摂食障害(拒食・過食)と心の関係

平 成1 6 年 度 「 知 の 交 響 楽 」 第 4・ 5 章 「 ゼ ミ Ⅰ ・ Ⅱ 」
個 人 研究 論 文
わたしの研究テーマ
摂食障害(拒食・過食)と心の関係
目
序
章
第1章
第2章
次
研究の動機
第1節
摂食障害とは??
第2節
摂 食 障 害 の 歴 史 と 今 、 そ し て こ れか ら
第3節
拒 食 症 ・ 過 食 症 に お け る 精 神的 症 状
第4節
摂食障害の身体的症状
第5節
摂食障害における治療方法
第6節
摂食障害の予後・転帰
第1節
摂食障害のかたち∼症例より∼
第2節
症例の考察
第3節
摂 食 障 害 の か た ち ∼ 私 の 体 験 か ら∼
第4節
自分 の体験の 考察
第5節
まとめ(感想)
参考文献
熊 本 県 立 熊 本 高 校2 年 4 室
カテゴリー№7
カテゴリー№
クラス№1
カテ ゴ リ ー 顧 問
-1-
堤
心理学系統
森川先生
序章
研 究の 動 機
自分も中学3年 生の頃から2年 半、過食症と共に過 ごしてきたので「自分 がなぜ過食症に
なったかのか」 を客観的に見て これからに生かして いきたいと思った。ま た、摂食障害の
患 者が 増 え て い る 中 で 、摂 食 障 害 に つ い て ほ と ん ど 知 ら な い人 が 多 い と い う 事 実 を 受 け て 、
も っと た く さ ん の 人 に 摂 食 障 害 の 理 解 を 深 め て ほし い と 思 っ た 。
第 1章
第 1節
摂食障害とは??
摂食障害には 、ほとんど食べ なくなる拒食症(専 門的には神経性無食欲 症)と、驚くほ
ど食べる過食症 (神経性大食症 )がある。拒食症は 多くは若い女性で、や せたいという強
い気持ちから食 べ物を食べなく なり、ひどくやせて しまう。過食症の大半 は拒食の後で反
動として起こる 。過食してもや せたいので、嘔吐す るか下剤を乱用する。 中には、拒食と
過 食 を 繰 り 返 す ケ ー ス も あ り 、「 食 べ な い 」 と 「 食 べ 過 ぎ る 」 と 、 ち ょ っ と 見 る と 全 く 違
う もの だ が 、 拒 食 症 と 過 食 症 の 根 っ こ は 同 じ で ある 。
摂食障害はダ イエットの習慣 と密接な関係があり 、ダイエットのある社 会ではどこでも
見られる。それ は「やせ願望」 や、体型に関する社 会的プレッシャーが大 きいためと考え
ら れる 。 発 症 の 原 因 には 認 知 調 節 系 ( 大 脳 ) や 代 謝 調 節 系( 視 床 下 部 )が 関 与 し て い る が 、
その他に女性ホ ルモンによる影 響や受験、友人関係 といったストレスの増 加、家庭内の問
題など多くの要 因が複合的に関 与しているといわれ ている。また、真面目 で頑張り屋が多
い など 、 本 人 の 性 格 も 関 係 し て い る と い わ れ て いる 。
第 2節
摂食障害の歴史と今、そしてこれから
●いつからあっ たのか…医学的 に最初に記録したの はモルトンで17世紀 のことだった。
日本ではテレビ が普及してきた 1960年代に拒食 症が、コンビニエンス ストアが増えて
き た7 5 年 以 降 に 過 食 症 が 急 増 し た 。
● 現状 … 男 女 比 は 1 : 5 と 圧 倒 的 に 女 性 が 多 い 。大 き な 病 院に は 年 間 に 6 0 0 0 人 が 受 診 。
こ れ は 若 い 女 性 の 3 0 0 0 人 に 一 人 の 割 合 で あ る 。( た だ し 、 患 者 は 自 分 の こ と を 病 気 だ
と 思 っ て い な い 場 合 が 多 く 、 な か な か 受 診 し な い た め 実 際 は も っ と 多 い は ず で あ る 。) 学
校 で調 査 す る と 高 校 生 の 4 0 0 ∼ 5 0 0 人 に 一 人の 割 合 。
●これから…ア メリカでは女子 大生の4∼5%が過 食症である。我が国は 1960年代の
半ばまで過食症 はほとんどいな かった。それが現在 では拒食症より過食症 の方が多い状態
にある。このよ うに文化的な影 響を受けているため 、近い将来、アメリカ のようになるか
も しれ な い 。
第 3節
拒食症・過食症における精神的症状
大抵の女性が やせ礼賛の風潮 の中で痩せたいと思 ってダイエットをする 。そのうちで、
何事も完全にし たいと思う強迫 傾向の人は、つい徹 底的にダイエットをし てこの病気にな
ってしまう。ま た、人に「太っ ている」などと言わ れるのをひどく気にし すぎる人もこの
病 気に な り や す い 。
-2-
ずっと食欲を 抑えているとか えって食べ物のこと が気になり、食べ物の ことで頭がいっ
ぱいになる。は じめは確かに自 ら食べないが、やが て脳の食欲中枢のしく みに乱れが起こ
ってきて本当に 食べられなくな る時期もある。何を どれだけ食べたらいい のかわからなく
なり、少しでも 食べると過食し てしまいそう、そう するとブクブク太って しまうのではな
い かと 、 怖 く て 食 べ ら れ な い と も 言 う 。
こんなことか ら過食症に移行 すると、短時間のう ちに大量の食べ物を食 べてしまってや
めようと思って もやめられなく なる。また、過食し た後に太るのではない かと、うつ状態
になり、少し太 ったりすると、 人にどう思われるか を気にしてひきこもっ てしまうことも
ある。対人的に は無理して対応 しようとしているが 、それが難しくなると 孤立する。母親
と はベ ッ タ リ の 共 生 関 係 に な る こ と が あ る 。
第 4節
摂食障害の身体症状
表 1 神 経 性 食 欲 不 振 症 の 診 断 基 準( 1990 )
● 拒食 症 の 症 状
1 標 準 体 重 の − 20 % の や せ
・ 食べ 物 を ほ と ん ど 食 べ な い 。
2 食 行 動 の 異 常 ( 不 食 、 大 食 、隠 れ 食 い )
・ ひど く や せ て い て 、 体 重 は 3 0 ㎏ 前 後 。
3 体 重 や 体 型 に つ い て の 歪 ん だ認 識
・ 体温 や 血 圧 は 低 く な り 、 脈 拍 も 少 な い 。
4 発 症 年 齢 : 30 歳 以 下
・ 首筋 や 手 の う ぶ 毛 が 濃 く な る の も 特 徴 。
5( 女 性 な ら ば ) 無 月 経
・女性ではすべての患者で月経がなくなる。
6やせの原因と考えられる器質性疾患がない
・ 疲労 し や す い 、 め ま い 、 立 ち く ら み 、 体 の 冷 え 。
● 過食 症 の 症 状
( 厚 生省 特 定 疾 患 ・ 神経 性 食 欲 不 振 症調 査 研 究 班)
過 食 症 だ け で も い ろ ん な タ イ プが あ る 。
① 過食だけし かしない人…体型 の変化など。とにかく ひたすら食べる。 食べるのが止ま
ら ない 場 合 は 、体 重 が 増 加 。過 食 の 合 間 に 絶 食 を 繰 り 返 し たり 、激 し い 運 動 を す る こ とで 、
体 型を 維 持 す る 患 者 も 多 い 。 絶 食 ・ 運 動 を 並 行 する 人 は 、 体 型 も 標 準 。
② 過食嘔吐す る人 …「食べ 過ぎた分を吐く」とい う感じ。本当は全部吐 きたいのに吐け
ない人 もいる 。普通 の食事 を消化 すること は出来 る。 体型の 変化が あまり 見られ ない。
嘔 吐す る た め 手 に 吐 き ダ コ が あ る 。
③ 過食嘔吐を する+拒食気味の 人 (吐くのも徹底 的)…体型の変化など 。普通のご飯を
食べることが出 来ない。食事が すべて「過食」につ ながる。嘔吐は徹底的 であり、胃の中
は常に 空腹状 態。1日中過 食嘔吐 を繰り 返す人も 多い。 拒食症 のよう にガリ ガリに 痩せて
いく。過食嘔吐 で30kgを切 る人も多い。嘔吐に よる合併症がひどく、 動悸・息切れを
訴 える 人 も 存 在 す る 。
第 5節
摂食障害における治療方法
摂食障害に はいろいろな身 体の症状があり、やせ すぎていたりすると命 に関わることも
あるので身体面 での治療がまず 大事である。しかし 、病気の原因は精神的 なところにある
の で精 神 面 で の 治 療 も 必 要 。 実 際 に は 心 身 両 面 から 同 時 に 行 わ れ る 。
● 身体 的 な 治 療 法
①薬を使った療 法
内服薬とし ては、食欲増進作用 のある薬、不安・緊張 や強迫性などを
やわらげる薬、 落ち込んでいる 際の抗うつ薬などが 用いられている。また 最近注目されて
い るSSRIは 過 食 症 に 有 効 で あ る 。
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②食事療法
は じ め か ら 理 想 量 を 食 べ る の は 不 可 能 で あ る 。 そ こ で 1000キ ロ カ ロ リ ー く ら
い か ら 全 量 食 べ る よ う に し て 、 200キ ロ カ ロ リ ー く ら い ず つ 徐 々 に 増 や し て い く 。( ほ と ん
ど 拒食 症 向 け )
③経管栄養
近 頃は心臓の近く までカテーテルを通 して高エネルギー輸液 が可能に。これ
により口からま ったく食べてい なくても生命の維持 はできる。ただし患者 とよく話し合う
こ とが 必 要 。
④無月経の治療
ホルモンによ って、月経様の出血 をもたらすことはでき るが、ひどく痩
せているときに はかえって負担 になる。体重が標準 の8割以上に回復して から排卵誘発な
どを含めた正式 な治療を始める 。性機能の回復につ いては時間がかかるケ ースがあるが、
全 体と し て は 予 後 が よ い 。
● 精神 的 な 治 療 法
①カウンセリン グ
この状態に なる原因には、思春 期や青春期のテーマが 関連しているこ
とが多いため、 よく話を聞いて あげることが大切。 例えば、思春期にはま だ甘えごころで
ある依存が残っ ているが、一方 では反抗心(独立) が芽生えている。そこ で食べないでい
ると、母親が心 配してくれて、 弟よりも自分の方を 向いてくれて好きな料 理を作ってくれ
たりするので甘 えごころが満た される。一方、母親 に「食べなさい」と強 要されると反抗
心から「食べて やるものか」と いって独立心を満た すこともできる。つま り、依存と独立
の 葛 藤 が 、「 食 べ な い 」 状 態 を 作 る こ と が あ る 。 そ こ で 、 親 か ら の 独 立 と か 兄 弟 葛 藤 な ど
に つい て カ ウ ン セ リ ン グ で 対 応 し て 治 癒 へ の 扉 を開 こ う と す る の だ 。
②環境調整
前 記のような状況 を調整するために、 たとえば一時入院して 家族とちょっと
間を置いてあげ る。それだけで 食べられるようにな ることもある。しかし 、退院して家に
帰ると、また食 べられなくなっ てしまうのでは意味 がないため、家族とも 面接をして家に
い ても 大 丈 夫 に な る よ う に す る 。
③行動療法
誤 ったやり方をや めて新しい食習慣を 形成する方法。よく行 われているのは
「 報 酬 学 習 」 と い う テ ク ニ ッ ク 。 例 え ば 、 体 重 30㎏ の 拒 食 症 患 者 に 入 院 し て も ら い 、 30㎏
である限り、ベ ッドから一歩も 動けないことにする 。そして体重が増える につれて患者の
し たい こ と ( = 報 酬 ) を さ せ て い く と い っ た も の。
④認知行動療法
報 酬 学 習 で 30㎏ か ら 38㎏ に な っ て も 、 そ の ま ま に し て お く と 数 ヶ 月 で ま
た元に戻ってし まう。それは「 やせがよい」という 認知が修正されていな いからである。
そ こ で 「 や せ が そ ん な に よ い の か 」「 38㎏ の ほ う が 階 段 を 登 る の が 楽 で し ょ う 」 と い う 問
い から 始 め て 体 重 や 食 べ る こ と に つ い て の 認 知 の改 善 を 図 っ て い く 。
⑤ 家族 療 法
第 6節
家 族 の 問 題 と し て 捉 え 、 家 族 全 員 を対 象 と す る 治 療 で あ る 。
摂食障害の予後・転帰
予後判定で治 癒というのは、 身体的によくなって やせすぎていないばか りではなく、食
行動の異常(拒 食・過食)がな く、さらに心理社会 的に適応していること である。女性性
を 受け 入 れ 成 人 し 、 結 婚 し て 子 供 が で き て い れ ば理 想 的 な 治 癒 状 態 と い え る 。
内科や心療内 科で治療を受け ていた、比較的軽症 の患者さんの3年後の 転帰をみてみる
と 、 約 40% の 人 が 治 癒 し て い る 。 そ れ か ら 軽 快 し て い る 人 も 40% い る 。 し か し 15% の 人 は
よくなっておら ず、長引いてい る。その他の3%の 人が死亡。死因として は衰弱死、自殺
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な ど、 こ の よ う に 厳 し い 面 も あ る 。
一 方 、 15歳 以 下 で 発 症 し た 若 い 患 者 で 、 早 く 専 門 的 な 治 療 を 受 け た ケ ー ス の 予 後 は き わ
め て良 好 。 こ れ は 思 春 期 の 問 題 が 思 春 期 の う ち に解 決 さ れ る か ら で あ ろ う 。
第 2章
第 1節
摂食障害のかたち∼症例より∼
ここでは典型 的な摂食障害の 発症から治療、克服 までを専門家の記録を もとにみていく
も のと す る 。
入 院に 至 る ま で … 当 時 13歳 ( 中 学 1 年 生 ) の 女 の子 。 家 族 は 両 親 と 兄 が い た 。
入院8ヶ月前 、転居し、中学 に入学。運動部へ入 部。入院5ヶ月前、足 が太いと気にな
り 、 ダ イ エ ッ ト を 始 め た 。 こ の と き の 身 長 が 15 4㎝ 、 4 4㎏ 。 や せ て き た こ と に つ い て は 家
族も軽く考えて いた。入院2ヶ 月前にはやせが進み 、空腹感を感じなくな り、摂食量がさ
らに減った。入 院2週間前、母 親が心配して学校に 相談しに行ったことに 反発して拒食が
強 まり 、 入 院 5 日 前 母 親 に 連 れ ら れ 小 児 科 及 び 当科 を 受 診 し た 。
体 重 が 30. 3 ㎏ 、 低 体 温 35. 5 ℃ 、 徐 脈 52、 軽 度 の 肝 障 害 と 中 程 度 の 脱 水 、 初 潮 は ま だ 来
ていない。体の 状態を丁寧に詳 しく説明し、自分の 手が冷たいこと、脈が 遅いことも実感
してもらったが 、無表情のまま であった。運動を禁 止し、食事摂取、水分 摂取に努めない
と入院になるこ とを説明のうえ 帰宅してもらったが 、絶食状態が続いた。 あっちへ行って
は こっ ち へ と 一 時 も じ っ と し な く な り 、 夜 中 も 一晩 中 ご そ ご そ す る よ う に な っ た 。
5 日 後 の 診 察 日 に は 両 親 と 来 院 。「 お 母 さ ん に は 動 い て ほ し く な い 、 お 母 さ ん に は た く
さ ん 食 べ て ほ し い ん で す 」「 お 母 さ ん を 診 て ほ し い ん で す 」「 私 は 大 丈 夫 で す 」 と 母 を 車 椅
子 に乗 せ 受 診 。 無 表 情 で 淡 々 と 述 べ る 。 28 . 1㎏ 、 血液 デ ー タ 上 、 筋 肉 の 崩 壊 、 易 出 血 性 、
高度脱水がみら れた。入院が絶 対必要な状態だった が拒否。父母ともおろ おろするばかり
で 入 院 の 説 得 ど こ ろ で は な い 。「 こ の ま ま 帰 っ た ら 死 ん で し ま う お 二 人 の 力 で 説 得 し て く
だ さい 」と 両 親 の 奮 起 を 促 し た 。長 時 間 の 説 得 の 結 果 、本 人 の 入 院 拒 否 は 強 か っ た も のの 、
結 局説 得 に 成 功 し 小 児 病 棟 へ 入 院 と な っ た 。
入 院 中 の 経 過 … 入 院 後 、 800 キ ロ カ ロ リ ー よ り 食 事 摂 取 を 開 始 し た が 20 0∼ 30 0キ ロ カ ロ リ
ーしか摂取でき なかった。ちょ っと入るだけでおな かが苦しくなり、全然 入らなくなると
訴えた。ベッド の上では安静に するように伝えた守 れずに。目を離すとベ ッドのそばに立
っていたり、ト イレでジャンプ 、駆け足をする姿も 見られた。一週間後か らは水一滴も飲
ま な い よ う に な り 、 体 重 は 25 ㎏ な り 、 一 人 で は 立 て な く な っ た 。 翌 日 我 々 は 本 人 の 承 諾 を
得 て 経 鼻 栄 養 を 開 始 。 2 週 間 後 に は 30. 5 ㎏ と な り 、 脱 水 は 回 復 。 し か し 浮 腫 が 出 た こ と
を 太 っ た と 感 じ て 経 鼻 栄 養 を 拒 否 す る よ う に 。「 飢 餓 状 態 が 続 い た 後 、 栄 養 が 入 る と 浮 腫
が起こって今み たいな足になる んよ。すぐもとの足 になるからね」と説得 するものの、聞
き入れないため 強制的に経鼻栄 養を実施。結局一ヶ 月間まったく口から食 物・水分を摂取
せ ず 、 途 中 、 白 血 球 ・ 血 小 板 が 著 し く 低 下 し 感 染 、 出 血 し や す い 状 態 に 。「 今 の 栄 養 で は
身体がどんどん 悪くなるのでお 口から食べないと経 鼻栄養を増やす」と伝 えた。すると約
束 の 日 に は 一 口 だ け 食 べ る こ と が で き 、「 看 護 婦 さ ん 、 食 べ ら れ た 」 と 涙 を 流 し た 。 そ の
後も一進一退が 続き、経口に変 わってからもごはん を捨てたり赤ん坊のよ うに甘えたり病
棟の隅で朝早く から隠れて運動 したりすることがあ ったが徐々に落ち着き を取り戻し、学
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校 も 始 ま る こ と か ら 、 1400キ ロ カ ロ リ ー 摂 取 で き る ま で に 回 復 。 摂 食 時 間 も 以 前 は 3 時 間
以 上か か っ て い た の が 30分 に な っ て い た 。
退 院後 の 生 活
中 学 時 代 … 退 院 後 最 初 の 一 ヶ 月 は 午 前 中 の み 登 校 。 体 育 の 時 間 は 保 健 室 で 過 ご し た 。「 学
校 はす ご く 楽 し い 」と 言 う 反 面 、
「 ク ラ ス メ イ ト に ど う 話 し か け たら い い か わ か ら な い 」
「普
通に食べられる 日が来るのだろ うか」と不安はなか なかとれなかった。一 ヶ月たち、体重
の低下も見られ ないため、全登 校とした。中学2年 まで母が作った食事し か食べられなか
っ た が 、 38㎏ に な り 体 育 が 開 始 。 中 学 の 間 は 心 理 士 の カ ウ ン セ リ ン グ も 平 行 し て 受 け た 。
「この一年は早 かった。入院中 は食べることや体重 以外のことには全く目 がいかなかった
が 今で は 一 日 で も 食 べ る な と 言 わ れ た ら つ ら い と思 う 」と 自分 の 現 在 の 状 況 を 評 価 し た り 、
幼少時からの自 分を振り返り、 我を通し、怒られて も平気なタイプの兄と の葛藤や、母か
ら 見捨 て ら れ る の で は な い か と い っ た 不 安 を 言 葉に で き る よ う に も な っ た 。
高校時代…高校 時代には運動部 に入ることで食べた ら太るという心配が減 ったようだ。と
は 言 え 、 来 院 す る た び に 太 る の は い や だ と 言 っ て い た 。 体 重 は 40㎏ で あ ま り 変 化 が な か っ
たが生理はまだ 始まらなかった 。部活動に打ち込み 、自分にまだ体力的に 問題があると気
付 い て 「 自 分 が 抜 け た ら あ か ん と 食 べ る の を が ん ば っ た 」 と 47㎏ ま で 増 加 。 ク ラ ブ を 引 退
して受験勉強に 入った途端、体 重のことが気になり だしたが、帰宅後家の 周りをジョギン
グするなどして 食べる量を減ら すことなく受験勉強 を続け、志望大学にも 無事合格した。
無 月経 が 続 い て い た の で 、 大 学 入 試 が 終 わ っ た 時期 に ホ ル モ ン 療 法 を 開 始 。
大学時代…大学 入学後、実家か ら離れ、独立した生 活を開始。環境の変化 に戸惑い、体重
をいくぶん落と した。長期の休 みの度に受診を続け 、アルバイトもし、大 学生活は順調に
い っ て い た が 旅 行 を き っ か け に 摂 食 の コ ン ト ロ ー ル が 不 能 に な っ た 。「 海 外 ツ ア ー で 一 緒
の女の子が、太 るのが嫌と言い ながら食べる姿に嫌 悪感を感じた。つらく て3日早く帰っ
て きた 。 帰 っ て か ら は 昼 ま で に お 菓 子 を 食 べ 尽 くし て し ま う 」
こ の こ と を 契 機 に 月 1 回 の 受 診 に 戻 っ た 。「 食 べ 出 し た ら や め ら れ な い 。 砂 糖 を そ の ま
ま。バターをか じる。メリケン 粉をなめる。サラダ 油をすする。普段食べ ないものまで食
べてしまう。外 出してもお店を はしごしてしまう。 歩かなあかんと思って 街から家まで往
復 し て し ま う 。 歩 い て 目 に 入 る 店 に 入 り 、 食 べ て し ま う 。」「 お 金 を 持 た ず に 家 を 出 て も 銀
行でおろしてし まい、お店をは しごしてしまう。食 べることに執着してい る。何としてで
も 食 べ よ う と し て し ま う 」「 あ る 程 度 ま で は こ れ 食 べ た ら や め よ う と 思 っ て い る け ど あ る
線越えたらもう どうでもいいわ という感じになる。 前は吐くだけはしない って決めていた
の に こ の 前 は 吐 い て し ま っ た 。」「 過 食 し た こ と で 落 ち 込 む が 、 や め た い と い う 気 持 ち は あ
ま り な い 」「 よ く わ か ら な い ま ま 万 引 き し た こ と も あ る 。 で も お 母 さ ん に 助 け て も ら う の
は い や 」「 み ん な と 一 緒 の 時 は 他 の 人 と 同 じ 量 で や め た ら 吐 か ず に い ら れ る が 、 ち ょ っ と
でも多くなった かと思うと、も うどうでもよくなっ て食べてしまい、後で 吐く」といった
ふうに、来院の 度に過食、嘔吐 の様子を話していっ た。それに対し、本人 の話に耳を傾け
ると同時に過食 していないとき の様子に話題を移し たり、対策を話し合い 、力を入れすぎ
ない工夫を考え た。一度、過食 して上腸管膜動脈症 候群で入院することに なったのをきっ
かけにこのまま ではいけないと 、アルバイトをして いたときは過食してい なかったという
ことに気付きア ルバイトを開始 。一生懸命やりすぎ て、疲れては辞め、自 己嫌悪になるこ
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とが続いたがそ のたびごとに新 しい職場を探しては 働いていた。しばらく して、だんだん
と自分のペース がつかめるよう になり、大学中心の 生活に戻った。自分自 身についても多
く 語る よ う に な り 、「 こ の 一 年 は 無 駄 で は な か っ た 」 と 肯 定 的 なと ら え 方 も 増 え て い っ た 。
食べ物、体重へ のこだわりは消 えてしまったわけで はないし、家庭、友人 関係、試験、就
職 と悩 み は つ き な い よ う だ が 、 ま ず ま ず の 大 学 生活 を 送 り 卒 業 を 迎 え た 。
第 2節
症例の考察
・ 拒食 も 過 食 も 普 通 の 人 に と っ て は も の す ご く 些細 な こ と が き っ か け に な っ て 始 ま る 。
・ 本人 は 病 気 で あ る と い う 自 覚 が な い 。 → 病 院 に行 き た が ら な い 。
・拒食症の患者 にとっては自分 が食べることは苦痛 で仕方がないが、まわ りの人が食べて
い るの を 見 る と 安 心 す る 。 → 体 重 へ の 歪 ん だ 認 識か ら 生 じ た 、 自 分 だ け 痩 せ る 喜 び 。
・拒食症患者は 頑固(もともと の性格というよりは 歪んだ認識からの頑固 さ)で治療者や
家 族の 言 う こ と を 聞 か な い 。
・過食は本人の 理性では止めら れない。抑制しよう とすればするほど反動 が大きくなる。
・ 摂食 障 害 の 治 療 は す ぐ に 良 く な る わ け で は な く、 一 進 一 退 の 繰 り 返 し で あ る 。
・摂食障害にな る原因は見かけ 上はダイエットから が大きいが、実は外部 からのストレス
や家庭状況が大 きく影響してい る。また、治癒には そのストレスをとり除 くことが大きく
関 わっ て く る 。
・摂食障害患者 に共通する一つ の大きな特徴は「0 か100」の完璧主義 者である。拒食
症患者の場合は 一度食べないと 決めたら徹底的に食 べない。過食症患者の 場合は一度食べ
出したら、もう どれだけ食べて も変わらない気がし てとことん食べてしま う。摂食障害の
患 者に は 「 真 ん 中 」 や 「 ほ ど ほ ど に 」 と い う 考 えが な い 。
第 3節
摂食障害のかたち∼私の体験から∼
中学ではバレ ーボール部に入 り、副キャプテンを していた。中学2年生 の秋、家族から
「少し太ったん じゃないの」と 言われ、軽いノリで ダイエットを開始。体 重が減るにつれ
て「痩せたね」 と言われるのが 嬉しくて、ますます ダイエットを強化した 。カロリー制限
に加えて過激な 運動、また甘い モノを食べた後は絶 食をするなどして体重 は3ヶ月で10
㎏減少した。劇 的に減ったわけ ではなかったし、自 分でもかなり栄養面に 気を使っていた
のでそのときは 特に危機感はな かった。しかし、気 付いたら生理が来なく なっていた。そ
れをきっかけに 産婦人科を受診 し、月経がくるよう にホルモンの薬を飲む ことと、体重を
増やすようにと 言われた。家族 の勧めもあって少し ずつ食べる量を増やし た結果、体重は
徐々に増加。し かし、私はやは り「太りたくない」 という気持ちが強く、 食事をしては食
べた量に対して 後悔した。常に 食べ物や体重のこと が頭の中を占め、そん な状況で過食が
始まった。食べ たくないのに、 やせたいのにどうし ても食べたくなった。 しかし家族には
食べる姿を見ら れたくなかった 。見せたら負けだと 思った。そのため、大 量のお菓子を買
ってきては部屋 で隠れて食べ、 ゴミは公園のゴミ箱 に捨てた。食べた後は 後悔の念と自己
嫌悪と太ること への恐怖でいて もたってもいられず に夜中にこっそりと家 を抜け出し、何
時間も走ったり 歩いたりとエネ ルギーを消費した。 私にとって、食べ物を 食べないことは
善だし、食べる ことは悪だった 。体重の減少にもの すごく一喜一憂してい た。しかし学校
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ではクラスの学 級委員、部活動 の副キャプテンを努 める、また家庭では家 族関係の仲介役
で常に「いい子 」を演じていた と思う。過食と絶食 ・過激な運動の繰り返 し…そんな生活
を1年間繰り返 して体重は10 ㎏増加。高校に入っ てからも過食は続いた 。そんななか高
1の冬に母が入 院したことをき っかけに過食が悪化 し、毎日毎日尋常では ないほどの食べ
物を食べたとこ ろ、2週間で5 ㎏増加。自分でもど うにかしたいと思い、 母に相談して一
緒にカウンセリ ングを受けに行 くことにした。カウ ンセリングでは自分の 気持ちを素直に
言 い 、 辛 か っ た こ と を 話 し た 。 過 食 症 に よ く 効 く と い う 薬 、 SSRIも 飲 ん だ 。 カ ウ ン セ ラ ー
の先生から「今 まで頑張りすぎ たから少し休んでい いんだよ」と言われ、 家族ともよく話
し合った。そん な私を家族は時 には厳しく、時には 温かく見守ってくれた 。過食はときど
きしていたが、 過食の後、過食 してしまったと母に 話せるようにもなった 。また、信頼の
置ける友達に自 分が過食症であ ることを伝え、あり のままの自分を見せる ことができるよ
う に も な っ た 。 高 2 に な っ て か ら は 、「 少 し 休 ん で い い 」 と い う 言 葉 に 甘 え 、 何 も し た く
ないという気持 ちに負けて学校 を休むことも多くな り、勉強も全くせず、 部活を辞めよう
と した こ と も あ っ た 。 し か し 、 そ んな 私 を 部 活 の 先 輩 、 友 達 は 必 死 で ひ き と め て く れ 、「 無
理しないでいい から」と温かい 目で見守ってくれた 。また、部活に行った り行かなかった
りしたのにも関 わらず、先輩は 私を副キャプテンに 選んでくれた。部活の 先輩、友達にも
う迷惑かけたく ない、後輩にち ゃんとした先輩の姿 を見せんといかん!と 思い、せめて学
校だけには毎日 行こうと決めた 。それからは、すべ てが順調といはいかな いけれど少しず
つ前向きになっ た。気分が落ち 込んでいるときは、 自分が一番信頼してい る人に自分の気
持ちを伝え、自 分が何で落ち込 んでいるのかを真剣 に考えた。そうして、 過食したり自分
を見つめたりし て十分充電期間 を設け、現在は過食 もほとんどなくなった 。少しずつでは
あ るが 学 校 生 活 も 充 実 し て き た と こ ろ だ 。
第 4節
自分の体験の考察
・ 何事 に も 全 力 で 頑 張 る と い う 性 格 が 徹 底 的 な ダイ エ ッ ト に つ な が り 、摂 食 障 害 を 招 い た 。
・ カ ウ ン セ リ ン グ を 受 け 始 め て か ら 、「 今 ま で 迷 惑 を か け な い 、 い い 子 と し て 頑 張 っ て 来
たんだからちょ っとくらい甘え てもいい」という気 持ちが起こり、わがま まを言ったり幼
稚 な行 動 を と っ た り し て み ん な が 心 配 さ せ た 。
・過食症をなく すには、どんな に効く薬を飲むより も、自分の内側の気持 ちを素直に打ち
明け体重や食べ 物へのこだわり 、体型への歪んだ認 識が自然となくなるよ うな環境を作る
こ とが 大 事 で あ る 。
・摂食障害は見 た目ではわかり にくい分、自分ひと りで抱え込んで抜け出 せなくなるケー
ス が多 い 。
第 5節
まとめ(感想)
摂食障害と心 の関係には非常 に大きな関係がある といえる。テレビをつ けてもファッシ
ョン雑誌をひら いても目にする のは足が棒みたいに 細い女の子ばかりであ るやせ礼賛の社
会のなかで、心 の中に不安や心 配ごとを抱え、それ をまわりに上手く伝え られない女の子
はせめて外見だ けでも認められ たいいう一心でダイ エットにはげむ。拒食 にしろ、過食に
しろ、心の中に あるストレスが 爆発しているの状態 なのである。摂食障害 の治療には、本
人はもとより家 族の理解が必要 不可欠である。なぜ なら摂食障害が治るの は自分のなかの
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心のもやもやし た部分をとりの ぞくことができたと きであって、そのため には自分の思っ
ていることをま わりに伝えるこ とが必要だからだ。 摂食障害、特に過食症 は治るまでに時
間がかかると言 われているがそ れはおそらく自己と の葛藤で必死にもがか なければならな
いからだろう。 それが達成でき たとき、初めて自分 は自分でいいというこ とを実感し、周
り への 感 謝 の 気 持 ち や 生 き て い て よ か っ た と い う気 持 ち が 生 ま れ る の だ 。
最近、私は食 べ物や体重につ いてあまりこだわり がなくなってきたと同 時に過食も減っ
ていき、自分は 自分のままでよ いということに気付 いた。まだ過食が完全 になくなったわ
けではないけど 、以前よりは確 実によい方向へ向か っていると思う。ある がままの自分で
いい…。これが 私が摂食障害を 通して学んだことだ 。これからもその気持 ちを忘れないよ
うにしたい。ま た、これまで自 分を支えてきてくれ た家族や部活の先輩、 仲間、友達、先
生 方に 感 謝 の 気 持 ち を 持 っ て こ れ か ら の 一 日 一 日を 充 実 し た も の に し た い と 思 う 。
参 考文 献
・「 食 べ ら れ な い や め ら れ な い
・ 摂食 障 害 の 基 礎 知 識
摂食障害」
日本 評 論 社
久保木富房著
http://www2.wind.ne.jp/Akagi-kohgen-HP/ED.htm
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2002 年 発 行