2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 2011.3.11. 東北地方太平洋沖地震 建築設備被害に関する 調査報告 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団 〔アブストラクト〕 2011年3月11日(金)午後 2 時46分に発生した東北地方太平洋沖地震は、三陸沖 牡 鹿半島の東南東 130km 付近を震源とし、その後連鎖的に長さ 500km幅 200kmに渡る大規模 な断層すべり破壊の結果マグニチュード 9.0 の国内観測史上最大の規模となり、東北から関東に 至る広い範囲で震度 6 以上の揺れが観測された。空気調和・衛生工学会では東日本大地震調査 支援本部を設置し、その中の調査部会が安全・防災委員会設備耐震対策小委員会を中心として関 連学協会と連携して現地調査団を結成し、同年 6 月上旬に仙台市を中心に現地調査実施した。 調査の概要について報告する。 はじめに. 2011年3月11日(金)午後 2 時46分に発生した東北地方太平洋沖地震による東 日本大震災に対して、本学会は東日本大地震調査支援本部を設置し、調査部会を立ち上げ た。調査部会では安全・防災委員会設備耐震対策小委員会を中心として「東日本大地震調 査支援本部調査部会調査団」を結成し本会東北支部ならびに建築設備技術者協会、建築設 備綜合協会、日本空調衛生工事業協会とも連携し建築設備の被害実態を把握し、設備耐震 の技術への提言を目的として同年 6 月 6 日(月)から 9 日(木)の 4 日間仙台市街を中心 に表-2の工程で現地調査をおこなった。東日本大震災は震災に引続き津波被害、原子力災 害と複合震災となっているが本調査の目的は主として地震動による建築設備の被害調査で ある。参加者は表-1の通りである。 本報告は、それら調査時に収集した資料を整理するとともに、今回の地震の特性と設備 被害の特徴を以下の通り、提示するものである。 表-1 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団 【空気調和・衛生工学会本部 安全・防災対策委員会 耐震小委員会ほか】 身分 氏名 勤務先 1 団長 一方井 孝治 鹿島建設㈱ 建築設計本部 設備設計統括Grリーダー 2 幹事 金内 明 須賀工業㈱ 技術研究所 3 幹事 木村 剛 ㈱大林組 設計本部設備設計部担当課長 4 団員 老沼 広之 三機工業㈱ 東京支社 設計部 5 〃 木内 俊明 国士舘大学 名誉教授 6 〃 佐藤 英樹 三建設備工業㈱ 技術本部 技術研究所 7 〃 水谷 国男 東京工芸大学 工学部 建築学科 教授 8 〃 村上 三千博 高砂熱学工業㈱ 技術本部 品質環境安全部 9 〃 米田 千瑳夫 須賀工業㈱ 10 (特別参加) 大塚 雅之 関東学院大学 大澤記念建築設備工学研究所 教授 11 (特別参加) 遠藤 智行 関東学院大学 大澤記念建築設備工学研究所 准教授 12 (特別参加) 野知 啓子 関東学院大学 大澤記念建築設備工学研究所 助手 Page 1 of 17 所属・他(調査時現在) 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 【建築設備技術者協会 13 団員 本部】 平山 昌宏 環境システック㈱ 【建築設備綜合協会】 14 団員 井手 克則 新菱冷熱工業㈱ 技術統括部 (社)日本空調衛生 工事業協会 業務部長 【日本空調衛生工事業協会】 15 団員 上村 利夫 【空気調和・衛生工学会 東北支部】 16 団員 内海 康雄 仙台高等専門学校 副校長 地域イノベーションセンター長 17 〃 仲村 光史 新日本空調㈱ 空気調和・衛生工学会 東北支部長 18 〃 佐藤 唯男 東北地方整備局 営繕部調整課 課長補佐 19 〃 赤井 仁志 ㈱ユアテック 技術開発センター 副所長 20 〃 草刈 洋行 ㈱ユアテック 技術開発センター 21 〃 許 雷 東北工業大学 准教授 日新設備㈱ 建築設備技術者協会 東北支部長 教授 【建築設備技術者協会 東北支部】 22 団員 延 22 名 黒澤 正志 参加日は団員によって若干異なる 表-2 調査日程と調査物件 規模 etc. № 月日 調査訪問先 1 6/6(月) 海上保安庁仙台航空 基地他 庁舎:1981 竣工 2 〃 某社仙台市内営業所 2009 年竣工 S 造地上 2 階 3 〃 仙台市某ホール施設 1999 年竣工 地下 2 階地上 4 階 4 〃 仙台市某宿泊施設 1983 年(II 期)竣工 期に渡る増改築 5 6/7(火) 大学・研究棟 1969 年竣工 2001 年耐震補強 階 6 〃 大学・研究棟 2006 年竣工 S 造地下 1 階地上 4 階 延床約 5,200 ㎡ 7 〃 某社仙台市内営業所 2008 年竣工 S 造地上 2 階免震構造 延床約 1,800 ㎡ 8 〃 某社研修センター 9 〃 宮城県官庁施設 10 〃 某社生産施設 1997 年竣工 地上 7 階 1987 年竣工 S 造/SRC 造地下 2 階地上 18 階 延床約 78,000 ㎡ 1986 年竣工 S 造/SRC 造地下 2 階地上 5 階 延床約 10,500 ㎡ 1987 年~2001 年にかけ増改築 S 造地上 2 階 11 12 13 仙台市某宿泊施設 6/8(水) 仙台市某複合施設 仙台市内某病院 RC 造地上 2 階 延床約 501 ㎡ 延床約 2,200 ㎡ 延床約 56,000 ㎡ RC 造地下 3 階地上 13 階 I 期~III SRC 造地下 1 階地上 9 RC 造地上 3 階 1991 年竣工 S 造/RC 造/SRC 造地下 1 階地上 12 階 延床約 27,000 ㎡ 2003 年竣工 RC 造免震構造 延床約 17.000 ㎡ Page 2 of 17 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 14 6/8(水) 15 6/9(木) 仙台市某公共施設 仙台市某業務・検査 施設 1991 年竣 RC 造地下 1 階地上 4 階 延床約 24,000 ㎡ 2001 年竣工 S 造地上 2 階 延床約 2,500 ㎡ 1. 東北地方太平洋沖地震の特徴 本地震の詳細については関連の発表が数多くなされるところであり、詳細はそれらを 参照願いたいが以下に要点のみをまとめる。 (1)地震の概要 表-3 東北地方太平洋沖地震の本震および最大規模の余震 (気象庁発表, 2011 年 3 月 13 日第 16 報、4 月 8 日第 34 報より) 平成 23 年 3 月 11 日 14 時 46 分頃 震源地 三陸沖 牡鹿半島の東南東、約 130km 付近 震源深さ,規模 約 24km マグニチュード 9.0 震度 7 宮城県 栗原市 震度 6 強 宮城県の涌谷町、登米市、大崎市、名取市(など、 本震 発生日時 震度 宮城県、福島県、茨城県、栃木県の4県 28 市 町村 北海道から九州地方にかけて震度 6 弱~1 を観測 平成 23 年 4 月 7 日 23 時 32 分頃 震源地 宮城県沖 鹿半島の東、約 40km 付近 震源深さ,規模 約 40km マグニチュード 7.4 震度 6 強 宮城県栗原市、仙台市宮城野区 震度 6 弱 岩手県大船渡市、釜石市、矢巾町、一関市など 余震 発生日時 21 の市区町村 震度 東北地方を中心に、北海道から中国地方の一部にかけて震度 5 強~1 を観測 (独立行政法人)防災科学技術研究所「東北地方太平洋沖地震について(速報)」 、 「強 震記録を用いた平成 23 年(2011 年) 東北地方太平洋沖地震の震源過程【暫定】」等によ ると、3 月 11 日発生の本震は「日本海溝から沈み込む海側プレート(太平洋プレート) に引きずり込まれた陸側プレート(北米プレート)が跳ね返ることによって発生する,典 型的な海溝型大地震のメカニズム」と説明されている。しかしながらこれまで経験した 地震と異なり南北約 500km、東西約 200kmの広大なエリアが最大 20m以上連続的に すべり破壊を起すという大規模な地震となった。 Page 3 of 17 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 図―1:強震記録を用いた平成 23 年(2011 年) 東北地方太平洋沖地震の震源過程【暫定】 〔防災科学技術研究所発表資料より引用 〕 http://www.bosai.go.jp/news/oshirase/20110315_01.pdf その結果として今回の地震の特徴として認識されている非常に長い揺れ時間をもつ 震災となった。1978 年、2005 年の宮城県沖地震が 60 秒程度の揺れであるのに対し、 本地震では図-2に示されるように仙台市内でも 180 秒以上の継続時間が計測されて いる。 図―2:今回の地震と過去の宮城県沖地震の波形比較(仙台某ビル:南北方向) 〔東北大学報告資料より引用〕 http://www.dcrc.tohoku.ac.jp/surveys/20110311/docs/20110413_03motosaka.pdf 本震時に記録された強震計の加速度記録も宮城県築館が最大で 2900gal を超えたの をはじめ上位 10 点でも 1000gal を越えている。余震回数もこれまでになく多い地震で あったことも多くの方が実感した通りである。特に 4 月 7 日発生したM7.4 の最大級の Page 4 of 17 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 余震は、復旧の途上にあった多くの施設に再度大きなダメージを与える大きな余震であ った。これらのデータは今回の地震が如何に規模の大きなものであったかを示している。 表-4: 最大加速度上位10観測点 〔平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震による強震動 防災科学技術研究所発表資料 より引用〕 http://www.bosai.go.jp/news/oshirase/20110315_01.pdf 図-3: 余震積算回数の比較 〔東北地方太平洋沖地震について(速報) 防災科学技術研究所発表資料より引用〕 http://www.bosai.go.jp/news/oshirase/20110323_01.pdf Page 5 of 17 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 2.公共ライフラインの被害と復旧 過去の地震災害においても、公共ライフラインの早期復旧が基本であり、建築設備も機 能維持としてそれらの状況に支配される。主として宮城県を中心とした復旧状況は下記の 通りである。以下の各項は当該協会・省庁等の調べによる発表値から作成したものである。 (1)電力復旧率(東北電力 HP 発表資料から作成) 東北電力管内(岩手、宮城、福島、山形、青森、秋田) 3 月 11 日停電戸数 4,330,547 戸(津波による家屋流出地域、原発立入制限区域を除く) 内、宮城県:1,330,890 戸 電気復旧率(宮城) 2011/6/24 2011/6/17 2011/6/10 2011/6/3 2011/5/27 2011/5/20 2011/5/13 2011/5/6 2011/4/29 2011/4/22 2011/4/8 2011/4/15 2011/4/1 2011/3/25 2011/3/18 2011/3/11 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 図-4 電力復旧率の推移 広域に渡る被害があったため復旧には若干時間がかかっているが宮城県内では 3 日以内 で約 50%、7日で約 90%の復電となっている。 (2)都市ガス復旧率(ガス協会HP発表資料から作成) 仙台市ガス局の供給する宮城県内での3月11日供給停止戸数 372,382戸(津波による家屋流出地域 を除く) 、その後3月14日に統計上供給停止戸数が最大389,953戸となるためここまでは復旧率0% とした。 ガス復旧率(宮城) 図-5 ガス復旧率の推移 Page 6 of 17 2011/6/24 2011/6/17 2011/6/10 2011/6/3 2011/5/27 2011/5/20 2011/5/13 2011/5/6 2011/4/29 2011/4/22 2011/4/15 2011/4/8 2011/4/1 2011/3/25 2011/3/18 2011/3/11 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 低圧ガスについては地震発生から3月15日までは統計上の停止戸数は増加し、震災発生 後10日後の3月22日頃まではほぼ復旧率0%で推移している。その後の20日間で急速に復旧 し震災後1ヶ月の4月12日には80%程度の復旧率になっている。仙台市ガス局は津波で沿岸 部のガス供給施設を喪失したが、非常用発電機用の中圧ガスに関しては使用量の制限は行 われたものの継続供給された。 (3)水道復旧率(厚生労働省 HP 発表資料から作成) 宮城県内水道供給停止戸数 3 月 11 日 283,233 戸 (津波による家屋流出地域を除く)、3 月 16 日に統計 上最大停止戸数 423,233 戸となるためここまでは復旧率 0%とした。 水道復旧率(宮城) 2011/6/24 2011/6/17 2011/6/10 2011/6/3 2011/5/27 2011/5/20 2011/5/13 2011/5/6 2011/4/29 2011/4/22 2011/4/15 2011/4/8 2011/4/1 2011/3/25 2011/3/18 2011/3/11 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 図-6 水道復旧率の推移 宮城県内の上水道については統計上、最大で43万戸余りの断水となった。50%の復 旧に至るのに 17 日間、4 月はじめに 90%近い復旧に至るものの4月7日の余震で再度断水 戸数が増加している。 (4)下水道施設被害(国土交通省発表資料より) 下水道については宮城県内総延長管路長9702kmのうち被災した管路は423km 割合 で4%であった。この数字には津波被害エリアを含むと思われる。仙台市内では4400km のうち被災管路は22kmで被災率0.1%であった。下水に関しては流末処理施設の津波被害 が甚大で宮城県内41箇所の処理場のうち8箇所が稼動を停止した。特に処理人口70万人の仙 台市南蒲生浄化センターは津波により壊滅的被害となり仮設による処理が続いている。 3.建築設備被害調査の結果 今回の調査結果から建築設備の地震被害の要点を中心に取りまとめ、表-5に紹介する。 Page 7 of 17 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 4.東北地方太平洋沖地震による建築設備被害の総括・ (1)建物被害概要 1)東北大学人間・環境系研究棟のように大きな構造被害を生じた建物もあるが、地震被 害に限れば地震の大きさに比して深刻な構造被害が少ない。東北大学の立地する青葉 山地区は他の地域に比較して 1 秒前後の周期が卓越するといわれ、構造被害を大き くした要因のひとつとされている。また、今回の調査エリアではないが液状化も多く の地域で深刻な被害をもたらした。このように今回の建物被害については建物の立つ 地盤の違いによる建物被害の差についての関心が高まった。 2)仙台市内で目立つのは外壁被害およびホール等の大規模面積を持つ天井の被害であ る。ホールの天井は天井に使用するボードの重量ならびに積層枚数も通常の天井より も格段に多く、面積あたりの重量が大きいことも影響があると推測される。仙台市内 でも天井が崩落したホールが数多く存在する。また今回は視察することがなかったが ショッピングセンター等の天井でも大規模な崩落が報告されている。天井の崩落につ いては震度5程度であった関東地方でも報告があり、広いエリアでの被害が見受けら れる。いわゆる建築2次部材といわれる内装材等の被害が大きかったことが特徴であ る。 (2)設備被害概要 1)設備機器本体の耐震性能: 設備機器本体の耐震性能については、特にパネル水槽等ではスロッシング対応を含 めて地震の知見がフィードバックされながら改善されている。今回の調査範囲では耐 震対応フレームのない古い水槽について一部水漏れがあったが、水槽被害は多くはな かった。一方でエコキュートの貯湯タンク、氷蓄熱ユニットの蓄熱ユニット等の重量 設備機器の脚部そのものが座屈または破断等を起しているものが散見された。 2)吊りボルトの脱落: 機器、ダクト、配管等を天井から支持している吊りボルト脱落が多く見られた。吊 りボルトの脱落に関しては複数の現象がある。 ・ あと施工アンカーの抜けによるもの:めねじアンカーごと脱落している吊りボル トが多くあった。めねじアンカーを引き抜き方向に荷重がかかる形式で使用する ことは過去の震災時も脱落の事故例が見られる。一部でおねじアンカーの脱落も 見受けられたが施工不良によるものか支持耐力の検討不足かは判断できなかった。 ・ 鉄骨吊り金物の脱落:鉄骨造の吊り物の脱落が多く見受けられた。従来から指摘 されているように鉄骨フランジ部分を片側からのみ挟み込む形式の吊り金物は脱 落の事例が多く見受けられた。 ・ 吊りボルトそのものの破断:今回の調査のなかではあまり多くの事例がなかった が、吊りボルトがインサートやアンカーの直近で破断するケースが生じている。 吊りボルトに関しては基本的に適切な振れ止め対策が必要と思われるが、今後の 検討課題と考える。 3)防振架台の破損: Page 8 of 17 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 空調機のファンセクション、パッケージ屋外機等に使用されているスプリング防振 架台のスプリング部分が脱落しているものが散見された。ストッパボルトの余裕代の 設定が適切でないもの、スプリングケーシングそのものが破損しているものがあった。 4)制気口類の脱落: ブリーズライン、VHS等の天井面からの脱落が見られた。いずれもタッピングビ スで固定されている、チャンバボックスの折り返しに嵌め込みになっているだけなど、 天井面の振動等により強い外力を直接受けると脱落の可能性がある。制気口などの比 較的軽量な機器も天井から落下すると人命に危険を及ぼす可能性もあり、適切な落下 防止措置が必要であると思われる。 5)ダクト分岐部等の破損: ダクトの分岐部、チャンバボックスとの接続部等でのダクトの脱落、はずれが見受 けられた。空調機周辺ではキャンバス継手がチャンバボックスから脱落している例も あり、機器周辺やダンパ周辺等で変位、応力が集中する箇所に破損が発生している。 6)建築との取り合い部分の相互の破損: 揺れの性状が異なる設備機器と天井との取り合い部分の相互の破損が多く見受け られた。調査の中でも、機械排煙口と天井/機械室からメインダクトが室内に展開す る壁貫通部分のダクトと壁/フレキシブル配管で接続されていないスプリンクラヘ ッドと天井/ドラフトチャンバ排気の天井貫通部 等の相互の破損があった。 7)配管等の破損がもたらす二次被害(水損) : 配管等の破損による漏水が大きな二次被害を生ずる事例がある。冷温水配管のエア 抜き用小口径配管が破断し漏水した事例、小口径配管のねじ部が折損し漏水した事例、 風呂濾過機の転倒により配管が破断し漏水した例、スプリンクラヘッドが地震により 計画外の軌跡を描いて開いた二つ折れ防火扉と干渉し漏水した事例等があった。配管 の耐震について特に小口径配管は見落とされがちであるが、一端破断に至ると大きな 二次被害を与えるので注意が必要である。 (3)その他 1)震災時の機能維持の例 今回調査対象施設の中に建物を免震化し地震時の機能維持を前提として計画された 建物が2例あった。いずれも基本的には無被害であり概ね当初の計画通りの機能を 発揮した。機能維持の観点では物理的な耐震対策以外に想定される事態に対しての 対応シナリオの策定が大変重要である。今回の震災でも震災当日は仙台市内での積 雪があるなど3月とはいえ大変寒い時期であったため非常時には想定していなかっ た暖房の確保が課題となった事例もあった。機能維持に関しては耐震対応以上に広 範な配慮を必要とするため、得られた知見を着実にフィードバックすることが重要 と考える。 2)ガス管路の耐震化、下水道の耐震化などの継続的努力 宮城県は過去に大きな地震を繰り返し経験し、地域としての防災意識が高い。イン フラに関しては仙台市内のガス管路、下水道の被害率が低かった。阪神淡路と比較し Page 9 of 17 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 て直下型と海洋性地震の差はあるが、これまでの継続的な耐震化に対する努力も評価 されるべきと思われる。「想定外」の震災であっても地道な耐震への対応の積み重ねが 全体としての被災率を低くし、復旧への期間も短縮する。 3)津波被害 今回の調査の対象からは原則除外したが、津波による被害が甚大である。建物構造 としては津波による浮力によって杭の引抜、破断といった現象がおこり RC 造建物が 大きく移動する、転倒するといったことが生じたたことが着目されている。また、設 備関連の施設、下水道の流末処理施設、LNG 供給施設といった建物の機能上沿岸部 に立地せざるを得ない施設の被害が甚大で、結果としてインフラ設備の機能停止を招 いた。対策は容易ではないが、沿岸部立地の重要施設については今後のリスク要因と して津波への対応が不可避となっている。 結び 東北地方太平洋沖地震は継続時間が3分余に渡る非常に長い揺れを特徴としている。詳 細なメカニズムは今だ明らかではないが、建築二次部材、吊支持された設備被害が大きか ったことと地震の継続時間は関連があると思われる。設備被害の状況のなかにはこれまで にはあまり例が見られない吊支持材の破断等の新たな事象もある。今回の現地調査以外に も設備関連学協会で連携して調査記録の収集をおこなっており、そこからも今後の建築設 備機器の耐震についての論点を整理・分析してゆきたいと考えている。 最後になりましたが調査に際して、施設内調査を快く受け入れて頂いた建物所有者の 方々、各施設の管理に当たられている方々、そして、各方面との調整にご尽力頂いた当学 会東北支部、建築設備技術者協会東北支部の皆様には、ご多忙の中、大変お世話になりま した。紙面を借りて厚く御礼申し上げます。 Page 10 of 17 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 表-5 調査対象施設の設備被害…調査順 № 調査対 象施設 ② 某社 営業所 所在地 状況 名取市 ・建物については構造、非構造部材、内装設備にも明らかな被害は見られない。 ・ 【写真1】2F屋外部(1F屋上)に設置されたヒートポンプ式給湯器(エコ キュート貯湯量 550L)の脚部 3 本が大きく変形損傷。給湯機器として機能 出来ない状態。上記機器の脚柱と本体鋼枠材とはボルト接合されているが、 貯湯タンクを直接支持する形となっていないと思われ地震力により本体鋼枠 が外板と共に変形/損壊した結果、接合されている脚柱も共に基礎から離脱、 給湯器基部周りの損壊に至ったものと推測される。 ・【写真2】空調冷凍機類の基礎防振固定部に変形が見受けられる。 ・【写真3】屋上配管基礎のずれ 【写真1】 ③ 某ホー ル施設 仙台市 【写真2】 【写真3】 ・【写真4】建物の被害は、僅かなクラック程度しか確認できなかったが、ホー ルの天井が客席に落下している。 ・天井の落下に伴い、ノズル形の吹出し口が数多く落下していた。但し、吹出 しボックスやダクトフレキは天井内に残っていた。 ・客席上部のブリーズライン吹出し口のフェースだけが、天井面から落下して いた。 ・天井の落下に伴い、スプリンクラ配管は宙吊りの状態や、落下しているのが 多くあった。多くは、配管が切断されており、フレキシブル継手の損傷は少 ない。乾式のため水損は無かった。 ・空調機チャンバとダクトを接続している単管の外れ、 ・空調機のキャンバス止 めクリップ(塩ビ製挟み込みタイプ)が外れているのが数か所あった。 ・【写真5】ダクトの吊ボルトで、めねじ形あと施工アンカーが、拡張不足です っぽ抜けて外れているのが散見された。 ・【写真6】メインダクトの壁貫通部(鉛遮音施工部)で、壁が破損していた。 【写真4】 【写真5】 Page 11 of 17 【写真6】 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 № 調査対 象施設 ④ 某宿泊 施設 所在地 状況 仙台市 ・建物での大きな被害はなく、瓦の落下等の被害のみ。インフラは、電気復電 3 月 15 日、給水再開 3 月 27 日 排水は放流可能であった。 ・【写真7】屋上設置の高架槽(年代不明ながら竣工当時のものと思われる)へ の揚水配管とパネル(天板)の接続部で破損している。配管支持が持たず天 板ごと破損した模様。応急修理を行い、使用継続されている状況。 ・建物増築のEXP部分で天井が破損した。現状は復旧済みであった。 ・同EXPを通過している白ガス配管のねじ部が破損していた。変位吸収の有 無は不明。 ・【写真 8、9】一部SPヘッドカバー脱落、周囲の天井の破損が見受けられるが 漏水はなかった。 【写真7】 ⑤ 大学・ 研究棟 仙台市 【写真8】 【写真9】 ・ 【写真10】建物は隅柱 4 本が圧壊。赤紙 立ち入り禁止建物となる。圧壊した 柱の側近にある防振架台上のGHP屋外機は防振架台とも特に損傷がなく無 事 ・ 【写真11】室内の家具・書棚は壁固定があったが多くが転倒した。天井設置の 設備機器は微小な照明器具の脱落・ずれがあるが基本的に無事 ・【写真12】バルコニーに直置きのエアコン屋外機は、8 階では転倒や移動し ているものが多かった。3 階バルコニーではあまり移動していなかった。 ・周囲地盤は一部崩落している。 【写真10】 【写真11】 Page 12 of 17 【写真12】 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 № 調査対 象施設 ⑥ 大学・ 研究棟 所在地 仙台市 状況 ・【写真 13】氷蓄熱ユニットの天板が一部変形していた。スロッシングと推測さ れる。 ・【写真 14】屋上に設置された氷蓄熱ユニットの脚部の損傷および機器の移動 ・ 【写真 15】屋上の電線ラック、冷媒配管ラックは固定されていない脚部が移動、 転倒した。 ・天井設置のパッケージが一部脱落したとの報告があったが現地未確認 ・教室用床置きラジエタが転倒したとの報告があったが現地未確認 【写真13】 ⑦ 某社 営業所 黒川郡 【写真16】 【写真14】 【写真15】 ・【写真16】免震構造としているため、建物内での被害は無し ・非常用発電機 130KVAを設置(3日間対応想定) ・災害時排水槽 災害時にバルブ切替にて排水槽に貯留(3日間対応想定) ・雨水再利用中水設備 雨水100m3貯留可能 ・ 【写真17】、 【写真18】雨水立樋の部分的破損以外、屋上設置機器にも損傷はな く想定どおりの機能を発揮した。 【写真17】 Page 13 of 17 【写真18】 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 № 調査対 象施設 ⑧ 某社 研修セ ンター 所在地 状況 黒川郡 ・【写真19】体育館の客席部折上げ天井部が落下した。 ・【写真20】天井落下に伴い、吹出口の落下及びダクトが脱落した ・宿泊室の天井部吹出口枠が一部破損した。 ・【写真21】7階浴室用ろ過装置の脚部が破断し転倒した (改修済み)。 ろ過 装置への接続配管の破断により、高置水槽/浴槽の水が全て配管破断部より 抜ける。その際、ELVピット、宿泊室が浸水 ・非常電源のオイルサービスタンクに対してボイラー用燃料のサービスタンク より20Lを1日10回運搬して非常電源の運転を継続した。 【写真19】 ⑨ 官庁 施設 仙台市 【写真20】 【写真21】 上階機械室内 ・水平形空調機のファンセクション用スプリング防振の樹脂製架台取り付け用 つめが破損し、スプリング部が全数脱落した。耐震ストッパが破断していな い空調機でも脱落していた。 ・【写真 22】鋼材の強度不足により送風機チャンバの架台が破損した。 ・空調機還気系統ダクトのプラスタボード 2 重貼ダクト(遮音用と考えられる) が揺れ・変形によりボードが剥離し、最下部のダンパ部に落下堆積したため ラギングが破損した。 ・【写真23】めねじアンカーの抜けによりダクトの吊棒および鋼材が落下し、 空調機のキャンバスが変形した。 ・ダンパ支持用吊ボルト(2 点支持)が破断し、壁貫通接続部が破損した。 ・配管吊用ダブルアングルの吊ボルトが破断した。 中間階 ・【写真24】応接室天井部のライン形吹き出し口が一部落下した。強固に取り 付けられた照明器具と天井の揺れの影響で吹き出し口とボックスが変形した ためと考えられる。 【写真22】 【写真23】 Page 14 of 17 【写真24】 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 № 調査対 象施設 ⑩ 某社 生産施 設 所在地 状況 栗原市 ・【写真 25,26,27】敷地全体での地盤沈下が見られ、建物と外部との境界部分の 配管に大きな被害が出た。過去の震災により変位吸収への対応していた部分 では被害は小さかった。 ・装置アンカー破断により装置がずれ、装置用ベローズ継手が変形、接続配管 が損傷した。 ・アネモ・VHS 等の制気口がずれた。 ・振れ止めのない機器吊りボルトが破断した。 ・ FFUがフレームからずれ、数台がフレームより落下したが脱落防止 SUS ワイヤーでとまった。 ・クリーンブースの脚部が座屈した。 ・アンカーを施していない装置等では、本体が 100~200mm 程度移動した。 【写真25】 ⑪ 某宿泊 施設 仙台市 【写真26】 【写真27】 ・【写真 28】地盤崩壊により排水管(移送管)が破断し、地盤への貯流水により沈 殿槽が浮上した。同場所で外灯が倒れている。 ・【写真 29】屋外設置の受水槽(井水)のパネルにずれが生じ漏水が発生した。 受水槽は、高さ3m、耐震補強なし。 ・地盤変動の影響により、外部設置の動力盤が傾いている。 ・【写真 30】機械室内に設置されている貯湯槽(1200φ×3mH×3 ㎥)の脚部ケミ カルアンカーが抜けて貯湯槽本体が移動した。同貯湯槽上部からの給湯配管 接続部が破断した模様。 ・バルコニー設置の室外機が傾いた。また、3 階客室のユニットバス用天井配 管(給水)で破損漏水が発生した。 【写真28】 【写真29】 Page 15 of 17 【写真30】 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 № 調査対 象施設 ⑫ 某複合 施設 所在地 状況 仙台市 ホテル棟 ・【写真31】天井および天井下地材と制気口ボックス・シャッターとの衝突で 制気口またはボックス(短管)とダクトの接続部が破断し制気口が脱落した。 ・天井の揺れが天井開口とカセット形パッケージエアコンのフェースのクリア ランス以上だったためフェースが脱落した。 ホール ・客席系統給気ダクトの枝ダクト取り出し部が破断した。 ・【写真32】還気吸い込み口チャンバが脱落した。 ・【写真33】給気および還気ダクトの鉄骨用支持金物が外れ落下した。 ・メインダクトの落下によりスパイラルダクトおよび角ダクトのメッツ工法の 接続部に隙間が生じた。 【写真31】 ⑬ 某病院 仙台市 【写真32】 【写真33】 ・本施設は免震構造を病院本棟に採用し、当初から「大地震から高度な医療環 境と療養環境を守る」ことを建築計画の趣旨に盛り込み、震災時の機能維持 を計画した施設である。 ・免震の本棟ならびに非免震のエネルギー棟を含めほぼ無被害であり、直接の 地震被害は正面玄関車寄せの屋根の倒壊のみであった。 ・【写真 34,35,36】エネルギー棟(非免震)の設備耐震固定は配管吊り長さが長 くならないよう中間ビームを設置するなど耐震的配慮が感じられた。震災後 も一部制約を受けたものの病院機能を基本的には維持し続けた。 ・【電力】地震により停電。3 月 13 日に復電した。 ・ 【上下水道】水道の断水はなく下水道の放流に支障はなかった。上水揚水ポン プは自家発により運転されていた。 ・ 【都市ガス】非常用発電機の燃料として中圧ガス供給は継続されたものの仙台 市ガスのLNG供給基地が津波により破壊されたため供給は最小限となっ た。管路については被災がなかった。低圧ガスは 3 月 29 日まで遮断が続い た。 【写真34】 【写真35】 Page 16 of 17 【写真36】 2011.3.11. 東日本大地震調査支援本部調査部会調査団報告 № 調査対 象施設 所在地 状況 ・【写真 37】天吊空調機、送風機のアンカーボルト抜けが一部に生じた。 ⑭ 某公共 施設 仙台市 ・天井ボードの一部破損 ・エア抜き配管立下り部壁付アンカー抜け ・ダクト床架台アンカー抜け、送風機防振ストッパボルト損傷した ・【写真 38】ホール天井吹出口(BL-D)が脱落したが落下防止ワイヤで落下が 機能した ・【写真 39】天井内全熱交換器の落下(アンカー抜け) 【写真37】 ⑮ 某業務・ 検査施 設 仙台市 【写真38】 【写真39】 ・天井が長軸方向に大きく揺れ内壁のMバーが大きく変形するほど強く衝突し ているものと思われる。2 階の変形は天井の移動を主としてパーティション の倒壊、内装扉の変形を引き起こし、また什器・備品の転倒により内部の在室 者が扉から出られない場所も生じた。 ・一部で天井衝突時に天井材をサポートするMバーがずれ、照明器具にぶつか ることで器具を変形させている。 ・【写真 40、41】天井面の天カセフェースパネルは多くが変形、脱落したと思わ れる。またドラフトチャンバの塩ビ排気ダクトの天井貫通部では天井および 塩ビダクト双方に被害を生じている。 ・壁掛け型エアコンの脱落も生じているがこれも天井と内壁の衝突による 2 次 的な脱落と推測される。 ・屋上に設置されていた塩ビダクト(VP配管)は接続部(継ぎ手接着部)前 後での破損・破断が多い。 ・一部の機器の基礎ボルトが破断し機器が転倒した。また屋外機の一部に基礎 固定脚部が変形・破損している機器が見られた。 ・屋上露出防水上に置基礎となっている配管サポート、小型ファンの基礎、エ アコン室外機は移動・転倒が散見される。 ・ 【写真 42】屋上に設置されていた給湯用瞬間湯沸器は標準設置金具に引っ掛け ることで設置されていたものと思われ、脱落した状態となっていた。 【写真40】 【写真41】 Page 17 of 17 【写真42】
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