派遣社員が直接雇用による無期転換の申し込みをする前に 業務請負に

派遣労働者関係
派遣社員が直接雇用による無期転換の申し込みをする前に
業務請負に変更することは違法か
当社は労働者派遣事業を営んでいます。 1 年ごとの有期労働契約で勤続 5 年以上
の社員を10人ほど雇用し、派遣先のG社へ派遣しています。いずれの社員もスキル
が高く、長く働いてもらいたいのですが、人件費の増加を見越すと、労働契約法に
基づく無期転換の申し込みがあった場合、全員を無期雇用化するのは難しいと考え
ています。そこで、社員には請負会社に転籍してもらい、報酬を現状よりやや上積
みして業務請負としてG社で働いてもらうことを検討していますが、こうした措置
は違法となるのでしょうか。
(群馬県
K社)
当人らの合意の下に請負会社に転籍させ、業務請負で働いてもらうことは
可能だが、偽装請負にならないよう注意が必要。請負会社の独立性を確保
し、注文者と労働者との間に指揮命令関係を生じさせないことがポイント
回答者
村田浩一
むらた こういち
1.ご質問の状況の確認
ご質問の状況は、K社の有期労働者を請負会社
に転籍させ、請負会社に派遣先(G社)の仕事を
行わせることを検討している、というものと理解
できます。
まず、労働者を請負会社に転籍させることは、
無期転換申込権が発生する時期については、
[図
表 1 ]が参考になります。
3.派 遣先と請負会社との関係が違法となる場合
(偽装請負)
について
派遣先(G社)と請負会社との間の関係が形式
的にも実質的にも請負関係であれば問題はありま
K社、労働者および請負会社の三者で合意をすれ
せん。しかし、形式的には請負契約であるものの、
ば可能です。本稿では、①前提としてのK社と労
請負の実質を備えていないと、労働者派遣法(以
働者との間の有期労働契約の無期化の問題、②派
下、派遣法)の要件を欠く違法な「労働者派遣」
遣先(G社)と請負会社との関係が違法となる場
や、職業安定法(以下、職安法)が禁止する違法
合(偽装請負)
、③偽装請負の効果について説明し
な労働者供給事業(
「労働者派遣」に該当しない形
ます。
態で自己の支配下にある労働者を他人に供給する
2.有期労働契約の無期化について
ことを業として〔一定の目的をもって反復継続し
平成25年に改正された労働契約法では、平成25
年 4 月 1 日以後に開始した「同一の使用者との間
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弁護士
(髙井・岡芹法律事務所)
て〕行うこと)になります(以下、両者を併せて
「偽装請負」といいます)
。
で締結された 2 以上の有期労働契約(中略)の契約
そして、請負は労働の結果として仕事の完成を
期間を通算した期間(中略)が 5 年を超える労働
目的とするもの(民法632条)であり、実質的にも
者」が、その契約期間の初日から末日までの間に、
請負といえるためには、注文者と労働者との間に
無期化の申し込みをしたときは、
「使用者は当該申
指揮命令関係があってはいけません。このことは、
込みを承諾したものとみなす」との無期転換申込
請負会社の側から見ると、請負会社が独立性を備
権を定めています(18条 1 項)。
えていることが必要であるともいえます。
労政時報
第3904号/16. 2.26
図表 1
有期労働契約者の無期転換申込権の発生
【契約期間が 1 年の場合の例】
5年
1年
↑
締
結
1年
↑
更
新
1年
↑
更
新
1年
↑
更
新
1年
↑
更
新
1年
↑
④
更
新
③無期労働契約
●
↑
↑
②
①
転
申込 換
しみ
資料出所:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働契約法改正のポイント」より一部加工
ご質問のケースでは、これまで派遣先(G社)
図表 2
適正な請負と判断されるポイント
が派遣労働者としてK社の労働者を受け入れてい
た経緯があり、K社が請負会社に労働者を転籍さ
せたとしても、実態として労働者派遣になりがち
(G社と社員の間に指揮命令関係が生じる可能性
がある)と思われますので、特に請負と労働者派
遣の区別について検討する必要があります。
この区別は、旧労働省が定めた「労働者派遣事
業と請負により行われる事業との区分に関する基
準」
(昭61. 4.17 労告37、最終改正平24. 9.27 厚
労告518。以下、告示37)によって判断されます。
請負といえるためには、請負会社が独立性を備え、
注文者と労働者との間に指揮命令関係を生じさせ
1.請負業者が労務管理上独立していること
[ 1 ]業務の遂行(仕事の割付、順序、緩急、評価等)
に関する指示・管理
[ 2 ]労働時間(始・終業、休憩、休日、休暇、時間
外・休日労働)等に関する指示・管理
[ 3 ]秩序の維持確保等(服務規律、労働者の配置決
定・変更)に関する指示・管理
2.請負業者が注文者から独立していること
[ 1 ]業務処理の資金を自己調達、支弁していること
[ 2 ]法律上事業主の責任を遵守していること
[ 3 ]肉体的な労働力提供ではないこと
ア
機械・設備・器材・材料・資材の自己調達
イ
企画・専門的技術・経験による業務処理
ない必要があります
[図表 2 ]。
仮に、業務請負の形式を取りながら、請負会社
負と判断された場合、②および⑤に該当する可能
が上記の独立性を備えず、注文者と労働者との間
性があります。
に指揮命令関係を生じさせた場合、違法な「労働
①派遣労働者を禁止業務に従事させる場合
者派遣」であると判断されるおそれがあります。
②無許可事業主から労働者派遣を受け入れる場合
4.偽装請負の効果について
③事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣を
偽装請負と判断された場合は罰則(無許可派遣
に関し派遣法59条 2 号、期間制限違反に関し同法
61条 3 号等、労働者供給事業の禁止に関し労働力
受け入れる場合
④個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受
け入れる場合
供給を行った者・これに従事した者に対する職安
⑤偽装請負等の場合(派遣法等の規定の適用を免
法63条 1 号、労働力供給事業を行う者から供給さ
れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目
れる労働者を自らの指揮命令の下に労働させた者
で契約を締結し、必要な事項を定めずに労働者
に対する同法64条 9 号)の適用もあり得ます。
派遣を受け入れる場合)
また、平成27年10月 1 日に施行された「労働契
5.まとめ
約申込みみなし制度」では、派遣先が以下の①〜
以上のとおり、偽装請負となること(ひいては
⑤に掲げる違法派遣を受け入れた場合、その時点
それに対するペナルティ)を避ける必要がありま
で、派遣先が派遣労働者に対して、その派遣労働
すので、請負の形式を取る場合には、告示37も踏
者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を
まえ、請負会社の独立性を確保し、注文者と労働
内容とする労働契約の申込みをしたものとみなさ
者との間に指揮命令関係を生じさせない点に注意
れます(派遣法40条の 6 第 1 項)
。さらに、偽装請
が必要です。
労政時報
第3904号/16. 2.26
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