博士論文要旨 インターネット通信販売において求められる消費者政策 ∼事業者の競争優位に資する自主規制と消費者の主体的な権利行使を中心に∼ 一橋大学大学院国際企業戦略研究科 経営法務コース 博士後期課程 第一章 丸山正博 序論 第1節 はじめに 本論文の問題意識は、インターネット通信販売(以下、ネット通販という)市場におい て継続的な市場の拡大を導くためには、何らかの政策的関与が必要となり、とくにやや受 動的な立場で市場に参加することになる消費者が安心して取引を行うことのできるような 法整備が必要となるのではないか、というものである。本論文で分析対象とするネット通 販とは、個人事業主と法人を含む事業者を売主、個人消費者を買主とする商取引のうち、 財(物品・サービス・情報を含み、以下とくに注釈のない限り「商品」という)の受発注 がインターネット上で行われるものとする。 第2節 本論文の分析視角 ネット通販が店舗販売をはじめとする他の販売形態と比較して有する特徴は4点ある。 第一は、ネット通販は売主である事業者と買主である消費者が対面で契約をするのではな いという取引の非対面性である。この特徴によってネット通販では、取引相手に対する信 頼度の高低が顕在化しやすい。第二は、ネット通販が無店舗販売であるために生じる低コ ストでの参入容易性である。この特徴によって零細小規模な事業者や悪質な事業者が参入 する可能性が高く消費者の売主に対する信頼性が弱まる一方、事業者は常に潜在的競争に さらされ事業基盤が脆弱化しやすい。第三は、インターネットの検索容易性や双方向性に よる消費者の情報収集能力と情報発信能力の向上である。検索容易性は消費者の情報量を 飛躍的に増大させる一方で、個々の情報の有用性の判断を困難にする。また双方向性は消 費者の発信した大量の情報が売主のマーケティング活動を活発化させる一方で、情報が第 三者に漏洩した場合のリスクも高めている。第四は、当事者間の契約について多数当事者 の関与がなされやすいことである。この特徴によって契約に関して問題が生じた場合に法 律関係を複雑にするおそれが高まる。 これらの特徴からネット通販においては、市場の安定的成長のために求められる消費者 政策として以下の 3 つの仮説を設定することができる。 仮説 1「インターネット通信販売では他の販売形態と比較して消費者の売主に対する立場 は強まっており、消費者保護の観点からの法制度は従来の水準に上乗せする必要はない。」 1 この仮説は、ネット通販の特徴として指摘した第二、第三、に関連する。すなわち、消 費者の情報収集・発信能力が向上したことで、消費者の取引における主体性は他の取引形 態と比較してネット通販では高まっている一方、売主の立場は他の取引形態と比較して相 対的に弱まっている。したがって弱い立場にある消費者を保護するという観点からの法制 度は、不要にはならないとしても、少なくとも従来の取引形態におけるものよりも上乗せ する必要はないと考えられる。 仮説 2「インターネット通信販売では非対面性やネットワークの脆弱性に由来する取引の 不安定性が内在し、契約当事者間でこれを解消することは現行の法制度で相当程度可能で あるが、一部では新たな手当てが必要となる。 」 この仮説は、ネット通販の特徴として指摘した第一を中心に、第二、第三、にも関連す る。すなわち、ネット通販は取引の非対面性とインターネットというネットワークの脆弱 性によって売主・買主双方に取引相手や取引内容に関する不安定性が内在する。しかしこ うした不安定性は、従来の取引形態でも存在する問題であり程度の差はあっても質的に異 なるものではないから、現行の法制度で一部を除いては解決可能であると考えられる。 仮説 3「インターネット通信販売で何らかの被害が発生した場合は、被害救済や報償責任 の観点から契約当事者以外に多数存在する取引関与者への責任追及が望ましいが、現行の 法制度では一部を除いて十分ではなく、相当程度は新たな手当てが必要となる。 」 この仮説は、ネット通販の特徴として指摘した第四を中心に、第一、第二、第三、にも 関連する。すなわち、非対面取引となるネット通販では、当事者以外に代金決済機関等の 取引関与者の存在が不可欠となるが、彼らは売主よりも大規模な事業者である場合が多く、 被害救済の確実性や報償責任的な観点からは、紛争発生時に何らかの責任を分担すること が期待される。しかし私法の原則からは契約関係に立たない者への責任追及は容易ではな いので何らかの手当てが必要となると考えられる。 本論文ではこれらの仮説を順次、第二章から第四章で検証する。その上で残された課題 として、ネット通販において求められる消費者政策を第五章で考察する。 第二章 インターネット通信販売における消費者保護制度の検証 第1節 はじめに 本節では仮説 1 を検証するための分析枠組みを提示する。すなわち、消費者問題が最も 早く顕在化したアメリカにおけるコンシューマリズムの変遷を概観した上で、①消費者問 題の歴史的変遷、②消費者法に関わる学説のレビュー、③消費者保護の必要性に関わる概 念的整理、を第 2 節から第 4 節で順に考察することになる。 2 アメリカのコンシューマリズムは 1950 年代から 70 年代かけて高揚したが 80 年代に入 るとレーガン大統領による規制緩和と市場メカニズムの活用で経済成長を導く新自由主義 の思想が一般化したこと、先進国と発展途上国との経済格差や世界的環境破壊のようなグ リーンコンシューマリズムが台頭したことで、国内の立法勢力としての消費者運動は衰退 した。このような推移はおおむね日本にも当てはまるものである。 第2節 消費者問題の歴史的展開と立法動向 日本で高度経済成長期以降に顕在化した消費者問題とそれを解決する保護制度の推移を 時系列で考察すると、①トラブルの内容が商品自体に関わる安全性や品質から、契約条件 に関わる価格や販売方法へと移行することに合わせ、消費者保護制度が後追い的ではある ものの整備されてきたことと、②規制緩和が進展したことと消費者の自立性や主体性が重 視されたことで、行政の事前規制から司法による事後救済を促すための民事ルールや訴訟 手続きの拡充が進んでいることが確認できる。また近時のネット通販に関する消費者トラ ブルは、主にインターネットに関するインフラ整備が必要となるものであり、消費者保護 規定はこれまでに整備された現行法制度で足りると考える。 第3節 消費者問題に対する学説の展開 学説の問題意識は、消費者保護法の生成期から規制緩和期へと移行する中で、弱者たる 消費者保護の必要性から消費者の自立性を確立するための民事ルールの整備の必要性へと 変容しているとともに、学説の多数的な見解は現行の消費者政策を妥当なものであると解 している。またネット通販に関しては、学説上で消費者保護が大きな議論の対象となって いないのは、既存の概念や体系で対応が可能であることが理由であると考える。 第4節 消費者保護の必要性とその内容 消費者保護が必要となる理由は一般的に、①契約内容の自由の実質的欠如、②事業者と の間のさまざまな格差の存在、③健康面に重大な被害が生じるおそれ、である。しかしネ ット通販では、①契約の自由はインターネットの検索容易性等により他の取引形態と比較 して拡大しているので、ネット通販では引き続き消費者保護が必要であるものの、少なく とも現行の水準よりも消費者保護を強める方向に立つ必要は乏しいことになると考える。 第5節 まとめ:仮説1の検証 以上の各節の考察により、仮説 1 は検証することができたと考える。 3 第三章 契約当事者間の取引の不安定性を解消する法制度の必要性 第1節 はじめに 本節では仮説 2 を検証するための分析枠組みを提示する。すなわち、ネット通販におけ る包括的な消費者政策を構築している EC 指令について概観した上で、商取引一般の契約 構造に着目して、①契約の流れ(商流) 、②資金と物の流れ(資金流・物流)、③情報の流 れ(情報流)に分けて取引の不安定性に関する問題点を抽出し、現行法制度でこれを解消 することが必要十分であるかを売買契約の二当事者間の問題に限定した上で第 2 節から第 4 節でで順に考察することになる。 EC 指令は加盟各国の法制化を促すが、95 年個人データ保護指令はわが国の個人情報保 護法制の整備にも影響を与えた。99 年電子署名指令は認証サービス事業者の民事責任をも 定める包括的な規定である。そして 2000 年電子商取引指令は販売事業者の責任、プロバ イダの責任、加盟各国への実体法・手続法の整備を促しており、電子商取引に関する包括 的規定である。 第2節 契約・商流に関する問題 商流における契約時点の確定は民法と電子契約法、本人性の確保については代理規定を 中心とする民法と電子署名法、契約内容の真正性については民法・電子契約法・特定商取 引法を主に用いることで、取引の不安定性は解決が可能である。 第3節 資金流及び物流に関する問題 資金流における代金決済については民法、物流における危険負担・履行補助者の故意過 失・瑕疵担保責任については民法と消費者契約法、デジタルコンテンツの物流における知 的財産権侵害については著作権法を中心とする知的財産法を主に用いることで、取引の不 安定性は相当程度の解決が可能である。 第4節 情報流に関する問題 情報流におけるドメイン名の本人性については不正競争防止法、不当な表示・広告につ いては独占禁止法・景品表示法・不正競争防止法・特定商取引法、個人情報の取り扱いに ついては個人情報保護法を主に用いることで、取引の不安定性は相当程度の解決が可能で ある。 第5節 まとめ:仮説 2 の検証 以上の各節の考察により仮説 2 は検証された。ただし残された課題として、資金流に関 して代金決済機関に対する抗弁権の接続の可否と、不正利用が発生した場合の最終的な債 4 務負担者の問題が存在するが、これらは第四章で検討する。また物流に関して瑕疵担保責 任が一般に契約解除を認めていないので少額の損害賠償請求を容易にする制度を検討すべ き問題、情報流に関してドメイン不正利用で被害を受けうる消費者に不正競争防止法が請 求権を付与していない問題、不当な表示・広告で被害を受けうる消費者に景品表示法・不 正競争防止法が請求権を付与していない問題、景品表示法・特定商取引法が都道府県知事 に付与する規制権限を積極的に活用すべき問題、個人データの第三者提供の制限がやや無 限定であるという問題があり、これらは第五章で検討する。 第四章 インターネット通信販売における取引関与者の責任分担の可能性 第1節 はじめに 本節では仮説 3 を検証するための分析枠組みを提示する。すなわち、日本と比較して決 済機関に重い責任を課している欧米の預金・販売信用法制と、法整備が進み多数の裁判例 が存在するアメリカのプロバイダ責任について概観した上で、①商流の関与者であるネッ トショッピングモール事業者やアフィリエイターが、主に販売事業者の債務不履行時に消 費者に対して負うべき責任の追求方法、②資金流の関与者である銀行や信販会社が、口座 の不正利用時や事業者の債務不履行時に消費者に対して負うべき責任の追求方法、③情報 流の関与者である各種プロバイダが、不正な情報流通に関与したことで負うべき責任の追 求方法について、第 2 節から第 4 節で順に考察することになる。 欧米の預金・販売信用法制については、アメリカの 50 ドルルールやイギリスの 50 ポン ドルールなど消費者保護法制の整備が進んでいる。またクレジットカード取引については チャージバック制度やゼロ・ライアビリティ制度といった事業者の自主的取組みによって 消費者保護がなされている。 第2節 ネットモール運営事業者等の責任 モール運営事業者およびアフィリエイターはネット通販においては売買契約の当事者で はない第三者であるが報償責任的な観点から契約責任や不法行為責任を負うべきである。 しかし広告媒体者・推奨者としての不法行為責任を一定の場合は負い、名板貸人の類推適 用がなされる余地もありうるものの、その適用場面は限定的であり、十分に被害救済に資 するとはいえない。そこで各事業者の自主的取組みを検討する必要があると考える。 第3節 決済機関の責任 銀行や信販会社といった決済機関は売買契約の当事者ではないが契約システムの設定者 であり報償責任的な観点から、決済口座の不正利用や原因となる売買契約に瑕疵が生じた 場合に一定の責任を負うべきである。これは欧米の法制度とも整合的である。しかし預金 5 者保護法や割賦販売法といった現行法に従うとそのような責任を負う場合は限定的である。 そこで立法的解決や現行規定の積極的な類推適用を含む拡大的な解釈、あるいは各事業者 の自主的取組みを検討する必要があると考える。 第4節 インターネットプロバイダなど通信関与者の責任 インターネット上での情報流に関与するプロバイダは、インターネットの匿名性のため に発信者情報を開示する義務を負う一方、報償責任を検討する必要性は比較的少なく、違 法な情報の流通にとくに関与がみられる場合以外は損害賠償責任が制限されることは妥当 であり、現行のプロバイダ責任制限法がおおむね有効に機能していると考える。ただし流 通した情報から派生的に生じた被害に関する発信者情報開示が認められていない点は立法 的な解決が必要であると考える。 第5節 まとめ:仮説 3 の検証 ネット通販における取引関与者は自己の契約システムに売主を組み込むことで収益機会 を確保しており、売主よりも事業規模が大きい場合も多いので、報償責任的な観点とトラ ブル発生時の被害者救済の確実性という観点からは、こうした関与者への責任追及がなさ れるべきではないかという問題意識のもとに設定した仮説 3 は、以上の考察により検証さ れた。そして第 2 節から第 4 節で抽出した残された課題は第五章での検討課題となる。 第五章 インターネット通信販売において求められる消費者政策の検討 第1節 はじめに 冒頭で設定した 3 つの仮説は第二章から第四章によって全て検証されたが、残された課 題は以下のとおりである。すなわち物流に関して瑕疵担保責任が一般に契約解除を認めて いないので少額の損害賠償請求を容易にする制度を検討すべき点、景品表示法や不正競争 防止法が消費者の請求権を認めていない点、景品表示法や特定商取引法で都道府県知事の 規制強化が期待される点、モール運営事業者等に対する契約責任の追及は民法の原則を大 幅に修正するような法律構成をとらない限り難しく、事業者の自主的取組みが期待される 点、ネットバンキングにおける口座間振込については預金者保護法の立法的解決のほか信 販会社と同様に、自主的取組みによる損害額の負担が求められる点、詐欺的商法など流通 した情報から派生的に生じた被害に関する発信者情報開示請求権を立法上で認める点、で ある。 これらを検討すると、立法的な解決が要請されるものも少なくないが長期的検討課題で あるため本論文では検討対象から外し、より短期的に解決可能な①事業者による自主規制 の有効性と、②行政・民間による監視活動強化と紛争解決手続きの多様化による事後的措 6 置の拡充、をネット通販において求められる消費者政策として設定して、第 2 節と第 3 節 で順に考察する。 第2節 事業者の競争優位と消費者保護に資する自主規制 規制緩和の進展と消費者の自立支援、過度の消費者保護によるコスト増加の弊害という 観点からは、法制度としては対等な取引当事者としての消費者政策を採用することの妥当 性が高い。しかし、業界団体や個別企業の自主的取組みとしては消費者保護の積極的な導 入が望ましいと考える。なぜなら消費者保護制度の整備は、コスト増加要因として企業活 動を制約するだけではなく 、 詐欺的商法や不当表示等を行う悪質事業者の放逐につながる ことで市場の信頼性を高めるとともに、保護策を講じない企業との差別化によって自社の 競争優位を確立させる機能を有するからである。 自主規制はイギリスの広告規制のように法的拘束力がなくても実効性を高めることがで きるので、事業者団体や認証・規格団体による製品の安全性、取引の適正化、広告表示、 個人情報保護、顧客対応などでの自主規制は有効である。またアメリカの量刑ガイドライ ンの発想は事業者のコンプライアンスへの取組みを高める誘因になるし、個々の事業者に よるより自主的な取組みも他者との差別化になるので行われている。事業者が自主規制に よって社会の高い要求にこたえることと、継続的な事業拡大や利潤を追求することは矛盾 する概念ではなく両立すると考える。 第3節 悪質事業者の排除に資する事後的措置 悪質事業者の排除のためには自主規制だけでは十分ではなく、取締りなどを目的とする 事後的監視活動の活発化と、権利行使の実効性の向上を目的とする紛争解決手続きの多様 化が有効である。前者に関しては、行政規制による場合は消費者の調査活動への参加など 積極的関与が求められるとともに、規制の実効性を高めるために、景品表示法等の都道府 県知事に規制権限が付与されているものはこれを積極的に行使すべきである。また民事規 制による場合は消費者団体への差止請求権の付与が有効であり、欧州で差止請求権が広範 に認められているように、現行の差止対象行為に加えて、景品表示法違反や特定商取引法 違反行為についても差止請求権を付与すべきであり、さらに不当な事業活動で利得を得さ せないために、被害を受けた個々の消費者の授権によらずとも利得吐き出しを目的とした 損害賠償請求権を適格消費者団体に付与すべきであると考える。 後者に関しては、民事規制によって付与された権利を実際に行使できることが必要であ り、その点では少額訴訟制度の充実など司法アクセスの改善が行われているが、ネット通 販では 1 回当たりの取引が少額になることが多く、取引相手との地理的乖離も生じやすい ので、ADR とりわけそれをインターネット上で行う ODR を積極的に活用できる体制を構 7 築することが必要であると考える。そしてこれを事業者団体が中立的な立場で運営するこ とは、加入事業者の信頼性を向上させうる点で差別化の源泉にもなると考える。 第六章 結論 本論文では、インターネット通信販売において求められる消費者政策について論じた。 結論としては①事業者の自主規制による消費者保護制度の拡充、②事後監視型行政規制へ の消費者の積極的関与と都道府県知事も含めたの規制権限の積極的行使、③私人による事 後監視活動の実効性確保を目的とした消費者団体訴訟制度の拡充、④迅速かつ簡便な被害 救済と紛争解決手続きの多様化を目的とした ODR の積極的活用とその事業者団体による 運用が、求められる消費者政策であると考える。 ネット通販市場の特徴の一つは、情報収集・発信能力が高まったことで消費者が従来よ りも賢くなりうることと、事業者の参入容易性と差別化困難性から常に潜在的競争にさら されていることである。つまり消費者はどの事業者が最も良いサービスを提供するかを判 断することが容易になるし、ひとたびトラブルが生じた場合はインターネットを通じてこ れを広範囲に発信しうるから、事業者は風評被害にも似た損害を受ける可能性がある。ま た参入が容易である以上、市場での優位な地位は容易に脅かされるおそれがある。このよ うな特性をもつネット通販においては、事業者は顧客である消費者の満足度を高める必要 があるので、自主的に消費者保護制度を充実することの有効性は高いと考える。 また事業者の参入が容易である以上、悪質な事業者の参入の排斥は現実には困難である。 そこでそうした事業者を事後的に速やかに排除することはネット通販市場全体の信頼性を 高めることになり、市場の安定的成長を達成することにもつながる。そのためには継続的 な監視活動による悪質な事業行為の排斥を、消費者の関与と積極的な権限行使に留意した 行政規制と、消費者団体への請求権付与による民事規制によって行うことが有効である。 さらに被害を受けた消費者が迅速かつ簡便に権利を行使できる紛争解決手段を設ける必 要があり、少額取引が多く売買当事者間が地理的に乖離する場合が多いというネット通販 の特徴に対応するためには、ODR が有効である。そしてこれを事業者団体が中立的な立 場で行うことで、その団体に加盟する事業者が消費者の高い信頼を得ることができ、悪質 な事業者を放逐するための紛争処理制度を自己の差別化の源泉にすることが可能となる。 したがって、ネット通販において消費者を自主規制によって事前的に保護する取組みと、 事後的な行政・民間による監視活動・権限行使と、事後的な紛争解決手段の拡充の 3 点は、 悪質な事業者を排除することでネット通販市場の安定的成長に寄与するだけでなく、それ らの取組みへの参加が差別化の源泉になることで信頼できる事業者の競争優位にも寄与す るものであると考える。 以上 8
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