残さいや低利用水産物を利用して特産品となる加工食品を開発する

成長戦略シリーズ
農 業
残さいや低利用水産物を利用して
特産品となる加工食品を開発する
鹿児島大学 産学官連携推進センター
特任専門員
今回は水産学部進藤穣准教授の取組みを紹介します。
産官学連携による特産品『飛魚の雫』
水産学部食品工学研究室の進藤氏は、食品加工
の専門家である。進藤氏は現在、食品の製造工程
で産出される残さいや混獲により廃棄される低利
用水産物を利用した食品製造技術の開発に注力
している。食品リサイクル法の施行により、年間
100t 以上の食品廃棄物を排出する事業者は毎年
度、再生利用等実施率が業者ごとの設定基準を上
回ることを求められ、食品廃棄物の発生量や食品
循環資源の再生利用状況等の報告を義務付けられ
ている。
「加工残さいや未利用資源を利用した新
たな加工食品製造が産業化されれば、地域の活性
化にもつながります」。
代表例が、水産学部と西之表市との共同研究プ
ロジェクト(文部科学省・地域貢献特別支援事
業)から生まれた魚醤油『飛魚の雫』である。種子
島の特産品『トビウオのすり身』の製造工程で出
る頭・中骨を利用した魚醤油の開発依頼を受け
た。
「飛魚出汁の上質な味を活かした従来品にな
いものにしたい。処理速度を上げるため、新潟県
で考案された短期製造法を導入しました」
。これ
により低塩分が実現したが“コク”がなく、魚醤
油特有の臭みが残る。そこで注目したのがサトウ
キビの製糖工程で産出される廃糖蜜である。廃糖
蜜を加えて発酵させることで魚臭さが消え、香り
や旨味が増した試作品が完成した。
平原 彰子
依頼者との共同作業が開発の秘訣
魚醤油は水産学部から西之表市に技術移転し、
公募で決まった企業によって商品化された。西之表
市は、製麹の工程改良や販売法の検討等を行い、
企業はかごしま産業支援センターの助成金を得て
品質向上を検討。まさに産官学連携の成果である。
『 飛魚の雫』は「2007 年かごしまの新特産品コン
クール」奨励賞を受賞した。
未利用資源活用のため、進藤氏が取り組んだのが
小型エビの殻の軟化である。大量に混獲されるジン
ケンエビは、殻剥きに手間がかかるが安価なため、多
くが廃棄される。殻ごと柔らかくできれば、手間なく
惣菜品などの原料に利用できる。着目したのが、植
物の葉に含まれる酵素と有機酸緩衝液。これらで処
理すれば、殻のキチンやカルシウムが分解・除去さ
れて軟化し、酸味も感じない。コロッケの材料にして
も食感が良く、色味や旨味も向上した。小型エビの新
たな利用法として、各地から問い合わせがある。
残さいの処理や未利用資源の利用に悩む企業は
多く、進藤氏への相談も増えている。
「明らかになっ
ている科学的根拠・原理に従って課題解決するのが
我々の仕事です。美味しさの追究や売れる商品にす
るのは、その道のプロにお任せします」。要望に対応
する技術開発法を見つけ出すのは困難なプロセス。
アイデアを一緒に練り、実験段階から意見交換を続
けることでヒントが生まれる。
「廃棄物から特産品を
創る喜びを、共に味わいたいと願っています」。
学生による西之表市
での魚醤油の試作
(2005 年 11 月)
成果を発表する元西之表副市長
種子島秀洲氏(左)と進藤氏
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経済情報 2014. 9