National Commission of the Kyrgyzstan Republic for UNESCO

財団法人ユネスコ・アジア文化センター
第 3 回無形文化遺産保護のための集団研修
無形文化遺産保護事業の事例レポート:キルギス
キルギス叙事詩の語り部アキンの技術保護に関する国家プロジェクト
National Commission of the Kyrgyzstan Republic for UNESCO
(キルギス・ユネスコ国内委員会)
1. はじめに
キルギス叙事詩の語り部であるアキンの技は、2003年、UNESCOの「人類の口承およ
び無形遺産の傑作」に登録されました。当技は、様々な理由の中でも特に若い人た
ちの無関心と資金不足のために消滅の危機に瀕していたため、キルギスUNESCO国内
委員会とWPE(“World’s Peoples’ Eposes” NGO)の専門家がこの古い伝統を保
護するための国家行動計画を構築しました。その主要目的と活動は、旧世代から若
い世代へとアキンの技を継承するプロセスの構築です。当目的の達成に向けて、若
者学習センター(以下「スタジオ」という)ネットワークがキルギスタンの各地に
構築され、伝統的な「徒弟制度」による継承のための適切な枠組みが整備されまし
た。当プロジェクトのその他の活動も(トレーニング、アキンコンテスト、出版な
ど)、キルギスの口承伝統、特にはマナス英雄伝説のアーカイブ化・記録・プロモ
ーション活動を拡充することによって、当継承プロセスに貢献しています。
マナスは世界で最も長い叙事詩の1つで(一部のバージョンでは、約100万の詩行が
含まれています)、キルギスの文化遺産とアイデンティティにとって、計り知れな
い価値を有しています。マナスの文書化も19世紀後半に始まりましたが、口承は現
在に至るまで途切れることなく受け継がれています。マナスは現在でも公共の場で
演じられているだけでなく(頻度は激減していますが)、マナス語り部の複雑で美
しい技を学び、アキンになりたいと望む若者もいます。
従来、キルギスのアキンによって語られる口承詩には、以下の 3 つのタイプがあり
ます。
• 3大叙事詩:「マナス」、「Semetey」、「Seitek」(語り部たちはmanaschy
あるいは semeteichyと呼ばれています)
• 「ダスタン」と呼ばれる短い叙事詩(例:Kojojash、Er Toshtuk、Kurmanbek、
Sarinji-Bokoi、Er Tabyldy、Janysh-Bayish など。語り部は dastanchyと呼
ばれています)
• 民謡
キルギスの叙事詩はアキンの技と深く結び付いています。各叙事詩は特定のアキン
とその技に関連付けられ、また反対に、各アキンは特定の叙事詩と関連付けられて
います(レパートリー)。アキンは、キルギスの口承詩の担い手であると同時に、
その創造者でもあります。実際、最高の語り部とは、常に同じストーリーを維持し
つつ、パフォーマンスごとに即興で演じることができる人たちを指します。この点
に関連して興味深いのが、aitysh (アイティシュ)– 2 人のアキン即興名人による
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伝統的な試合-です。通常、アイティシュは大観衆の前で行われますので、アキン
が技を磨き、完成させていく上で、大きな役割を担っています。
当プロジェクトによって、キルギス国民のマナスや叙事詩語りに対する関心が高ま
ることが期待されています。このような取り組みは、最終的にアキン伝統の全国的
な復活に繋がると同時に、叙事詩語りを職業に選ぶ人たちに名声と将来の展望を与
えるものです。
2. プロジェクト目標
当プロジェクトの長期目標はキルギスのアキンの技を保護することですが、さらに
は、国家政策の開発および「人間国宝」やキルギスタン無形文化遺産国家インベン
トリーなどのプログラムの開発に向けて、その基礎を築くことを目的としています。
当プロジェクトの中期目標
- マナス叙事詩の内容に対する一般大衆の認識と知識を高める。これはアキンの技
に対する関心を復活させる上で重要なステップです。
- 出版、コンテスト、その他の促進活動を通して、アキンの技に対する知識と関心
の「水平」(小規模な聴衆から大規模な聴衆へ)伝達を促進する。
- キルギスタンの各地に8つのスタジオを設立することにより、キルギスのアキン
の知識、経験、スキル、技の「垂直」(世代間)伝達をサポートする。
- 適切なトレーニングワークショップや学術会議を開催することによって、アキン
の技の保護・伝達に関する地方および国家の能力を培う。
3. プロジェクトの実施方法
従来、キルギスの各アキンは学生や弟子たちに対して指導者や教師の役割を果たし
てきました。これらの弟子たちが次の世代の学生/弟子たちの指導者となることに
よって、アキンの技が口承されると同時に、この指導「メカニズム」を通して、ア
キンの技も磨かれて来ました。当メカニズムはアキンの技の保護・継承に不可欠な
ものであるため、旧世代のアキンから若い世代のアキンへと口承が行われる若者学
習センター(スタジオ)の設立と運営を当該プロジェクトの主要活動と位置付けま
した。
2006 年、文化省、地方自治体、NGO などの協力の下に、キルギスタンの各地に 8 つ
のスタジオを開設しました。関連地域の各自治体との間に、地元の文化センターを
無料で借り受ける特別協定を結び、運営委員会が当該地域に住む著名なアキンを若
い世代のアキンの指導者として選びました(1 指導者/スタジオ)。この運営委員
会は、プロジェクトの行動計画に基づいて設立されたもので、語り部(著名アキ
ン)、学者、政府代表者で構成されています。当委員会の役割は、プロジェクト実
施をモニターし、各流派のスタジオを援助することです。
当プロジェクトの枠組み内で、「叙事詩伝統のテキスト化、デジタル化、アーカイ
ブ化」に関するトレーニングコースを構築し、「叙事詩とその保護」に関する国際
会議を開催しました。また、マナス叙事詩とアキン伝統の普及を目的として、キル
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ギスの各地を回るコンサートツアーや各流派別スタジオでの学生コンテストを実施
しました。これらのコンテストには、有能な若いアキンを発掘するだけでなく、彼
らに聴衆を前に演じる機会を提供するという重要な役割があります。さらに、これ
らのコンテストは、アキン試合の伝統の復活を促進する役割も果たすのではと期待
されています。これらの活動の視聴覚データも記録しましたので、より広範囲の聴
衆に向けてアキンの技を宣伝するために、今後 CD や DVD にして普及活動に活用する
予定です。
4. 結論
当プロジェクトを実施した結果、マナスおよび叙事詩語りに対するキルギスの人々
の関心が高まりました。このような関心の高まりは、最終的に全国レベルのアキン
伝統の復活を促進するだけでなく、叙事詩語りを職業に選ぶ人たちの将来の展望を
高めることにも繋がります。当プロジェクトによる活動は、マナス叙事詩の内容に
対する一般市民の認識と知識の向上を促進しました。これは、アキンの技に対する
関心を復活させる上で不可欠な要素です。このような促進活動は、アキンの技に関
する知識と関心の「水平」(より小規模な聴衆から大規模な聴衆へ)伝達を促すと
同時に、キルギスタン各地の流派別スタジオを通して、キルギスアキンの知識、経
験、スキル、技 の「垂直」(世代間)伝達を支援することに繋がります。アキンの
技の保護・伝達に関する地方および国家の能力も、当プロジェクト実施期間中に開
催した適切なトレーニングワークショップや学術会議を通して培われました。
*レポートは英語で提出され、ACCU が英訳しました。
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