第12回核融合材料国際会議ICFRM-12 (12月5日―9日、サンタバーバラ

第12回核融合材料国際会議ICFRM-12 (12月5日―9日、サンタバーバラ)
派遣者報告
京都大学大学院
ドにはなかなか追いつけませんでした。UCSB
エネルギー科学研究科
エネルギー変換科学専攻
の若手研究者は,日本人が所属していることも
木村研究室所属
あり,気を使って丁寧に話してくれるので助か
博士前期課程
湯谷健太郎
りました。
第十二回核融合炉材料国際会議(ICFRM-12)
さて会議では,よく論文で名前だけは目にす
が,2005 年 12 月 5 日~9 日,アメリカのカリ
る著名な研究者の講演を,実際に聴講すること
フォルニア州サンタバーバラにて開催されま
ができ,これまで携わってきた核融合炉構造材
した。私は,日本原子力学会核融合工学部会か
料に関する最新の研究や自身の研究分野であ
ら派遣助成を受けこの国際会議に参加し,
る照射効果に対する知見を多く得られたと思
「Evaluation of Helium Effects on Swelling
います。ただ,英語能力がもう少しあればとい
Behavior of Oxide Dispersion Strengthened
う機会をたびたび感じました。オーラル発表で
Ferritic Steel under Ion Irradiation」
は聞きなおすことができないため,かなり集中
という題目でポスター発表を行いました。
しなくてはなりません。日本人の研究者であれ
サンタバーバラは,昼間は日差しが強いため
ば聞き取れるのですが,ことネイティブの話す
日本より温かく,山や海からの澄んだ空気に恵
英語はなかなか聞き取れず困難でした。自分に
まれた絶好の環境でした。ただ,その中でホテ
英語能力がもっとあれば,もっと充実したもの
ルにこもって会議を行なうことを惜しく感じ
となっていたことでしょう。さらに英語に対す
ました。会場のホテルは,広く日本のような高
るモチベーションが上がったのは言うまでも
層ビルのホテルではなく最大で3階建ての建
ありません。
物がいくつも集合したホテルでした。このよう
次に自信のポスター発表についてですが,こ
な立派なホテルは普通なら宿泊することはで
れは一人 2.5 時間近くありかなり長丁場です。
きませんが,私は今回の会議の手伝いをするこ
ただ立っているだけでは疲れますが,幸運にも
とになっていましたので,割安にしていただき
多くの研究者が私のポスターの前で足を止め
ました。手伝いとは,会議の進行,論文編集,
てくださり休む間もありませんでした。なかな
案内係などの手伝いをアメリカの UCSB の若
か激しい議論をするには至らなかったのです
手研究者および学生を中心として行なうもの
が,質問に対しては四苦八苦しながらも答えま
でした。もちろん,そのためのミーティングも
した。最も印象に残っているのは,会議のチェ
英語で行なわれます。英語が得意であれば問題
アマンが来てくださったことです。その時ばか
はなかったのですが,聞いた内容に自信がもて
りは,緊張して肩に力が入ってしまいました。
ないときは隣の日本人に確認していました。英
また,一人海外の研究者が私の研究を認めて握
語で仕事の割り振りや内容が伝えられるので,
手を求めてきたことには,正直驚きました。そ
5 日目に近づくにつれてだんだんと分かるよ
れで調子づいた私は,長いポスターセッション
うになってきたものの,やはり普段話すスピー
を乗り切ることができ,終わってみればあっと
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らの集合体が生成され、著しい延性劣化を引き
いう間でした。
振り返ってみますと,この国際会議に参加で
起こすことがある。これら照射欠陥の素性やそ
きたことは将来,研究者として活動していく上
の成長メカニズム、それらが機械特性に及ぼす
で,非常に貴重な財産となり,国際的視野を広
影響を定量的に理解することは、現在稼動中の
げることができたと確信しております。最後に
軽水炉圧力容器鋼の健全性評価の高度化のた
なりましたが,今回の国際会議に参加するため,
めに必要不可欠であり、また次世代原子炉や核
本部会から助成していただき改めて感謝いた
融合炉材料の開発においてもその照射脆化に
します。
ついての詳細な知見を得ることが望まれてい
る。しかしながら、これまでに透過電子顕微鏡
(TEM)をはじめとする種々の観察・分析装置
東北大学
により、照射損傷によって生じた微細組織の素
金属材料研究所
性に関する多くの研究がなされているものの、
博士後期課程2年
野際公宏
これら照射誘起微細欠陥が機械特性に及ぼす
定量的な研究はほとんどなされていない。
発表題目:
このような背景のもとで本研究では、照射損
The Dependence of Obstacle Strength on
Fe-Cu
傷により生成した点欠陥障害物と運動転位と
AlloysStudied by in-situ TEM Observation
の相互作用を定量的に評価し、巨視的な機械特
(TEM 内その場観察による Fe-Cu 合金中の Cu
性と関係付けることを目的として、透過電子顕
析出物の障害物強度の温度依存性の研究)
微鏡(TEM)内引張その場観察による解析を行
1) ICFRM-12 について
った。本手法では、応力付加状態での転位線形
Copper
Precipitate
Diameter
in
ICFRM(国際核融合材料会議)は隔年で開催
状を解析することにより不可視なサイズの照
されており 12 回目となる今回はアメリカがホ
射欠陥の障害物強度を定量的に評価すること
スト国となり、ロサンゼルスから高速道路で約
ができるという特色をもつ。
2時間のところにあるサンタバーバラで行わ
実験に用いた材料は軽水炉圧力容器鋼を模
れた。会議では核融合材料についての最先端の
擬した Fe-1.0%Cu モデル合金である。軽水炉
研究成果や、建設予定地が既にフランスのガダ
圧力容器においては、不純物 Cu の照射誘起析
ラッシュに決定している ITER(国際熱核融合
出物が照射脆化の主原因とされており、照射脆
実験炉)や DEMO(核融合実証炉)に関連した
化に最も影響を及ぼすと考えられる Cu 析出
候補材の選定や今後の研究課題などについて
物やその集合体のサイズはサブナノオーダー
の発表および討論が活発になされた。会議は4
であるため、通常の電子顕微鏡法では不可視で
5カ国以上から約450名が参加した大規模
あることが知られている。本研究では熱時効処
なもので、口頭では 106 件、ポスターセッショ
理時間を変化されることにより種々のサイズ
ンででは 420 件の発表が行われた。
の Cu 析出物を形成させ、透過電子顕微鏡内引
2) 研究発表の概要
張その場観察により運動転位に対する障害物
金属材料は一般に材料に依存するある温度
強度および間隔を定量的に評価を行った。
で中性子照射を受けると、マトリックス中に照
図1は観察の一例である。通常の TEM 観察
射誘起析出物、ボイド、転位ループおよびそれ
では観察困難な不可視なサイズの超微小 Cu
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析出物(直径約 1.2 nm)においても運動転位が
で示したバーは引張試験による降伏応力であ
ピン留めされるのが観察された(図1(a))。
り、黒いバーは TEM 内その場観察からの見積
もった値であり、非常に良い相関性が得られた
(図2)。また TEM 内その場観察から得られた
障害物間隔から Cu 析出物の分布などを考慮
して数密度を算出したところ、3DAP(3次元ア
トムプローブ)や通常の TEM 観察などから測
定した値ともよく一致した。
以上の様に、照射誘起点欠陥集合体の転位障
害物の強度の評価法として TEM 内引張その
図1
TEM 内その場観察による Fe-1.0wt%Cu モデ
ル合金の観察例(a)とその障害物強度および間隔の
測定例。
場観察が有効であることが示され、実際に圧力
容器鋼のモデル合金における有益な定量デー
タが得られた。本手法は今後、次世代原子炉や
核融合炉などの構造材研究においても非常に
有効な方法と考えられる。
3) 会議の成果と今後の展開
今回、上記の内容で筆者が行ったポスターセ
ッションによる研究発表は、多くの方々から大
きな注目を受けることができた。本研究テーマ
は現在、実験と計算の双方のアプローチから照
射脆化メカニズムを解明することが重要視さ
れている。本発表では、計算機シミュレーショ
ンによる研究を行っている方々には大きな関
心を持って頂くことができ、これまで、発表済
図2
TEM 内その場観察から得られた障害物強度お
よび間隔から見積もった臨界せん断応力(黒塗り)と引
張試験から得られた降伏応力(斜線)との比較
みの論文からしか情報を得られなかった方々
と直接会って討論および情報交換を交わすこ
とができたことは、筆者の今後の研究にとって
大きな収穫となった。
転位論における弦モデルによれば、転位に対
最後に、今回の海外渡航に対してご援助頂い
する障害物強度は、転位が障害物から離脱直前
た日本原子力学会核融合工学部会に深く感謝
の転位の張り出し角度:φc を用いて、
の意を表します
α = cos(φ c 2) の様にあらわされる。観察結果
から得られた像より、張り出し臨界角:φc と
障害物間隔を測定し(図1(b))、Foreman お
よび Makin らの関係式により臨界せん断応力
を求め、巨視的な機械特性評価により得られた
降伏応力との比較をおこなった(図2)。斜線
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東北大学大学院工学研究科
大きな励みとなりました。また鋭いご指摘も頂
量子エネルギー専攻
けて、今後の研究を進めていく上で非常に参考
博士課程前期 2 年
小川
琢之
になりました。会場全体が活発な雰囲気で、有
意義な時間を過ごせたと思います。
2005 年 12 月 5 日~12 月9
日にかけて、ICFRM-12 が開催
Plenary session では核融合炉の展望につい
されました。この国際会議は
ての発表から始まり、核融合炉材料の現状と将
2 年周期で核融合炉材料に関
来についての発表など、比較的総括的な内容の
する情報交換の場として開
もので非常にためになる発表であったと思い
催されています。場所はアメ
ます。個人的には 6 日の日本原子力機構の関先
リカの California 州 Santa Barbara で、Fess
生の ITER、IFMIF から DEMO 炉建設を見据えた
Parker’s Double Tree Resort というホテル
今後の計画に関しての発表が印象に残りまし
を会場として開催されました。私は本会議に日
た。また、自分の研究分野である高熱流束機器
本原子力学会核融合炉工学部会より派遣助成
用材料としての W の重要性についても再認識
を受けて参加させていただきました。この場を
しました。ただ発表画面が会場の大きさにくら
借りてその報告と感謝の意を記したいと思い
べて少し小さい気がしました。後ろの席からだ
ます。
と発表資料が見にくかったので、折角の発表の
本会議では 25 カ国、約 600 人の方が参加し
ました。プログラムは 1 セッション 1 時間 20
場なので会場の全ての席から見えるようもう
少し大きければよかったなと思いました。
分で、午前の早い時間に plenary session、引
Parallel session では各材料や現象でセッ
続きお昼を挟んで午後の 3 時過ぎまで 2 回の
ションが構成されており、最新の研究報告がな
parallel session 、 2 時 間 40 分 の poster
されました。私の場合前述したように研究分野
session という構成でした。発表は会場のホテ
は高熱流束機器用材料ですが、W に関する発表
ルの広間で行われました。
の中には論文でみたことのある装置の図など
が使われており、実際に自分の読んだ論文の著
私は初日の 5 日に
”Effect of Microstructure on Exfoliation
者を目の当たりにすると身近なものに感じら
and Blistering Behavior of Various W by He
れると同時に刺激になりました。専門的な話な
Implantation at about 550C”
のでなかなかその場の発表だけで理解するこ
という題目で、核融合炉のプラズマ対向機器の
とは難しく、論文をもっとよく読んでおくべき
候補材料である W の He イオン照射による表面
であったと自分の勉強不足を悔やみました。ポ
剥離挙動に関するポスター発表を行いました。
スター発表でもそうでしたが、いくつか興味深
自分の英語に不安なことと、発表が初日という
い発表があったので proceeding が楽しみです。
こともあり、開始前は非常に緊張したことを覚
8 日のお昼には、California 大学 Santa
えております。たくさんの方が私のポスターに
Barbara 校の見学に行き、様々な研究設備を見
来ていただきましたが、どの方も私の拙い英語
せて頂きました。ちょうど第1クオーターが終
に丁寧に対応してくださいました。非常に興味
わって休みの時期に入っていたため学生はい
を持っていただいた方もおり、「メールを送っ
つもより少なかったようですが、大学が広大で
てほしい」、
「Good Work!」といった言葉を頂き
スケードボードに乗って移動している学生が
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多かったのが印象的でした。大学に限らず、
今回初めて国際会議に参加しましたが、ポスタ
Santa Barbara 自体穏やかな雰囲気で快適なと
ー発表をはじめ、いろいろな方の発表を聞いた
ころだと思いました。また夜の banquet では、
り、議論をしたりすることで大変貴重な経験が
オランダ人の研究生とテーブルを共にしまし
できました。今回の経験を基にさらに勉強およ
た。彼は日本を含めいくつかの国に留学をして
び研究に精進しなければと痛感しました。最後
おり、知人が多いようでした。積極的にいろん
となりましたが、今回このような場に参加する
な人に声をかけていく姿勢をみて感心させら
機会を与えて頂いた研究室の阿部教授と長谷
れると同時に、自分ももっともっとがんばらな
川助教授、また助成をしていただいた日本原子
いといけないなとよい刺激になりました。次回
力学会・核融合工学部会に深く感謝いたします。
会う機会があれば、英語を上達させてより深い
話ができればと思っております。
ICFRM-12 の会場となった Fess Parker’s Double Tree Resort Hotel
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