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ポスト CRM の顧客関係 −「囲い込み戦略」批判−

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根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
ポスト CRM の顧客関係
−「囲い込み戦略」批判−
A Study of the Ideal Position for Customer Relationship
−A Criticism of CRM “ Strategy of Encirclement ” from the Customer Viewpoint−
根来 龍之
(文教大学情報学部教授)
Tatsuyuki Negoro(Bunkyo University)
桑山 卓三
(NECソフト株式会社)
Takuzo Kuwayama(NEC Soft, Inc.)
2001 年 3 月
連絡先:根来龍之 [email protected]
1
http://www.mi.sanno.ac.jp/ negoro/
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
ポスト CRM の顧客関係
−「囲い込み戦略」批判−
根来龍之(文教大学情報学部教授)
桑山卓三(NECソフト株式会社)
要約
「収益性の高い顧客を選別し、継続的取引による便益を提供することで、顧客ロイヤルティを高
め、その結果として個客シェアを高める」戦略が、CRM(カスタマーリレーションシップ・マネ
ジメント)のビジネスモデルである。しかし「顧客ロイヤルティ」概念が暗示する「囲い込み戦略」
は、企業側の論理にすぎない。
本研究は顧客側に立って、あるべき顧客関係を考える。具体的には、3 つの軸(「透明性」、
「スイ
ッチングコスト」
、
「継続便益」
)を使って「顧客関係」を分類する。このフレームワークによって、
各社の顧客関係戦略の分析を行うことができる。
本研究は、CRMが陥る可能性がある「囲い込み」指向の企業心理の、顧客視点の批判である。
しかし、この批判は企業にとっても意義あるものだと考えられる。脱「囲い込み戦略」のビジネス
モデルは、特に後発参入企業にとって競争上有効である。また、既存大手企業にとっても顧客の長
期満足には、考慮せざるをえないものだと考えられる。
2
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
A Study of the Ideal Position for Customer Relationship
−A Criticism of CRM “ Strategy of Encirclement ” from the Customer viewpoint−
Tatsuyuki Negoro(Bunkyo University)
Takuzo Kuwayama(NEC Soft, Inc.)
Abstract
The business model of CRM (Customer Relationship Management) is
"high profitable
customers should be selected, and convenience and benefits should be supplied to the customers
to raise their loyalty to the brand and the company, and the purchase share of each continuous
customer should be raised as a result." But, the Strategy of Encirclement that the idea of
the customer loyalty implies is only logic on company side.
This paper argues the desirable customer relationship on customer side. Customer
relationships are classified by using three axes ("transparency", "switching cost",
"continuous benefits") in the paper. Customer relationships of some industries are analyzed
by this framework.
The paper is a criticism on customer side of the strategy of encirclement that companies
tend to fall guided by CRM business model. But, even for companies, this criticism can be
meaningful. The business model beyond the strategy of encirclement is especially effective
for a late entering company in competition. And, even for the existing big companies, it
cannot but be taken into consideration in the customer's long-term satisfaction.
3
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
1 はじめに
1.1 研究の背景
2000 年はCRM元年といわれた。巷にはCRMに関する出版物が溢れている。市場が世界に開
放され、市場参入の障壁がなくなった。さらに、IT革命で代表されるインターネットの普及によ
り、情報を中心に据えたサービス経済社会になってきた。顧客の意識も大きく変化してきている。
そこで顧客との関係を重視するCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)が注目
されるようになった。しかし、そのアプローチは「顧客ロイヤルティ」で代表される「囲い込み」
論理を脱却できていないように思える。囲い込み論理は顧客にとって快適とはいいがたいのではな
いか、また長期的に企業に成功をもたらすものではないのではないかが、本研究の問題意識である。
1.2 研究の範囲
CRMには 3 つの階層がある。経営コンセプトとしてCRM、経営手法としてのCRM、経営ツ
ールとしてのCRMである(根来龍之, 2000)
。
本研究は経営コンセプトに関する「顧客関係」のあり方について顧客の立場から独自の視点を提
起し、現状のCRMが脱却できていない「囲い込みの企業心理」を批判することによってポストCRM
のあるべきビジネスモデルについて論じる。
その内容は次の通りである。
① 「囲い込み」型の顧客関係と問題指摘
② 顧客関係の分類と定義
③ 顧客関係の企業間比較
④ 理想ポジションへの移行戦略
2 「囲い込み」型の顧客関係
2.1 CRMの「顧客関係」
CRMでは自社にとって、どの顧客が収益性の高い大切な顧客なのか、という「顧客選別」が第
1のポイントになる。その大切な顧客と継続的に取引していくための工夫(戦略)が第 2 のポイン
トである。そして顧客一人ひとりに食い込むことで、自社製品/サービスの顧客におけるシェア(個
客シェア)を高め、顧客の自社にとっての生涯価値(LTV:Life Time Value)を最大化する
のが第 3 のポイントである。以下では、この3つのポイントについてCRMの考え方を簡単にまと
めておく。以下の記述は、村山徹・三谷宏治(1999)
、三谷宏治(2000)、佐藤知恭(2000)に主に
依拠している。
2.2 顧客の選別
① 顧客ニーズの曖昧化
成熟期であるといわれる現在の日本市場では、消費の選択肢はあまりにも多様化し、また趣味的
消費分野が増大してきた。顧客セグメントはもはや単純な属性では判別できず、その商品/サービ
4
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
スの購買パターンを見てはじめて定義できる。CRMでは、店頭でのアンケートや購買履歴つきの
顧客DBを駆使することで「この人は潜在ロイヤル顧客だ」と判断する。
② 顧客の将来行動のモデル化
現在の取引高ではなく、顧客の行動特性・購買特性を把握し、将来予測される顧客行動によって
セグメント化する。
顧客の購入履歴
R(Recency:直近いつ買ったか)
F(Frequency:どの程度の頻度で買ったか)
M(Monetary:過去1年でいくら買ったか)
チャネル利用履歴
顧客ごとの収益性
2.3 個客シェアの拡大と継続的な取引のためのアプローチ
CRM は、市場よりも「個客シェア」を重視する。個客シェアとは、自社の個客(個々の顧客)内
シェアを上げる(同じものを同じ顧客により多く購入してもらう)という考え方である。
既存の製品・サービスの周りに眠っている大きな収益機会を掘り起こすための基盤が「商品範囲」
「顧客時間」である。同一顧客に対する「商品範囲」を広げ、顧客との関係を一度切りの売買で終
わらせることなく、アフターサービスも含めてタイミングよく関連需要を喚起することが推奨され
る。
2.4 顧客関係性の発達モデル
CRMにおける顧客関係性の発達過程を顧客の位置づけとして捉えるとつぎのように定義するこ
とができる。
(佐藤知恭(2000)参照)
① 潜在客(Suspects)
② 見込み客(Prospects)
③ お客(Buyers)
④ 顧客(Customers)
⑤ 得意客(Clients)
⑥ 贔屓客(Advocates)
2.5 CRM が暗黙に前提とする顧客関係
「顧客の選別」
、
「継続的な取引」
、
「個客シェア」の拡大の3つのベクトルが含意する「顧客関係」
とは何であろうか。それは、
「自社にとって収益性の高い顧客をいかに長く自社の顧客として維持
するか」と視点である。実は、この取引の維持は、継続によるメリットを顧客に提供するだけでな
く、自社から離れると顧客が損をするようにすることでも可能である。現状のCRMは、
「囲い込
み」の企業心理を反映して、この両者の区別をしない。しかし、この両者を区別しない、
「理由は
ともかくとにかく顧客が離れないこといいことだ」とする囲い込みの企業心理は、顧客から見たと
きに望ましいものと言えないのではないか。これが、本研究の着眼である。
本研究の着眼に立てば、顧客ロイヤリティ(忠誠心)という言い方そのもの問題があることにな
る。企業は顧客に奉仕すべきだが、顧客が企業に忠誠をつくさなければならない理由はない。
5
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
3 顧客関係の分類と定義
3.1 理想の顧客関係設定のための 3 視点
顧客視点に立った場合、企業側からの「顧客選別」という考え方ではなく、逆に「あんたの顧客
になってやる」という「企業選別」を反映したモデルが必要になる。企業選別のためには、顧客が
複数の企業の製品を比較するための製品/サービスの情報公開が求められる。この企業の情報公開
の程度をここでは「透明性の軸」で表す。また CRM の「継続的な取引維持」は顧客側から見ると相
反する2つのことを意味している。そのひとつはスイッチングコストにより特定企業から離れられ
なくなるという「囲い込みの道具」という顧客にとって必ずしもありがたくない視点である。もう
ひとつは継続顧客であることによるメリットという視点である。この2つの視点をそれぞれ「スイ
ッチングコスト」
、
「継続による利便性」に分割して2つの軸で捉える。
透明性
継続による利便性
(継続便益)
スイッチングコスト
図1 理想の顧客関係設定のための 3 視点
3.2 顧客から見た製品/サービスの透明性
顧客にとっての透明性とは「製品/サービスの内容等比較できる情報がどれだけ顧客に公開され
ているか」をいう。透明性が高い企業は、顧客から見て、いつでも客観的に他社と比較でき、顧客
の目で企業を選別できるという安心感(利点)がある。
透明度が高い例として、
ミスミ
(仕入価格の公開)
、
花王の消費者相談室、
アップルのTech Exchange
などがあげられる。アップルの Tech Exchange は、メーカーのサイトにおいて自社製品に関する技
術情報交換を顧客インタラクション(顧客間の自由な情報交換)に近い形で行っている例である。
3.3 顧客から見た継続による利便性
顧客から見た継続の利便性(継続便益)とは、継続的に特定企業の顧客でいることから得られる
利益、効果をいう。
ここで、継続による有益、効果とは
・個別ニーズへの即応性:
製品/サービスがより自分に適したものに即応が得られる
・タイミムリーな情報サービス:
アフターサービスの提供、関連商品/サービスの提案
・反復購入による割引サービス:
6
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
等だと考えられる。
継続による利便性の例として、JALマイレージバンク(反復購入による割引サービス)
、アマ
ゾンの購買履歴を利用した推薦本のリストアップ(タイミムリーな情報サービス)
、かかり付けの
医者(個別ニーズへの即応性)などがあげられる。
3.4 スイッチングコスト
スイッチングコストとは、
「顧客が商品やサービスに対して既に行った投資の内、他企業に購入
先を切り替えると無駄になる投資」をいう。スイッチングコストが高いと、企業側から見て「囲い
込み」に役立つが、顧客の「選択の自由」から見ると必ずしも有益とはいいがたい。選択のし直し
の障害となるからである。
スイッチングコストの例として、定期つき終身保険、ゴルフ場の会員権、普及期の汎用コンピュ
ータなどが考えられる。普及期の汎用コンピュータは、
「まず高価な自社のコンピュータを導入さ
せる」ことが重要であった。そうすれば継続的にシステム開発需要、更新需要を確保できたからで
ある。これに対して、すべてレンタルでコンピュータを販売することは、スイッチングコストを低
くする試みだといえる。
3. 5 「囲い込み」型顧客関係のポジション
上述した3つの軸を使って、現在のCRMが陥る可能性がある「囲い込み」型の顧客関係を位置
づけてみよう。
「囲い込み」の企業心理は、顧客関係維持のために、スイッチングコストによる顧
客の「囲い込み」と顧客の継続による利便性の両方を肯定する考え方だと想定できる。ちなみに、
透明性については、現状のCRMは議論の対象としていない。この欠落は現状のCRMが顧客の視
点ではなく、企業の視点で顧客関係を考えているからだと思われる。
本研究が提起する3つの軸で「囲い込み」型の顧客関係を定義すると「スイッチングコスト」と
「継続便益」が高いポジションを目指しているといえる。しかし、顧客から見るとスイッチングコ
ストはないほうがよく、多くの比較情報から自分の目的にあった企業および製品/サービスを選択
し、一方では継続による利便性も得られることが望ましい。顧客から見た「理想の顧客関係」を3
つの軸上で定義すると「透明性」と「継続便益」が高く、スイッチングコストが低いポジションが、
目指しているものとなる。
透明性
顧客視点に立ったと
きの理想ポジション
批判視点に立ったときの
現状のCRMポジション
スイッチング
コスト
継続便益
7
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
図2 囲い込み型 VS 理想関係
4 顧客関係のポジション定義
4.1 顧客関係のポジション分類
3つの軸のそれぞれの端点の1∼3の組合せによって、7つの顧客関係のポジションを設定でき
る。
透明性
1
2
3
5
3
パートナー
囚人
選択者
6
継続便益
スイッチング
コスト
2
6
囚人型パートナー
選択的パートナー
選択的囚人
7
選択的囚人型パートナー
4
7
1
5
4
図3 顧客関係ポジション
4.2 顧客関係における顧客の定義
図3の各顧客関係にある顧客は、以下のような状況にある。
① パートナー
他社に移ってもスイッチングコストはかからないが、特定企業の顧客でいること(継続購買)が
顧客にとって有益となる。
② 囚人
他社に移るためにはスイッチングコストがかかる。一方、特定企業の顧客でいること(継続購買)
が必ずしも有益にならない。
③ 選択者
特定企業との関係にスイッチングコストがかからない、同時に継続関係からも利益を得ない。購
買の度に、純粋に競合製品を比較して購入するための十分な情報を持つ。
④ 囚人型パートナー
8
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
特定企業の顧客でいることが顧客にとって有益になるが他社に移ろうとすればスイッチング
コストがかかる。競合製品を比較して購入するための十分な情報がない。
⑤ 選択的パートナー
パートナーとしての性質(継続便益の享受)を持ち、同時に競合企業対比の情報開示がされてい
る(透明性を確保)
。
⑥ 選択的囚人
情報開示を受けて、納得して囚人になる。特定企業の継続顧客でいることが必ずしも有益とはい
えないが、他社に移ろうとすればスイッチングコストがかかる。
⑦ 選択的囚人型パートナー
自ら比較情報を分析した上で、囚人型パートナーになる。大型コンピュータのように初期投資が
かかっているが継続による利便性も高い。他社に移ろうとすればスイッチングコストがかかる。
4.3 顧客視点から見た理想の顧客関係
前述したように、
「選択的パートナー」が顧客としてのベストポジションだと考えられる。それ
に対して、囲い込みの企業心理が目指しているポジションは、
「囚人型パートナー」である。ただ
し、あらゆる製品/サービスがすべての顧客関係を選択可能であるわけではない。たとえば、製品/
サービスの性質上、スイッチングコストをなくすことが不可能な場合があるかもしれない。この場
合、
「選択的囚人」
「選択的囚人型パートナー」のポジションが、やむを得ないものとして肯定され
るかもしれない。
4.4 製品/サービスの性質による顧客分類
製品/サービスの性質から顧客を分類しなおすと以下のようになる。
透明性
スイッチングコスト
継続性
顧客分類
パートナー
×
×
○
×
○
×
囚人
○
×
×
選択者
×
○
○
囚人型パートナー
○
×
○
選択的パートナー
○
○
×
選択的囚人
○
○
○
表1 3軸の充足の有無による顧客分類
9
選択的囚人型
パートナー
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
5 顧客関係の企業間比較
5.1
グループウェア業界
チェックポイント
透
明
性
継
続
便
益
ッ
グ ス
コ イ
ス
ト チ
ン
サイボウズ
ロータス
○
○
◎
◎
◎
◎
機能、価格体系
お試し版の提供
問合せ対応
VerUP
バグ対応
信頼性
AP開発容易性
導入の容易さ
データの外部互換
初期導入コスト比
TeamWARE
Exchange
StarOffice
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
◎
○
○
○
○
○
○
○
表2 グループウェア業界のビジネスモデル比較
透明性
1
サイボウズ
2
ロータス(ドミノ)
3
TeamWARE
1
4
5
3
継続便益
スイッチング
コスト
4
Exchange
5
StarOffice
2
図4 グループウェア業界の顧客関係比較
2000 年秋の時点で、グループウェアはロータスノーツが圧倒的に強い。ロータスは、顧客の「囲
い込み」に成功している。その特徴はカスタマイズを前提としていてサポート企業間でサポート内
容、価格等に差があり、導入が難しく、システム管理者が必要である。反面、APが作り易い、信
頼性が高い等、継続性の便益が高い。一方では、お試し版を提供せず「導入してみないと使い勝手
が分からない」面を持つ。
サイボウズはサイボウズ Office によって急成長したベンチャー企業である。サイボウズ Office
はもともと他のグループウェア製品とコンセプトが異なる。機能を必要最小限に絞込み価格体系を
明確化し、
導入のし易さ、
使い勝手、
運用性を追求し、
価格を格安に設定している。
サイボウズ Office
は、グループウェア業界の後発参入者としてロータス他と対抗するために顧客関係を理想に近いポ
ジションに位置付けしたものといえる。Exchange は売れている割には顧客の継続便益が高くないよ
うである。TeamWARE、StarOffice は中間的なポジションだと考えられる。グループウェア業界は、
基本機能の無料化、格安化現象とASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)化が始まっ
10
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
ている。ロータス他の従来のベンダーが、今後どういう戦略(顧客関係のポジションし直し)にで
るか注目される。
5.2
家電量販店業界
透
明
性
継
続
便
益
チェックポイント
秋葉原安売 ナショナル ヤマダ電機 ラオックス
店
ショップ
郊外店
(ネット店)
製品比較情報の提供
価格が明確
自社他店舗との連携
ポントカード
顧客サービス
進捗問い合わせ(ネット)
保証、アフターサービス
下取り
◎
○
○
◎
○
○
ソフマップ ノジマ(ネッ
(ネット店)
ト店)
○
○
○
◎
○
○
◎
◎
sc
×
表3 家電量販店のビジネスモデル比較
透明性
5
3
1
秋葉原安売(店舗)
2
ナショナルショップ
6
3
4
継続便益
スイッチング
コスト
1
2
ヤマダ電機
(郊外店)
4
5
6
ノジマ(ネット)
ラオックス(ネット)
ソフマップ(ネット)
図5 家電量販店業界の顧客関係比較
家電量販店業界の特性は主に透明性と継続便益の軸を中心に競合がなされておりスイッチング
コストに繋がるケースはほとんどない。表3と図5は、同業界の特徴的な企業を3軸上に位置づけ
たものである。秋葉原安売店は一見さんに対して、
「顔を見ながら」価格交渉販売をしているため、
透明性、継続便益とも低い。ナショナルショップは、松下製品を地元密着サービスで販売していて
継続便益を追求している。ヤマダ電機郊外店は、他販売店との価格比較を明示した安売りと顧客便
益を追求している。ネット販売店ではノジマは店舗との連携がない(価格が異なる等)など批判が
多い。ソフマップは、過去に購入した機器の下取り、顧客別ホームページを用意して「買い物帳」
「持ち物長」を提供、注文の進捗情報照会と継続取引による利便性が高い。ラオックス(ネット店)
は、顧客が選んだ商品に対して価格や性能などの切り口で競合する商品を提示するという透明性の
高いサービスを行っている。
11
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
5.3
自動車販売業界(ネット販売中心)
チェックポイント
透
明
性
継
続
便
益
SC
カローラ東京
オートバイテル
クイック
GAZOO
○
○
○
△
メーカーを問わない
価格体系(値引率)公開
○
○
○
アフタサービス
イベント案内
その他割引等
○
表4 自動車業界ビジネスモデル比較
透明性
2
3
4
1
1
カローラ東京
2
オートバイテル
3
クイック
4
GAZOO
継続便益
スイッチング
コスト
図6 自動車販売業界の顧客関係比較
我が国の自動車販売業界は、メーカー系列の販売店(正規ディーラー)が、テリトリー制度で守
られた形で、系列のメーカーの製品だけを販売している。そのため、オートバイテル(インターネ
ットによる販売仲介業者)は、消費者の居住地区別に、契約している正規ディーラーに顧客を紹介
するビジネスしかできていない(米では、販売店はテリトリー制になっていない)
。カローラ東京
(既存ディーラーの典型企業)はどの営業所も修理工場を併設し、定期点検、車検、イベント案内
12
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
等、購入前後の顧客フォローに力を入れ、継続便益を追求している。オートバイテルでは、メーカ
ーを限定せずに同等ランクの車の比較情報が得られるが、販売・アフターサービスはディーラー任
せである。透明性だけの追求にとどまり、継続便益が現在の所、あまり認められない。クイックは、
ネットを通じて直接販売を行っていて、値引き価格をネットに公表している。また、アフターサー
ビスも自前で行っており、透明性、継続便益ともに追求しており、理想ポジションに近い顧客関係
を追求及しているといえる。ただし、販売能力に限界があり、現在のところあくまでもニッチ企業
にとどまっている。GAZOO(トヨタ系の情報検索・仲介システム)は、情報提供についてはメ
ーカーを問わずに提供しているが、販売紹介はトヨタ車のみである。
今後、オートバイテルで代表される販売仲介業者の継続便益への対応が望まれる。
5.4
生命保険業界
チェックポイント
透
明
性
継
続
便
益
S
ニッセイ
明治生命
ソニー保険
簡保養老
分かりやすい内容
勧誘員教育
○
○
○
◎
ニーズ変化への対応
年次報告
○
○
×
×
解約条件
×
×
表5 生命保険業界のビジネスモデル比較
透明性
4
簡保養老保険
4
3
ソニー生命保険
3
2
明治生命保険
2
継続便益
1
ニッセイ生命保険
1
スイッチング
コスト
図7 生命保険業界の顧客関係比較
生命保険業界は、1社専属の外務員が販売するというでデビット制と保険商品の比較販売禁止の
保険業法に特徴づけられる。もともと透明性が低く、解約すると損をするという「囲い込み」構造
13
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
を含んでいると考えられる。すなわち、生命保険という製品自体が、我が国ではスイッチングコス
トが高い製品になっている。
日本生命の「定期付き終身保険」を、業界の代表的製品として取り上げる。ソニー生命は徹底した
教育訓練を受けたプランナーが顧客の相談相手になり、
「オーダーメイドによる合理的な生命保
険」という「顧客の選択時の透明性」を提供している。同社はまた、ホームページ等でモデルパタ
ーンによる解説を行っている。明治生命のライフアカウント保険は契約者が支払う保険料を一旦積
み立てて置き、そこから保証機能ごとに分配する。この分配比率は毎年見直すことができ、ライフ
ステージに応じて保証の厚さを変えることができる。これは顧客に、継続便益を提供しているとい
えよう。簡保養老保険は、貯蓄型生命保険として、その製品内容が明確である。このように生命保
険業界は透明性と継続便益の違いについて、各社の製品の差異を比較できる。
14
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
6 理想ポジションへの移行戦略
前章の各業界についての分析から、それぞれの軸に関して共通の戦略が見えてくる。ここで、3
つの軸別に基本戦略を考察する。
① 透明性向上の戦略
・弱点を含めた全製品/サービス情報の公開
・比較サイトに対する協力的な姿勢
・顧客からの質問および回答の公開
・顧客からのクレーム情報の公開
・顧客間インタラクションへの寛容な対応
・試用期間を認める
⇒透明性を高くするということは、企業にとってはごまかしの効かない競争にさらされることを意
味する。
② 継続便益向上の戦略
・継続顧客に対する One to One 対応
・ 購入履歴を使ったリコメンデーション
・ 使用経験を反映したアフターサービス
・ 購入履歴・使用経験を反映した個別仕様製品の提供
・継続顧客に対する利益還元
・ ポイントプログラムの導入(継続顧客にはより大きな利益還元)
・ 買い替え時の割引
・取引継続性向上のための配慮
・ 最近利用のない顧客のフォロー
(利用頻度を高めるための戦略:効果的なDM、電子メール)
・ 短期回収戦略を取らない(LTV指向、損して得をとる)
⇒継続便益を高くするということは、顧客にとって継続取引へのモチベーションが高くなること
を意味する。
③ 脱スイッチングコストの戦略
・顧客の金銭投資を減らす
・ ランニングコスト傾斜型価格体系にする
・ インタフェースの標準化をはかる
(例:UNIX,LINUXのようにインタフェース仕様の公開)
・顧客の教育投資を減らす
・ 再教育を必要としない仕様
(ユーザインタフェースを他社製品と共通化する:デファクトスタンダードの採用)
・顧客の関係投資を減らす
・ 顧客へノウハウが溜まるような仕組み
(例:サービス/運用記録をつける。それらを顧客に還元する。
)
⇒スイッチングコストを低くするとことは、顧客にとって「選択し直し」が容易になることを意
味する。
15
根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
以上からわかることは、基本戦略をすべて追求する企業は、顧客へ継続取引へのモチベーション
を提供できる一方で、顧客で製品の「選択し直し」が容易で、かつ企業にとってごまかしの効かな
い競争にさらされることになる。これは、企業から見ると「顧客の囲い込み」が容易でないことを
意味する。しかし、この基本戦略をとる企業は、顧客から見ると「公正で利便性が高く、同時に主
導権を自分が持ち続けられる」望ましい企業像だと考えられる。
7 顧客関係の移行戦略
「囲い込み」の企業心理は、顧客を囚人型パートナーの位置に置こうとする。現状のCRMは、
この企業心理について無自覚である。しかし、この顧客関係は、必ずしも顧客にとって快適ではな
い。本章では、囲い込み型の企業心理と顧客心理を対比して、理想ポジション(選択的パートナー)
への移行戦略について、グループウェアを事例にして考察する。以下の例では、顧客がロータスノ
ーツを採用している状況から議論を行う。
透明性
7.1 囚人型パートナーからの移行
前述したように、ロータスノーツの現状ポジショ
ン(顧客関係)は囚人型パートナーに近い。このポ
ジションにある企業は、企業は顧客からも継続便益
については評価を得ているので、顧客に対して
Win-Win を強調し、このポジションを継続しつづけよ
うとする心理を持ちやすい。しかし、顧客には、図
③
継続便益
スイッチング
の①の方向(スイッチングコストをなくしたい)や
②
コスト
②製品選択を見直したいという心理が存在する。①
①
として、顧客が「ノーツの使用ノウハウをいかして
スイッチングコストを下げるためにASP採用」を
選択する例があげられる。この場合、ノーツASP
顧客の心理
を提供する企業と顧客との関係は「パートナー」へ
企業の心理
移行する。②としては、
「グループウェアの機能比較
をベンダーに要求し、その上で現在使用しているノ
ーツを維持する、あるいは別のグループウェアに変
図8 囚人型パートナー
更する」というケースが考えられる。この場合、自
主的にどの製品に「囲い込まれるか」を再度選択す
ることになる。ノーツを再選択する場合は、
「選択的囚人型パートナー」へ移行する。
③は、①②のケースの発展型として一足飛びに「選択的パートナー」に移行するケースである。
(例:透明な比較に基づくノーツ ASP への変更)
7.2 パートナーからの移行
ノーツASPを提供する企業は、顧客と「パートナー」関係にあると考えられる。なぜなら、ス
イッチングコストをかけずに継続便益を提供しているからである。
この顧客関係をもつ企業は、一般に以下の「囲い込み心理」を持ちがちである。
・新たなスイッチングコスト(例えばASPで得たノウハウを顧客に還元しない)構築を図る。
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根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
透明性
これに対して、顧客心理はスイッチングコストを
負担せずに「ノーツASPのサービス」の透明な比
較と選択し直しの自由度確保を目指すと考えられ
る(選択的パートナーに移行)
。これに対応する企
業は、自社ノーツASPサービスの比較情報を公開
してセグメントNo1を目指すことになる。
スイッチング
コスト
継続便益
図9 パートナー
透明性
7.3 選択的囚人型パートナーからの移行
選択的囚人型パートナーとして別のグループウエ
アへ選択を変えた顧客に対して、提供企業は顧客に
できるだけ再再選択をさせないようにする心理を持
ちがちである。すなわち、比較情報の透明度を下げ
たくなる心理である(顧客を囚人型パートナーにし
たい)
。
選択的囚人型パートナーのポジションにある顧客
心理は、スイッチングコストから逃れえる「選択的
パートナー」への移行を目指すと考えられる。この
結果、ASPサービスの検討が行われるかもしれな
い。
継続便益
スイッチング
コスト
図10 選択的囚人型パートナー
透 明性
7.4 選択的パートナーからの移行
顧客が「選択的パートナー」のポジションにいる
場合、企業は常に競争(選択し直し)にさらされて
いるため、最良のサービスを提供し続ける必要があ
る。
企業心理としては、捕まえている優良顧客を逃さ
ないためにスイッチングコストを課したいと思いが
ちである。しかし、顧客心理としてはこのポジショ
ンを維持することを目指すと考えられる。
スイッチング
コスト
継続便益
以上のポジション移行についての議論からわかる
ことは、企業の「囲い込み」心理と顧客心理のギャ
ップである。
「好まれる」企業になることが真の長
図11 選択的パートナー
期的成功をもたらすと考えるならば、
「囲い込み」
の企業心理に逆らって、顧客心理への対応を図ることが企業として長期的には望ましいことになる。
この場合、企業はごまかしなしに、セグメントNo1の力を持たなければ顧客との取引を安定的に
維持できない。また、既存企業が「囲い込み」の企業心理から逃れられない状況では、後発企業は、
囲い込みを歓迎しない顧客心理に対応することで既存企業と競争することができる。
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根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
8 まとめ
まとめ1
・CRMのビジネスモデルは、個客シェア向上(LTVの追求)
、顧客選別、継続取引からなって
いる。
・現状のCRMでは、継続便益の提供によって顧客が積極的に取引を継続する場合とスイッチング
コストが高いためにやむなく取引を継続している場合を自覚的には区別していない。
・この意味で、現状のCRMは、
「低い透明性+継続便益の提供+高いスイッチングコスト」なる
「囚人型パートナー」の顧客関係を追求する立場に陥る可能性がある。
・顧客視点から見た望ましい「顧客関係」は、
(顧客が企業を選択するための)透明性、継続利益
の享受、低いスイッチングコストからなると考えられる。
(選択的パートナー)
まとめ2
・企業は、透明性を低くしてかつスイッチングコストを高くする「囲い込み」の心理を持ちがちで
ある。この場合、企業にとっての理想的な顧客関係は「囚人型パートナー」である。
・しかし、
「囚人型パートナー」は顧客にとっては望ましいものではない。
・したがって、顧客の立場に立って考えるならば、ポストCRMのビジネスモデルは、
「囲い込み」
からの脱却が必要である。具体的には「選択的パートナー」への移行戦略をとるべきである。そ
れは、自社のセグメントでごまかしなしにNO1をめざすことである。
・
「選択的パートナー」の顧客関係をめざすことは、特に後発企業が、既存企業の「囚人型パート
ナー」戦略に対抗するために有効である。しかし、既存企業にとっても長期的な成功のためには、
「選択的パートナー」への移行が好ましいと思われる。
今後の課題
・顧客関係に関する製品/サービスの本質的な境界の検討(3軸すべてを高めることが製品/サービ
スによっては元々無理な場合がある)
・同時にイノベーションによってその境界が変えられるかの検討
・企業サイドの論理と顧客サイドの論理の本質的乖離の再検討
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根来龍之・桑山卓三『ポスト CRM の顧客関係』(2001 年 3 月)
参考文献
[1] 村山徹/三谷宏治+CRM統合チーム:
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[2] 浅岡伴夫、石井哲、小山健治:
“CRMからCREへ” 日本能率協会マネジメントセンター
(1999)
[3] 寺本義也、原田保編者:
“顧客経営”4 章(岩本勝幸著) 同友館(2000)
[4] 佐藤知恭:
“顧客ロイヤリティの経営” 日本経済新聞社(2000)
[5] 三谷宏治:
“事業モデル変革としてのCRM” Festinalente、vol8、アンダーセンコンサル
ティング(2000.3)
[6] 川上潤司、花澤裕二、安倍俊廣:
“CRM必勝法“ 日経情報ストラテジー(2000.11)
[7] 三田真美、中山秀夫:
“ネットが儲からない本当の理由” 日経情報ストラテジー(2001.1)
[8] 第6回コンピュータ顧客満足度調査 日経コンピュータ(2000.12.18)
[9] ERP研究会:
“SAP革命” 日本能率協会マネジメントセンター(1997)
[10]広瀬聡:CRMソリューション・フォーラム(1999.8.31-9.2)資料
[11]根来龍之:
“CRM元年3回、4 回” 日刊工業新聞記事(2000.2.10、17)
[12]タスクIT新書編集部【編】
“CRM” タスク・システムプロモーション(2000)
[13]日経コンピュータ(2000.1.31)
[14]NTT東日本法人営業部第三営業部CRM&CTI推進室:“実践CRM構築”NTT出版
(2000)
[15]沢登秀明:
“eCRMマーケティング” 日本能率協会マネジメントセンター(2000)
[16]荒井久:
“CRMの真髄”日経BP社(2000)
[17]グレン・S・ピーターセン著 匠英一監訳:
“CRM入門”東洋経済新報社(2000)
[18]太田秀一氏 HP http://www.CIO-cyber.com/pj/pf/index.html
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