第25回メディアとことば研究会 環境問題に関するテレビニュースの ディスコース分析 環境・人間・経済はどのように語られているか 1 兵庫県立大学環境人間学部 糟屋美千子 1.はじめに 本分析の目的 y 環境問題に関するテレビニュースのディスコース を分析し、どのような考え方が構築されているか を明らかにする。 y 深刻な環境問題がある現代社会において、少しで も問題を解決していくには、メディアはどのよう な報道をしたらいいのか考える。 2 2.研究方法 (1) 分析手法・分析項目 CDA(Critical Discourse Analysis)を手法として 用いる。 考え方の枠組みがどのように構築されているかを言 語的要素・非言語的要素など多面的にみていく。 1. 話の展開 2. 情報の選択 3. インタビューの選択 4. 語の選択 5. テロップの使用 6. 映像の使用 3 2.研究方法 (2) データ y 環境問題に関するテレビニュース(午後7時NHKニュー ス)をデータとして使用する。 「エコ検定」(2008年12月21日) 2. 「エコギフト」(2008年7月13日) 1. 「エコ検定」のニュースを「エコギフト」のニュー スと比較することで、「エコ検定」のニュースによ り構築されている考え方をより多面的にみていく。 4 3.ニュースの概要 (1) エコ検定(2008年12月21日) ①アンカーによるニュースの紹介 y 経済情勢が厳しさを増す中、ある検定試験(エコ検 定)が今人気を集めています。背景には、検定試験 への合格を企業の営業や就職活動に役立てようとい う動きがあります。 ↓ ②エコ検定の説明 y エコ検定は環境に優しい取り組みをする人を増やそ うと…始めました。70%正解すると合格し、エコ ピープルと認定されます。 ↓ 5 3.ニュースの概要 (1) エコ検定 ③受験者急増の背景説明1 y 受験者が急増する背景、そこには経済情勢が厳しさ を増す中、環境への優しさを売りにしたり、営業に 生かす企業が増えていることがあります。(会社員 2名のインタビュー) ↓ ④受験者急増の背景説明2 y 就職活動の武器にしようという動きも広がっていま す。(大学生1名のインタビュー) y エコ検定に合格すれば、環境問題に意識の高い企業 へのアピールになると考えています。(試験会場と 別の場面での同じ大学生へのインタビュー) 6 3.ニュースの概要 (2) エコギフト(2008年7月13日) ①アンカーによるニュースの紹介 y 環境問題への関心が高まる中、地球に優しいを売りに した贈り物、エコギフトが人気です。 ↓ ②例1 y 東京の百貨店です。中元用に初めて地球に優しいギフ トコーナーを設けました。(とうもろこしのエコバッ グ・無農薬の綿のタオル販売。売り場の消費者から 「興味ある」「好き」「実際に使える、それで自然に 優しいって、一番いい」などの評価) ↓ 7 3.ニュースの概要 (2) エコギフト ③例2 地球環境に直接貢献したい人向けのユニークなエコギ フトも登場しました。(自分の子どもへの誕生日プレ ゼント、結婚式のカップルへの式場からのサービスと して。「お祝い事なので、それのついでに地球に貢献 できれば、一石二鳥」の声) ↓ ④まとめ y 地球に優しい思いが詰まったエコギフト。贈り物を選 ぶ新しい基準になるかもしれません。 y 8 4.分析 「エコ検定」の分析 (1) 「話の展開」と構築されている考え方 y ニュースは、人々に社会についての物語を語る役割 を果たしている(McQuail 2005) 。 y ニュースの始めの部分は、製作者が最も大事だと考 えるニュースのテーマが提示される部分である(van Dijk 1988)。 経済情勢が厳しさを増す中、ある検定試験(エコ検定)が今 人気を集めています。背景には、検定試験への合格を企業の 営業や就職活動に役立てようという動きがあります。 9 4.分析 (1) 「話の展開」と構築されている考え方 y 最後の部分は、ニュースのまとめとなり、製作者の 望む意味に導く部分である(Hartley 1982)。 y 対話形式は、身近で当たり前のことのような印象を 与える効果がある(Fowler 1991)。 アンカー「2時間の試験が終了しました」 レポーター「どうだったですか」 大学生「合格ラインぎりぎりのような感じです」「就職活動 に役立てて、入った後も…エコ検定の資格を役立てていきた いなと思います」 10 4.分析 (2) 「情報の選択」と構築されている考え方 y y y ある情報が選ばれることによって、特定の見方が構 築される (Fairclough 2003)。 「エコ検定は環境に優しい取り組みをする人を増や そうと始められた」ということが主催者の意図であ り、そのことをニュースの中でも言っている。 しかし、「受験者が急増した背景には、営業に生か す企業が増加したことがある」と「就職活動の武器 にしようという動きも広がる」という話に。 11 4.分析 (2) 「情報の選択」と構築されている考え方 エコ検定の趣旨(エコ検定のHPより) 1. 社会の中で率先して環境問題に取り組む人づくり 2. 環境と経済を両立させた社会を目指す y エコピープルとは(エコ検定のHPより) 環境問題に対する知識から生まれる問題意識を日常 の行動に移そうとしている(既に活動している)人 y y 1. 2. ニュースでは 「環境に優しい」「エコピープル」について具体的 な説明はない。 エコ検定の受験者が増えた背景として経済情勢の悪 化が強調されている。 12 4.分析 (3)「インタビューの選択」と構築されている考え方 インタビューについて、どのインタビューを使うか の選択権はニュースの製作者にある(Hartley 1982)。 y 会社員2名のインタビュー 1. 会社の推奨資格になっておりまして、会社での評価 につながる。 2. 全従業員受けてみなさいと。省エネの高い製品を勧 めるのに、そのバッグボーンになるじゃないですか。 y 13 4.分析 (3)「インタビューの選択」と構築されている考え方 就職活動中の大学生1名のインタビュー 1. 金融不安とか、リーマンショックとかの影響もあっ て、採用数減らすとか危ないんじゃないかなという 危機感はみんなもっています。 2. 絶対的に有利になるとは思います。 3. CSRとか環境活動するに当たって必要になるし、ま あ企業としてもそういう人材がほしいとは思ってい るんじゃないかなと思います。 y 14 4.分析 (3)「インタビューの選択」と構築されている考え方 エコ検定の取得の対象(エコ検定のHP) ①企業に勤めている人、②学生、③一般の人 y 合格者の声(エコ検定のHP) 1. 合格後、ボランティアに参加した、今後も環境活動 の場を広げていきたい。 2. 子どもとごみ拾いや資源分別をやっている。 y ニュースのインタビューでは 1. 対象は会社員と学生。 2. 会社員や学生の普段の生活での取り組みについては 触れられていない。 y 15 4.分析 (4)「語の使用」と構築されている考え方 どのような語を選択するかによって、特定の見方に 基づいて世界を描写することになる(Fowler 1991)。 1. 経済情勢の悪化や不安を表す語 「金融不安」「景気の悪化」「ショック」「厳しさ を増す」「危機感」「採用が減る」 2. 競争をイメージさせる語 「絶対的に有利」「アピール」「武器」 y 16 4.分析 (5) 「テロップの使用」と構築されている考え方 テロップはニュースを解釈するための枠組みを示す (塩田 2005)。 1. 「営業に、就職にエコ検定が人気」(常時左上に) 2. 「2万人余が受験」「70%正解→エコピープルに認 定」(アンカーの言葉に合わせて、「2万人」は赤 字で強調) y 17 4.分析 (6) 「映像の使用」と構築されている考え方 映像は、言語とともに、ある側面が重要であるとい うメッセージを送ることができる (Kress & van Leeuwen 1996)。 y 会場に、多くの人々が入っていく様子。 y 試験会場での映像:受験者と試験会場。 y 会場でテキストを黙読している人たちの姿。 y 大学生のスーツ姿でエコ検定の勉強をしている姿。 y 最後の部分で、大学生が「就職に役立てて」という ところでクローズアップ。 y 18 4.分析 「エコ検定」で構築されている考え方のまとめ y y y 様々な言語的要素・非言語的要素によって、次のよ うな考え方が前提に。 営業や就職に役立てるためエコ検定が人気である。 経済情勢が悪化している中、エコ検定に合格すると 営業や就職に有利に。 経済が前面に出て、環境問題が背景に。 19 4.分析 「エコ検定」と「エコギフト」の比較 (1) 共通点 冒頭で「~の中~が人気です」と、人気があると考 えられたものを紹介。このように断定することによっ て前提となる(Fowler 1991)。 y 「地球に優しい」「環境に優しい」という言葉の使 用。 y 経済に関する側面が伝えられている。 「エコ検定」:営業・就職・競争 「エコギフト」:市場を通ったギフト y 20 4.分析 (2) 相違点 異なる背景が伝えられている。 「エコギフト」:「環境問題への関心が高まる中」 (環境に貢献したいことが強調) 「エコ検定」:「経済情勢が厳しさを増す中」 (経済的な側面が前面に) y 21 5.考察 構築されている考え方の問題点 y y y y 環境問題の深刻さや緊急性が伝わりにくい。 環境対策と景気対策の間の矛盾。 環境問題に対する最良の対策を考えていくことがで きているか。 社会の考え方がテレビニュースに表れ、テレビニュー スで伝えられることによって強化されている。 22 発表者名:糟屋美千子(兵庫県立大学環境人間学部) タイトル:環境問題に関するテレビニュースのディスコース分析 - 環境・人間・経済はどのように語られているか キーワード:テレビニュース、ディスコース、言語的要素、非言語的要素、環境問題 概要:環境問題が深刻化する現代社会において、環境問題に関するテレビニュースのディスコー スは社会に大きな影響を与えると考えられる。しかし、テレビニュースのディスコースは、その 影響力が大きいにも関わらず、記録されることなく消えていく。また、そのメッセージは必ずし も表面に表れているわけではない。したがって、そのニュースのメッセージや社会的影響を明ら かにするためには、ニュースを記録し、そのディスコースを詳細に分析することが必要である。 ここでは、昨年末、経済情勢の急激な悪化が連日報道された中で報じられた、環境問題に関する ひとつのテレビニュースを取り上げ、そのディスコースの言語的・非言語的要素を分析する。そ して、その中で、環境・人間・経済がどのように語られているかを検討することにより、そのニ ュースのメッセージや社会的影響を考察し、そこに表れている我々の社会がもつ考え方を明らか にすることを試みる。 参考文献 Fairclough, N. 2003. Analysing discourse. London: Routledge. Fowler, R. 1991. Language in the news: Discourse and ideology in the press. London: Routledge. Hartley, J. 1982. Understanding news. London: Methuen. 環境省編 2008.平成 20 年版環境循環型社会白書. 日経印刷 http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h20/index.html Kress, G. & van Leeuwen, T. 1996. Reading images: The grammar of visual design. London: Routledge. McQuail, D. 2005. McQuail’s Mass Communication Theory. 5th ed. London: Sage. 野呂香代子 2001. クリティカル・ディスコース・アナリシス. 野呂香代子・山下仁(編)「正しさ」 への問い―批判的社会言語学の試み. 三元社 pp.13-49. 塩田英子 2005. バラエティ番組における文字テロップの役割-発話理解のしくみを探る. 三宅 和子・岡本能里子・佐藤彰(編) メディアとことば2. ひつじ書房 pp.32-58. 高橋圭子 2005. 「クローズアップ現代」の<物語>-メディア・テクストの批判的分析.三宅和 子・岡本能里子・佐藤彰(編) メディアとことば2. ひつじ書房 pp. 62-97. 東京商工会議所 2009. 環境社会検定試験 (eco検定). http://www.kentei.org/eco/ van Dijk, T. A. 1988. News as discourse. Hillsdale, N.Y.: Lawrence Erlbaum Associates Publishers.
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