広島修道大学 人間環境学部 教授 宮坂 和男 教授 中園 篤典 教授 松田 克進 環境に対する意識を構築し、学びの基礎知識を身につける マインド、リテラシー形成の学び Q 人間環境学部で学んでいくうえで 必要な基礎学力とは? 勘所が分かってくるはずです。 ■中園:宮坂先生、学力向上のために具体的に必 要なことはなんでしょうか? ■宮坂:思考力や判断力を養おうと思えば、考える 題材になる具体的な内容が必要です。そのために ■松田:大学で学ぶにあたって必要な 「学力」 とは たちにはぜひ気をつけてほしいと思います。 「構造」 と は本を読んで、具体的な問題に接することが重要で 何でしょう? は、 「 言いっぱなし」 ではなくて、 そこに理由とか論拠と す。今日の環境問題を考えようとすれば、小宮山宏 ■中園:学校教育法では、 「 学力」の重要な要素に いうものがあり、理由が主張を支えている、 つまり結論 著『 低炭素社会 』 ( 幻冬舎新書)や、田中淳夫著 ついて、第一に基礎的な知識・技能、第二に課題を が論拠に支えられている、 ということです。 この「構造」 『割り箸はもったいない?』 (ちくま新書) といった本を 読むことを勧めます。断片的でないしっかりとした知 解決するための思考力・判断力・表現力、第三に学 によって文章には説得力が出てきますし、思考や判 識は書物から得られます。本を読むことは時間もかか 習意欲、 と定義しています。高校生の多くは、知識の 断に迫力が生まれてくるわけです。 るし骨も折れますが、 日頃から文字を追う習慣を身に 集積である第一の要素、例えば暗記する力を学力と ■宮坂:説得力のある文章や主張には、 ある 「構 つけ、時間があれば本を読むように心がけることが重 考えているのではないでしょうか。 造」 があるということですね。 要です。 しかし、思考力・判断力・表現力、学習意欲も学力 ■松田:そうです。人間は 「なぜなのか?」 と理由を問 ■中園:読書は最も身近で簡単、 しかし有力な学力 の重要な要素です。これらはテストで測定できない、 う存在です。他の人の主張や訴えを聞いたとき、 「そ 強化法ということですね。 いわば「見えない学力」 ですが、学力には違いありませ れはなぜなのか?」 という問いに対する答えが返ってこ ■宮坂:それが習慣化できれば本を読むのは苦痛で ん。 そのため、 やる気はあるのにテストの点がついてい なければ、肩透かしを食らった気分になり、 がっかりす なくなります。 そうして得られる思考の技術や本から得 かない場合でも、大学入学後、伸びる可能性が十分 るものです。 そのような主張や訴えには何の力も感じ られた知識は、必ず貴重な内面的な財産になります。 にあります。高校時代は勉強が苦手だったけれど、大 ません。環境問題についても、 「自然環境を守るため 大変で一見むだに思えても、毎日の努力を欠かさない 学での学びを楽しんでいる学生は大勢います。 には、 こうしましょう。 こういった政策をとりましょう」 と主 ことを若い人には訴えたいですね。 ■松田:大学に入ってはじめて学びの楽しさを感じ 張するとき、 そこにきちんとした理由や説明が備わって 同じことは英語をはじめとする外国語の勉強につ ている学生も多いでしょうね。 いなければ、人々を説得することができず、人々を動か いても言えます。外国語の勉強は退屈で、 すぐに成 ■中園:大学生になると学力における第二の要素、 すこともできません。 果が現れないことも多いですが、毎日続けていると、 問題解決のための思考力・判断力・表現力がますま ■中園:先に述べたPISA型読解力とも関連します 間違いなく効果が現れてきます。必ず役立つ時がき す重視されるようになります。大学において必要とさ が、 そのような力を身につけるいい方法はありますか? ますし、内面の世界を広げるための貴重な財産にな れる学力は何かと問われたら、私は母語でも外国語で ■松田:高校生の皆さんが、 「力のある主張や文章 ります。 も、 「なぜ」 と尋ねられて 「なぜなら、…」 と論理的に説 には 『構造』 が備わっている」 ということを学ぶための 明できる言語力であると思います。これはPISA型読 絶好の教材は新聞です。新聞を読むことを習慣化し、 そうした地道な勉強ができるのは、時間的にも体力 的にも若い時期です。高校生の皆さんは、 日々の地 解力と呼ばれ、近年注目されているものです。 「社説」や「特集記事」 をぜひ読んでほしいですね。 そ 道な努力を習慣にすることを心がけてください。 それは ■宮坂:そのような 「学力」 を伸ばす上で不可欠なこ して、 それらの記事が主張とそれを支える理由によっ すぐには成果が現れなくても、続けると必ず大きなも とは何だとお考えですか? て構成されているという 「構造」に気付いてほしい。 そ のが得られて、 かけがえのない財産になることを身を ■松田:大切なことは、文章の「構造」 をとらえること うした経験を積み重ねてゆけば文章の読み方ばかり もって知って欲しいですね。 です。考え、判断し、表現するとき、 このことを高校生 か、説得力のある論理的な文章の書き方についても 教員紹介 マインド形成科目 緒方 知徳 准教授 博士(学術) ●主な担当科目 身体の健康/マインド形成特殊実習 など ●専門の研究分野 運動生理学、運動生化学 骨格筋横断面の免疫組織 化学染色写真 私たちの身体の動きを支える骨格筋は、運動を続けると太くなったり、ずっと使わ なかったり高齢になってくると細くなるなど様々な変化を見せます。私は、①様々な刺 激や生体環境の変化に対して骨格筋がどのようにしてその働きを保っているか (適 応しているか)、②不活動や老化によって起こる筋肉の脆弱化を止める方法はない かを骨格筋細胞内のタンパク質や遺伝子の変化を調べることで明らかにしようとし ています。 ※左写真:活動量が低下した筋肉内では、細胞死を起こしている核(矢印) が増え、 筋肉が萎縮します。 私の研究のホームグラウンドは、17世紀ヨーロッパの合理主義(理性主義)哲学 です。個別の哲学者としてはデカルトやスピノザなどを研究してきました。特に惹きつ けられたテーマとしては「自由意志と決定論」 をめぐる問題があります。これは現代哲 学においてもさかんに議論されている大問題のひとつです。 また、最近では、18世紀 イギリスの道徳哲学にも興味があります。アダム・スミスといえばふつう 『国富論』 を著 した経済学者として有名ですが、彼のキャリアの出発点は「道徳感情」の分析です。 このスミスや、 ヒュームといったイギリス哲学者の思想についても研究を進めてゆきた いと思っています。 松田 克進 教授 博士(文学) ●主な担当科目 現代環境思想/自然と人間の哲学 など ●専門の研究分野 西洋近代哲学 哲学と倫理学が専門分野です。近年は、環境倫理学や生命倫理学に関する、今 日ならではの問題について考えています。環境倫理学のテーマとしては、将来世代に 対する責任の問題について考えています。現在の人間が便利な生活を享受すると、 まだ生まれていない人たちがその分非常に不便な生活を強いられることになるかもし れません。その人たちに対して私たちはどのように責任を果たしていかなければならな いか、考えています。 また、生命倫理学のテーマとしては、脳死や尊厳死をはじめとす る終末期医療の問題について考えています。 宮坂 和男 教授 博士(文学) ●主な担当科目 科学技術と倫理/倫理学 など ●専門の研究分野 哲学・倫理学 リテラシー形成科目 原始地球の表面は高温の海と高圧二酸化炭素の大気からなり、巨大隕石・放射 線・紫外線などが絶え間なく降り注ぐ今とは全く異なる環境でした。このような環境は 現在の生命にとっては過酷すぎますが、生命の素材となる有機物が作られるのには 適していました。生命が地球にどのように出現したのかという問題はいまだに明らか ではありません。私は、原始地球上で起こった化学反応を調べるために、世界にも例 のない新しい装置を作り、単純な化学物質の集団がどのようにして本物の生命に 至ったのかを明らかにする研究を進めています。 川村 邦男 教授 工学博士 ●主な担当科目 化学/リテラシー形成特殊講義 など ●専門の研究分野 分析化学、生命の起源 高橋 恭一 教授 アメリカナマズ アメリカナマズ網膜水平 細胞の顕微鏡写真 医学博士 ●主な担当科目 生物学/生物情報と環境 など ●専門の研究分野 視覚神経生物学 黒線の長さは0.05ミリメーター 私の専門は、 日本語学です。人間環境学部では、 「日本語運用論」 「日本語の技 術」 などを担当しています。高校の「国語」 という科目は、大学では「日本語」 と呼ばれ ます。 「国語」は、国が定めた標準語(共通語) です。明治時代に地域ごとに言葉が 違って不便であったため作られました。国語教育は高校で終わり、大学では、言葉 (漢字、語彙、敬語、慣用句など) のテストはありません。その代わり、国語を自己表現 の道具(日本語) として使うことが求められます。だから、大学生は、常に言いたいこと は何か、 それをどう表現するかを考える必要があります。私は、 自分の授業で、皆さん がその意識を醸成する手引きをしたいと思います。 中園 篤典 教授 修士(地域研究) ●主な担当科目 日本語学/日本語運用論 など ●専門の研究分野 日本語学、国語リメディアル教育 中野 進 教授 理学博士 ●主な担当科目 環境科学/中国地方の自然環境 など ●専門の研究分野 昆虫生態学 約5億年前動物に「光を感じる」 ための器官が誕生し、 その後「物を見る」 ための眼 へと進化してきました。現在、外界を捉えるための手段として、多くの動物において 「物 を見る (視覚)」 が最も重要な感覚であると考えられています。眼に飛び込んだ光が視 細胞に衝突すると、視細胞では光−化学反応が進行し、電気的な応答を発生しま す。 この電気的応答は複数の神経細胞を経由して脳に到達し、形、動きや奥行などを 形成します。私は、視細胞で発生した電気的応答が他の神経細胞にどのように伝播 してゆくのかに興味を持ち研究しています。今、魚類や両生類の網膜を実験材料とし て使い、視細胞と水平細胞 (第二次神経細胞) とのつながりを調査しています。 トレンチを作るインドネシア産 マダラテントウ 植物の葉を摂食し、時にはウリ科やナス科(キュウリやジャガイモの仲間) の作物 害虫となっているテントウムシ (マダラテントウ類) の生態や種分化を、 日本やインドネ シアで調べてきました。今、興味を持っているのは、 ウリ科植物の葉で見られるトレン チ (溝掘り)行動です。口器で葉に丸い切れ込みを入れた後、 その内部を摂食するこ の行動は、 テントウムシ、ハムシ、 ガの幼虫などで見られ、 「 植物が師管を通して送る 粘着物質(摂食阻害物質) の流入を止めるための行動」 と説明されています。マダラ テントウの場合、孵化したばかりの幼虫や晩秋の時期の成虫ではトレンチが作られ ず、粘着物質説が本当に正しいのか調べているところです。
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