【選者のことば】 【選者のことば】 私が宮柊二の作品にひかれたの は、学生時代でした。文庫本『宮 柊二自選歌集』を手にしたのが き っ か け で す。 な か で も『 群 鶏 』 や『山西省』には、暗くて重い内 容にもかかわらずひかれ、このな かには大切ななにかがあると感じ つづけてきました。近年は集中し て宮柊二論を書き、生誕百年の年 に『宮柊二 柊二初期及び『群鶏』 論』 (柊書房)を刊行することが できました。現在も続篇を書きつ づけています。 このような作業をしながら、柊 二 の 生 ま れ 育 っ た 風 土 や 環 境 が、 作家形成に大切な役目をはたして このたび第十九回宮柊二記念館 全国短歌大会の選者を務めさせて いただいたことは、私にとってと ても大きなできごとでした。 私は、かつて宮柊二の名前すら 知らないままにコスモス短歌会に 入会し、気ままに歌を作っていた 若い日には、その作品を読むこと はほとんどありませんでした。し かし、そののち諸先輩の導きがあ り、私もまた宮先生に列なる末に あることを意識するに至っていま す。しかし、今回の選を通じて地 元新潟のみなさまが、いかに宮柊 二 と い う 歌 人 を 敬 愛 し て い る か、 そして短歌という詩形を通じて自 いるとしるようになりました。そ の故郷で行われる全国規模の短歌 大会です。選者の大任をよろこん でおひきうけしたのは、いうまで もありません。 一般の部は、人生経験の厚みを 背景にした、すぐれた作品がつぎ つ ぎ と あ り、 順 位 を つ け る の に、 大変苦労しました。 ジュニアの部は、一万首におよ ぶ、めまいがするほどの量。なか には宿題に出されて、四苦八苦し ながらの作品も少なからずありま した。もしかしたら、二度と短歌 を作ることはないかもしれませ ん。けれど若い日に、得手でも不 らの生を慈しんでいるかを実感す ることができたように思います。 現代において短歌に親しむ人の 年齢は次第に高くなっており、今 回の一般の部の応募作品にしても 百歳を越えた方、越えようとして いる方の歌が少なくはありません でした。そのような場合、ともす れば伴侶や友人との死別や病を題 材にしがちですが、この大会にお いては愚痴や嘆きが全くといって いいほど見当たらず、生を肯定し 楽しむといった趣が感じられまし た。もしかするとそれは、悲しみ を包みこむような自然の存在によ る も の か も し れ な い と 思 い ま す。 得手でもとにかく短歌を作ったと いう体験が、これから大切な記憶 としてのこっていくかもしれませ ん。そして、自分が小学生のとき、 中学生のとき、また高校生のとき、 こういうことを考えていたのか と、ふり返るときがくるかもしれ ません。それぞれの節目には、そ れぞれの、かけがえのない大切さ があります。小さいから価値が低 く、大きいから高いということは ない、それぞれが大切な価値です。 そういうことを考えながら、選考 をさせていただきました。 ─「入選作品集」より再掲 もちろん寄せてくださったのは新 潟 の 方 ば か り で は あ り ま せ ん が、 住む地域は異なっても、豊かな自 然の営みが匂い立つような歌が多 く、 心 ひ か れ ま し た。 そ の こ と はジュニアの作品においても同様 で、ことに小学生の歌には魚野川、 破間川、佐梨川、また八海山など の名前が次々と現れ、そのたびに 子どもたちののびやかな姿が心に 浮かびました。ほかにも進路の歌、 スポーツの歌、恋の歌など、ジュ ニア作品の瑞々しさに触れたこと も幸いなことでした。心より感謝 申し上げます。 ─「入選作品集」より再掲 1943年岩手県生まれ。1965年東 北大学教育学部卒。卒業と同時に 宮城県内の高校に勤務し、2003年 定年退職。この間、宮城教育大、 宮城県立保母専門学校、岩手大な どで児童文学講座を担当。また宮 沢賢治学会理事、仙台文化事業団 理事、仙台文学館運営協議会委員 なども務める。1966年文学思想個 人編集誌「路上」を創刊、現在に いたる。現在「河北新報」歌壇の 選者を担当する。 著書 歌集『薄明の谷』 『水の涯』 『強霜』(第27回詩歌文学館賞)そ の他。評論『宮沢賢治 東北砕石 工場技師論』『宮柊二 柊二初期及 び『群鶏』論』その他。 佐藤通雅(さとう みちまさ) 福士りか(ふくし りか) 1961年、青森県生まれ。弘前学 院聖愛高等学校に国語科教諭とし て勤務。1986年コスモス短歌会に 入会し、1993年から結社内同人誌 「桟橋」に参加。1997年より青森 支部長、青森県歌人懇話会理事を 務める。2000年、コスモス賞受賞。 地元紙の新聞歌壇選のほか、10年 に渡って古典エッセイを連載中。 また文学同人誌「北奥気圏」同人 として、創刊より地元を中心とし た表現活動を行っている。2012年 よりコスモス選者となる。現代歌 人協会会員。『朱夏』 (私家版) 『フ ェザースノー』 (紅書房)『〝り〟 の系譜』(津軽書房)の三冊の歌 集がある。 7 雅 通 藤 佐 か り 士 福 それぞれの価値 豊かな自然、豊かなこころ
© Copyright 2024 Paperzz