東京農業大学先端研究シンポジウム 2008年10月3日(金) 植物の力を引き出す ー未知の機能の解明・利用と新しい機能の付与を目指してー 「コメデンプンの改変」 秋田県立大学・生物資源科学部 植物分子生理グループ 藤田 直子 デンプン さまざまな植物に含まれる バナナ 穀類 コムギ イネ 果物 トウモロコシ ジャガイモ サツマイモ いも類 豆類 多岐にわたって利用されている 酒類 菓子類 パン、パスタ 甘味料,オリゴ糖、修飾デンプン などの原料 段ボール 糊 コピー用紙 6 CH2OH H C O H 4C H H C1 OH HO C C OH 3 H OH のみからなる多糖 グ ルコ ース ( ブド ウ 糖) アミロペクチン ・α-1,4グルコシド結合 ・α-1,6グルコシド結合 デンプン 70-85% アミロース ・α-1,4グルコシド結合 ・・・・・ CH2OH O O CH 2OH O ・・・・・ O α-1,4結合 CH2OH O CH2OH O O O CH2OH O CH2OH O O CH2OH O CH2OH O O CH 2OH O CH2OH O O O α-1,4結合 アミロペクチン、グリコーゲン Oα-1,6結合 CH2 O O CH 2OH O 直鎖+枝分かれ α-1,4 結合 CH2OH O CH 2OH O α-1,4結合 CH2OH O O α-1,4 結合 α-1,4 結合 α-1,4結合 α-1,4結合 ・・・・・ CH2OH O α-1,4結合 α-1,4結合 ・・・・・ CH2OH O 15-30% O α-1,4結合 CH 2OH O CH2OH O O α-1,4結合 CH2OH O CH2OH O O O O O O β-1,4結合 β-1,4結合 β-1,4結合 β-1,4 結合 β-1,4結合 アミロース 直鎖 セルロース アミロペクチンの構造 A アミロースの構造 C B D A; Nikuni (1969) B: French (1972) C; Hizukuri (1986) D; Robin et al., (1974) グリコーゲンの構造 アミロペクチン特有の クラスター構造 Gallant et al., (1997) Carbohydrate Polymers 32: 177-191; Smith et al., (1997) Ann. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 48: 67-87 デンプンの特徴 ①水に溶けない ②水と共に熱すると糊化する 糊化 生澱粉 放置 熱処理 不可逆 放置 老化 デンプンのでき方 イネ アミロペクチン ジャガイモ 種子植物 シダ シダ植物 コケ コケ植物 クロレラ 緑藻類 多い 複雑 ワカメ 褐藻類 海苔 酵素の種類 多糖の構造 紅藻類 植物の進化 ラン藻 ラン藻類 原生生物 少ない グリコーゲン 単純 イネの澱粉合成に関わる酵素 基質供給酵素(AGPase) LSUが4種類 SSUが2種類 枝作り酵素(BE) アミロース ? 直鎖伸長酵素(SS) SSI, SSIIa, SSIIb, SSIIc SSIIIa, SSIIIb, SSIVa, SSVIb GBSSI, GBSSII アミロペクチン BEI, BEIIa, BEIIb たくさんの 酵素が関与 枝切り酵素(DBE) ISA1, ISA2, ISA3 PUL デンプン生合成メカニズムの解明には・・・ 基質供給酵素(AGPase) LSUが4種類 SSUが2種類 アミロース アミロペクチン ? 枝作り酵素(BE) BEI, BEIIa, BEIIb たくさんの 酵素が関与 直鎖伸長酵素(SS) SSI, SSIIa, SSIIb, SSIIc SSIIIa, SSIIIb, SSIVa, SSVIb GBSSI, GBSSII 枝切り酵素(DBE) ISA1, ISA2, ISA3 PUL 各アイソザイムの機能,役割の解明が必要 変異体の利用 組換体の作出 単離酵素の 生化学的解析 In vivo実験 In vitro実験 さまざまなデンプン変異体 ・従来法(γ線、化学突然変異源処理等) 形態で選抜→どの遺伝子が破壊されているか? どの酵素がなくなっているか? waxy ae 野生型 sug-1 ISA1の機能 ・sug-1変異体はデンプンではないものを種子に貯める No rm al s u g ary-1 EM-5 s u g ary-1 EM-9 1 4 sug-1 Norm al ・アミロペクチン構造が変わっている 野生型 sug ary-1 sug ary-1 EM-5 EM-4 1 ISA PUL 2 5 10 15 2 5 10 15 2 5 10 15 ・・サンプルアプライ量(μl) ・イソアミラーゼ(ISA)活性バンドが無くなっている ・糊化開始温度が野生型に比べて10℃以上低い ・人工的にアンチセンス法でISA1遺伝子を抑制すると短鎖が増える ・変異体にISA1遺伝子を形質転換すると,形質が戻る。 Nakamura et al., (1997) Plant J. 12: 147-153 Kubo et al., (1999) Plant Physiol. 121: 399-409 Fujita et al., (2003) Plant Cell Physiol. 44: 607-618 Kubo et al., (2005) Plant Physiol. 137: 43-56 BEIIbの機能 amylose-extender (ae)変異体の性質 ・糊化しにくいデンプン ・糊化開始温度が野生型に比べて10℃以上高い ・アミロペクチン構造が変わっている ・BEIIb活性バンドが無くなっている ・変異体にBEIIb遺伝子を形質転換すると, BEIIb発現量に従って,アミロペクチン構造が 変化し,糊化温度も変化 Nishi et al., (2001) Plant Physiol. 127: 459-472 Tanaka et al., (2004) Plant Biotech J. 2: 507-516 ae変異体 野生型 形態に現れない変異体 どれが変異体? ・逆遺伝学的法(遺伝子タギング法) 特定の遺伝子が破壊→どんな変化? 特徴:葉身DNAからPCR法で選抜 残存酵素活性が異なるものが複数選抜できる 形態に変化がない変異体が選抜できる トランスポゾンタギング法 Tos17 Tos17 複製 Tos17 Tos17 カルス培養 転移 Tos17 遺伝子発現が阻害される 酵素ができない イネSSアイソザイム遺伝子の系統樹 イネ登熟胚乳の可溶性画分 S S IVb G BS S I *waxy G BS S II SSIIIa S S IVa G BSS S S IV 20-30% Fujita et al., (2006) Plant Physiol. 140: 1070-1084 SSI SSI (D16202) SSI 60%∼ S S III S S II S SIIIb S S IIc 0.1 SSIIIa (SSIII-2, AY100469) Fujita et al., (2007) Plant Physiol. 144: 2009-2023 S S IIb S S IIa *Japonica rice Nakamura et al., (2005) Plant Mol. Biol. 58: 213-227 Native-PAGE/SS activity staining 0.8% Oyster glycogen SSI変異体 T2R T1R T 1 F T2 F OsSSI gene i2-1 T 1 F T2 F T 1 F T2 F ATG TATA e7 i4 TGA i2-2 E1 E2 E4 1F 2F E6 3F E11 E15 2R 6F 1kb 5R 4R i2-1 i2-2 i4 e7 +/ + -/ - +/ + -/ - +/ + -/ - +/ + -/ - Nip i2-1 i2-2 +/ + -/ - +/ + -/ - i4 +/ + -/ - e7 Nip +/ + -/ - ( k Da) 23.13 23.13 9.42 9.42 6.56 4.36 6.56 4.36 2.32 2.03 2.32 2.03 1.06 1.06 0.77 0.77 0.62 0.35 0.62 0.35 T 1R, T 2R/ 1F, 2F T1 F, T2 F/ 1 R, 2 R 1 F, 2 F/ 4 R, 5 R 3F, 6F/ 1R, 2R 1R SSI変異体系統のSS活性 (Native-PAGE/SS activity staining) e7 + /+ 8 4 2 i2-1 -/- 1 0.5 8 (μl) + /+ 8 4 2 i2-2 -/- 1 0.5 8 + /+ 8 4 2 i4-1 -/- 1 0.5 8 + /+ -/8 4 2 1 0.5 8 SS IIIa S SI 0(ゼロ) 1/6 1/5 1/4 0=e7< i2-1 < i2-2 <i4 < <Wild-type SSI変異体の種子の形態、重量 ・SSI活性を完全に欠失している系統ですら,種子形態,重量は野生型と 変わらなかった。 日本晴 種子重量( mg ) +/+ 系統 日本晴 e7 +/+ e7 -/- a -/- 21.9±0.5 ー i2-1 22.8±0.3 25.0±0.4 i2-2 18.7±0.3 i4-1 19.9±0.3 19.0±0.2 e7 21.7±0.4 22.8±0.4 b 18.7±0.3 * a n=50, b n=10, それ以外はn=20 Δ アミロペクチンの鎖長分布解析 SSI変異体の胚乳アミロペクチンの鎖長分布 (変異体からコントロールを引いた差分) ・全てのSSI変異体系統で同様の変化を示した→この変化はSSI欠失の影響! ・SSI残存活性が少ないものほど,激しい変化を示した。 0.8 6 ΔMolar (%) 0.4 17 18 e7 i2-1 i2-2 i4-1 7 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 DP -0.4 -0.8 -1.2 8 12 9 10 SSI残存活性: 0=e7< i2-1 < i2-2 <i4 < <野生型 60 アミロペクチン鎖長分布解析の解釈 ・SSIはアミロペクチンの非還元末端からDP6-7の鎖をDP8-12に伸長する (●部分) アミロペクチン構造の一部を示す アモルファスラメラ クリスタルラメラ DP8 -1 2 DP6 -7 .. .. . .. 他のSSアイソザイムによる伸長 SSIによる伸長 A鎖の分岐点 A鎖 ....... B1 鎖 DP6 -7 SSIによる伸長 他のSSアイソザイムによる伸長 SSIIIa変異体 Native-PAGE/SS活性染色 日本晴 8 4 SSIIIa変異体 e1-/8 4 (μl) SSIIIa ・SSIIIa遺伝子のエキソン1にTos17が挿入 された変異体が得られた。 ・Native-PAGE/SS活性染色により,SSIIIa バンドが完全に欠失していた。 ・SSI活性バンドが野生型と比べて強くなっ ていた。 SSI Oyster glycogen gel 0.5 M Citrate SSIIIa変異体の種子形態,重量およびデンプン粒 の形態 ・SSIIIa変異体種子は,心白であった。 ・デンプン粒は,野生型より小さく,丸かった。 1.種子形態、重量 日本晴 系統 SSIIIa変異体e1-/- 玄米重量 ( m g) 日本晴 21. 6±0. 3 ( 100) e 1-/- 20. 7±0. 2 ( 95. 8) n=20 2.種子断片のSEM像 日本晴 SSIIIa変異体e1-/- SSIIIa変異体の胚乳アミロペクチンの鎖長分布 (変異体からコントロールを引いた差分) ・異なる登熟ステージで,全て同じパターンを示した。 ・DP≦20の短鎖に変化が見られた。 ・野生型と比べてDP40付近の減少が顕著であった。 1.5 12 DAF7 ΔMolar (%) 1 DAF16 0.5 DAF25 Mature 21 42 0 -0.5 5 10 15 20 18 25 30 35 40 45 50 DP -1 -1.5 8 短鎖領域の変化 長鎖領域の変化 55 60 65 70 枝切り後のデンプンおよびアミロペクチンのゲルろ過 8 650 7 日本晴 6 4 II I 2 野生型と比べて・・・ 450 III 400 1 7 550 500 3 0 SSIIIa変異体デンプンは 350 e1-/- starch amylopectin starch-λmax 6 5 600 550 500 4 3 I 2 II III 400 350 120 日本晴 e1-/- ・アミロース含量が増加 していた。 ・アミロペクチンの超長鎖 が増加していた。 450 1 0 90 λmax (nm) Relative carbohydrate (%) 5 600 150 180 Elution volume(ml) Fr.I (%) Fr.II (%) Fr.III (%) 26.2 58.4 15.4 Starch 26.7 59.8 0.4 Amyloepctin 18.0 57.3 24.8 Starch 19.4 56.1 4.8 Amyloepctin 210 True amylose contents (%) 15.0 20.0 III/II 2.2 2.2 3.2 2.9 ・長いアミロペクチン鎖が 少なかった。 RVAを用いた胚乳デンプンの糊化粘度特性 ・SSIIIa変異体デンプンは野生型と比べて熱糊化粘度が激減 していた。 100 3500 温度変化 90 3000 日本晴 Viscosity (cP) 2500 70 60 2000 50 1500 40 30 1000 20 500 e1-/- 10 0 0 400 800 0 1200 Temperature (℃) 80 SSIIIa欠失の他のSSアイソザイムへの影響 ・SSIIIa欠失により,SSIおよびGBSSIタンパク質量が増加した。 ・SSIおよびGBSSIタンパク質の増加は,転写レベルで制御され ていた。 SSIIIa活性の欠失 他酵素への 影響 デンプン構造、 成分の変化 間接要因 直接要因 SSI活性の増加 間接要因 GBSSI活性の増加 アミロペクチン長鎖 アミロペクチン SLCの増加 DP≧30の減少 短鎖DP≦30の変化 10≦DP≦15↑ 9≦DP, 16≦DP ≦19↓ アミロペクチン 分子量の低下 デンプン物性の激変 アミロース含量 の増加 3種類のSS変異体の役割 ・イネ胚乳で発現する3つのアイソザイムは,伸長する長さが それぞれ異なる。 SSI ・SSIは,DP6-7の極短鎖 をDP8-12にわずかに 伸長する。 6 7 8 12 20 SSIIa ・SSIIaは,DP≦12を 13 ≦ DP ≦ 24に伸長する。 10 24 SSIIIa ・SSIIIaは,クラスターをつなぐ 長い鎖を伸長する。 40 C h a in le n g t h o f t h e p r e c u r so r c h a in a n d e lo n g a t e d c h a in b y SS iso z y m e s ( DP ) 文献 SSI: Fujita et al., (2006) Plant Physiol. 140: 1070-1084 SSIIa: Nakamura et al., (2005) Plant Mol.Biol.58: 213-227 SSIIIa: Fujita et al., (2007) Plant Physiol. 144: 2009-2023 SSIIa Indica riceの胚乳アミロペクチン構造 SSI SSIIIa SSI DP12 ∼16 クリスタル ラメラ 8∼16 アモルファス ラメラ DP12 ∼16 クリスタル ラメラ 8∼16 アモルファス ラメラ アミロペクチン生合成メカニズム ① SSIIIa BEI ② ISA ③ BEIIb ④ SS ISA ⑤ SSI SSIIa ⑥ Nakamura, (2002) Plant Cell Physiol. 43: 718-725を一部改定 今後の課題,今進めている研究 ○デンプンの構造や物性をより制御しやすくするために… 遺伝子 澱粉構造 澱粉物性 利用特性 ○よりユニークな構造のデンプンを開発するために… P 既に単離済みの 変異体間の交配 F1 澱粉変異体A (aaBB) ・単離済みの変異体を用いた 二重変異体の開発 澱粉変異体B (AAbb) F1の自殖 AaBb F2 分離世代 [AB] [Ab] AaBb [aB] [ab] 選抜 ・単離済みの変異体をホストに 遺伝子導入した形質転換体 ユニークなデンプンの応用例 難消化性澱粉→ダイエット米、大腸癌予防食品 易消化性澱粉→発酵産業、甘味料 老化しにくい澱粉→練り製品などへの添加物 高アミロース澱粉→フィルム特性、食感改善剤、 クリスピー天ぷら粉 低温糊化澱粉→加工時の省エネに貢献 低分子量澱粉→エネルギー持続性ドリンク 米飯以外のコメの利用を促進→ 中小食品企業の活性化 食料自給率の向上 休耕田の有効利用 謝辞 秋田県大 中村保典 元CREST研究員 バイテクセンター職員 卒業生 在学生 九州大 佐藤光 西愛子 生物研 廣近洋彦 宮尾安藝雄他 アイオワ州立大 Jay-lin Jane他 大阪府大 久保亜希子 資金援助:秋田県立大学, JST, CREST, 農水省イネゲノムプロジェクト 科学研究費若手B
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