ズルカマラ(ビタースイート、ツルナス) [ナス科] Solanum dulcamara 森林や低木林、生け垣のそば、沼地 は、魔女に狙われることのないように、 に見られる。多年生のつる性植物で、3 羊の首にズルカマラをぶら下げていた。 メートルほどの高さに達することもあ 紀元1世紀ごろ、ディオスコリデスは る。刺激臭のある葉を持ち、ジャガイモ 吹き出物やにきびの治療にこの植物を の花のような小さな青紫色の花(雄しべ 使った。後の時代には、結核、リウマチ、 はオレンジ色) をつけ、楕円形の赤い実 無月経にも処方されるようになった。 を房状に結ぶ。ベラドンナほど毒性は強 ちがえて食べ、死亡したケースが多い。 1792年のウッドヴィルの記述によれば、 ある犬にズルカマラの実を 30個食べさ せたところ、3時間で死亡したが、後に ほかの犬にその 6倍に当たる量を食べさ 学名の dulcamara は dulce amara せても、何の変化もなかったという。し に由来し、〝甘くて苦い〟 を意味する (英 かし過剰に摂取すれば、中枢神経系が くないが、死亡事例がないわけではな い。とりわけ子供がフサスグリの実とま 語名の bittersweetも同様)。そのとお 麻痺し、呼吸器系が破壊され、いずれ り、実を食べると最初は苦いが、やがて 発作を起こして死んでしまう。また、言 甘くなるという。 solanum は solamen 語障害を引き起こす場合もある。魔女 から派生した語で 〝癒し〟 を意味する。こ の呪いにより口がきけなくなるという話 の植物がハンセン病の治療に効果が があるのは、そのためかもしれない。 あったからだろう。かつて指先がひょう 現在では、薬草医がヘルペス、アレル 疽に侵されると、この実をベーコンとと ギー、粘膜関係の疾患の治療に使用し もにつぶして塗布したため、felonwort ている。主な毒成分は、デュルカマリン (〝ひょう疽の草〟の意) という別名もあ とソラニンである。 る。だが、皮膚から毒素が吸収される 場合もあるので、家庭で試したりしない ように。また、羊飼いの間には、ズルカ マラは羊の群れを悪魔から守ってくれる という言い伝えがある。そのためかつて 16
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