推定に用いたRSMはR2adj=0.967であり極めて高い精度で推定が 可能であった. 24 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 BPANN とRSMの新規データに対する推定誤差はこれらの新規データの推定 値の残差平方和から比較できる.5つの新規データによる残差平方和は,RSM の場合にはわずか0.035であるが,一方過剰学習したBPANNでは0.458に達する. 学習を36600回で中止したBPANNでは0.145であり,過剰学習,新規データ誤差 最小点のどちらのBPANNに対してもRSMが優位性を示した. 当然BPANNは乱数に依存しており,乱数種を変えて繰り返し計算することで さらに良いBPANNが求められる可能性は十分ある.さらに学習法を改善するこ とで良いBPANNを得られる可能性は否定できない.しかしながら,RSMは単に 行列演算だけで係数が決定されるため,モデルの作成に経験的な試行錯誤は不 要であり,さらにモデルの良否も統計的ツールで判定可能である.また新規デ ータに対する推定値の誤差が極めて小さい.また,計算時間も,BPANNが学習 サイクル5×105で約30分,新規データ誤差最小点の36600回で134秒,RSMが1秒 以内であり,コンピュータ性能の向上によりBPANNの計算も容易に行えるとは 言え,パラメータ数が増大した場合のことを考慮するとRSMの方が有効である ことがわかる. しかし,このことが直ちにRSMの方が一般的にBPANNよりも優れていること を意味するものではない.例えば,RSMの式(2-13)では,変数間の交互作用項が 使用されているが,この問題ではこの交互作用項が重要な役割を果たしている. 式(2-13)の各項のt値を表2.3に示す.各変数の2乗の項は有意性を示さなかった 為すべて消去されているが,交互作用項のt値は全て2.78より大きく,ほとんど 交互作用で決定されていることを意味している.つまり電気抵抗変化比からは く離の位置と寸法を求める問題は交互作用が重要であるが,その程度は1次の 交互作用程度で十分であることを意味している.試みに高次の交互作用項を統 計モデルに導入した際の位置推定RSMを以下に示す。 p 2 2 2 = 0.437 + 2.53V2 − 2.87V3 + 9.82V4 − 713V1 + 305V1V2 + 196V1V4 − 43.6V2 + 528V1 V2 L 2 2 2 2 − 956V1V2V3 + 1630V1V2V4 + 1670V1V3 − 6800V1V3V4 + 6950V1V4 + 180V2 V3 − 632V2 V4 (2-14) − 392V2V3 + 2440V2V3V4 − 2710V2V4 − 831V3 V4 + 2800V3V4 − 2780V4 2 2 2 2 3 誤差二乗和が学習データに対し0.804,新規データに対し5.64と,新規データに 25 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 対する推定残差平方和の値が上昇し,BPANNと同じ様に新規データを大きくは ずしてしまう.このため,必ずしも高次のRSMは良い結果をもたらさない.し たがって,高度に複雑な問題ではRSMで逆問題を解くことが困難になる場合も ありえる. 2.2.7 結言 以上,はく離を有する梁試験片の電気抵抗変化をFEMで解析した結果を用いて, 誤差逆伝播型ニューラルネットワーク(BPANN)と応答曲面法(RSM)による はく離位置と寸法の同定問題を比較検討した.得られた結果を以下に示す. (1)はく離寸法,位置の同定を行うことで応答曲面法が逆問題に対し有効である ことを示した. (2)応答曲面法は計算も簡単であり,BPANNに比べ大きく計算時間の短縮がはか れる事を示した. (3)応答曲面法では事前にパラメータの調整を行う必要が無く,かつ新規データ に対する推定誤差も小さい.そのため,電気抵抗変化法による知的構造の判断 部分には応答曲面法が最適である. 26 第2章 2.3 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 判別分析を用いた損傷同定 2.3.1 緒 言 前節「回帰分析を用いた損傷同定」では,複合材料積層板中の層間はく離に より引き起こされる電気抵抗変化の解析結果から,層間はく離を誤差逆伝播方 式のニューラルネットワーク,応答曲面法を用いて逆問題で同定し,両者の汎 化能力の比較を行った.その結果,ニューラルネットワーク,応答曲面法とも に高い汎化能力を示し,繰り返し学習を用いない応答曲面法による逆問題解析 で十分な汎化能力を得られる事を示した.最適な回帰モデル導出にニューラル ネットワーク,応答曲面法ともに試行錯誤が必要であるが,応答曲面法では繰 り返し学習が不要であり計算が速いことから,応答曲面法が計算コスト削減の 上で有効であることがこれにより明らかとなった. 一方,センサーから構造の損傷状態を診断することは,対象を構造・損傷に 限定しなければ,システムの異常診断問題に他ならないことになる.対象は構 造・損傷ではないが,統計関数を用いた異常診断手法としては,マハラノビス・ タグチ・システム(MTS法)(7)がある.この手法は,判別分析で用いられる距離 指標であるマハラノビス距離(8)を用いた異常診断法にシステム最適化手法であ るタグチメソッド(9)によるパラメータ最適化を組み込んだ手法であり,この手法 では正常・異常な状態のデータ群からのマハラノビス距離から現状の推定を行 っている.MTSを用いた異常診断システムに関する研究としてはMTSを用いた不 良検査(10-12),システム健全性診断(13-15)など正常・異常な場合における基準空間 からのマハラノビス距離を診断の指標に用いた研究が行われている.これらの 研究ではタグチメソッドを用いて異常を診断することが可能なパラメータを選 択し,選択されたパラメータからマハラノビス距離を用いて異常の診断を行っ ている.マハラノビス距離が母集団からの距離尺度であるため,MTS法では水準 化等の手続きから母集団を選択するだけで診断が可能であり,逆解析モデルの 最適化のための試行錯誤が不要であり,かつ繰り返し学習が不要で計算が速い. そのため,構造ヘルスモニタリングの分野でも簡便に利用可能なこれらの手法 27 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 を用いた損傷診断法の構築が望まれている.しかし,従来は良不良の判定など に適用されているだけであり,損傷の程度や位置同定など,連続量の複雑な判 定には用いられていない.そこで本節では,マハラノビス距離を判別分析に適 用し,センサー出力から損傷位置と損傷程度を判別する損傷同定法の可能性を 検討することを目的とする.損傷同定としては,2.2.2 節,2.2.3 節に示したCFRP 積層板の層間はく離位置・寸法を同定する問題を平板試験片に適用し,本手法 による損傷同定を行うことで実験的にその有効性を確認する. 28 第2章 2.3.2 2.3.2a 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 マハラノビス距離を用いた判別分析 マハラノビス距離 判別分析とは,個体に固有の特性値から各個体が所属する群を判別する手法 である.判別分析の判断基準は様々存在するが,群ごとの特性値分布がばらつ きを持つ場合に多く用いられるのがマハラノビス距離である. マハラノビス距離とは,変数間の相関を用いた指標であり,対象データの基 準空間からの距離を表す距離尺度である.マハラノビス距離による判別分析は, 線形判別関数を用いた場合に比較して計算手法が複雑であるが,判別すべき群 各々に関する分散共分散行列が異なっている場合,判別精度が向上することが 知られている. 説明変数をxとし,データ点数N,自由度Tにおける変数をxij(i:1~N, j:1~T)で 表現するとした場合,マハラノビス距離dは次式で定義される(8). 1 T T −1 ∑∑ (X il − X jl )S lk (X ik − X jk ) T l =1 k =1 d ij = 2 (2-15) ここで S は次式に示す標準化された分散共分散行列である. S lk = 1 T ∑ (X il − X l )(X ik − X k ) T i =1 (2-16) ここで X は変数 x を次式で標準化したものである. X ij = xij − x j σx (2-17) j マハラノビス距離を用いた判別分析では,基準データが作る特性値空間への帰 属度から,対象の個体が帰属する群を判別する.ある群に帰属することが既知 のデータを基準データと呼び,各群の基準データの集合を基準空間と呼ぶ. マハラノビス距離は基準空間に近ければ 1 に近い値をとり,基準空間との差 異が大きくなると急激に大きな値をとる.そのため,判別すべきデータの各基 準空間とのマハラノビス距離を計算し,最小のマハラノビスの距離を与える基 準空間にそのデータは帰属すると判定できる. 29 第2章 2.3.2b 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 マハラノビス距離による判別分析例 一例として,表 2.4 に示した X,Y2つのパラメータを持つデータを A,B 二つの 群に分割し,マハラノビス距離から各データの帰属する群の判別を行う. データ群とおのおののマハラノビス距離を表 2.4 に,データの分布とマハラノ ビス距離の一例を図 2.10 に示す.図のように,各群のデータは楕円で示した分 布範囲を取る.一例として,No.6 のデータのマハラノビス距離を図中に示す. ユークリッド距離では群 B に対する距離が短いが,マハラノビス距離は基準空 間のデータ点の分散に従って,短軸方向の距離は長くなるため,マハラノビス 距離を用いることで群 A に帰属することが正しく判定できる.このようにマハ ラノビス距離を用いることで,データの共分散を考慮に入れて帰属する基準空 間を判別することが可能である. 2.3.2c 帰属率導出 データが正規分布に従うと仮定した場合,マハラノビス距離の 2 乗は自由度 2のχ2分布に従うため,マハラノビス距離から対象の判別群に帰属する確率(= 帰属率)が定量的に導出可能である. マハラノビス距離の確率密度関数は次式で定義される. 1 1 − 2 Di 2 pi = e 2 (2-18) ここでpiは基準空間iに対する確率密度,Diは基準空間iへのマハラノビス距離を 示す.各基準空間への確率密度から,各基準空間iへの帰属率は次式で与えられ る. pi ∑ pi (2-19) 一例として,表 2.4 のデータ番号 9 の帰属率を表 2.5 に示す.マハラノビス距離 から,各水準に対する確率密度がそれぞれ求まる.帰属率は確率密度から式 (2-19)で導出され,基準空間 A に帰属する確率が 5.3%,基準空間 B に帰属する 確率が 94.7%と定量的に導出可能である. 30 第2章 2.3.3 2.3.3a 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 電気抵抗変化法を用いた層間はく離同定問題 電気抵抗変化 2.2.2 節で示されたように,複合材料積層構造物において大幅な機能低下を引 き起こす層間はく離の同定は,その活用上非常に重要である.そのため炭素繊 維の導電性を利用し,炭素繊維接触のネットワークが層間はく離で破壊されて 電気抵抗変化を生じることから,この変化を積層板表面に作成した複数電極を 用いて測定することで,層間はく離位置と寸法を定量的に同定する知的構造の 開発が田中らにより行われている(2).本研究ではマハラノビス距離による判別分 析の実例として,田中らの実験によるデータを用いて平板積層板中の埋没はく 離の電気抵抗変化法による同定を行い,その有効性の検証を行った. 2.3.3b 試験片および実験方法(2) 図 2.11 に示される[02/902]sの積層平板のはく離発生による電気抵抗変化を測定 するため,試験片の片側表面に電極を作成した.電極は表面層 0º方向に5行配 置し,90º方向に2列とした.電極は積層板成型時に積層板表面に厚さ 0.02mm の銅箔を一体成形した.はく離による電気抵抗変化の測定には電気抵抗ブリッ ジ法を用いている . 層間はく離は圧子押し込み方式の冶具を用いて作成した.図 2.12(a)に作成し たはく離のCスキャン影像を示す.積層構成が[02/902]Sであるため,はく離は電 極側 0/90 層間に発生し(図 2.12(b)),0º方向に蝶のような形状になっている(16). 実験では,羽形状の付け根をはく離位置と定義した.また,はく離寸法に関し ては複数考えられるが,Cスキャンの投影最大寸法,すなわち図 2.12(a)中のa,b,c の最大値と定義した. 31 第2章 2.3.4 2.3.4a 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 最小マハラノビス距離を用いた平板試験片の層間はく離同定 はく離同定手順 本論文では基準データとして 64 点の実測データを,同定精度確認のために新 規データとして 12 点の実測データを用いた.データははく離の x 方向位置,y 方向位置,はく離寸法,電極間の8個の電気抵抗変化を利用した.使用データ を表 2.6 に示す.また,マハラノビス距離を用いた判別分析によるはく離同定は 以下の手順で行われる. (1)様々な寸法・位置のはく離により生じる平板の電気抵抗変化を測定し,これ を基準データとする. (2)はく離の位置および寸法の水準を設定し,各水準に帰属する基準データから 各水準の基準空間を作成する. (3)各基準空間の統計量を計算. (4)各基準空間の統計量を用い,推定する測定データのマハラノビス距離を導出. (5)マハラノビス距離から測定点の帰属する水準を推定. また,診断精度の検証のため 2.2 節に示した応答曲面法による回帰分析を用い た損傷同定法を同問題に適用し,両者の比較を行っている.電極間の 8 個の電 気抵抗変化を説明変数,水準化された X 方向位置,Y 方向位置,はく離寸法を 被説明変数とし,応答曲面には次式で示す2次多項式を用いた. i =8 i =8 j =8 i =1 i =1 j = i y = β 0 + ∑ β iε i + ∑∑ β ijε iε j (2-20) ここで y は被説明変数,ε は電気抵抗変化率である. 2.3.4b 水準分割 判別分析とは,特定の個体が属している集団を個体の幾種類かの特性値から 判別する分析手法であり,そのため個体を分類する判別群を事前に作成する必 要がある.本研究では,x 方向位置,y 方向位置,寸法をそれぞれ水準分割し, この水準を判別群とした.x 方向位置,y 方向位置の水準定義を図 2.13 に示す. 32 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 x 方向は電極間ごとの 4 水準,y 方向は 2 水準に分割した.またはく離寸法は, はく離最大寸法を水準 1(13≦x<17),水準 2(17≦x<21),水準 3(21≦x<25)の 3 水 準に分割した(単位は mm).64 個の基準データ,12 個の新規データの各水準へ の分割数を表 2.7 に示す.表 2.7 に示されるように生成時に制御の困難なはく離 寸法をのぞいてほぼ均等にはく離を作成している.以降,各水準に帰属する基 準データ群による基準空間を水準空間と呼ぶ. 2.3.4c 同定結果 電極間の電気抵抗変化を用いてマハラノビス距離を導出し,マハラノビス距 離からはく離の位置,寸法の同定を試みた.この際はく離は,最小のマハラノ ビス距離を取る水準空間に帰属すると判定した.マハラノビス距離導出の際に は水準ごとに式(2-17)に従って標準化し,各水準あたり1つの水準空間を作成し た.また 12 点の新規データについては,マハラノビスの水準空間を作成したと きの平均値と標準偏差を用いることによりデータを標準化し,各水準空間の統 計量を用いてマハラノビス距離を求める.計算時間は x 方向 4 水準,データ数 76 で約 0.2Sec である. (a) 位置同定 まず,水準空間設定に用いた基準データと,水準空間に使わなかった新規デ ータ各々についてマハラノビス距離の導出を行った.各水準空間へのマハラノ ビス距離分布を図 2.14(a)~(d),2.15(a)(b)に示す. 各図横軸が実測による位置水準, 縦軸がマハラノビス距離を示しており,図中の○印が基準データ,●印が新規 データを示している.例として図 2.14(a)は,全測定データのX=1 水準へのマハ ラノビス距離を示している.図に見られる様に,実測位置水準が 1 のデータ点 は水準空間 1 に対し,他水準に対するよりも明確に小さいマハラノビス距離を 持つ.また,新規データも同様の傾向を示した.実験の結果,すべてのX方向Y 方向の位置水準に対して同様の傾向を示した(図 2.14,2.15)).基準データ,新 規データの各水準空間へのマハラノビス距離の平均値を表 2.8 に示す.基準デー タ,新規データ共に実測による位置水準に対するマハラノビス距離と,他の位 置水準に対するマハラノビス距離の平均値は大きく異なっている.ここで最小 33 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 のマハラノビス距離を取る水準空間にはく離は帰属するとした際の,はく離位 置同定の正答率を表 2.9 に示す.マハラノビス距離による手法では基準データに 関してはほぼ 100%,新規データに関しても 80%以上の推定精度を示しており, 高い精度で診断を行うことが可能であることがわかる.また,応答曲面法によ る位置同定結果を図 2.16(a)(b)に,R2adj,同定精度を表 2.9 に示す.マハラノビス 距離による同定では,応答曲面法に比して基準データ・新規データともに高い 精度での診断が可能であり,マハラノビス距離を用いた判別分析による損傷同 定法が位置の離散量への同定において,高い判別能力を持つことが確認された. (b) 寸法同定 次に,同様にはく離寸法の同定を試みる.基準データ,測定データのマハラ ノビス距離分布を図 2.17(a)~(c)に示す.基準データ,新規データ共に実水準, 他水準に対して位置のような明確な差を示しておらず同定が困難であることが わかる.また,各水準空間へのマハラノビス距離の平均値を表 2.10 に示す.実 際,表 2.8 に示した位置同定結果に比して,他水準空間へのマハラノビス距離が 全体的に低く,基準データ,新規データ共に寸法に関しては同定が困難である 事がわかる.最小のマハラノビス距離を取る水準空間にはく離が帰属している として同定を行った場合の正答率を表 2.11 に示すが,マハラノビス距離が全体 的に低い水準にあるため,基準データに対し約 60%,新規データに対し約 40% と同定性能が位置に比べ大きく低下している.また,応答曲面法による寸法同 定結果を図 2.18 に,R2adj,同定精度を表 2.11 に示す.応答曲面法は基準データ に対しては 96.4%と高い精度を示しているが,新規データに対しては約 40%と同 様に低く,判定が困難であることがわかる.しかしながら表 2.10 に示されるよ うに,マハラノビス距離法では実寸法水準へのマハラノビス距離は十分小さく, このことから本来の水準空間に帰属する確率が高いと推定できると考えられる. そこで,次節ではマハラノビス距離から対象水準群への帰属率を定量的に導出 し,寸法領域の同定を試みる. 34 第2章 2.3.5 2.3.5a 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 水準帰属率を用いた層間はく離同定 水準帰属率 複数の水準空間に近い性質を持つデータに関しては,複数の水準空間に対し 低いマハラノビス距離を有し,これが誤判別の要因となる.しかしながら,実 際のヘルスモニタリングに本手法を適用する場合,損傷が危険領域に達してい ることを判定することが最重要の課題であり,一意に帰属する水準を確定する 必要はなく,特定の危険水準に帰属する確率を判定できることが最も重要であ る.2.3.2c節で示したように,マハラノビス距離はデータが正規分布に従うと仮 定した場合,その確率密度が自由度 2 のχ2分布に従うため,マハラノビス距離 の値から対象の判別群に分類される確率,すなわち水準への帰属率が定量的に 導出可能である.そこで本章では,マハラノビス距離から実水準区間への帰属 率を導出し,有意な確率水準を設定することで,寸法同定の判別能力向上を試 みる. 2.3.5b 有意水準を用いた層間はく離同定 本章では,導出された確率から損傷を判定することを試みる.ここでは帰属 率が仮に 1/3 以上であれば,その領域にあると仮定し,有意水準として 33%を設 定した.基準データ,新規データあわせた場合のマハラノビス距離最小による 同定精度と,確率境界 33%による同定結果を表 2.12 に示す.表 2.12(a)は,任意 のデータが測定された水準に判別された確率を,表 2.12(b)は他水準に判別され た確率を示す.位置同定に関してはマハラノビス距離最小での推定精度が十分 高く,そのため,有意水準を設定した場合にもその推定精度に大きな向上は見 られなかった.しかしながら,マハラノビス距離最小では高い推定精度を得る ことができなかったはく離寸法同定においては,その判定能力は向上しており, 有意水準を設定することで危険性の確率的な推定が可能であることが示された. また,同様に有意水準に 20%を設定した場合の推定結果を表 2.12 にあわせて示 す.このように有意水準を低下させることで判定率の向上と共に誤判定率も上 昇する.今後は適切な有意水準の設定が必要となる. 以上の結果から本手法が,直交積層板の埋没はく離の位置と寸法の離散量へ 35 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 の同定に対して有効であることが実証された.本手法の実構造物への適用に関 しては今後さらに研究を進め検討を進める必要がある. 2.3.6 結 言 マハラノビス距離を判別指標とした判別分析により,構造物の損傷を定量的に 同定する手法の提案を行い,直交積層平板試験片の層間はく離の位置,寸法同 定に適用し,実験的検証を行った.得られた結果は以下の通りである. (1)マハラノビス距離を利用した判別分析を構造物の損傷同定に適用することで, 構造の FEM モデルや回帰モデルなしに損傷の同定を行うことが可能である. (2) 層間はく離の位置および寸法を水準分割し,最小のマハラノビス距離を取る 水準に帰属すると判定することで応答曲面法に比べ高い精度での損傷の同定が 可能である. (3)層間はく離の位置および寸法を水準分割して分類した群に対し,各群に帰属 する確率が,マハラノビス距離を用いて定量的に導出可能であり,層間はく離 の危険性の確率的推定が可能である. 36 第2章 2.4 結 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 言 以上本章では,応答曲面法を用いた回帰分析,マハラノビス距離を用いた判 別分析により構造物の損傷を同定する手法の検討を行い,前者の有効性の検証, 後者の提案と有効性の検証を行った.その有効性の検証は CFRP 積層板の層間 はく離同定を対象とした実験・解析を行い,繰り返し学習を用いないこれら二 つの統計的損傷診断法が高い同定精度を持つことを示すことで行っている.応 答曲面法は逆問題解析手法を用いた連続量同定手法であり,マハラノビス距離 を用いた判別分析は水準判別による離散量同定手法であるため,両者の同定精 度は一概に比較することは困難であるが,両手法とも高い診断精度を示してお り,その有効性はあきらかであると考えられる. 以上,本章で結果得られた結果をまとめると以下のようになる. (1) CFRP 積層板の電気抵抗変化法を用いた層間はく離同定問題にノンパラメ トリック損傷同定法として,応答曲面法を用いた逆問題解析,マハラノビス 距離を用いた判別分析を適用し,両手法が有効であることを示した. (2) 応答曲面法・マハラノビス距離は,ともに繰り返し学習が不要で計算も簡単 であり,誤差逆伝播型ニューラルネットワークに比べ大きく計算時間の短縮 がはかれることを示した. (3) 応答曲面法では各パラメータの有意性が統計的に診断可能であるため,事前 にパラメータの調整を行う必要が無く,かつ回帰モデルの修正が容易である ことを示した. (4) マハラノビス距離による判別分析では,回帰モデルの設定自体が不要であり, 測定データの水準化と,各データの各水準へのマハラノビス距離のみから損 傷同定が可能であることを示した. 37 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 参考文献 (1) 田中雄樹,轟 章,島村佳伸,日本機械学会論文集(A編),65-640(1999), 2432-2438 (2) 轟章,田中雄樹,島村佳伸,日本複合材料学会論文集,27-3(2001),137-145 (3) K.S.C.Kuand, R.Kenny, M.P.Whelan, W.J.Cantwell, P.R.Chalker, Composites Science and Technology, 61(2001), 1379-1387 (4) 邉吾一,木野山嘉久,日本機械学会論文集(A編),60-570(1994),569-573 (5) 例えば,矢川元基,吉村忍,計算力学[V]-材料力学のためのニューロ応 用―,養賢堂;1997 (6) R.H.Myers and D.C.Montgomery, “Response Surface Methodology: Process and Product Optimization Using Designed Experiments”, John Wiley & Sons. Inc.;1995. (7) 田口玄一,品質工学,3-4(1995),2-5 (8) 例えば,武藤槇介,統計解析ハンドブック,(1995),朝倉書店,538-541 (9) 例えば,P.J.Ross, Taguchi Techniques for Quality Engineering 2ed, (1995), McGrawHill (10) 手島昌一・坂東友則・金丹,品質工学,5-5(1997),38-45 (11) 松田里香・池田佳起・鴨下隆志・東原和行,品質工学,7-5(1999),55-61 (12) 松田里香・池田佳起・鴨下隆志・東原和行,品質工学,8-1(2000),65-69 (13) 手島昌一・金丹・坂東友則・豊島恒・久保洋,品質工学,8-2(2000),68-74 (14) 長谷川良子,品質工学,5-5(1997),46-53 (15) R.Jugulum, 田口伸, K.Yang, 品質工学,7-5(1999), 69-72 (16) 青木雄一朗, 末益博志, 間島理, 第24回複合材料シンポジウム講演要旨 集, 日本複合材料学会, (1999), 163-164 38 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Fig.2.1 炭素繊維による層内ネットワーク構造 Resin richinterlaminar region Fiber contact Fig.2.2 プリプレグ間の樹脂リッチ層 39 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Specimen 5Ω 0.8Ω 3Ω Output 2V 240Ω 240Ω Fig.2.3 測定用ブリッジ回路 x A v1 B v2 C v3 a D v4 E 2H=2 L=140 Fig.2.4 試験片形状 x 40 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 1 v1 v2 2 3 a/L v3 p/L v4 Output layer Input layer 30 Middle layer Fig.2.5 誤差逆伝播形ニューラルネットワーク(BPANN) 41 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Table 2.1 解析全データ No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 *50 *51 *52 *53 *54 Electric registance change retio AB BC CD DE 0.02735 0.14510 0.05040 0.00702 0.10950 0.36610 0.15140 0.02150 0.04894 0.10450 0.05340 0.00773 0.26406 0.73200 0.46900 0.07270 0.03650 0.05920 0.05590 0.00873 0.05880 0.13510 0.15990 0.02700 0.17547 0.40400 0.44810 0.08030 0.29202 0.91550 0.86430 0.17140 0.00644 0.03800 0.05640 0.01030 0.00921 0.06050 0.14940 0.03190 0.06681 0.19010 0.38840 0.09180 0.18167 0.45670 0.68640 0.18440 0.29916 0.96750 1.11150 0.32690 0.00066 0.00807 0.04900 0.01230 0.00577 0.01350 0.10940 0.03760 0.02991 0.07320 0.28050 0.10440 0.10051 0.19880 0.49880 0.19510 0.21488 0.46800 0.77370 0.30740 0.00471 0.00198 0.02860 0.01440 0.02296 0.00353 0.05130 0.04200 0.05501 0.02610 0.16020 0.11020 0.09444 0.11450 0.31060 0.18730 0.16464 0.29170 0.51050 0.26060 0.03660 0.01560 0.01560 0.04030 0.08794 0.06190 0.06180 0.09770 0.13452 0.16420 0.16370 0.15040 0.18244 0.33660 0.33550 0.20330 0.01427 0.00939 0.00149 0.01310 0.03895 0.05140 0.00347 0.02670 0.10165 0.16060 0.02590 0.06330 0.17121 0.31170 0.11400 0.10540 0.01342 0.02870 0.00193 0.00592 0.03519 0.10980 0.01320 0.00729 0.18106 0.49990 0.20170 0.09350 0.28216 0.77190 0.48480 0.19460 0.01159 0.04910 0.007950.0 0.07143 0.03005 0.15000 0.06030 0.00580 0.08620 0.38940 0.19310 0.05110 0.17212 0.68510 0.47380 0.15090 0.30271 1.10430 0.98480 0.33690 0.00971 0.05660 0.03800 0.00429 0.02540 0.16000 0.13820 0.04430 0.07528 0.44690 0.42040 0.14130 0.15994 0.85900 0.93250 0.32760 0.00819 0.05570 0.06170 0.02820 0.06777 0.46490 0.74830 0.30430 0.00711 0.05220 0.10970 0.04520 0.01986 0.14860 0.36970 0.16600 0.00648 0.04940 0.14210 0.07010 0.12546 0.23180 0.15650 0.02360 0.01165 0.00149 0.00939 0.01550 0.23571 0.51150 0.29400 0.16890 0.09745 0.28150 0.07270 0.03200 0.02193 0.15500 0.24550 0.10540 x size 0.035714 0.071429 0.107143 0.142857 0.178571 0.214286 0.214286 0.214286 0.250000 0.285714 0.285714 0.285714 0.285714 0.321429 0.357143 0.357143 0.357143 0.357143 0.392857 0.428571 0.428571 0.428571 0.428571 0.500000 0.500000 0.500000 0.500000 0.535714 0.571429 0.571429 0.571429 0.607143 0.642857 0.642857 0.642857 0.678571 0.714286 0.714286 0.714286 0.714286 0.750000 0.785714 0.785714 0.785714 0.821429 0.857143 0.892857 0.928571 0.964286 0.142857 0.464286 0.571429 0.642857 0.857143 0.071429 0.142857 0.071429 0.285714 0.071429 0.142857 0.285714 0.428571 0.071429 0.142857 0.285714 0.428571 0.571429 0.071429 0.142857 0.285714 0.428571 0.571429 0.071429 0.142857 0.285714 0.428571 0.571429 0.142857 0.285714 0.428571 0.571429 0.071429 0.142857 0.285714 0.428571 0.071429 0.142857 0.428571 0.571429 0.071429 0.142857 0.285714 0.428571 0.571429 0.071429 0.142857 0.285714 0.428571 0.071429 0.285714 0.071429 0.142857 0.071429 0.142857 0.071429 0.571429 0.285714 0.142857 表中の*は新規データとして用いたデータを示す 42 Estimated delamination location x/L 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 1 Used data for training New data 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0.8 1 Delamination location x/L (a) はく離位置 Estimated delamination size a/L 1 Used data for training New data 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 0.2 0.4 0.6 Delamination size a/L (b) はく離寸法 Fig.2.6 ニューラルネットワークによるはく離位置・寸法同定結果 43 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Average total error 100 Used data for training New data 10 1 0.1 0.01 0 100000 200000 300000 400000 Number of training cycle 500000 (a) はく離位置 10 Average total error 1 Used data for training New data 0.1 0.01 0.001 0 100000 200000 300000 Number of training cycle 400000 500000 (b) はく離寸法 Fig.2.7 ニューラルネットワークを用いた損傷同定における 学習回数と誤差二乗和の関係 44 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Estimated delamination location x/L 1 0.8 0.6 0.4 0.2 Used data for training New data 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 Delamination location x/L (a) はく離位置 Estimated delamination size a/L 1 Used data for training New data 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 Delamination size a/L (b) はく離寸法 Fig.2.8 ニューラルネットワークによるはく離位置・寸法同定結果 (学習を新規データ最適時に中断した場合) 45 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Estimated delamination location x/L 1 Used data for regression New data 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0.8 1 Delamination location x/L (a) はく離位置 Estimated delamination size a/L 1 Used data for training New data 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 0.2 0.4 0.6 Delamination size a/L (b) はく離寸法 Fig.2.9 応答曲面法によるはく離位置・寸法同定結果 46 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Table 2.2 誤差二乗和比較 ANN convergence under training RSM Used data 0.023 1.395 0.892 New data 0.458 0.145 0.035 Table 2.3 寸法同定用応答曲面の係数有意性検定結果 coefficient constant V1 V2 V3 V4 V1×V2 V1×V3 V1×V4 V2×V3 V2×V4 V3×V4 t value 0.465 -6.507 2.604 -3.793 11.510 -6.679 42.541 -84.816 -9.117 27.345 -8.416 47 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Table 2.4 各データのパラメータとマハラノビス距離による判別結果 No. Group 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 A A A A A A A A B B B B B B B B Parameter Mahalanobis Distance Estimation X Y A B 80.0 47.0 0.2 32.5 A 79.0 15.0 1.2 54.4 A 44.0 42.0 2.1 5.3 A 162.0 80.0 1.7 151.4 A 12.0 7.0 1.7 1.4 *B 29.0 5.0 0.8 8.2 A 54.0 0.0 1.3 32.7 A 184.0 79.0 4.0 213.7 A 0.0 3.0 2.5 0.7 B 17.0 50.0 7.5 1.0 B 103.0 158.0 23.3 4.9 B 17.0 39.0 5.2 0.3 B 4.0 28.0 5.2 1.4 B 56.0 119.0 20.5 0.9 B 34.0 62.0 7.1 0.0 B 9.0 31.0 5.0 0.7 B *誤判別 180.0 A B Y 120.0 60.0 8.2 0.8 0.0 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 X Fig.2.10 データ分布 (図中の矢印はデータ6(表 2.3 参照)のマハラノビス距離を示す) 48 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Table 2.5 データ 9(表 2.3 参照)の各水準へのマハラノビス距離と帰属率 A B Mahalanobis Probability Probability of Distance Density Belonging 2.5 0.04 5.3% 0.7 0.78 94.7% 49 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 180 y(90º) x(0º) 45 2A 2B 2C 2D 2E 5 105 50 10 t=1.4 Electrode 1A 1B 1C 1D 1E Fig.2.11 試験片形状 Delamination location b c a 0゜direction (a)はく離形状im (a) C-Scan (a) C-Scan image age Electrode Delamination 0゜ 90゜ Matrix cracking 0゜ (b)層間はく離断面図(繊維方向) (b) Schematic image of cross section Fig.2.12 はく離形状 50 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Table 2.6 測定データ Test No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 *65 *66 *67 *68 *69 *70 *71 *72 *73 *74 *75 *76 Position x[mm] y[mm] 111.5 81 27.42 23.16 66.84 77.66 159 25 114 24 68.69 24.88 158.5 77.5 159.91 27 112 83.73 23.5 23.82 69.28 81.06 157.86 76.84 24.91 80.73 68.44 22.82 157.66 26.24 112.66 30.16 68.82 25.63 25.86 25.85 22.47 80.07 66 79.85 113 79.99 155.14 79.41 160 25.44 70.55 27.27 19 78.89 110.58 78.89 23 19.77 66.83 80.17 110.58 30.02 21.38 52.52 66 50.53 111.42 56.47 163.02 53.36 21.32 53.64 66.82 57.85 111.5 52.36 157.73 54.85 20.04 53.89 67.54 55.55 112.28 54.97 159.78 53.53 22.82 56.38 68.42 50.66 113.73 56.01 59.77 52.93 21.03 22.09 68.41 22.17 112.91 22.93 20.68 85.6 66.18 86.05 110.96 84.42 157.27 85.35 22.73 20.91 67.91 22.07 113.8 20.13 164.06 20.66 67.2 83.42 111.7 84.93 19.76 54.8 66.74 54.5 158.5 51.85 22.41 19.02 160.23 24.89 158.47 84.23 20.65 54.52 157.59 25.16 158.83 85.91 68.46 20.2 65 84.52 20.54 84.89 114.6 24.03 110.49 81.09 66.5 51.8 113 51.01 159.44 55.12 22.28 77.63 Size [mm] 18.75 14.78 17.51 12.9 14.2 9.23 11.61 23.25 22.3 14.1 13.9 21.75 22.66 11.85 19.88 18.65 14.5 14.31 10.76 12.7 10.43 21.1 14.71 16.72 12.98 19.78 25.16 22.23 16.75 20.73 18.74 19.89 23.19 14.51 14.71 14.53 14.32 20.92 17.59 15.56 19.73 16.72 20.5 20.71 20.38 25.89 25.95 23.28 24.15 25.35 25.07 24.45 14.1 14.18 13.73 9.92 14.03 15 25.95 23.55 24.82 15.51 22.35 16.95 20.9 25.05 13.9 14.7 14.9 14.97 13.35 17.73 19.65 22.95 25 13.15 1AB 1 75 0 -3 -4 9 1 -2 -3 29 -4 -8 -2 90 -2 -1 16 24 0 1 -1 -2 -3 31 -2 -1 46 0 14 25 8 0 -2 12 -2 -2 0 56 2 0 0 2 19 2 2 134 113 3 -2 20 -6 24 21 19 -1 -2 0 1 20 15 -5 62 -3 -4 18 0 -2 7 -2 -4 -3 -6 1 0 -1 0 1BC 4 62 1 2 25 19 8 0 -1 8 -3 -4 0 212 -1 46 27 23 1 0 0 -2 1 62 1 -1 66 1 114 14 37 6 0 2 1 10 0 0 0 2 0 0 35 7 3 31 169 95 -3 21 -6 25 11 29 12 0 0 2 -3 16 -6 30 0 -4 7 3 -1 49 0 -2 51 -5 3 15 -1 0 Electric Resistance Change Ratio 1CD 1DE 2AB 2BC 5 -2 2 23 0 -1 -1 -2 0 0 56 119 38 174 -4 2 50 21 -5 -6 12 3 1 2 16 14 4 11 63 90 2 1 -1 1 0 131 -1 -4 -4 -3 -4 0 9 31 -1 -3 0 -4 0 0 184 79 99 5 7 -3 103 262 0 -1 91 49 -1 -2 22 3 -2 -1 1 0 -1 -1 0 0 29 11 0 0 10 3 0 1 0 14 -1 -1 0 0 6 11 -2 -2 33 1 -2 -2 1 0 229 182 -1 0 2 219 3 3 -3 -2 -1 -1 144 279 271 163 14 19 -3 -2 79 35 29 -1 3 19 11 10 3 100 14 42 0 -2 0 2 12 7 0 0 4 28 14 3 -4 6 5 14 1 0 -6 1 79 15 -1 -1 34 62 1 2 0 4 2 20 2 3 4 1 54 -1 13 1 6 14 6 2 1 51 4 20 0 3 3 0 -2 -4 68 5 -5 -3 216 120 -4 -1 -3 1 162 80 15 17 103 158 -2 -3 1 69 26 29 17 31 0 -2 2 1 17 0 1 1 32 27 1 1 17 45 -1 0 0 0 17 8 2 2 3 17 4 8 80 47 1 -10 17 39 15 130 -5 -5 2 -1 -3 -3 60 254 -3 -3 -3 -3 -5 0 0 -1 44 42 78 140 0 1 -1 -1 -5 0 48 3 0 0 0 1 17 50 0 -1 74 27 76 25 -3 -4 -4 -1 -5 14 0 0 15 14 25 16 -1 13 22 46 -3 1 0 2 29 5 2CD 159 -2 59 0 -6 1 154 0 170 -2 24 89 4 -1 0 -1 -1 0 0 1 2 6 0 -1 3 289 1 135 10 0 11 132 12 6 22 14 4 4 38 20 9 2 6 87 10 -5 -1 3 4 82 122 85 2 0 1 0 16 18 8 11 10 -2 -3 100 0 3 9 0 35 0 -3 55 -6 43 29 6 2DE 148 -1 4 0 -7 3 280 3 37 -1 -3 221 3 -3 0 -2 0 0 0 1 3 19 0 2 3 165 3 9 2 -1 0 42 44 5 2 6 17 3 6 20 54 1 1 39 41 -2 0 0 2 22 65 162 0 0 1 1 1 10 12 -4 83 -2 0 128 0 3 32 0 1 1 0 48 3 37 31 1 表中の*は新規データとして用いたデータを示す 51 第2章 2A 2B 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 2C 2D 2E X=1 Y=1 X=2 Y=1 X=3 Y=1 X=4 Y=1 X=1 Y=2 X=2 Y=2 X=3 Y=2 X=4 Y=2 Electrode 1A 1B 1C 1D 1E Fig.2.13. 位置水準 Table 2.7 各水準の測定データ数 Level Initial Data New Data X Y Size X Y Size 1 16 28 31 3 5 6 2 18 38 14 3 7 3 52 3 15 --19 3 --3 4 15 ----3 ----- 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Mahalanobis Distance 1.0E+05 1.0E+04 1.0E+03 1.0E+02 Initial Data 1.0E+01 New Data 1.0E+00 0 1 2 3 4 Measured location level (a) x 第1水準(AB)からの マハラノビス距離 1.0E+05 Mahalanobis Distance Initial Data 1.0E+04 New Data 1.0E+03 1.0E+02 1.0E+01 1.0E+00 0 1 2 3 4 Measured location level (b) x 第 2 水準(BC)からの マハラノビス距離 Fig.2.14 各 x 水準からのマハラノビス距離 53 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Mahalanobis Distance 1.0E+05 1.0E+04 1.0E+03 1.0E+02 1.0E+01 Initial Data New Data 1.0E+00 0 1 2 3 4 Measured location level (c) x 第 3 水準(CD)からの マハラノビス距離 Mahalanobis Distance 1.0E+06 Initial Data 1.0E+05 New Data 1.0E+04 1.0E+03 1.0E+02 1.0E+01 1.0E+00 0 1 2 3 4 Measured location level (d) x 第 4 水準(DE)からの マハラノビス距離 Fig.2.14 各 x 水準からのマハラノビス距離 54 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 1.0E+04 Mahalanobis Distance Initial Data New Data 1.0E+03 1.0E+02 1.0E+01 1.0E+00 0 1 2 Measured location level (a) y 第 1 水準からの マハラノビス距離 1.0E+04 Mahalanobis Distance Initial Data New Data 1.0E+03 1.0E+02 1.0E+01 1.0E+00 0 1 2 Measured location level (b) y 第 2 水準からの マハラノビス距離 Fig.2.15 各 y 水準からのマハラノビス距離 55 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Table 2.8 実水準・他水準空間からの平均マハラノビス距離(位置) Initia l New Data X Y X Y Average of Maharanobis Distance MD from MD from Measured location level Another location level 7.5 7420 7.75 890 22.8 1670 41.3 212 Table 2.9 はく離同定結果(位置) Initial Data New Data X Y X Y Reliability of Estimation MD RS 95.3% 82.00% 98.4% 96.90% 83.3% 54.20% 83.3% 79.20% 56 R2Adj of RS 0.82 0.793 --- --- 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 5 4.5 Initial Data New Data 4 Estimatimated X 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 X (a) X 方向 3 Initial Data 2.5 New Data Estimatimated Y 2 1.5 1 0.5 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 Y (b) Y 方向 Fig.2.16 応答曲面法によるはく離位置同定結果 57 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Mahalanobis Distance 1.0E+03 1.0E+02 1.0E+01 Initial Data New Data 1.0E+00 0 1 2 3 Measured location level (a) 寸法第1水準からの マハラノビス距離 Mahalanobis Distance 1.0E+03 1.0E+02 1.0E+01 Initial Data New Data 1.0E+00 0 1 2 3 Measured location level (b) 寸法第 2 水準からの マハラノビス距離 Fig.2.17 各寸法水準からのマハラノビス距離 58 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Mahalanobis Distance 1.0E+02 1.0E+01 Initial Data New Data 1.0E+00 0 1 2 3 Measured location level (c) 寸法第 3 水準からの マハラノビス距離 Fig.2.17 各寸法水準からのマハラノビス距離 59 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Table 2.10 実水準・他水準空間からの平均マハラノビス距離(寸法) Initial Size New Size Average of Maharanobis Distance MD from MD from Measured Size level Another Size level 7.63 41.2 5.73 5.68 Table 2.11 はく離同定結果(寸法) Initial Data New Data Reliability of Estimation MD RS Size 62.5% 94.50% Size 41.7% 41.70% 60 R2Adj of RS 0.841 --- 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 3.5 Initial Data New Data Estimatimated Size 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 Size Fig.2.18 応答曲面法によるはく離寸法同定結果 61 第2章 構造損傷同定への統計的診断手法の適用 Table 2.12 同定精度 (a) 正答率 Minimum MD Probability 33% Border 20% X 93.4% 93.4% 96.1% Y 96.1% 96.1% 96.1% Size 59.2% 68.4% 78.9% (b)誤判別率 Minimum MD Probability 33% Border 20% X 6.4% 10.5% 12.3% 62 Y 3.9% 5.3% 9.2% Size 40.8% 46.1% 69.7% 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 3.1 緒 言 1,2章で示されたように,構造ヘルスモニタリング(1)~(8)における損傷同定 手法では,学習データとして損傷時の構造の出力が必須であるが,既存の土木 建築構造物への構造ヘルスモニタリング適用の際には,破壊的実験が不可能で あることから,解析あるいは非破壊的実験のみから損傷を診断するシステムが 必要となる.現在この様な研究は,構造を数理モデル化し解析的検討を行うこ とにより行われている.しかしながら,実際には構造はおのおの固有の形状・ 損傷状態を持っているため,各々の構造物ごとにモデル化が必要な上,各々の 構造物は様々な部材が複雑に組み合わされて構築されているためモデル化が極 めて難しく,原子力発電所等,単純かつ高コストが許容される構造をのぞいて 事実上不可能である.そのため都市構造物の構造ヘルスモニタリング実用化の ためには,破壊的実験・個々の構造のモデル化を伴わない簡便な損傷診断法が 必須となる.そこで本研究では,損傷検知に特化することで,正常時の測定デ ータと,現在の測定データのみから,統計データ解析を用いて構造の損傷有無 の診断を行うシステムの提案を行い,その実験的検討を行っている. 最適化問題に用いられるツールに応答曲面法(9)がある.応答曲面とはシステム の入力パラメータと出力パラメータの関係を表す回帰曲面であり,一般的に入 出力の関係からシステムの挙動を推定するシステム同定問題に用いられ,その 式は次式で与えられる. y = f ( x1 , x2 , L , xl ) + ε (3-1) 63 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 ここで y はシステムの出力パラメータ,x は入力パラメータである.応答曲面法 では,この様な数式への回帰からシステム同定を行うため,容易に自動的なシ ステム同定が可能となる. そこで本研究では,応答曲面法を用いて構造のシステム同定を行い,損傷発 生前からの現在のシステムの変動を統計的検定手法で検出することで損傷の検 知を行う(図 3.1(a)(b)).この様に同定されたシステム自体を診断に用いること で,パラメータの閾値判定では困難な境界条件の変動する構造の損傷検知が可 能となる. まず,3章2節「提案手法の原理およびシステム有効性の実験的検証」では, 応答曲面比較による損傷検知手法の原理および概要について述べ,両端固定の 金属配管梁を対象とした実験により,応答曲面比較パラメータ F の導出と,損 傷増大に伴う F パラメータ量の変動の確認を行い,本手法の有効性の検証を行 う.次に3章3節「確率分布変数を用いた閾値の決定」において,複合材料片 持ち梁を対象とした実験により,応答曲面比較パラメータ F の確率分布を実験 的に測定し,損傷・無損傷を判定する閾値に関して考察を行う. 64 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 3.2 提案手法の原理およびシステム有効性の実験的検証 3.2.1 緒 言 本節ではまず,統計的診断手法を用いた構造損傷検知法の概要及び原理とし て,応答曲面法概要,損傷診断手順,等分散性検定である F 検定(10)を用いた応 答曲面差異診断法について述べる.つぎに,金属配管の曲げ損傷検知に本手法 を適用し,モード1固有振動数をモード2,モード3固有振動数から同定する 応答曲面の損傷発生前後での変化量を調査することで,本手法の有効性に関し て実験的検討を行っている. 3.2.2 統計的診断手法 3.2.2a 応答曲面法 応答曲面法とは品質工学分野におけるプロセス最適化に適用されている手法 であり,実験計画,近似関数への回帰,プロセス最適化を含む.応答曲面とは 説明変数 xi と被説名変数 y との関係を表す近似関数である.一般的にその関係 は次式で表される. y = f ( x1 , x 2 , L , x k ) + ε (3-2) ここで,εは誤差である.応答曲面の関数系としては多項式近似する場合が多 く,様々な変数変換を行うことで複雑な関数に近似可能となる.応答曲面法の 利点は,最小二乗法を用いているため近似関数の各係数の推定精度を統計的手 法により評価できる点と,実験計画の実施により近似精度の高い応答曲面を効 率よく作成できる点にある. 3.2.2b 最小二乗法 簡略化のため,次式のように2次多項式近似する場合を考える. y = β 0 + ∑ j =1 β j x j + ∑ j =1 β jj x 2j + ∑i =1 ∑ j =i +1 β ij xi x j k k −1 k 65 k (3-3) 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 ここで xixj=xij と置き換えることで,式(3-3)は次の線形回帰モデルに変形可能で ある. y = Xβ + ε (3-4) 上式の回帰係数βの推定量 b は最小二乗法を用いて求める.ここで,式(3-4)の 各変数はマトリクス表示すると以下のようになる. ⎧ β0 ⎫ ⎧ y1 ⎫ ⎧ε1 ⎫ ⎪ β ⎪ ⎪y ⎪ ⎪ε ⎪ ⎪ 2⎪ ⎪ 1 ⎪ ⎪ 2⎪ y = ⎨ ⎬, β = ⎨ ⎬, ε = ⎨ ⎬ ⎪M⎪ ⎪ M ⎪ ⎪M⎪ ⎪⎩ yn ⎪⎭ ⎪⎩β p −1 ⎪⎭ ⎪⎩ε n ⎪⎭ ⎡1 x11 ⎢1 x 21 x=⎢ ⎢M M ⎢ ⎣1 xn1 x12 x22 M xn 2 L x1, p −1 ⎤ L x2, p −1 ⎥ ⎥ O M ⎥ ⎥ L xn , p −1 ⎦ (3-5) (3-6) ここで n は実験点数,p は未知係数の個数である.最小二乗法からのβの推定値 b は次式となる. ( b= XTX 3.2.2c ) −1 XTy (3-7) 応答曲面の係数検定 応答曲面作成の際には,最小二乗法から求められた各回帰係数の有意性検定 をおこなう.各回帰係数の有意性は t 検定を用いることで判断できる.有意性判 定は i 番目の回帰係数に対し,その係数が回帰に無効であるという帰無仮説を設 定し,仮説検定することにより行われる.仮説は i 番目の係数に対し次式で設定 される. βi = 0 (3-8) 66 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 一般に回帰誤差εが平均 0,分散σ2 の正規分布に従うとの仮定の下でβの推 定値 b を求めると各回帰係数に関する t 値は t 分布に従うことが知られている. t 値は次の式で与えられる. ti = bi ∑ (y − yˆ ) (n − p ) ∑ (x − x ) n j =1 2 j (3-9) j n j =1 ij i t 検定においては式(3-8)の仮説は次式で棄却される. ti > tα / 2, n − p (3-10) この検定を元に,帰無仮説が受け入れられた回帰係数のうち t 値が一番小さいも のを項自体が不要であると見なして変数を削除する.この操作を不要な係数が 存在しなくなるまで繰り返すことにより近似精度の高い応答曲面を導出する. 3.2.2d F 検定による応答曲面同一性の判定 2つの標本のデータ点数をそれぞれ n1 ,n2 とする.応答曲面の自由度を p とし, 2つの応答曲面を以下に定義する. y1 = X 1 β 1 + ε 1 y2 = X 2 β 2 + ε 2 (3-11) 帰無仮説に2つの応答曲面の回帰係数行列が等しいとの仮説を設定する.仮説 の定義式を以下に示す. β1 = β 2 (3-12) 2つの標本において誤差項 ε は互いに独立であり,同じ分散を持つと仮定する. F 検定に用いる F 検定値 F0 は次式で定義される(11). F0 = SSE0 − SSE12 n − 2 p ⋅ SSE12 p ここで SSE は残差平方和を示しており,次式で定義される. 67 (3-13) 第3章 T T 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 T SSEi = yi yi − bi X i yi (3-14) ここで添え字の 0 は全点,12 は標本1,2の総和をそれぞれ示している.この F0 は両応答曲面が類似するほど小さい値をとり,異なる度合いが大きいほど大き な値をとる. 本論文ではこの F0 を有意水準にαの場合の F 臨界値 F pα,n − 2 p で除して標準化し たものを W と定義し,W 値の大小で判定を実施する.有意水準は 5%とした. W= F0 F α p ,n − 2 p (3-15) W≧1 の場合,両応答曲面は同等であるとした帰無仮説が棄却される. 3.2.2e 統計的診断システム 本研究では固有振動数から統計的判定を用いて損傷発生を検出するシステム を提案する.センサーとしてひずみセンサーを構造物に設置し,衝撃荷重を与 えて振動ひずみを測定し,測定した振動ひずみから固有振動数を求める.求め たモード 1,2,3 の固有振動数をω1,ω2,ω3 とする. 第1ステップの学習モードでは損傷のない値の学習を実施する.この場合の 流れを図 3.2 に示す.学習モードでは測定のばらつきを考慮して十分な回数の測 定を実施する.それぞれの測定において振動ひずみデータから誤差を含むω1, ω2,ω3 が得られる. 得られたω1,ω2,ω3 の複数の組み合わせから次式で表されるモード間の応答 曲面を作成する. ω1 = f (ω2 , ω3 ) + ε (3-16) これを基準応答曲面(Standard Response Surface, SRS)と呼ぶ.以上で学習モードを 完了する. 次にモニタリングモードを開始する.この場合の流れを図 3.3 に示す.モニタ リングモードは,設定された間隔ごとの複数回振動ひずみを測定し,複数の固 有振動数ω1,ω2,ω3 の組を求める.この結果から次式の応答曲面を作成する. 68 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 ω1 = f ′(ω2 , ω3 ) + ε ' (3-17) これを測定応答曲面(Monitored Response Surface, MRS)と呼ぶ. 次に,損傷の判定は次に次式の仮説検定を実施する事により行う. f = f′ (3-18) この仮説が棄却されると,固有振動数間の関係式の同等性が成立しなくなった ことを意味し,損傷発生が推察される.実際には複数回の測定により,損傷発 生が再確認される. 3.2.3 パイプ曲げ損傷検知システムへの適用 3.2.3a 構成システム 本研究で提案する自己学習型損傷検出システムを金属製配管の曲げ損傷検知 問題に適用し実験を行った.システム構成例を図 3.4 に示す.固有振動数測定用 センサーとしては,パイプにひずみゲージを取り付ける.ひずみゲージからの データ取得にはひずみアンプと A/D 変換と CPU,メモリ,Ethernet 送受信装置 を 具 備 し て ペ ン ケ ー ス サ イ ズ に 小 型 化 し た 東 陽 テ ク ニ カ 製 SmartLink KNM-BRG11(12)を用いる.SmartLink は 10BaseT を介して PC に接続され,PC 側 では Ethernet を通じて転送された振動ひずみデータを受信し,FFT 処理および学 習と統計的診断を行う. また, SmartLink はデータ転送にデジタルデータ転送プロトコルである Ethernet と UDP/IP を利用した小型装置である.そのため,従来型センサーをインターネ ット用の市販ケーブルを用いて容易に分布型センサーとして利用可能となる. この様な損傷検知システムを構築することにより,従来技術で簡単に遠隔地 からの構造モニタリングを行うことが可能となる. 3.2.3b 実験装置 ここでは本研究の統計的診断手法を用いた損傷検知手法の有効性検証を目的 として,簡単な両端固定パイプの塑性曲げ変形を損傷として固有振動数変化で 69 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 検出する.試験片形状を図 3.5 に示す.市販の外径 10mm,内径 8mm,長さ 800mm のアルミニウム合金製パイプの両端をバイスで固定し,固定端部から 20mm の 位置にゲージ長 2mm のひずみゲージを貼り付けた.パイプの加振は,ひずみゲ ージ貼り付け端部と逆側端部から 130mm の位置にハンマーで衝撃横荷重を与え た.ひずみデータ取得には前述の SmartLink を用いた.振動ひずみ測定データ間 隔は1msでデータ数は 8192 点とした.本来は SmartLink のデジタル I/O を利 用した遠隔操作での加振機駆動が利用可能であるが,本研究では簡便のため, 手動でハンマーを利用してパイプに衝撃荷重を負荷した. 塑性曲げ損傷は,両端固定をはずした後に 3 点曲げ試験で実施した.曲げ試 験後の残留変形を地震後のパイプ塑性曲げ損傷を模擬しているとして,残留変 形角度θを測定した.角度θの定義は図 3.6 に示すとおりである.曲げ試験は損 傷位置が,d/L=0.5,d/L=0.375 の 2 パターンで実施した.損傷角は,d/L=0.5 の 場合θ=1.5, 3.3, 3.9, 5.4 [deg]の 4 通りで,d/L=0.375 の場合θ=0.72, 1.2, 2.6, 4.5, 4.9, 6.2[deg] の 6 通りで実施した. 3.2.3c 学習モード 本研究では,パイプの曲げ振動の1次,2次,3次モードを利用する.固有 振動数間の応答曲面作成のため,学習モードでは衝撃荷重負荷時のひずみ測定 を 28 回実施した. 基準応答曲面の被説明変数(応答)は1次モードの固有振動数ω1 であり,説 明変数は2次モードと3次モードの固有振動数ω2,ω3 である.応答曲面は簡単 のため,次の2次多項式を用いた. ω1 = β 0 + β1ω 2 + β 2ω 3 + β 3ω 2 2 + β 4ω 2ω 3 + β 5ω 3 3 3.2.3d (3-19) 損傷モニタリングモード 損傷モニタリングモードでは,本来は設定された間隔ごとに加振機を遠隔駆 動して固有振動数を測定する.本研究では簡単のため手動でハンマーを使用し て衝撃荷重を負荷している.28 回の衝撃荷重を負荷して 28 組の固有振動数の組 を取得し,式(3-19)に示すようにω1 を被説明変数,ω2 とω3 を説明変数とす 70 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 る応答曲面を作成する.この新たに作成された測定応答曲面と先に学習モード で作成した基準応答曲面の同等性を前述の F 検定で判定することによって構造 状態の変化の有無を判定する. 3.2.4 3.2.4a 実験結果と考察 学習モード 学習モードでは,差異検定の基準となる基準応答曲面を作成する.損傷前の 衝撃応答から得られた周波数スペクトルの一例を図 3.7(a)に示す.応答曲面は 28 回の測定から求めた 28 組のモード 1~3 周波数から回帰される.一例を以下に 示す. ω1 = −1.03 × 10 4 + 1.01× 10 2 ω 2 − 6.67ω 3 − 0.482ω 2 + 0.275ω 2ω 3 + 0.0629ω 3 2 3.2.4b 2 (3-20) 無損傷時のモニタリングモード 無損傷時の基準応答曲面の同等性を確認する目的で,別の 28 回の測定を実施 し,測定応答曲面を求めた.これを以下に示す. ω1 = −4.98 × 103 + 2.53 × 10 2 ω 2 − 1.07ω 3 − 0.545ω 2ω 3 + 0.255ω 3 2 (3-21) また,各応答曲面の係数の t 検定値,自由度調整済み決定係数 R2ad を表 3.1 に示 す. 式(3-20),(3-21)は両者とも無損傷状態における応答曲面であるが,この例のよ うに構造状態が同一でも応答曲面の各回帰係数は必ずしも同一ではない.しか しながら,無損傷状態における2つの応答曲面の同等性検定を行った場合,こ の例では検定値 W=0.199<1 であり,統計的には両者の同等性は成立し,損傷は 発生は否定される. 3.2.4c 損傷時モニタリングモード 損傷後の測定例としてパイプ中心部(d/L=0.5)に 1.5ºの残留曲げ変形の損傷を 与えた場合の結果を以下に示す.また併せてこの場合の周波数スペクトルの一 71 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 例を図 3.7(b)に示す.損傷の発生によりスペクトル形状が変化していることが確 認できる. 損傷前と後の 28 回の実測時の固有振動数分布を図 3.8,3.9 に示す.図 3.8 にお いて横軸はω1,縦軸はω2,図 3.9 において横軸はω1,縦軸はω3 である.測定 応答曲面を次式に示す.また測定応答曲面の係数の t 検定値,自由度調整済み決 定係数を表 3.2 に示す. ω1 = −4.19 ×10 4 + 1.06 ×10 2 ω 2 + 1.27ω 3 − 0.229ω 2ω 3 − 0.0775ω 3 2 (3-22) この場合の検定値 W は W=6.78 となり,W≧1 が成立し,測定応答曲面が基準応 答曲面と異なることが判定され,すなわち損傷発生が判定される. 以上のように,無損傷状態から作成された測定応答曲面を比較した場合には 同等性が成立し,異なる損傷状態から作成された測定応答曲面を比較した場合 には同等性が棄却され,損傷の発生が検出可能であることが確認される. 3.2.4d 損傷診断結果 次にいくつかの損傷状態での損傷検知を実施した.その結果を図 3.10 に示す. 損傷位置,損傷角は,3.2.3b と同様である. 図 3.10 の横軸は検定値 W を6つの範囲に水準化した値であり,縦軸はおのお のの W 値水準を有する測定応答曲面の分布比を示している.ただし,白棒は無 損傷時 14 回の測定応答曲面の W 値分布であり,黒棒は損傷時 93 点の測定応答 曲面の W 値分布を示している.図に示すように,無損傷の場合に検定値 W は必 ず 1 以下である.また,損傷があるにもかかわらず,W が 1 より小さい場合は わずか 4.3%である.以上から本論文の損傷診断手法が,損傷検出に対し有効で あることが確認された. 3.2.4e 判定精度の向上 判定精度向上を目的として,先の 4.3%の誤判定部に関して考察する.一例と して先に損傷後に無損傷と誤判定された d/L=0.5,θ=3.3,3.9[deg] の場合につい て固有振動数分布の一例を図 3.11,3.12 に示す.図 3.11,3.12 から,固有振動数に 明確な差はない.このように損傷自体が小さく,固有振動数自体の変化量が小 72 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 さい場合,統計的差異判定が困難になる.そこでこの損傷状態のパイプに対し 複数回損傷診断を試みた.得られた W 値を表 3.3 に示す.試行は2回行い,お のおのから得られたデータ群をおのおの DataA, DataB としている.一方では損 傷を正しく検出できているが,一方では検出に失敗した.そこで,両者のデー タをあわせ 56 点のデータから応答曲面を作成し,診断を試みた.この場合の W 値も併せて表 3.3 に示す.表中の○は損傷が判定された場合,●は損傷が判定さ れなかった場合を示す.表 3.3 から 56 点の測定データで W 値が 1 を越えており, 正しく損傷が判定されていることがわかる.このように,取得するデータ点数 を増やすことにより,判定精度の向上を図ることが可能である. 3.2.5 結言 本研究では,F 検定を利用した応答曲面の差異判定から損傷検知を行う損傷時 のデータを必要としないノンパラメトリックな損傷検知手法の提案を行った. また,固有振動数をパラメータとした金属製配管の曲げ損傷検知に本手法を適 用し,その有効性を実験的に実証した.その結果,得られた結論は以下のよう になる. (1) 応答曲面と F 分布を用いて統計的診断手法による差異判定を行うことによ り,損傷時のデータ無しで構造の損傷判定が行えることを示した. (2) 固有振動数に対し微小な変化しか引き起こさない損傷に対しても,測定デー タ数を増加させて損傷診断をすることにより高い精度の損傷判定が可能で あることを示した. 73 第3章 3.3 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 確率分布変数を用いた閾値の決定 3.3.1 緒 言 前節「提案手法の原理およびシステムの有効性の実験的検証」では,状態の 異なる構造の測定データから応答曲面法を用いて同定されたシステムの変化量 が,分散性検定である F 検定で定量的に評価することができることを示し,F0 パラメータを用いた損傷検知手法について実験的検証を行い,その有効性の確 認を行った.具体的には,複数回測定した金属配管の固有振動数から損傷発生 前後の構造でそれぞれ応答曲面を作成し両応答曲面に F 検定を行い,設定され た閾値で損傷無損傷の診断を行うことで高い診断精度が得られる事を示し,提 案手法が実際に損傷検知手法として適用可能であることを明らかにした. 一方本手法では,構造の解析・破壊的実験を伴わないという制約上,実際に は損傷無損傷の閾値を実験から導出することは不可能である.そのため,本手 法では無損傷時の F の絶対値のみから,損傷有無を判定し損傷を見定める必要 がある.一般に二つの回帰式の同等性検定における F の実現値は,両回帰式の 自由度から決定される F 分布にしたがう検定統計量となる事が知られている(3). そのため,2応答曲面を比較した際の F の実現値も F 分布に従うと考えられる. そこで本節では,無損傷時の F が確率的な分布形状を取ることから,損傷時, 無損傷時の F の確率分布を複合材料梁の層間はく離検知問題から実験的に導出 し,無損傷時の F 分布のみから損傷無損傷の閾値が決定可能なこと,閾値がシ ステム同定に用いた応答曲面モデルのみから決定可能なことを示し,本手法の 既存構造物の構造ヘルスモニタリングへの有効性を示す. 3.3.2 応答曲面比較による損傷診断 3.3.2a 損傷診断概要 構造の損傷は,その構造部位のセンサーデータや固有振動数に変化をもたら すため,厳密に境界条件を一致させ測定を行うことができれば,ひずみなどの センサーデータを比較し差があることを検出することで,損傷の発生を検知す 74 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 る事が可能である.しかしながら,センサー出力は構造の環境や負荷状態の変 動により動的に変化するため,単純にセンサーデータを比較し,その絶対値の 差を検出するだけでは損傷同定は不可能である.そこで本研究では,健全な状 態でのセンサー出力間の関係と,損傷発生後のセンサー出力間の関係の変化を 検出することにより損傷発生の判定を行う.このことにより,単に数値の大小 を比較する手法では不可能な境界条件(外力,温度,拘束条件等)の変化する 構造の損傷診断が可能となる.本手法ではセンサー出力間の関係式として応答 曲面を用い,損傷発生による応答曲面の変化を統計検定で検知することで損傷 診断を行う. 3.3.2b F 検定による応答曲面同等性検定 二つの応答曲面の同等性の検定は,分散性検定である F 検定で行う.診断パ ラメータの定義を改めたため,改めて F 検定値の導出を示す.応答曲面導出の 手順は,3.2.2 節を参照の事とする. (1) F 検定値 F0 の導出 検定を行う二つの応答曲面の標本データ数をそれぞれ n1,n2(総データ n= n1+ n2),自由度を p とし,2つの応答曲面を次式に定義する. Y1 = X 1β 1 + ε 1 (3-23) Y2 = X 2 β 2 + ε 2 ここで同等性の帰無仮説として"2つの応答曲面の回帰係数行列が等しい"との 仮説を設定する.仮説の定義式を以下に示す. H0 : β1 = β 2 (3-24) また,対立仮説は次式で定義される. H1 : β1 ≠ β 2 (3-25) 2標本の誤差項 ε が互いに独立であり,かつ同じ分散を持つと仮定した場合,仮 説から検定統計量 F の実現値 F0 は次式で定義される. F0 = SSE0 − SSE12 n − 2 p * SSE12 p (3-26) ここで SSE は応答曲面の残差平方和を示しており,次式で定義される. 75 第3章 T T T SSEi = Yi Yi − b i X i Yi 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 (3-27) ここで添え字の 0 は全点,12 は標本1,2の総和をそれぞれ示している.この F0 は両応答曲面が類似するほど小さい値をとり,異なる度合いが大きいほど大き な値をとる.2応答曲面同等性棄却の F の境界値については次節で述べる. (2) 仮説棄却領域 二つの等しい回帰式の同等性検定による F の実現値 F0 は一般的に回帰式の自 由度 p と2応答曲面のデータ総数 n に依存する F 分布 F(p,n-2p)に従う.このた め2回帰式の同等性は,有意水準を定め,式(3-24)に示される同等性仮説の棄却 領域を設定することで,検定することが可能である.次式に有意水準を α とし た場合の同等性仮説の棄却領域を示す. F0 > F α (3-28) したがって,二つの応答曲面の同等性検定を行う場合,2応答曲面から式(3-26) に従い求めた F0 が Fα を越えた場合に同等性が棄却されると考えられる.この場 合,応答曲面同等性の棄却領域は有意水準,応答曲面モデルのみから決定可能 である. また,統計検定上この有意水準 α を第一種の過誤(仮説成立時に仮説を棄却 する過誤)と呼び,診断精度検証は有意水準を固定し,第二種の過誤(対立仮 説成立時に仮説を採択する過誤)の精度から検証を行う.そのため第二種の過 誤をβとした場合,1-βを検定力と呼び,検定力(power)から精度の検証を行う. 3.3.2c 損傷診断手順 損傷検知はセンサー間の関係を表す応答曲面の損傷による変化を検知するこ とで行う.以下にその手順を示す. (1)学習モード 学習モードはモニタリング開始前に必要なプロセスであり,構造が正常な状 態における応答曲面の導出を行う.まず,正常時の構造の負荷状態,温度等境 76 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 界条件を変化させ複数回の測定を行い,複数のデータ組を取得する(図 3.13(a) 中①).そして,この正常時の測定データから応答曲面を作成し,これを基準 応答曲面とする(図 3.13(a)中②).応答曲面は任意のセンサーの測定値を被説 明変数,そのセンサーに隣接する他のセンサーの測定値を説明変数とし,セン サーごとに一つ作成する.学習モードで作成した基準応答曲面は損傷診断の基 準となるため,以降保持する. (2)モニタリングモード モニタリングモードでは現状における応答曲面の導出を行い,基準応答曲面 との比較により損傷検知を行う.まず,学習モードと同一のセンサーでデータ の測定を行う(図 3.13(b)中①).そして同様に応答曲面を作成し,これを測定 応答曲面とする(図 3.13(b)中②).そしてこの基準・測定の両応答曲面の同等 性を F 検定を用いて統計的に検定する(図 3.13(b)中③).同等性が棄却された 場合にセンサー間の関係が変化した,すなわち構造の状態が変化したと判定し, 損傷の発生を診断する. 3.3.3 表面ひずみ変動を用いた層間はく離検出 本研究では統計的診断手法の実験的検証として,複合材料梁の層間はく離検 出を行った.複合材料平板の剛性が層間はく離の発生により局所的に微小変化 する(13)ことを利用し,はく離発生に起因する表面ひずみの変動を利用した層間 はく離の検出を試みる. 3.3.3a 試験片および実験方法 本実験で用いた試験片は厚さ 1.4mm の複合材料梁であり,その形状を図 3.14 に示す.材料には三菱レイヨン製一方向 CFRP プリプレグ M150ST を用い,こ れを 1.1MPa×130℃×1h の成形条件でホットプレスで積層した.積層構成は [02/902] s である.測定はひずみゲージで行うとし,梁中央付近に 10mm のゲージ (Gage2)を取り付け,周辺データ測定用として他の部分には 2mm のゲージ (Gage1,3)を取り付けた.実験では,図 3.14 中の斜線部を面で保持し,図 3.15 に 77 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 示されるように梁左端に任意の負荷を与え,複数のデータ組を取得した.また, 層間はく離は 3 点曲げにより試験片中央のゲージ下に作成する.はく離は 90º 層のマトリクス割れを起点として 0º/90º層間に発生するため,はく離長さ a は 上下 0º/90º層間のはく離の和とし,図 3.16 のように定義した. 3.3.3b 応答曲面 複合材料梁の層間はく離同定問題では,中央のゲージのひずみ測定値 ε2 を周 囲のゲージのひずみ測定値 ε1,ε3 から回帰する応答曲面の同等性検定を行い,損 傷診断を行った.基準応答曲面,測定応答曲面ともに,次式に示す2次の応答 曲面を用いた.応答曲面の自由度は 6 である. ε 2 = β 0 + β 1ε 1 + β 2ε 3 + β 3ε 12 + β 4 ε 1ε 3 + β 5ε 32 (3-29) ここで εi はゲージ i におけるゲージひずみ,βi は回帰係数である.応答曲面は梁 左端に強制変位で負荷を与えて 15 点のひずみデータ組を取得し,そのデータか ら最小二乗法で作成している.また,各係数に t 検定で検定を行い,減少法で最 適な応答曲面の導出を行った. 3.3.3c 仮説棄却領域 二つの回帰式が同等である場合,F0 の確率分布は回帰式の自由度とデータ点 数に依存する F 分布 F(p, n-2p)に従う.今回 15 点のひずみデータ組から2次の 応答曲面(式(3-29))を作成するため,自由度,総データ点数はおのおの 6, 30 であり,F0 は F(6,18)に従うはずである.図 3.17 に無損傷時の F0 の確率分布の 実験値と F(6,18)を示す.実験値は 15 組の測定データから基準応答曲面を作成後, 同一のセンサーから再度 15 組の測定を行い測定応答曲面を作成し,両者の同等 性検定を行い求めている.試行回数は 2000 である.図に示されるように,実験 値と理論値はよい一致を示すことがわかる.一般的に確率分布の適合度は,次 式に示す値が χ2 分布に従うことから χ2 検定で行われる. k ( f i − Fi )2 i Fi χ2 = ∑ ここで,k は離散分布のカテゴリー数,fi は各カテゴリーに含まれる標本数,Fi は理論分布から導出される各カテゴリーの期待度数である.ここで各カテゴリ 78 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 ーは Fi が 5 を越えるように 0.05 を最小単位として F を分割し今回は 68 カテゴ リーに分割した.求まった χ2 実現値は 51.49 であり,自由度 k-1 の右側確率 5% に対応する χ2 分布の臨界値 89.39 を大きく下回っており,実験により導出され た F 分布が理論分布に一致することが言える.また,実際の棄却領域を規定す るのは分布の裾部であるため,裾部について両分布の比較を行う.分布の裾形 状を示す尖度 α4 は式(3-31)により導出する. μ = ∑ x ⋅ f (x ) (3-30) i ∑ (x − μ ) 4 μ α 4 = 42 = μ2 ⎧ ⋅ f (x ) i ⎫ ⎨∑ ( x − μ ) ⋅ f ( x )⎬ ⎭ ⎩ i (3-31) 2 2 ここで,μは積率,f(x)は確率変数 x の確率密度関数である.実験値・理論値の 尖度は 0.031240 と 0.031237 であり,両者に大きな差異が無いことがわかる.こ のように,同一状態の構造からの応答曲面を比較した場合,応答曲面は同等で あり,F0 の確率分布は応答曲面の自由度とデータ点数に依存する F 分布 F(p, n-2p)に従うことが確認された.今回実験値が F(6,18)に従っているため,以降 F 分布 F(6,18)より F0 の限界水準を求める.今回は一般的によく用いられる有意水 準α=0.01, α=0.05 の両有意水準を利用した.ここで各限界水準は F0.056,18=2.66, F0.016,18=4.02 である.実験値から求められた F0 がこの値を超えた場合に同等性を 棄却し損傷が発生,越えなかった場合に同等性を採択し無損傷と診断する. 3.3.3d 診断精度 ここでは本手法による損傷診断精度の検証のため,3.3.3c 節で求めた仮説棄却 領域を用い,複合材料梁試験片に作成した層間はく離損傷の検知を行い,検定 力 1-β について考察を行った.損傷発生後の F0 は,無損傷状態の試験片から 15 組の測定データを取得し基準応答曲面を作成後,はく離を作成し,その後同一 のセンサーから同様に 15 組のデータを測定し測定応答曲面を作成,この両応答 曲面の同等性検定を行い求めている. まず,はく離発生後の F0 の確率分布導出を行う.はく離は,その寸法は連続 量であるが,確率分布を作成するには同一の属性を持った多数のデータが必要 79 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 である.そのためここでは,2mm 以上のはく離を対象に 2mm ごとに水準化して 4 つに分類し,確率分布の導出を行った.寸法の水準は,はく離無しを含め 5 水 準である.各寸法領域における試行回数を表 3.4 に示す.図 3.18(a)~(d)に各寸 法水準における F0 の確率分布を示す.図中には参考として無損傷時の F 分布 F(6,18)と有意水準 1%での限界水準 F0.016,18 を併せて示す. はく離の発生により F の確率分布は無損傷時の F 分布 F(6,18)から明確に変化 しており,高い確率で F0 が限界水準を超えていることがわかる.表 3.5 に各は く離水準における F0 の平均値を示す.表に見られるように,はく離寸法の増大, すなわち構造状態の変化の増大に伴い F0 値のピークは 1.3 から 206.8 へと徐々に 増大している.このことから仮説棄却領域を設定することにより,限界水準か らその変動を検知できること,損傷量の増大ともない,検定力が上昇すると言 える.有意水準αの検定力に与える影響を調査するため,有意水準ごとの各水 準のはく離の検定力を求めた.結果を図 3.19 に示す.実験の結果,有意水準 1% で 6mm 以上のはく離で 80%以上,5%で 4mm 以上で 85%以上と両有意水準とも に本手法を用いることで高い検定力で損傷診断を行うことができることが確認 された.また,有意水準に関して 1%,5%ともに高い検定力を得られていること から,第1種の過誤を低減するよう有意水準 1%で検定を行うべきであると言え る. 3.3.4 結 言 センサーデータ間の応答曲面の差異判定に統計的検定手法である F 検定を利 用することで,損傷時の学習データを必要とせず,無損傷時のデータと現在の 測定値のみから損傷診断を行う手法の提案を行った.本手法を用いて表面ひず みデータをパラメータとした複合材料梁の層間はく離診断の実験的検証を行い, その有効性を実験的に実証した.その結果,得られた結論は以下のようになる. (1) 統計的診断手法である F 値による検定を用いてセンサーデータ間の応答曲 面の差異判定を行うことで,健全状態の測定データと現在値のみから構造 の損傷診断が行えることを示した. 80 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 (2) 本手法では検定時の仮説棄却領域を,有意水準と応答曲面モデルの定数の みから決定する.そのため,本手法では損傷時の構造状態を考慮すること なく,損傷判定を行うことが可能であることを示した. (3) 損傷量の増大に従い F 検定値が一様に上昇するため,閾値を用いることで 本手法による損傷検知が可能であることを示した. (4) 健全状態での F 分布に対し有意水準 1%の F 検定を行うことで,高い精度で 複合材料梁の層間はく離検出を行うことができることを確認した. 81 第3章 3.4 結 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 言 本章では,構造に添付したセンサーの測定データから応答曲面法を用いたシ ステム同定を行い,同定されたシステムの変動を統計的検定手法である F 検 定で検知することで,損傷時の学習データを必要とせず,無損傷時のデータ と現在の測定値のみから損傷検知を行う手法の提案を行った.また,本手法 を用いて,固有振動数をパラメータとした金属配管の曲げ損傷検知,表面ひ ずみをパラメータとした複合材料梁の層間はく離検知の実験的検証を行い, その有効性を実験的に証明した.その結果得られた結果は以下のようになる. (1) 入出力パラメータから現在構造システムを近似した応答曲面を統計的診断 手法である F 検定で差異判定し,システム自体の変動を統計的差異検定で 検知することで,健全状態の測定データと現在の測定データのみから構造 の損傷検知が行えることを示した. (2) 本手法では検定時の損傷無損傷の閾値を,有意水準と応答曲面モデルのみ から決定する.そのため,本手法では損傷時の構造状態を考慮することな く,損傷検知を行うことが可能であることを示した. (3) 損傷量の増大に従い,F 検定値が一様に上昇するため,閾値を用いること で本手法で損傷検知が可能であることを示した. 82 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 参考文献 (1) A.E.Aktan, A.J.Heimicki and V.J.Hunt, Smart Materials and Structures, 7(1998), 674-692 (2) J.P.Darryii, A.L.Philip,Smart Materials and Structures, 7(1998), 627-636 (3) 影山和郎・金原勲・鈴木敏夫・大澤勇・村山英晶・高橋淳,日本造船学会論 文集,182(1997),579-587 (4) R.L.Idriss, M.B.Kodindouma, A.D.Kersey and M.A.Davis, Smart Materials and Structures, 7(1998), 209-216 (5) 邊吾一・山口達也・福田行義・青木義男・K.C.Park,日本機械学会論文集 (A編),66-644(2000),721-726 (6) K.C.Park and C.A.Felippa, Journal of Applied Mechanics, 65-1(1998), 242-249. (7) 邉吾一・西恭一・黄一正・藤川由美,日本機械学会論文集(A編),62-602(1996), 2338-2343 (8) A.C.Okafor, K.Chandrashekhara and Y.P.Jiang, Smart materials and structures, 5(1996), 338-347 (9) R.H.Myers, D.C.Montgomery "Response Surface Methodology: Process and Product Optimization Using Designed Experiments", John Wiley & Sons. Inc.,(1995) (10) 例えば,武藤槇介,統計解析ハンドブック,(1995),朝倉書店,128-133 (11) 例えば,佐和隆光,回帰分析,(1979),朝倉出版 (12) SmartLink,Keithley Co,http://www.keithley.com (13) C.P.Ratclifee, Journal of Sound and Vibration, 204(1997),505-517 83 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 構造物 出力x1 応答曲面を用いシステムを同定 xi = f (x1 , x2 ,L xi −1 ) ・ ・・ 出力x2 出力xi (a)システム同定 損傷発生後 損傷発生前 同定されたシステム 同一 変化 同定されたシステム 同定されたシステム (b)損傷発生に起因する同定システム変動の検知 Fig.3.1 損傷検知法概要 84 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 measured data ε1 , ε 2 , ε 3 L parameter sampling ω1 , ω 2 , ω 3 construct Response Surface ω1 = β 0 + β1ω 2 + β 2ω 3 + L Standard Response Surface Fig.3.2 学習モード手順 measured data ε1 , ε 2 , ε 3 L parameter sampling ω1 , ω 2 , ω 3 construct Monitored Response Surface ω1 = β 0 + β1ω 2 + β 2ω 3 + L F-test between Standard Response Surface W ≥1 Damaged No damage W <1 W damage detection low W :Normalized F-value from Standard Response Surface damage detection Fig.3.3 モニタリングモード手順 85 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 Sensor Structure Actuator Smart Link Ethernet Field CPU Fig.3.4 システム構成 Φ0.010 Impact Gage 1/6L unit[m] L=0.8 Fig.3.5 試験片形状 23 度 θ 95.36 mm d Fig.3.6 損傷モデル 86 Power Spectrum currency [log_DB] 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 0 250 Frequency[Hz] 500 750 500 750 Power Spectrum currency [log_DB] (a)損傷発生前 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 0 250 Frequency[Hz] (b)損傷発生後 Fig.3.7 損傷発生前後の周波数スペクトル変化 87 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 Table 3.1 無損傷時の応答曲面の係数有意性検定結果 R2adjust SRS MRS 0.916 0.838 ω2 3 3.72 t-test Value ω3 ω2 2 ω2ω3 -1.21 -3.81 2.26 -2.48 - -3.71 ω32 -1.15 3.19 Table 3.2 損傷発生時の応答曲面の係数有意性検定結果 R2adjust Damaged 0.750 ω2 -2.62 t-test Value ω3 ω 22 ω 2ω 3 1.32 - -1.32 88 ω 32 -1.02 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 239 No damage Damaged ω2[Hz] 238 237 236 235 84 85 86 87 88 89 90 ω1[Hz] Fig.3.8 損傷発生によるモード1-モード2周波数変化 465 No damage Damaged ω3[Hz] 464 463 462 461 460 84 85 86 87 88 89 90 ω1[Hz] Fig.3.9 損傷発生によるモード1-モード3周波数変化 89 第3章 50% 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 46.2% No damage 40.4% Damaged 36.2% 30.8% 23.1% 25% 19.1% 3.2% 0.0% 0% 0~0.33 1.1% 0.33~0.67 0.67~1.0 0.0% 0.0% 1.0~1.5 1.5~3.0 W Fig.3.10 損傷発生前後の W 分布 90 0.0% 3.0~ 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 256 No damage Damaged ω2[Hz] 252 248 244 240 236 82 83 84 85 86 ω1[Hz] Fig.3.11 d/L=0.5,θ=3.3,3.9[deg]におけるモード 1-モード2周波数 467 No damage Damaged ω3[Hz] 466 465 464 463 462 461 82 83 84 85 86 ω1[Hz] Fig.3.12 d/L=0.5,θ=3.3,3.9[deg]におけるモード 1-モード 3 周波数 91 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 Table 3.3 d/L=0.5,θ=3.3,3.9[deg]における W 値 Data A Data B ○1.16 ●0.55 ○1.46 MRS from 28Data MRS from 56Data 92 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 ①Obtain Initial Data ②Create Initial Response Surface Output1 = f(Outputi ) i=2,…,k Output Initial Response surface End of Training mode (a) 学 習 モ ー ド 手 順 ①Measurement of Data ②Create Recreated Response Surface Output’1 = f(Output’i ) i=2,…,k Initial Response surface ③Test of similarity accepted rejected Detect Damage (b) モ ニ タ リ ン グ モ ー ド 手 順 Fig.3.13 損 傷 検 知 手 順 93 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 180 30 30 20 90o 15 7.5 30 t=1.4 0o Gage3 Gage2 Gage1 (2mm) (10 mm) (2mm) Unit: mm Fig.3.14 試 験 片 形 状 Load composite beam delamination Data Logger Strain gage Fig.3.15 シ ス テ ム 構 成 94 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 Matrix cracking gage 0ºply 90ºply 0ºply delamination size a Delamination Fig.3.16 損 傷 ( 層 間 は く 離 ) 形 状 95 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 1 F(6,18) Intact Probability 0.75 F0.05 6,18 0.5 F0.016,18 0.25 0 0 2 4 F Fig.3.17 無損傷時の F 分布 96 6 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 Table 3.4 各 損 傷 水 準 の 試 行 回 数 Delamination length[mm] Number of times of experiment Intact 2000 2<a≦4 180 4<a≦6 180 6<a≦8 144 8<a≦10 108 Table 3.5 各 損 傷 水 準 の 平 均 F 値 Delamination length[mm] Intact 2<a≦4 4<a≦6 6<a≦8 8<a≦10 Average of F 0 1.3 11.0 49.9 84.5 206.8 97 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 0.2 Probability F0.016,18 F(6,18) 2<a≦4 0.1 0 0 20 40 F 80 60 (a)2<a≦4 0.05 F(6,18) 4<a≦6 Probability F0.016,18 0.025 0 0 50 100 F 150 200 (b)4<a≦6 Fig.3.18 各損傷水準のF分布 98 250 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 0.02 F(6,18) 6<a≦8 Probability F0.016,18 0.01 0 0 100 200 300 400 500 F (c)6<a≦8 0.01 F(6,18) 8<a≦10 Probability F0.016,18 0.005 0 0 200 400 F 600 (d)8<a≦10 Fig.3.18 各損傷水準のF分布 99 800 第3章 構造損傷検知への統計的診断手法の適用 120 98.3 100 α=0.01 95.8 100 96.7 98.3 99.3 α=0.05 100 100 85.6 77.8 Power[%] 80 60 40 20 No0Data 0 0 intact 0<a≦2 2<a≦4 4<a≦6 Delamination Length[mm] Fig.3.19 損 傷 診 断 精 度 100 6<a≦8 8<a≦10 第4章 結 論 第4章 結 論 本研究では,構造の損傷と損傷診断パラメータの物理的考察が不要なノンパ ラメトリック損傷診断法として,応答曲面法と統計検定手法を用いた損傷同定 法・損傷検知法を提案し,数値シミュレーションと実験によりその有効性の検 証を行った.その結果得られた結論は各章の結言に示したが,ここではそれら を総括して述べる. 第1章「緒論」では,知的構造ヘルスモニタリング,ならびに知的構造ヘル スモニタリングにおける損傷診断手法の研究背景について述べ,従来から広く 行われているノンパラメトリック損傷同定の難点と,あらたに構造モデルや, 破壊的実験を伴わない損傷検知手法の重要性について明らかにし,本研究の目 的と意義を述べた. 第2章「構造損傷同定への統計的診断手法の適用」では,構造の損傷状態に 関する考察が不要なノンパラメトリックな損傷同定法として,応答曲面法を用 いた回帰分析による損傷同定法、マハラノビス距離を用いた判別分析による損 傷同定法の検討を行い,前者の有効性の検証・後者の提案と有効性の検証を行 った.有効性の検証は電気抵抗変化法を用いた CFRP 積層板の層間はく離同定問 題に両手法を適用することで行っている. 応答曲面法による損傷同定は連続量への同定,マハラノビス距離による損傷 同定は離散量への同定,との違いはあるものの検証の結果,これら二つの統計 的損傷同定手法が高い同定精度を示すことを明らかにした. 第3節「構造損傷検知への統計的診断手法の適用」では,損傷検知に特化す ることで,応答曲面法と統計的検定を用いた損傷時の学習データを必要としな 101 第4章 結 論 い損傷検知手法の提案を行った.また,固有振動数をパラメータとした金属配 管の曲げ損傷検知,表面ひずみをパラメータとした複合材料梁の層間はく離検 知の実験的検証を行い,本手法の有効性を実験的に明らかにした. その結果,入出力パラメータから応答曲面を用いて同定したシステムを F 検 定で差異判定し,システム自体の変動を統計的差異検定で検知することで,健 全状態の測定データと現在の測定データのみから構造の損傷検知が行えること を示した. また,本手法では検定時の損傷無損傷の閾値を,有意水準と応答曲面モデル のみから決定する.そのため,本手法では損傷時の構造状態を考慮することな く,損傷検知を行うことが可能であることを示した.(図 4.2) 以上のことから,応答曲面法を用いた損傷同定法は各パラメータの有意性が 統計的に診断可能であるため,事前にパラメータの調整を行う必要が無く,か つ回帰モデルの修正が容易であり回帰モデルの導出が容易であることを示した. 続いて,マハラノビス距離を用いた損傷同定法は回帰モデルの設定自体が不要 であり測定データの水準化と各データの各水準へのマハラノビス距離のみから 損傷同定が可能であり,データの水準化のみで簡単に損傷同定が可能であるこ とを示し,離散量への同定では測定データの水準下のみの手順で損傷同定が行 えるマハラノビス距離を用いた損傷同定法が,連続量への同定では応答曲面法 を用いた損傷同定法が損傷診断法として有効であることを示し,両手法による 統計データ解析を用いた損傷同定法が構造ヘルスモニタリングにおける損傷同 定法に有効であることを示した. また,応答曲面の統計的比較による損傷検知法では,応答曲面法を用いたシ ステムの同定を行うため構造のモデル化が不要であり,かつ損傷無損傷の閾値 が応答曲面モデルのみから決定できることから破壊的実験が不要であることを 示し,モデル化が困難かつ破壊的実験が不可能な既存構造物の構造ヘルスモニ タリングに,本手法による統計的診断手法を用いた損傷検知法が有効であるこ とを明らかにした.(図 4.3) 102 第4章 結 論 損傷同定 パラメトリック法 ノンパラメトリック法 システム同定を用いる手法 (2章2節) システム同定を用いない手法 (2章3節) マハラノビス距離を用いた判別 分析による損傷同定法を提案し, データの水準化のみで離散水 準への損傷同定を容易に行う 事ができることを明らかにした 応答曲面法を用いた回帰分析 による損傷同定法とニューラル ネットワークを用いた損傷同定 法との比較検討を行い,両者の 利点・欠点を示し,応答曲面法 を用いた回帰分析が損傷同定 法として有効であることを明ら かにした Fig.4.1 損傷同定手法(第2章) 損傷検知 パラメトリック法 ノンパラメトリック法 システム比較による損傷検知 (3章2節:損傷検知手法の原理と検証) (3章3節:システムの変化量に関する考察) 応答曲面法で同定したシステム自体を統計的検定手法で 比較することにより,構造のモデル化・破壊的実験が不要 な損傷検知システムの提案を行いその有効性を明らかに した. Fig.4.2 損傷検知手法(第3章) 103 第4章 結 論 損傷診断 損傷同定 損傷検知 損傷により発生した症状から,損 傷箇所・程度など構造状態の詳細 を推定する 観測量から,自動的に損傷を発生 を検知する [目的] ○構造の余寿命評価 ○損傷発生構造に対する対応 (修復,継続使用等)の決定 [目的] ○損傷発生による2次災害の発生 防止 ○定期検査コストの低減 ○損傷報告の迅速化 [要求] ○構造のモデル化を必要としない ○逆問題解析が容易なノンパラメ トリック手法の開発 [要求] ○構造のモデル化を必要としない ○構造の破壊的実験を伴わない [連続データ]応答曲面法を用いた回帰分析 応答曲面の統計的比較 [離散データ]マハラノビス距離を用いた判別分析 Fig.4.3 損傷診断手法 104 各章に対応する投稿論文 第2章2節 「逆問題を用いた損傷同定」 岩崎篤・轟章,電気抵抗変化を用いた CFRP 層間はく離検出の診断手法の検 討(応答曲面とニューラルネットワークの比較),日本複合材料学会誌, 27-4(2001),194-200 第2章3節 「判別分析を用いた損傷同定」 岩崎篤・轟章・島村佳伸・小林英男,マハラノビス距離を用いた判別分析 による損傷同定法(平板直交積層板の層間はく離検出法への適用),日本機 械学会論文集(A編),67-659(2001),1242-1247 岩崎篤・轟章・島村佳伸・小林英男,統計的手法を用いた CFRP 層間はく離 診断手法の比較検討,2001年度年次大会講演論文集 Vol.V,日本機械 学会,(2001), 361-362(,講演論文(8)) 第3章2節 「提案手法の原理およびシステム有効性の実験的検証」 岩崎篤・轟章・島村佳伸・小林英男,自己学習型損傷検出知的構造のため の統計的診断手法,日本機械学会論文集(A編),67-656(2001),771-776 第3章3節 「確率分布変数を用いた精度向上」 岩崎篤・轟章・島村佳伸・小林英男,統計的応答変化判定法による学習損 傷データ不要の損傷診断法,日本機械学会論文集(A編),投稿中 105 国際会議録 (1) A.Todoroki, A.Iwasaki, T.Satou and Y.Shimamura, "Strucutral Health Monitoring System via Ethernet LAN with Fiber Optic Strand Type Strain Sensors and Web Camera", Tenth International Conference on Adaptive Structures and Technologies, Edited by Roger Ohayon and Michel Bernadou, Technomic Pub., (2000) ,424-430 (2) A.Todoroki, Y.Shimamura,A.Iwasaki,T.Inada and H.Moriki, "Plug&Monitor System for Smart Detection of Damage of Composite Structures", Proceedings of The 2nd Asian-Australasian Conference on Composite Materials (ACCM2000), (2000), 1047-1052 (3) A.Todoroki and A.Iwasaki, Monitoring for CFRP Plate "Diagnostic using Method Electric for Delamination Resistance Change", Proceedings of the 3rd Japan-France Seminor on Intelligent Materials and Structures, (2000), 122-135 (4) A.Iwasaki, A.Todoroki, Y.Shimamura and H.Kobayashi, "Unsupervised Statistical (Application diagnostic for method for delamination structural detection of damage composite detection beam)", Structural Health Monitoring The demands and Challenges, edited by F.K.Chang, CRC Press, Boca Raton FL, (2001), 1390-1398 (5) A.Iwasaki, A.Todoroki, Y.Shimamura and H.Kobayashi, "Smart Detection of Damage of Composite Structures using Unsupervised Statistical Diagnosis", Proceedings of the Seventh Japan International SAMPE Symposium, (2001), 71-74 106 口頭発表論文 (1) 岩崎・轟・島村・小林,”固有振動数変化を用いた統計的手法による曲げ損 傷 検 出 知 的 構 造 ”, 日 本 機 械 学 会 関 東 支 部 第 6 期 総 会 講 演 会 講 演 論 文 集,000-1,p.7-8(2000) (2) 岩崎・轟・森木・島村,”統計的手法を用いたはく離検出 CFRP 梁の研究”, 日本材料学会第29回 FRP シンポジウム講演論文集,(2000),291-292 (3) 岩崎・轟・島村・小林,”統計的検定法を用いた層間はく離検出 CFRP 梁”, 日本複合材料学会 2000 年度研究発表講演会予講集,(2000),79-80 (4) 岩崎・轟・島村・小林, ”電気ポテンシャル法を用いた CFRP 梁の層間はく離 検出への判別分析の適用”,日本機械学会 2000 年度年次大会講演論文集 Vol.I,00-1,(2000),92-93 (5) 岩崎・轟・島村・小林,”自己学習型統計的損傷検出法を用いた複合材料梁 の層間はく離検出”,平成 12 年度材料力学部門講演会講演論文集,00-19, (2000),89-90 (6) 岩崎・轟・島村・小林,”統計的検定手法による複合材料梁の層間はく離診 断手法”,第 30 回記念 FRP シンポジウム講演論文集, 日本材料学会,(2001), 165-168 (7) 岩崎・轟・島村・小林,”応答曲面法を用いた統計的検定手法による層間は く離診断”,日本複合材料学会 2001 年度研究発表講演会予稿集,日本複合材 料学会,(2001),55-56 (8) 岩崎・轟・島村・小林, ”統計的手法を用いた CFRP 層間はく離診断手法の比 較検討”,2001年度年次大会講演論文集 Vol.V,日本機械学会,(2001), 361-362 107 Appendix A1 2応答曲面の同等性検定 ここでは,統計的診断手法を用いた損傷検知手法における応答曲面同等性検 定の検定統計量F0を導出し,その理論的背景について簡単に説明する. A1.1 A1.1.1 χ2分布・F分布の性質 χ2分布 n個の変数Zi(i=1~n)を相互に独立な標準正規確率変数とする.このとき,次式 によって定義される確率変数Xを自由度nのχ2確率変数と呼び,χ2(n)で表す. 2 2 X = Z1 + Z 2 + L + Z n 2 (A1.1) また,χ2(n)の確率分布を自由度nのχ2分布という. A1.1.2 F 分布 二つの確率変数χ2(n),χ2(m)をそれぞれ独立な自由度nおよびmのχ2確率変数と する.このとき,次式によって定義される確率変数Fを自由度φ1=n,φ2=mのF確 率変数と呼び,F(n,m)で表す. χ 2 (n ) F= n χ (m ) m (A1.2) 2 また,F(n,m)の確率分布を自由度φ1=n,φ2=mのF分布という. A1.2 2応答曲面の同等性検定における検定統計量F0の導出と性質 F検定を用いた2応答曲面の同等性検定は,一般線形制約の仮説検定と誤差分 散不偏推定量から導出される二つの独立なχ2確率変数を用いて行われる.以下に その手順を示す. A1.2.1 一般線形制約の仮説検定を用いたχ2確率変数の導出 次式で示される二つの応答曲面の同等性検定を行う場合を考える. y 1 = X 1β1 + ε1 (A1.3) y 2 = X 2β 2 + ε 2 (A1.4) ここで,各応答曲面の観測値の個数はn1,n2,自由度をpとする.ただし,応答 A1 Appendix 曲面は 2.2.5 節に示される手法による線形化を行っている. 誤差項ε1,ε2は互いに独立であり,同じ分散を持つと仮定する. ε1~N (0, σ 2 I ) (A1.5) ε 2~N (0, σ 2 I ) (A1.6) 式(A1.3)(A1.4)に示される 2 式の同等性検定を行う場合,式(A1.7)に示される2式 の回帰係数行列は同等であるとした帰無仮説H0を式(A1.8)に示される対立仮説 H1に対して検定することになる. H 0 : β1 = β 2 (A1.7) H 1 : β1 ≠ β 2 (A1.8) ここで2つの応答曲面をまとめて1つの行列として表記すると次のようになる. y = Xβ + ε (A1.9) ε~N (0, σ 2 I ) (A1.10) ただし,式の各ベクトル成分は次式で定義される. ⎡y ⎤ ⎡X y = ⎢ 1⎥ ,X = ⎢ 1 ⎣y 2 ⎦ ⎣0 0⎤ ⎡ β1 ⎤ ⎡ ε1 ⎤ , , = = β ε ⎢β ⎥ ⎢ε ⎥ X 2 ⎥⎦ ⎣ 2⎦ ⎣ 2⎦ (A1.11) ここで帰無仮説H0はH’=(Ip, -Ip),ξ0=0 とおくことにより次式に示される式(A1.9) に対する線形制約仮説H2へと置き換えられる. H 2 : H′β(= ξ ) = ξ 0 (A1.12) このように2応答曲面の同等性仮説H0検定は,式(A1.9)の回帰モデルの線形制約 仮説H2へと置き換えられる. 続いてH2の仮説検定を行う.βの最小 2 乗推定量 βˆ は次式で定義される. −1 −1 −1 (A1.13) βˆ = (X ′X ) X ′y = (X ′X ) X ′(Xβ + ε ) = β + (X ′X ) X ′ε また, x~N (μ , ζ ) の際, y = Cx + λ の分布は N (Cμ + λ , CζC ' ) に従うため,式 (A1.10),(A1.13)から βˆ の分布は次式で定義される. ( ) −1 βˆ ~N β, σ 2 (X ′X ) また,ξ の推定量 ξˆ の分布は次式で定義される. ξˆ = H′βˆ ~N (ξ, σ 2 D ) (A1.14) (A1.15) (A1.16) D = H′(X ′X ) H ここで,ξˆ が平均ξ,分散σ2Dの正規分布に従うため,次式に示される標準正規確 −1 率変数に対する 2 次形式は自由度pのχ2分布に従い,一つ目のχ2確率変数ν1が導出 される. A2 Appendix ′ ( ξˆ − ξ ) D (ξˆ − ξ ) = ~χ −1 v1 A1.2.2 σ2 2 ( p) (A1.17) 誤差分散不偏推定量を用いたχ2確率変数の導出 続いて,応答曲面の残差平方和SSEから,誤差分散σ2の不偏推定量s2の導出を 行う.応答曲面法において,残差平方和は次式で与えられる. ′ −1 SSE = y − Xβˆ y − Xβˆ = y I − X (X' X ) X' y = (β' X'+ ε')PX (Xβ + ε) ( ) [ )( [ PX = I − X (X' X ) X ' −1 ] ] (A1.18) (A1.19) ここでPXがべき等行列であることからSSEは次式に変形される. SSE = ε' PX ε (A1.20) ここで,εが平均 0,分散σ2Iの正規分布に従うため,次式は標準正規確率変数に 対する2次形式であり,rankPX(=n-2p)の自由度を持つχ2分布に従う.ここで, n=n1+n2である. v2 = E (SSE ) σ 2 = E (ε ' PX ε ) σ 2 ~χ 2 (n − 2 p ) (A1.21) また,その残差平方和の期待値は次式で定義される. E (SSE ) = E (ε' PX ε ) = trPXσ 2 I (A1.22) = σ 2 trPX = σ 2 ( n − 2 p ) すなわち式(A1.22)から,分散σ2の不偏推定量s2は次式で与えられる. s2 = E (SSE ) n − 2p (A1.23) 式(A1.21),(A1.23)からχ2分布に従うもう一つの変数が導出される. v2 = A1.2.3 s 2 (n − 2 p ) σ2 ~χ 2 (n − 2 p ) (A1.24) 検定統計量F0 A1.2.1 節,A1.2.2 節に示されたようにν1とν2は互いに独立なχ2変数となり,式 A3 Appendix (A1.2)から次式で示される両者を各々の自由度で調整した比は自由度(p,n-2p)の F分布に従う. ( ) ( v1 p ξˆ − ξ ' D −1 ξˆ − ξ = F0 = v2 n − 2 p ps 2 ) (A1.25) この様にF0は帰無仮説H2すなわち式(A1.3)(A1.4)に示される二つの応答曲面が同 等であるという仮説H0の元自由度(p, n-2p)のF分布に従う事がわかる. 続いて,F0の物理的意味について考える.βに関する線形制約(A1.12)の元で, 制約を満たす任意のβは次式で表される. β = β 0 + Bθ (A1.26) ここで,β0は式(A1.12)の特殊解であり,BはH’β=0 の解空間の基底である.その ため式(A1.9)の回帰モデルは,次式で書き表される. y = Xβ + ε = X (β 0 + Bθ ) + ε (A1.27) すなわち,線形制約付きの最小二乗推定はz=y-Xβ0とおけば次式の最小二乗推定 と等価となる. z = XBθ + ε (A1.28) 続いて,線形制約下の最小二乗推定の残差と無制約下における最小二乗推定の 残差の差を導出する.まず,制約下,無制約下の各々の残差平方和SSE0,SSEは 次式で示される. [ ] SSE0 = ε' I − XB(B' X' XB ) B' X' ε (A1.29) SSE = ε' I − X (X' X ) X' ε (A1.30) [ −1 ] −1 そのため残差の差は次式となる. [ ] SSE0 − SSE = ε' X (X' X ) − B(B' X' XB ) B' X' ε −1 −1 (A1.31) ここで,H’B=0 のため B によらず次の恒等式が成立する. ( B(B' X' XB ) B'+ (X' X ) H H' (X' X ) H −1 −1 −1 ) −1 H' (X' X ) = (X' X ) −1 −1 (A1.32) そのため,式(A1.31)は次式へと変形される. SSE0 − SSE = ε' (X ' ) HD −1 H' X −1ε −1 (A1.33) また,線形制約下における回帰係数行列をβRとすると次式が成立する. ( ) H' X −1ε = H' βˆ R − β = ξˆ − ξ 0 (A1.34) すなわち式(A1.33),(A1.34)から次式が成立する. (ξˆ − ξ )' D (ξˆ − ξ ) = SSE −1 0 − SSE (A1.35) A4 Appendix このため,式(A1.25)の分子は制約下,無制約下における残差平方和の差である ことがわかる. また,式(A1.23)を式(A1.25)の分母に代入することで,検定量F0は次式のよう に線形制約下,無制約下における残差平方和から簡単に示される. (ξˆ − ξ )' D (ξˆ − ξ ) = SSE = −1 F0 ps 2 − SSE n − 2 p ⋅ SSE p 0 (A1.36) この様に,式(A1.36)に従い導出した統計量F0は(A1.5)(A1.6)における誤差が独立 かつ正規分布に従うという仮説下においてp,n-2pの自由度を持つF分布に従うと 言うことがわかる. A5 謝辞 本論文「統計的損傷診断法を用いた知的構造ヘルスモニタリングに関する研 究」の完成に当たり,完成に寄与してくださった方々にここで心からお礼を申 し上げます. 東京工業大学機械物理工学専攻 小林英男教授,中村春夫教授には,本研究 の遂行に当たり,終始的確なご助言とご指導を賜りました.ここに謹んで厚く 感謝の意を表します. 機械物理工学専攻 轟章助教授には,研究室に所属以来研究に関する多岐に わたるご指導・ご助言とを賜り,これから研究者として生きていく上での目標・ 指針とそのための知識とを与えていただきました.ここに深甚なる感謝の意を 表しますと共に心から厚くお礼申し上げます. 機械物理工学専攻遠藤満教授,萩原一郎教授には,本論文に関し有益なるご 討論とご助言を賜りました.心から感謝の意を表します. また,機械物理工学専攻 小出孝道技官,構造システム科学講座 島村佳伸 助手には,暖かい助言とご指導を賜りました.ここに深くお礼を申し上げます. 最後に本研究にご協力いただきました小林・轟研究室ならびに中村研究室の 卒業生・在学生諸氏に厚く感謝の意を表します. 2002 年 2 月 18 日 岩崎篤
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